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東京簡易裁判所 平成14年(ハ)11484号 判決 2002年12月26日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金30万2578円及び内金20万1770円に対する平成14年8月16日から,内金9万9190円に対する平成14年8月29日から,各支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告の妻が原告から児童用英語教材セットの割賦購入等の契約をしたことによる債務について,原告が被告に対し,これが日常家事債務であると主張して,その支払を求めた事案である。

(請求の原因)

1  原告は,平成10年5月28日,訴外Dとの間で次の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) 契約の内容

契約① G(児童用英語教材のセット)の割賦販売契約

契約② Gファミリークラブ会員契約

この契約の継続的役務内容は,Gファミリーニュース(隔月刊会報)の発行,ファミリーカレッジ,国内・海外研修セミナー,イングリッシュ・カーニバル,パペット・ショー等の開催及びテレホン・イングリッシュ,電話教育相談の実施等である。

(2) 価格及び支払方法

契約① 現金価格   52万2900円

手 数 料   13万8045円

割賦価格   66万0945円

支払方法   平成10年7月27日から平成14年6月27日まで毎月27日限り48回払いとし,初回金は1万7045円,2回目以降は毎月1万3700円

遅延損害金 年6パーセント

契約② 会員期間   平成11年1月1日から3年間とし,退会(契約解除)の申し出がない限り,3年を単位として自動継続される。

会  費    当初は月額2550円とし,17か月目以降は月額2940円

支払方法   平成11年1月27日から毎月27日限りの月払い

特  約    所定の期日に会費の支払がないときは,原告は役務の提供を停止することができる。

2(1)  契約①の割賦金の支払情況は別紙計算書の①記載のとおりである。

(2)  契約②について,訴外Dは,平成14年2月27日に支払うべき会費の支払をしないので,原告は,同月28日をもって役務の提供を停止した。その段階での会費未納額は別紙計算書②a記載のとおりである。

(3)  また,訴外Dは,別紙計算書②b記載のとおり会員向けのイベントに参加したのに,参加料を支払わない。

3  被告は,訴外Dの夫であって,本件契約は,訴外Dが長女Hのためにしたものであるから,日常家事債務(民法761条)に該当する。

4  よって,原告は,被告に対し,別紙計算書の①と②abの合計金30万2578円及び①の元金20万1770円に対する最後の弁済期より後の平成14年8月16日から,②abの合計金9万9190円に対する支払督促送達の日の翌日(平成14年8月29日)から,各支払済みまで年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する被告の認否)

請求の原因1,2の事実は知らない。同3のうち,被告が訴外Dの夫であり,Hが長女であることは認めるが,その他は否認する。

第3判断

1  証拠(甲1,3,4,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,訴外Dは,平成10年5月27日,自宅に原告の販売担当者の訪問を受け,勧誘されて請求原因1記載の児童用英語教材セットの割賦購入契約(契約①)及びこれに付帯するGファミリークラブ会員契約を締結したことが認められる(ただし,契約②の具体的内容については,裏付けの書証の提出がない。)。

2  被告が訴外Dの夫であり,Hが二人の長女であることは争いがなく,原告は,上記契約が夫婦の日常家事債務であると主張する。そこで検討すると,証拠(甲1~4,乙1,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,音楽専門学校の音楽講師をし,月収は20万円程度であったこと,平成9年5月13日に婚姻し,同年11月8日,長女Hが生まれたが,上記契約当時はまだ6か月余りにすぎず,二人の間では長女の教育方針等について十分な話し合いをする程の段階ではなかったこと,訴外Dは,勧誘された際,長女がまだ6か月余りで英語教育の必要性を感じていないと云うと,原告の販売担当者から「お母さん自身の勉強になる。」「イベントなどで友人ができる。」などと云って勧誘され,「主人と相談して後日返事したい。」と云って,一応断ったところ,さらに「即決でお願いします。旦那さんには内緒でもお小遣いで買えるんじゃない。」などと説得され,契約書(甲1)に署名捺印したこと,しかし送られてきた教材は,生後1年にもならない幼児には何の意味もなさず,後日被告に見つかった際は,友達が使わないからというので譲ってもらったなどとごまかしていたこと,等の事実が認められ,この認定に反する証拠はない。

民法761条の「日常の家事」とは,「夫婦の共同生活に通常必要とされる事務」を意味するが,これが夫婦の連帯責任とされる理由は,このような事務は夫婦が共同で処理すべき事務であって,対外的に夫婦のいずれか一方の名前で行われても,他方がこれに承諾を与えている場合が通常であり,仮に内部的には承諾を与えていないことがあるとしても,取引の相手方は,承諾が与えられていると信じ,夫婦と取引をするとの意思で行うのが通常であることを踏まえ,相手方を保護する趣旨によるものと解される。

本件の場合,商品の価額が被告の月収の3倍を超える高額のものであり,その内容は,子供の教育のためとはいっても,生後6か月余りの幼児にすぐ必要なものではないから,「夫婦の共同生活に通常必要とされる事務」の範囲を超えるものといわざるを得ず,それ故,訴外Dが主人に相談してと云って断った経過からすると,原告の勧誘担当者も被告の承諾がないことを知っていたものと認められる。そうすると,上記契約に基づく債務を日常家事債務として被告に連帯責任を負わせることはできないというべきである。

3  以上によれば,その他の点を考えるまでもなく,原告の請求は理由がない。

(裁判官 原健三郎)

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