東京簡易裁判所 平成24年(ハ)15523号 判決 2012年10月24日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請 求
被告は,原告に対し,40万円及びこれに対する平成23年6月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,ホストクラブの被告に対する飲食等代金債権を譲り受けたと主張して,飲食等代金残額120万円のうちの一部40万円及びこれに対する平成23年6月4日(被告が債務承認をした日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求をした事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠を付記した事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 被告は,東京都新宿区a丁目b番c号dビル地下1階所在のホストクラブAで,平成23年1月7日から同月19日までの間に計8回の飲食等のサービスを受け,その代金額は合計で287万8000円(うち1000円は支払済み)である。
(2) ホストクラブAの経営者であるBは,平成23年6月1日ころ,原告に対し,上記飲食等代金の残額287万7000円の債権を譲渡し,Bは,被告?に対し,上記債権譲渡の通知をした(甲1)。
(3) 原告と被告は,平成23年6月3日,債務額を240万円とし,毎月10万円の分割弁済をするという債務弁済協定をし(甲2),その後,被告は原告に対して120万円を支払った。
2 争点及び当事者の主張
(1) 債権譲渡契約の効力
(被告)
原告が,ホストクラブAから飲食等代金債権を譲り受けた行為は,弁護士法73条に違反するため,本件債権譲渡契約は無効である。
(原告)
原告がホストクラブAから飲食等代金債権を譲り受けるのは,民法で認められた正当な行為である。
(2) ホストクラブAでの飲食等契約は民法90条により無効か。
(被告)
ホストクラブAの請求伝票によると,1本当たり20万円や40万円ものシャンパンボトル代と推測される記載がみられ,またホストクラブAでの飲食代が8回で合計287万8000円であり,1回平均で約36万円にもなる。このような飲食等契約は暴利行為に該当し,適正額を超える部分は,民法90条により無効である。
(原告)
ホストクラブや銀座のクラブ等では,1本100万円以上もするボトルがおいてあるのが普通で,1本20万円や40万円程度のボトルの価格や,1回あたり約36万円の飲食等代金が高額すぎて暴利行為にあたるということはない。
第3争点に対する判断
1 債権譲渡契約の効力(争点(1))について
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ア 弁護士法73条の趣旨
弁護士法73条は,「何人も,他人の権利を譲り受けて,訴訟,調停,和解その他の手段によって,その権利の実行をすることを業とすることができない。」と定めている。
「弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士でない者が,権利の譲渡を受けることによって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあるものと解される。このような立法趣旨に照らすと,形式的には,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても,上記の弊害が生ずるおそれがなく,社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には,同法73条に違反するものではないと解するのが相当である(最高裁第三小法廷平成14年1月22日判決民集56巻1号123頁)。」また,同最高裁判決は,社会経済的に正当な業務の範囲内にあるか否かの判断の際には,当該債権(判例の事案はゴルフ会員権)の売買が日常的に行われる市場が存在していることや,債権の譲受けの方法・態様,権利実行の方法・態様,上告人の業務内容やその実態等を総合的に審理して決すべきとしている。
イ 業務性
前記判例の説くところに従って,本件債権譲渡契約の締結が弁護士法73条に抵触するか否かについて検討する。
まず,原告による本件債権譲渡契約締結行為の業務性についてであるが,「業とする」とは,反復継続して行うことであり,反復継続の意思があれば,1回だけの行為でも業として行ったことになると解されている。原告が,当庁だけで,平成22年以降に限っても,年間10件以上の譲受債権請求の訴えを提起しているという事実が当裁判所に顕著であること,原告が,本件と?は別のホストクラブの債権を譲り受けて被告に請求していること(乙2の1,2,3)からすると,原告が他人の権利を譲り受けてその権利の実行をすることを業としていて,本件債権譲渡契約締結もその一環であるという事実を容易に認めることができる。
ウ 債権譲渡の方法・態様
主張立証責任については,反復継続した債権譲受行為が存在すれば,一応,弁護士法73条違反と認められ,それを争う側で,債権譲渡が社会的経済的に正当な業務の範囲内にあることの主張立証をしなければならないと解するのが,判例の趣旨に沿うものと考えられる。したがって,債権譲渡の方法・態様が社会的経済的に相当なものであることの主張立証責任は原告の側にある。
この点について,原告は,「Cから経営相談で良い店舗,人探し,ホストと客の調査,インターネットを使った広告,雑誌への広告等の相談を持ち掛けられていました。そのCからの頼みにより,支払いの代わりに質の悪い客の債権の譲渡を税金処理のため,原告は受けていた。これは,Cが取れない債権を早く処理する事により税務上の特典があります。また原告に現金を支払わなくても良いのですから,二重に利益があります。このような理由から原告は仕方なく受けたのでした。(訴状の記載より)」と主張するのみで,具体的にいかなる方法・態様で債権を譲り受け,譲渡代金がいくらだったのか,回収した飲食等代金の帰属等について,裁判所からの求釈明にもかかわらず明らかにしない。
エ 権利実行の方法・態様
また,権利実行の方法,態様に関しては,法的には何らの責任を負わない被告の母親にまで,手紙を送付したこと(乙1の2),被告が被告代理人弁護士に依頼し,被告代理人から被告本人への接触をやめるように要請された後も,値引分47万8000円も併せて請求する旨の手紙を郵送しているこ?と(乙4),同手紙の中で,本来本人尋問の実施は裁判所が決定すべきことなのに,「3つの裁判では被告に3回本人尋問に来て頂きます」等と被告に対し,心理的圧力をかけるような記載をしていること等の事実を認めることができる。
原告の権利実行の方法・態様は,社会的相当性の範囲を逸脱した威圧的・脅迫的なものであったといわざるを得ない。
オ 原告の業務内容
原告の業務内容の実態は必ずしも明らかでないが,原告が被告の母親宛の手紙に同封してきた「困り事相談」と題する書面(乙1の1)には,「過払い金訴訟。着手金1万円,返還金の20%です。」,「マンションの敷金,保証金についても・・・裁判所の費用と私への報酬は30万円で4万円,60万円で4万5000円,90万円で5万円です。」,「裁判所に特定調停を申し出れば良い。債務が1億円以下の場合には,裁判所と私の報酬で10万円です。1億円以上の場合は15万円です。」,「離婚訴訟は金16万円(裁判費用と私への報酬)です。ただし,6ケ月後に未解決の場合は1ケ月に3万円。」,「その他,銀行融資等,交通事故,民事訴訟等の相談も」等の記載がある。
これらの記載は,原告が,弁護士法72条によって禁止されている一般の法律事件に関する法律事務を取り扱うことを業としているのではないかという疑いを強く抱かせるものである。
カ 上記1のイ,ウ,エ,オの各事実を前提とすると,前記判例の基準によれば,本件債権譲渡契約が社会経済的に正当な業務の範囲内にあるとは到底認めることができないので,原告の本件債権譲渡契約締結は,弁護士法73条に抵触する行為であるということになる。
そして,弁護士法73条は,弁護士法72条と同様,公益を目的とする規定であり,同条に違反する行為が処罰の対象とされている(同法77条)こ?とからすると,同条に違反する債権譲渡は無効であると解するのが相当である。
2 結論
原告の本件債権譲渡契約締結が無効なので,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないことになる。
よって,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所民事第3室
裁 判 官 篠 田 隆 夫