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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3754号 判決 1999年2月24日

控訴人・被控訴人(原告) 大和信用株式会社(以下「一審原告」という。)

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 関口保太郎

同 脇田眞憲

同 冨永敏文

同 吉田淳一

被控訴人・控訴人(被告) 東京グリーン株式会社(以下「一審被告東京グリーン」という。)

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 中川徹也

同 亀井正照

被控訴人(被告) 愛和商工株式会社(以下「一審被告愛和」という。)

右代表者代表取締役 C

右訴訟代理人弁護士 山田雅康

被控訴人(被告) 大成商事株式会社(以下「一審被告大成」という。)

右代表者代表取締役 D

被控訴人(被告) 株式会社オリエンタルコーポレーション(以下「一審被告オリエンタル」という。)

右代表者代表取締役 E

右訴訟代理人弁護士 野島潤一

主文

一  一審原告の控訴及び当審における拡張請求をいずれも棄却する。

二  原判決中一審被告東京グリーンの敗訴部分を取り消す。

三  一審原告の一審被告東京グリーンに対する請求を棄却する。

四  訴訟費用中当審において生じた部分及び原審において一審原告と一審被告東京グリーンとの間に生じた部分は一審原告の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  一審原告

1  原判決を次のとおり変更する。

2  一審原告と一審被告らとの間において、一審原告が一審被告東京グリーンに対して別紙ゴルフ会員権目録<省略>のゴルフ会員権に基づく金一四〇〇万円の資格保証金返還請求権を有することを確認する。

3  一審被告東京グリーンは、一審原告に対し、金一四〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月一九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え(このうち、付帯請求は当審における拡張請求)。

4  一審被告愛和は、一審原告に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成八年一二月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第一、二審とも一審被告らの負担とする。

6  第三、四項について仮執行宣言

二  一審被告東京グリーン

1  主文第二、三項と同旨

2  訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、一審原告が、訴外F(以下「F」という。)から、一審被告東京グリーンの経営する別紙ゴルフ会員権目録<省略>の「富里ゴルフ倶楽部」のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)を譲り受けたとして、一審被告東京グリーンのほか、Fから同じく右会員権を譲り受けたと主張する一審被告愛和、一審被告大成及び一審被告オリエンタルに対し、一審原告が本件会員権の資格保証金一四〇〇万円(以下「本件保証金」という。)の返還請求権を有することの確認を求めた上、一審被告東京グリーンに対しては、預託期間の満了を理由として本件保証金の返還を求めるとともに、一審被告東京グリーンとの間で裁判上の和解により本件会員権の譲渡代金として一一〇〇万円を受領した一審被告愛和に対しては、一審被告愛和に関する譲渡通知が一審原告のそれよりも早く一審被告東京グリーンに到達したことはないなどとし、債権譲渡通知の同時到達の場合における二重譲受人の一人として、不法行為又は不当利得あるいは公平の原則に基づき、本件保証金の半額に相当する七〇〇万円の支払を求めた事案である。

一  前提となるべき事実

1  Fは、平成七年三月九日当時、一審被告東京グリーンの経営する富里ゴルフ倶楽部の本件会員権(個人正会員)を有していた。

一審被告東京グリーンが預託を受けた会員資格保証金については、入会後ないしは正式開場後一〇年間据置きされた後、退会時に返還されるとの定めになっており、本件会員権の発行日は昭和六三年六月一八日、富里ゴルフ倶楽部の正式開場日は平成元年六月一〇日である(以上、甲二の存在自体、乙九、一一、一二、弁論の全趣旨)。

2(一)  一審原告は、訴外株式会社オーナーズゴルフ(以下「日本オーナーズ」という。)に対し、次の約定により各金員を貸し付けた(甲一)。

(1) 金額 一〇〇〇万円

貸付日 平成七年三月九日

弁済期 同年四月一〇日

(2) 金額 五七〇万円

貸付日 同年三月二四日

弁済期 同年四月二五日

(二)  一審原告は、平成七年三月九日、日本オーナーズの代表取締役であるFとの間で、同社が一審原告に対して現在及び将来において負担する一切の債務の根担保として、Fが一審原告に対して本件会員権を譲渡する旨の譲渡担保契約を締結した(甲一、原審証人G)。

3  一審原告は、日本オーナーズが前記各貸金の返済をしなかったため、譲渡担保権を実行し、Fは、同年四月二六日、普通書留による内容証明郵便によって、本件会員権の譲渡を一審被告東京グリーンに通知し、右通知は翌二七日に同一審被告に到達した(以下、この譲渡通知を「原告譲渡通知」という。)(甲一、乙四、六の1、2)。

4  一方、一審被告愛和は、同年四月二六日、Fから本件会員権を譲り受け、Fは、同日、普通書留の内容証明郵便によって、右譲渡を一審被告東京グリーンに通知し、右通知は翌二七日に同一審被告に到達した(以下、この譲渡通知を「被告愛和譲渡通知」という。)(乙四、七の1、2、丙一、原審証人H)。

5  本件会員権については、一審原告及び一審被告愛和以外の者からも、一審被告東京グリーンに対して譲渡通知等がされており、その到達状況は以下のとおりである(乙二、三の各2、弁論の全趣旨)。

到達日 到達書類 譲受人・差押債権者

(一) 平成七年四月二八日 譲渡通知書 (株)青山ファイナンス

(二) 同年五月二日 譲渡通知書 (株)ジェイ・シー・エム

(三) 同月八日 譲渡通知書 一審被告オリエンタル(旧商号・(株)アイ・ライフ)

(四) 同月九日 差押命令 一審被告大成

(五) 同月一五日 譲渡通知書 アコム(株)

6  一審原告は、平成七年六月二七日、一審被告東京グリーンを被告として、東京地方裁判所に対し、本件会員権の名義書換請求訴訟を提起したが、右訴訟は、平成八年二月一三日、訴えの取下げにより終了した(乙二の1、弁論の全趣旨)。

7  一審被告愛和は、平成八年三月五日、一審被告東京グリーンを被告として、東京地方裁判所に対し、本件会員権の名義書換請求訴訟を提起したところ、一審被告オリエンタル及び一審被告大成が右訴訟についてそれぞれ補助参加して審理が進められた後(一審原告は一審被告東京グリーンから訴訟告知を受けたが、参加しなかった。)、同年一一月一九日、本件の一審被告らの間において、一審被告愛和が一審被告オリエンタルから真正な会員資格保証金預り証の引渡しを受けること、一審被告愛和が一審被告東京グリーンに対して本件会員権を代金一一〇〇万円で譲り渡し、一審被告東京グリーンに対して右預り証を引き渡すとともに同一審被告から一一〇〇万円の支払を受けることとし、同日これらの授受を終えたこと、一審被告愛和が和解金として、一審被告オリエンタルに対して五〇〇万円、一審被告大成に対して一〇〇万円を支払うこととし、同日その支払を終えたこと、一審被告愛和、一審被告オリエンタル及び一審被告大成が本件会員権について何らの権利を有しない旨を確認すること等を内容とする裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。

なお、本件会員権の会員資格保証金預り証については、多数の偽造された証書が出回っており、このうち、一審被告オリエンタルが所持していた証書が真正な証書であり、その余の一審原告及び一審被告愛和らが所持していた証書はいずれも偽造証書であった(以上、甲三、四、乙一、三の1ないし3、八、原審証人G、同H)。

8  一審原告は、一審被告東京グリーンに対し、本件訴状の送達をもって、退会の意思表示をした。

9  一審被告らは、一審原告が一審被告東京グリーンに対して本件保証金返還請求権を有するとの一審原告の主張を争っている。

二  争点と当事者の主張

1  本件保証金返還請求権の確認訴訟の可否

(一審被告東京グリーン、一審被告オリエンタル及び一審被告大成)

ゴルフ会員権の保証金返還請求権は、ゴルフ会員権と一体のものであるから、保証金返還請求権のみを分離しての確認請求は許されず、本件保証金返還請求権のみの確認を求める一審原告の請求は失当である。

2  一審原告の本件会員権取得の有無と譲受順位

(一審原告)

(一) 原告譲渡通知は、平成七年四月二七日午前に一審被告東京グリーンに到達したが、その時点では他の譲渡通知は同一審被告のもとに到達していなかったから、一審原告のみが本件会員権の第一順位の譲受人であり、唯一の正当な権利者である。

現に、一審原告の担当者が同日午前一一時ころ一審被告東京グリーンの本店事務所に出向いた際、それに応対した同一審被告の担当者は、その時点で譲渡通知が届いているのは一審原告の分だけであることを認めていた。

(二) なお、保証金返還請求権は、指名債権であるから、会員資格保証金預り証(以下「預り証書」という。)は単なる証拠証券にすぎず、その譲渡については預り証書の交付によって行う必要はない。一審原告としては、一審原告の所持する預り証書(甲二)が偽造されたものであるかどうかは知らない。

(一審被告東京グリーン、一審被告オリエンタル及び一審被告大成)

(一) 一審原告の所持する預り証書(甲二)は偽造されたものであるから、一審原告は、本件会員権の譲渡の要件として必要とされる預り証書の交付を受けていない。したがって、一審原告は、本件会員権の権利者とは認められない。

(二) また、原告譲渡通知は、平成七年四月二七日午前、被告愛和譲渡通知と同時に一審被告東京グリーンに到達したものであるから、一審原告は、自己が第一順位の譲受人であるとして本件会員権の取得を主張することはできない。

(三) 仮に、一審原告が本件会員権の譲渡を受けたとしても、右譲渡による入会については会則上富里ゴルフ倶楽部の理事会の承認が必要とされるところ、Fから一審原告に対してされた譲渡については理事会の承認がされていない以上、一審原告は、本件会員権の取得を一審被告らに対して主張することはできない。

3  一審被告東京グリーンの本件会員権の譲受けによる混同消滅の有無

(一審被告東京グリーン、一審被告オリエンタル及び一審被告大成)

仮に、一審原告が本件会員権について権利を有するとしても、最高裁三小昭和五五年一月一一日判決(民集三四巻一号四二頁)によると、債権譲渡通知の同時到達の場合には、債務者は他に同順位の債権者がいることをもって弁済の責めを免れることはできないとされているのであるから、これに準じて預託金会員制のゴルフ会員権譲渡通知の同時到達の場合の法律関係を考えれば、ゴルフ場経営会社としては、同順位の譲受人の誰か一人をゴルフ会員権者として承認し、その者に対し名義書換をするか、又はその者からゴルフ会員権を譲り受ければ足りると解すべきである。

したがって、一審被告東京グリーンとしては、第一順位の譲受人の一人であり、真正な本件預り証を所持する一審被告愛和との間で成立させた本件和解に基づき、同一審被告から本件会員権を市場価格に基づいて買い戻したことにより、本件会員権は混同により消滅したというべきである。

(一審原告)

前記のとおり、一審原告のみが本件会員権の唯一の正当な権利者であるから、一審被告らの間だけで一方的に成立した本件和解によって一審原告の権利が左右されることはあり得ない。

仮に、原告譲渡通知と被告愛和譲渡通知が同時に到達したものであったとしても、一審被告東京グリーンが本件和解により一審被告愛和に対して支払った一一〇〇万円は本件保証金の支払としてのものではなく、売買代金としてのものにすぎないから、一審原告の本訴請求債権とは性質を明らかに異にする金員の授受によって一審原告の右債権が消滅することはない。

さらに、仮に、一審被告東京グリーンが一審被告愛和から本件会員権を譲り受けたとしても、一審原告は、本件会員権について一審被告愛和と同順位の権利者であるから、民法五二〇条ただし書により、混同の例外として一審原告の権利が消滅することはない。

4  本件保証金返還請求権の期限到来の有無

(一審被告東京グリーン)

本件会員権の預り証書(以下「本件預り証」という。)の発行に際し、訴外I(本件会員権の元会員権者。以下「I」という。)に交付した富里ゴルフ倶楽部会則等には、「会員資格保証金は正式開場後一〇年間据置き」と記載されているところ、富里ゴルフ倶楽部が正式開場したのは平成元年六月一〇日であるから、本件保証金の返還期限はいまだ到来していない。

(一審原告)

本件預り証には、Iが富里ゴルフ倶楽部の正会員であることを承認する日として「昭和六三年六月一八日」と記載され、また、「右保証金は入会後一〇年間据置きした後、退会のとき返還する」旨記載されているところ、右入会の日とは、Iが正会員であることが承認された日であると解されるから、本件保証金返還請求権は、平成一〇年六月一八日の経過をもって期限が到来したことが明らかである。

5  本件保証金の返還方法など

(一審被告東京グリーン)

本件預り証に「右保証金は、退会のとき本件預り証と引換に返還する」旨記載されていることから明らかなとおり、本件保証金の返還は、真正な本件預り証の交付と引換給付とされている。

したがって、仮に、一審原告に一部でも本件保証金返還請求権が認められる場合には、一審被告東京グリーンは、真正な本件預り証の交付を受けるまでその請求を拒絶するし、そもそも、本件和解の前記経過及び内容に照らし、一審原告は、真正な本件預り証を所持しておらず、かつ、これを所持し得ないことが明白であるから、本件保証金の返還を求めることはできない。

(一審原告)

富里ゴルフ倶楽部の会則には、会員資格保証金の返還に関し、真正な会員権証書の所持を要求する規定は全くないから、本件保証金の返還請求について、真正な本件預り証の所持は要件ではない。

また、一審原告の所持する本件預り証が偽造であったとしても、実体法上、本件保証金返還請求権の帰属は、対抗要件の先後によって決せられるものであり、真正な本件預り証の所持とかかわりなく、一審被告東京グリーンに対し権利行使ができることは明らかである。

6  一審原告の一審被告愛和に対する請求の当否

(一審原告)

仮に、一審原告の一審被告東京グリーンに対する権利が同一審被告の主張するように本件和解により消滅したとすれば、一審被告愛和は、本来一審原告が受領すべき金員についてまで支払を受けているのであるから、本件保証金一四〇〇万円の半額に相当する七〇〇万円の限度で、一審原告に対して損害を被らせ、又はこれと同額の金員を不当に利得したものである。

また、最高裁三小平成五年三月三〇日判決(民集四七巻四号三三三四頁)は、同一の債権について、差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明であるため、第三債務者が債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得すると判示している。

そして、第三債務者が供託した場合も、債権者の一方に弁済した場合も、第三債務者にとっては債務消滅の効果が生じ、後は債権者間の清算の問題が残ることになり、両者の利益状況は全く同一であるから、右判旨は、第三債務者が債権者の一方に対し弁済をした場合にも適用されるべきである。

(一審被告愛和)

一審被告愛和は、正当に取得した本件会員権に基づいて本件和解を成立させ、一一〇〇万円の支払を受けたものであるから、一審被告愛和の右金員受領は、法律上の原因に基づくものであり、同一審被告について不法行為ないし不当利得が成立する余地はない。

また、一審原告の一審被告愛和に対する請求は、債権譲渡通知の先後関係が不明であるにもかかわらず、一審原告が優先的地位にあることを主張するものであり、右最高裁判決に反し、許されない。

7  権利の濫用

(一審被告東京グリーン、一審被告オリエンタル及び一審被告大成)

一審原告は、本件会員権につき、前記のとおり、一審被告東京グリーンを被告としていったん自ら名義書換請求訴訟を提起しながらこれを取り下げ、また、その後、一審被告愛和が一審被告東京グリーンを被告として提起した名義書換請求訴訟においては、訴訟告知を受けたにもかかわらず参加をせず、権利を放棄したに等しい行動を採っておきながら、一審被告らの間において本件和解が成立するや、同一の紛争を蒸し返すために、本件訴えを提起したものである。したがって、一審原告の本件訴えは、権利の濫用に当たり、禁反言の原則に反し、棄却を免れない。

(一審原告)

一審原告としては、一審被告東京グリーンに対して提起した訴えが、一審被告愛和が提起した訴えの場合と同様、一審被告東京グリーンに対する所定の名義書換の申込手続をせずに直接自己名義への名義書換を求めるものであったため、請求棄却になることが確実であったことや、関係者らの間で話合いがつく見込みがなかったことから、自己の訴えを取り下げることとし、また、一審被告愛和の提起した訴えにも参加しなかっただけにすぎず、本件訴えは権利の濫用に当たらない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、当審における資料を加えて本件全資料を検討した結果、一審原告の一審被告らに対する各請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は次の二以下のとおりである。

二  争点1(本件保証金返還請求権の確認訴訟の可否)について

一審被告東京グリーン、一審被告オリエンタル及び一審被告大成は、本件保証金返還請求権についてのみの確認請求は許されないと主張するが、一審原告の主張に照らせば、本訴において、一審原告は、本件会員権を譲渡担保権の実行によって取得したことに基づき、一審被告東京グリーンに対し本件訴状の送達をもって退会の意思表示をしたとして、一審原告がゴルフ会員権の一内容をなす本件保証金返還請求権を有することの確認を求めているものであるから、このような権利の確認請求が許されないものとは解されず、右一審被告らの主張は採用できない。

三  争点2(一審原告の本件会員権取得の有無と譲受順位)について

1  証拠(乙九から一二)及び弁論の全趣旨によれば、本件会員権は、いわゆる預託金会員制のゴルフ会員権であり、会員権の譲渡については、富里ゴルフ倶楽部の理事会の承認を得た上で名義書換の手続(以下「名義書換承認手続」という。)を要するものとされていることが認められる。

2  このようなゴルフ会員権に関する法律関係は、会員とゴルフ場経営会社との間のゴルフ場施設の優先的利用権、預託保証金返還請求権及び年会費納入義務等を内容とする債権的契約関係であり、会員の地位は、これらの権利義務が一体となった契約上の地位であると解される。

そして、会員権譲渡に関して名義書換承認手続が必要とされる趣旨は、会員となろうとする者を事前に審査し、会員としてふさわしくない者の入会を認めないことにより、ゴルフクラブの品位を保つことにあるというべきであり、また、会員権の譲渡が右のような会員の契約上の地位の譲渡であることにかんがみると、会員は、譲渡の当事者間においては、名義書換承認手続を経なくても、同手続がされたときに会員としての地位を取得するものとして、会員権を相手方に有効に移転することができるが、ゴルフ場経営会社との関係においては、会員権の譲受人は、名義書換承認手続がされるまでは会員権に基づく権利を行使することができないというべきである(最高裁二小平成八年七月一二日判決・民集五〇巻七号一九一八頁参照)。

しかるところ、一審原告がFからの本件会員権の譲受けにつき名義書換承認手続を経ていないことは、弁論の全趣旨によって明らかであるから、一審原告は、一審被告東京グリーンに対しては、その取得に係る本件会員権に基づく権利である本件保証金返還請求権を行使することはできず、したがって、一審原告の一審被告東京グリーンに対する本件保証金返還請求権の確認及び同返還請求は、その余の点について判断するまでもなく、この点で既に失当であるといわざるを得ない。

3  次に、ゴルフ会員権の譲渡をゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗するためには、指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれを右会社に通知し、又は右会社が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りると解するのが相当である。

したがって、本件会員権の譲渡につき、真正な本件預り証の交付が必要であることを前提とする一審被告オリエンタル及び一審被告大成の主張は理由がない。それと同様に、一審被告愛和が本件和解の際に、一審原告よりも譲渡通知到達の点で劣後する一審被告オリエンタルから真正な本件預り証の交付を受けたことがあるからといって、そのことだけから、一審被告愛和の順位までもが一審原告に劣後することになるとはいえないのであり、この点に関する一審原告の主張もまた採用できない。

4  そこで、一審原告の譲受順位について検討する。

一審原告は、原告譲渡通知が平成七年四月二七日午前に一審被告東京グリーンに到達した時点では、他の譲渡通知は到達していなかったから、一審原告こそが第一順位の譲受人であり、唯一の正当な権利者であると主張し、証人Gはこれに沿う供述をし、甲五にも同旨の記載がある。

しかしながら、原告譲渡通知及び被告愛和譲渡通知に関する各普通書留の内容証明郵便がいずれも右二七日に到達したことは前記判示のとおりであるところ、証拠(乙四、五、八、丙二、原審証人H)及び弁論の全趣旨によれば、一審被告東京グリーン本店では、右二七日午前、社員のJが右各郵便物を同一機会に受領したとして「書留受信簿」(乙四)にその旨を記載したこと、一審被告東京グリーンの本店所在地区域の郵便配達業務を取り扱う麹町郵便局では、右当時、管内の普通書留郵便物の配達回数は一日一回であったこと、一審被告愛和の社員のH及びKは、同日午後一時ないし二時ころ、一審被告東京グリーンの本社を訪ね、B社長らと面談した際、その時点で、Fの名によってされた本件会員権の譲渡通知として一審原告と一審被告愛和分の二通が届いているとの説明を聞いたこと、一審被告東京グリーンにおいては、当時、偽造会員券が出回っていたため、対外的に慎重な対応をしていたことが認められ、これらの事実に照らせば、一審原告の前記主張に沿うG証人の供述及び甲五の記載は直ちに採用できず、原告譲渡通知が被告愛和譲渡通知に先立って第一順位で到達したものとはいまだ認められない。

むしろ、右認定事実を総合すれば、右各譲渡通知の到達の先後関係は不明であるというほかなく、一審被告東京グリーンに対しては同時に到達したものとして取り扱うのが相当である。

よって、本件会員権につき、一審原告が第一順位の譲受人であり、唯一の権利者であるとする一審原告の主張は理由がなく、結局、一審原告と一審被告愛和は、同順位の譲受人の地位に立つものというべきである。

四  争点3(一審被告東京グリーンの本件会員権の譲受けによる混同消滅の有無)について

1  指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達したときは、各譲受人は、債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り、単に同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済の責めを免れることはできないとともに(最高裁三小昭和五五年一月一一日判決・民集三四巻一号四二頁参照)、譲受人相互間においては、互いに自己が優先的地位にあることを主張できない(最高裁三小平成五年三月三〇日判決・民集四七巻四号三三三四頁参照)ものと解されるところ、ゴルフ会員権が二重に譲渡された本件のような場合についても、指名債権の場合に準じて右と同様に解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、以上認定説示したところによれば、一審被告東京グリーンは、一審被告愛和から本件会員権の名義書換請求訴訟を提起され、平成八年一一月一九日に成立した本件和解において、一審被告愛和との間で、同一審被告が本件会員権の正当な取得者と認めて本件会員権を代金一一〇〇万円で譲り受けたものであるから、本件会員権は、右譲渡の結果、混同によって確定的に消滅したものといわなければならない。

この点に関し、一審原告は、民法五二〇条ただし書の混同の例外を主張するが、前示のとおり、一審原告が譲渡担保権の実行によって本件会員権を取得したとしても、一審被告愛和ないし一審被告東京グリーンに対し唯一の正当な権利者であると主張することができないのであるから、一審原告が民法五二〇条ただし書にいう「第三者」に該当するかどうか疑問がある上、本件会員権が一審原告の担保の目的や用益権の目的となっているものでもないから、一審原告の右主張は採用できない。

五  争点4(一審原告の一審被告愛和に対する請求の当否)について

1  一審原告は、一審被告愛和に対し、不法行為又は不当利得あるいは公平の原則を理由として、一審被告愛和が本件和解により支払を受けた一一〇〇万円のうち七〇〇万円の支払を求めている。

2  しかしながら、既に判示したとおり、一審被告愛和は、本件和解において、同一審被告が本件会員権の正当な取得者と認めた一審被告東京グリーンに対し、本件会員権を代金一一〇〇万円で譲渡し、同一審被告から代金一一〇〇万円を受領したものであるから、一審被告愛和の右代金の受領は、法律上の原因に基づく適法なものであり、同一審被告に右受領に関して不法行為又は不当利得が成立する余地はない。

また、一審原告の援用する前記最高裁平成五年三月三〇日判決は、本件会員権について、原告譲渡通知と被告愛和譲渡通知が同時に到達した場合において、右譲受人の一人である一審被告愛和が、同一審被告が本件会員権の正当な取得者と認めた一審被告東京グリーンに本件会員権を譲渡し、これにより本件会員権が消滅した本件について、適用されるものとは解されず、その他本件の事実関係の下においては、公平の原則を理由として、一審原告の一審被告愛和に対する清算金請求を認めることはできない。

六  結論

以上の次第で、一審原告の一審被告らに対する各請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これと異なる原判決中一審被告東京グリーンの敗訴部分を取り消し(原判決中一審被告愛和、一審被告大成及び一審被告オリエンタルの敗訴部分に関しては、同一審被告らから不服の申立てがないので、不利益変更しない。)、一審原告の一審被告東京グリーンに対する請求を棄却し、一審原告の本件控訴及び当審における拡張請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 橋本和夫 大渕哲也)

<以下省略>

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