東京高等裁判所 平成10年(う)1195号 判決
被告人 森本孝
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判決は、原判示第二の事実に係る横浜地方検察庁で保管中の覚せい剤三一袋及び大麻三〇袋(以下「本件覚せい剤及び大麻」という。)について、これらが被告人の所有に属することを前提に、没収を言い渡しているが、本件覚せい剤及び大麻は被告人の所有に属する物ではないので、原判決には、その所有関係の認定を誤った事実誤認があり、また、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法所定の手続を経ることなく没収した訴訟手続の法令違反がある、というのである。
そこで記録を調査すると、被告人は、捜査段階及び原審公判を通じて、本件覚せい剤及び大麻は、仕入元から代金を支払って仕入れ、他人に密売するため小分けするなどして所持していたものである旨供述し、それらが自己の所有物であることを一貫して認めており、他の証拠関係からもそれが裏付けられており、記録中には、本件覚せい剤及び大麻が被告人以外の第三者の所有に属することを窺わせる事実は存しない。原裁判所は、このような証拠関係に照らして、本件覚せい剤及び大麻が被告人の所有に属するものであると判断し、第三者没収のための告知または公告の手続を経ることなく、これらを没収する旨言い渡したものであることが明らかである。しかるに、本控訴趣意は、原判決後被告人が、覚せい剤の密売の手伝いをしていたに過ぎない旨述べる供述書を援用するもので、刑訴法三七九条及び三八二条にいう訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現れている事実を援用するところがなく、かつ、その援用する原判決後の被告人の供述は、やむを得ない事由によって、第一審の弁論終結前に取調べを請求することができなかった証拠とは認められないから、本控訴趣意は、刑訴法三七九条、三八二条及び三八二条の二所定の要件を欠く不適法な主張であることは明らかである。
(松本光雄 松浦繁 樋口裕晃)