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東京高等裁判所 平成元年(ネ)2034号・平元年(ネ)991号 判決

二1 ところで、被控訴人らは、法典高校の藤浪教諭及び久保木校長には、同校の美術の校外写生授業の際、生徒が自転車で本件公園等へ出掛けることを禁止すべきであり、もしこれを許可するのであれば、特別の注意を払って生徒を引率、監督すべき義務があったところ、右両名がこの義務を怠った過失により、本件事故が発生した旨主張している。そこで、以下、この主張の当否について判断する。

2 まず、前記認定の事実関係に基づき、右判断の前提条件となるべき問題点を要約、列記すると、次のとおりである。

(一) 本件事故は、三浦が、自転車の乗入れの禁止されている本件公園内に自転車を乗り入れ、平坦で比較的に見通しのよい本件遊歩道上において自転車を運転して進行中、自転車の運転者としては最も初歩的な注意義務である、前方注視義務及び事故回避義務を怠った過失によって発生した事故であることは明らかである。従って、本件事故は、通常の責任能力のある通常人が通常の注意をもって自転車を運転している場合には、通常発生することの考えられないほどの事故であったというべきであるから、その事故の発生当時高校二年生で、自転車の運転等に関し後記(三)のごとき知識、経験等を有する三浦に対しては、このような事故の発生を防止するについて、格別の指導、監督措置を必要とするほどのものではなかった。

(二) また、本件事故は、法典高校の美術の校外写生授業の時間中に、同校生徒であった三浦の前記過失によって発生した事故ではあるが、その性質、態様等から見て、学校における校外写生の授業に当然に又は通常随伴して発生する事故であるとは解し得ない。しかも、法典高校では、本件事故発生時までの間に何回も、本件公園等で校外写生の授業を実施し、その際生徒に現場への往復のため自転車の使用を認めたことがあるが、これまでに本件事故のごとき自転車と歩行者との衝突による人身事故が発生したことは一度もなかった。

(三) 三浦は、本件事故発生当時、成年者にほぼ匹敵する責任能力を有すると認められる高校二年生であり、しかも、小学校一年生のころから自転車の運転を始め、法典高校へも入学以来自転車で通学しており、これまでに一度も交通事故を起こしたことはなかった。従ってまた、同人は、本件事故発生当時、自転車の運転及びそれによる交通事故発生の防止措置等については十分な知識と経験を有したものと推定される。そして、右事実と、本件公園内への自転車の乗入れ禁止の規制は同公園の入口に設置された立札に明示されていたことからすれば、三浦については、藤浪教諭等からの特別の注意がなされなくても、右自転車の乗入れ禁止の規則を当然に遵守することが十分に期待し得たものと解すべきである。

(四) 更に、法典高校では、昭和六〇年当時、全校生徒の約六五パーセントが自転車通学をしていたことから、年二回全校集会等で自転車の運転に関する交通安全教育を行うとともに、年三回自転車の整備状況についての点検をも実施し、自転車の運転による交通事故の発生を防止するための教育、指導を行っていた。また、藤浪教諭も、本件の校外写生授業の開始にあたり、三浦を含む二年生の生徒一同に対し、現場への往復の途中自転車の二人乗りをしないこと、自動車との接触事故を起こさないよう気をつけることなど、自転車の運転による交通事故の発生を防止するための注意を行っていた。そうすると、法典高校では、同校の生徒に対し、交通事故の発生防止に関する一般的な教育、指導又は注意はかなり熱心に行っていたものということができる。

(五) なお、法典高校における美術の校外写生授業は、学校内外の五か所位の中から生徒が自由に選択した場所で、しかも、担当教諭の巡回、監視も十分でないところで行われるものであったから、生徒の中には、解放感から、授業時間中も、写生に専念せず、自転車に乗るなどして遊びに耽る者も出ることは十分に予想されたが、そのことから直ちに、生徒が、授業時間中に、本件公園内等で自転車を運転して、本件事故のごとき人身事故を起こすことまで予想し得たと解することは困難である。

3 右2で要約、列記したところを総合して考察すると、法典高校の藤浪教諭及び久保木校長には、本件事故の発生を防止するためには、三浦を含む同校の生徒に対し、交通事故の発生防止に関する前記認定のごとき一般的な教育、指導又は注意を行っただけでは足りず、更に被控訴人らの主張するごとく、美術の校外写生授業の際には、生徒が自転車で本件公園等へ出掛けることを禁止すべきであり、もしそれを許可するのであれば、特別の注意を払って生徒を引率、監督すべき注意義務があったとまで解することはできないし、また、その他に本件事故の発生防止のために必要な特別の注意義務があったとも解することはできない。却って、本件事故は、専ら、三浦が、事故発生の現場において、自転車運転者としては、最も初歩的な注意義務である、前方注視義務及び事故回避義務を怠った過失によって発生したと解すべきであって、藤浪教諭及び久保木校長には、その発生と相当因果関係があると認められる職務上の過失はなかったものと解するのが相当である。従って、本件事故の発生につき、右両名にも職務上の過失があったという被控訴人らの主張は、結局、採用することができない。

(奥村 前島 富田)

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