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東京高等裁判所 平成元年(ネ)590号 判決

1 まず、退職慰労金支給決議の存否及びそれが会社債権者を害する性質の行為であるかどうかについて検討する。

抗弁1の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一ないし第四号証(乙第二八号証は乙第四号証と同一のもの)、第五号証の一、二(甲第一号証の原本は乙第五号証の一の廃棄処理前のもの)、第六号証、第八号証、第二三、二四号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一四号証、第一六、一七号証(乙第二六号証は甲第一六号証の原本と、乙第二九号証は甲第一七号証の原本とそれぞれ同一のもの)、乙第七号証、原本の存在について争いがなく、原審における控訴人喜安本人尋問の結果によりその成立の認められる甲第一〇号証、原本の存在について争いがなく、原審証人傅田昭壽の証言によりその成立の認められる甲第一一号証、同証言により原本の存在及び成立の認められる甲第二号証、同証言により成立の認められる乙第一〇号証、第一二号証、第一六号証、原審証人片岡祥浩の証言により成立の認められる乙第一三ないし第一五号証、第一七号証の一ないし四、第一八号証の一ないし一九五、第一九号証の一ないし三〇、第二〇号証、第二二号証の一ないし一二、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第一一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二一号証の一の一、五及び六、右喜安、傅田、片岡の各供述、原審証人鹿野直助の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実を認めることができ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

(一) 中道機械は、創業以来約三〇年間にわたって控訴人喜安が代表取締役に就任してきたが、昭和五二年には同控訴人の実弟中道喜治(以下「喜治」という。)が経営する中道機械株式会社と合併し、喜治が代表取締役社長に、控訴人喜安がそれまでその役職のなかった代表取締役会長にそれぞれ就任して経営態勢の立直しが図られた。しかし、右経営態勢は順調に機能せず、しかも喜治と控訴人喜安との間柄が次第に冷却離反状態となり、同控訴人は合併の解消をもくろむに至ったが、中道機械の最大の取引先であり、これを援助してきた株式会社日本製鋼所(以下「日本製鋼」という。)の意向も働いて、控訴人喜安は、かえって窮地に陥り、不本意ながら昭和五五年末ごろ代表取締役会長の地位を辞任することを決意した。そして、昭和五六年六月一八日の定時株主総会終了と共に任期満了により退任した。

(二) 中道機械は、前示のとおり同日の定時株主総会において控訴人喜安の退職慰労金支給に係る決議をしたものであり、その際、黙示的にその支給基準は役員の退職慰労金に関する社内規定に準拠すべきものとされた。これより先、控訴人喜安と喜治とは同控訴人に支払われるべき退職慰労金の額について交渉を行い、それまでに、右両者の間において、前記社内規定に基づきその額を九九五〇万円とすることで大筋の合意が成立しており、日本製鋼から出向していた取締役もこの合意を了承していた。しかしながら、中道機械の第三一期事業年度(昭和五六年三月期)の決算においては損益計算書上六億九八九三万九八五二円の経常損失を計上しながら、財務諸表作成上の継続性の原則に反して割賦販売未実現利益の取崩益六億七五五一万三一六七円を計上し、これを含めて特別利益七億四二五六万五九二二円を上げたこととして税引前当期利益四一一六万八一四八円を出していたのであるが、実質的には大幅な赤字決算であったから、喜治らは右退職慰労金の支払を翌期に行おうとして控訴人喜安と交渉した。それに対して同控訴人は一時は難色を示したものの、結局これを了承し、右支払の担保となる手形の振出を求めたので、中道機械は、同年七月一〇日の取締役会で、同控訴人に対し、退職慰労金九九五〇万円を支給し、その方法として満期昭和五七年四月一日の約束手形を交付する旨の決議をするとともに、喜治は、昭和五六年七月三一日金額七〇九二万〇八〇〇円(九九五〇万円から源泉徴収すべき税金等を控除した金額)、満期昭和五七年四月一日の約束手形一通を作成し、右取締役会の議事録の写(甲第二号証)と共に控訴人喜安に示した上、右約束手形及び議事録写を札幌在住の同控訴人らの兄弟に当たる中道昌喜に保管させた。しかし、前示のとおり中道機械は経営不振に陥っていたから、喜治は、右退職慰労金の支給を会社の負債として計上することは経理処理上適当ではないと考え、これを明らかにすることを避け、先送りの形にすることを図った。そのため右退職慰労金の額及び支給についての決定や右約束手形の作成については、会社内でも役員以外の者には内密にし、経理の担当者にも知らせなかったので、会社の経理上の処置は執られなかった。

(三) 中道機械の第三二期事業年度(昭和五七年三月期)の決算においては、五億五七五〇万二八三七円の経常損失、五億三五七一万六二八八円の税引前当期損失を計上するに至り、同社の経営状態が好転しないので、その決算の内容がほぼ明らかとなった昭和五七年二月一九日の取締役会において控訴人喜安に対する退職慰労金の額の決定を改めて後日に持ち越す旨の決議をした。喜治は、会社の財務内容が悪化しており、会計監査人の公認会計士からも、定時総会前にそのような額の退職慰労金を支払えば、監査にあたってその不当を指摘せざるをえない旨の意見が述べられたので、控訴人喜安に対して右支払を更に一年延期してほしい旨懇請したが、同控訴人が承諾しなかったため、その支払を同年六月一八日の定時総会の終了後に行うこととした。そこで、中道機械は、正規の会計上の処理をする必要上、改めて同月一七日の取締役会において、右退職慰労金の額を九九五〇万円とし、同月二一日に現金で支払う旨の別紙目録記載の決議をした。

右事実によれば、中道機械取締役会の決議に係る控訴人喜安に対する退職慰労金の支給決定は昭和五六年七月一〇日にされたものである。昭和五七年六月一七日にも同趣旨の取締役会決議がされているが、このことは前示の経緯に徴すると、昭和五六年の決議を再確認し、支給期日等を定めたものにすぎず、右決議の効力を左右するものとはいえない。したがって、右昭和五七年の決議はその性質上なんら会社債権者を害するものではない。のみならず、仮に本件否認が右決議で再確認された昭和五六年の決議を対象としているものと解するとしても、株式会社の役員が受ける退職慰労金は、一般的にはその職務遂行に対する対価の一部たる性質を有するものであり、具体的にその金額を定めて支給を決定する行為それ自体は、少なくともそれが社内規定等の一般的基準に基づいてされ、金額的にも特に不相当なものでない限り、会社債権者を害する性質のものということはできない。むしろ、相当な額の退職慰労金の支給を受けることは役員の正当な権利であるから、更正手続においてこれを他の会社債権者の債権と平等に取り扱うことが公平の原則に合致し、相当というべきである。そして、前示の事実からすると、控訴人喜安に対する退職慰労金額が不当なものということはできない。そうだとすると、その余について判断するまでもなく、右昭和五六年の決議が会社更生法七八条一項一号に該当するとする被控訴人の主張は理由がない。

被控訴人は、前記退職慰労金支給決定は同条一項四号にも該当すると主張するが、前示のとおり昭和五七年の決議は昭和五六年の決議を再確認したものにすぎず、また、昭和五六年の決議は中道機械の更正手続開始の申立てより一年以上前にされたものであるから、その余の点について判断するまでもなく、右主張も理由がない。

(丹野 加茂 河合)

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