東京家庭裁判所八王子支部 平成16年(家)1749号 審判 2006年1月31日
申立人 A
相手方 B
未成年者 C
D
E
主文
1 相手方は、申立人に対し、申立人と未成年者Cが手紙、電話等の通信手段を介して連絡を取り合うことを妨げてはならない。
2 相手方は、申立人に対し、未成年者Cとの面接交渉を妨げてはならない。
3 申立人が、相手方に対し、未成年者D及びEと面接交渉させることを求める各申立てを却下する。
理由
第1申立ての趣旨
相手方は、申立人が未成年者3名とそれぞれ面接交渉することを許せとの審判を求める。
第2当裁判所の判断
1 本件記録、当庁平成15年(家)第××号ないし第××号事件、当庁平成15年(家イ)第××号事件記録によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 申立人と相手方は、平成4年12月24日婚姻し、長女C(平成5年×月×日生)、長男D(平成8年×月×日生)、二女E(平成11年×月×日生)をもうけた。
申立人は、未成年者らを叱る際に、叩いたり、部屋に閉じこめたりすることがあったが、他方で、未成年者らを遊びに連れて行くなどの子煩悩な面もあった。
(2) 申立人と相手方は、平成15年1月9日、未成年者らの親権者をいずれも相手方と定め、協議離婚した。
相手方は、申立人に対して、以前から離婚を求めていたところ、申立人の求めに応じて相手方名義で借りた借金が返せなくなり、相手方の親族に援助してもらわざるを得なくなり、申立人も離婚に応じることとし、協議離婚した。また、協議離婚の直前に、申立人が、怒って、未成年者Cを叩いたり、未成年者Cがシャワーを使っているのにお湯を止めるなどしたことがあった。
(3) 申立人は、協議離婚後、しばらく相手方と同居していたが、平成15年2月に別居した後は、未成年者らが申立人と会いたがるので、毎週末に未成年者3名を自宅に宿泊させて、面接交渉をしていた。
また、申立人は、別居後、相手方に対して未成年者らの養育費を支払っていた。
(4) 申立人は、毎週の面接交渉の際に、未成年者らの気持ちに十分配慮せずに、未成年者に対して寂しいなどの心情を吐露していたので、面接交渉後、未成年者らが不安定になることがあった。
そのため、平成15年5月25日、申立人が未成年者らとの面接交渉を終え、相手方宅に送り届けた際、面接交渉後に未成年者らが不安定になることを巡って申立人と相手方は喧嘩をし、相手方が警察を呼ぶ事態にまで発展した。
両親の激しい争いを見て、未成年者Eが相手方宅に帰りたがらなかったことから、申立人は、未成年者Eを連れて帰り、そのまま約1週間にわたって、申立人宅に宿泊させた。
この後、相手方は、申立人との関わり合いを拒否し、面接交渉及び養育費の受領を拒絶した。
(5) 申立人は、相手方に対して、面接交渉に応じてもらえなくなったことから、平成15年7月16日、面接交渉等に関して協議するために、離婚後の紛争調停を申立てた(平成15年(家イ)第××号)が、第2回調停期日で申立てを取下げた。
(6) 調停取下後、申立人は、面接を求めて、同年×月×日、未成年者Cの誕生日であったので、相手方宅に電話をかけたり、同月29日ころ、相手方宅に赴くなどし、さらに、相手方の兄にも面接交渉の協議の仲介を依頼するなどしたが、面接交渉はできなかった。
相手方の父は、申立人がしつこく電話をかけてくることなどに憤慨し、同年11月22日、申立人を呼び出した。その際、相手方の父が、申立人に対して暴行を加え、顔面打撲の傷害を負わせた。
申立人が相手方の父を傷害罪で告訴をし、後日、申立人と相手方の父は、検察庁に呼び出され、取調べを受けた。その後、申立人は告訴を取下げた。
(7) 申立人は、平成15年11月26日、相手方に未成年者らをまかせておくことは、子の福祉上好ましくないとして、親権者変更審判を申立てた(当庁平成15年(家)第××号ないし第××号)。
申立人は、親権者変更審判申立て後も、平成15年12月25日、未成年者Eの通う保育園に赴き、未成年者Eと面会し、未成年者Dの誕生日であった×月×日には、相手方宅に赴いた。
上記親権者変更審判の調査の中で、相手方は、親権者変更には反対であるが、第三者を交えて面接交渉について話し合うことには応ずる旨述べたので、申立人は、平成16年4月7日、親権者変更審判を取下げ、本件子の面接交渉調停を申立てた。
(8) 申立人は、本件調停手続中であった平成16年6月下旬、相手方自宅付近で、帰宅途中の未成年者Cに会った。未成年者Cは、突然申立人と会ったことに驚き、恐怖感を覚えた。
なお、申立人は、調停委員会から調停外で未成年者らに会うことを慎むようにするべきだと言われ、その後、面接交渉を強行することはなくなった。
調停は、平成16年8月4日、不成立となり、審判に移行した。
(9) 相手方は、面接交渉に反対の意向である。その理由としては、<1>未成年者はいずれも申立人と会う意思がなく、面接交渉をすると、精神的に不安定になると思われること、<2>婚姻中、申立人が未成年者らを縛ったり、暗い部屋に閉じこめたりしていたこと、その影響から未成年者Cは児童相談所でカウンセリングを受けていること、<3>離婚後に面接交渉をしていたときの申立人の態度や面接交渉を止めてから頻繁に電話をかけてきたり、自宅等に訪れたりしてきたことなどを挙げる。
(10) 未成年者C(12歳)は、現時点では、申立人との単独での面接交渉には消極的であるが、申立人に対しては、良い思い出も持っており、怒り、憎しみ、恐怖心等の否定的な感情を抱いているとは認められない。なお、未成年者Cは、相手方の薦めで、平成16年8月から平成17年2月ころまで、○○児童相談所でカウンセリングを受けていたが、現在はカウンセリングを受けていない。
未成年者D(9歳)は、申立人に対する恐怖心があり、会いたくないとの意思を表明している。
未成年者E(6歳)の真意ははっきりしないが、申立人に対して強い拒否感を抱いているとまでは認められない。
2 以上の事実に基づき判断する。
面接交渉の可否については、婚姻前後の申立人、相手方及び未成年者らの関係、未成年者らの意向等の諸般の事情を踏まえ、面接交渉が未成年者の成長に及ぼす影響、監護親と未成年者との関係に及ぼす影響等を総合的に考慮して、子の福祉に合致する場合にのみ面接交渉を認めるのが相当というべきである。
そこで、まず、婚姻中の事情を見ると、申立人は、婚姻期間中、未成年者らを叱る際に暴力を振るったことがあったが、暴力の程度が重大であったとも、頻繁に暴力を振るっていたとも認められないこと、申立人が未成年者と遊んで可愛がっていたことから、別居直後、未成年者ら自身が申立人との面接交渉を希望していたことからすると、これらの婚姻前の事情から判断した場合、申立人との面接交渉によって、未成年者らに直ちに心理的な動揺や情緒の混乱をもたらすとは考えにくい。
次に、離婚後の事情を見ると、申立人は面接交渉時に未成年者らに寂しいと漏らすなど、未成年者らの心情への配慮が不十分な面があったこと、その後も頻繁に相手方宅に電話をかけたり、相手方宅や保育園に赴いて面会をしようとするなど不適切な行動があったことから、申立人と相手方との間に激しい紛争が生じたことからすると、面接交渉を再開した場合、申立人と相手方の間の紛争が激化し、未成年者らに悪影響が及ぶことが懸念される。しかし、申立人は、1年半以上にわたって、相手方及び未成年者らと接触することを自重しており、仮に面接交渉が再開されたとしても、申立人が以前のように頻繁に面接交渉を求めるなどの過激な行動に出る可能性が高いとまではいえない。もっとも、上記のような紛争があったために、相手方は申立人との関わりを完全に拒否しているので、面接交渉にあたって相手方の協力を得ることは全く期待できない。
そして、未成年者らの意向等を見ると、未成年者Cは、相手方の薦めにより、カウンセリングを受けていたことがあったものの、現時点では申立人に対する強い否定的感情を抱いているとは認められないこと、現在12歳で、両親の関係について理解し、自身で父との面接の可否についても自立的に判断できる能力があるといえること、未成年者Dは、上記のような両親の激しい紛争を見たことから、申立人との面接交渉を希望していないこと、未成年者Dの年齢(9歳)からすると、面接交渉に消極的な感情を抱くのもやむを得ないことと考えられること、未成年者Eの意向ははっきりしないが、年齢(6歳)からすると、意向を重視することはできないことが認められる。
以上のような諸事情を踏まえると、相手方の協力無しには未成年者E(6歳)との面接交渉の実現は極めて困難と考えられるところ、相手方は申立人との関わりを完全に拒否しており、それでもなお面接交渉を実現しようとすれば、申立人と相手方との紛争を再燃させ、かえって未成年者らの福祉を害するおそれがあるといえるし、未成年者Dが面接交渉を拒否しているにもかかわらず、面接交渉を実現しようとすれば、未成年者Dに心理的な動揺を与えるなどの悪影響が懸念されるから、未成年者E及び未成年者Dに関しては、現段階で面接交渉を認めることが必ずしも子の福祉に合致するとはいえないというべきである。
これに対し、未成年者Cについては、申立人に対して強い拒否感を抱いておらず、ある程度の判断力を有する上、単独で申立人と面接交渉をすることが可能であることからして、面接交渉を認めることは子の福祉に合致するというべきである。
そこで、申立人と未成年者Cとの面接交渉を認めるべきであるが、未成年者Cは、間もなく中学校に進学して学校内外での活動が増え、時間的な余裕が乏しくなることを考慮すると、定期的な面接交渉の日時を予め定めることは現実的とはいえないから、申立人と未成年者Cが手紙、電話その他の通信手段を用いて連絡を取り合い、未成年者Cの希望に沿った面接交渉の日時、場所及び方法を定めるのが相当である。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 綿貫義昌)