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東京高等裁判所 平成元年(ネ)1177号 判決

次に、控訴人は、請求原因7において、被控訴人には、本件代理受領契約を承認した当時、被控訴人が訴外会社に対して本件反対債権を有すること、従って、被控訴人において、本件反対債権を自働債権とし、本件請負代金債権を受働債権として相殺の意思表示をする可能性のあることを控訴人に告知すべき義務があったところ、被控訴人が右義務を怠ったことは不法行為に該当する旨主張する。

しかしながら、被控訴人が本件代理受領契約を承認するに際し、被控訴人に右主張のような告知義務があったとの点については、これを肯定すべき法律上の根拠が見出しがたいのみならず、前記委任状の文言からみても、これを認めることはできないものといわなければならない。

更に考えるに、代理受領契約とは、受任者が、委任者に対して有する債権を担保する目的で、委任者から、委任者が第三債務者に対して現に有し、又は将来取得する債権を、委任者の代理人として取り立てることの委任を受ける旨の契約をいうのである。そこで、第三債務者は、右目的を知ってこれを承認した場合には、その承認の効果として、右契約の対象となった自己の債務を受任者に対してのみ弁済すべきであり、委任者に対して弁済してはならないという拘束を受けることになるが、しかし、第三債務者は、右承認の効果として格別の利益を受けるわけではないから、関係当事者間で特約がなされた等の特段の事情がない限り、右拘束以上の不利益を当然に甘受しなければならない理由はないというべきである。従って、第三債務者が委任者に対して有する債権を自働債権とし、代理受領契約の対象となっている債権を受働債権とする相殺についても、関係当事者間でこれを禁止する旨の特約がなされた等の特段の事情がない限り、第三債務者は、これを有効になし得るものであり、受任者も、それによる危険負担を覚悟すべきものである。従ってまた、第三債務者としては、代理受領契約の承認の際に、受任者から、右相殺の問題に関し説明を求められた場合は格別、そうでない限り、委任者に対する反対債権の存否や、それによる相殺の可能性の有無等を自発的に受任者に告知する義務は負わないものというべきである。

そして、証人小野沢義博、同田沢政信及び同内田紀昭の各証言によれば、本件代理受領契約の承認については、関係当事者間で右に述べたような相殺を禁止する旨の特約がなされた等の特段の事情もなければ、その承認の際に、第三債務者が受任者から右相殺の問題に関し何らかの説明を求められたこともないことが認められる。

そうすると、本件代理受領契約の承認の際に、被控訴人に前記のような告知義務があったことを前提とする請求原因7の主張も採用することができない。

(奥村 前島 富田)

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