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東京家庭裁判所八王子支部 昭和53年(家イ)1596号 審判 1979年4月19日

申立人 徳永和子

相手方 徳永三郎

主文

申立人と相手方の昭和五三年一一月一日届出による婚姻が無効であることを確認する。

理由

申立人は主文同旨の調停を申し立て、その理由としてつぎのとおり述べた。

申立人と相手方は昭和五三年一〇月二二日結納を取り交して婚約し昭和五四年一月一〇日に東京都○○○の○○会館で結婚式を挙行することが取りきめられた。相手方は東京都○○局に勤務し、結婚後は同局職員のための宿舎に入居できる見込であるが、婚姻届が出され戸籍上夫婦となつてからでないと入居申込資格がないし、有資格者の間の順番もあることなので、結婚後できるだけ早く入居出来るよう、前もつて入居申込をすることとし、申立人と相手方は昭和五三年一一月一日に婚姻の届出をした。ところがそのあと間もなく相手方が将来申立人の父母の面倒をみるかどうかについて申立人と相手方およびそれぞれの家族の間にいざこざが生じ、申立人と相手方の結婚は取りやめることとなり、昭和五三年一二月一三日に婚約を解消し結納品の返還がなされた。その結果申立人と相手方の前記婚姻届は無効になつたものと考えられる。

申立人は以上のとおり述べ、相手方は申立人の述べる事実をすべて認め、主文同旨の審判を受けることについて当事者間に合意が成立した。

調査の結果によれば申立人の述べる事実はすべてこれを真実として認めることができるほか、申立人と相手方は昭和五四年一月一〇日に結婚式を挙げ親戚友人にも披露しその日から夫婦としての新生活に入ることに予定されていたのであるからそれが実行されたときはじめて自分達は正式に結婚したことになるものと考えていたこと、従つて上記認定のようにそれが実行されることなくとりやめになつた結果自分達は結局結婚するに至らなかつたものと考えている事実を認めることができる。

上記認定の事実関係のもとでの本件婚姻届による婚姻が有効であるか否かについて考察する。

我が国の民法は婚姻について所謂法律婚主義を採用し、婚姻は戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつてその効力を生ずる旨を定めるとともに、当事者間に婚姻をする意思がないときは、たとえ届出がなされていても婚姻は無効であるとする。ところで婚姻をする意思は届出のときに存在することを要するところ、本件においては当事者は昭和五四年一月一〇日に結婚式を挙げ、親戚知人に披露して、その日から夫婦として結婚生活に入るのであつて、それまでは婚約中の間柄であるというのが当事者自身の意思であるとともに、親戚知人もまたそのように理解しているものと考えられるところであつて、本件届出当時においては当事者は将来の婚姻意思を有するにとどまり現在の婚姻意思については未だこれを有していなかつたと認めるのが相当である。本件において予定どおり昭和五四年一月一〇日に結婚式が挙げられ披露がなされ当事者が結婚生活に入つておればその日から当事者は法的に婚姻関係に入つたわけで昭和五三年一一月一日になされた本件婚姻届は昭和五四年一月一〇日に至つてはじめて当事者の婚姻意思を具備することにより法的に有効な婚姻届となるものと解すべきである。それまでは本件婚姻届は後日婚姻意思が具備することが予定されてはいるけれども届出時においては婚姻意思を伴わない法的に不完全なものであり、本件のように予定どおりの経過をたどらず婚姻意思が具備されないままの状態で当事者間に将来の婚姻意思もなくなり婚約解消に立ち至つた場合にはその婚姻届は結局婚姻意思を具備するに至らずその届出による婚姻は無効のまま終つたものといわなければならない。

以上説明したとおり昭和五三年一一月一日届出による当事者の婚姻は無効であり、本件調停委員会における当事者間の合意は正当であるから調停委員○○○○、同○○○○の意見を聴いて主文のとおり審判する。

(家事審判官 中田早苗)

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