東京高等裁判所 平成元年(ラ)596号 決定
疎明資料によれば、抗告人は、一九回総会の終結まで相手方の取締役であったことが認められるところ、抗告人は、一九回総会の取締役選任決議は不存在・無効であるから、相手方には取締役が一名も存しなくなり、したがって、抗告人は商法二五八条により相手方の取締役としての権利義務を有する旨主張する。
しかしながら、株主総会や決議が全く存在しないか、外形上は存するものの、法的には不存在と評価すべきほどの著しい瑕疵が決議の成立過程に認められる場合は格別、それに至らない場合には、取締役選任にかゝる株主総会決議の不存在または無効の確認判決が確定するまでは、その選任にかゝる取締役は、商法二七〇条一項に基づく仮処分によりその職務執行が停止される場合を除き、職務執行の権限を喪失することはなく(この結論は、株主総会決議無効確認の訴えの性質を確認訴訟と解するか否かによって、左右されるものではない。)、したがって、右決議にかゝる選任により、相手方において法律・定款に定められた取締役の員数が充足されている以上、右判決確定前の段階においては、商法二五八条一項にいう「取締役ノ員数ヲ欠クニ至リタル場合」には、未だ当たらないというべきである。商法二五八条は、取締役の退任により、法律又は定款に定められた取締役の員数を欠くに至った場合に、業務執行上の不都合ないし混乱を避けるために規定されたものであり、商業登記上も、その趣旨に沿った取扱がなされているところ、右のように株主総会の選任決議により取締役の員数が充足している場合にまで同条一項により退任取締役に業務執行権を認めることになれば、却って株式会社の業務執行に混乱を来して右規定の趣旨に反することとなり、また公示の点においても問題の生じることは明らかである。
本件においては、一九回総会が、代表取締役として選任されその旨登記された者によって、取締役会の総会開催決議に基づき招集され開催されたこと、本件取締役選任決議が右総会において現になされたことは、疎明資料により一応認められ、抗告人もほぼ自認するところである。したがって株主総会及び決議と目すべきものが存在するというべきところ、右総会や決議を不存在とまで評価すべきほどの著しい瑕疵が、その成立過程・態様に存すると認めるべき疎明資料はない。したがって、抗告人が商法二五八条により、一九回総会後も相手方の取締役としての権利義務を有する地位にあるということはできない。
(枇杷田 喜多村 松津)