大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所八王子支部 平成4年(少)586号 1992年7月21日

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

1  少年は、

<1>  平成3年11月21日午前11時30分頃、東京都八王子市○○町×丁目××番×号A方において、同人所有の預金通帳1通を窃取し、

<2>  同月27日午前10時20分頃、前記A方において、同人所有のネクタイピン1個(時価10,000円相当)およびB子所有のイヤリング2個(時価5,000円相当)を窃取し、

たものである。

2  少年は、Cと共謀のうえ、平成4年6月27日午後11時55分頃、東京都八王子市○○町×丁目××番××号株式会社○○店(以下○○店という)内において、同会社代表取締役D所有のスーパーファミコン用カセット1点他22点(時価合計57,900円相当)を窃取したものである。

(適用法令)

1につき刑法235条

2につき同法235条、60条

(理由)

審判の席における少年及び母の各陳述、家庭裁判所調査官作成の少年に関する少年調査記録(少年鑑別所作成の鑑別結果通知書等同記録に編綴されている関係書類一切を含む。)並びに少年保護事件記録を総合すると次の事実が認められる。

1  非行の動機等

少年の処分歴はないが、平成元年4月八王子市立○○中学校に進学したころから怠学が始まり、中学1年では11日、同2年では31日、同3年では75日欠席し、同2年頃家の金を持ち出し遊びに使ったりした。中学3年の頃○○店でファミコン用カセット(以下カセットという)を万引きし、店員に発見され注意されたが、その後同店員が退職し、少年の前記非行が不問にふせられたので、同店に通い他の店員と仲良くなり店の手伝いをし、小遣いをもらったりしていたが、平成3年11、12月頃同店で失敗をしたため前記手伝いを止めさせられたことを怨みに思い、前記2の非行を犯したものであるが、その他に深夜同店に侵入し、平成4年1月下旬頃カセット約10本、同3月初頃カセット約10本、同月24日カセット13本ファミコン機1台、同年5月3日カセット約10本を各窃取し、同年5月31日同店にカセット窃取の目的で侵入したが、発覚されそうになったので、なにも盗らずに逃げ出したことがあり、前記2の窃盗は、前記定時制高校の同級生であるC(当15歳)に対し「盗んだカセットを売って金にしよう。他にも盗みに入った人間がいるみたいだ、絶対捕まらない。」と言って誘い、盗品を入れるリュックサックや手袋を準備し、2人で店舗の高窓を小石で割って、侵入し収納ケースからカセット等約23点を盗んで、リュックサックに入れたが、同店に仕掛けられていた警報装置が株式会社○○に異常を報せ、同会社の通報で同店に駆けつけた警察官に現行犯逮捕されたものであり、その窃盗の手口は大胆で、反復されており、所謂侵入盗行為が常習化しているのみならず、盗品は他のファミコンショップで売却し、遊興費にあてていたものである。

又、前記1の窃盗は、少年と同級のE子(被害者のAの娘)が少年を小馬鹿にした態度をとったことを怨みに思い同人の自宅に、1回目は2階の窓から、2回目は台所の窓ガラスを割って侵入したもので、盗んだ貯金通帳と文房具店で買ったA(姓のみ)と刻印された印鑑を使ってA名義の預金払戻請求書を偽造し、○○銀行八王子支店の窓口に提出して前記預金の払戻を企てたが、銀行員に登録印との違いを発見され、預金払い戻しの目的を遂げなかったため、同月27日再び前記登録印を盗みにA方に台所の窓ガラスを割って侵入したが、印鑑が見つからなかったため、ネクタイピンとイアリングを盗んだもので、その非行性は深化している。

2  少年の性格

前記少年調査記録によると、少年のIQ=74で低く、自分に自信がなく、依存的で、受容・承認要求が強く、被害感や疎外感を抱きやすい。又、自己保身的、防衛的な構えをとりやすい。社会適応力が乏しいため、日常的な場面でも与えられた課題をこなせない上、能力の低さを悟られまいと人に聞かず自分で処理してしまおうとするところがあり、失敗することが多いが、そのような場合でも率直に自分の非を認めず、その場逃れの嘘や取り繕いが多く、対人的なトラブルを生じやすい。新しき場面や権威的な場面では、率直な自己表出が抑えられるが、本来的には抑制力に乏しく、自由にふるまえる場では、自分本位な欲求や感情のままに短絡的に行動してしまい、一旦、自分にとって利益や快感のある道が開けると、常態的に繰り返すことになりやすい。

3  保護者の保護力

前記少年調査記録及び少年の父母の供述によると、次の事実が認められる。

少年の家庭は、タクシ一運転手の父親、郵便局にパートタイマーとして働いている母親と、運転手の21歳の兄の4人であるが、父親は、少年に甘く、会話も少なく、母親は、少年に対し厳しく口やかましく接し、勉強が出来ないことを馬鹿にしたので、少年は傷つき、前記のとおり中学進学後は、怠学し、自己本位な要求を満足させる短絡的な行動を繰り返すことになったが、父母特に母親は、平成3年11月21日午後6時30分頃八王子警察署の司法警察員から前記1の非行事実を告げられ、少年が母親の面前で盗品を同司法警察員に返すのを見ており、少年が同級生の家に侵入し、2回にわたり窃盗をはたらいたことを熟知しながら、監護者とし将来の非行防止のため適切な方策も講じなかったため、少年が翌年3月に○○店で連続して侵入盗をはたらくことを結果的に助長させたものであり、その保護力は乏しい。

4  結論

少年の処遇につき検察官は短期少年院、鑑別所は保護観察の意見であるが、前記のとおり、少年の窃盗の手口は、15歳の少年とは考えられない程大胆で、悪質であり、このまま在宅保護観察にすると、非行性が更に進む危険性が強い。又、少年の知能は低いから、短期間少年院に収容しても矯正教育の効果が上がるかどうが疑問である。

以上認定にかかる本件非行の態様、事件に対する少年の対応、少年の行動歴、保護者の保護力の程度、家庭環境及び少年の資質等諸般の事情を総合して考慮すると、15歳の少年の健全な育成を期するためには、早期に少年を初等少年院に収容して、規則正しい生活のもとに矯正教育を施し、社会生活の基本的問題についての指導を行い、その生活態度の改善を図る必要があるものと認められる。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条に則り、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例