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東京高等裁判所 平成10年(ネ)4910号 判決 1999年6月30日

主文

一  控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、控訴人甲野大郎に対し、金一四三一万二五五二円を支払え。

3 被控訴人は、控訴人乙山春夫(以下「控訴人乙山」という。)に対し、金一〇六八万七四四八円及びこれに対する平成七年一〇月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  当事者双方の主張

一  当事者双方の主張は、次の二及び三のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決の「事実」欄の第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当審における控訴人らの主張

1 本件保険契約においては、保険の目的が、それぞれ独立した五個の物件であり、その保険金額及び保険料が個々の目的物件ごとに定められている。したがって、本件における保険契約は、五個の目的物件ごとに五個存在するものというべきである。

ところで、本件保険契約締結の時点において、既に本件テーブルは存在しなかったから、本件テーブルに関する保険契約は、目的物の不存在により、当初から無効であったものというべきである。したがって、本件テーブルに関しては、そもそも、保険事故の発生も、それに関する不実申告という問題も発生する余地がないのである。これに対し、他の四個の目的物件に関する保険契約は有効に存在し、それについて保険事故が発生したのであるから、被控訴人が右四個の保険契約に基づく保険金を支払う義務のあることは明らかである。

2 仮に、五個の目的物件全体について一個の保険契約が締結されたと解すべきものとしても、右1の事実にかんがみれば、個々の目的物件ごとに保険契約の効力を判断することが可能であるから、免責要件を含めた本件保険契約の効力を判断するに際しては、個々の目的物件ごとにこれを判断すべきである。したがって、仮に、控訴人乙山が本件テーブルに関して不実の申告をし、そのため被控訴人が本件テーブルに関する保険金の支払いを免責されるとしても、他の目的物件に関する保険金の支払いについてまで免責される理由はないものというべきである。

三  当審における被控訴人の主張

1 本件保険契約は、一個の保険契約である。本件保険契約においては、保険の目的を「建物及び設備・什器等一式」とせずに、建物のほか、建物内に存する動産類を四個に特定・限局しているが、これは、保険料を安く抑えるために保険の目的を特定・限局したに過ぎず、いわゆる「明記物件」方式といわれる保険契約締結の一方法なのである。したがって、「明記物件」方式により保険契約が締結されたからといって、保険契約が明記された個々の物件ごとに成立するわけではない。

2 また、不実申告の場合に保険金の支払義務が免責されるのは、保険契約の本質から導かれる善意契約性、技術契約性によるものであるから、重要な事実について不実申告があれば、保険契約全体について免責されるのは当然であって、「明記物件」方式により保険の目的物件が特定されているからといって、不実申告の対象となった当該目的物件に限局して免責の効力が生ずるわけではないのである。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所の判断は、左記二のとおり訂正、補足を加え、左記三のとおり当審における主張に対する当裁判所の判断を付加するほかは、原判決の「理由」欄の記載と同一であるから、これを引用する。

二  原判決の記載の訂正、補足

1 原判決一六頁四行目の「仙田勇」の次に「(以下「仙田」という。)」を加え、同一九頁二行目の「林及び和田が」を「被控訴人の担当者である林尭男(以下「林」という。)及び前記損害鑑定人の和田が」と改め、同五行目から六行目にかけての「被告担当者の」を削除する。

2 原判決二一頁六行目から同二二頁六行目までの(四)の記載を次のように改める。

「損害発生の場合に不実申告等がなされたときの被控訴人の免責について定める本件保険約款一七条三項は、『保険契約者または被保険者が、正当な理由がないのに……提出書類につき知っている事実を表示せずもしくは不実の表示をしたときは、当会社は、保険金を支払いません。』と定めるのみで、保険の目的物件の一部について不実申告等があった場合に、被控訴人が、当該保険契約に基づく保険金の全部の支払いについて免責されるのか、当該目的物件に関する保険金の支払いについてのみ免責されるのかについては、特段の定めをしていないから、右の点については、不実申告等がなされた場合における保険金の支払いについて免責規定が設けられている趣旨等からこれを判断するほかない。そうすると、右の免責規定は、損害が発生した場合に、保険者が迅速に損害填補責任の有無を調査し、かつ、適正な填補額を決定することができるようにするために設けられた規定であり、保険契約における信義誠実の原則がその前提をなしているものと解されるから、右の点も、当該不実申告等が、右の損害填補責任の有無の迅速な調査と適正な填補額の決定の妨げになるおそれがあるなど、保険契約における信義誠実の原則からして許容されないような態様のものに該当するか否かという見地からこれを判断するのが相当であり、結局、保険契約者又は被保険者が、故意又は重大な過失により、当該保険契約上重要な事実に関して不実申告等をしたとみられるときには、保険者は当該保険契約に基づく保険金の全部の支払いについて免責されることとなるものと解するのが相当である(なお、本件保険契約が保険の目的物件ごとに五個存在し、保険契約の効力や免責の及ぶ範囲を各目的物件ごとに判断すべきであるという控訴人らの主張が理由のないことは、後記のとおりである。)。

これを本件についてみるに、前記のとおり、本件テーブルを主体とするテーブル一式の保険金額は金五〇〇万円という大きな金額であり、本件保険契約に基づく保険金の総額の金三五〇〇万円に対して相当の割合を占め、また、控訴人乙山の本件不実申告の態様は、前記のとおり、本件火災前に本件テーブルが存在しなかったことを熟知しながら、意図的に虚偽の申告を継続したというものであるから、これが右の保険契約における信義誠実の原則からして、許容されないものに該当することは明らかであり、被控訴人は、本件保険契約に基づく保険金額全部について免責されることとなるものというべきである。」

3 原判決二二頁の八行目から二三頁六行目までの記載を削除する。

4 原判決二三頁七行目の「三」を「二」と訂正する。

三  当審における控訴人らの主張について

1 本件保険契約においては各目的物件ごとに五個の独立した契約が存在するとの主張について

本件保険契約は、平成七年一〇月三日、控訴人乙山と被控訴人との間で締結された普通火災保険契約であるが、本件火災保険申込書には、その一枚目に、物件区分を「工場」、証券番号を「六三七五四五一八二一」、保険金額を「三五〇〇万円」、保険料を「一万八四一〇円」、保険の目的を「建物」「設備・機械・什器等一式」とそれぞれ記載されたうえで、その二枚目と三枚目に、特記事項(明記物件等)として、本件建物内に存在する動産類のうち保険の目的となる対象を、ツインテーブル、ダイシャ、本件テーブル、キュービクルの四点に特定・限局するとともに、前記保険金額及び保険料を右各物件ごとに割り振った金額がそれぞれ記載されており、本件保険証券にも、その一枚目に前記証券番号と保険金額及び保険料の記載がなされ、その二枚目から五枚目までの各火災目的明細書に、前同様に、特記事項(明記物件等)として、目的をツインテーブル、ダイシャ、本件テーブル、キュービクルの四点に特定・限局するとともに、右各目的物件ごとに割り振られた保険金額及び保険料が記載されている。

右の事実と、保険料を安く抑えるための方法として、保険の目的を「建物及び設備・什器等一式」とせずに、建物内に存在する動産類を特定・限局することが、いわゆる「明記物件」方式として広く行われていること(弁論の全趣旨によりこのことが認められる。)とを併せ考えれば、本件においては、保険契約が明記された五個の目的物件ごとに独立した契約として成立しているものと解するのは相当でなく、全体として一個の保険契約が成立しているものというべきである。

2 免責の効力を五個の目的物件ごとに独立して判断すべきであるとの主張について

前記のとおり、本件において保険契約が個々の目的物件ごとに成立するものではなく、全体として一個の保険契約が成立しているものと考えられること、さらには、前記のような本件の免責規定の趣旨からすれば、本件において、免責の効力を個々の目的物件ごとに判断すべきであるという控訴人らの主張は失当であり、採用できない。

四  結論

以上のとおりであるから、控訴人らの主張はいずれも理由がなく、控訴人らの各請求を棄却した原判決は相当であるから、控訴人らの本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 増山 宏 裁判官 合田かつ子)

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