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東京簡易裁判所 昭和30年(ハ)249号 判決 1956年8月21日

原告 大野宗次郎

右代理人弁護士 竹内忠

被告 国弘ヒサヨ

被告 国弘俊太郎

被告 国弘康子

主文

被告等は原告に対し金十万円及びこれに対する昭和三十年三月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金円を支払わなければならない。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は全部被告等の負担とする。

此判決は勝訴の部分に限り原告に於て金三万円の担保を供して仮りに執行することができる。

事実

原告は被告等は原告に対し金十万円及びこれに対する昭和二十九年十二月二十六日より完済に至るまで年五分の割合による損害金を支払え、との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として原告は国弘寿一に対し昭和二十八年六月末に金十万円を貸渡したが同人は其後何等の支払をしないから交渉の結果昭和二十九年十二月二十五日交渉まとまり昭和三十年一月より毎月末日金五千円宛分割して支払うこと。その支払を二回以上怠つたときは期限の利益を失うことを約し被告国弘ヒサヨは右支払につき連帯保証した。

然るに債務者国弘寿一は昭和三十年三月六日死亡し被告国弘俊太郎同国弘康子は相続人として右債務の承継者となつたから被告等に対しその支払を求めるため本訴請求に及んだ、と述べ証拠として甲第一、二号証を提出し、証人菱見昌弘の証言並に原告本人の供述を援用し、乙第一号証の成立は認める、と答えた。

被告等は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として国弘寿一が昭和三十年三月六日死亡により被告等がその相続人となつたことは認めるが原告と国弘寿一間の金円貸借弁済契約をしたことは知らない。被告国弘ヒサヨがその貸借返済につき連帯保証をしたことは否認する。

国弘寿一は他に債務を残して死亡したので被告等は昭和三十年六月二日東京家庭裁判所に相続放棄の申述をなし受理せられたのであるから原告の請求に応ずる義務はない旨述べ、証拠として乙第一号証を提出し甲第一号証の成立並に甲第二号証中の借主名下の印影が借主の印章を押捺したものであることは認めるが連帯保証人の署名捺印部分は否認する、と答えた。

理由

国弘寿一が被告国弘ヒサヨを妻とし被告国弘俊大郎を養子とし、被告国弘康子を長女とする者であるところ昭和三十年三月六日死亡し相続開始したことは成立に争のない甲第一号証によつて認められる。

而して亡国弘寿一が生前原告に対し昭和二十九年十二月二十五日借用金十万円につき昭和三十年一月より毎月末日金五千円宛割賦弁済すること、割賦金の支払を二回以上怠つたときは期限の利益を失い一時に残額支払をなすべきことを約したことは借主名下の捺印部分につき成立に争のないことと原告本人の供述とにより借主国弘寿一と原告間に真正に成立したと認むべき甲第二号証によつて認められる。

被告等は被相続人国弘寿一に対する相続権放棄申述が東京家庭裁判所に於て昭和三十年六月十六日受理されたのであるから支払義務はないと争うのであるが被告等の右相続放棄の申述が昭和三十年六月十六日東京家庭裁判所に於て受理せられたことは成立に争のない乙第一号証によつて認められるのではあるけれども相続の抛棄は積極財産に認められてある制度にして消極財産である債務の承継を放棄できる法意ではないことは民法第九百四十条の規定のあること並に相続財産の限度に於て被相続人の債務を弁済することができるという相続につき限定承認の制度が設けられてあることから解し得られるところである。若し相続の放棄によつて被相続人の債務の承継を免れることができるものであるとするならば相続の限定承認の制度は無意味に帰する。被告等の相続放棄の申述はその手続を誤まつたので今日の状態に於ては如何ともすることはできない。被告等は原告に対し民法第九百二十一条第二号により債務者国弘寿一の共同相続人として被相続人の債務を承継負担して居るものと認める。

原告は被告国弘ヒサヨは連帯保証人としても本件債務支払の責任があると主張するけれども同被告の否認するところであり原告の立証によつては同被告が連帯保証したことは認められないから採用しない。

被告等が原告に対し被相続人の負担していた金十万円の債務を相続により承継負担していることは前示の通りであるが前示認定の通りその債務は昭和三十年一月から毎月末日金五千円宛割賦弁済すること、割賦金の支払を二回以上怠つたときは分割支払の利益を失い残額一時に支払う定めである。原告本人の供述によると被告等の被相続人は一回も割賦弁済金を支払つていないことが認められるから昭和三十年二月末日限り分割支払の利益を失つたのであるものと認める。

従つて右金十万円に対しては昭和三十年三月一日から損害金は請求できるわけである。

然るに原告は昭和二十九年十二月二十六日を損害金の起算日として年五分の請求をしているがこれは過当であると認めるから昭和三十年三月一日以降の損害金請求部分を理由ありと認めその余の損害金請求部分は理由なしと認めて棄却する。

仍て訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を、担保を条件とする仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 津村康)

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