東京高等裁判所 平成元年(行ケ)262号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 本願考案は、畦造成、修復作業等に用いられる整畦機における畦叩き装置に関する(本願考案の出願公告公報(以下「本願公報」という。)第一欄第一五行、第一六行)。
従来のこの種の装置は、走行機体の後部に連結機構により機枠を連結し、機枠に土盛ロータを設け、走行機体を旧畦に沿つて走行させ、土盛ロータで圃場中の泥土を旧畦上に盛り上げ、この盛土を固定的な畦塗板で撫で付けるか、進行方向前縁を蝶着した畦塗板でその後縁により押し付けるか、又はスキ体で旧畦際の泥土を旧畦上に乗せ、この乗土を叩き体のクランク動作で叩き付ける構成にしたものであるが、土盛効率、畦叩挙動等において満足されたものではなく、強固な畦を得ることができず、またその土盛構造、盛土塗付構造、叩き構造等を各構造毎に検討すると、その各構造の組合わせに一長一短があり最適な畦を得難く、実用性に劣るという不都合があつた(本願公報第一欄一八行ないし第二欄第一四行)。
本願考案は、右の知見に基づき、これらの不都合を解消することを技術的課題(目的)とした(本願公報第二欄第一六行、第一七行)ものである。
(二) 本願考案は、前記技術的課題を解決するため本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)記載の構成(本願公報第一欄第二行ないし第一二行)を採用したものである。
(三) 本願考案は、前記構成により、走行機体を旧畦に沿つて走行すると、<1>回転ロータは泥土を跳ね上げて旧畦上に連続的に盛り上げ効率的な盛土ができ、カバ部材によつて泥土の外方飛散を防止でき、より盛土効率が向上でき、<2>畦機構が駆動し、畦叩体は直線往復畦叩運動し、盛土を叩き締め固め、離泥体は畦叩体の叩面への泥土の付着を確実に防止し、このため強く盛土を締め固めでき、強固な畦を得ることができる(本願公報第四欄第三一行ないし第五欄第一行)という作用効果を奏する。
2 原告は、本願考案と第一引用例記載の考案との相違点(1)、すなわち「畦叩体の作動部を、本願考案が畦叩体を直線往復案内するガイド機構と、畦叩体をガイド機構を介して往復叩動作させる畦叩機構とで構成したのに対し、第一引用例記載の考案が畦叩体を揺振運動させるリンク杆と、畦叩体をリンク杆を介して揺振叩運動させる畦叩機構とで構成した点」についての審決の判断は誤りである旨主張する。
成立に争いのない甲第四号証(第二引用例であるマイクロフイルムの写し)によれば、第二引用例記載の考案は、名称を「水田の畦作り機」とし、従来、人力によつて行われていた水田畦作りを、トラクターにけん引することにより、簡単にしかも確実に漏水防止の畦作りを行う機械に関する考案(第一頁第一五行ないし第一八行)であつて、その実用新案登録請求の範囲第一項には、「トラクターのPTOより動力(回転運動)を取り、クランク及び連接棒により振動に変え、振動棒の先端に取り付けられた副及び主叩き板により畦を形成せしめる機構」(同頁第四行ないし第七行)と記載され、かつ考案の詳細な説明に第一図・第二図・第三図(別紙図面三参照)に示す構成について、「固定された軸受2に駆動軸1が挿入され、その下部にクランク3が固着され、クランク3に固着したスタツド4に連接棒5が滑動する様に取り付けられ、更に軸受ピン6を介して振動棒7が連結される。振動棒7は固定された軸受8に案内されて直線上の往復運動を行う。振動棒7の先端にプレート9が接合され、プレート9には案内棒10が挿入され、その右方に副叩き板11が固着される。主叩き板12は副叩き板11に溶接されている。」(第三頁第六行ないし第一五行)と記載され、さらに右考案の作用について「クランク3の回転運動を連接棒5により往復運動に変え振動棒7を振動させる。即ち、プレート9及び案内棒10により連結されている主12副11叩き板は叩き運動をする。」(第四頁第二〇行ないし第五頁第三行)と記載されていることが認められる。
第二引用例の右記載事項に別紙図面三第一図ないし第三図を参照すると、第二引用例記載の考案における「振動棒7は固定された軸受8に案内されて直線上の往復運動を行う」との構成は、本願考案の「畦叩体を直線往復案内するガイド機構」に相当し、第二引用例記載の考案における「固定された軸受2に駆動軸1が挿入され、その下部にクランク3が固着され、クランク3に固着したスタツド4に連接棒5が滑動する様に取り付けられ」との構成は、本願考案の「畦叩体をガイド機構を介して往復叩動作させる畦叩機構」に相当するものと認められるから、第二引用例には、本願考案と同一構成の畦叩体をガイド機構を介して往復叩動作させる畦叩体の作動部が記載されているというべきである。
そして、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例であるマイクロフイルムの写し)によれば、第一引用例記載の畦叩体の作動部は、畦叩体を揺振運動させるリンク杆と、畦叩体をリンク杆を介して揺振叩運動させる畦叩機構をもつて構成されているが、この作動部は梃クランク機構によつて作動されるものであることが認められるから、第一引用例記載の考案において、その畦叩体の作動部に代えて第二引用例記載の前記畦叩体の作動部を採用することは、当業者がきわめて容易になし得ることというべきである。
この点について、原告は、第二引用例には<省略>振動棒を軸受により案内する構造が記載されているだけであり、畦叩体が縦断面<省略>形状に形成されていることはもちろん畦叩体が畦上面及び畦斜面を同時に叩き締め、旧畦及び地中と、畦叩体で盛土をはさみ込んで叩いて締め固めることは何ら記載されていない旨主張する。
しかしながら、審決は、相違点(1)において、畦叩体の作動部の構成の相違を認定し、かつ、この点について、第二引用例に前記構成が記載されていることを認定し、これを第一引用例記載の畦叩体の作動部と置換することがきわめて容易であると判断したものであつて、原告主張の点は相違点(1)に関する審決の認定、判断に関りのないことであり、第二引用例に審決認定の構成が記載されていること前述のとおりである以上原告の右主張は理由がない。
また、原告は、本願考案では直線運動により畦上面と同時に畦斜面をも叩くことが重要な技術的課題となつており、第一引用例及び第二引用例記載の構成では右課題を解決することができない旨主張する。
前記1認定事実によれば、本願考案は従来の畦叩き装置が土盛効率、畦叩挙動等において満足されたものでなく、その土盛構造、盛土塗付構造、叩き構造の各構造の組合わせに一長一短があり、強固な最適な畦を得難いという不都合があることを解消することを技術的課題としたものであるが、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載の考案も畦叩き板に確実に簡便に整畦挙動を付与せしめる整畦機における畦叩き装置を提供することを技術的課題とするものであることが認められ、両者の技術的課題は共通である。
一方、前掲甲第四号証によれば、第二引用例記載の考案も簡単にしかも確実に漏水を防止する畦作りを行う装置に関するものであつて、そのために畦叩体の作動部を前記認定の構成にしたものと認められるから、第一引用例記載の考案において、その技術的課題をより確実に達成するため第二引用例に開示された畦叩体の作動部を採用してみる程度のことは当業者がきわめて容易に想到し得ることというべきであるから、原告の前記主張は理由がない。
したがつて、相違点(1)について、「第二引用例には、畦叩体をガイド機構を介して往復叩動作させる畦叩体の作動部」が記載されていると認定した上、「第一引用例に記載された畦叩体の作動部を第二引用例に記載された畦叩体の作動部にすることは、当業者がきわめて容易になし得ることと認められる。」とした審決の判断に誤りはない。
3 原告は、本願考案と第一引用例記載の考案との相違点(2)、すなわち「本願考案が畦叩体の内面に離泥体を設けているのに対して、第一引用例記載の考案が畦叩体の内面に離泥体を設けていない点」についての審決の判断は誤りである旨主張する。
前記1認定事実によれば、従来周知の整畦機の畦叩き装置は、圃場中の泥土を旧畦上に盛り上げて締め固めるものであるから、その畦叩き面に土が付着することが好ましくないことは当然であり、この点では各種農作業機の作業面に土が付着することが好ましくないことと共通する。
原告は、この点についての審決の判断は、畦叩き機が一般の農作業機とは全く異なる作業内容及び作業挙動をなすことを看過したものである旨主張するが、その畦叩き面に土が付着することが好ましくないという点では各種農作業機の作業面に土が付着することが好ましくないことと共通であるから、「各種農作業機の作業面に土が付着することは好ましくないことは周知であり、整畦機においても畦成形体に土が付着することが好ましくないことは明らかである」とした審決の判断に誤りはない。
そして、成立に争いのない甲第五号証、及び乙第一ないし第一一号証によれば、本件出願当時犂及びプラウ、鎮圧輪を有する移植機、農耕用鎮圧ローラー、耕耘機用作条器、カルチパツカー、耕うん装置等の各種農作業機において、その作業面に泥土や土砂等が付着し、作業能率が低下することのないようスポンジ等の可圧縮弾性材、合成樹脂板、ゴム板、軟質塩化ビニール等よりなる離泥体を設けることは、普通に行われていたことが認められる。
一方、本願考案は、「畦叩体の内面に離泥体を設ける構成」を要旨とするものであつて、その離泥体をどのような構造、材質とするかについては、何ら特定するものでなく、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明には、「28は畦叩体18内面に貼設したビニールシート、ゴム等の離泥体である。」(本願公報第四欄第八行、第九行)、「離泥体28は畦叩体18の叩面への泥土付着を防止し、」(同欄第二七行、第二八行)と記載されていることが認められる。
そうであれば、第一引用例記載の考案において、その畦叩体に泥土が付着するのを防止するため周知の離泥体を設けることは、当業者がきわめて容易になし得たことというべきである。
この点について、原告は、「本願考案は旧畦上に盛り上げた土を畦叩体で叩き締める畦叩装置に関するものであり、前掲の各種農作業機とはその作業内容及び作業挙動が相違し、技術分野を異にする。被告提出の書証には内面に離泥体を備えた畦叩体は存在しない。」旨主張する。
しかしながら、畦叩装置は、土面に作用する農作業機である点において前掲の各種農作業機と同一の技術分野に属するものであり、また、当該装置の作業面に土が付着することが好ましくないためその付着防止策を講じる必要がある点において技術的課題を共通にするものであつて、これまで畦叩装置に離泥体を設けたものがなかつたからといつて、畦叩体に離泥体を設けることが当業者にとつて困難といえないから、原告の前記主張は採用できない。
したがつて、相違点(2)について、「第一引用例記載の考案において、畦叩体に土が付着するのを防止するために、畦叩体に離泥体を設けることは、当業者がきわめて容易になし得ることと認める」とした審決の判断に誤りはない。
4 以上のとおりであつて、本願考案と第一引用例記載の考案との相違点(1)及び(2)に関する審決の認定、判断に誤りはないから、審決に原告主張の違法は存しない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編注1〕本願考案の要旨は左のとおりである。
走行機体に連結機構により機枠を連結し、該機枠に旧畦上に土を跳ね上げる回転ロータを設け、該回転ロータの上方及び畦上方にカバ部材を設け、カバ部材の畦側に側部カバ部材を設け、回転ロータの進行方向後方位置に畦上面及び畦斜面に合せた縦断面<省略>形状の畦叩体を設け、該畦叩体を直線往復案内するガイド機構を設け、かつ該畦叩体をガイド機構を介して往復叩動作させる畦叩機構を設け、さらに畦叩体の内面に離泥体を設けて構成したことを特徴とする整畦機における畦叩き装置。(別紙図面一参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面一
<省略>
別紙図面三
<省略>
<省略>
<省略>
(他は省略)