大判例

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東京高等裁判所 平成10年(う)1401号 判決

被告人 秦誠一

〔抄 録〕

記録によれば、被告人は、共同出資名下に預金者から二四〇〇万円を詐取するに当たり、手始めに手付金名目で一〇〇万円を騙し取ることとしたが、銀行預金の中から一〇〇万円の払い戻しを受けた上でこの金員を被告人に交付しようと考えた預金者から、体調を崩しているので自分に代わって一〇〇万円の払い戻しを受け、受け取っておいてほしい旨依頼され、預金者方において、キャッシュカードの交付を受け(原判示第一の一の事実)、次いで被告人は、一人で銀行に赴き、このキャッシュカードを利用して銀行の現金自動支払機から銀行支店長管理の現金一〇〇万円を引き出し(同第二の事実)、被告人はこの一〇〇万円を預金者に見せることなく自己の使途に供したことが認められる。そこで、この認定事実を基に検討するに、原判示第一の一のキャッシュカードを受け取ったことが詐欺に当たることは明らかであるところ、さらに原判示第二の現金一〇〇万円の引き出しの事実について考えると、被告人は、預金者から一〇〇万円を引き出すことの依頼を受けていたとはいえ、これは被告人の詐欺の結果によるものであるから、預金者の任意かつ真摯な依頼があったとはいえず、被告人はキャッシュカードを使用するにつき正当な権限を有していなかったものであり、また、預金者は、預金について引き出し権限を有してはいるが、現金自動支払機の中の不特定の現金に対する占有を有しておらず、被告人が現金自動支払機から引き出した現金一〇〇万円は、銀行支店長が占有管理していたものであって、民事上の被害者はともかく、引き出し行為による刑事上の被害者は銀行であると考えるほかない。さらに、預金者が被告人にキャッシュカードを交付したことをもって、預金を引き出して受領する権限をも与えるという処分行為をしたと解し、二項詐欺が成立するとするのは、一項詐欺と二項詐欺の区別を無意味にするものであるのみならず、現金を受領した点の法益侵害行為が評価されないことになるものであって、採用の限りでない。したがって、原判示第二の行為については、同第一の一の預金者に対するキャッシュカードの詐欺罪とは別個に、銀行に対する窃盗罪が成立し、両者は、被害者を異にする以上、併合罪の関係に立つと解すのが相当である。

(岩瀬徹 川上拓一 佐藤公美)

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