東京高等裁判所 平成10年(ネ)3515号 判決
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
二 被控訴人は、控訴人に対し、金二億三〇九八万五七八八円及びこれに対する平成一一年一二月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三1 控訴人の金二八七二万一三〇〇円及びこれに対する平成九年三月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払請求にかかる訴えを却下する。
2 控訴人が被控訴人に対し、別紙目録記載の生命保険契約に基づく金二八七二万一三〇〇円の死亡保険金債権を有することを確認する。
四 控訴人のその余の主位的請求を棄却する。
五 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を被控訴人の負担とし、その一を控訴人の負担とする。
六 この判決の第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求)
被控訴人は、控訴人に対し、金二億五九七〇万七〇八八円及びこれに対する平成九年三月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 (予備的請求)
被控訴人は、控訴人に対し、金一億四二三四万一五六一円及びこれに対する平成一一年一〇月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(控訴人は、当審において、予備的請求を追加した。)
4 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
5 仮執行の宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の予備的請求を棄却する。
3 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二事案の概要
本件の事案の概要は、次の一項のとおり訂正し、二項のとおり当事者双方の当審における主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第二事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の訂正
1 原判決二丁表六行目の「円円」を「円」と改める。
2 同四丁裏二行目の「保険契約者兼亡保険金」を「保険契約者兼死亡保険金」と改める。
二 当事者双方の当審における主張
1 予備的請求について
(一) 控訴人の主張
(1) 控訴人は、被控訴人との間で、平成二年八月一日、左記の生命保険契約を締結した。
<1> 証券記号番号 三五二-四八五三九一六
<2> 保険の種類 定期特約付終身保険
<3> 被保険者 亡甲野
<4> 死亡保険金受取人 控訴人
<5> 死亡保険金 金一億四〇〇〇万円
(2) 控訴人と被控訴人は、平成八年四月一日、右保険契約(以下「被転換契約」という。)を本件保険契約に転換した。
右転換の際、控訴人と被控訴人は、被保険者が本件保険契約の責任開始の日から一年以内に自殺(自殺には嘱託殺人を含むと解すべきである。)したため、本件保険契約の保険金が支払われないときは、転換は行われず、被転換契約は消滅しなかったものとして取り扱うとの特約を結んだ(保険契約の転換に関する特則三条)。
(3) 平成一一年九月一〇日の時点で、被転換契約に基づいて被控訴人が控訴人に支払うべき保険金等は、次のとおり、一億四二三四万一五六一円である(<1>ないし<4>を加え、<5>を控除する。)。
<1> 死亡保険金 一億四〇〇〇万円
<2> 前年度配当金 一〇万八三九六円
<3> 積立配当金 四五万三六四五円
<4> 復元払戻金 二九二万九一二〇円
<5>未払込保険料(控除金) 一一四万九六〇〇円
(4) よって、仮に亡甲野の死亡が自殺又は嘱託殺人であった場合には、控訴人は、被控訴人に対し、予備的に、一億四二三四万一五六一円及びこれに対する予備的請求に関する準備書面が被控訴人に送達された日の翌日である平成一一年一〇月二二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(二) 被控訴人の認否
控訴人の主張(1) ないし(3) は認める。なお、控訴人主張の保険金等の金額は、仮に被控訴人が控訴人に対して被転換契約に基づく保険金を支払うべきであると認められた場合のものである。
後述するとおり、本件保険契約は被保険者の責めに帰すべき事由による危険の著増により失効しているから、保険契約の転換に関する特則による被転換契約の復活の余地はない。
また、亡甲野の殺害が被転換契約の締結後一年以上経過した後であっても、商法六八〇条一項一号により被控訴人は免責される。
したがって、「仮に亡甲野の死亡が自殺又は嘱託殺人であっても被転換契約の保険金等が支払われるべきである」旨の控訴人の主張は理由がない。
2 危険の著増による本件保険契約の失効について
(一) 被控訴人の主張
以下のとおり、本件保険契約は、被保険者の責めに帰すべき事由により危険が著しく増加したので、失効したというべきである。
(1) 亡甲野は、殺害される直前には、個人及びその経営する法人を併せて少なくとも七億円を超える債務を負担しており、資金繰りが逼迫して返済の具体的な目処が全く立たない状態であったところ、従前から本件保険契約を含む自己を被保険者とする保険契約の死亡保険金をもって右負債の返済等に充てることを「覚書」と題する書面に記載するなどして具体的かつ現実的に計画しており、保険金額満額が支払われるよう事故を装って死ぬ方法につき友人の乙山一郎に話していた。
また、亡甲野は、本件殺害事件発生の直前にも、右乙山に対し「死ぬしかない」等と口走り、殺人事件や事故等を装って死ぬ方法等について話していたというのであり、現にその翌日には家族に行き先を告げずに自宅を出たまま行方が分からなくなり、その二日後の朝には刺殺体で発見された。
これらの事実からすれば、少なくとも右殺害の直前において、亡甲野が本件保険契約を含む複数の保険契約の多額の死亡保険金を取得する目的をもって、自己の殺害を何者かに嘱託するなど、自らの身を死亡の危険に曝す言動に出たことは容易に推認される。
(2) そして、本件保険契約の締結時において、右の事情が存在し、それが被控訴人に判明していたならば、被控訴人が本件保険契約の引受けを拒絶したことは明らかであるから、本件保険契約は、被保険者である亡甲野の責めに帰すべき事由により著しく危険が増加したものとして、商法六八三条一項の準用する同法六五六条により、失効したと解すべきである。
(二) 控訴人の主張
被控訴人の主張は争う。
被控訴人が指摘する諸事情から、殺害の直前に亡甲野が保険金取得目的をもって自己の殺害を何者かに嘱託するなど自らの身を危険に曝す言動に出たと推認することは困難であり、被控訴人の主張は根拠がない。
そもそも、亡甲野の死亡が自殺ではなく他殺であることは間違いないところであるが、誰がどのような理由で亡甲野を殺害したのかは全く明らかになっておらず、また、亡甲野が誰かに自らの殺害を嘱託したとの事実も全く認められないのであって、本件殺害事件をもって嘱託殺人であるとすることはもちろん、亡甲野が自らの殺害を嘱託したなどと認定することもできない。
第三当裁判所の判断
一 争点1(控訴人の訴訟追行権の喪失)について
1 質権の設定
債権を目的として質権を設定した場合には、質権者がその債権を直接に取り立てる権利を取得し(民法三六七条一項)、質権設定者は質入債権につきその債務者に対し支払いの請求をすることはできないと解される。
ただし、質権設定者は、右債権の存在確認の訴えを提起することは何ら妨げられるものではない。そして、給付を請求する訴訟は、その前提である権利の確認請求を含むものと解されるから、給付請求が不適法として却下される場合には、確認請求を認容すべきものである。本件においても、これと異なって解すべき根拠はないから、質権が設定されている部分についての給付請求は却下を免れないが、当該債権の存在確認の請求を認容すべきである。
2 仮差押
債権仮差押の執行によって、当該債権につき、第三債務者は支払いを差し止められ、仮差押債務者は取立・譲渡等の処分をすることができなくなるが、このことは、これらの者が右禁止に反する行為をしても、仮差押債権者に対抗しえないことを意味するにとどまり、仮差押債務者は、右債権について、第三債務者に対し給付訴訟を提起し又はこれを追行する権限を失うものではなく、無条件の勝訴判決を得ることができると解すべきである。
二 争点2(事実の確認に要する合理的期間の経過の有無)について
1 普通保険約款一七条三項の内容とその趣旨、別件保険契約の締結から原審口頭弁論の終結時に至る事実の経緯は、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」の二1(原判決七丁裏三行目から一〇丁表九行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
ただし、次のとおり付加、訂正する。
(一) 原判決七丁裏八行目の「三二」の次に「、四一ないし四七」を加える。
(二) 同九丁表二行目の「前記1」を「前記(一)」と改める。
(三) 同九丁表七行目の「前記1(二)」を「前記(二)」と改める。
(四) 同九丁表一〇行目の「原告」を「亡甲野」と改める。
(五) 同九丁裏一行目の「乙四二」を「乙四二ないし四四」と改める。
(六) 同九丁裏七行目の「訴外甲野康子」を「訴外甲野靖子」と改める。)。
2 原審口頭弁論終結時以後の経緯については、以下のとおり認められる。
(一) 平成一〇年三月一二日に控訴人代表者等三名が釈放された以後は、富坂警察署に派遣されていた警視庁捜査一課の警察官は富坂署から引き上げた。控訴人代表者との連絡窓口も刑事課の警察官から防犯課の警察官に変更になった。それまで頻繁であった警察官の控訴人会社への訪問や控訴人代表者への電話は全くなくなった。
控訴人代表者の家族、友人、控訴人の取引先、控訴人会社の従業員などに対する事情聴取や取り調べ等が行われている形跡もない。
控訴人代表者らの逮捕前は、控訴人代表者が書類の授受等の用件で富坂警察署を訪れると、警察官が「せっかく来たのだから一時間位話を聞かせてもらいたい」と述べて馴れ馴れしく寄ってきて、雑談的に亡甲野のことや家族のこと、控訴人のことなどを事細かに聞かれ、何かを聞き出そうとする態度が窺われたが、釈放後は用件で警察署を訪れても、捜査担当者が出てくることもなくなった。
(甲一四)
(二) 警視庁富坂警察署長は、調査嘱託に対する平成一〇年一一月二日付けの回答書において、亡甲野の殺害事件について、平成九年二月一〇日に同警察署に特別捜査本部を開設し、回答日現在も引き続き捜査中であり、捜査本部は解散されていない旨回答している(調査嘱託の結果、甲一)。
(三) しかし、平成一一年一月八日までには富坂警察署内に設置されていた特別捜査本部の看板は取り外された。
また、同年二月一一日、亡甲野の家族が警察に任意提出していた物件のうち、平成一〇年四月上旬頃に返還されなかった残りの物件がすべて返還された。
(甲二、一四)。
(四) 控訴人代表者の陳述書(甲二)には、富坂警察署の加藤一郎強行犯捜査係長から控訴人代表者に、平成一一年二月一一日に、捜査本部は同年一月一四日に解散したとの回答があった旨の記載があるが、被控訴人の契約審査部課長代理の徳田崇が加藤一郎警部補らに平成一一年二月二六日及び三月三日に電話で確認したところ、同警部補らは右事実を否定し、捜査本部の看板は取り外されたが、事件の捜査は打ち切られたわけではない、と述べた(乙五六)。
3 以上の事実に基づいて検討する。
以上認定の経緯に照らせば、警察において、亡甲野の殺人事件については、亡伊藤の殺害との関連性をも念頭においたうえで、本件保険契約の契約者兼死亡保険金受取人である控訴人の関係者がこれに関与している可能性や、被保険者である亡甲野が第三者に依頼して殺害を行わせた可能性も考えられるものとして捜査が行われてきたものと推認される。
そして、右捜査の結果如何によっては、被控訴人において、保険契約者兼死亡保険金受取人の故意により死亡が惹起されたか、又は、責任開始日から一年内の被保険者の自殺と同視すべき嘱託殺人に該当するとして、保険金支払いの免責事由を主張することが当然考えられる。したがって、被控訴人としては、警察の捜査の状況及び結果を踏まえて免責事由の存否を判断する必要があり、警察の捜査がなお継続中の間は、保険会社としては右判断は困難であるから、その間は事実の確認のためとくに時日を要する場合に当たるということができる。
そこで、本件の捜査の状況を見ると、捜査本部は解散されていないようであり、警察は捜査を継続中であるとしているが、既に事件発生から三年近い年月を経過していること、亡甲野の家族が任意提出した物件がすべて返還されていること等の事実からすれば、社会通念に照らして、今後さらに捜査が進展することは望めない状況にあると推認するほかはない。そうすると、捜査は、形式的にはなお継続されているとしても、実質的には終了しているものというべきであり、もはや事実の確認のため時日を要するとはいえないものと認められる。したがって、当審口頭弁論の終結の日である平成一一年一一月三〇日の経過により、本件死亡保険金の履行期が到来したものというべきである。
三 争点3(亡甲野の殺害が同人の嘱託によるものであったか否か)及び危険の著増による保険契約の失効について
1 控訴人の主張を裏付ける事実として、以下の事実が認められる。
(一) 亡甲野は、第一勧業銀行から、平成二年八月八日に二億三〇〇〇万円を平成七年八月七日に一括返済、利息年五・〇五パーセントの約定で、また、平成二年八月二四日に四億二〇〇〇万円を平成七年七月七日に一括返済、利息年七・八パーセントの約定で、それぞれ借り入れた。担保として、亡甲野の所有する本郷甲野ビルに根抵当権を設定し、四億二〇〇〇万円の借入については妻の甲野靖子が連帯保証人となった。
この借入について、平成七年四月から利息の返済が滞り始め、約定期限に元本の返済もされなかった。そのため、右銀行は亡甲野との間で返済についての交渉を続けてきたが、亡甲野は何ら具体的な返済計画を示すことなく、返済の目処は立たないままであり、また、担保物件である本郷甲野ビルの任意売却にも断固として応じようとしなかった。そこで、第一勧業銀行は、担保権の実行手続に着手しようとしていたが、その矢先に亡甲野が殺害された。
また、亡甲野が経営する控訴人も、銀行等からの借入により、平成四年末には負債総額が二億円を超えるに至り、同年一一月に殺害された亡伊藤を被保険者とする別件保険契約の死亡保険金に亡甲野が質権を設定していたことにより亡甲野が受領した保険金等一億九〇〇〇万円によって右負債は一旦は激減したが、その後再び借入が行われ、亡甲野が殺害される直前の平成八年末には、借入残元金は一億七八〇〇万円に達していた。
(乙四一ないし四四)
(二) 亡甲野は、第一勧業銀行の担当者との間の借入金の返済に関する交渉の過程で、何度か、「自分は多額の生命保険に加入しており、控訴人の受取分が三億三〇〇〇万円、妻の受取分が二億円あり、最終的には生命保険で返すから銀行には迷惑はかけない。」と述べていた(乙四三、四四)。
また、亡甲野は、平成五年から平成八年までの間、毎年の八月二〇日(控訴人の決算期)付けで、「覚書」と題する書面を作成していたが、平成八年八月二〇日付けの「覚書」には、「私の場合は、個人、法人とも万一の場合、解決しなければならない多くの問題をかかえています。その事が気掛りですので、気が付くままに、その処理方法、考え方を例記しておきます。」として、個人受取の日本生命の二億円の保険金の扱い(第一勧銀には隠しておくこと、振込先を三敬興業とすること)、法人受取の第一生命の五〇〇〇万円及び日本生命の三億円の各保険金の扱い(返済の充当分、三敬興業への貸付など)などについて記載されている(乙四五、四六)。そして、亡甲野は、大学時代からの友人で三敬興業の代表取締役である乙山に対し、右覚書に記載された生命保険金について、覚書に記載されたような方法で処理するように依頼しており、妻靖子を受取人とする保険金二億円は第一勧銀に秘匿すること、控訴人が受取人の保険金三億八〇〇〇万円は当座の資金繰り、リース会社等への返済などに充てること、二億円は三敬興業に貸し付けるか虚偽の質権を設定することなどを指示していた(乙四五、四七)。
さらに、乙山の、平成一〇年三月七日付けの司法警察員に対する供述調書には、<1> 亡甲野は、死ぬには病死や自殺と分かるような方法ではなく、保険金の最高額を受け取る方法として、車でダンプカーに突っ込んだりして交通事故に見せかける方法を考えていたし、実際にやりかけたという話も亡甲野から聞いたことがある、<2> 亡甲野と、死ぬことによって借金を相殺することや家族のために金を残す話をするようになったのは、自分と亡甲野の共通の友人であった亡伊藤が殺されたのをきっかけにしてのことであった、<3> 平成九年二月七日に亡甲野とドライブに出かけたが、その車中で、亡甲野は、「大田に騙されて悔しい。もう死ぬしかない。」と口走り、その後、高田馬場駅に着くまで、亡甲野が車でぶつかって死ぬ場所を見たり、また、首を切って殺人事件に見せかける方法の話をしたりして帰った、<4> 亡甲野は、乙山がアメリカンホームの交通保険、郵便局の簡易保険に入った平成八年七月頃と同年一二月頃に、死にたいという言葉を洩らしていたが、その都度思い止まっていた、<5> 亡甲野と保険に入って借金を返済し、また、家族のために幾らかでも金を残そうと話し合った時で、確か平成七年頃だったと思うが、お互いの死後の話になり、亡甲野は、「お前は、どこどこに幾ら返せば後に残ると簡単だけど、俺の場合は借金を返しても複雑な問題が残る。だから死ぬのは俺で、お前は第一勧銀との交渉のため死んでもらっては困る。」と言った、複雑な問題とは、借金額よりも保険金が少ないことである、との記載がある(乙四五)。
2 他方、以下の事実も認められる。
(一) 控訴人には、平成七年度(平成六年八月二一日から平成七年八月二〇日まで)には一二〇万四七九三円、平成八年度(平成七年八月二一日から平成八年八月二〇日まで)には四六〇万四〇六二円、平成九年度(平成八年八月二一日から平成九年八月二〇日まで)には六二万五四七三円の利益があった(甲七ないし九)。
(二) 亡甲野が代表取締役であり、その全株式を保有していた株式会社ベル・セントは、控訴人の印刷部門を法人化した会社であるが、亡甲野が殺害された直前頃は、同会社の、インターネットを利用した新規事業である「ベルネットワークシステム」が開始される直前の時期であって、亡甲野は、平成八年一二月には右システムの新聞発表を行い、同会社は、経営情報誌「日経ベンチャー」の平成九年三月号にその紹介記事を掲載するとともに、代理店(県ブロック販社)を募集する広告を載せている。
また、平成九年四月号の「日経ベンチャー」と「ビジネスチャンス」という雑誌にも代理店募集の広告を載せるため、版下を作るなどの準備をしていた。
そして、控訴人の現代表者が亡甲野の死亡の連絡を受けた時は、同人は、父親である亡甲野の指示を受けて、巣鴨信用金庫で五〇〇〇万円の借入をするために交渉をしていたところであった。同人の弟も、三洋電機から右事業に参加したいとの話があったため、同社へ行って交渉中であった。
右事業は、日立製作所グループから約一万台のパソコンを仕入れたり、技術指導を受けたりしながら、全国の中小企業の総務課に無償でパソコンを設置して、そこから種々の商品(文具、家具の販売や生活情報の供給)の注文を受けるというものである。
(甲三ないし五、一四)
第一勧銀の担当者も、亡甲野から、平成六年一二月以降、コンピューターネットワークシステムにより文具の注文販売ができる事業に参入することなど、種々の新規事業の話を聞いていた。もっとも、第一勧銀側は、新規事業の開始については楽観してはおらず、新規事業の発足は資金的な理由から不可能であろうとの見通しを立てていた。(乙四三)
(三) 亡甲野を被保険者とする保険契約は、亡甲野が殺害された当時、被控訴人との間で本件保険契約とほか二口の保険契約(保険金は二億円と一〇六万二二〇〇円)が締結されており、第一生命保険相互会社との間で三口の保険契約(保険金は二〇〇〇万円、八〇〇〇万円及び五〇万〇八〇〇円)が締結されていた。これらの保険契約の保険料は、一口が月払いで二九万二九一二円、一口が月払いで一八万二二〇〇円、一口が年払いで二二万円、一口が半年払いで二〇万一六九五円、その他の二口が払い済みであった。契約締結の日は、平成八年四月一日(本件保険契約)、平成五年二月一日、平成八年六月七日、昭和五八年九月二六日、昭和五八年二月一六日及び昭和五八年四月九日である。
そして、被控訴人との間のこれらの生命保険契約の締結については、すべて被控訴人の外交員が勧誘し、外交員の方から依頼したものであって、その後、亡甲野や家族、控訴人の社員等から契約の内容や保険金の受取関係等について問い合わせがあったことはない。第一生命保険相互会社との間の生命保険契約の締結の事情やその後の問い合わせについても同様である。
(甲一二ないし一四)
3 仮に右1で認定した乙山の供述調書記載の亡甲野の言動が事実であったとしても、その言動なるものはその内容や意味合いがあいまいで明確なものではないといわざるをえない。
そして、右1の事実に右2の事実を併せて考えれば、亡甲野の殺人が同人の嘱託によるものであると認めることは困難であり、また、被保険者の責めに帰すべき事由によって危険が著しく増加したということもできない。
四 まとめ
以上述べたところによれば、本件死亡保険金の履行期は当審口頭弁論終結時である平成一一年一一月三〇日に到来したが、本件主位的請求にかかる保険金二億五九七〇万七〇八八円のうち質権が設定されている二八七二万一三〇〇円については、その請求にかかる訴えを不適法として却下し、当該債権の確認の判決をするにとどめることになるが、その余の主位的請求は、二億三〇九八万五七八八円及びこれに対する弁済期の翌日である平成一一年一二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払請求の限度でこれを認容すべきであり、その余の請求(平成九年三月一二日から平成一一年一一月三〇日までの遅延損害金)は棄却すべきである。
第四結論
よって、以上述べたところと結論を異にする原判決を変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条、六四条、六一条を、仮執行の宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 原田敏章 裁判官 榮春彦)
目録
一 契約締結日 平成八年四月一日
二 保険契約者兼保険金受取人 控訴人
三 被保険者 甲野次郎
四 証券記号番号 三五三-七三三三二三七
五 保険の種類 定期特約付終身保険
六 死亡保険金 金三億円