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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)171号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 請求の原因三(本件審決の取消事由)について判断する。

1 認定判断の誤り第1点(基本的形状及び基本的構成態様の一致点の誤認)について

本件審決が、正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つた点を両意匠の基本的形状及び基本的構成態様の一致点と認定していることは当事者間に争いがない。

成立について当事者間に争いのない甲第二号証によれば、本願意匠の正背面の壁部は、上辺を下辺と同様に水平状とし、更にその中央付近を上辺と平行状に浅く切欠状とし、その切欠状の長さを上辺の約半分としたものであることが認められる。

これに対し、成立について当事者間に争いのない甲第三号証によれば、引用意匠は、正背面の壁部の上辺及び下辺を、共にゆるく上方向に凸弧状に湾曲させ、上辺の左右端から少し中央寄りの部分において、上辺を上方に向かつて屈折させたため、その屈折部付近に浅い山形状の凹部がわずかに形成されること、及び、引用意匠には、正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つた態様は全く存在せず、上辺の中央付近は、むしろゆるく上方向に凸弧状に湾曲しており、上辺の中央部の最も高い部分は、左右両端とほぼ同じ高さか、左右両端よりもわずかに高いこと、が認められる。

したがつて、本願意匠の正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つたということはできるが、引用意匠の正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つたということはできないから、正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つた点を本願意匠及び引用意匠の基本的形状及び基本的構成態様の一致点とした本件審決の認定判断は誤りである。

2 認定判断の誤り第2点(具体的構成態様の一致点の誤認)について

本件審決が、左右両側の壁部を正背面よりわずかに高いものとした具体的構成態様についても両意匠のほぼ一致点と認定していることは当事者間に争いがない。

前記甲第二号証によれば、本願意匠は、左右両側面の上辺の左右端付近を弧状に斜上方に張出させ、その余の上辺全体をゆるい凹弧状としたもので、上辺の中央部付近の低い部分でも、水平状の正背面上辺より高く、左右の張出部付近は水平状の正背面上辺よりかなり高いものとしたものであることが認められる。

これに対し、前記甲第三号証によれば、引用意匠は、左右側面の両端部の高さを正背面の壁部の高さと合致させ、左右側面の上辺を上へ凸のごくゆるい凸弧状に湾曲させたため、上辺中央部の頂点が正背面の上辺よりわずかに高くなるようにしたものであることが認められる。

したがつて、引用意匠の左右両側の壁部を正背面よりわずかに高いものとしたということはできるが、本願意匠の左右両側の壁部を正背面よりわずかに高いものとしたとはいえないから、左右両側の壁部を正背面よりわずかに高いものとした具体的構成態様について、両意匠のほぼ一致点であるとした本件審決の認定判断は誤りである。

3 認定判断の誤り第3点(具体的差異点の過小評価と両意匠の類否判断の誤り)について

(一) 正背面の壁部について

本件審決が、正背面の壁部の差異について、引用意匠が上方へ向かつて突弧状に形成しているとしても、それは極めてわずかなものであつて、直線状との差はほとんどなく微差であるとし、一致点を凌駕して看者に別異感を与えるまでには未だ到つていないとしていることは当事者間に争いがない。

しかし、前記1に認定したとおり、本願意匠の正背面の壁部は、上辺を下辺と同様に水平状とし、更にその中央付近を上辺と平行状に浅く切欠状とし、その切欠状の長さを上辺の約半分としたものであるのに対し、引用意匠は、正背面の壁部の上辺及び下辺を、共にゆるく上方向に凸弧状に湾曲させ、上辺の左右端から少し中央寄りの部分において、上辺を上方に向かつて屈折させたため、その屈折部付近に浅い山形状の凹部がわずかに形成されること、及び、引用意匠には、正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つた態様は全く存在せず、上辺の中央付近は、むしろゆるく上方向に凸弧状に湾曲しており、上辺の中央部の最も高い部分は、左右両端とほぼ同じ高さか、左右両端よりもわずかに高いものである。

しかも、これらの態様は、外観上最も目につく部位の一つである正背面の壁部の上辺の態様である結果、本願意匠は、直線的構成を基調としている印象を看者に与えるのに対し、引用意匠は、曲線的構成を基調としている印象を看者に与えるものといえ、その差異は明らかであり、その差異が極めてわずかのものであつて微差であるとする本件審決の認定判断は、事実を誤認し差異点を過小に評価したものというべきである。

(二) 左右両側面の壁部及び壁部の角部について

本件審決が、左右両側面の壁部の差異について、凹弧状、突弧状ともそれぞれ極めてわずかな差であつて、両意匠を特に別異のものとするほどのものでもなく、一致点を凌駕して看者に別異感を与えるまでには未だ到つていないとしていることは当事者間に争いがない。

しかし、前記2に認定したとおり、本願意匠は、左右両側面の上辺の左右端付近を弧状に斜上方に張出させ、その余の上辺全体をゆるい凹弧状としたもので、上辺の中央部付近の低い部分でも、水平状の正背面上辺より高く、左右の張出部付近は水平状の正背面上辺よりかなり高いものとしたものであるのに対し、引用意匠は、左右側面の両端部の高さを正背面の壁部の高さと合致させ、左右側面の上辺をごくゆるい凸弧状に湾曲させたため、上辺中央部の頂点が正背面の上辺よりわずかに高くなるようにしたものである。

これらの具体的構成態様の差異はそれ自体かなり明白である上、外観上最も目につく部位の一つである左右両側面壁部の上辺及び左右両側面壁部の上辺と正背面の壁部の上辺の接する角部の態様である結果、別異の印象を看者に与えるものである。

したがつて、左右両側面の壁部の差異は、極めてわずかな差であつて、両意匠を特に別異のものとするほどのものでもないとする本件審決の認定判断は、事実を誤認し差異点を過小に評価したものというべきである。

(三) 柾目模様の有無について

前記甲第二号証及び甲第三号証によれば、本願意匠は、全面に、正面又は背面から見て左右方向に伸びる平行な柾目模様を表しており、その結果、正背面の壁部外周面には、上辺及び下辺とほぼ平行な直線状の柾目模様が表され、左右両側面の壁部外周面には、垂直方向に直線状の柾目模様が表されているのに対し、引用意匠は何も模様を表していない点にも差異があることが認められる(本願意匠に柾目模様があることは当事者間に争いがない。)。

しかし、成立について当事者間に争いのない乙第一号証の一ないし四によれば、本願意匠の意匠に係る物品である「包装用皿」と使用目的を共通にする食品包装用皿として使用されてきたものに経木製の皿、経木製の舟があり、その表面には、材料の木材が自然に有する木目の模様が表れており、その中には柾目の模様もあつたことが認められ、また、成立について当事者間に争いのない乙第二号証及び乙第三号証によれば、本願意匠の登録出願当時、食品包装用容器、舟型容器に柾目模様を表した意匠が公知であつたことが認められる。

したがつて、柾目模様の有無について、この模様自体、従来より極めてありふれたものであり、それを単に全面に表したにすぎないものであるから何ら創作性も認められないとして、柾目模様の有無という差異は、全体の具体的構成態様を著しく変更したと認められるほどの差異ということはできないとの本件審決の認定判断は正当である。

4 両意匠の総合的考察

本件審決の認定判断中、両意匠の各部の基本的形状のうち、全体を平底舟形の浅い長方形皿状とした点及び正背面、左右両側面の壁部を下方へ向かつてテーパー状とした点が、一致していること、並びに、両意匠の全体の具体的構成態様のうち、左右両側面の壁部をやや外側へ弧状に膨出させた点が、ほぼ一致していることは、いずれも原告も認めるところである。

しかし、本願意匠の正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つたということはできるが、引用意匠の正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つたということはできず、正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つた点を本願意匠及び引用意匠の基本的形状及び基本的構成態様の一致点とした本件審決の認定判断は誤りであることは、前記1に判断したとおりであり、また、引用意匠の左右両側の壁部を正背面よりわずかに高いものとしたということはできるが、本願意匠の左右両側の壁部を正背面よりわずかに高いものとしたとはいえないから、左右両側の壁部を正背面よりわずかに高いものとした具体的構成態様について、両意匠のほぼ一致点であるとした本件審決の認定判断が誤りであることは、前記2に判断したとおりである。

したがつて、前記の一致点があることを考慮しても、本願意匠と引用意匠の基本的形状及び全体の基本的構成態様には顕著な差異があり、しかも、両意匠には、外観上最も目につく部位の一つである正背面の壁部とりわけその上辺の具体的構成態様に差異がある結果、本願意匠は、直線的構成を基調としている印象を看者に与えるのに対し、引用意匠は、曲線的構成を基調としている印象を看者に与えるものといえ、その差異は明らかであり、その差異が極めてわずかのものであつて微差であるとする本件審決の認定判断は、事実を誤認し差異点を過小に評価したものというべきことは、前記3(一)に判断したとおりであり、更に、両意匠には、これ又外観上最も目につく部位の一つである左右両側面壁部の上辺及び左右両側面壁部の上辺と正背面の壁部の上辺の接する角部の具体的構成態様に差異がある結果、別異の印象を看者に与えるもので、左右両側面の壁部の差異は、極めてわずかな差であつて、両意匠を特に別異のものとするほどのものでもないとする本件審決の認定判断は、事実を誤認し差異点を過小に評価したものというべきであることは、前記3(二)に判断したとおりであるから、本願意匠と引用意匠を全体として観察すれば、その差異点は、前記の一致点を凌駕して、看者に別異感を与えるに至つているものと認められる。

したがつて、本願意匠が全体として引用意匠に類似するものとした本件審決の認定判断は誤りである。

5 被告は、「本願意匠の意匠に係る物品の「包装用皿」の主な使用目的が、刺身等の生鮮食料品を盛り、ラツプをかけ、内容物を販売するために店頭に陳列することにあること等から、本願意匠においては、見る者の目の位置は、真上又は斜め上であり、視点は皿の平面外郭形と壁部を含めた皿の内側の態様に向けられるものである。ところが、原告は、本願意匠及び引用意匠の形態について見る者の注意をほとんど惹かない部位である皿の外側の下辺を基準として壁部上辺の態様を、本願意匠の「正背面の壁部は上下辺が平行状で・・・」とか、引用意匠の「正背面の壁部は、上下辺を・・・」と主張している。このような主張は、見る者の眼の位置が下辺とほぼ同じ高さで横方向の位置にあるときに視認できる態様であり、一般需要者と異なる見方に基づくものであり、誤りである。」旨主張する。

しかし、本願意匠に係る物品である包装用皿が流通し、使用される態様には、被告主張のように内容物を販売するために店頭に陳列される場合ばかりでなく、そのような形態に内容物を包装するスーパー、小売店等の業者に販売される場合もあることは、一般常識として容易に想定されるところである。この場合、それらの業者は、物品を至近距離で種々の方向から観察するから、壁部四周及び底部の態様も含めて、その意匠の形態を認知するのが普通であると認められる。次に、本願意匠に係る物品である包装用皿に販売すべき商品を載置して展示し消費者に販売する場合も、包装用皿の需要者でもある消費者が、種々の位置に陳列された状態のまま、又は、包装用皿を手にとつて至近距離で種々の方向から、四周の壁部及び底部の態様も含めてその意匠の形態を認知することがあり、これらの場合、真下から見ることは稀であるとしても、正背面壁部の下辺又は左右の側面の下辺が見える方向から見ることがあることも当裁判所に顕著である。

したがつて、皿の外側の下辺は、本願意匠及び引用意匠の形態について見る者の注意をほとんど惹かない部位であるとして、皿の外側の下辺を基準として壁部上辺の態様を主張するのは誤りであるとする、被告の主張は採用できない。

また、被告は、本願意匠の柾目模様は、他の構成要素が有する新規性創作性を希釈化する要素であると主張するが、本願意匠の具体的構成を全体として観察すれば、右主張のように判断することはできない。

三 よつて、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本件請求は正当であるからこれを認容する。

〔編注1〕本件の特許庁における手続の経緯は左のとおりである。

訴外旭ダウ株式会社は、意匠に係る物品を「包装用皿」とする別紙第一記載のとおりの構成態様の意匠(以下「本願意匠」という。)につき、昭和五六年二月二七日意匠登録出願(昭和五六年意匠出願第七四八八号)をしたが、その後、右出願人が訴外旭化成株式会社と合併したことにより本願意匠の意匠登録を受ける権利は同社に承継され、更に昭和六一年三月二四日、原告が同社から本願意匠の意匠登録を受ける権利の譲渡を受け、同年五月七日、その旨を特許庁長官に届け出たものであるところ、昭和六一年七月一七日に拒絶査定を受けたので、同年一〇月二〇日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、右請求を同庁同年審判第二〇八八六号事件として審理した上、平成元年六月七日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は、同年七月五日、原告に送達された。

二 本件審決の理由の要点

1 本願出願の日及び本願意匠の意匠に係る物品及びその全体としての構成態様は一項のとおりである。

2 査定手続における拒絶の理由として引用した意匠は、本願の先願に係る昭和五四年意匠登録願第四八八三〇号の意匠であつて、願書及び願書に添附された図面等の記載全体から、意匠に係る物品を「包装用容器」とし、意匠に係る形態を図面等によつて現したものであり、その全体としての構成態様を別紙第二に示すとおりにしたもの(以下「引用意匠」という。)と認める。

3 両意匠を比較する。

意匠に係る形態について、両者は、まず、全体を平底舟形の浅い長方形皿状とした点、正背面、左右両側面の壁部を下方へ向かつてテーパー状とした点、正背面の壁部上面中央付近を浅く刳つた点等、各部の基本的形状及びそれらによつて構成された全体の基本的構成態様がほぼ一致しているものと認められる。

更に、全体の具体的構成態様についても、次の各点に差異が認められるのみであつて、その余の、左右両側面の壁部をやや外側へ弧状に膨出させ、且つ、正背面よりわずかに高いものとした点につきほぼ一致しているものと認められる。

即ち、両意匠は、各部の具体的構成態様のうち、正背面の壁部につき、本願意匠は、刳り部及びそれ以外の部位の上面を直線状としているのに対し、引用意匠は、わずかに上方へ向かつて突弧状に膨出したものとしている点、左右両側面の壁部上面につき、本願意匠は、わずかに凹弧状としているのに対し、引用意匠は、わずかに突弧状としている点等に差異が認められ、その他、本願意匠は、全面に柾目模様を表しているのに対し、引用意匠は何も表していない点にも差異が認められる。

4 以上の一致点、差異点等を総合して両意匠を全体として考察するに、前記の差異点は各部の具体的構成態様のうちの一部分あるいは細部等における差異と認められるものである。

即ち、正背面の壁部の差異は、引用意匠が上方へ向かつて突弧状に形成しているとしても、それは極めてわずかなものであつて、直線状との差はほとんどなく微差と認められるものであり、左右両側面の壁部の差異も、凹弧状、突弧状ともそれぞれ極めてわずかな差であつて、特に別異のものとするほどのものでもなく、その他、柾目模様の有無についても、この模様自体、従来より極めてありふれたものであり、それを単に全面に表したにすぎないものであるから何ら創作性も認められず、従つて、何れの差異も前記の一致点を凌駕して看者に別異感を与えるまでには未だ到つていないから、全体の具体的構成態様を著しく変更したと認められるほどの差異ということはできない。

5 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠と前記の各点につき差異が認められるものであるが、その余において前記のとおり一致点が認められるものであり、全体として引用意匠に類似するものと認められる。

従つて、本願意匠は、意匠法第九条第一項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができない。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙第一(出願意匠)

<省略>

<省略>

別紙第二(引用意匠)

<省略>

<省略>

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