東京高等裁判所 平成10年(く)331号 決定 1998年11月13日
少年 I・K子(昭和54.9.28生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年が作成した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。所論は、要するに、原決定の処分の著しい不当を主張するものである。
そこで検討すると、本件は、少年が、平成10年4月、都内の短期大学進学に前後して単身生活をするようになった後、興味本位で覚せい剤を求めたことがきっかけで自称暴力団員のA(35歳位)と交際し出し、同人が入手する覚せい剤を共に使用しては性的関係を重ねる乱れた生活を送り、これを知った両親の再三の注意、監督等にかかわらず、結局は、生活状況等を改められず、同年6月末にAのもとに身を寄せて以後所在を明らかにせず、従前同様覚せい剤を使用するなどの放縦な生活をしていたというものである。このようなぐ犯の内容のほか、関係記録から認められる、少年の覚せい剤の使用状況、性格、殊に、情緒面が不安定で、社会性や現実吟味力も未熟であること、逸脱行動に対する抵抗感が乏しい行動傾向、生活状況、更には無批判なAとの交際状況、家族、とりわけ両親とは微妙な緊張関係があって、家族との同居に消極的であり、両親も、監護の熱意はあるものの、自信を失っていることなどに照らすと、これまで補導歴がないこと、本件での鑑別所入所、審判等を通し、それなりの反省と自覚をし、Aとの交際についても見直す気持ちにはなっていること、覚せい剤の使用(昇華吸入方法)に伴う幻覚等の諸症状はうかがわれないほか、両親から注意された6月ころや本件で保護される直前ころは、一時覚せい剤の使用を差し控えており、ぐ犯状態の中においても、それなりの罪悪感や自制力はあったと思われること、父親は、Aの少年の薬代金と称する請求に応じる一方、Aから少年とは今後一切交際しない旨の約束を得ており、非行防止の一応の手だては講じられていること等を十分考慮しても、少年の反省と自覚を確実なものとし、不良交友を排し、薬物使用の傾向を完全に断ち、親子関係の改善修復等を図りつつ生活を建て直し、少年の健全な育成を期するには、施設内で矯正教育を受けさせることはやむをえないところである。したがって、当時妊娠中であることを勘案して少年を医療少年院に送致をした原決定は相当である。少年の本件抗告は理由がない。
なお、原決定は、医療措置終了後中等少年院に移送するのが相当としてその旨勧告しているところ、補導歴がないことなど前記指摘の諸点のほか、疾病又は障害としては妊娠が指摘されているだけであること、両親との緊張関係は従前からのもので、少年の問題行動は家庭内での疎外感や寂しさを背景としているとの指摘があり、その改善の努力は、少年と家族の双方に求められる類のものであり、両親にその熱意があること等を考慮すると、少年を中等少年院に移送する場合を含め、その処遇は一般短期処遇課程またはこれに準ずる程度の期間をもって対処するのが相当であると思料される。
よって、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 荒木友雄 裁判官 原田國男 田中亮一)
〔参考1〕 原審(東京家 平10(少)3834号 平10.10.20決定)<省略>
〔参考2〕 処遇勧告書<省略>