東京簡易裁判所 昭和39年(ハ)158号 判決 1965年7月15日
原告 佐藤今朝次郎
被告 関東プレハブ株式会社
主文
被告は原告に対し金三一〇一四円を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は三分しその一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
本判決は一万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事実
第一、原告は「被告は原告に対し金五〇四八二円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として
「一、原告は被告から左記の条件で雇用され、昭和三八年八月一〇日から勤務し、工事現場の監督を担当した。
記
労務に服する時間は午前八時半から午後六時まで。
日曜祭日は休日。
月給は三五〇〇〇円
現場手当金、月に三五〇〇円
一年につき七月一二月の二回に定期賞与金として一ケ月分の給料相当額を支給する。
他に一ケ年の収入によつて年二回の賞与金を増額支給すること。
を労働条件とする。
二、(1) 原告は昭和三八年八月一〇日から同年一一月三〇日の間に通常の勤務に出るべき日以外に日曜祭日に被告の命により勤労しその日数は一四日であり、従つてこれに対する賃金は、一ケ月三八五〇〇円の割合によつて一七九六二円になり、これに労働基準法第三七条による最底基準の二割五分の割増賃金を加算した二二四五二円であり、また同期間に被告の命により時間外労務に服し、その時間は全部で一五九時間であつたからこれに対する賃金は一ケ月三八五〇〇円として一ケ月を三〇日、一日を八時間として一時間一六〇円となるので計二五四四〇円となる。
(2) 被告は原告に対し昭和三八年一一月三〇日解雇を通知し、同日予告手当を支払つた。
交通費は月額六〇〇円の支給を受けていたが実際はそれで足りなかつた。
よつて昭和三八年一二月分の通勤定期代一一九〇円のうち支払を受けた六〇〇円を控除した金五九〇円を請求する。
それに就職の際、ずつと勤めてくれということで三八年八月に故郷の家事を整理するための帰郷費片道一〇〇〇円および解雇後帰郷する山形県新庄市までの帰郷旅費片道一〇〇〇円計二〇〇〇円は被告の負担すべきものである。
よつて原告は被告に対し前記合計金五〇四八二円の支払を求める。」と述べ
被告の主張に対し
「被告主張のような現場手当の支給を受けたことは認める。しかしその趣旨は、現場監督には苦労が伴うから現場手当が出ることになつていたものであつて、時間外手当の意味を含まない。」
と述べた。(立証省略)
第二、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、
答弁および被告の主張として
「一、請求原因事実第一項は認める。
二、同第二項は予告手当を支払つて即日解雇したこと及び、交通費として月額六〇〇円を支給していたこと、一二月分の交通費も支払つたことを認め、その余を否認する。
三、仕事の性質上、若干勤務時間が延長することもあるので現場手当として時間外手当の意味をも加えてつけていたものである。従つて、その他に時間外手当を請求できない。尚現場手当は別表記載のように支払つている。
休日出勤は原告自身の現場主任としての自発的勤務であり、被告が命じたことはない。」
と述べた。(立証省略)
第三、当裁判所は職権で原告本人を尋問した。
理由
一、原告が被告から、労務に服する時間は午前八時半から午後六時まで、日曜祭日は休日、月給は三五〇〇〇円、現場手当金月額三五〇〇円として雇用されたことは当事者間に争いがない。
二、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第一号証の一、二および成立に争いのない甲第三号証および証人荒木健雄の証言(第一回)および原告本人尋問の結果によると、原告は勤務すべき日以外である休日、祭日に出勤し、その日数は別表一記載のように昭和三八年八月二五日から同年一一月二四日までの間計一四日であり、昭和三八年八月一三日から同年一一月三〇日までの間の時間外労働時間は別表一記載のように計一五九時間であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
原告は右は被告の命令によるものと主張し、被告はこれを争い被告は仕事の性質上若干勤務時間が延長することもあるとして、現場手当を時間外手当としてつけたものであり他に休日労働分や超過勤務として請求するのは失当であると主張するので判断するに、右休日労働あるいは超過勤務について、個々の場合に個々的にその命令が出されたとする原告本人尋問の結果は、証人荒木健雄の証言(第一、二回)と対比して、にわかに措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はないが、証人荒木健雄の証言(第二回)によると被告は時間外勤務を命じたり、日曜休日に出勤するように命ずることはなかつたが、しかし、被告は工事を請負う場合、日曜祭日の返上あるいは時間外労働をしなければならない仕事を請負うことがあつたこと、その場合でも被告は原告に対し期間内は責任をもつて工事するようにいつたこと、そして残業手当は出さないのでその苦労も考えて現場手当を支給していることが認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は同証言に比して措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。
ところで休日労働あるいは超過勤務の命令は、個々の場合に一々命ずることを必ずしも必要とするものではない。休日労働あるいは超過勤務をしなければできない仕事を期間内にするように命ずることも暗黙にこれを命じたものと認めざるをえない。
そうすると、原告が右のように休日労働をし、あるいは超過勤務をしたのは被告の命によるものであるから、被告はその対価を支払わねばならない。
ところで前記事実から現場手当の性格を分析すると、現場手当は、現実の時間外もしくは休日労働が少い時でもその割り戻しは求めず、その分は現場の苦労に対する報償金としての性質を持ち、他方時間外もしくは休日労働の方が多い時には、現実の時間により計算した額が現場手当を超えるようになつても、この差額は労働者に事前に放棄して貰うこととし、もつて労務管理を簡便化しようとするものと考えられる。かような契約は労働者に有利な部分は無効ではないが、労働者に不利な部分即ちかような差額を放棄する特約は、労働基準法第三七条が労働時間を一日八時間とし、それを超える時間の労働をさせ、あるいは休日に労働させた場合は通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を払わねばならないと定めこれに達しない契約は同法第一三条により無効とされることにより、無効と解さざるをえないのであつてその差額分について、使用者は支払いの義務がある。そして右差額の計算は月給制にあつてはその月別に計算すべく、被告会社の給与計算が二五日締切でなされているので同じ区切りで計算することにする。
ところで時間外手当あるいは休日給の支払についての基準額は、現場手当が右のような性質のものである以上これを考慮にいれないで計算すべく原告の月給は三五〇〇〇円であるから一月を三〇日、一日を八時間として計算すると一日当りの賃金は一一六七円、これに労働基準法第三七条によつて同法所定による最底基準の二割五分の割増賃金を付加すると一日当り一二八四円となり、又一時間当りの賃金は一四六円である(これは割増賃金を払うべき性質なるも請求がないので請求の範囲内で判断する。)ところで前認定のように時間外労働時間、勤務すべき日以外の休日、祭日に働いた日数は別表のとおりであるからこの数値を別表にいれて計算し、その各数値から被告が原告に支払つたこと当事者間に争いがない別表記載のとおりの現場手当金をそれぞれ控除し、それを合計すると三一〇一四円となる。
よつて原告は被告に対し右三一〇一四円を未払の時間外手当および休日労働賃金として請求しうることになる。
三、次に被告が原告に対し昭和三八年一一月三〇日に解雇通告をし予告手当を支払つたことは当事者間に争いがなく、そうすると同日解雇となつたものと認められる。
原告は一二月分の定期乗車券の代金として一一九〇円から既に支払いを受けた六〇〇円を控除した五九〇円を請求するが、交通費の実費を被告が負担する約束のあつたときは格別、交通費として毎月六〇〇円を支給されていたことは当事者間に争いがないことからみれば実費のいかんにかかわらず六〇〇円を支給することになつているものと推認され、すると一二月分の交通費六〇〇円も受領していることは自認しているのであるから、その上に五九〇円を請求する根拠は認められず右請求は失当である。
四、次に山形県新庄市までの往復乗車賃を請求するが、被告がこれを支払う旨約束していた場合は格別これを被告に対して請求しうる根拠がないから本請求も失当である。
五、そうすると原告の本訴請求は、被告に対して時間外手当及び休日労働の賃金として金三一〇一四円の支払を求める限度においては理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 浅田潤一)
(別表)
期間
勤務すべき日以外の休日、祭日に働いた日数
時間外労働時間
現場手当金支給額
昭和三八年八月一〇日から同月二五日
一日
二八時間
二二二三円
同年八月二六日から同年九月二五日
四日
三三時間三〇分
三五〇〇円
同年九月二六日から同年一〇月二五日
四日
三〇時間三〇分
三一五九円
同年一〇月二六日から同年一一月二五日
五日
六〇時間
三五〇〇円
同年一一月二六日から同月三〇日
なし
七時間
二三四円