東京高等裁判所 平成元年(行ケ)219号 判決
一 請求の原因一及び二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 取消事由の有無についての判断
1 本願意匠及び引用意匠が、別紙(一)及び(二)に示されたとおりの構成態様からなる意匠であり、本願意匠に係る物品が「柵用支柱」であり、引用意匠に係る物品が「移動柵用支柱」であつて物品の用途が共通したものであること、両意匠は、「円盤状とした台盤部中央に円柱状とした支柱部を立設し、支柱部上端に球状とした頭部装飾体を取り付け、支柱部上方に正面視略L字状としたフツク部を左右対称に設けたものである」という審決認定に係る基本的構成態様が共通していること並びに相違点としては、台盤部、支柱部の径及び台盤部径に対する支柱高の比率の点において審決認定のとおりの相違が認められることは当事者間に争いがない。そして、右当事者間に争いのないところと、本願意匠と引用意匠とを子細に対比検討した結果を総合すると、次のような<1>ないし<5>の相違点のあることが認められる。
(相違点)
<1>円盤状の台盤部の相違
本願意匠では周縁部を台盤の高さの約三分の二とする立上の傾斜面とし、上面を中心に向けて直線状にごく低い円錐台形としているのに対し、引用意匠では周縁部を低くし、上面を中心に向かつて漸次膨出させた円弧面で形成し、支柱部の下端と接合する部分では円柱状にやや立上がつた形態としている。
<2>支柱部の径の相違
支柱部は、本願意匠では下端から上端に向かつて漸次先細り状としているのに対し、引用意匠では上下で径に差がない円柱状である。
<3>頭部装飾体の相違
球状の頭部装飾体は、本願意匠では支柱上端より大きい径の短円柱状の頸部を介して支柱部上端に設けられているのに対し、引用意匠では大き目の球状体が支柱部上端に直結されている。
<4>フツク部の相違
フツク部は、本願意匠では先を丸くした丸棒線材を略L字状に折り曲げ、これを支柱側にやや倒して左右対象に設置したものであるのに対し、引用意匠では付け根が縦長の楕円形で先に行くほど細く円形断面に変わり、その先端に小球形を具え、左右一対のフツク部でU字形を呈する形態となつている。
<5>台盤部径に対する支柱高比の差異
本願意匠では約二・五倍としているのに対し、引用意匠では約二倍としている。
2 ところで、原告は、カタログ「METALDECORATION」(No5)(公知例1)(甲第三号証)及びカタログ「ユニオンメタルデコレーシヨンカタログNo6―1」(公知例2)(甲第四号証)を援用して、審決が本願意匠と引用意匠とに共通した基本的構成態様として認定した「円盤状とした台盤部中央に円柱状とした支柱部を立設し、支柱部上端に球状とした頭部装飾体を取り付け、支柱部上方に正面視略L字状としたフツク部を左右対称に設けた」態様からなるガイドスタンドは本出願前にすでに公知であつたのであるから、右の基本的構成態様が本願意匠と引用意匠との特徴的態様とはみられず、それぞれ本願意匠と引用意匠に含まれた具体的な構成態様の差異こそが看者の注意を惹く支配的部分となるものである旨主張する。しかしながら、審決認定に係る前記の基本的構成態様が引用意匠や本願意匠の出願前に公知であつたとしても、本願意匠の具体的構成態様に看者の注意を惹くべき点がなく、意匠上格別の創作性を認め得るところがなければ、全体的な形態である基本的構成態様が最も看者の目を惹くところとなるものであるから、審決認定に係る基本的構成態様をもつて、本願意匠と引用意匠との特徴的態様の表出とみることができるか否かは、結局、本願意匠の具体的構成態様のうちに看者の注意を惹くべき特徴的部分と評価できる点が存するか否かの検討の結果に係ることになる。そこで、原告の右主張に沿つて、前記各公知例の存否及びその構成態様並びに本願意匠と引用意匠との前記認定の相違点について順次検討を加えることとする。
(一) 成立に争いのない甲第三号証(昭和四三年七月二〇日発行のカタログ「METALDECORATION」No5)及び甲第四号証(昭和四六年二月二〇日発行のカタログ「ユニオンメタルデコレーシヨンカタログNo・6―1」)によれば、別紙(四)(公知例1)及び別紙(五)(公知例2)にみられる形態のガイドスタンドセツトが販売用カタログに記載されていることが認められるので、原告主張のとおり公知例1の「スタンドポール」No・308は昭和四三年七月ころ、また公知例2のうちのNo・1401、407、408等の「ガイドスタンド」は、本願意匠の出願前の昭和四六年二月ころには公知のものであつたことが認められる。右認定に係る公知例にみられる柵用支柱の構成形態も、「円盤状とした台盤部中央に円柱状とした支柱部を立設し、支柱部上端に頭部装飾体を取り付け、支柱部に正面視略L字状としたフツク部を左右対称に設けたものである」点では本願意匠や引用意匠と基本的構成として共通している(この点は当事者も明らかに争わないところである。)が、頭部装飾体について、公知例1、2のものは、これを擬宝殊形(ぎぼし形)とみられるかどうかは措くとして、少なくとも支柱部上端の括れた頸部を介して球体が取り付けられている点で本願意匠や引用意匠と相違し、更に、フツク部についても、支柱部の上端に付けられた帯状の環の側面にフツクを突出させている点で相違していることが認められ、しかも、これら頭部装飾体の形態とフツクの取り付け位置の差異は、看者に対して異なつた美感を与えているといえるから、原告主張のように、これらの相違点を捨象して、右の公知例を本願意匠や引用意匠と一括して「支柱部上端に球状とした頭部装飾体を取り付け、支柱部上方に」フツク部を左右対称に設けたものである点でも共通するとみることは妥当でない。そして、本願意匠と引用意匠に共通した前記審決認定の基本的構成態様に、前記公知例のものと異なつた美感ないし印象を与える要素が認められる以上、引用意匠や本願意匠の出願前に、前掲公知例があつたとしても、前記基本的構成態様を本願意匠や引用意匠の特徴的態様としてみることができるのである。そうであれば、本願意匠の創作性が認められ、引用意匠と類似しないとされるためには、本願意匠の具体的構成態様の中に、引用意匠と共通した基本的構成態様を凌駕し、看者の注意を惹くべき特徴的態様がなければならないことになる。そこで、次に、このような観点から本願意匠と引用意匠との前記認定の各相違点について検討する。
(二) <1>円盤状の台盤部の相違について
前掲甲第三、四号証のほか、成立に争いのない乙第一号証(スタンド灰皿に係る登録第三五一四四九号意匠公報)、乙第二号証の一、二(スタンド灰皿に係る登録第四二一四四五号意匠公報)、乙第三号証(ハンガースタンドに係る登録第四二八五三〇号意匠公報)並びに乙第四号証(安全さく用支柱に係る登録第四六一七三九号意匠公報)を総合すると、本願意匠の台盤部の形態は、柵用支柱その他屋内装飾品の分野において本願意匠の出願前から周知のものあつて、極めてありふれた形態であることが認められ、本願意匠の台盤部は円柱状とした支柱部を立設するためのものとして格別の特徴のあるものとは認められない。したがつて、本願意匠と引用意匠との台盤部における相違点は、看者の注意を惹くところとは認められず、審決の判断のとおり顕著な差異とは到底いえない。
<2>支柱部の径の相違について
前掲甲第三、四号証によれば、本願意匠に係る柵用支柱は、通常、デパート、ホテルなど多数の客の行き交う場所に設置する小道具として用いられるものであつて、高さもたかだか一メートルに満たないものであると認められ、しかも、本願意匠の支柱が先細り状であるとはいえ、その傾斜の度合いは極めて緩やかであるから、一見して看者に対して先細の感じを抱かせるほどにはつきりした傾斜のものとは認められないので、本願意匠を具体的に実施した柵用支柱に接したとしても、審決がいうように「この部分のみを注視したときにはじめて視認される程度の差異」となるものと認められる。この点、原告は支柱部にテーパー柱を用いた構成は、本願意匠が初めてであり、看者の注目を特別に惹く形態であるから、傾斜が大であるか否かは問う必要がないと主張するが、視覚によつて直ちに認識できるだけの傾斜度合いがあつてはじめて本願意匠がテーパー状の支柱として認識されるものであるから、注視したときにはじめて視認される程度の差異をもつて、顕著な差異とみることはできない。原告の右主張は到底採用できない。
<3>頭部装飾体の相違について
前掲甲第三、四号証によれば、柵用支柱の頭部装飾体としては、別紙(三)、(四)にみられるごとくすでに公知のものとして種々の形態があること、本願意匠と引用意匠の頭部装飾体をみると、各種の形態のある中で、ともに「支柱部上端に球状とした頭部装飾体を取り付け」た態様のものとして共通しており、同じ類型に属するものと認められるものであり、かつ、本願意匠では支柱上端より大径の短円柱状の頸部を介して球状体が設けられているものの、右の短円柱状の頸部は小さなものであり、かつ格別特徴のないものであるから、これがあることによつて、前記の「支柱部上端に球状とした頭部装飾体を取り付け」た共通の構成態様から受ける共通の印象が否定される程のものとは認められない。したがつて、この点における差異が極めて顕著なものであるとする原告の主張は採用の限りでない。
<4>フツク部の相違について
前掲甲第三、四号証によると、フツク部についても、すでに公知のものとして種々の形態のあることが認められるが、本願意匠と引用意匠のフツク部は、ともに「支柱部上方に正面視略L字状としたフツク部を左右対称に設けたもの」である点で共通した構成態様のものであるから、子細に対比すれば、本願意匠と引用意匠との間には、原告の指摘するような相違があるとしても、その差異を本願意匠の特徴的な態様とまでみることはできない。本願意匠におけるフツク部の構成には特徴的なところを見出すことはできず、この点については、かえつて引用意匠のフツク部の形態の方に意匠創作上の工夫が窺われる。
<5>台盤部径に対する支柱高比の差異について
柵用支柱の支柱の高さは、せいぜい一メートル程度であることは前記認定のとおりであり、しかも、台盤部の径に対する支柱の高さの比率に相違があるといつても、本願意匠では約二・五倍であるのに対し、引用意匠では約二倍であり比率自体に大きな差があるわけではないから、この点の差異が看者に対して格別に異なつた印象を与える程の違いとはいえず、この点の差異をもつて本願意匠の特徴点とみることはできない。
(三) 右のとおり本願意匠と引用意匠との相違点は、いずれも本願意匠の出願前に普通にみられる、ありふれた態様のものであるか、あるいは意匠としては微細な差異にすぎないものであるから、いずれの相違点にも本願意匠の特徴として評価できるものは見出せない。また、これらの相違点を全体に観察してみても、意匠の創作として格別の評価をなし得る全体的形態としての特徴も認められないから、結局、本願意匠には、審決認定に係る両意匠に共通した前記の基本的構成態様を凌駕して、看者の注目を惹く特徴的態様として評価できる点はないものといわざるを得ない。したがつて、両意匠に共通する基本的構成態様が、両意匠の特徴的態様を表出しているものであり、具体的態様における相違点をもつて本願意匠の特徴的態様と捉えることができないとした審決の判断は正当であり、結局、両意匠は類似するものとした審決の結論には何ら誤りはない。
三 以上のとおりであるから、認定判断を誤つた違法があるとして審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却する。
〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五六年一二月九日、意匠に係る物品を「柵用支柱」とする別紙(一)に示すとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五六年意匠登録願第五四四四六号)をしたところ、昭和五八年五月三一日拒絶査定を受けたので、同年八月二日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和五八年審判第一六九五八号事件として審理した結果、平成元年七月二七日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
二 審決の理由の要点
1 本願意匠は、願書及び願書添付の図面によると、意匠に係る物品を「柵用支柱」とし、別紙(一)に示すとおりとしたものである。
2 これに対して、原審において拒絶の理由に引用した意匠は、昭和四八年一一月七日に特許庁発行の意匠公報所載第三七二一五三号登録意匠であり、別紙(二)に示すとおり、(以下「引用意匠」という。)としたものであり、意匠に係る物品は「移動柵用支柱」である。
3 そこで、両意匠を対比すると、両意匠に係る物品の用途は共通するものと認められ、形態については、次に示す共通点及び相違点を有するものである。
すなわち、
(共通点)
円盤状とした台盤部中央に円柱状とした支柱部を立設し、支柱部上端に球状とした頭部装飾体を取り付け、支柱部上方に正面視略L字状としたフツク部を左右対称に設けたものとした基本的構成態様が共通するものである。
(相違点)
各部の具体的態様において、台盤部につき、本願意匠では周壁面を低い立上りの斜面とし、上面を中心に向かつて漸次膨出させた低い円錐台形状としたものであるのに対し、引用意匠では上面を中心に向かつて漸次膨出させたものとし、曲面状とした裾部分が支柱下端と接合する部分で円柱状にやや立上つたものとしている点、支柱部の径につき、本願意匠では上端と下端では差があり、下端から上端に向かつて漸次先細り状としているのに対し、引用意匠では下端から上端まで同径としている点、台盤部径に対する支柱高の比につき、本願意匠では約二・五倍としているのに対し、引用意匠では約二倍としている点が相違するものである。
4 そこで、両意匠に係る物品が共通するものであることを前提として、前述した共通点及び相違点を総合して、両意匠の類否について考察する。
まず、相違点について案ずるに、円盤状とした台盤部の形状の相違については、いずれも中心に向かつて漸次やや膨出させた低い略円錐台形状を呈している点では共通するものであり、また、本願意匠の台盤部はこの種の物品の台盤部としては出願前からありふれた特徴のないものと認められるから、前掲の相違点は顕著な差異を有するものとは認められない。本願意匠が支柱部において先細り状である点に関しては、この部分のみを注視したときにはじめて視認される程度の差異であつて、特に顕著なものではなく、この点も本願意匠の特徴的態様とは捉え難い。また、台盤部において同様な差異があるにもかかわらず類似する意匠として登録された例(登録意匠第六一〇七九七号、同類似第1号)があることを参酌すると、細部の差異と認められる。台盤部径に対する支柱高比の差異に関しては、これを採り上げて本願意匠の特徴とする程に顕著なものとはいえず、この種の物品において種々の高さとしたものがあることは請求人(原告)提出のカタログからも十分に察することができるから、部分的差異に止まるものと認められる。してみると、前掲のいずれの相違点も両意匠の各形態全体における細部の差異にすぎないものと認められ、これらの相違点をもつて本願意匠の特徴的態様と捉えることは困難である。
5 一方、共通点である両意匠の基本的構成態様は、両意匠の各形態全体を構成する骨格的態様であるとともに、両意匠の特徴的態様を表出しているものであり、共通点及び相違点が前述のように認められることにより共通点が相違点を凌駕することに帰するものと認められるから、両意匠は、類似するものというほかない。
6 したがつて、本願意匠は、意匠法三条一項三号に規定する意匠に該当し意匠登録を受けることができない。
〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。
(一)
<省略>
(二)
<省略>