東京簡易裁判所 平成11年(ハ)76号 判決 1999年6月21日
原告
羽生國成
右訴訟代理人弁護士
伊藤嘉章
右訴訟複代理人弁護士
黒嵜隆
被告
株式会社シティズ
右代表者代表取締役
谷﨑眞一
右訴訟代理人弁護士
平光哲弥
主文
一 被告は原告に対し、二七万八二一四円及びこれに対する平成一〇年八月四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
一 請求の趣旨
被告は原告に対し、二八万四三九七円及びこれに対する平成一〇年八月四日から支払済みまで年六パーセントの割合による金員を支払え。
二 請求の原因
1 原告が被告との間で、平成一〇年二月二日に締結した労働契約について、原告が平成一〇年八月三日、被告から予告なく解雇されたことによる解雇予告手当金及び遅延損害金の請求。
2 原告が解雇前三か月間に支給された賃金は、平成一〇年五月分が二六万一三九七円、六月分が三〇万二〇三一円、七月分が二八万九七六三円の合計八五万三一九一円である。また、賃金は毎月末日に締切り、翌月一五日に支給の定めがあった(当事者間に争いがない。)。
三 被告の主張
1 原告の退社は解雇によるものではなく自己都合による退社である。
2 被告は原告に対し、平成一〇年三月三日と七月七日の二回にわたって解雇の予告をしている。
3 原告は、就業規則によってその提出を義務づけられている身元保証書を、被告の再三にわたる提出要求にもかかわらず提出しなかったのであるから、右解雇には原告の責めに帰すべき事由がある。
四 争点
1 原告の退職は解雇によるものか、自己都合によるものか。
2 被告から原告に対し解雇予告があったか。
3 予告なく即時解雇をするについて、原告の責めに帰すべき事由があったか。
五 争点に対する判断
1 争点1について
原告は、平成一〇年八月三日、当時勤務していた被告会社の銀座支店の事実上の支店長であった大窪雅之(以下「大窪」という。)から身元保証書を提出していないことを理由に、今日限りで辞めてくれ、待ったはきかない、辞表を書いてくれ、自己都合での退職と書いてくれ、と言われたので書かなかったと供述している。大窪も、八月三日に応接室で、原告に辞めてくれと話した、辞表を書いてくれと言ったが断られた、と原告の供述に沿う供述をしている。右事実によれば、原告の退職は解雇によるものであったと認められる。
2 争点2について
大窪は、平成一〇年七月七日に原告に身元保証書を渡して、七月いっぱいに出して欲しい、出さなければこれ以上この会社にいてもらうわけにはいかないと言ったと供述しているが、同時に、身元保証書を出さないと八月からは融資実行の仕事はできないとも言ったと供述している。
これに対し、原告は、七月七日に大窪から身元保証書を出すように言われたが、その時、身元保証書を出さないと八月から融資実行の仕事はできないと言われたことはあるが、解雇すると言われたことはないと供述している。右事実からは、大窪が原告に対し、確定的に解雇の予告をしたと認めることはできないし、他に、解雇の予告をしたとする被告主張の事実を裏付ける証拠はない。
また、平成一〇年三月三日に解雇の予告をしたと認める証拠もない。
3 争点3について
(1) 被告は原告に対し、再三にわたって身元保証書の提出を要求したと主張しているが、原告は、平成一〇年七月七日、初めて身元保証書が机の上に置いてあるのを確認した、それ以前に身元保証書を出すという話はなかったと供述している。大窪は、会社から身元保証書を渡すように言われたのは五月ころであるが、それまではきつく言っていない、それで辞めさすのはしのびないので延ばし延ばしにしていた、私が正式な形で原告に言ったのは七月であるが、提出期限の七月中に原告から身元保証書の提出はなかったと供述している。右事実からは、被告が身元保証書の提出を求めていたとしても、正式な形でその提出を求めたのは七月七日であること、原告はその提出期限までに身元保証書を提出しなかったことが認められる。
(2) 労働基準法は、労働者の責めに帰すべき事由に基づいてその労働者を解雇する場合には、例外的に、解雇予告手当金の支給をすることなく、即時解雇ができることを認めている。この場合の、労働者の責めに帰すべき事由とは、一定期間の無断欠勤、職務上の著しい不正行為など、労働者が予告なく即時解雇されてもやむを得ないと客観的に認められる重大で悪質なものであることが必要とされており、就業規則で懲戒解雇に当たるとされている事由であっても、常に解雇予告が必要でないとはいえないとされている。
(3) そこで、原告が身元保証書をその提出期限までに提出しなかったことが、原告の責めに帰すべき事由に当たるか否かについて判断する。
前記認定の事実及び証拠によれば、原告は、平成一〇年二月二日に被告会社に入社したが、それから五か月余り経過した七月七日になって、大窪が正式な形で提出期限を定めて身元保証書の提出を求めたことが認められる。被告会社では、就業規則(<証拠略>)で身元保証書の提出が正社員採用の条件とされているのであるから、本当にその提出を求めるつもりであれば、原告の採用と同時に又は採用後、例(ママ)え試用期間中であっても、原告は既に営業の仕事をしていたのであるから、速やかにその提出を求めることができたにもかかわらず、原告の入社後五か月余り経過した七月七日になって、七月中という期限を定めて身元保証書の提出を求め、その提出がなかったとして予告なく即時解雇したことは、それが被告会社の就業規則では解雇事由に当たるかどうかはともかく、予告なく即時解雇する場合に必要な、原告の責めに帰すべき事由に当たるということはできない。
4 解雇予告手当金及び遅延損害金について
解雇予告手当金の計算は、賃金締切日の三か月前の応答日の翌日から解雇直前の締切日までの日数九二日で、その計算期間内に支給された賃金の総額八五万三一九一円を除した額に三〇日を掛けた金額とされている。右の計算によると、解雇予告手当金は二七万八二一四円となるので、それを超える部分についての原告の請求は理由がない。
また、解雇予告手当金は、法が特に認めたものであり、商行為性はないので、その遅延損害金は五パーセントが相当である。
5 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松尾憲治)