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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)16号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第八号証によれば、本件考案の出願公告公報には本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(一) 本件考案は、水道管等の圧力水供給源に連結された水補給管の先端を温水補給用のボイラーに接続した配管等で前記水補給管中に介挿する減圧弁に、該弁中のチヤツキ弁から水補給管の先端までの間の残水を抜き取るために設けた残水抜き装置に係るもの(第一欄第二九行ないし第三四行)である。従来の減圧弁は、別紙図面一第1図に示す構成を持つものであり、同第2図に示すように、水道管bから分岐して先端を温水補給用のボイラーfに接続した水補給管c中に介挿されているが、該水補給管cには減圧弁aより上流に止水栓dと水抜栓eが設けられているのが普通であり、止水栓dを閉止して給水を中断するとき、水抜栓eによつて水抜きを行いさらに水抜栓65によつて弁体本体41の内部の水を抜いても弁座環51から弁口47までの間に残水71を生じ、寒冷地においてはこの残水71が凍結し、このため止水栓dを開きかつ水抜栓eを閉じても水補給管cによるボイラーfへの自動補給が不可能になつたり、弁本体41その他の部分が破裂、損傷する等の事故を起こす欠陥があつた(第一欄末行ないし第三欄第一三行)との知見に基づき、氷結事故を極めて有効に防止できるようにした減圧弁の残水抜き装置を提供することを技術的課題(目的)とするもの(第一欄第三四行ないし第三六行)である。

(二) 本件考案は、前記技術的課題を達成するため本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)記載の構成(第一欄第一五行ないし第二七行)を採用した。

(三) 本件考案は、前記構成、特に給水停止とともに閉弁するチヤツキ弁体15の一次圧側に突出する弁杆16を対象にした開弁強制摺動子32をねじ蓋23に設けた構成を有することにより減圧弁aを垂直配置によつて水補給管c中に介挿した場合に弁本体1内の残水を実害を生じない程度に抜き取ることができる(第四欄第四三行ないし第五欄第七行)という作用効果を奏するものである。

2 原告は、審決は、本件考案と第一引用例記載の考案とを対比判断するに当たり、第一引用例記載の考案は審決認定の相違点ア、ウの構成を有するものであり、かつ相違点イの構成は周知慣用の技術である点の判断を誤つた結果、本件考案は当業者がきわめて容易に考案することができたものではないと誤つて判断したものである旨主張するので、まず相違点アについて検討する。

前記本件考案の要旨によれば、本件考案は「弁本体の入口管と出口管との間の管路内に、第一弁口と第二弁口とを開口した管路閉鎖壁を設け」、「第一弁口の弁座にチヤツキ弁体を(中略)第二弁口の弁座には弁杆に可撓隔膜を介して調圧スプリングを作用させた調圧弁体を(中略)着座可能に対設してなる」ものであるから、本件考案の管路閉鎖壁は、入口管と出口管との間の管路内に設けられるものであつて、「減圧弁の管路を閉鎖する壁」を意味し、かつ、第一と第二の二つの弁口を開口しているものであり、この二つの弁口は弁座を備えており、チヤツキ弁体と調圧弁体とをその弁座にそれぞれ着座可能に配置していることが明らかである。

一方、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例には、「一方に弁入口1aを、また他方には弁出口1bを設け、弁入口1aに隣接する内部中央には上半部を縮径した段付筒形の弁体4を上下摺動自在に収装することで内部に垂直形の逆止弁室1cを設ける」(第二頁第八行ないし第一二行)、「弁体4の逆止弁1c室内には、下位開口部に逆止弁弁座口Aを設けた弁座7を螺着し、上位縮径部にはこの縮径内壁を支持体にして逆止弁ジスク13を一体装着した弁体5を、一次圧力室1d側からの流入時には開弁し、流量調節室1f側からの逆流時には閉弁できるように上下作動自在に収嵌する」(第二頁第一六行ないし第三頁第二行)、「本体1内における流量調節室1fの直上位置には弁座6を螺着し、その孔内には上位にダイアフラム8と繋結した弁棒12を上下摺動自在に挿通する」(第四頁第八行ないし第一一行)「この流動経路において二次圧力室1eに流入した圧力水には、ダイアフラム8に水圧を作用して調節バネ22の弾撥力と対向する押上力が付加するが、弁体4はある開度を得て、バランスを保持している」(第五頁第四行ないし第八行)と記載され、かつ、右構成が別紙図面二第1図に図示されていることが認められる。

そこで、第一引用例の右記載事項を右第1図を参照して検討すると、第一引用例記載の減圧逆止弁には、弁入口1aと弁出口1bとの間の管路内に中央に弁体4を上下摺動自在に収装する開口を有する部材が設けられており、この部材は一次圧力室1dと二次圧力室1eとを区切るものであり、弁体4を上下摺動自在に収装する開口部以外には弁入口1aから弁出口1bあるいはその逆に水が流れるのを阻止すること、すなわち、減圧逆止弁の管路をその中央部で閉鎖する壁部の役目をするものであるから、本件考案の管路閉鎖壁に相当するもの(以下右部材を「管路閉鎖壁」という。)と解される。しかしながら、第一引用例記載の右管路閉鎖壁には、一つの開口が設けられ、この開口には弁体4が上下摺動自在に収装されており、かつ、この弁体4の直上位置には弁座6が前記管路閉鎖壁と一体の部材に螺着され、弁体4の上位縮径部の上端とこの弁座6との間に弁口を構成し、弁体4の上下摺動によりその弁口の開口度を調節する構成となつている。したがつて、右管路閉鎖壁は、弁体4が摺動する開口以外に開口を有せず、その唯一の開口の上部の弁座6と弁体4の上端との間に弁口を構成するものであるから、一つの弁口のみしか有していないものと認められる。

また、第一引用例の前記記載事項及び第1図によれば、第一引用例記載の弁体4は、ダイヤフラム8及び弁棒12を介して二次圧力室1eに流入した圧力水の作用を受けて上下に摺動し流量を調節するものであるから、流量調節弁体と解されるものであり、かつ、右弁体4は、内部が逆止弁室1cを構成する筒形をしており、その下位開口部に逆止弁口Aを設けた弁座7を螺着してこの弁座7に逆止弁室1c内に配置された逆止弁体5を着座させる構成、すなわち、その内部に逆止弁体を包含し、一体となつて前記管路閉鎖壁の唯一の開口を上下摺動自在に配置した構成となつている。

この点について、原告は、第一引用例記載の考案は別紙図面三に示すように弁体4の上端縁とこれに上方から対向する弁座6とで形成される減圧弁用の第二の弁口ハと、前記弁体4の下半側に一体に連続している拡径胴部(ニ)の底部に設けた逆止弁座7に開設した逆止弁用の第一の弁口(逆止弁座口A)との二つの弁口を具備し、右逆止弁座7は、弁体4の拡径胴部(ニ)及び弁体4の上端部と連続して管路閉鎖壁を形成し、かつ、弁体4の上端部の外周面が水密に隔壁(イ)に接続しているのであるから、第一引用例記載の考案は、第一弁口と第二弁口とを開口した管路閉鎖壁を設けた構成のものである旨主張する。

原告の右主張は、弁体4も管路閉鎖壁に相当することを前提とすることは、その主張の趣旨からみて、明らかである。

しかしながら、第一引用例記載の弁体4は、前記管路閉鎖壁の開口を上下に摺動することにより弁座6と協同してそれ自身で流量調節弁として機能するものであるから、「弁」そのものであつて、減圧逆止弁の管路を閉鎖する機能は認められるとしても、減圧逆止弁の「壁」とは解せられない。弁体4は、その内部に水を流通させるものであるから、その意味において管路の役目もするものといえるが、この管路は、一次圧力室から二次圧力室に流通する水を案内し水の圧力を利用して弁体4を摺動すべく構成されているから、本件考案の管路閉鎖壁の意味する「減圧弁の管路を閉鎖する壁」とはその技術的意味を異にするものである。すなわち、弁体4は、逆止弁体5を除いた構造であつても、内部に水を流通させた場合水の一次側圧力により弁を上方に押し上げるべく上半部を縮径した筒形の構成となつているものであるから、この筒形構造が内部に水を案内して流通させるからといつて、本件考案の「減圧弁の管路を閉鎖する壁」とはその技術的意味が同じであるとは認められるものではない。そして、逆止弁体5は、弁体4の逆止弁室1cに配置され、弁体4の下位開口部の弁座口Aに着座するものであるから、弁体4が管路閉鎖壁と認められない以上この弁座口Aを管路閉鎖壁に開口した弁口と解することはできない。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

以上の認定事実によれば、第一引用例記載の管路閉鎖壁に開口する弁口は一つであり、この一つの開口に調節弁体4(その内部に逆止弁体5が配置されている。)が摺動自在に配置された構成となつているものであるから、第一引用例記載の逆止弁は「管路閉鎖壁には一つの弁口を開口させ、この開口に上半部を縮径した段付筒形の弁体4を上下摺動自在に収装する」構成を備えるものであつて、本件考案とはアの点で相違し、この相違点をもつて「単なる構成の変更ということはできない」とした審決の認定、判断に誤りはない。

3 次に、相違点ウについて検討する。

前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、VBジスク21及びVBガイド16等から構成されるVB弁体とそれを操作する押しピン11について、「前記の流動経路において給水源の断水により弁入口1a側の一次圧力が消失すると、第2図に示すように逆止弁体5は自重で落下し、逆止弁座口Aを閉じて弁出口1b側から逆流する水を阻止する」(第六頁第四行ないし第八行)、「前記の断水によるサイホン現象で給水本管内が大気圧以下の負圧になつた場合は、一次圧力室1dも負圧になり、VBジスク21およびVBガイド16などで構成されるVB弁体は、自重による閉弁状態から吸上げられてVB弁座口Dを開口するため、大気が通気口E、VB弁座口D、一次圧力室1dおよび弁入口1aを経て給水本管内に流入する結果、負圧状態を解除して真空破壊弁の作用を達成することができる」(第六頁第一一行ないし第一九行)、「またその後の給水で一次圧力室1d内が正圧になると、VB弁体は再び閉弁状態に戻り、一次圧力によつてVB弁座口Dの密封状態を保持することができる。なお押しピン11を手動で押上げると、VB弁体は開弁状態になるので弁内の残溜水を外部に排出することができる」(第六頁第二〇行ないし第七頁第五行)、「さらに弁内の水が流動を停止した状態において外気温度が氷点下になると、弁内部の水は本体1の外側に近い方から結氷が発生し」(第七頁第六行ないし第八行)、「結氷時の体積増加が原因して一次圧力室1d、逆止弁室1cおよび二次圧力室1eの各付近の水圧が水の非圧縮性によつて急激に上昇する」(第七頁第一一行ないし第一四行)、「また逆止弁室1c内の体積膨張によつて発生する異常高水圧で逆止弁体5が弁座口Aを閉塞し、さらに弁バネ20の支弾力に抗して弁体4を押下げるため、逆止弁体5の下端部とVBギヤツプ15の上端部とが当接して、第3図に示すように安全弁弁座口Cが開口し、引続いてVBガイド16の下端部と押しピン11の上端部とが当接する結果、VB弁座口Dが開口することになる」(第七頁第一七行ないし第八頁第五行)と記載されていることが認められる。

第一引用例の前記記載事項によれば、VB弁体は、給水源の断水により一次圧力が消失し、断水によるサイホン現象で給水本管内が大気圧以下の負圧になつた場合に自重による閉弁状態から吸い上げられてVB弁座口Dを開口して負圧状態を解除し、真空破壊弁の機能を奏するものであり、また、押しピン11は、このVB弁体を手動で押し上げるためのものであり、VB弁体の開弁により弁内の残留水を外部に排出する役目を奏するものである。

また、第一引用例記載の考案において、弁内の水の流動が停止し外気温が氷点下になり、弁内に結氷が生じて弁内の体積増加が起こり、それに起因して弁内の水圧が上昇した場合、VB弁体は弁体4が下降することによつてVBギヤツプ15とともに下降しその下端部が押しピン11に当接し、VBギヤツプ15がさらに下降する結果、押しピン11によつてVB弁座口Dを開口して一次圧力室1dの水を排出する作用をするものであることが明らかであるが、前掲甲第四号証を検討しても、第一引用例には、押しピンと逆止弁体5との関連について記載も示唆も存しないことはもちろんのこと、VB弁体を押しピン11の手動操作で押し上げることにより結果として逆止弁体5を押し上げ二次圧力室1e及び逆止弁室1c側の水を排出する点についての記載も示唆もないことが認められる。

してみれば、第一引用例記載の押しピン11は、VB弁体に作用してVB弁体を押し上げVB弁座口Dを開口するものであるが、押しピン11の機能はそれのみにすぎない。

この点について、原告は、第一引用例記載の考案は、弁内の水の流動が停止し、結氷して逆止弁室1cが高水圧状態(別紙図面二第3図)になつた場合、別紙図面四第3図に示すように押しピン11を押し上げることにより逆止弁体5を開弁状態とし、逆止弁室1c内の残水が抜けるようになるものであるから、本件考案と第一引用例記載の考案とはウの構成において相違するとした審決の認定は誤りである旨主張する。

前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、第一引用例記載の減圧逆止弁による結氷時の動作を示す要部縦断面図として第3図が図示されていることが認められるが、右第3図に示された結氷時の状態では、弁本体1のキヤツプ2の下部と押しピン11の頭部(押し部)との間には押上げ間隔があるので押しピン11を押し上げることはできるが、逆止弁体5を押し上げるためにはVBギヤツプ15の下部とVBジスク21、VBガイド16の上部との間の間隔よりも押しピン11の移動可能間隔が大きくなければならないことは技術的に自明である。その点について右第3図をみると、弁本体1のキヤツプ2の下部と押しピン11の頭部との間には戻しバネ18が介在しており、そのために押しピン11の移動可能間隔はこの戻しバネ18の厚さを引いたものとなるところ、戻しバネ18の厚さを引いた残りの押しピン11の移動可能間隔はVBギヤツプ15の下部とVBジスク21、VBガイド16の上部との間の間隔よりも大きいとは認められない。してみれば、第一引用例記載の考案において、押しピン11を最大限押し上げてVB弁体を上昇させることによりVBギヤツプ15にVB弁体の上部が接触することはあり得るとしても、さらにVBギヤツプ15を押し上げること、ひいては逆止弁体5を押し上げることができるとは認め難く、右第3図において、押しピン11の押圧作動によつては逆止弁体5を強制的に開弁作動させることはできないといわざるを得ない。また、この第3図の状態は、弁内の水の一部が既に氷結した状態であり、この一部氷結した状態で逆止弁体5を開弁することは、二次圧側の排水時期としては不自然であると同時に、本件考案のチヤツキ弁体の開弁強制摺動子による押上時期とは異なるものであり、第一引用例記載の考案が一部氷結していなければ二次圧側の排水ができないというのであれば、前記1認定の、氷結事故を極めて有効に防止できるようにした減圧弁の残水抜き装置を提供するという本件考案の所期の目的を達成できるものではない。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

以上の認定事実によれば、本件考案と第一引用例記載の考案とはウの点で相違し、「第一引用例の押しピン11は、VB弁を押し上げるための摺動子にすぎず、本件考案のチヤツキ弁体の弁杆を押すための開弁強制摺動子とは、その構造、働きを全く異にするものである」とした審決の認定、判断に誤りはない。

4 以上のとおりであつて、本件考案と第一引用例記載の考案とは審決認定のア及びウの点で相違し、その構成を異にするものであるから、この点についての審決の認定、判断に誤りはなく、その余の点について判断するまでもなく本件考案は実用新案法第三条第二項の規定に該当しないことが明らかであり、審決に原告主張の違法は存しない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注1〕本件考案の要旨は左のとおりである。

弁本体の入口管と出口管との間の管路内に、第一弁口と第二弁口とを開口した管路閉鎖壁を設け、第一弁口の弁座にチヤツキ弁体を二次圧側から弾接し、第二弁口の弁座には弁杆に可撓隔膜を介して調圧スプリングを作用させた調圧弁体を二次圧側から着座可能に付設してなる圧力水用減圧弁において、前記チヤツキ弁体の弁杆を入口管側に突出して該弁杆にチヤツキ弁体を弁座に着座させるばねを捲装するとともに、チヤツキ弁体の延長軸線が通る弁本体の外廓壁のねじ孔に水密に嵌着したねじ蓋に、内方への手動押圧移動により前記チヤツキ弁体の弁杆を押す開弁強制摺動子を設けたことを特徴とする減圧弁における残水抜き装置(別紙図面一参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

<省略>

別紙図面二

<省略>

(他は省略)

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