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東京簡易裁判所 平成16年(少コ)2715号 判決 2004年11月15日

少額訴訟判決

主文

1  被告は、原告から別紙物件目録記載の商品の引渡しを受けるのと引き換えに、原告に対し、金49万6644円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文1項と同旨

第2事案の概要

1  請求原因の要旨

原告は、被告との間で平成16年3月26日締結した商品名Aシステムの業務提供誘引販売契約(以下「本件契約」という。)について、被告会社契約担当者から事前に受けた本件契約の内容に関する勧誘発言が消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供又は同条2項の不利益事実の不告知に該当することを理由に、原告が同月3月24日した本件契約申込みの意思表示を同年11月1日(本件口頭弁論期日)に取り消したと主張し、既払の同システム購入代金49万8750円から同年6月及び7月分報酬2,106円を控除した49万6644円につき、原状回復請求として、原告が被告へ商品を引き渡すのと引き換えに同額の支払を求める。

2  争点

(1)  原告は、被告会社の契約担当者から、下記趣旨の発言による勧誘を受けた否か。これを受けたとした場合、同発言が消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供に該当するか。

原告が本件契約のシステム購入代金を○○リース株式会社(以下「○○リース」という。)から借り受け、同社に返済する支払ローン月2万円分は、本契約における入力の仕事をすることによって確実に稼げるとの発言

(2)  被告会社は、仕事は尽きることなく豊富にあり、暇な時好きなだけでき、希望すればやりたい放題との原告に利益を生じさせるであろう事実を告げた上、本件契約時に発生していた被告の業務委託先であり業務提供会社である株式会社B(以下「B」という。)における報酬支払遅延及び度重なるサーバーの停止のトラブルを知りながら、その事実を原告に対し告知しなかったことがあるか。そのことが消費者契約法4条2項の不利益事実の不告知に該当するか。

第3争点に関する判断

1  争点(1)に関して、原告は、本件契約勧誘時にシステム購入代金を支払うために被告から勧められた○○リースとの金銭消費貸借契約に関し、1か月2万円の分割返済での契約を勧められ、この月2万円の支払分は週2、3日で2、3時間(40時間くらい)業務をこなせば確実に稼げるとの説明を被告会社の契約担当者から聞いていたが、実際に月2万円を稼ぐには100時間くらいの業務をこなさなければならず、原告としては、その月2万円の支払分を確実に稼げるとの説明を信じて、○○リースから上記返済条件で本件購入代金を借り受けた上、被告との間で本件契約を締結したものであって、その申込みの勧誘の際の前記説明は消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供に当たる旨を主張する。

これに対し、被告は、勧誘時に原告主張の断定的判断の説明をした事実を否認し、販売締結書にも「入力1件・1レコード/1.3円」と書いてあるように報酬は入力件数によって変動があり、あくまでも出来高制になっているし、被告の内容説明としては、「Aシステムの業務はメーカーB社より、主にデータ入力として完全出来高制になっており、ご本人のレベル、やる気、打ち込み量、内容によって収入には変動があります。データ入力の打ち込みをすれば打ち込みをした分が収入となり、打ち込みをしなければ収入になりません。」と伝えているのが真実である旨主張する。

2  そこで判断するに、原告本人尋問によれば、①平成16年3月19日金曜日の夕方に、被告会社の契約担当者C(以下「C」という。)から電話で本件契約申込みの勧誘を受けた際、○○リースに対する月2万円の支払分は、週2、3日で2、3時間業務をこなせば確実に稼げるとの説明がされたこと、②同月21日に、業務を開始する前の具体的なトレーニングの内容とか、業務委託先のマスネットからの仕事の提供に関する説明を電話で受けた際にも、原告が確認したところ、Cから月2万円のローン支払分は絶対に稼げるし、更に頑張っている人なら月7万円は稼げるとの話がされたこと、③同月28日午前10時ころにも、○○リースとの金銭消費貸借契約に関して、Cから電話があり、○○リースからそろそろ電話がかかってくるころだが、借入目的は教材のためと答えるよう、同契約書兼借入申込書(甲3)に年収額は220万円(実際は150万円程度なのに)と記入するようになどと指示を受けた際、Cから、この借入金の1か月の返済額2万円に関して「最低でも月2万円は稼げるから、あとの報酬は小遣いにでも自由に使ってください」と言われたことを供述する。そして、④本件契約締結の際に、原告が被告会社の関係者と話をしたのはCとの前記3回の電話による会話であり、他の者とは会ったことも電話で話したこともないこと、⑤本件トラブルが生じて後の同年8月30日に被告代表者Dと電話で事後交渉をした際のやり取りでは、原告としては最低月2万円の収入を保証すると言われたから月2万円の返済条件で○○リースから購入代金を借りようと思い本件契約を締結した旨話すと、Dは、Cはパンフレット(甲2)中に記載のある収入予測の表に従い説明したのではないかと言うだけであり、更に原告が、販売締結書(甲10)第9条(4)によると委託される単価(最低)入力1件・1レコード/1.3円とあるが、実際の仕事は1レコードが約30文字で原告の力では1時間に150レコードが限界であるところ、当時最低単価の1.3円しか扱っておらず、これにより実際業務に携わってみると、パソコンの入力に自信のある原告がどう頑張っても1時間で200円の稼ぎしか得られず、月々の支払額2万円の収入を得るには100時間こなさないとならない旨話したのに対し、Dはのらりくらり応答しているだけであったことを述べる。

3  以上の原告本人尋問の結果によると、3回の電話による勧誘の際のCの説明、発言の内容を具体的に述べており、月2万円の収入確保の話についても、○○リースとの間の金銭貸借(甲3)についての月額返済額に見合うという具体的な証拠(甲3)による裏づけに基づく極めて自然に理解できる内容であって、その供述は信用するに足りるというべきである。被告は、Cによる上記発言を否認し、本人のレベル、やる気に応じた打ち込み量によって収入に変動がある完全出来高制であることを伝えたのみであると主張するが、勧誘の際に、契約担当者がパンフレット(甲2)に掲記の収入予測に従い説明するほか、更に契約の申込みを獲得するため具体的な収入額を保証して勧誘することは一般にあり得えないことではなく、また、月々の支払額の収入確保の可能性に関する原告からの問いに担当者が答え、前記のような発言をするに至ることも自然の流れとして十分推測されるところである。以上の点も併せ考慮すれば、原告本人の供述には信憑性があり、これにより争点(1)の発言があったことを認めることができる。

4  そこで、上記発言が消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供に該当するかの点を検討する。同号は、将来において消費者が財産上の利得を得るか否かを見通すことが契約の性質上そもそも困難である事項(当該消費者契約の目的となるものに関し、将来における変動が不確実な事項)について事業者が断定的判断を提供した場合につき取消しの対象とする旨を規定している。そして、そこに規定する「将来における変動が不確実な事項」としては、「将来におけるその(当該消費者契約の目的となるものの)価額」、「将来において当該消費者が受け取るべき金額」を例示し、更に消費者の財産上の利得に影響するものであって将来を見通すことがそもそも困難であるものをいうとされている。また、「断定的判断」とは、確実でないものが確実であると誤解させるような決めつけ方をいうとされている。

ところで、本件における月2万円は確実に稼げるとの発言は、将来において得るべき収入が不確実な事項につき具体的な金額を示して確実であるとの言い方をしており、上記のとおり定義づけられる「将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項」について、断定的判断を提供した場合に当たると解される。そして、本件では、被告会社のこの断定的判断の提供により、原告はその内容が実現されるであろうとの認識を抱くに至り、この誤認により本件契約の申込みの意思表示をしたものであるということができる。なお、本件契約は、所定のパソコンやソフトを購入し、又はパソコン講座を受講すれば、業者が入力業務を提供、紹介し収入が得られるという内容であり、特定商取引に関する法律51条の業務提供誘引販売取引に該当すること(被告もこの旨自認している(甲9参照)。)、また、本件契約における原告と被告とが、消費者契約法2条に定める「消費者」と「事業者」であることも明らかである。したがって、原告の主張する上記勧誘文言は、消費者契約法4条1項2号の要件に該当するので、この規定を理由とする本件契約申込みの意思表示の取消しを認めることができる。

5  以上によれば、争点(2)について判断するまでもなく、原告の本件契約申込みの意思表示の取消しに基づき、原状回復請求として商品引渡しとの引き換えに本件購入代金の支払を求める本訴請求を認容することができる。

(裁判官 下里敬明)

別紙物件目録

商品名  A(インターネットエントリー版)

商品内容  データ入力CD-ROM1枚

プロテクター1個

操作説明書1冊

セットアップマニュアル1冊

ファーストステップアップマニュアル1冊

Net Entryユーザーマニュアル1冊

以上

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