大判例

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東京高等裁判所 平成10年(ネ)424号 判決 1998年9月16日

控訴人(A事件被告)

株式会社コスモ産業

右代表者代表取締役

小山泰栄

控訴人(A事件被告)

コスモセントラル企画有限会社

右代表者代表取締役

小山昭

控訴人(A事件被告)

金城商事有限会社

右代表者代表取締役

金城邦清

控訴人(B事件被告)

萩原秀夫

右四名訴訟代理人弁護士

石﨑泰男

被控訴人(A・B事件原告)

株式会社日総

右代表者代表取締役

安中淳

右訴訟代理人弁護士

山田泰

主文

一  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

主文同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり加除訂正するほか、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五頁五行目の「営業をすることの」の次に「妨害排除及び」を、同六頁五行目の「コスモセントラル」の次に「企画」をそれぞれ加え、同七行目の「株式会社」を「有限会社」と訂正し、同一一行目の「被告萩原は、」の次に「平成七年一一月末日までに、」を、同行目の「開設して」の次に「以来、」をそれぞれ加える。

2  原判決八頁三行目の「児玉」から同四行目の「引き渡した。」までを「児玉は、条件成就により、本件建物の賃借権を取得し、被告金城から本件建物の引渡しを受けた。」と訂正し、同九頁四行目の「から、」の次に「賃借権設定仮登記の事実を除き、」を加え、同五行目の「権限」を「権原」と訂正し、同一一行目の「転借し、」の次に「同年一一月一日、」を加える。

3  原判決一一頁一一行目全部を次のとおり訂正する。

「4 賃借権又は人格権に基づく妨害排除及び妨害予防請求の当否

(被告らの主張)

原告主張の賃借権は、元々児玉が貸金債権の担保のため、被告金城商事から本件建物につき抵当権の設定を受け、併せて条件付賃借権の設定を受けたものであることが明らかである。

そうであれば、原告主張の賃借権は、いわゆる併用賃借権として、本来、不動産の用益を目的とする真正な賃借権に当たらず、したがって、賃借権に基づく原告の妨害排除請求権は存在しないというべきである。

(原告の主張)

児玉が設定を受けた賃借権は、現実の占有を目的とし、現にその後什器備品の買取りなどをして現実に占有していることから、いわゆる併用賃借権の類型とは異なる真正な賃借権である。」を加え、同一二頁一行目の「額」を削る。

第三  争点に対する判断

一  被控訴人の賃借権の有無

被控訴人の賃借権の有無についての判断は、次のとおり付加するほか、原判決一二頁五行目から同一六頁二行目までと同じであるから、これを引用する。

原判決一二頁五行目の「事実」の次に「等」を、同一三頁一行目の「である。」の次に「被告金城商事代表者の供述その他の証拠によっても、この推定を覆すには足りない。」を、同一四頁一一行目の「した。」の次に「しかし、東山商事は、被告金城商事に対し、本件建物の賃料を支払ったことはない。」をそれぞれ加える。

二  控訴人コスモ産業及び控訴人萩原の占有権原の有無

控訴人コスモ産業及び控訴人萩原の占有権原の有無についての判断は、次のとおり付加するほか、原判決一六頁四行目の「前記」から同一七頁二行目末尾までと同じであるから、これを引用する。

原判決一六頁四行目の「事実」の次に「等」を、同行目の「三、」の次に「四、」を、同八行目の「締結し、」の次に「被告金城商事から本件建物の引渡しを受け、」を、同九行目の「作成した。」の次に「被告コスモ産業は、被告金城商事に対し、本件建物の賃料を最初の一か月分五〇万円しか支払っていない。」を、同一七頁一行目の「し、」の次に「同年一一月二五日、」を、同行目の「開設して」の次に「以来、」をそれぞれ加える。

三  被控訴人の賃借権又は人格権に基づく妨害排除請求等の当否

1  証拠(甲一八、原審における控訴人金城商事代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 控訴人金城商事は、平成七年五月ころないしはそれ以前に、第二回目の手形不渡りを出して事実上倒産した。

(二) 本件建物には、同年六月九日受付で大蔵省の滞納処分による差押えの登記、同年六月一三日受付で逗子市の参加差押えの登記、同年六月二九日受付で第一勧銀信用開発株式会社(以下「第一勧銀信用開発」という。)申立ての同月二七日競売開始決定による差押えの登記が順次経由されている。

(三) 第一勧銀信用開発は、控訴人金城商事、控訴人コスモ産業、控訴人萩原及び被控訴人らを相手方として、横浜地方裁判所横須賀支部に対し、本件建物につき売却のための保全処分を申し立て、同裁判所は、平成八年一一月、右相手方らがいずれも本件建物の価格を著しく減少する行為をしたものと認め、控訴人金城商事に対し、占有移転禁止等を、控訴人コスモ産業、控訴人萩原及び被控訴人らに対し、建物退去をそれぞれ命ずる保全処分を発令し、右相手方らから執行抗告の申立てがされたが、いずれも棄却され、右保全処分は確定した。

2 そこで、前記一、二及び三の1の認定事実にかんがみれば、控訴人ら主張の控訴人コスモ産業の賃借権は、控訴人金城商事が倒産し、本件建物について滞納処分による差押え等がされた後に、控訴人金城商事との間で締結された賃貸借契約に基づくものであって、その敷金は二五〇〇万円で、賃料月額五〇万円の五〇倍に当たる著しく高額なものであり、その賃料も最初の一か月分しか支払われておらず、また、本件建物につき第一勧銀信用開発申立ての競売開始決定による差押えの登記がされた直後に、わざわざ右賃貸借契約について公正証書を作成するなどしているものであるから、いわゆる執行妨害を目的とした濫用的な賃借権であって、抵当不動産の用益を目的とする正常な賃借権ではないといわざるを得ない。

一方、被控訴人主張の児玉の賃借権は、抵当権と併用された条件付賃借権設定契約及びその仮登記に基づくものであって、これまた抵当不動産の用益を目的とする真正な賃借権ということはできず、単に賃借権の仮登記という外形を具備することにより、第三者の短期賃借権の出現を事実上防止しようとの意図のもとにされたものにすぎないというべく、賃借権としての実体を有するものでないといわなければならない(最高裁平成元年六月五日第二小法廷判決、民集四三巻六号三五五頁参照)。

そうとすれば、このような真正な賃借権でない賃借権を児玉から譲り受けたとする東山商事から本件建物を転借したとする被控訴人の転借権も、転借権としての実体を有するものではないから、被控訴人は、たとえ相手方が濫用的賃借権者である控訴人コスモ産業及び同控訴人から本件建物部分を転借したとする控訴人萩原であっても、転借権に基づき、控訴人コスモ産業に対し、本件建物を使用するについての妨害排除及び妨害予防を求めたり、控訴人萩原に対し、本件建物部分の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求めたりすることはできないといわなければならない。

そして、被控訴人主張の転借権が、右判示のように転借権としての実体を有しないものである以上、控訴人らに対し転借権の確認を求める被控訴人の請求も、理由がないといわざるを得ない。

3  また、以上認定説示したところによれば、被控訴人と控訴人コスモ産業との間の本件紛争の実態は、本件建物の所有者である控訴人金城商事が倒産し、本件建物につき滞納処分による差押え等がされた後に、ともに転借権又は賃借権を主張して本件建物に入り込んだ者同士が、互いに相手方の占有が不法占有であるとしてこれを排除しようとしたものに外ならないから、このような本件紛争の実態にかんがみれば、被控訴人は、信義則上、人格権に基づき、控訴人コスモ産業に対し、本件建物を使用するについての妨害排除等を請求することはできないというべきである。

なお、被控訴人の控訴人コスモ産業に対する賃借権又は人格権侵害に基づく慰謝料請求も、右判示の本件紛争の実態、被控訴人主張の転借権がその実体を有しないものであること等に照らし、理由がないといわざるを得ない。

第四  結論

以上の次第で、被控訴人の請求はいずれも理由がなく、これらを棄却すべきであるから、これと異なる原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消し、被控訴人の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官橋本和夫 裁判官川勝隆之は、転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官塩崎勤)

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