東京簡易裁判所 平成16年(ハ)10816号 判決 2005年3月28日
京都府京都市下京区鳥丸通五条上る高砂町381-1(4階)
原告
株式会社シティズ
代表者代表取締役
●●●
訴訟代理人
●●●
訴訟代理人
●●●
神奈川県●●●
被告
●●●
訴訟代理人弁護士
飯田伸一
主文
1 被告は,原告に対し,金156万0690円及び内金154万1058円に対する平成16年7月17日から支払済みまで年21.90パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用については,これを5分し,その2を原告の,その余を被告の負担とする。
4 この判決は第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1原告の請求
被告は,原告に対し,金236万9729円及び内金234万円に対する平成16年7月17日から支払済みまで年21.90パーセントの割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が被告に対し,金銭消費貸借契約に基づく貸金残元金234万円及びこれに対する約定の遅延損害金の支払を求めるのに対し,被告が貸金業の規制等に関する法律(以下「法」という。)第43条1項の適用を争った事案である。
1 前提となる事実
(1) 法3条所定の登録を受けて貸金業を営む原告は,被告に対し,平成14年10月7日,「金銭消費貸借契約証書」(甲2,以下「本件契約証書」という。)により,次の約定で金350万円を貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。
ア 利息 年29.0%(1年を365日として計算)
イ 遅延損害金 年29.2%(1年を365日として計算)
ウ 弁済期 平成14年11月より同19年10月まで毎月16日限り
エ 弁済方法 元金5万8000円を経過利息とともに原告の本店又は支店に持参又は送金して支払う。
オ 特約 上記元利金の支払いを怠ったときには,通知催告なくして期限の利益を失い,債権者に対して,残債務全額及び残元金に対する遅延損害金を即時に支払う(以下「本件期限の利益喪失約款」という。)。
(2) 訴外●●●は,原告との間で,平成14年10月7日,本件契約証書により,本件貸付けに基づく被告の債務を連帯保証する旨合意した。
(3) 原告は,被告に対し,本件貸付けに際し,法17条1項所定の事項を記載した書面(甲2),法施行規則第13条所定の事項を記載した貸付契約説明書(甲5)を交付した。
(4) 本件貸付けに係る債務については,別紙1元利金計算書の「入金日」「入金額」欄記載の各金銭が支払われた(以下,これらの各支払を各「本件弁済」という。)。
(5) 原告は,本件各弁済について,いずれも弁済の後,法18条1項,同法施行規則第15条に掲げる事項を記載した「領収書兼利用明細書(控)」(甲6ないし25,以下これらを各「本件領収証書」という。)を郵送して交付した。
2 争点
(1) 法43条の解釈基準について
(2) 原告の本件貸付けは,法13条1項に違反する過剰貸付けにあたるか。
(3) 原告は,被告に対し,本件貸付けの際,法17条に規定される書面(以下「17条書面」という。)を交付したか。
(4) 原告は,本件貸付けに基づく債務の返済を受けた都度,直ちに18条1項に規定される書面(以下「18条書面」という。)を弁済者である被告に交付したか。
(5) 被告は,原告に対し,本件貸付けに基づく利息を任意に弁済したといえるか。
3 争点等に対する双方の主張(要旨)
(1) 争点(1)(法43条の解釈基準)について
(原告)
法43条は,貸金業者の取締り及び規制の強化(ムチ)の反面,超過利息等の支払を無効としたまま貸金業者に契約書面や受取証書の交付等の強制をすることはかえって,法の趣旨としない闇金融の増長をきたすことになるので,法43条は一定の要件の下に超過利息等の支払を有効な債務の弁済として,貸金業者に保護(アメ)を与え,もって資金需要者等の利益保護という立法目的を達成しようとしたのであるから,同条の要件の有無を検討するに際しては,形式的,杓子定規に解することなく,債務者が不利益を被っているかどうかという実質的な観点に立って,弾力的な解釈をすべきである。
最判平成2年1月22日(民集44巻1号332頁),最高裁平成11年3月11日判決は,かかる立場を明らかにした。
最判昭和16年2月20日(平成14年(受)第912号事件及び平成15年(オ)第386号,同年(受)第390号事件の2個の判決。以下「SFCG判決」という。)は,法43条の適用要件は,これを厳格に解釈するように判示するが,事案の特殊性から,そのように解されたものであって,徒に拡大されるべきではなく,同判決の射程範囲は限られたものと解すべきである。
(被告)
利息制限法は,高利から債務者を保護するため,私法上有効な金利の上限を規定し,それを上回る金利を無効とし,脱法を許さない強行法規になっている。そして同法を巡る判例法理は,①同法所定の制限を超える利息,損害金を任意に支払った場合でも,制限超過部分は残存元本に充当される(最大判昭和39年11月18日民集18巻9号1868頁),②債務者は,制限超過部分の元本充当により元本が完済になった後に支払った金額を不当利得により返還請求することができる(最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2526頁)と発展し,できるだけ速やかに債務者を高金利から解放するという利息制限法の基本理念のもと,制限超過利息の元本充当による元本減少の法理を徹底させ,全国の債務整理の実務もこの確立した判例法理を基準として行われているのである。
法43条は,この最高裁判例の確立した利息制限法の充当法理に反する形で,与論の厳しい批判の中で成立したもので,最高裁判例に真っ向から反するもので,違憲の疑いの極めて強いものである。
ともあれ,法43条は,最高裁判例により確立した利息制限法の充当法理前記①の原則に例外を設け,既に支払われた金銭について,法43条1項の厳格な要件を満たす限り,本来無効な利息の債務の弁済を有効な利息の債務の弁済とみなし,元本に充当されないことにしたものである。
法は貸金業の事業に必要な規制を行い,貸金業者の業務の適正な運営を確保し,もって資金需要者等の利益を図ることを目的としているのであり(同法1条),具体的に貸金業者の業務に様々な規制を加え,17条,18条書面の交付によって,契約条件や充当関係を債務者に明示させることによって,貸金業者の業務の適正を確保し,もって債務者等の利益を図ろうとする反面,その実効性を確保するために厳格な業務規制を遵守し,資金需要者の利益を保護したことに対する恩典として同条を規定したものであるから,同条の適用に際しては,形式的に厳格に解釈されなければならないだけでなく,貸金業者の業務の適正を確保し,債務者を保護するという実質的観点に立って,厳格に解釈されなければならない。
SFCG判決は,法43条について,罰則付きの義務規定及び同法の債務者保護の趣旨を根拠に,同条の適用要件については,これを厳格に解釈しなけらばならないとしたものであって,以上の立場に立つことを明らかにした画期的な判決である。
(2) 争点(2)(原告の本件貸付けは,法13条1項に違反する過剰貸付けにあたるか)について
(原告)
原告は,国民金融公庫等政府系金融機関等から融資を受けることが困難な零細事業者に必要な事業資金の貸付けを迅速に行うことを目的とする貸金業者であり,その社会的役割は軽んぜられるべきものではない。
法13条は訓示規定であり,直ちに私法上の効力を有するものではないが,原告としては,納税証明書,所得証明書は徴収していないものの被告の業種,売上げ(年収),既往借入額等必要な事項を,本件貸付の際聴き取り,ジャパンデータバンク等に被告の既往借入額及び返済額を照会し,本件貸付けを実行しているのであって,過剰貸付が問題となる余地はない。
したがって,本件貸付けが支払の任意性に影響を及ぼすことはあり得ない。
(被告)
本件貸付けのあった平成14年10月7日当時,被告は,銀行関係で550万円,350万円,200万円その他の借入れがあったが,個人としてどの位の借金があるか,原告の担当者から質問をうけていない。
原告は,被告の返済能力を一切問題としないのであって,そのことは,本件貸付けが保証人である訴外●●●からの回収を目的とした過剰融資であり,法13条1項に違反する。
原告の本件貸付けは,法13条1項に違反する過剰貸付けであり,適法,適正な業務運営を前提とした場合に法43条が例外的に適用されることからすれば,その前提を欠くため,本件貸付けに法43条を適用することはできない。
(3) 争点(3)(原告は,被告に対し,本件貸付けの際,17条書面を交付したか)について
(原告)
被告は,本件期限の利益喪失約款は,17条書面の要件を満たさない旨主張するが,本件期限の利益喪失約款は,社団法人全国貸金業協会連合会(以下「全金連」という。)の模範契約書(甲64)を参照して作成されたものであり,同模範契約書は全金連が法27条2項により作成し,各都道府県知事の認可を受けただけでなく,旧大蔵省及び国税庁や最高裁民事局から承認を得ているものであって,それにより全国の貸金業者がそれに準拠し,日々貸付け業務を営んでいるものである。
被告のような形式的,厳格な解釈では,法43条を死文化するだけでなく,模範契約書を使用している善良な貸金業者まで闇金融に追い込む結果となり,計り知れない重大な事態を招く。
被告の主張するような解釈をすれば,法17条1項の要件を欠いた書面の交付に対しては,行政処分だけでなく,刑事罰をも科せられる点からすると,模範契約書に準拠して貸付けをする全国の善良な貸金業者が日々,犯罪行為をしていることになってしまい,そのような解釈は到底,容認できるものではない。
法17条の交付書面の立法趣旨は,債務者に実際に合意した契約の内容を書面によって明確に知らしめて,債務者を保護しようとする趣旨であるから,実際に合意した内容をそのまま記載した本件期限の利益喪失約款は何ら不適法な記載とはいえず,基本法たる利息制限法との関係を知らない債務者のために,当事者で合意していない「借主が元金分割金と利息制限法所定の制限利率で計算した利息を支払えば,期限の利益を失うことはありません。」と注記しないからといって,本件期限の利益喪失約款が不適法となるはずがなく,同条の文言からしても前記注記をすることまで要求されていると解することはできない。
よって,本件契約証書の本件期限の利益喪失約款が法17条1項7号,法施行規則13条1項ヌに違反することはなく,本件契約証書は17条書面の要件を完備している。
(被告)
本件期限の利益喪失約款は,契約証書6条で定められているところ,本件期限の利益喪失約款は,①利息制限法の充当主張を妨げる不当な内容であるという意味において,②記載内容と法律効果が乖離した不正確な内容であるという意味において,③一義的に解釈不能な不明確な内容のものであるという意味において,法17条1項7号,法施行規則13条1項ヌの要件を満たさないので,17条書面の要件に欠け,法43条の適用を受けることはない。
(4) 争点(4)(原告は,本件貸付けに基づく債務の返済を受けた都度,直ちに,18条書面を弁済者である被告に交付したか。)について
(原告)
法18条1項の「直ちに」とは,債務者が債権者方に現金を提供したときには,本条に違反したときは罰則が課せられること(法49条3号)や民法486条との対比から「支払と引換えに」受取証書を交付するものと解することができるが,銀行振込の場合には,受取証書発行の煩雑かつ多量の事務処理を考えれば,受取証書の交付に多少の日時を要したとしても,次回の支払いに備えて,弁済金の充当関係を検討する相当な期間が与えられていれば,債務者に充当関係の手掛かりを与え,弁済金の充当関係を明らかにし,紛争を予防するという法18条1項の立法趣旨に反することはない。
本件においては,弁済者の振込金受領日の翌営業日に弁済者に受取証書を発送しており,法18条の「直ちに」の要件を満たす。
(被告)
法が直ちに受取証書の交付を要求するのは,単なる弁済の事実,金額を明らかにするためだけでなく,債務者をして,利息,元金への充当結果を,弁済時点で具体的に把握して,当該充当結果につき,異議申立ての機会を与えるためである(最判平成11年1月21日民集53巻10号98頁)。
異議申立てを実効あらしめるためには,より強い時間的接近性が要求され,「直ちに」というのは,即時交付の厳格性が要求される。
本件では,原告は銀行の口座の入金を確認するのが毎営業日午後3時30分ころから午後6時ころまでであった(証人●●●証言)のであるから,本件領収証書を作成して,午後6時ころには,投函することは可能であったにもかかわらず,金曜日確認分は,翌週月曜日発送,その他は翌日発送しているのであって,普通郵便で発送するため,被告に届くのは,更に2日以上遅れて届くことになり,到底,直ちに交付したと解することはできない。
(5) 争点(5)(被告は,原告に対し,本件貸付けに基づく利息を任意に弁済したといえるか。)について
(原告)
被告は本件期限の利益喪失約款の下では制限超過利息の支払いには任意性がない旨主張するが,債務者は債権者に返済期日に利息制限法所定の制限利息及び約定返済元本を支払えば,期限の利益を喪失することはない。
債務者が利息制限法と法43条1項の関係が分からなかったとしても,法の不知は債務者の自己責任の問題であり,法の不知を理由に任意性がないという被告の立場は,期限の利益喪失約款に「期限の利益喪失の合意はありますが,分割元金と利息制限法所定の制限利率で計算した利息を支払い,かつその意思を表示すれば期限の利益を失いません。」と双方で合意していない事項を注記しなければ,任意性を失わせることになり,不当であるばかりでなく,それでは法43条1項はまったく機能せず,死文化し,同条の立法目的は達成できないことになってしまう。
また,被告は,本件各弁済の都度,領収証と同封された「ご入金についてのお知らせ」(乙4)により被告は心理的強制を受け,錯誤により支払いをしたもので,任意の支払でなかった旨主張するが,債務者が契約に基づく利息の支払いに充当されることを認識して支払い,本件領収証書を受領後も何ら異議を述べていない以上,充当されるとの認識で支払い,懈怠約款が公序良俗に違反する著しき不当なものでない限り,不利益の警告は債務者に対する違法不当な圧力とはいえず,また錯誤による支払ということもできない。
しかも「ご入金についてのお知らせ」は,契約時にのみ債務者及び保証人に渡すものであって,本件領収証書に同封することはありえない。
また主債務者が保証人に迷惑をかけないようにするため支払うことは,通常の債務者の心理であって,任意性とは関係がない。
(被告)
「任意に支払う」とは,他人の強制などによらず,債務者が自己の自由な意思に基づいて支払うことをいうのであって,債務者が真にその自由な判断で,本来無効の債務であるのにこれを支払おうとした場合に限り,有効な弁済とみなすことにしたのが法43条の趣旨である。
従って,他人の詐欺や心理的な強制によるものであるとき,あるいは債務者自身の錯誤に基づくときは任意に支払うとはいえない。
本件では,契約証書6項,契約説明書6項の期限の利益喪失約款の存在,本件各弁済の都度,領収証と同封された「ご入金についてのお知らせ」(乙4)により,被告は「これは大変だ。一回でも支払いが遅れたら,元金も利息もいっぺんに返さなければならない。必死に期限に遅れないように払わなくてはいけない。保証人の●●●さんにも迷惑をかけてしまう。」(乙8,被告本人)と強い心理的強制を受け支払ったものであって,心理的強制又は錯誤に基づいて支払ったということができ,支払意思形成に瑕疵があるから,任意に支払われたものとはいえず,法43条の要件を満たさない。
第3争点に対する判断
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告は,平成14年10月当時,土木関係の株式会社の代表者をしていたものであるが,当時被告個人として,銀行関係で550万円,350万円,200万円の3件の他にも借金があった(乙8,被告本人)。
被告は,事業資金のために借入れの必要があり,知人から原告を紹介され,本件貸付けの利息の利率が高いことは知っていたが,他から借りられるあてもなかったので,原告から,金350万円を借り入れることにし,●●●駅南口にある喫茶店●●●で,本件の連帯保証人である訴外●●●と共に原告の社員2名と会って,そこで,被告が本件貸付け契約を,訴外●●●が連帯保証契約を結んだ。
被告は,原告の社員から本件貸付けの内容についての説明を受け,自ら本件契約証書(甲2)及びに契約説明書(甲5)に署名,捺印し,被告の社員より同書面及び償還表(甲4)を受領した。
その際,原告の社員からは,被告の当時の負債内容について,問いただされることもなかったので,被告としては,答えることもなかった。
被告は,本件貸付けの当時,利息制限法という法律のあることは知っていたが,その制限利率がどのくらいかは知らなかった。
また,本件期限の利益喪失約款については,具体的に詳しい説明はなかったが,被告としては,原告の社員の説明などから償還表のとおりの支払いを怠るときには,利率が上がって,いっぺんに払わなければならなくなるとの認識を有し,いっぺんでは返せないので支払期日である毎月16日には,なにがなんでも返さなければならないとの意識を契約当初から強く持つに至った。
(2) 被告は,償還表に従って,毎月16日(同日が土日曜日の場合には翌営業日),分割された元本と経過利息を,自らの意思で作った●●●信用金庫の通帳(乙2)を使って,原告の振込口座を登録しておき(登録番号701),それを利用して,平成14年11月18日より平成16年6月16日まで,別紙1の元利金計算書の入金日,入金額のとおり本件各弁済をなしてきたが,平成16年7月16日の支払いについては,被告が保証人になっていた債務者が破産をしたため,その請求が被告に回って来て,本件貸付けの支払いもできない状態に至り,その後は支払をしていない。
(3) 原告は,被告から支払があると,その都度入金を確認し,それを終えるのが,午後5時から5時30分ころであり,被告の支払を翌営業日までに利息,元金へ充当して,入金のあった日付で本件領収証書を作成し,被告に普通郵便で発送した。金曜日の支払いについては,原告の翌営業日が月曜日になるため,本件領収証書の発送も月曜日に発送した。
2 以上の事実を基に,以下各争点について検討する。
(1) 争点(1)(法43条の解釈基準)について
ア 法43条1項は,貸金業者が業として行う金銭消費貸借の利息の契約に基づき,債務者が利息として任意に支払った金銭の額が利息制限法1条1項所定の利息の制限額(以下,単に「利息の制限額」という。)を超え,利息制限法上,その超過部分につき,その契約が無効とされる場合において,貸金業者が,貸金業に係る業務規制として定められた法17条1項及び18条1項所定の各要件を具備した各書面を交付する義務を遵守したときは,利息制限法1条1項の規定にかかわらず,その支払を有効な利息の債務とみなす旨定めている。そのように同条が利息制限法1条1項の原則に対する例外として規定されていること及び貸金業者の業務の適正な運営を確保し,資金需要者の利益を確保を図ること等を目的として,貸金業者に必要な規制等を定める法の趣旨(法1条)さらには上記業務規制に違反した場合の罰則が定められていること等にかんがみると,法43条1項の適用要件については,これを厳格に解釈すべきである(前記2個のSFCG判決参照)。
イ 原告は,形式的,杓子定規に解することなく,弾力的に解釈すべき旨主張するが,弁済の任意性について判示する最高裁平成2年1月22日判決においても,そのように解釈する旨の文言は判決文中にはなく,また同判決は法43条の適用について,債務者の主観的事情が過大とならないよう,債務者の主観的事情を必要最小限度にとどめるべきであるとしたものであって,法43条を厳格に解すべきとした前記SFCG判決と軌を一にし,両者の基本的立場に矛盾はない。
(2) 争点(4)(原告は,本件貸付けに基づく債務の返済を受けた受けた都度,直ちに18条書面を弁済者である被告に交付したか。)について
ア 法18条1項の受取証書の交付は,債務者が利息の契約または賠償額の予定の内容に基づく支払の充当関係が不明確であることによって不利益を被ることがないようになされることを要し,「直ちに」と規定されているその交付の時期もこの要請に応えるものであることを要すると解される。
債務者が貸金業者の営業所へ行き返済する場合には,即時その場で受取証書を交付することを要するが,銀行振込の場合には,債務者の支払後,その金額の確認,その支払額についての,約定に基づく利息,損害金及び元金への充当,充当後の残債務額の確定,その算定結果を記載した受取証書の作成,郵送という一連の作業を要するものであり,当然,その作業には相当日数を要するものである。したがって,その作業に要する必要最小限の日数と郵送後弁済者に到達するまでの日数を併せ,弁済後数日間を要したとしても,なお「直ちに」という要件を満たしているものと解すべきである。
イ 原告の営業日は,土曜日,日曜日,祭日,12月31日から翌1月4日までの年末年始の期間中を除いた日である(第5回口頭弁論)。
ウ 本件貸付けについては,原告は,被告が別紙1元利金計算書のとおり支払った日の翌営業日には,本件各領収証書を普通郵便で発送しており(甲26の1,2乃至45の1,2),被告への到達が更に2日要したとしても,法18条1項の「直ちに」の要件を満たすものと解される。
平成15年5月16日弁済分,同16年1月16日弁済分,同年4月16日弁済分については,弁済日が金曜日であったため,翌営業日である月曜日には,被告宛,本件領収証書を発送しているが,入金を確認した日の翌営業日には発送を完了している以上,普通郵便での到達になお2日を要したとしても,「直ちに」の要件を満たすものと解せられる。
(3) 争点(5)(被告は,原告に対し,本件貸付けに基づく利息を任意に弁済したといえるか。)について
ア 債務者が法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」及び同条3項にいう「債務者が賠償として任意に支払った」とは,債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく賠償金の支払に充当されることを認識した上,自己の自由な意思によって支払ったことをいうものと解される。
したがって,民事執行により強制的に弁済に充てられる場合には,任意に支払ったものとはいえず,また債務者の支払意思の形成過程に瑕疵がある場合,すなわち詐欺,強迫又は錯誤に基づくときは任意性を欠くものと解される。
イ 本件において検討するに,本件貸付の際の説明や本件期限の利益喪失約款の存在,「ご入金についてのお知らせ」(乙4)により,被告が心理的な影響を受け,支払をなしていたであろうことは一応推認されるところであるが,①被告は,自らの意思で原告への支払用の銀行口座を設け(乙2),本件貸付け時に受け取った償還表に従って支払をなしていること,②被告は,各本件領収証書受領後も原告に何ら異議を述べていないこと,③平成15年3月17日の返済(乙3の1,2)以外の返済について,本件領収証書の交付の際,「ご入金についてのお知らせ」を送付していたとの証拠は存在しないことなどの事情を合わせ考慮すると,被告の支払いの意思形成課程に瑕疵があったものと認めることはできない。
よって本件各返済につき,被告の返済に任意性がなかったものということはできない。
(4) 争点(2)(原告の本件貸付けは,法13条1項に違反する過剰貸付けにあたるか)について
法13条によれば,貸金業者は,顧客又は保証人の資力や信用等を調査し,返済計画等に従って貸付けるものとされているところ,本件では,貸付の際,申込書に「毎月5万8000円の元金分割払いなら売上より支払えます。」(甲92)と申込書に申告させるだけであり,また既往借入額を聴取しないで本件貸付けを実行しており,被告の資力調査等が十分であったものとは認めることはできないが,法13条自体,法43条の直接の要件とはなっていない以上,法13条に抵触することをもって,法43条を適用できないとする被告の見解は独自のものであって,採用することはできない。
(5) 争点(3)(原告は,被告に対し,本件貸付けの際,17条書面を交付したか。)について
ア 法43条1項の規定の適用要件として,契約書面をその相手方に交付しなければならないと規定されているが,契約書面には,法17条1項所定の事項すべてが記載されていることを要するだけでなく,債務者が自己の債務の内容を正確に把握し,弁済計画の参考としうる程度の一義的,具体的,明確なものであって,所定の事項が正確かつ容易に債務者に理解できるように記載されている必要があるものと解される。
イ 本件期限の利益喪失約款は,具体的には本件契約証書6項,契約説明書6項で「元金又は利息の支払いを遅滞したとき,又は債務者,保証人のうち本書条項違反若しくは退職,廃業,休業,民事再生手続開始申立などあるときは催告の手続を要せずして債務者は期限の利益を失い直ちに元利金を一括して支払います。但し,その他債権者を害する行為あるときは,催告をもって期限の利益を失います。」と規定されている(甲2,5)。
ウ 前記アの基準をもとに,本件期限の利益喪失約款を検討するに,以下の理由から,法17条1項7号,法施行規則13条1項ヌに反し,17条書面の要件を満たさないものと解される。
(ア) 本件期限の利益喪失約款の多義性
17条書面における期限の利益喪失約款の効力を巡っては,①利息制限法1条1項,4条1項との関係を重視せず,法1条の立法趣旨から,法17条1項7号,法施行規則13条ヌ号は当事者の合意内容をそのまま記載することを要求しているにすぎないとして,約定利息の支払いを怠れば,期限の利益を失うとの立場(広島高裁平成14年12月19日判決,甲67),②利息制限法1条1項,4条1項との整合性を重視し,利息の制限額を支払えば期限の利益を喪失することはないと解する立場(平成16年6月17日福岡地裁判決,甲68),③利息制限法1条1項,4条1項を最も重視し,本件期限の利益喪失約款は無効であるとする見解(被告準備書面(4)11頁)と解釈が真っ向から対立している。
このように有効とするものから無効とするものまで多義的解釈が可能な状況下では,一般の債務者ばかりか,本件契約証書(甲2)6項と貸付説明書(甲5)6項とで,全く同一の文言が使用されている本件期限の利益喪失約款にあって,被告は,その内容を正確かつ容易に理解することは困難であり,自己の債務の内容を正確に把握し,弁済計画を立てることもできないこととなる。
したがって,本件期限の利益喪失約款は17条書面の趣旨に反するものと解される。
(イ) 被告は,契約当初から,遅延損害金としての高い金利をいっぺんで支払うことを極度に警戒していたのであるから,本件期限の利益喪失約款についても,利息,遅延損害金を含めた債務の内容を正確に把握し,弁済計画が立てられるように,容易に理解できるような明確な文言で記載されることが要請されるところ,本件期限の利益喪失約款の但書には,「但し,その他債権者を害する行為あるときは,催告をもって期限の利益を失います。」と規定されるが,「その他債権者を害する行為」が具体的に何を意味するのか明らかでない。
その点について,原告の債権管理を担当する,業界の専門家である証人●●●も,但書の具体的内容について,明確な回答をすることができなかったし,ましてや被告においては,その意味すら理解することができなかったことからも明らかである(証人●●●,被告本人)。
かかる本件期限の利益喪失約款の但書の記載は,17条書面に要求される一義性に反し,所定の事項を正確かつ容易に理解できるように記載されているとはいえず,17条書面の要件を満たさない。
(ウ) 原告は,本件期限の利益喪失約款は,旧大蔵省等の協議の上出来上がった全金連の模範契約書(甲64)に準拠している旨主張するが,模範契約書には本件での但書のような記載は存在しないのであるから,全体としてみれば,両者が同一のものと解することはできない。
3 以上によれば,本件契約証書の本件期限の利益喪失約款は,法17条1項7号,法施行規則13条1項ヌに反し,17条書面の要件を満たさないので,法43条1項は適用できないことに帰する。よって原告の請求を利息制限法に引き直し計算すると別紙2計算書のとおりであって,その限度で原告の請求は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 芹澤薫)
<以下省略>