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東京簡易裁判所 平成16年(ハ)4245号 判決 2004年11月24日

東京都港区ab-c-d

原告

東京都港区ab-c-d

原告

原告ら訴訟代理人弁護士

横浜市e区fg-h-i

被告

被告代表者代表取締役

被告訴訟代理人弁護士

主文

1  被告は,原告らに対し,それぞれ7万8875円及びこれに対する平成16年4月11日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は4分し,その3を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告らに対し,それぞれ29万4500円及びこれに対する平成16年4月11日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,原告らが平成14年7月28日に被告に対し原告らの結婚式と結婚披露宴のビデオ撮影,その編集,DVDの作成及びその納品を総額18万9000円(内訳-結婚式ビデオ撮影費5250円,結婚披露宴ビデオ撮影費8万9250円,DVD作成費9万4500円)で依頼し,被告はこれを受諾したが(以下,「本件契約」という。),被告側カメラマンのビデオ撮影に瑕疵があり,すなわち,① 結婚式場における適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反し,さらには,② 結婚披露宴会場における適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反し,または,カメラポジションの移動及びライティングを適切に行うべき義務に違反し,その結果,本件契約で合意された内容,品質のDVDが納品されなかったとして(債務不履行),原告ら2人が被った財産的損害18万9000円(1人当たり9万4500円)の賠償及び結婚式と結婚披露宴の思い出を破壊され著しい精神的損害を被ったとしてそれぞれ20万円の慰謝料並びに遅延損害金を請求した事案である。

2  被告の主張

(1)  本件結婚式場においてはアシャーとブライズメイドが各3人ずつ並んでいたため,被告側カメラマンのビデオ撮影位置が制約されており,本件で被告側カメラマンが選択したカメラポジションが最もベターといえる場所であった。よって,被告側カメラマンは,本件結婚式場において適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反したとはいえない。とすると,本件結婚式の撮影の部分については,被告に帰責事由はなく,よって,債務不履行はなかった。

(2)  本件結婚披露宴についてのDVD映像は,全体的にみれば特に問題があるとはいえない。また,本件結婚披露宴会場において,被告側カメラマンが選択したカメラポジションは最適な場所であり,適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反しておらず,よって,被告に帰責事由はなかった。したがって,本件結婚披露宴の撮影の部分についても,被告に債務不履行はなかった。

3  主たる争点

(1)  被告側カメラマンは,本件結婚式場において適切なカメラポジションを選択すべき義務を負っており,その義務に違反したか。

(2)  本件結婚披露宴についてのDVD映像は,特に問題はなかったか。すなわち,本件契約の約定に従った品質の映像であったか。

また,被告側カメラマンは,本件結婚披露宴会場において適切なカメラポジションを選択すべき義務を負っており,その義務に違反したか。

さらに,被告側カメラマンは,本件結婚披露宴会場においてカメラポジションの移動及びライティングを適切に行うべき義務を負っており,それらの義務に違反したか。

(3)  被告側カメラマンに適切なカメラポジションを選択すべき義務などに違反する点があり,よって,被告に債務不履行があるとした場合,原告らがその債務不履行によって被った損害額はいくらか。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

(1)  当事者間で成立に争いのない本件契約に基づき,被告は,原告らに対し,原告らの結婚式と結婚披露宴についてビデオカメラで撮影し,その映像を編集し,DVDに録画し,納品する義務を負っていた。

そして,証拠(乙2)によると,本件契約時の被告側の宣伝にはプロのカメラマンによる撮影を謳っていることが認められ,そのことを当然の前提として原,被告間に本件契約が結ばれている以上,本件契約におけるDVD映像の品質は,当然に一般の素人が撮影する以上の高品質のものが予定されており,そのような高品質の撮影,高品質のDVD映像であることが被告側の債務内容になっていたものと認められる。そのため,被告側カメラマンとしても,本件結婚式場及び結婚披露宴会場において,そのような高品質の映像を撮影しうる適切なカメラポジションを選択すべき義務を負っていたものと認められる。

(2)  証拠(甲6,原告B)によれば,本件結婚式のDVD映像の場合,新郎新婦の入退場の場面において,参列者の陰になり新郎新婦の映っている映像が著しく少なく,司会者のスピーチの場面においては,新婦の横顔や後ろ姿しか映っておらず,新郎新婦の誓いの言葉の場面においては,新婦の後ろ姿しか映っておらず,また,指輪の交換の場面においても,新婦の後ろ姿しか映っていないことが認められ,したがって,結婚式における重要なセレモニーの各場面において,本件契約により被告が原告らに負っていた高品質のDVD映像という域には到底達していなかったものと解するのが相当である。

(3)  そして,このような品質の映像にしかならなかった原因は,被告側カメラマンのカメラポジションの設定に原因があったものと認められるが,この点について,被告側カメラマンに高品質の映像を撮影しうる適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反する点,つまり,過失があったか。

弁論の全趣旨によれば,被告側カメラマンは,プロのカメラマンとして,本件において実際に採られたカメラポジションにおいては,上記(2)程度の品質の映像しか撮影しえないことを当然に了知するべきであり,また,了知していたものと認められ,さらには,被告が本件契約によって原告らに約した高品質の映像を撮影するためには,3人のアシャーのいずれかの者の位置にカメラポジションを移さねばならなかったことも了知していたものと認められる。そうだとすると,高品質の映像を撮影しうる適切なカメラポジションを選択すべき義務を負っていた被告側カメラマンとしては,事前に,3人のアシャーのいずれかの者の位置にカメラポジションを採りたいということを原告らに,直接あるいはホテル担当者を通じて相談するべきであった。そして,本件の場合,このような相談をし,そのようなカメラポジションを選択することが著しく困難であった,あるいは不可能であったと認めるに足りる証拠はない。もし,そのような相談がなされておれば,証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば3人のアシャーはいずれも新郎新婦の関係者であったと認められるから,アシャーのいずれかの者の位置にカメラポジションを採ることができ,被告が本件契約によって原告らに約した高品質の映像を容易に撮影できたものと認められる。

とすると,上記のような相談をすることなく,安易に本件におけるカメラポジションを採った点に,被告側カメラマンにつき,高品質の映像を撮影しうる適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反したところがあり,したがって,過失が認められる。

このため,被告には,本件結婚式の撮影の部分について帰責事由があり,よって,債務不履行があったものと認められる。

2  争点(2)について

(1)  証拠(甲6,原告B)によれば,本件結婚披露宴のDVD映像の場合,新郎新婦の入場の場面,また,お色直しの後の入場の場面において,遠景のため参列者の陰に隠れるなどして新婦の衣装がほとんど映っておらず,さらに,結婚披露宴の最後における新郎新婦と両親の挨拶の場面において,遠景のため新郎新婦が鮮明に映っておらず,また,新婦の後ろの鏡にビデオのライトが反射して新婦の顔が鮮明に映っていないことが認められ,したがって,これらの点については,本件契約により被告が原告らに負っていた高品質のDVD映像という域には達していなかったものと解するのが相当である(ただし,本件結婚披露宴のDVD映像の場合,大部分を占めるその余の映像については,本件契約により被告が原告らに負っていた高品質の映像という域に達していたものと解するのが相当である。)。

(2)  そして,このような映像になったのも,被告側カメラマンのカメラポジションの設定に原因があったものと認められるが,この点について,被告側カメラマンに高品質の映像を撮影しうる適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反する点,つまり,過失があったか。

証拠(証人G,甲6)及び弁論の全趣旨によれば,被告側カメラマンが結婚披露宴において本件のカメラポジションを選択したのは,結婚披露宴の新郎新婦の席である「高砂」における新郎新婦の姿を間近に撮影するためであったと認められ,実際,この席における新郎新婦の姿は鮮明に撮影されており,DVD映像の品質としても高品質なものと認めるのが相当であって,とすると,被告側カメラマンの上記選択に誤りはなかったと解するのが相当である。

すなわち,上記(1)のような点があるにしても,それは「高砂」の席における新郎新婦の姿を高品質の映像として撮影するために本件カメラポジションを選択したためのやむをえない結果であって,したがって,被告側カメラマンに高品質の映像を撮影しうる適切なカメラポジションを選択すべき義務に違反する点はなく,よって,過失はなかったものと解するのが相当である。

(3)  さらに,原告は,被告側カメラマンはカメラポジションを移動する義務を負っており,この義務に違反しているとも主張する。だが,弁論の全趣旨によれば,本件契約当時,被告にはハンディカメラで撮影するという内容の商品はなかったものと認められ,したがって,本件契約もハンディカメラでの撮影を予定しておらず,被告側カメラマンが上記のような義務を負っていたと認めることはできない。

また,原告は,被告側カメラマンはライティングを適切に行うべき義務を負っていたとして,この義務に違反するとも主張する。だが,証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,本件のカメラポジションから撮影対象はかなり遠方にあったと認められ,このため,反射を防ぐためにライトの明るさを絞れば,照度の低下により撮影自体が困難になったと解され,よって,被告側カメラマンにライティングを適切に行うべき義務に違反する点があったと認めることはできない。

(4)  とすると,本件結婚披露宴の撮影の部分について,被告に帰責事由を認めることができず,したがって,この部分については被告に債務不履行はなかったものと認められる。

以上によると,上記(1)の部分については,本件結婚披露宴のDVD映像の大部分を占めるその余の部分が本件契約の約定に従った品質の映像であると認められる点ともあいまって,原告らが受忍すべき範囲内にとどまるものと解するのが相当である。

3  争点(3)について

(1)  以上のように被告には本件結婚式の撮影の部分について債務不履行があり,その債務不履行によって原告らが被った財産的損害は,結婚式ビデオ撮影費として5250円(原告1人当たり2625円),また,結婚式該当部分のDVD作成費として1万2500円(原告1人当たり6250円)になると解するのが相当である。

さらに,原告らが被った精神的損害を慰謝するに必要な慰謝料は,一生に一度の結婚式についてのDVD映像に回復不可能な瑕疵がもたらされている点,それについての被告側カメラマンの義務違反の態様,さらには,本件についての被告の対応なども総合的に評価すると,1人あたり7万円と解するのが相当である。

(2)  なお,原告は,本件結婚式の撮影の部分に債務不履行があれば,本件結婚披露宴の撮影の部分に債務不履行がなくても,結婚披露宴ビデオ撮影費及び結婚披露宴該当部分のDVD作成費を含めて損害が発生したと解するべきであると主張する。

しかしながら,同じDVDの中の映像とはいえ,本件結婚披露宴の撮影の部分に被告の債務不履行は認められず,また,本件結婚披露宴の映像の大部分については本件契約の約定に従った品質の映像であると認められ,しかも,この部分は本件結婚式の映像のうしろにあり,結婚式の映像とは明確に区別できるものであるから,原告の主張のように一体として損害が発生したと解することはできない。

4  結論

以上によると,原告らの本訴請求は,それぞれ7万8875円の支払を求める限度において理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することにして,主文のとおり判決をする。

(裁判官 井手良彦)

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