東京高等裁判所 平成元年(行ケ)125号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第四号証(昭和六二年三月二七日付け手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。
本願発明は、撮影者の意図によつて、測光値から決定された絞りと露出時間の組合わせを変更するプログラムシフトを可能としたプログラムシヤツター装置に関するものである(補正書第一頁第八行ないし第一四行)。
写真機に関し、近年は露出制御の自動化に対する種々の試みが行なわれており、その一つとして撮影者の意志によりフイルム感度のみを定めておき被写界輝度に応じて予め定められている露出時間と絞り値の組合わせを選択するいわゆるプログラムEE方式があるが、右方式は、被写体輝度によつて露出時間と絞り値とが一つに決まつて撮影者の意図が反映されないことから、最長露出時間とレンズの開放絞りとを原点とし、この点を傾きの異なる幾つかのプログラム線(被写体輝度に対する絞りと露出時間との関係を示す線)から撮影者が自己の意図する露出条件に近いものを選択できるようにした方法が提案されている。しかし、右方式の装置では、撮影者が絞り値、あるいは露出時間を設定するのではなく、且つプログラム線の傾斜の変更の前後における絞りと露出時間の変化量は被写体輝度の明暗に応じて変化するから、プログラム線の傾斜を変えようとするとき、絞り値がいくらになるか、あるいは露出時間がいくらになるかを正確に知ることは勿論、およその値を予測することもできず、所望の絞り値、あるいはシヤツター速度で撮影したいという撮影者の要望を満たすことはできなかつた。また、右方式の装置では、例えば絞りを一段開くとシヤツター速度は一段高速になるといつたように、一方を手動で所定量変更すると他方は逆の方向に同量変更するような絞りと露出時間の組合わせの変更をすることができず、使用しずらいものであつた。さらには、プログラムによつて決定された絞り値、露出時間の組合わせを撮影者が変更したあと、撮影条件が変わるなどして、変更した絞り値、露出時間の組合わせを迅速に取消したい場合、右装置ではその要求に充分対応できないという問題点があつた(同第一頁第一六行ないし第四頁第二〇行)。
本願発明は、これら従来技術の問題点を解決することを目的とし、本願発明の要旨記載の構成を採用したものである(同第五頁第一行ないし第六頁第一四行、第一〇頁第二行ないし第一一頁第八行)。
本願発明は、前記構成を採用したことにより、プログラム方式で決定される露出制御値を撮影者の意図する絞り値、露出時間に修正することができ、その修正は、被写体輝度とは無関係に絞り値、露出時間の一方を単位露出値づつ増加させたとき他方を単位露出値づつ減少させる修正であつて、これは予め定められたプログラム線図上を平行移動させたものに相当する修正であり、露出制御値の修正がわかりやすく、カメラ操作が容易となり、さらに、一旦入力された絞り値、露出時間増減の修正データを一操作で取消し、予め定められたプログラム線図上にしたがつた露出制御に戻すことができ、撮影条件の変わつたような場合にも迅速に対応することができるという作用効果を奏するものである(同第八頁第九行ないし第九頁第五行)。
2 他方、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例記載の発明は、カメラを使用者の調整に関係なく適正露出で撮影できる状態(最終的撮影準備状態)に維持しながら、使用者が単一の制御でカメラ調定を調整するだけで焦点深度かカメラの鮮明画像撮影能力かのいずれか一方を選択できるようにするカメラ用制御装置に関するものであり(第二頁左下欄第一三行ないし第二〇行)、カメラ調定に関し所与の露出値を得るのに必要な絞り値及びシヤツタースピードの組合わせを示す信号を提供するバイアス制御部材と、前記信号を受信するように接続し、この信号に呼応すると共に被写界照度値に相当する信号に呼応して所与条件に応じた適正スピード及び適正絞り値を算出するプロセツサとから成るカメラ調定制御装置を提供することを目的としたものであり(第三頁左上欄第九行ないし第一六行)、引用例には審決の理由の要点2の<1>ないし<7>の技術的事項が記載されていることが認められる。
3 取消事由一について
原告は、本願発明における「修正データ」、「修正データ出力手段」及び「演算手段」と、引用例記載の発明における「バイアス値」、「バイアス出力手段」及び「計算手段」とは、それぞれ同一の機能を有する同一のものではないから、これらは同一のものであるとしてなされた審決の一致点の認定は誤りである旨主張する。
(一) 本願発明の技術的課題、構成及び作用効果は、前記1で認定したとおりである。そして、前掲甲第四号証によれば、本願発明の特許請求の範囲には、「修正データ」、「修正データ出力手段」について、「第一の手動操作部材の第一の操作により絞りあるいは露出時間いずれかの露出制御値を所定の単位露出値づつ増加させる方向に修正するための修正データを出力し、該第一の手動操作部材の第二の操作により絞りあるいは露出時間いずれかの露出制御値を所定の単位露出値づつ減少させる方向に修正するための修正データを出力する修正データ出力手段(昭和六二年三月二七日付け手続補正書第一〇頁第五行ないし第一二行)」と記載されていることが認められ、さらに前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のもう一つの機能であるプログラムの組合わせ可変装置の実施例について述べる。(中略)撮影条件によつて被写界深度を浅くしたり深くしたりしたいことがある。この際にはプログラムで定められた、TvとAvの組合わせを変えなければならない。この目的により以下の三つの機能を持つスイツチS1、S2、S3をカメラ本体に設ける。
1 up Tvを+1Ev Avを-1Ev
2 down Tvを-1Ev Avを+1Ev
3 reset 本来のプログラム動作におけるTvAvに戻る
この三つのスイツチは別設されたアツプダウンカウンター22をそれぞれアツプカウント、ダウンカウント、リセツトするもので、そのカウンタの内容を引算回路24及び加算回路25に送りプログラム演算されて記憶回路17、18に記憶されているAv、Tvに加算演算することにより組合わせを変えることができる。そしてこの和と差をとらえたTv、Avが最終的なTv値、Av値でこれを表示装置20に表示し、且つこの値により周知の絞り制御装置19、2幕制御装置21に送る。以上の動作を例を引いて今すこし詳述すると、第3図の焦点距離50mmF2-22の撮影レンズをカメラに装着した場合を考えると、Ev13の時上述のプログラム演算により絞りはF8、シヤツタースピードは1/125がその撮影条件でありこれがフアインダー内に表示される。この時撮影者が人物のポートレート撮影などのためもう少し被写界深度を浅くしたいと意図する時、フアインダー表示を視認しながら“up”のスイツチを一回押すと、Av、Tvの組合わせはF5・6,1/250にかわり三回操作でF2・8,1/1000に変化する。又元に戻したい時は、“リセツト”を押すと即座にF8,1/125に戻る。これによりきわめて容易に撮影者の意図をもり込むことができる(当初明細書第一一頁第九行ないし第一三頁第六行)。」と記載されていることが認められる。
右事実によれば、本願発明における修正データとは、予め定められたプログラム線図上で決定されたカメラに設定される絞り値あるいは露出時間のいずれかの露出制御値を所定の単位露出値づつ増加(減少)させるデータであるところ、本願発明は、絞り値、あるいはシヤツタ速度いずれか一方の露出制御値を右修正データにより「所定の単位露出値」づつ増加させ、他方を減少させることにより、カメラの絞り目盛り、シヤツタ速度目盛りとを対応関係を持たせて修正でき、その結果、測光値(被写体輝度)の大きさには無関係に露出制御値を単位露出値づつ撮影者の意志どおりに修正ができ、絞り値あるいは露出時間のいずれかを撮影者の意図する露出制御値に設定できるものであり、また、リセツト操作に応じて、絞り値とシヤツタ速度の組合わせを修正前の組合わせに一操作で復帰させることができることを特徴とするものであることが認められる。そして、右にいう「所定の単位露出値」とは、右認定した本願発明の特徴、及び本願明細書の前記発明の詳細な説明の記載において、所定の単位露出値を1Evとし、Tv、Avを対応させてアツプ、ダウンさせていること並びに願書添付の図面第3図、第4図からして、一定値の露出値を単位とするものであると解される。したがつて、この点について、本願発明における「露出制御値を所定の単位露出値づつ増加(減少)させる方向に修正する」とは、単に、露出制御値を階段状に修正するという技術的意味を示すにすぎない、と認定した審決の認定は誤りである。
他方、引用例には審決の理由の要点2の<1>ないし<7>の技術的事項が記載されているほか、前掲甲第五号証によれば、「バイアス値」、「バイアス出力手段」に関し、その特許請求の範囲として「(1) カメラ調定に関連して所与の露出値を得るのに必要な絞り値及びシヤツタ・スピードの組合わせを示す信号を提供するバイアス制御部材と、前記信号を受信するように接続され、これに呼応すると共に被写界照度(以下Ev値と呼ぶ)に対応する信号に呼応して所与条件に応じた適正スピード及び適正絞り値を算出するプロセツサとから成ることを特徴とするカメラ制御装置(第一頁本文左欄第四行ないし第一一行)」と記載されており、発明の詳細な説明には、「このバイアス制御部材20はカメラ性能の全域に亘つてシヤツタ・スピードと絞り値の組合わせを徐々に変えるために一連のデジタル値を提供する(第三頁左下欄第一四行ないし第一七行)」、「LED表示器などにより、特定のシヤツタ・スピード及び絞り値調定を評価し、所与の組合わせが特定被写界に不適切であると判断すればバイアス制御部材に合わせて再調整することができる(第三頁右下欄第二行ないし第五行)」、「この露出値入力装置19は照度値目盛を有する手動入力装置または測光計から発せられる照度信号と、使用フイルムの感度を表わす信号とからデジタル量で露出値を得る手段に接続された組込み測光計として構成すればよい(第三頁左下欄第七行ないし第一一行)」、「SMIN, SMAX, FMIN及びFMAXはカメラの固定パラメータであり、それぞれ対応の値をレジスタ16にセツトすればよい。ほかにレジスタ16に一時的に記憶され、SSET及びFSET値を得るのに利用される量は下記の通りである。BIASはバイアス制御部材の調定によつて得られる+1/2~-1/2の数である。SREF及びFREFはそれぞれSSET及びFSETを得るのに利用される数であり、SREF+FREF=Evである。OFFSETはそれぞれSSET及びFSETを得るためSREFから減算され、FREFに加算される数である。バイアス数の範囲は任意に選択し、その他の範囲はこのバイアス数に基づくカメラの調定特性に応じて設定すればよい(第四頁左下欄第九行ないし右下欄第二行)」、「計算素子12、13及び14は作動するとそれぞれOFFSET, SSET, SREF, FSET, FREF値を計算しこれらの値は必要に応じて利用できるようにレジスタ16に記憶される。即ち、計算素子にはOFFSET値を(Ev-FMIN)-SMIN)×BIASに、FREF値を(Ev+FMIN-SMIN)×<省略>に、SREF値を(Ev-FMIN+SMIN)×<省略>に、FSET値を(FREF+OFFSET)に、SSET値を(SREF-OFFSET)にそれぞれセツトする。計算素子13はOFFSET値を(FMAX-FMIN)×BIASに、FREF値を(FMAX+FMIN)×<省略>に、SREF値を(Ev-FREF)に、FREF+OFFSET)に、SSET値を(SREF-OFFSET)にそれぞれセツトする。計算素子14はOFFSETを(FMAX+SMAX-Ev)×BIASに、FREF値を(Ev+FMAX-SMAX)×<省略>に、SREF値を(Ev-FMAX+SMAX)×<省略>に、FSET値を(FREF+OFFSET)に、SSET値を(SREF-OFFSET)にそれぞれセツトする。(第四頁右下欄第一四行ないし第五頁左上欄第九行)。」、「第4図に図示した制御装置の動作を第5図のプログラム構成及び第6図~12図のフローチヤートに従つて以下に説明する。先ず第6図で、トリガによつて与えられる起動信号31で動作が始まる。その結果システムが作動し、コース1が始まる。Ev値及びバイアス値はレジスタ28に配置され、該当の範囲を確認するためマイクロプロセツサ26がEv値を検査する。Ev値に応じてプログラムがコース2~6のいずれか一つのコースへ分岐する。検査の結果、Ev<(SMIN+FMIN)の関係が肯定されるとコース2が選択される。この検査が否定的な結果となれば、プログラムはEv<(SMIN+FMAX)の検査に移る。結果が肯定的ならプログラムはコース3へと分岐する。検査の結果が否定的なら、プログラムはEv〓(SMAX+FMIN)の検査に移る。結果が肯定的ならプログラムはコース4へ分岐する。否定的ならプログラムはEv〓(SMAX+FMAX)の検査に移る。結果が肯定的ならプログラムはコース5へと分岐し、否定的ならコース6へと進む。コース2及び6は装置21によるカメラのロツク、露出不足及び過度表示器29及び30のセツト、及びシヤツタ・スピード及び絞り値表示器(もし設定されているなら)の消去に係る。このような分岐過程を示したのが第7及び第11図である。コース3は下記の過程から成る。
OFFSETを(Ev-FMIN-SMIN)×BIASにセツト。
FREFを(Ev+FMIN-SMIN)×<省略>にセツト。
SREFを(Ev-FMIN+SMIN)×<省略>にセツト。
FSETを(FREF+OFFSET)にセツト。
SSETを(SREF-OFFSET)にセツト。
コース7の開始。
コース4は下記の過程から成る。
OFFSETを(FMAX-FMIN)×BIASにセツト。
FREFを(FMAX+FMIN)×<省略>にセツト。
SREFを(Ev-FREF)にセツト。
FSETを(FREF+OFFSET)にセツト。
SSETを(SREF-OFFSET)にセツト。
コース7の開始。
コース5は下記の過程から成る。
OFFSETを(FMAX×SMAX-Ev)×BIASにセツト。
FREFを(Ev+FMAX-SMAX)×<省略>にセツト。
SREFを(Ev-FMAX+SMAX)×<省略>にセツト。
FSETを(FREF+OFFSET)にセツト。
SSETを(SREF-OFFSET)にセツト。
コース7の開始。
(第五頁右下欄第一一行ないし第六頁右上欄第一五行)」と記載されていることが認められる。
右事実によれば、引用例記載の発明におけるバイアス値は、所要の露出値を得るのに必要な絞り値及びシヤツタスピードの組合わせを示す信号を提供するため又は徐々にこれらを変えるためのデジタル値であり、その値は+1/2~-1/2であること、そして、右所要の露出値を得るのに必要な絞り値及びシヤツタスピードの組合わせは測光値に応じ、計算素子12、13、14により各々決定されるものであり、その計算は次のようなものであることが認められる。
<1> (SMIN+FMIN)≦Ev<(SMIN+FMAX)の場合、計算素子12が作動し、
OFFSET=(EvーFMIN-SMIN)×BIAS
FREF=(Ev+FMIN-SMIN)×1/2
SREF=(Ev-FMIN+SMIN)×1/2
FSET=(FREF+OFFSET)
SSET=(SREF-OFFSET)
<2> (SMIN+FMAX)≦Ev<(SMAX+FMIN)の場合、計算素子13が作動し、
OFFSET=(FMAX-FMIN)×BIAS
FREF=(FMAX+FMIN)×1/2
SREF=(Ev-FREF)
FSET=(FREF+OFFSET)
SSET=(SREF-OFFSET)
<3> (SMAX+FMIN)≦Ev<(SMAX+FMAX)の場合、計算素子14が作動し、
OFFSET=(FMAX+SMAX-Ev)×BIAS
FREF=(Ev+FMAX-SMAX)×1/2
SREF=(Ev-FMAX+SMAX)×1/2
FSET=(FREF+OFFSET)
SSET=(SREF-OFFSET)
右計算式からすると、ここでの計算は、まず、測光値Evに応じて、絞り値(FREF)と露出時間(SREF)を計算し、そして、操作部材20から入力されたバイアス値と測光値Evとから、OFFSET値を計算し、先に算出した絞り値(FREF)にOFFSET値を加算してカメラに設定する絞り値(FSET)を計算し、露出時間(SREF)からOFFSET値を減算して、カメラに設定する露出時間(SSET)を計算し、この計算結果が露出制御値となるものであると理解される。
したがつて、露出制御値を修正するデータはOFFSET値であり、バイアス値はそのOFFSET値を変えるための一変数にすぎないものであると解される。
してみると、本願発明の「修正データ」に対応するものは、引用例記載の発明における「OFFSET値」であつて、「バイアス値」ではない。そして、その「OFFSET値」にしても、前記計算式から明らかな如く、その値は測光値Evの関数であるので、バイアス値を一定値に設定しても、それは測光値Evの大小によつて異なり、一定値とはならないものである。
その結果、撮影者はバイアス値をどの値に調定したら自分の意志どおりの修正ができるか分からず、絞り値あるいは露出時間の露出制御値を自分の意図する値に正確に設定できないものである。
そうすると、引用例記載の発明における「OFFSET値」も、測光値Evの大きさとは無関係に露出制御値を一定値である所定の単位露出値づつ増減するところの本願発明における「修正データ」とは、同一の機能を有する同一のものとはいえない。
また、本願発明における「修正データ出力手段」と引用例記載の発明における「バイアス出力手段」なるものを比較しても、そもそも、前記判示したとおり、本願発明における「修正データ」と引用例記載の発明における「バイアス値」とが異なるものである以上、これらを出力するとされる両出力手段が同一であるとはいえない。
この点に関し、被告は、本願発明は、「所定の単位露出値」について、これを特に具体的な値に特定するものでも、その具体的な値を得るための手段を特定するものでもなく、ただ、ある具体的な値にすることができるという抽象的なものにすぎないから、「所定の単位露出値」とは、第一の手動操作部材によつて撮影者が修正を希望する修正露出量だけ階段状に修正する過程における「一階段露出量」とでもいえるものにすぎず、他方、引用例記載の発明における「バイアス値」は、撮影者が、バイアス制御部材によつて、絞り値あるいは露出時間いずれかの露出制御値を増減させて、予め定められたプログラム線図上において測光値Evにより決定される絞り値及び露出時間の組合わせに対し、いずれかの露出制御値を意図する露出制御値にするための「修正露出値」といえる「バイアス値に対応した量」を得るためのデータであるから、本願発明における「修正データ」と、引用例記載の発明における「バイアス値」とは、同一の機能を有する同一のものであると、主張する。
しかしながら、前記判示したとおり、本願発明における「修正データ」とは、予め定められたプログラム線図上で決定されたカメラに設定される絞り値あるいは露出時間いずれかの露出制御値を所定の単位露出値づつ増減させるためのデータであり、その「所定の単位露出値」とは、特許請求の範囲に具体的に限定されてはいないが、一定値と解されるものであり、その結果、「修正データ」とカメラの絞り目盛り、シヤツター速度目盛りと明確な対応関係を持たせることができ、したがつて、測光値の大きさとは無関係に露出制御値を所定の単位露出値づつ撮影者の意志どおりに修正でき、絞り値あるいは露出時間のいずれかを撮影者の意図する露出制御値に設定できるものであるのに対し、引用例記載の発明のバイアス制御部材の操作により出力されるバイアス値は+1/2~-1/2の値をとるもので、それは露出制御値を修正するOFFSET値を計算する一変数であつて、露出制御値を修正する値ではない。したがつて、被告の右主張は採用し得ない。
(二) 次に、本願発明における「演算手段」と、引用例記載の発明における「計算手段」について検討する。
前掲甲第四号証によれば、演算手段に関し、本願発明の特許請求の範囲には、「予め定められたプログラム線図上において測光値により決定される絞り値及び露出時間の組合わせに対して前記測光値及び修正データに基づいて絞りあるいは露出時間のいずれか一方を修正データに対応した量だけ増加させ、他方を修正データに対応した量だけ減少させたことに相当する絞り値及び露出時間の組合わせを露出制御値として演算出力し、前記リセツト信号が入力されたときは予め定められたプログラム線図上において測光値により決定される絞り値及び露出時間の組合わせを露出制御値として演算出力する演算手段(第一〇頁第一六行ないし第一一頁第七行)」と記載されていることが認められる。そして、ここでいう「修正データ」とは、絞り値あるいは露出時間いずれかの露出制御値を一定値である所定の単位露出値づつ増減させる方向に修正させるためのものであることは前記判示したとおりである。したがつて、本願発明の演算手段は、予め定められたプログラム線図上において測光値に応じて決定された絞り値及び露出時間に対し、その一方を露出制御値づつ増加させ、他方をこれと同量づつ減少させる演算を行ない、カメラに設定する絞り値、露出時間の組合わせを出力するものであると認められる。そして、この結果、本願発明は、修正データ出力手段から出力される修正データに基づいて露出制御値が修正され、測光値の大きさに関係なく露出制御値を単位露出値づつ撮影者の意志に基づいて修正でき、絞り値あるいは露出時間いずれかを撮影者の意図する値に設定する露出制御値が設定できるものであると認められる。
他方、引用例記載の発明は、測光値に応じて絞り値(FREF)と露出時間(SREF)を計算し、また、操作部材から入力されたバイアス値と測光値に対応するOFFSET値を計算し、先に算出した絞り値(FREF)にOFFSET値を加算してカメラに設定する絞り値(FSET)を計算し、露出時間(SREF)からOFFSET値を減算して、カメラに設定する絞り値(FSET)、露出時間(SSET)を計算するものであることは前記(一)で認定したとおりである。
したがつて、引用例記載の発明における計算手段にあつては、バイアス値を変更して露出制御値を変更する際には、バイアス値の変更によるOFFSET値の変更量は、撮影者の意志とは無関係に測光値の大きさによつて変動してしまうため、露出制御値を所定の単位露出値づつ変更するような演算が計算手段でなされるものではない。
してみると、本願発明における「演算手段」と、引用例記載の発明における「計算手段」とは、演算内容が異なり、演算の結果得られる露出制御値の内容も異なるものであるといわざるをえず、両者は同一の機能を有する同一のものであるとはいえない。
(三) そうすると、本願発明における「修正データ」、「修正データ出力手段」及び「演算手段」が引用例記載の発明における「BIAS値」、「バイアス出力手段」及び「計算手段」が、それぞれ同一機能を有する同一のものであり、また、本願発明における「露出制御値を所定の単位露出値づつ増加(あるいは減少)させる方向に修正する」とは、単に、露出制御値を階段状に修正するという技術的意味を示すにすぎないものであるとした審決の認定はいずれも誤りであり、右誤つた認定に基づいてなされた審決の一致点の認定も、また当然のことながら誤りであるというほかない。
そして、右誤りが結論に影響を及ぼすこと明らかであるから、審決は、その余の点を判断するまでもなく、取消しを免れない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
被写体輝度を測定して測光値を出力する測光手段と、露出制御値を修正するための第一の手動操作部材と、前記第一の手動操作部材の第一の操作により絞りあるいは露出時間いづれかの露出制御値を所定の単位露出値づつ増加させる方向に修正するための修正データを出力し、該第一の手動操作部材の第二の操作により絞りあるいは露出時間いづれかの露出制御値を所定の単位露出値づつ減少させる方向に修正するための修正データを出力する修正データ出力手段と、前記修正データ出力手段から出力される修正データを取消すための第二の手動操作部材と、前記第二の手動操作部材の操作により修正データの修正量を0にリセツトする信号を出力するリセツト信号出力手段と、予め定められたプログラム線図上において測光値により決定される絞り値及び露出時間の組合せに対して前記測光値及び修正データに基いて絞りあるいは露出時間のいづれか一方を修正データに対応した量だけ増加させ、他方を修正データに対応した量だけ減少させたことに相当する絞り値及び露出時間の組合せを露出制御値として演算出力し、前記リセツト信号が入力されたときは予め定められたプログラム線図上において測光値により決定される絞り値及び露出時間の組合せを露出制御値として演算出力する演算手段とを備えたことを特徴とするプログラムシヤツター装置(別紙図面参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面
<省略>
(以下省略)