東京家庭裁判所八王子支部 平成17年(少)543号 決定 2005年9月09日
少年 A(平成6.1.25生)
主文
少年を児童自立支援施設に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、就学前から、放浪、無賃乗車、家からの金銭持ち出し、万引き等をするようになり、平成12年4月に小学校に入学したが、その後も同様の行為を繰り返したため、児童相談所での一時保護が繰り返し行われ、平成13年11月に放浪中を保護され、一時保護を経て、同年12月児童養護施設である○○学園に措置入所となったが、同学園内でも他の入所児童の金品を窃取することがあり、平成15年10月入所措置が解除され自宅に戻った後も、万引き等をし、平成16年7月上旬万引きしたことが発覚し、警察官から児童相談所に通告され、一時保護となったが、同月12日無断外出して自宅に戻ってしまい、同年11月初旬少年の自宅の近隣に居住する母方祖父の金員を持ち出し、一部無賃乗車をしながら、○○県等を放浪し、その後も同月から平成17年1月上旬にかけて、母と一緒に訪問した法律事務所、通院していた医療機関、遊びに行った児童館で現金を窃取することを繰り返しており、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、正当の理由がないのに家に寄り附かず、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格及び環境に照らして、将来窃盗、詐欺等の罪を犯し、又はこれら刑罰法令に触れる行為をするおそれのあるものである。
(適用法令)
少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ニ
(処遇の理由)
1 本件は、幼少期から放浪、無賃乗車、金銭の持出し等を繰り返しているというぐ犯の事案である。
2 少年は、2歳ころ自閉的傾向を指摘され、母が児童相談所に相談し、療育機関にも通ったが、5歳時の平成11年ころから放浪、無賃乗車、万引きを繰り返すようになった。ところで、少年の父は、少年の母や、少年自身に暴力を振るうことがあり、また就労状況も芳しくなく、生活費を渡さないことなどもあり、結局少年の両親は平成11年9月に離婚し、母が少年及び妹の親権者として養育監護してきた。少年は、前記のとおりの問題行動を起こすようになってから、2度の一時保護を経て、平成12年4月に小学校に入学したが、以降も放浪とそれに伴う現金持出しが繰り返された。その後、更に2度の一時保護を経た後の平成13年11月下旬に放浪した際に警察官に保護され、再び一時保護の措置がとられたが、少年の妹の就学問題があって、少年に十分に目が行き届かなくなった母が、少年の引取りを拒否したため、同年12月下旬児童養護施設に措置入所となった。同施設での生活でも、他の入所児童の所持金の窃取、無断外出等の問題が見られ、一方、母は、少年が同施設に入所してから母の話を聞かなくなったなど同施設に対する不満を感じるようになり、少年の引取りを主張したため、結局平成15年10月中旬入所措置が解除となって、少年は自宅に戻った。しかし、少年は、地元の小学校で他の児童とうまく適応できず、間もなく不登校となり、また、平成16年に入ってから、母の少年に対する叱責が激化し、物を投げたり、少年の持ち物を燃やすということもあった。同年7月2日万引きをして児童相談所に通告され、一時保護となったが、同月12日無断外出して帰宅してしまい、母が以降の一時保護を拒否したため、以後児童相談所による実質的な指導は途絶えてしまった。その後、前記のとおり、同年11月初旬母方祖父の現金を持ち出し、一部無賃乗車をしながら、○○県等を放浪し、その後も同月から平成17年1月上旬にかけて、法律事務所等で現金を窃取し、同年1月20日の児童館で現金窃取により児童相談所に通告され、同日から一時保護の措置がとられた。なお、同年4月7日から、児童自立支援施設である△△学園に少年の一時保護が委託されている。
3 少年は、前記のとおり、幼児期から自閉的傾向を指摘されているが、現時点では、医療機関により診断が異なっており、確定的な診断はなされていない。しかし、活動性は高く、自分の興味のあることへの固執が強く、夢中になると、後先を考えずに行動しやすく、衝動を抑制する力が未熟であることは間違いなく、こうした傾向が、放浪に向かい、その資金を得るための現金持出しや、移動のための自転車の窃取等や無賃乗車、あるいは移動先での万引き等を引き起こしている。また、前記のとおり、児童養護施設から自宅に戻ってからは不登校状態になっており、こうした逸脱行動の抑制につながる生活の基盤も失われていた。さらに、母の叱責が激化し、少年と母との間の激しい葛藤状況等も影響していたと思われる。平成17年11月初旬に○○県等を放浪したころからは、訪問先で現金を窃取することを繰り返しており、しかも、1回の窃取金額が相当高額であり、少年の逸脱行動は歯止めが効かなくなりつつあった。
その後、前記のとおり一時保護となり、さらにその委託で前記△△学園で生活をするようになっており、同学園での生活に不満がないわけではなく、1回無断外出はあったが、比較的落ち着いた生活を送っている。
4 少年の母は、自己の手元で少年を監護することを強く希望している。しかし、母は、父の暴力や経済的困窮等による心身に余裕のない状態で、前記のとおり多動傾向のある幼児期の少年の養育に当たらなければならず、少年との安定した情緒関係を築きにくかったことは否めない。そして、近時母の少年に対する叱責が激化した点について、母は、自閉傾向のある子に真剣な気持ちを伝えるため演技した旨述べているが、これが少年に悪影響を与えていると見ざるをえないことも前記のとおりである。さらに、母は、受容的な相談機関等との関係は保っているが、母の少年に対する養育態度を含めて少年の保護環境の整備への児童相談所の積極的な働き掛けには拒否的である。また、前記のとおり少年の不登校が続いていることについても、母は、学校の対応や他の児童の態度に原因があるものと決めつけ、学校との協力関係が築けないままで来ている。
5 以上のとおり、少年は、その自閉的傾向を背景にして、窃盗等を繰り返すおそれが相当高い状況にあるところ、これまでの保護者である母のもとでの生活では、これに歯止めをかけるのは困難であるといわざるを得ない。少年の再非行を防止し、その健全な育成を期するためには、現時点で、児童自立支援施設という一定の行動規制のある中で落ち着いた生活を送らせることが必要である。ただし、少年及び保護者が、前向きな姿勢になりつつあることを考慮すると、少年が中学校に進学する時期をめどに、児童相談所が中心となって、保護者と教育機関をはじめとする関係機関と保護者との協力関係を整備した上、社会内処遇に移行するのが相当であると判断する。
よって、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 阿部浩巳)