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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)194号 判決 1991年5月28日

アメリカ合衆国

ニュージャージ州 〇八五四〇 プリンストン インデペンデンス・ウェイ 二

原告

アールシーエー ライセンシング コーポレーション

右代表者

ピーターエム エマニュエル

右訴訟代理人弁理士

田中浩

荘司正明

木村正俊

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 植松敏

右指定代理人

大橋公治

今井健

宮崎勝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六〇年審判第一五五六八号事件について平成元年四月一三日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二  被告

主文一、二項と同旨の判決。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

出願人 アールシーエー コーポレーション

出願日 昭和五五年一一月一二日(昭和五五年特許願第一六〇〇八六号)

優先権主張 一九七九年一一月一五日アメリカ合衆国出願

発明の名称 「カラー映像管」

拒絶査定 昭和六〇年三月一日

審判請求 昭和六〇年七月二九日(昭和六〇年審判第一五五六八号事件)

名義変更届 昭和六三年一〇月二〇日(一九八七年一二月八日原告への権利譲渡)

審判請求不成立審決 平成元年四月一三日

二  本願発明の要旨

垂直及び水平の偏向磁界が形成されるようにされた偏向領域を通り、表示面に向って同一平面上の経路を進む中央ビーム及び二本の外側ビームより成る三本の電子ビームを発生射出するインライン型電子銃を具備し、この電子銃は、右三本の電子ビームに対応する三個の開孔を有する電極部分と、右両外側ビームのそれぞれ上側と下側とに在って右開孔のうち中央のものの水平方向寸法よりも小さな相互水平方向間隔を呈するように右中央ビーム近傍まで延伸し右電子ビームの垂直偏向角の増大につれて右中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響を非直線的に増大させるためのほぼ水平方向に延長する四個の透磁性部材とを有することを特徴とするカラー映像管(別紙図面一参照)。

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  一方、特開昭五二-一一六〇二〇号公報(以下、「引用例」という。)には、インライン型電子銃を具備したカラー映像管が記載されている。

そして、右電子銃は、垂直及び水平の偏向磁界を通って表示面に達する中央ビーム及び二本の外側ビームの合わせて三本の電子ビームを射出し、これらビームに対応する三個の開孔を有する電極部分を有し、右両外側ビームのそれぞれ上側及び下側に在って両外側ビームに対する垂直偏向磁界の影響を弱め、中央ビームに対する同磁界の影響を強めるための水平方向に延びた四個の透磁性部材を有している(別紙図面二参照)。

3  本願発明と引用例に記載された発明とを対比すると、次の点で相違点が認められる。

すなわち、本願発明では、右四個の透磁性部材間の水平方向の間隔が電極部分の中央開孔の水平方向寸法(直径)より小さくなるように、右透磁性部材を中央ビーム近傍まで延伸し、それにより電子ビームの垂直偏向角の増大につれて右中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響が非直線的に増大するようにしている。

これに対し、引用例には、右四個の透磁性部材間の水平方向の間隔が電極部分の中央開孔の直径よりも大きいものしか例示されておらず、また、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の非直線的影響についても言及されていない。

しかし、その他の点では両者は共通している。

4  そこで、右相違点について次に検討する。

引用例には、右透磁性部材の果たす機能について、「本来両サイドビーム放出孔及び付近を通るべき垂直偏向磁界の磁束の大部分は磁界制御素子(本願発明でいう透磁性部材)によって吸収され、この付近の垂直偏向磁界強度は磁界制御素子がない場合に比べてかなり弱くなる。またいったん吸収された磁束は中央ビーム放出孔付近で放出され、この付近の垂直偏向磁界強度は、磁性制御素子がない場合に比べてかなり強くなる」(九六頁右上欄一九行ないし左下欄八行)旨記載されている。

偏向磁界の強度が強くなるのは、中央開孔付近で磁束密度が高まる結果であるが、この磁束は水平方向に置かれた透磁性部材の一方から放出され、他方に吸収されるため、その磁束密度は、透磁性部材が水平方向に対向する位置で最も高く、そこから垂直方向に離れる程低くなることは明らかである。

したがって、引用例の場合でも、本願発明と同様に、中央ビームに対する右磁界の影響は、垂直偏向角が増大し、ビームが透磁性部材の水平方向に対向する位置に近付く程、非直線的に増大するものと認められる。

また、引用例には、「磁界制御素子の垂直偏向磁界と平行な方向(即ち、水平方向)の長さを長くする事によってコマ収差補正量を増大させることができる」(九七頁左欄七行ないし一一行)ことが記載されているから、補正量の増大を必要とするときに、中央開孔付近の磁界強度を更に強めるため、透磁性部材の長さを相互の水平方向の間隔を狭める方向に延ばすことは当然考えられることであり、その場合に右影響の非直線化が更に強まることも当然予想されることである。

本願発明では透磁性部材の水平方向の間隔を電極部分の中央開孔の直径よりも小さくしているが、適正な補正量を得るために、その必要があれば、透磁性部材の長さを本願発明と同程度に延ばすことは引用例の右記載が示唆しており、また、それ程の補正を必要としないときに、本願発明の長さの透磁性部材を用いた場合には、補正の目的を達成することができない。

したがって、本願発明において、透磁性部材の水平方向の間隔と右中央開孔の直径との関係を規定した点には格別の意義を見出すことができない。

5  以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

1  審決の理由の要点1ないし3は認める。同4のうち、引用例の場合でも、本願発明と同様に、中央ビームに対する右磁界の影響は、垂直偏向角が増大し、ビームが透磁性部材の水平方向に対向する位置に近付く程、非直線的に増大するものと認められるとの点、引用例記載の発明において補正量の増大を必要とするときに、中央開孔付近の磁界強度を更に強めるため、透磁性部材の長さを相互の水平方向の間隔を狭める方向に延ばすことは当然考えられることであり、その場合に右影響の非直線化が更に強まることも当然予想されることであるとの点、適正な補正量を得るために、その必要があれば、透磁性部材の長さを本願発明と同程度に延ばすことは引用例の記載が示唆しているとの点、及び、本願発明において、透磁性部材の水平方向の間隔と右中央開孔の直径との関係を規定した点には格別の意義を見出すことができないとの点は否認し、その余は認める。同5は争う。

審決は、後記2のとおり引用例に記載された技術内容を誤認したために、両発明の相違点についての判断を誤り、本願発明は引用例に記載された発明に基づいて容易に発明することができたとの誤った結論を導いたものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

2(一)  引用例記載の発明における磁界の増大の態様に関する誤認(引用例の誤認(一))

(1) 引用例記載の発明は、その第4図(別紙図面二第4図)に例示された形のコマ収差を、第6図(同第6図)に示された四個の磁界制御素子15、16、22及び23により両サイドビーム放出孔12、14付近の垂直偏向磁界強度を弱め中央ビーム放出孔13付近の垂直偏向磁界の強度を強めて補正するもので、引用例は、右のコマ収差が垂直偏向角の増大とともに非直線的に増大すること及び右の磁界制御素子が中央ビームに好する垂直偏向磁界の影響を非直線的に増大させることについては、言及も示唆もしていない。すなわち、引用例記載の発明においては、垂直偏向角の増大とともに非直線的に増大するコマ収差の存在と、それを中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響を同じく非直線的に増大させる透磁性部材によって補正する思想について、何の認識もない。

それは、第6図から明らかなように、四個の素子の水平方向間隔が各ビーム放出孔の寸法に比して極めて大きいため、その間に形成される磁界(磁束密度)は中央ビームからみて垂直偏向方向に非直線的というよりは直線的に増大する部分を利用していると考えるほうが自然であること、また、補正されるべき第4図のコマ収差は増大特性に特別の説明のないことから直線的に増大するとみられるところ、仮に右垂直偏向磁界の強度を非直線的に増大する部分を利用するというのであれば直線的に増大するコマ収差を適性に補正することが不可能となることからも明らかである。

したがって、偏向磁界の強度が強くなる理由についての技術的解析結果がどうであれ、「引用例の場合でも、本願発明と同様に、中央ビームに対する右磁界の影響は、垂直偏向角が増大し、ビームが透磁性部材の水平方向に対向する位置に近付く程、非直線的に増大するものと認められる」との審決の認定は誤りである。

(2) なお、原告は、引用例の右第6図において、磁界制御素子により中央ビーム放出孔付近に形成される垂直偏向磁界の強度が垂直偏向角の増大の方向に非直線的に増大していること自体を否定するものではないが、引用例記載の発明は、本願出願前のものがそうであったように、コマ収差は垂直偏向角の増大に伴って直線的に増大するものとし、その補正は同じく事実上直線的に増加する垂直偏向磁界によって行う思想、或いはコマ収差と垂直偏向磁界の変化の詳細な態様には関心を払わずに単に中央ビームに対する垂直偏向磁界強度を強めて補正する思想に基づくものとしか読み取れないため、審決の右認定は本願発明の進歩性を否定する根拠としては不適切であり、誤りであると主張するものである。

また、乙第一、二号証の各一ないし三には後記の被告の主張どおりの記載が存することは争わない。しかしながら、これら記載は、単に数理的に表わせば非直線的な傾向にあることを示すだけで、引用例記載の発明における中央ビーム放出孔付近の垂直偏向磁界強度が、偏向角の増大とともに非直線的に増大するコマ収差を有効に補正し得る程度に、偏向角の増大に伴って非直線的に増加することを示しているということはできない。

(二)  引用例記載の発明におけるコマ収差補正量の増大手法とそれによる磁界の増大の態様に関する誤認(引用例の誤認(二))

引用例記載の発明において、垂直偏向角の増大とともに非直線的に増大するコマ収差の存在と、それを中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響を同じく非直線的に増大させる透磁性部材によって補正する思想について何の認識もないことは、前記のとおりであるから、コマ収差補正量増大化のために磁界制御素子の長さを長くしたとしてもそれは単に中央ビーム放出孔付近の磁界の利用部分の直線的増大の量を大きくするに止まり、利用部分の磁界の影響の非直線的増大が実現していると認められない(なお、磁界制御素子の長さを長くしてコマ収差補正量を増大させる効果は、制御素子の長さを相互の水平間隔を狭める方向に延ばすことによって生ずるのは当然であるが、これとは反対の方向、すなわち水平方向外側にそれぞれ延ばした場合にもその効果が生ずることも予想されるものである。)。そして、引用例には、コマ収差補正量を増大させる方法として、磁界制御素子の垂直偏向磁界と平行な方向の長さを長くする方法と管軸方向の長さを長くする方法の二つがあることが記載されているところ、後者の方法によっては磁界増加の非直線化が強まることはないから、これと同格に記載された前者の方法に非直線化増大の意図があるとは認められない。

また、本願発明では、中央ビームに対する磁界の影響の非直線的増大を透磁性部材(引用例の磁界制御素子)の水平方向間隔を狭め中央ビームに右部材の先端を近付けることにより実現しているが、引用例は、単に磁界制御素子の長さのみをいうだけで、その水平方向間隔については関心を示していない。

したがって、「補正量の増大を必要とするときに、中央開孔付近の磁界強度を更に強めるため、透磁性部材の長さを相互の水平方向の間隔を狭める方向に延ばすことは当然考えられ、その場合に右影響の非直線化が更に強まることも当然予想されることである」との審決の認定は誤りである。

(三)  引用例は透磁性部材の長さを本願発明と同程度に延ばすことを示唆しているとする認定の誤り(引用例の誤認(三))

引用例は、透磁性部材の長さを長くすることは示しているものの、本願発明と同程度に延ばすこと、すなわち、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響を非直線的に増大させるためにその水平方向間隔が中央開孔寸法よりも小さくなるよう中央ビーム近傍まで延伸させることは、全く示唆していない。

また、引用例には、透磁性部材間の水平方向間隔を中央開孔の水平方向寸法よりも小さくしなければ必要なコマ収差補正量が得られない程のコマ収差が発生していること、その時のコマ収差の増大の態様は非直線的であり、一方、右部材間に成形される垂直偏向磁界の増加態様も非直線的であって、互いに適合すること、右透磁性部材間の水平方向間隔を中央開孔の水平方向寸法よりも小さくしても他に弊害を及ぼさないことについて全く記載がない。

したがって、同示唆があるとする審決の認定は、引用例の技術内容を誤認している。

(四)  本願発明の透磁性部材の水平方向間隔と中央開孔の水平方向寸法との関係の意義に関する誤認(引用例の誤認(四))

本願発明は、引用例に全く記載も示唆もされていない、偏向角の増大に伴って非直線的に拡大するコマ収差をビームに対する偏向磁界の影響を偏向角の増大につれて非直線的に増大させて補正する考えを基本とするものであるから、その考えを実現するための透磁性部材の水平方向間隔と中央開孔の水平方向寸法との関係を規定した点には、充分な技術的意義がある。

確かに、被告が後述するとおり、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響は中央開孔の水平方向寸法には無関係であり、右の影響が垂直偏向角の増加に伴って非直線的に増大する現象も透磁性部材相互の水平方向間隔を中央開孔の水平方向寸法より小さく設定した場合にはじめて生ずるというものではない。しかし、垂直偏向角の増大に伴って非直線的に増大するコマ収差を補正するためには、電子ビームの垂直偏向角の増大につれて中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響を非直線的に増大させる必要があり、そのため透磁性部材の水平方向間隔を狭めなければならないところ、その狭める程度の目安として、従来は踏み込むことのなかった中央開孔の水平方向寸法よりも小さな範囲まで右部材を延長してはじめて右の必要性が満足されることを特許請求の範囲はいっているのである。しかも、電極に設けられるビーム開孔の寸法は、電子銃の設計上自ずから決定され、無制限に大きく、或いは小さく設計できるものではないから、右の限定には技術的意義がある。すなわち、右部材の間隔と中央開孔の水平方向寸法との関係は、短なる機械的寸法関係としてではなく、透磁性部材が呈する作用と組み合わせて考えるべきである。

(五)まとめ

以上の理由により、審決は、引用例に記載された技術内容を誤認したために、両発明の相違点についての判断を誤り、本願発明は引用例に記載された発明に基づいて容易に発明することができたとの誤った結論を導いたものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決にはこれを取り消すべき違法はない。

二1  引用例の誤認(一)について

本願発明の願書添付の明細書(以下、「本願明細書」という。)には、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響が垂直偏向角の増加に伴い非直線的に増大するメカニズムについて記載されているところ、そのメカニズムはそのまま引用例記載の発明の場合にも該当するから、引用例記載の発明においても、本願発明と同様に、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響は垂直偏向角の増加に伴って非直線的に増大する筈である。

すなわち、本願明細書には、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響が垂直偏向角の増加に伴い非直線的に増大する理由について、「中央ビームGの近傍において磁力線が棒と棒の間で外側に屈曲する。中央ビーム近傍における磁力線のこの屈曲の結果、磁力線は乱されない状態に向かって若干収縮される。棒により生じるこの作用によって、外側ビームに対する垂直偏向磁界の効果が減じられ、中央ビームに対する相対効果が強められる。しかし三本のビームが垂直に偏向角を増すにつれて中央ビームが通過する磁力線の数が増大するため、中央ビームに対する垂直偏向磁界の効果は非直線的に増大するが、外側ビームの通過する磁力線の数は減少するため、外側ビームに対する垂直偏向磁界の効果は非直線的に減少する。従って結局ビームの垂直偏向角が増大すると中心ビームのラスタが外側ビームのラスタに対して非直線的に増大する。」と記載されている(八頁末行ないし九頁一五行)。一方、引用例には、両サイドビーム放出孔付近を通るべき垂直偏向磁界の磁束の大部分は磁界制御素子によって吸収され、また、いったん吸収「された磁束は中央ビーム放出孔付近で放出される旨の記載があり(二頁右上欄末行ないし左下欄六行)、これらの磁束の吸収、放出の結果、中央ビーム放出孔の近傍に一方の磁界制御素子から他方の磁界制御素子に向かう外側に屈曲した磁力線の分布が形成されることは明らかである。そのため、引用例記載の発明の場合にも、ビームが垂直偏向角を増すに連れて、中央ビームの通過する磁力線の数は増大し、他方、外側ビームの通過する磁力線の数は減少し、その結果、中央ビームに対する垂直偏向磁界の効果は非直線的に増大し、外側ビームに対する垂直偏向磁界の効果は非直線的に減少する。したがって、非直線の程度はともかくとして、引用例記載の発明の場合でも、垂直偏向角の増加に伴い中心ビームのラスタは外側ビームのラスタに対して非直線的に増大することは明白である。。

また、乙第一号証の一ないし三(最新の磁気記録・電気通信学会昭和三七年二月二五日発行)五頁には、距離gの空間を隔てて透磁性部材がx方向に対向しているとき、x方向と直交するz方向の距離Zと磁界の強さHX(Z)との間にHX(Z)/Hg=2/π・cot-1(2Z/g)の関係が成り立つことが記載されている(但し、Hgは透磁性部材の空間表面の磁界の強さ)。同号証六頁の図3は、右式の関係を図示したものであるが、同図から明にかなように、z方向の距離Zが小さくなる程、磁界の強さHX(Z)は非直線的に増大している。更に、乙第二号証の一ないし三(磁気記録・共立出版株式会社昭和五二年一一月三〇日発行)二二頁の図2・12には、右空間の距離gを変えた場合の右式の関係が図示されているが、同図から明らかなように、透磁性部材間の距離gが大になる程、磁界の強さの非直線性は弱まるものの、非直線性は保持されている。そして、以上の関係が透磁性部材、空隙等を相似的に拡大した場合にも成り立つことは、同号証三六頁二三行ないし三七頁一〇行の記載が明確に示している。

2  引用例の誤認(二)について

引用例の第6図のように透磁性部材が配置されている場合、コマ収差補正量を増大させるためには、引用例の第7図に図示された中央ビーム放出孔の位置における磁界強度を更に高めなければならないから、補正量の増大を図るために透磁性部材の長さを延ばすとすれば、透磁性部材相互の水平方向の間隔を狭める方向に延ばすことは自明の事項にすぎない。

また、透磁性部材相互の水平方向の間隔を狭めた場合に、垂直偏向磁界の影響の非直線化が強まることは、前述のとおり、乙第二号証二二頁の図2・12が示しているから、この点を当然予想されるとした審決の認定に誤りはない。

3  引用例の誤認(三)について

引用例は、コマ収差補正量の増大を必要とするときに透磁性部材相互の水平方向の間隔を狭める方向に透磁性部材の長さを延伸することを示唆しているが、その際の延伸の限界については何ら言及していないから、引用例は透磁性部材の長さを所要のコマ収差補正量が得られるまで透磁性部材相互の水平方向の間隔を狭める方向に延伸することを示唆しているとみるのが自然の解釈である。したがって、引用例記載の発明において、透磁性部材相互の水平方向の間隔を中央開孔寸法よりも小さくしなければ必要なコマ収差補正量が得られない場合には、本願発明と同様に、透磁性部材相互の水平方向の間隔を中央開孔寸法よりも小さくすることを、引用例は示唆しているものと認められる。

4  引用例の誤認(四)について

中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響は、透磁性部材相互間の間隔には依存するが、中央開孔の水平方向寸法には無関係であり、中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響が垂直偏向角の増加にともなって非直線的に増大する現象も、透磁性部材相互の水平方向の間隔を中央開孔の水平方向寸法よりも小さく設定した場合にはじめて生ずるというものではない。したがって、透磁性部材の水平方向の間隔と中央開孔の水平方向寸法との関係を規定した点には格別の技術的意義は認められない。

また、透磁性部材間の水平方向の間隔と中央開孔の水平方向寸法より小さく設定する場合には、中央開孔の水平方向寸法より大きく設定したものより当然コマ収差補正量は増大するが、その補正量がカラー受像管の必要とするコマ収差補正量を超える場合には、適正な補正ができない。すなわち、右水平方向の間隔は補正すべきコマ収差補正量に合わせて設定すべきであり、中央開孔の水平方向寸法より小さくしたからといって、良好な結果が得られるものとはいえない。このような点からも、右関係を規定した点に格別の技術的意義を認めることはできない。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本願発明の概要

いずれも成立に争いのない甲第二、三号証(本願発明の出願当初の明細書及び図面及び手続補正書。以下、これらを総称して「本願明細書」という。)によれば、本願発明は、進歩したインライン型電子銃を有するカラー映像管、特に管内にラスタ寸法の非直線状補正(非線形コマ補正とも呼ぶ)手段を有する改良型電子銃に関する発明であること、インライン型電子銃は同一平面上に三本の電子ビームを発生させ、これらのビームをその平面上の集中経路に沿って表示面近傍の点または微小領域に集中させるように設計されたものであるが、インライン型電子銃を有するカラー映像管に存する問題はコマ歪、すなわち外部の磁気偏向ヨークにより三本のビームが表示面上に走査する三つのラスタの寸法がヨーク中心に対する二本の外側ビームの偏心のために異なることであること、この問題の解決のための方法として各種の発明がなされていること、しかしながら、映像管の中にはコマの高さが表示面上のビーム偏向とともに非直線的に増大するものがあることが判っているが、従前のコマ補正装置は全て直線的に増大するコマしか補正できないため、このような非直線的に増大するコマを非直線的に補正するコマ補正部材が必要であるところから、本願発明は、同一平面上の経路に沿って表示面へ向かう一本の中心ビームと二本の外側ビームからなる三本の電子ビームを発生射出するインライン型電子銃を有し、この三本のビームは垂直及び水平の偏向磁界が加わるようにされた偏向領域を通るものであるが、ビームの垂直偏向角を増すことにより中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響を非直線的に増加させる手段として、前記発明の要旨のとおりの構成を採用したものであることが認められる。

三  引用例記載の発明の概要

成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例記載の発明は、インラインカラーテレビジョン受像機において、コンバーゼンス補正回路を省略することができ、ピン歪補正量を軽減することのできる偏向磁界制御素子付カラー受像管に関するものであること、インラインカラーテレビジョン受像機においては、水平偏向磁界をピン磁界に、垂直偏向磁界をバレル磁界にすることにより、両外側ビーム間の色ずれを減少させており、コンバーゼンス補正回路が単純化される長所があるが、非斉一磁界を使用しているために中央ビームに対する偏向感度が両外側ビームに対する偏向感度より悪くなるという欠点があり、第2図(別紙図面第2図)のようなパターンのコマ収差の現象が生ずるが、従来は第3図(同図面第3図)に示されるような磁界制御素子を電子銃の電子ビーム放出孔の直後に設けることにより偏向磁界を非斉一磁界にしたことによる中央ビームの偏向感度の劣化を補正し、画面上にコマ収差のないパターンを得ていること、インラインカラーテレビジョン受像機において、コンバーゼンス補正回路を省略しようとしたり、左右ピン歪補正量を軽減しようとして偏向ヨークの種類や磁界分布を様々に変化させると、右目標を達成することのできる偏向ヨークとインラインカラー受像管の組み合わせに対してコマ収差のパターンが必ずしも第2図(同図面第2図)に示されるようなパターンでなく、第4図(同図面第4図)或いは第5図(同図面第5図)のようなパターンとなる場合があり、この場合には第3図(同図面第3図)に示されるような従来技術による磁界制御素子は使用できず、新しい磁界制御素子が必要となること、引用例記載の発明は、右従来技術の欠点をなくし、中央ビーム及び外側ビームの水平偏向感度には影響を与えずに、外側ビームと中央ビームに対する垂直偏向感度の差を解消する垂直偏向磁界制御素子付カラー受像管を提供することにあり、第6図(同図面第6図)の実施例に示すごとく、インライン電子銃を有するカラー受像管において垂直偏向磁界方向には長く、水平偏向磁界方向には短い磁界制御素子を電子銃のビーム放出孔付近に設け、垂直偏向磁界の強度分布を変化させることによってその付近における外側ビームに対する垂直偏向磁界の強度と中央ビームに対する垂直偏向磁界の強度とを互いに異ならせるものであることが認められる。

四  取消事由に対する判断

1  本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、本願発明では、右四個の透磁性部材間の水平方向の間隔が電極部分の中央開孔の水平方向寸法(直径)より小さくなるように、右透磁性部材を中央ビーム近傍まで延伸し、それにより電子ビームの垂直偏向角の増大につれて右中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響が非直線的に増大するようにしているのに対し、引用例には、右四個の透磁性部材間の水平方向の間隔が電極部分の中央開孔の直径よりも大きいものしか例示されておらず、また、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の非直線的影響についても言及されていない点で相違するが、その他の点、すなわち、垂直及び水平の偏向磁界が形成されるようにされた偏向領域を通り、表示面に向って同一平面上の経路を進む中央ビーム及び二本の外側ビームより成る三本の電子ビームを発生射出するインライン型電子銃を具備し、この電子銃は、右三本の電子ビームに対応する三個の開孔を有する電極部分と、右両外側ビームのそれぞれ上側と下側とに在って中央ビーム近傍まで延伸し右電子ビームの垂直偏向角の増大につれて右中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響を増大させるためのほぼ水平方向に延長する四個の透磁性部材(引用例では磁界制御素子)とを有することを特徴とするカラー映像管である点では共通していることについては、当事者間に争いがない。

2  前掲甲第二、第三号証によれば、本願明細書には「垂直偏向磁界の一部を形成する水平磁束線が棒(高透磁性部材材料より構成される幅より長さが実質的に長い真直ぐな棒状素子。以下、同様である。)46、48、50、52の外端部に引きつけられ、これによって二本の外側ビームB、Rから磁界の一部が分離される。……しかし中央ビームGの近傍において磁力線が棒と棒の間で外側に屈曲する。中央ビーム近傍における磁力線のこの屈曲の結果、磁力線は乱されない状態に向かって若干収縮される。棒により生じるこの作用によって、外側ビームに対する垂直偏向磁界の効果が減じられ、中央ビームに対する相対効果が強められる。しかし三本のビームが垂直に偏向角を増すにつれて中央ビームが通過する磁力線の数が増大するため、中央ビームに対する垂直偏向磁界の効果は非直線的に増大するが、外側ビームの通過する磁力線の数は減少するため、外側ビームに対する垂直偏向磁界の効果は非直線的に減少する。従って結局ビームの垂直偏向角が増大すると中心ビームのラスタが外側ビームのラスタに対して非直線的に増大する。」と記載されている(八頁末行ないし九頁一五行)ことが認められ、一方、前掲甲第四号証によれば、引用例には「本来両サイドビーム放出孔12および14付近を通るべき垂直偏向磁界の磁束の大部分は磁界制御素子15、16、22および28によって吸収され、この付近の垂直偏向磁界強度は磁界制御素子がない場合に比べてかなり弱くなる。また、いったん吸収された磁束は中央ビーム放出孔13付近で放出され、この付近の垂直偏向磁界強度は磁界制御素子がない場合に比べてかなり強くなる。」と記載されている

(二頁右上欄末行ないし左下欄八行)ことが認められる。これらの記載からみて、本願発明の透磁性部材及び引用例記載の発明における磁界制御素子は、共にインライン型映像管において外側ビームに対する垂直偏向磁界の効果を減じ中央ビームに対する垂直偏向磁界の効果を強める作用効果を有するものであり、垂直偏向磁界の中に設置され該垂直偏向磁界により磁化された四個の長方体の磁性体として、整合配置された磁性体相互の水平方向間隔の空間領域(中央ビーム放出孔付近)に、水平方向に対置する一方の磁性体から他方の磁性体に向かう外側に屈曲した磁力線の分布を形成する点で共通していることは明らかである。

ところで、引用例の第6図に示された実施例においても、その程度は別として、本願発明におけると同様に磁界制御素子により中央ビーム放出孔付近に形成される垂直偏向磁界の強度が垂直偏向角の増大の方向に非直線的に増大していること自体については、当事者間に争いがない。そして、いずれも成立に争いのない乙第一、二号証の各一ないし三によれば、距離gの空間を隔てて透磁性部材がx方向に対向しているとき、x方向と直交するz方向の距離Zど磁界の強さHx(Z)との間にHx(Z)/Hg=2/π・cot-1(2Z/g) の関係が成り立ち(但し、Hgは透磁性部材の空間表面の磁界の強さ)、x方向と直交するz方向の距離Zが小さくなる程、磁界の強さは非直線的に増大すること、空間の距離gを変えた場合、透磁性部材間の距離gが大になる程、非直線性は保持されているものの、磁界の強さの非直線性が弱まるものであることは周知の事柄であると認めることができる。

3  引用例に「磁界制御素子の垂直偏向磁界と平行な方向(即ち、水平方向)の長さを長くする事によってコマ収差補正量を増大させることができる」ことが記載されている点については当事者間に争いがない。

ところで、前認定によれば、引用例記載の発明におけるコマ収差の補正は、垂直偏向磁界の中に整合配置された四個の磁界制御素子の水平方向間隔の空間領域(中央ビーム放出孔付近)に、水平方向に対置する一方の磁界制御素子から他方の磁界制御素子に向かう外側に屈曲した磁力線の分布が形成されるため、電子ビームの垂直偏向角の増大につれて右中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響が増大することを利用するものであるところ、磁界制御素子相互の水平間隔を狭める方向に磁界制御素子を長くした場合に中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響が増大することについては当事者間に争いがないから、引用例にいう「磁界制御素子の垂直偏向磁界と平行な方向(即ち、水平方向)の長さを長くする事によってコマ収差補正量を増大させる」とは、磁界制御素子の長さを長くして磁界制御素子相互の水平間隔を狭めることをも当然に意味するものであると解する。そして、前掲甲第四号証によるも、引用例には磁界制御素子の長さをどの程度まで長くし得るかについての制約に関する記載の存在は認めちれない。

以上によれば、引用例には、右四個の透磁性部材間の水平方向の間隔が電極部分の中央開孔の直径よりも大きいものしか例示されてはいないが、透磁性部材間の水平方向の間隔を本願発明と同様に電極部分の中央開孔の水平方向寸法より小さくなるように透磁性部材を中央ビーム近傍まで延伸したものも示唆されていると解することができる。

そして、引用例の第6図に示された実施例においても、その程度は別として、本願発明におけると同様に磁界制御素子により中央ビーム放出孔付近に形成される垂直偏向磁界の強度が垂直偏向角の増大の方向に非直線的に増大していることについては前認定のとおりであるところ、引用例記載の発明において、磁界制御素子の長さを長くして磁界制御素子相互の水平間隔を狭めた場合に、右垂直偏向磁界の強度の増大の非直線化傾向が更に強まることは、距離gの空間を隔てて透磁性部材がx方向に対向しているとき、x方向と直交するz方向の距離Zが小さくなる程、磁界の強さは非直線的に増大すること、及び、空間の距離gを変えた場合、透磁性部材間の距離gが大になる程、非直線性は保持されているものの、磁界の強さの非直線性が弱まるものであることが周知の事柄であることからすれば、当業者であれば容易に予想し得ることであると認めるのが相当である。

4  原告は、引用例はコマ収差が垂直偏向角の増大とともに非直線的に増大すること及び磁界制御素子が中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響を非直線的に増大させることについては言及も示唆もしていないとして、「引用例の場合でも、本願発明と同様に、中央ビームに対する右磁界の影響は、垂直偏向角が増大し、ビームが透磁性部材の水平方向に対向する位置に近付く程、非直線的に増大するものと認められる。」との審決の認定は、本願発明の進歩性を否定する根拠としては不適切であり、誤りである旨主張する(引用例の誤認(一))。

しかしながら、前認定の引用例記載の発明の概要によれば、引用例には同記載の発明におけるコマ収差現象は偏向磁界を非斉一磁界にしたことによる中央ビームの偏向感度の劣化が原因であることが記載されていることが認められるから、引用例には、右コマ収差は、非直線的な磁界強度の変化に対応して、垂直偏向角の増大とともに非直線的に増大することが客観的に示唆されていると認めることができる。また、距離gの空間を隔てて透磁性部材がx方向に対向しているとき、x方向と直交するz方向の距離Zが小さくなる程、磁界の強さは非直線的に増大することは周知の事柄であることに鑑みれば、引用例には磁界制御素子が中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響を非直線的に増大させることが具体的には言及されていないとしても、客観的には磁界制御素子の中央ビームに対する垂直偏向磁界の非直線的影響が示唆されていると認めるのが相当である。

したがって、原告の右主張は採用できない。

5  原告主張の引用例の誤認(二)及び(三)については、引用例には、右四個の透磁性部材間の水平方向の間隔を本願発明と同様に電極部分の中央開孔の水平方向寸法(直径)より小さくなるように透磁性部材を中央ビーム近傍まで延伸したものも示唆されているものであり、この場合、垂直偏向角の増大による垂直偏向磁界の強度の増大の非直線化傾向が更に強まることは当業者の容易に予想し得ることであると認めるのが相当であることは前認定(四3)のとおりであるから、原告のこれら主張も理由がない。

6  原告の引用例の誤認(四)の主張について検討する。

(一)  本願発明は、映像管の中にはコマの高さが表示面上のビーム偏向とともに非直線的に増大するものがあることが判っており、従前のコマ補正装置は全て直線的に増大するコマしか補正できないため、このような非直線的に増大するコマを非直線的に補正するコマ補正部材が必要であるところから、ビームの垂直偏向角を増すことにより中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響を非直線的に増加させる手段として、前記発明の要旨のとおりの構成を採用したものであることは、前認定のとおりである。

(二)  ところで、距離gの空間を隔てて透磁性部材がx方向に対向しているとき、x方向と直交するz方向の距離Zと磁界の強さHx(Z)との間にHx(Z)/Hg=2/π・cot-1(2Z/g)の関係が成り立ち(但し、Hgは透磁性部材の空間表面の磁界の強さ)、x方向と直交するz方向の距離Zが小さくなる程、磁界の強さは非直線的に増大すること、空間の距離gを変えた場合、透磁性部材間の距離gが大になる程、非直線性は保持されているものの、磁界の強さの非直線性が弱まるものであること、及び、以上の関係が透磁性部材、空隙等を相似的に拡大した場合にも成り立つことは周知の事柄であることは前示のとおりであるから、垂直偏向角を増すことにより中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響を非直線的に増加させる非直線性の程度と透磁性部材間の距離gの値との間には直接的な関連性があると認めることができるところ、本願発明は、四個の透磁性部材間の水平方向の間隔が電極部分の中央開孔の水平方向寸法より小さくなるように、透磁性部材を中央ビーム近傍まで延伸することを構成要件として、透磁性部材の水平方向間隔と中央開孔の水平方向寸法との関係を規定していることは、前記のとおりである。

(三)  そこで、透磁性部材の水平方向間隔と中央開孔の水平方向寸法との関係を右のとおり規定したことの技術的意義について検討する。

被告が主張するように、中央ビームに加わる垂直偏向磁界の影響は、透磁性部材相互間の間隔には依存するが、中央開孔の水平方向寸法には無関係であり、中央ビームに対する垂直偏向磁界の影響が垂直偏向角の増加にともなって非直線的に増大する現象も、透磁性部材相互の水平方向の間隔を中央開孔の水平方向寸法よりも小さく設定した場合にはじめて生ずるというものではないことは、原告も認めるところである。

そして、前掲甲第二、三号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、透磁性部材相互の水平方向間隔の限定に関する記載として、(1)「上側の二本の棒46、48の水平間隔および下側の二本の棒50、52の水平間隔は実質的に充分小さく、水平に伸びる磁力線がそれらの間で充分に屈曲して中央ビームに磁力線が集中するようになっている。図示の実施例の通り棒の水平間隔は遮蔽カップ44の中央開孔の直径よりも小さい。」なる記載(甲第号二証八頁八行ないし一四行、同第三号証三頁)、及び、(2)偏向型映像管の代表的寸法の例として「部材46、48および50、52相互間の水平間隔…2.54mm」なる記載(同第号二証一〇頁一二行ないし一三行、同第三号証三頁)のみが存在し、その効果の記載としては、代表的寸法の偏向型映像管に関して、(3)「上記の諸元を有する映像管における非直線的な増加(すなわちビームの垂直偏向角の増大に伴なう中央ビームに対する垂直偏向磁界の作用の)の程度は次の通り算定された。すなわち、外側(赤と青用)ビームに対する中央(緑用)ビームの所要コマ補正量を4.1mm(実際の磁界の強さから決定された)とすると、中央ビームの垂直偏向量10、20および30mm点における直線性値からのずれは、夫々0.09、0.28、および0.58mmであった。」なる記載(同第三号証二頁)が存在することが認められるのみである。そして、これら記載のうち、(1)の記載は、透磁性部材相互の水平方向間隔を「中央開孔の直径よりも小さい」とするものであって、本願明細書の特許請求の範囲の記載(本願発明の要旨と同じ。)の中の水平方向間隔に関する「開孔のうち中央のものの水平方向寸法より小さくなるように」との部分と意義を同じくするものであるか否か必ずしも明らかでないだけでなく、右記載だけからは透磁性部材相互の水平方向間隔をその記載のように限定することの技術的意義を知ることはできない。また、(2)の記載においては、中央開孔の水平方向寸法との関連は全く示されていない。更に(3)の記載も、単に本願明細書が代表的寸法の偏向型映像管として示した一実施例におけるのビームの垂直偏向角の増大に伴う中央ビームに対する垂直偏向磁界の作用の非直線的な増加の程度を数値的に示したに過ぎないものであって、透磁性部材相互の水平方向間隔に関して本願発明が規定する要件を満たさないものとの対比、或いは、垂直偏向角の増大に伴い増大するコマ収差の非直線的な増加(なお、本願明細書にコマ収差が垂直偏向角の増大に伴い非直線的に増大するとの点が記載されていないことは前記のとおりである。)の程度との対比については全く考慮されておらず、また、透磁性部材相互の水平方向間隔を電極部分の中央開孔の水平方向寸法より小さくなるように定めた場合に、そうでない場合と比べていかなる顕著な作用効果の差異が生ずるものであるかについては何も触れられてはいない。したがって、本願発明において、透磁性部材の水平方向間隔と中央開孔の水平方向寸法との関係を本願発明の要旨のとおり規定したことによる作用効果上の技術的意義を見出すことはできないものと判断せざるを得ない。

よって、この点に関する審決の判断は正当であり、原告の右主張も理由がない。

7  以上によれば、本願発明の構成は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、本願発明が透磁性部材相互の水平方向間隔を本願発明の要旨のとおりに限定したことには、格別顕著な作用効果を見出すことができないものと認めるのが相当であるから、本願発明の進歩性を否定した審決の認定判断に原告主張の誤りはない。

五  よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めにつき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条及び一五八条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙図面一

<省略>

別紙図面二

<省略>

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