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東京高等裁判所 平成10年(ネ)1023号 判決 1998年9月28日

主文

一  原判決主文一項を次のとおり変更する。

1  被控訴人らは控訴人に対して各自金一六三四万三八八八円及びこれに対する平成五年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その一を被控訴人らの、その余を控訴人の各負担とする。

四  この判決の一項1は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人)

(本件控訴について)

1 原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは、控訴人に対し、各自金五四六九万六〇七二円及び内金二八三二万二〇四〇円に対する平成五年四月二一日から、内金二六三七万四〇三二円に対する平成七年五月三〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、一、二審とも被控訴人らの負担とする。

3 仮執行宣言

(附帯控訴について)

1 本件附帯控訴を棄却する。

2 附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

二  被控訴人(附帯控訴人)ら

(本件控訴について)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3 仮執行免脱宣言

(附帯控訴について)

1 原判決中、附帯控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

2 原判決を次のとおり変更する。

(一) 附帯被控訴人の請求を棄却する(附帯控訴人らは附帯控訴状において本件交通事故に基づく債務の不存在確認を求めているが、右請求は本訴請求と訴訟物を同じくし、これを文字どおりに受け取れば二重起訴として不適法となるのみならず、他方において附帯控訴人福島県共済農業協同組合連合会が本案判決の変更を前提として民訴法二六〇条二項の規定による申立てをしているところから見れば、右附帯控訴は附帯被控訴人の請求の棄却を求める趣旨のものと解すべきである。)。

(二) 附帯被控訴人は、附帯控訴人福島県共済農業協同組合連合会に対し、金一二三五万一八六六円及びこれに対する平成一〇年三月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、一、二審とも附帯被控訴人の負担とする。

4 仮執行宣言

第二事案の概要

次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第二に記載されたとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁六行目の「死亡した」の次に「と主張して」を、同七行目の「七〇九条」の次に「等」を、同五頁一行目の「走行中」の次に「進行方向左側」を、同三行目の冒頭に「その直後、控訴人車両を追い越して左折した」をそれぞれ加える。

2  原判決七頁一行目の次に行を改めて次のとおり加え、同七頁三行目の「原告側」を「被害者」に改める。

「4 附帯控訴について

附帯被控訴人は、仮執行宣言の付された原判決に基づき福島地方裁判所の執行官に対し、動産執行の申立てをし、平成一〇年三月三日右執行がなされたため、附帯控訴人は同日附帯被控訴人に対し一二三五万一八六六円を支払った。」

第三当裁判所の判断

一  事故の態様及び被害者の過失の有無、態様について

次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第三、一に記載されたとおりであるから、これを引用する。

原判決八頁末行の「原告車両」の次に「(甲三〇号証によれば、被控訴人笹山が左折進行しようとしていた道路を横断しようとして、その前に一旦被控訴人車と同じように左折したものと認められる。)」を、同九頁一行目の「あったので」の次に「後方及び左方の安全を十分確認しないままに左折を開始し、」を、同六行目の「後方」の次に「及び左方」をそれぞれ加える。

二  本件事故と死亡との因果関係について

次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第三、二に記載されたとおりであるから、これを引用する。

原判決一〇頁三行目の「(甲一三の一」から同四行目の「ないし一六」までを「(甲一三の1、一三の7の2、一三の9の1、2、一三の10、13ないし16」に改め、同一二頁四行目の「本件事故とは無関係な」から六行目の「ない」までを「被害者は、本件事故から二年以上経過した後の転倒事故によって頭部を強打した結果、本件事故による傷害(急性硬膜外出血)とは別個の傷害である」に改める。

三  損害額 三九九六万一三〇七円

1  治療費(文書作成料を含む。) 四七万九〇三〇円

被害者は、本件事故による傷害の治療のために今村病院に平成五年四月二一日から同年五月一五日まで入院し、同月一六日から同年一〇月二八日まで通院して治療を受け、渡辺病院に同月二九日から通院し、同年一一月一日から同年一二月一三日まで入院し(同年一一月一七日脳室腹腔シャントの手術を受けた。)、更に平成六年四月五日の症状が固定したと診断された日まで通院して治療を受け、その治療費は四六万一〇三〇円であり、今村病院に対して支払った文書作成料は一八〇〇〇円である(甲一三の2、5、6、8、11、一四の1、二九、乙二、三の1)。

382,480+78,550+18,000=479,030

2  入院雑費 八万八四〇〇円

被害者は1記載のとおり二度にわたって通算六八日間入院したが、その病名及び病状は前記二、1、(一)及び後記4、(一)記載のとおりであることに鑑みその間に要した雑費(おむつ代を含む。)としては一日当たり一三〇〇円の支出を要したと認めるのが相当である。

1,300×68=88,400

3  通院費 四万六〇〇〇円

被害者は平成五年五月一六日から同年一〇月二八日までの間今村病院に一一日間通院し(甲一三の2、5、一四の1)、同年一〇月二九日から同月三一日まで及び同年一二月一四日から平成六年四月五日(固定日)までの間渡辺病院に合計一〇日間通院した(甲一三の8、10、11)が、甲一四号証の1、二九号証及び弁論の全趣旨によれば、今村病院への通院に要する費用は一日当たり二〇〇〇円と、渡辺病院への通院に要する費用は一日当たり二四〇〇円とするのが相当である。

2000×11+2400×10=46,000

4  付添看護費 一六五七万一六二五円

(一) 固定までの分 四五〇万二七五四円

被害者は渡辺病院へ入院した翌日の平成五年一一月二日から同年一二月一三日間での四二日間付添を必要とする状態にあったため、職業付添人の介護を受け、その費用合計四五万二三四四円を要した(甲一三の6、8、11、一四の1、二九、乙四、五の各1ないし3)。

また、平成五年四月二一日から同年一一月一日まで及び同年一二月一四日から平成六年四月五日の症状固定の日までの三〇八日間は被害者の四女である石井黎子が被害者に付き添いあるいは看護したが、独身で兄弟の中では一番身軽であった黎子は付添介護のため平成五年四月三〇日に東京都所在の美和ロック株式会社を退職したものであるところ、同女の平成四年度の年収は約四八〇万円であったこと(甲一三の8、二八の1、証人石井黎子)、被害者は渡辺病院を退院後も病状は芳しくなく、深夜徘徊などがあって施設での療養看護は困難で親族の介護が必要であったこと(証人石井黎子)、そのほか被害者の年齢、障害の程度に鑑み、右期間の付添看護費用は四〇五万〇四一〇円とするのが相当である。

4,800,000×308÷365=4,050,410(円未満切捨て、以下同様)

(二) 将来の介護費用 一二〇六万八八七一円

平成六年四月五日(症状固定時。被害者八四歳)頃の被害者は、頭部外傷及び正常圧水頭症によって失禁状態にあるため常時おむつが必要であり、記憶障害、軽度の意識障害がみられ、日常生活動作に介助を要する状態にあって、これらの症状は改善の見込みがないとの診断を受け、同年一一月四日後遺障害等級一級三号に該当するとの事前認定を受けた(甲一三の10、14、15)。被害者が平成七年五月三〇日に死亡したことは当事者間に争いのないところであるが、本件事故の時点では右死亡を予測させるような客観的事情は見当たらない。(一)で見た被害者の固定までの病態及び右被害者の後遺障害の程度等に照らすと、被害者は、本件事故の後遺障害により将来とも一人で日常生活をしていくことは極めて困難で常時介護を必要とする状況にあったと認められるが、前記のように被害者の死亡が本件事故当時予見され得なかった出来事である以上、将来の介護費用の算定に当たって右死亡の事実を考慮に入れるべきではないから、被害者の平均余命期間である固定時から七年間(平成六年簡易生命表に基づき年未満切捨て)右状態が継続するものとして事故時における損害を算定すべきである。そして、その介護に要する費用(おむつ代等を含む。)は一日当たり六〇〇〇円とするのが相当であり、ライプニッツ方式により中間利息を控除した結果、一二〇六万八八七一円となる。

6,000×365×(6.4632-0.9523)=12,068,871

5  休業損害及び逸失利益 一七七万六二五二円

(一) 休業損害 四七万九四五二円

被害者の一人暮らしの生計がどのようなものであったか証拠上判然としない。甲一三号証の9の1、一四号証の1及び二九号証によれば、被害者は田畑を耕作しており、その営農は自家用のほか知人へ作物を配布する程度の規模であったことが窺われる。これによる所得額を示す的確な証拠はないが、以上の事実に加え、被害者には平成五年末から六年の二、三月頃にも住宅の改造費の一部に当てる程度の蓄えがあったことから(証人石井黎子の証言、甲二九)、被害者は主として蓄えと田畑からの収穫物によって生計を立てていたことが窺われ、これに被害者の年齢及び弁論の全趣旨を勘案すると、被害者の年収は五〇万円の限度でこれを認めるのが相当である。また、前述の被害者の病状によれば被害者は症状が固定するまでの間、全く稼働できなかったことは明らかであるから、右年収額を基礎として症状固定の日までの休業損害を算定すると四七万九四五二円となる。

500,000×350÷365=749,452

(二) 後遺症による逸失利益 一二九万六八〇〇円

被害者の後遺障害等級(一級三号)に照らすと、被害者は労働能力を一〇〇パーセント喪失したものというべきであり、被害者の就労可能期間は前記4(二)で見た被害者の固定時からの平均余命期間(七年)のうち三年間であると認めるのが相当であるから、これらを前提に(一)で認定した年収額を基礎としてライプニッツ方式により中間利息を控除して逸失利益の本件事故時における現価を算出すると、被害者の逸失利益は一二九万六八〇〇円となる。なお、右逸失利益の算定に当たって本件事故後に被害者が死亡した事実を考慮に入れるべきでないことは前記4(二)において説示したとおりである。

500,000×(3.5459-0.9523)=1,296,800

6  調査交通費 認めない。

原判決「事実及び理由」欄の第三、三、4記載のとおりであるからこれを引用する。

7  住宅改造費 一〇〇万円

次のとおり訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第三、三、3記載のとおりであるからこれを引用する。

原判決一三頁一〇行目の「一六の一」から同一四頁二行目の「二六の一、二」までを「一六の1、一六の2の1ないし3、一六の3の1、2、一七の1ないし3、一八ないし二〇の各1、2、二一、二二ないし二四の各1、2、二五、二六の1、2」に、同一四頁四行目から五行目にかけての「六の一ないし一一」を「六の1ないし11」にそれぞれ改める。

8  慰謝料 二〇〇〇万円

事故の態様、傷害及び後遺障害の内容及び程度、被害者の年齢、被害者が本件事故前は年齢の割に健康であったこと等本件に顕れた一切の事情を総合勘案して、傷害慰謝料は二〇〇万円を、後遺症慰謝料は一八〇〇万円をもって相当と認める。控訴人は被害者の二男であるが、事故時にも別居していたものであり(弁論の全趣旨)、本人の慰藉料を右のように算定した本件においてそのほかに控訴人固有の慰謝料を肯認すべき格別の事情は認められない。

9  葬儀料等死亡による損害 認めない。

被害者の死亡と本件事故との間に相当因果関係が認められないことは前記二において説示したとおりであるから、死亡による損害(葬儀費、逸失利益、慰謝料)は本件事故により被控訴人らが負担すべき損害と認めることはできない。

四  損害賠償請求権の相続

原判決「事実及び理由」欄の第三、四記載のとおりであるからこれを引用する。

五  損害の填補

本件事故による損害について被控訴人らから二三六一万七四一九円が支払われたことは前述のとおり当事者間に争いがないので、右額を控除した損害額は一六三四万三八八八円となる。

第四結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求は一六三四万三八八八円及び不法行為の日である平成五年四月二一日から支払済みまでの遅延損害金を認める限度で理由があり、その余は理由がなく、被控訴人の附帯控訴は理由がない。

よって、右と結論を異にする原判決を右の限度で変更し、本件附帯控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 加茂紀久男 大喜多啓光 合田かつ子)

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