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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3054号 判決 2000年3月22日

横浜市港北区篠原台町二四番四号

控訴人(原審原告)

藤村瑛二

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人(原審被告)

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

小池充夫

飯山義雄

清水直子

鈴木紳

"

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の予備的申立てのうち、昭和六〇年特許願第二七九〇三四号出願が、昭和四五年特許願第四三五八四号出願からの分割出願としての要件を充足することの確認を求める訴えを却下する。

三  控訴人の予備的申立てのうち、その余の請求を棄却する。

四  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  控訴人

1  主位的申立て

(一) 原判決を取り消す。

(二) 本件を東京地方裁判所に差し戻す。

2  予備的申立て

(一) 昭和六〇年特許願第二七九〇三四号出願が、昭和四五年特許願第四三五八四号出願からの分割出願としての要件を充足することを確認する。

(二) 被控訴人は控訴人に対し、金五万円及びこれに対する平成六年一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、後記一及び二のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決事実欄「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  本件において、本件審決及び本件審決取消訴訟の判決の違法の有無を判断するためには、これらが分割出願に関する審査基準に従ってなされたか否かを明らかにしなければならない。しかるに、原審は、控訴人の申請した証人加藤茂樹の尋問を行うことにより、本件審決及び本件審決取消訴訟の違法(審査基準違反)が判明することを承知しながら、これを避けるために、あえて周証人の尋問をせずに口頭弁論を終結したものである。

また、原審は、本件再審の訴えについての東京高等裁判所の判決に対し、控訴人が上告を提起する前に、本件訴訟の口頭弁論を終結したものであるところ、本件審決取消訴訟の裁判に瑕疵があって不正であるか否かは、本件再審の訴えの確定後に問題にするのが、国家賠償法に基づく裁判を対象とする訴えの本質であり、その確定前に、本件訴訟の口頭弁論を終結するのは違法である。

さらに、原審の裁判官らは、控訴人のした同裁判官らに対する除斥申立て又は忌避申立てを、徒に裁判を遅延させることのみを目的とするものとして、自ら却下して、原判決をしたが、除斥、忌避の申立てを受けた当該裁判官らがこれを却下することは違法である。

なお、原判決は、平成一〇年四月二七日の口頭弁論期日に言い渡されたところ、その言渡期日の告知は、同月二六日の夕刻に配達された普通郵便でなされたらしいが、控訴人がこれを開封したのは、同月二七日の夕刻であり、したがって、原判決は、言渡期日の告知を事実上しないままなされた違法がある。

また、原判決の判決書にはその作成日の記載がなく、仮に原判決に記載された口頭弁論の終結の日にその作成がなされたものとすれば、原本に基づかないで判決を言い渡した違法がある。

したがって、原判決を取り消し、本件を原審に差し戻すことを求める。

2  なお、控訴人は、予備的請求として、

(一) 本件分割出願が、本件原出願からの分割出願としての要件を充足することの確認を求め、

(二) また、不正判決である本件審決取消訴訟の裁判と因果関係のある控訴人の損害に対する賠償として、被控訴人に対し、控訴人の出捐した本件審決取消訴訟の訴訟費用、及びかかる不正判決がなかったとすれば、控訴人が得ることができた本件分割出願に係る発明の実施料相当額のうち、さしあたり合計五五万円の支払を求める。

二  被控訴人の主張

1  控訴人の予備的申立てのうち、昭和六〇年特許願第二七九〇三四号出願が、昭和四五年特許願第四三五八四号出願からの分割出願としての要件を充足することの確認を求める訴えは、事実関係の存否の確認を求めるものであって、確認の利益を欠くものであり、不適法である。

2  控訴人は、原審が、本件訴訟の口頭弁論を終結したことを非難するが、争訟の裁判について、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別な事情があることを必要とするものであり、かかる事実関係の存否の判断において、原審が、主張の証人尋問をせず、また、本件再審の訴えの確定前に、口頭弁論を終結したことに違法な点はない。

控訴人の主張は、独自の見解であって排斥されるべきである。

また、控訴人が原審の措置の違法をいうその余の点も理由がないことは明らかである。

3  控訴人は、予備的申立てに係る請求として、控訴人の出捐した本件審決取消訴訟の訴訟費用、及び不正判決がなかったとすれば、控訴人が得ることができた本件分割出願に係る発明の実施料相当額のうち五万円の支払を求めるが、このうち、本件審決取消訴訟の訴訟費用に係る部分は、主位的申立てに係る請求において支払を求める損害額の一部であるところ、これを含む主位的申立てに係る請求自体が理由がない。また、控訴人は、本件分割出願に係る発明の特許権を取得していないのであるから、控訴人の主張する該実施料相当額の利益は、不法行為法において法的保護に値する利益ではない。

理由

一  主位的申立てに係る請求について

当裁判所も、控訴人の主位的申立てに係る請求は理由がないものと判断する。

その理由は、控訴人の当審における主張に対し、次のとおり判断するほかは、原判決理由欄の記載と同じであるから、これを引用する。但し、原判決三七頁二行目の「法令違反」から同頁三ないし四行目の「ものとすることが」までを、「審決取消訴訟等の不服申立制度によって是正されるべき法令違反等の瑕疵が存在するというだけではなく、違法な審判に対する救済を、該不服申立制度による審判の是正に委ねるものとするだけでは」に改める。

1  控訴人は、本件において、本件審決及び本件審決取消訴訟の判決の違法の有無を判断するためには、これらが分割出願に関する審査基準に従ってなされたか否かを明らかにしなければならないとしたうえで、原審が、控訴人の申請した証人加藤茂樹の尋問を採用せず、また、本件再審の訴えについての控訴人の上告前に、本件口頭弁論を終結した措置を非難する。

しかしながら、裁判官がした争訟の裁判につき、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別な事情があることを必要とすること、また、審判官がした審判につき、国家賠償法一条一項にいう違法行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、単に審判に審決取消訴訟等の不服申立制度によって是正されるべき法令違反等の瑕疵が存在するというだけではなく、違法な審判に対する救済を、該不服申立制度による審判の是正に委ねるものとするだけでは不相当と解されるような特別の事情があることを必要とするものと解すべきことは前示(原判決三一頁六行目から末行まで、前示訂正後の同三六頁末行から三七頁五行目まで)のとおりである。

そして、本件において、右の点について判断するに当たり、既に提出された本件審決に係る審決書(乙第一号証)、本件審決取消訴訟についての東京高等裁判所及び最高裁判所の判決に係る判決書(乙第二、第三号証)その他の各書証に加えて、証人加藤茂樹(乙第一号証によれば、同人は本件審決をした審判体を構成する審判官のうちの一名であることが認められる。)の尋問を経る必要性は認められないというべきであり、また、本件再審の訴えの確定を待つ理由もないから(甲第九号証の論文は、昭和五一年当時の判例学説等を整理して紹介したものであるにすぎず、本件において右のように解することの妨げとなるものではない。)、原審の前示措置に不相当な点はない。

2  控訴人は、原審裁判所が、控訴人のした同裁判所を構成する裁判官に対する除斥申立て及び忌避申立てを簡易却下し、原判決をしたことを、除斥、忌避の申立てを受けた裁判官自らが該申立てを却下した故に違法であると主張するが、原審裁判所が、該申立てをもって徒に裁判を遅延させることのみを目的とするものと認め、簡易却下したことが直ちに違法となるものではない。

3  控訴人は、原判決に、言渡期日の告知を事実上しないままなされた違法があると主張するが、原審裁判所が該判決言渡しのための口頭弁論期日を指定し、その期日の告知(呼出し)が、民事訴訟法九四条一項に基づき、控訴人に対しては普通郵便でなされたことは、原審記録上明らかであり(控訴人も該郵便が言渡期日前に控訴人に到達したことを争っていない。)、したがって、該呼出しの手続に主張の違法はない。

なお、甲第一四号証の一掲記の判決は、昭和五七年法律第八三号によって、民事訴訟法附則一条による改正前の民事訴訟法(明治二三年法律第二九号)一五四条二項の規定が設けられる前の事案に関するものであって、本件に適切ではない。

4  控訴人は、原判決の判決書にその作成日の記載がなく、仮に原判決に記載された口頭弁論の終結の日にその作成がなされたものとすれば、原本に基づかないで判決を言い渡した違法があると主張するが、判決書にその作成の日の記載を要するものでないことは、民事訴訟法二五三条一項の規定上明らかであり、また、該作成日の記載がないからといって、口頭弁論の終結の日にその作成がなされたことが推認されるものでもないから、該違法の主張も失当である。

なお、甲第一四号証の二掲記の判決は、裁判所が口頭弁論の終結後直ちに判決の言渡しをした事案に関するものであって、本件とは事案を異にするものである。

二  予備的申立てについて

1  昭和六〇年特許願第二七九〇三四号出願が、昭和四五年特許願第四三五八四号出願からの分割出願としての要件を充足することの確認を求める訴えについて

右訴えに係る請求が、本件分割出願の本件原出願からの分割に関して、特許法の特許出願の分割に係る規定(同法四四条)の法律要件に該当する具体的事実の存在確認を求めるものであって、確認の訴えについての訴えの利益を有さないことは明白であるから、右訴えは不適法である。

2  本件審決取消訴訟の訴訟費用及び本件分割出願に係る発明の実施料相当額のうち五万円の支払を求める請求について

右請求は、本件審決及び本件審決取消訴訟の判決が違法であることを理由とする国家賠償法一条一項に基づく損害賠償の請求であるところ、該損害賠償請求権が発生する余地がないことは、上如したところから明らかであり、したがって、その余の点につき判断するまでもなく、右請求は理由がない。

三  以上によれば、主位的申立てに係る請求を棄却した原判決は正当であって本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、また、控訴人の当審における予備的申立てのうち、昭和六〇年特許願第二七九〇三四号出願が、昭和四五年特許願第四三五八四号出願からの分割出願としての要件を充足することの確認を求める訴えは不適法であるから却下し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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