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東京高等裁判所 平成10年(ネ)5546号 判決 1999年10月13日

控訴人(原審原告)

右訴訟代理人弁護士

仲田晋

島田修一

被控訴人(原審被告)

株式会社山正

右代表者代表取締役

被控訴人(原審被告)

右両名訴訟代理人弁護士

角藤和久

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人株式会社山正は、無孔不燃焼台座付固形もぐさ(商品名「つぼきゅう禅」)を製造販売してはならない。

3  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金二一二〇万六八五一円及びこれに対する平成九年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決事実欄の「当事者双方の主張」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決七頁一〇行目から八頁九行目までを、次のとおりに改める。

「(三) 控訴人は、このような「ピラミッドパワー」の特徴を生かした鍼灸用もぐさについて、実用新案権の設定登録(実用新案登録第一七六八七四八号、同第一八九〇六八一号)を受けており、また、平成二年一〇月に特許出願(特願平二ー二七五九七七号)を行っている。

右のように、「ピラミッドパワー」の製造技術は、控訴人が開発取得した経済的価値のあるものであるから、営業秘密として、平成二年法律第六六号による改正後の不正競争防止法(昭和九年法律第一四号)及び不正競争防止法(平成五年法律第四七号)によって、保護されるべきものである。」

二  同一〇頁一〇行目の「原告及び」から一一頁六行目の「情報を入手した。」までを、「控訴人から、温熱表に基づいて「ピラミッドパワー」の効能の教授を受け、また、「ピラミッドパワー」の製造方法、具体的には、もぐさの量、糊で固める際の水加減、乾燥時間などの固形もぐさの製造方法、台座の材質、厚さなどの台座の製造方法、固形もぐさの台座への接着方法の教授を受けた。」に改める。

三  同一二頁九行目の次に、改行して、次のとおり加える。

「 「つぼきゅう禅」の台座は丸型で、角型である「ピラミッドパワー」の台座と異なるが、丸型台座は角型台座から簡単にくり抜けるものであり、丸型台座でも角型台座でも同じ効果が発生するものである。

また、「つぼきゅう禅」のアポロンシートは、「ピラミッドパワー」の伝導シート、不燃性超伝導シートと、厚さ、体積が同一であり、これを流用したものにほかならない。」

四  同一二頁末行から一三頁六行目までを、次のとおりに改める。

「 被控訴会社代表者及び被控訴人Cは、平成元年一〇月の直前ころに、控訴人を欺罔して「ピラミッドパワー」の製造技術を不正に取得して使用することを共謀し、被控訴人Cにおいて、前記(二)のとおり、控訴人からその保有する営業秘密である「ピラミッドパワー」の製造方法等の教授を受けてこれを取得したうえ、被控訴会社に伝えて開示し、被控訴会社はその開示を受けてこれを取得し、使用して、「ピラミッドパワー」を真似た商品である「つぼきゅう禅」を製造販売したものである。

「ピラミッドパワー」は、もぐさを固形にしたため熱が強く、燃焼時間も一六分ないし二〇分と長時間持続し、かつ、台座が無孔であるために熱が拡散、浸透するという特性を有し、控訴人は、これらの特性を組み合せることによって遠赤外線を放射させることに成功したものである。このような効能をもつ間接灸はそれまでなく、控訴人が初めて開発したものである。被控訴会社が「つぼきゅう禅」を製造販売するまでに取り扱ってきたロケット灸、千年灸などの商品は、よもぎを素材としたもぐさが固形でないために熱が弱く、燃焼時間も三〇秒程度であり、かつ、台座が有孔であって、有孔部分にしか熱が伝導せず、拡散もしないから、遠赤外線を放射することができなかった。

被控訴会社は、「つぼきゅう禅」について、「遠赤作用で細胞が共鳴し熱エネルギーに変換ツボを刺激活性化いたします」との宣伝を行っているが、これを実証するデータはない。これは、「つぼきゅう禅」が「ピラミッドパワー」の製造方法とその効能をまねたからにほかならない。」

五  同一三頁八行目から一四頁二行目までを、次のとおりに改める。

「 したがって、被控訴人Cは、不正に取得した営業秘密を開示したものであり、また、被控訴会社は、それについての不正取得行為が介在したことを知りながら営業秘密を取得し、使用したものであって、かつ、被控訴人らの行為は共同不法行為と解すべきものであるから、平成二年法律第六六号による改正後の不正競争防止法(昭和九年法律第一四号)一条三項一号、二号、一条の二若しくは不正競争防止法(平成五年法律第四七号)二条一項四号、五号、四条又は民法の規定により、控訴人に生じた損害を連帯して賠償すべきものである。」

六  同一五頁末行及び一六頁五行目の各「不正競争防止法」をいずれも「平成二年法律第六六号による改正後の不正競争防止法(昭和九年法律第一四号)若しくは不正競争防止法(平成五年法律第四七号)」に改める。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の本件各請求はいずれも理由がないものと判断する。  その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由欄と同じであるから、これを引用する。

1  原判決二〇頁二行目から同三行目にかけての「第四二号証、」の次に「第四四、第五一号証、」を加える。

2  同二五頁八行目から二七頁一行目までを、次のとおりに改める。

「5 控訴人は、考案の名称を「鍼灸用もぐさ」とする実用新案登録第一七六八七四八号の実用新案権(昭和五九年一二月二八日出願、平成元年五月一六日設定登録)及び考案の名称を「灰収容体付もぐさ」とする実用新案登録第一八九〇六八一号の実用新案権(昭和六二年一一月三〇日出願、平成四年三月九日設定登録)を得ているが、前者の実用新案登録請求の範囲は「(請求項一)乾燥したよもぎの繊維及び/又は粉末を主体とする燃焼物と、それに混合したでんぷん質の接着剤とから成り、一定の形状を備えたもぐさ体の外周にアルミホイルその他より成る燃焼制御部材を巻回した鍼灸用もぐさ。(請求項二)燃焼制御部材は全体に多数の通気孔を有する実用新案登録請求の範囲第一項記載の鍼灸用もぐさ。(請求項三)燃焼制御部材は無孔の燃焼停止部材であり、もぐさ体の下端に巻回されている実用新案登録請求の範囲第一項又は第二項記載の鍼灸用もぐさ。」というものであり、後者の実用新案登録請求の範囲は「(請求項一)適量のもぐさ3を固定し、その燃焼熱を皮膚に伝える薄片状の基材1と、前記基材1上にもぐさ3をそれから離れて囲む容器状に設けられた、不燃性、難燃性の灰収容体2からなる灰収容体付もぐさ。(請求項二)基材1は下面に接着面4を有する実用新案登録請求の範囲第一項記載の灰収容体付もぐさ。」というものである。

また、控訴人は、無痕灸用台座及び無痕灸具の発明につき、平成二年一〇月一五日に特許出願(特願平二ー二七五九七七号)をし、平成四年五月二五日の出願公開(特開平四ー一五〇八五九号)を経て、平成九年一〇月三日に審査請求をしたが、未だ登録又は拒絶の査定に至っていない。」

3  同三二頁七行目から三五頁五行目までを、次のとおりに改める。

「 営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう(不正競争防止法(昭和九年法律第一四号)一条三項、不正競争防止法(平成五年法律第四七号)二条四項)ところ、本訴において被控訴人らが不正取得した営業秘密に当たるとして、控訴人が主張する事項は、「ピラミッドパワー」の効能及びその製造方法であり、その主張する製造方法とは、具体的には、もぐさの量、糊で固める際の水加減、乾燥時間、台座の材質、厚さ、固形もぐさの台座への接着方法である。

しかしながら、控訴人において被控訴人らが不正取得したと主張する「ピラミッドパワー」の効能が具体的にどのようなものを指しているのかは、その主張に係る温熱表(甲第二九号証一一一頁)の記載及び原審における控訴人の本人尋問(第一、第二回)における供述を参酌しても、必ずしも明確ではないものの、一般に、「ピラミッドパワー」のような商品の効能は、積極的に宣伝広告する対象ではあっても、それ自体が秘密として管理されるような情報であるとは考え難いうえ、前示一の1(原判決二一頁二行目から二二頁二行目)及び6(同二七頁二行目から同一〇行目)のとおり、控訴人は、四万円程度を支払う者に対し「ピラミッドパワー」の秘伝を伝授し、療術師の認定をする旨の宣伝広告をしていたもので、現に、被控訴人Cが、平成元年一一月に控訴人から「ピラミッドパワー」の使用方法の説明を受け、かつ、「宗家秘伝」と題する書物とともに療術師の認定証も受領しているところ、「ピラミッドパワー」の効能がその使用方法と密接に関係していることは明らかであり、右「宗家秘伝」と題する書物(甲第二八号証)に、「穴(ツボ)」の意義と関連させて「ピラミッドパワー」の効能についても記載してあることに照らすと、「ピラミッドパワー」の効能自体が、秘密として管理されている有用な情報に当たるものと認めることはできない。

もぐさの量、台座の材質、厚さ、固形もぐさの台座への接着方法については、それらが、控訴人の販売している商品としての「ピラミッドパワー」を取得し観察すればたやすく認識し得る事項であることからして、秘密として管理されている有用な情報に当たるものとは認められない。

もぐさを糊で固める際の水加減及び乾燥時間は、固形もぐさの硬さに関係する要素であるが、その硬さ自体は、商品としての「ピラミッドパワー」を取得し観察分析すればたやすく認識し得る事項であるうえ、もぐさの粉を水で溶いて糊で固形化し、乾燥させるその固形化の方法が極めてありふれたものであって、前示水加減及び乾燥時間等は、所定の硬さとの関係で適宜設定することが可能な程度のものと解されることからして、秘密として管理されている有用な情報に当たると認めることはできない。

原審における控訴人本人尋問(第一、第二回)の結果中には、前示の各事項について、特別の「こつ」、「ノウハウ」等があるかのように述べる部分があるが、該部分は具体性に乏しく採用の限りではない。

したがって、控訴人主張の事項が営業秘密に当たると認めることはできず、そうすると、被控訴人らによる不正取得した営業秘密の開示、取得、使用を原因とする控訴人の平成二年法律第六六号による改正後の不正競争防止法(昭和九年法律第一四号)又は不正競争防止法(平成五年法律第四七号)に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。」

4  同三六頁六行目の「その考案の」から同七行目の「明らかである。」までを、「その各実用新案登録請求の範囲の記載に照らし、「つぼきゅう禅」が各考案の技術的範囲に属さず、各実用新案権を侵害するものでないことは明らかである。」に改める。

5  同三七頁七行目の「右特徴は、」から三八頁一行目の「事柄であり、」までを、「「つぼきゅう禅」の右各構成の一つ一つは、被控訴会社をはじめとする灸の製造の分野における当業者に周知の事項であると認められ、そうすると、特許権又は実用新案権を侵害しないのであれば、商品として市場に流通する「ピラミッドパワー」を参考にして、それらの周知事項を組み合せた構成を採用すること自体が、直ちに社会的相当性あるいは自由競争の範囲を逸脱するともいい難く、」に改める。

二  よって、控訴人の各請求をいずれも棄却した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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