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東京高等裁判所 平成10年(ネ)626号 判決 1999年2月23日

控訴人

甲野一郎

外三名

控訴人ら訴訟代理人弁護士

三浦修

飯田直久

被控訴人

ミサワホーム株式会社

右代表者代表取締役

三澤千代治

右訴訟代理人弁護士

賀集唱

松尾翼

森田貴英

吉田昌功

村上義弘

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人甲野一郎(以下「控訴人甲野」という。)に対し金八〇八八万五六〇〇円、控訴人乙川二郎(以下「控訴人乙川」という。)に対し金四〇七四万五二〇〇円、控訴人丙山三郎(以下「控訴人丙山」という。)に対し金四〇五一万五二五〇円、控訴人丁谷四郎(以下「控訴人丁谷」という。)に対し金四〇七六万一六三五円及びこれらに対する平成八年五月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、被控訴人からアメリカ合衆国ワシントン州シアトル郊外のアパートの「Tenancy in Common」(以下、「本件商品」という。)を買い受けた控訴人らが、被控訴人に対し、その売買契約が詐欺によって取り消されたあるいは錯誤により無効であると主張して支払済みの売買代金相当額を不当利得として返還請求し、選択的に説明義務違反などの不法行為であると主張して売買代金相当額の損害賠償請求をし、また、そのほかに、購入手数料及び提携ローン手数料相当額についても不法行為による損害賠償請求をしている事案である。

第三  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被控訴人は、建物及び構築物の部材の製造・販売、土地の開発・造成、不動産の売買等を業とする株式会社である。

控訴人甲野は肩書地で診療所を営む医師であり、控訴人乙川は財団法人原子力工学試験センターに、控訴人丙山は株式会社三菱総合研究所にそれぞれ勤務しており、控訴人丁谷は眼科医である。

2  被控訴人によるサマーミルアパートメントの販売

被控訴人は、被控訴人、訴外株式会社オリエントコーポレーション(以下「オリコ」という。)、同伊藤忠株式会社及び同アメリカンエキスプレスバンク・バルコアグループが出資した、同株式会社アメリカン・インベストメント・マネジメント(以下「エイム」という。)を仲介者(販売担当者)として、商品名「エイムシンジケーションシステム06」(以下「06シリーズ」のように略称する。)との名称で、アメリカ合衆国ワシントン州シアトル郊外の左記アパート(以下「本件物件」という。)の四〇分の一の共有持分権(控訴人らとしては、本件商品を、本件商品のパンフレット及び説明書の記載に従って、不動産の「共有持分権」と表現することにするが、後述するとおり、被控訴人が販売した権利の内容は明確ではない。)を二五万二〇〇〇米ドル(以下「米ドル」を単に「ドル」という。)で売り出した。

右販売に際しては、オリコが提携ローンを組んで購入価格の七五パーセントを貸し付けるので、約一〇〇〇万円の自己資金があれば、本件商品を購入できるように企画されていた。

所在地 16520 ノースロード ボズウエル ワシントン

アパートメントの通称 サマーミルアパートメント

賃貸可能面積 一二万七八四四スクエアフィート(約三五九三坪)

総戸数 一二四戸

3  控訴人らによる本件商品の購入

控訴人らは、被控訴人から、いずれもエイムの仲介により原判決別表1記載の年月日に、同表記載のような内容で、本件商品を買い受けた(以下、この売買を「本件各売買契約」という。)。

そして、控訴人らは、いずれもオリコから同表記載の借入額、借入日、借入利息の各欄に記載のとおり借入をし、被控訴人に対して同表記載の代金支払日に右売買代金を支払い、エイムに対し同表記載の支払手数料を支払い、オリコに対し同表記載のローン手数料支払日にローン手数料欄記載のとおり支払った。

また、エイムは、ワシントン州法に基づき、一〇〇パーセントの株式を保有する現地法人MOC REALTY(U.S.A.)INC。(以下「MOC」という。)を設立し、MOCは控訴人らを含む購入者全員からそれぞれ本件商品を賃借した(以下、この賃貸借契約を「本件各賃貸借契約」という。)。その後、MOCは、一二四戸のそれぞれについてワシントン州法に基づいて第三者との間で賃貸借契約を締結している。

4  本件商品の購入後の状況

被控訴人は、本件商品が有利で安全な投資物件であると説明していたが(詳細は後述する。)、本件商品の平成九年当時の客観的価格は一口一七万九八〇〇ドルに下落しており、資産価値が購入価格より遙に下回るという、右説明とはかけ離れた結果を招来している。また、利回りについても、実際には当初予想していた利回りどころか、借入利息さえ賄えない状況になっている。

5  詐欺による取消

本件商品の販売に当たって、エイムによって以下のような欺罔行為がされた。

(一) 二五万二〇〇〇ドルという販売価格は、実際には被控訴人の買取価格に一五パーセントの利益を載せた価格であったにもかかわらず、あたかもその価格が当時の市場で取引されている相場の価格であるかのように誤信させる勧誘行為をし、しかもそれを前提に今後年三パーセントの価格上昇が予想できるといった虚偽の説明をした。これにより控訴人らは、自己の購入価格を前提として、本件商品が年三パーセントの値上がりが確実に予想される安全な投資物件であると誤信した。

ところが、不動産時価の値下がり、為替変動の影響により、平成九年の時点では、本件商品の客観的な価格は一口一七万九八〇〇ドルであって、出資した元本を取り戻すどころか、オリコからの借入金の返済にも足りない状況となった。

(二) 本件物件の入居率について、実際には一〇〇パーセントではないにもかかわらず、パンフレット(甲一、以下「本件パンフレット」という。)及び商品説明書(甲二、以下「本件説明書」という。)に基づき、入居率は一〇〇パーセントである旨虚偽の説明をした。これにより、控訴人らは、本件商品が確実な賃料収益を上げられる安全な投資物件であると誤信した。

(三) 本件説明書においては、02シリーズの説明書記載の取引実例のうち、価格上昇率の低い取引実例が削除されており、意図的に正確な情報を隠蔽し、かえって虚偽の情報提供をしたことが明らかである。これによって、控訴人らは、(一)で述べたとおりの誤信をした。

なお、実際に勧誘行為をしたのはエイムであって被控訴人ではないが、エイムは、被控訴人が企画・開発する海外投資物件の販売・管理をするために被控訴人やオリコ等の共同出資で設立された会社であり、ミサワホームグループの一員として、被控訴人の違法な販売行為を幇助する立場の存在にすぎないから、エイムの勧誘行為は信義則上被控訴人のそれと同一視されるべきである。

そこで、控訴人らは、被控訴人に対し、本件訴状において、本件各売買契約を取り消す旨の意思表示をした。

6  錯誤無効

右の欺罔行為により、控訴人らは右5で主張したような錯誤に陥ったものであり、これらはいずれも要素の錯誤に当たるから、控訴人らと被控訴人との間の本件各売買契約は無効である。

7  不法行為

被控訴人による本件商品の販売、販売に際しての勧誘行為は、以下のとおり、不法行為を構成する。

(一) 商品としての不適格性、控訴人らの顧客としての不適合性

そもそも控訴人らを含めた一般投資家が本件商品を購入、保有、売却するに当たって、情報を入手し、その適否判断を自主的に行いうる環境が整備されていたとはいえず、本件商品は一般投資家を対象とする金融商品としては不適格なものであった。

また、控訴人らは、それなりの学歴、職歴を有し、ある程度の理解力はあったが、こと海外不動産に対する投資については素人であり、自ら情報を収集し投資判断をするに足るだけの十分な知識は有していなかった。したがって、控訴人らは、本件商品への投資には不適合であった。

(二) 説明義務

仮に控訴人らに対する本件商品の販売、勧誘が許されるとすれば、被控訴人には次のような説明義務があるというべきであるが、被控訴人はこれらの説明義務を怠り、あるいは積極的に虚偽の説明をするなどして、控訴人らを本件商品の購入に至らせたものである。

(1) 売買の目的たる権利の内容

本件商品がいかなる権利であるのかは、売買に当たって最も基本的かつ重要な事項である。

本件各売買契約によって控訴人らが取得できる権利については、本件説明書には「不動産の共有持分権」と記載されているが、本件訴訟における被控訴人の主張によれば、日本民法に規定する不動産の共有持分権ではなく、ワシントン州法上の「Tenancy in Common」であるという。

しかし、実際の売買に当たっての説明においては、「テナンシー・イン・コモン」という用語は用いられておらず、本件パンフレットには「一口当たり四〇分の一の持分割合による共有」と、本件説明書には「不動産の共有持分権」と、それぞれ記載されているだけであって、いかなる権利であるかは全く説明されていない。

また、購入後の処分の可否、その具体的な方法についても、本件説明書に、一括売却は原則として一〇年保有した後に売却すること、一括売却は三分の二以上の投資家の同意を得てから行うこと、個別売却は被控訴人の承認を得れば自由にできることが記載されているだけであって、一〇年後に確実に売却されるのか、その手続はどのようにされるのか、三分の二の投資家の同意は誰がどうやって集めるのか、三分の二以上の投資家が同意しなかった場合は売却できるのか、三分の二に一名でも欠けたら売却できないのか、といった内容については何らの記載もない。

(2) 販売価格の妥当性

本件物件の適正な評価価格は七一五万六九六三ドルであるが、被控訴人はこれに四〇パーセントを超える金額を上乗せして価格設定をしており、これは投資商品としての価値を喪失させるものである。本件商品を投資商品として販売する以上、投資に伴うリスクの内容として、少なくとも当時の相場価格についての十分な説明が必要であった。

また仮に、被控訴人の仕入価格八七五万ドルが市場価格として相当であったとしても、本件商品を投資商品として販売する以上、被控訴人が利益を乗せて販売すれば、本件商品のキャピタルゲインの取得に大きな影響を及ぼすことを説明する必要がある(被控訴人は、本件商品の購入後、毎年三パーセントの値上がりにより、一〇年後に売却した段階で十分なキャピタルゲインが得られると説明したが、このような説明をする以上は、その可能性があるような価格設定をすべきであった。しかるに被控訴人は、仕入価格に自らの利益を15.2パーセント上乗せした価格で売却した。このような利益を上乗せすれば、向こう五年分のキャピタルゲインを先取りしているのであるから、このような商品を有利な投資商品として売却するのはそもそも無理がある。本件商品をあくまでも投資商品として販売するならば、本来被控訴人に認められる利益は不動産仲介手数料分の利益にとどめるべきものであった。)。

被控訴人は、本件説明書及びエイムの社員によって、本件商品は年三パーセントの値上がりが期待できると説明したが、値上がりの基準となるべき金額は実際に市場において取引された取引価格である。控訴人らは、本件説明書及びエイムの社員の説明から、当然実際の取引価格を前提として年三パーセントの値上がりの見込みがあると判断し、本件商品の購入を決定した。しかし、その販売価格は、現実には被控訴人が市場で調達した取引価格に前記のような利益を上乗せした金額であり、本件説明書等の説明とは異なるものであって、被控訴人の説明は事実と異なるものであった。

(3) 購入後の運用内容・収益性

まず、賃貸料の変動に関する一般的なリスクの説明として、賃貸料の決定要因、決定のメカニズムを詳しく説明すべきであった。すなわち、①米国の不動産においては、賃料による収益性が当然不動産の価格にも反映されること、②日本における一般の都市部と異なり、本件物件の所在地は、そこに存する企業の従業員等の生活拠点が主なニーズであり、その企業の経営状態に大きく左右され、それに伴って賃料収益はもちろん物件価格も変動する特徴を有すること、③殊に、本件物件の所在する地域は、ボーイング社の拠点となっており、その地域経済も同社の経営状態と密接に関連し、これに伴い住宅事情も大幅に変動する特殊性を有すること、④このため、同社の受注額が減少すれば、アパートの空室は増え、家賃収入は落ち込み、居住者を確保するためには必然的に経費が増大する関係にあること、⑤実際にシアトル近郊は、本件商品の勧誘が開始ざれた平成二年前半からボーイング社の受注額が落ち込み、空室率が増加したため、賃料収益も減少し、逆に修繕費・メンテナンス費が増加するという事態になっていること等を説明すべきであった。しかし、被控訴人は、今後の賃料収益予想に関しては、単純に年四パーセントの値上がりがあることを前提として、あたかも一〇年間にわたって安定した値上がりがあり、賃料収益が上げられるかのような説明をした。シアトルの住宅事情については、継続して物件不足の状況にあるなどと説明し、今後も賃料収益が増加してゆく傾向にあることを強調した。

また、本件物件の入居率が一〇〇パーセントである旨の虚偽の説明をしたことは既に述べたとおりである。

さらに、修繕費・メンテナンス費について、購入後の費用の推移に関しては、本件説明書の投資収益予想表に初年度を基準にして単純に年四パーセントを上乗せして計上しているにすぎない。実際には、空室率や建物の状況如何によって費用が増大する可能性があり、それにより収益が減少する可能性があるから、このようなリスクについて十分に説明すべき義務がある。

(4) 本件商品における価格決定要因及び投下資本の回収可能性

本件商品は投資の対象であり、投資した資金を回収できるのか、回収時にどの程度の利益が得られるのか、それに伴いいかなるリスクがあるのかは最も重大な事項である。

したがって、米国不動産の取引価格には収益還元法が基本的に適用され、そのため当該地域の経済情勢、とりわけ賃料収入の増減により左右されることといった価格決定のメカニズムについて十分に説明すべきである。また、本件商品はドル建てによっているため、為替相場の変動によっては当初の投下資本が回収できない危険性があることを十分に説明すべきである(具体的には、少なくとも、為替相場がいくらになった段階で損失を被るのかを明らかにしなければ、一般の消費者としては投資判断ができない。)。本件商品が値下がりする可能性、特にいかなる場合に値下がりが予想されるかを十分な資料をもとに説明をする義務があった(特に、被控訴人が値上がりの利益を先取りしている本件のような場合はなおさらである。)。

ところが、本件商品の勧誘に当たって提示された本件パンフレット及び本件説明書では、本件商品がアメリカ合衆国の不動産という安全な物件を対象としたもので、①将来的には十分なキャピタルゲインが見込めること(売却時予想利益として年三パーセントの上昇が予想できるとしている。)、②本件商品が利回り的に有利で安全な投資物件であること、が強調されており、いかなる要因により本件商品の価格、言い換えれば米国における不動産の価格が形成されるのか、それに伴っていかなるリスクが生じるのかについては、何ら説明がされていない。しかも、02シリーズの商品説明書と06シリーズの本件説明書を対比すると、価格上昇率の低い取引実例が06シリーズの本件説明書では敢えて削られており、意図的に正確な情報を隠蔽し、かえって虚偽の情報提供をしたことが明らかである。また、為替相場についても、本件説明書等には、単に購入価格や賃料収入が為替により変動することがあるとの記載があるだけで、具体的に為替相場の変動によるリスクがあるとの指摘はされていない。実際に担当者から説明を受けた際にも、控訴人乙川及び同甲野については全く説明がされなかった。控訴人丙山に対しては、為替変動による損失の可能性があることは指摘されたものの、物件価格の上昇が見込まれるので実際に損失が出ることはないと説明され、逆にリスクはないとの積極的な説明を受けている。控訴人丁谷については、02シリーズを購入した際に、パンフレットに基づいて為替リスクの説明は受けているが、具体的に元本割れする可能性があるとのリスクの説明は受けていない。

(三) 詐欺

前記詐欺の主張において述べた被控訴人の欺罔行為は、不法行為をも構成する。

(四) 契約締結上の過失

既に述べたとおり、被控訴人は信義則に反するような価格設定を行い、商品の説明義務を怠り、正確な情報を隠蔽し、その結果虚偽情報を控訴人らに与え、エイムの違法な販売方法を容認して、最終的に控訴人らをして契約関係に入らせた。この点で被控訴人には契約締結上の過失があり、損害賠償義務がある。

8  控訴人らの被控訴人に対する本件請求

よって、控訴人らは被控訴人に対し、次のとおりの金員の支払を請求する。

(一)(1) 不当利得返還請求

詐欺による取消又は錯誤による無効を理由として、原判決の別表1の「売買代金(円)」欄記載の各売買代金相当額の支払を請求する。

(2) 損害賠償請求

不法行為による損害賠償として、原判決の別表1の「支払手数料」欄記載の各支払手数料相当額及び同表の「ローン手数料」 欄記載の各ローン手数料相当額の支払を請求する。

(3) 右(1)、(2)記載の金員の合計額に対する本件訴状送達の日の翌日から完済に至るまで、民法所定年五分の割合による金員の支払を請求する。

(二) 損害賠償請求

右(一)(1)の請求についての選択的請求として、不法行為による損害賠償として各売買代金相当額及びこれに対する右(一)(3)と同様の金員の支払を請求する。

二  請求原因に対する被控訴人の認否

1  請求原因1項ないし3項の事実は認める。ただし、控訴人らが本件各売買契約によって取得した権利の内容は、正確には後述するとおりである。

2  同4項は争う。

3  同5項(詐欺による取消)について

控訴人らの主張は争う。詐欺が成立するためには、欺罔の故意がなければならないが、そのような故意をもって控訴人らと接した者は誰もいない。また、控訴人らの主張は、販売活動担当者のうちの誰が、どの控訴人に対し、どのような言動をもって、「わざとだます」という意図的な故意行為をしたというのか、極めて不明瞭である。さらに、販売活動を行うエイムと、売主として契約書に調印するだけで、それまでの販売活動には携わらない被控訴人とは、初めから別々の法主体になっていて、混同の問題を生ずる余地はないから、両者の同一視という問題は生じない。

(一) 5項の(一)について

一般的に売主には仕入価格を開示する義務はない。控訴人らの主張が、売買取引においては仕入価格、費用、利益率等をいちいち開示しなければならないという趣旨であるとすれば、商取引の実情からして論外である。本件商品がキャピタルゲインをも目的とするとしても同様である。

また、本件説明書の予想キャピタルゲインは年三パーセントの価格上昇を前提として算出されているが、購入物件の値上がりは所詮見積もりないし予想、期待にすぎない。値上がりするかどうかという不確定性についてのリスクは、本来、買主が負担すべきものである。

(二) 5項の(二)について

入居率が一〇〇パーセントに満たない時期もあったが、これは本件物件が建て増しされていたことによるものである。また、被控訴人の購入後六か月間は現地ディベロッパーによる家賃保証があったので、入居率は問題にならない。平成三年以後は入居率は九〇パーセントを超え、平均九四パーセント程度で推移している。不動産賃貸物件の管理においては、物理的な入居率が一〇〇パーセントであるならば、設定家賃が低きにすぎ、かえって取れる家賃が取れていないことを意味する。

4  同6項(錯誤による無効)について

控訴人らの主張は争う。

5  同7項(不法行為)について

前記のとおり、被控訴人の従業員は、本件商品の販売活動はしていない。エイムは独立の企業であって、その従業員は実質的に被控訴人の指揮監督を受けていたという事実もない。被控訴人との間に使用者・被用者の関係がない。

各主張事実に対する答弁は以下のとおりである。

(一) 7項の(一)について

控訴人らの主張は争う。

本件商品は、控訴人らの主張するような金融商品、投資商品ではなく、節税商品である。その特徴は、日本の税制上の、建物の減価償却による税負担の軽減というメリットを顧客に享受させることにある。まず、米国においては、土地付建物の購入代金に占める建物価額の割合が著しく高い。米国の郊外型木造アパートでは、この割合が約八〇パーセントであるのに対し、日本のワンルームマンションでは約二〇パーセントであるため、同額の物件を購入した場合、この割合の相違だけによっても、本件商品の購入によるメリットは、三ないし四倍となる。次に、日本の税法上、木造建物の減価償却年数は、コンクリート造りのワンルームマンションに比べて格段に短く(木造二〇年、コンクリート造六〇年)、短期間で減価償却のメリットを享受することができる。さらに、将来のキャピタルゲインについても、不動産の長期譲渡所得の税率(二六パーセント)は、高額所得者の所得税率に比べてかなり低いため、節税効果は高い。このように、本件商品には節税商品として優れた機能があり、控訴人らを含む本件商品を購入した顧客は、この節税効果を享受している。

本件商品は、この減価償却によるメリットを享受できる比較的高額の所得者を対象として販売されたものである。税負担の軽減額は、高額の所得者ほど大きくなるからである。控訴人らも節税効果を最も重要な購入目的としたものである。

なお、控訴人らは不動産取引について高度の知識と経験を有しており、いわゆる「素人」ではない。また、控訴人らは、いずれも学識が豊かで、社会経験、取引経験を積み、相当な社会的な地位にある者である。本件商品の購入に当たって自己決定能力に欠けることはありえない。しかも、控訴人丁谷は、本件06シリーズと同様の02シリーズ、08シリーズの購入者であり、その妻は03シリーズの購入者である。控訴人乙川は、04及び05シリーズの購入者であり、本件06シリーズの追加購入を強く希望していた者である。

(二) 7項の(二)について

(1) 控訴人らが取得したのは、「ワシントン州法上のテナンシー・イン・コモン」である。控訴人らのその取得目的は、右「ワシントン州法上のテナンシー・イン・コモン」を一括して借り上げてもらって賃料収入を取得すること、取得物件について我が国の不動産とは異なる大幅な減価償却による節税効果を享受することなどであるから、このような取得目的からして、控訴人らの取得する権利についての説明は本件パンフレット及び本件説明書において十分に尽くされている。特に本件説明書において、売買の対象たる権利や、物件売却の仕方等について、必要かつ十分な説明がされている。

本件説明書には、「お客様が購入されるのは不動産の共有持分権です。」と記載されており、テナンシー・イン・コモンという原語は用いられていない。しかし、その説明は本件のテナンシー・イン・コモンの権利内容として誤ってはおらず、また、我が民法の共有との混同・誤解を生じさせるおそれもない。本件各売買契約における売買対象の説明について、本件パンフレット及び本件説明書の記載は間違っていない。

(2) 約一五パーセントの上乗せ販売の事実を説明していないということが説明義務違反として不法行為を構成することはありえない。

購入するかどうかを顧客に判断してもらうための重要事項は本件説明書に記載されており、その記載で足りる。

(3) 本件商品の賃料収入の仕組みは複雑なものではない。そして、賃料の決定方法については、本件説明書で十分に説明されており、賃料が相場により変動することは計算式で示されている。控訴人らの主張するような具体的なレベルにおいて、個別に記載するとなると、説明書が大冊となり、役に立たない。パンフレットや説明書の類は、節税商品として購入するかどうかを顧客に検討してもらうための重要事項を記載すれば足り、この点では本件パンフレット及び本件説明書の内容で十分である。

また、本件物件の修繕費・メンテナンス費は、平成三年から平成八年にかけて僅か合計約1.718倍しか増加していない。時の経過によりこの程度メンテナンス費が増加することは普通のことである。

(4) 控訴人らの(二)、(4)の主張は争う。

本件説明書に記載してある取引例は適正に作成された参考資料であり、これにより確実なキャピタルゲインが得られると誤信させるものではない。また、収益予想表は、一ドル一六〇円の為替レートを使用する旨明示されており、確実な収入が上がるという内容ではない。

(三) 7項の(三)について

控訴人らの主張は争う。

(四) 7項の(四)について

控訴人らの主張は争う。

控訴人らは、被控訴人が信義則に反するような値段設定を行ったと主張するが、約一五パーセントの上乗せをして販売することが不法行為等を構成するということはありえない。国内の不動産取引でさえ、この程度の上乗せは普通である。ことに本件取引は、被控訴人による節税商品として開発された、賃料収入を伴う米国不動産の販売である。このような商品の販売において、仕入価格に一五パーセント上乗せすることが不法行為等を構成するのであれば、およそ商取引は成立しない。

第四  証拠

証拠の関係は原審及び当審記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当事者間に争いのない事実

請求原因1項ないし3項の事実は、当事者間に争いがない(ただし、本件各売買契約の対象となった本件商品がどのような権利であるかは、後に認定する。)。

二  控訴人らの取引歴

1  控訴人丁谷は、被控訴人から、平成元年九月に本件と同様の02シリーズ一口を代金二二万一〇〇〇ドルで、平成二年九月に08シリーズ一口を代金一六万ドルでそれぞれ購入し、またその妻は平成元年一一月に被控訴人から03シリーズ一口を一六万ドルで購入した(甲四〇、乙七の一ないし三)。

2  控訴人乙川は、被控訴人から、平成元年一二月に04シリーズ一口を代金一六万ドルで、平成二年三月に05シリーズ一口を同価格でそれぞれ購入した(甲三八、乙八の一、二)。

三  本件商品の価格等の推移

本件商品の評価額は、平成三年七月には一口二〇万六六〇〇ドルであり(甲三六。ただし、乙一三は、この評価は、控訴人甲野からの極力低い評価をしてほしいとの要望に応じて算定した推定額であって、実勢価額を意味するものではないとしており、客観的に妥当な評価であるかどうか不明である。)、平成六年八月には一八万二九二九ドルである(甲一八の一ないし四)。

また、平成三年から平成八年までの本件物件のオーナー収益、利回り、入居率等は原判決別表2に記載のとおりである(甲二六、二七ないし二九の各一、二、三〇、三一の一、二)。

四  本件各売買契約に際しての説明の内容

1  本件パンフレットの内容

本件パンフレット(甲一)は、エイムの作成名義であるが、その内容はおおむね以下のとおりである。

(一)  まず、エイムは、海外不動産投資の総合コンサルタント企業であるとして、日本の投資家に最も効果の高い海外不動産投資を実現するため、被控訴人らの提携により、各社が誇る最新のノウハウと強力な情報収集力、きめ細かいネットワーキングを駆使して、「厳選した安全で信頼性の高い、高額・優良物件をタイムリーにご紹介するほか、不動産市況や投資環境分析などのデータも豊富に提供し、投資家の立場から最適な資産活用プログラムを設計します。」と述べ、「エイムは、米国で活発に進んでいる不動産の小口証券化の流れをいち早くとらえ、共有持分権の形でローリスク ハイリターンの物件を販売するシステム開発に力を注いでいます。」とも述べている。

(二)  次に、「高額・優良物件を共有持分権の形で販売する新しい投資システムです。」として、エイムが高額・優良物件を選び、投資家に求めやすい価格に小口化し、共有持分権として販売するものであり、そのメリットとしては、①自己資金二五パーセントで購入できること、②日本国内に比べ、同じ投資額でより高い利回りが期待でき、はるかに有利な投資が行えること、③安定した賃貸収入が、継続して得られること(今回紹介する物件の近隣のアパートメントもほぼ一〇〇パーセントの入居率を維持している、と記載されている。)、④不動産価格の八〇パーセントが減価償却の対象になり、大きな節税効果が望めること、⑤税引後の総合利回りは対自己資金年一二パーセント以上であること、⑥投資物件の運営・管理はMOCが担当し、一括借り上げ方式をとっているので、煩わしいメンテナンスの心配がないことである、と説明されている。

(三)  全米で最も将来性のある都市であるシアトルが投資の舞台であり、シアトルの住宅事情は「最近のシアトルの住宅需要は、借り手が供給数をはるかに上回り、一大住宅建築ブームを巻き起こしています。しかし、新規スペースの供給量が追いつかず継続して物件不足の状況。住宅価格や賃貸料が上昇しています。」との説明もある。

(四)  本件物件については、「サマーミル アパートメントご案内」として、所在地、敷地、賃貸可能面積等が記載されており、入居率は一〇〇パーセントであると記載されている。

また、「商品概要」として、対象物件(サマーミルアパートメント)、販売口数(四〇口)、一口価格(二五万二〇〇〇米ドル)等のほか、「分譲後の権利形態」は「一口当たり四〇分の一の持分割合による共有」との記載がある。

(五)  投資後、一〇年間の投資収益予想も示されており、入居率は、現在一〇〇パーセントであるが五パーセントを空室見込みとして控除して九五パーセントとされ、賃貸料は毎年四パーセントの上昇見込みとされ、為替レート一ドルが一五〇円とした場合には、対購入価格利回りは7.16パーセントないし10.19パーセントであり(一〇年間の合計8.60パーセント)、利払後利益(営業利益から提携ローン(購入価格の七五パーセントとを年利八パーセントで調達するものとする。)支払金利を差し引いたもの)は一〇年間の合計額が九八二万円余りとされている。

また、総合利益(利払後利益と節税額を加えたもの。つまり、アパート経営から得られるキャッシュと節税によってもたらせるキャッシュの合計である。)が試算されており(課税所得算出に際しては、配偶者、二人の子供を想定している。)、給与収入一〇〇〇万円の個人の場合には、一〇年間の合計で一二二七万円余りであるとされている。

一〇年後の一口当たりの売却価格は五〇八〇万円であるとされ、これから売却時手数料一五二万四〇〇〇円及び購入価格三七八〇万円を控除すると、キャピタルゲインは一一四七万六〇〇〇円であり、売却時税金七五九万一〇〇〇円を差し引くと税引後利益は三八八万五〇〇〇円であるとされている。

2  本件説明書の内容

本件説明書(甲二)も、エイムの作成名義であるが、その内容は、おおむね以下のとおりである。

(一)  まず、システム概要として、手続の流れ(フロー)が説明されており、投資家が被控訴人から売買契約書によって「共有持分権」を購入する旨記載されている。

システムの特長として、客が購入するのは不動産の共有持分権であり、マンション分譲のような区分所有とは異なること、一括売却は、原則として一〇年保有、その後物件を売却し、元金返済と売却益分配に充てるが、一括売却は三分の二の投資家の同意を得てから売却すること、個別売却は、個人が個人に売却するのは、エイムの承認を得れば自由であることが説明されている。

(二)  メリットとして、少額の資金で不動産投資メリットを享受できること、全く手間がいらないこと、MOCによる一括借り上げ方式により家賃収入の保証があること、大きな減価償却と高い節税効果が期待できることのほかに、安定したアパートレンタル市場での投資であって、今回紹介する物件はシアトル市近郊に位置し、本件物件及び近隣のアパートはほぼ一〇〇パーセントの入居率を維持しており、好調なシアトル経済からみても、この高い入居率と高収入が続くことが予想される、との説明がされている。

(三)  商品概要として、対象物件等の説明がされているが、「分譲後の権利形態」としては、「一口当たり四〇分の一の持分割合による共有」とされている。

(四)  物件内容の説明として、入居率は一〇〇パーセントであると記載されている。

(五)  シアトル近郊の賃貸アパート市場については、本件物件が所在するスノーホーミッシュ郡の平均空室率が昭和六一年から昭和六四年までは2.5パーセントないし6.7パーセントであり、この間の賃料の値上がり率が年平均4.22パーセントないし7.73パーセントであるとされている。近隣の賃貸状況としては、本件物件ほか六物件の賃料額が記載されているが、空室率は〇パーセントないし四パーセントとされており、本件物件は〇パーセントであるとされている。

また、シアトル中古木造アパート取引例として、一〇件の取引例が紹介されている。そして、築後二〇年、三〇年経ても不動産市場で十分商品価値があり、取引時は必ず値上がりしており、値上がり率も年平均最高二〇パーセントで最低でも7.4パーセントの値上がりがあるとされている。

(六)  投資収益予想も示されており、その前提条件は、入居率は現在一〇〇パーセントであるが、五パーセントを空室見込みとして控除して九五パーセントとされ、賃貸料は毎年四パーセントの上昇見込みとされて、年収が七〇〇万円、一〇〇〇万円、二〇〇〇万円及び三〇〇〇万円の場合について、提携ローンのみ利用した事例と提携ローン及び別担保で残額を借り入れた事例における総合利益及び総合利回りが例示されている。これによれば、年収一〇〇〇万円の場合には、提携ローンのみを利用した例では、一〇年間合計の総合利益は一三五九万円余りであり、総合利回りは134.82パーセントであって、一〇年後のキャピタルゲインは四一二万七〇〇〇円、一〇年後の総合利益は一七七一万円余りである。

(七)  売却時利益予想については、予想売却価格は、購入価格四〇三二万円(一ドル一六〇円で換算したもの)に毎年三パーセントの上昇があるとして、五四一八万六〇〇〇円であるとされている。そして、賃料の値上がりを基準に考えても、シアトル中古木造アパート取引例から考えても、年三パーセントの上昇はかなり厳しく予想している旨の付記がある。

予想キャピタルゲインは、売却価格から売却時支払手数料一六二万五〇〇〇円と購入価格四〇三二万円を控除して、一二二四万一〇〇〇円であるとされている。譲渡所得税が八一一万四〇〇〇円と算定されるので、予想税引後キャピタルゲイン(最終利益)は四一二万七〇〇〇円であるとされている。

(八)  購入者とMOCとの賃貸借契約については、一括借り上げ方式をとり、MOCが購入者各人から四〇分の一の所有権を借り受け、それに対する賃料を支払い、MOCは本件物件をテナントに賃貸して賃料を受け取る旨の説明がされており、賃料は毎年初めに決定され、テナントからの賃料が一定額(購入者への家賃保証分及びMOC管理費)を超えた分については、購入者とMOCが九対一の割合で分け合うとの説明がされている。

初年度の収益予想としては、テナントからMOCが集金する予想賃料は二万六一六一ドルであるとされているが、これは入居率が九五パーセントの場合の賃料収入である。このうち、MOCが購入者に支払う確定賃料分(保証賃料分)が一万五一二〇ドル、MOCの管理費が三五三五ドル、変動分賃料が一万八六五五ドルであって、うち六七五五ドルが購入者への追加賃料、七五一ドルがMOCの追加分であるとされている。

二年度以降の保証家賃は、例えば、二年度の保証家賃は、初年度賃料実績を初年度予想賃料で除して算出した賃料変動率を初年度保証賃料に乗じて計算し、三年度以降も同様である旨の説明がある。

3  エイムの社員等による説明

(一)  控訴人甲野について

甲三七及び四一によれば、控訴人甲野は本件商品を購入した際に、エイムの社員である土居忠司から以下のような説明を受けたとされている。

土居の話は、パンフレットに記載されたとおりであるとの説明が中心で、これに記載されたメリットを強調する程度のものであった。

シアトルには好調な受注を抱えているボーイング社があり、毎年人口が増えているので、不動産は値上がりする一方である。本件物件はボーイング社の社員が通勤するのに立地条件が良く、家賃も毎年値上がりしており、アパートに空き室が生じることもない。殊に、通勤に便利な所はエイムが押さえているので、シアトルには他にマンションやアパートができる余地はない。したがって、賃料収入が減ることはなく、仮に全額を借入しても、毎月の家賃収入で余りが生じる位で、商品説明書の投資収益予想に記載されているとおりの利回りが間違いなく得られる。

一〇年後に売却した時点での売却益については、商品説明書のシアトル中古木造アパートの取引例と収益予想のように、築後二〇年ないし三〇年を経ているものでも、値上げ率は最高二〇パーセント、最低でも7.4パーセントとなっている。年三パーセントのキャピタルゲインの値上がり率はかなり厳しく予想したもので、値上がりすることは間違いなく、一〇年後に一括して売却すれば確実に利益が得られる。

殊に、被控訴人ら上場されている会社三社が出資しているので、絶対に間違いはなく、安全で絶対に損をするようなことはない。こんな有利な物件は他にはない。

この商品はドル建てであることは知っていたが、為替リスクについての説明は全くなかった。

(二)  控訴人乙川について

甲三八及び四二によれば、控訴人乙川は土居忠司から、以下のような説明を受けたとされている。

まず、本件商品に先立って購入した04シリーズについて説明を受けたが、パンフレットの中に挙げられているメリットを強調したようなものであった。

シアトルは好調な受注を抱えているボーイング社の城下町で、毎年人口が増加の一途をたどっており、アパートの絶対数が不足している。今後も空室率は低く、賃料も今までの実績から毎年四パーセントの上昇が見込まれるので、確実な収益が上げられる。パンフレットの収益予想も色々なケースをシミュレーションしてあり、その数字も厳しく見積もられたデータを前提としている。これによれば、賃料と金利の関係で利払後利益がプラスになり、利回りが17.40パーセント(年収一〇〇〇万円のケース)になることから、銀行預金よりも安全で有利な商品である。

本件物件の価額については、過去の実績から見て今後も上昇すると判断できる。殊に、米国では賃料が上昇すれば物件価格も上昇する。さらに、本件物件は現地での購入時期が早く、現在の実勢価額よりも安く入手しており、それに基づいて販売価額が設定されている。したがって、将来売却した際には、キャピタルゲインによる利益も十分に見込まれる。

この商品がドル建てであることは知っていたが、為替変動によるリスクに関する説明は一切受けなかった。

その後、05シリーズを購入した際に、そのパンフレット等の資料に基づいて説明を受けた。ローン条件を除いては04シリーズと同じであるとのことであった。

本件商品(06シリーズ)については、土居がパンフレット及び商品説明書(一部をコピーしたもの)を持参し、これに従って一通りの説明を受けただけであった。

(三)  控訴人丙山について

甲三九及び四三によれば、控訴人丙山は、エイムの土居忠司から、パンフレット及び商品説明書の一部(契約手続の部分だけ)をコピーしたものに基づいて、以下のとおりの説明を受けたとされている。

土居の説明は、パンフレットの中に挙げられているメリットを強調したものであった。

シアトルは好調な受注を抱えているボーイング社の城下町で、毎年人口が増加の一途をたどっていて、アパートの絶対数が不足している。現在の入居率は一〇〇パーセントである。今後も空室率は低く、固く見積もっても五パーセントにとどまると考えられる。一方で、賃料も、いままでの実績から毎年四パーセントの上昇が見込まれるので、確実な収益が上げられる。パンフレットの収益予想によれば、賃料と金利の関係で利払後利益はプラスで、総合利回りが13.5パーセント(年収一〇〇〇万円のケース)になるが、この数字は01シリーズから05シリーズの実績を見ても確実で、銀行預金よりも安全で有利な商品である。

本件物件の価額は過去の実績から見て今後も上昇すると判断できる。築後二〇年ないし三〇年を経ているシアトル中古木造アパートの一〇の取引例では、年間八ないし一〇パーセントは上昇し、上昇率の高いものでは二〇パーセントも値上がりしているので、キャピタルゲインも十分に見込まれる。

為替差損を生ずる可能性についての質問に対しては、次のような説明があった。元々シアトルの不動産は値段が安く、この二、三年は八ないし一〇パーセントの上昇率であり、物件価格が三パーセントずつ上昇すると、一〇年後には1.34倍となる。したがって、為替が一ドル一一〇円位まで円高になると物件価格は元本割れをしかねないが、物件価格の上昇が八ないし一〇パーセント見込まれるので、たとえ一〇〇円を割り込んでも実際には元本割れすることはない。したがって、たとえ為替が変動しても損失が出ることはない。

(四)  控訴人丁谷について

甲四〇及び四四によれば、控訴人丁谷は以下のとおりの説明を受けたとされている。

本件商品に先立って購入した02シリーズについて被控訴人国際事業室の桑野純二から次のような説明を受けた。

この商品は海外不動産を対象とした小口節税商品であり、高利回り、高節税効果の物件で、全額融資を受けてもすべての金利支払後に現金収入が残り、自己資金を出さずに有利な投資ができる。

シアトルは、ボーイング社が業績を伸ばしており、今後も好調な収益の伸びが期待できる。このため不動産賃貸についても非常に有利である。空室率や賃料の予想も、シアトル近郊のアパート賃貸市場のデータを基にしており、本件物件も空室率は低く、賃料については、今までの実績から毎年四パーセントから五パーセントの上昇が見込まれるので、確実な収益が上げられる。全額融資を受けても、すべての金利支払後に現金収入が残る。

この商品を売却した際の予想利益については、過去のシアトル中古木造アパートの取引例から見ても、毎年四パーセントの物件価額の上昇が十分期待でき、キャピタルゲインも見込まれる。

為替変動のリスクについては、円安傾向であれば為替差益も加わり、メリットが大きい。円高傾向のときも心配する必要はない。

なお、桑野の控訴人丁谷宛ての平成元年三月八日付け書面(甲四四に添付されている。)には、02シリーズも01同様、高利回り、高節税効果の物件であること、01シリーズの例であると、全額を融資によってもすべての金利支払後に現金収入が残り、さらに減価償却による税金の戻り(節税効果)が得られること、この点は国内のワンルームマンション投資等他の投資商品のように金利分が購入者にとって持ち出しとならないので、他に例のない極めて新しいタイプの商品であること等の記載がある。

本件商品(06シリーズ)については、エイムの川島から、この物件もシアトルの物件で、賃料収入による収益及び売却時のキャピタルゲインについても全く同様であるとの説明を受けた。

(五)  エイムの社員らによる説明の内容

控訴人らの陳述書の内容は以上のとおりであるが、これに対して、乙一三及び一四の各陳述書によれば、土居の説明は、パンフレット及び商品説明書を中心に、口頭で補足説明するというのが基本姿勢であって、土居らが将来のことにつき「間違いなく」とか「確実に」、「絶対に」というような言い方は一切しておらず、「こんな有利な物件は他にない」とか「銀行預金よりも安全で有利な商品である」という発言もしていない、為替リスクについても説明している、というものである。

そして、控訴人らはいずれも本件パンフレットの交付を受け、本件説明書の交付を受けるか、少なくとも本件説明書に基づいて説明を受けているのであるから(前記のとおり、控訴人乙川は甲三八において、商品説明書の一部をコピーしたものの交付を受けただけであると述べており、控訴人丙山も甲三九、四三において、商品説明書の契約手続の部分だけ受け取ったにすぎないと述べている。仮にそうであるとしても、甲三八、三九によれば、本件パンフレットは受領しており、商品説明書の内容についての説明も受けていることは明らかである。)、土居らがこれらの本件パンフレット及び本件説明書の内容とかけ離れた説明をするとは考えられないのであって、その説明は、基本的に本件パンフレット及び本件説明書に沿うものであったと認めることができる(前記の控訴人らが受けたという説明の内容を検討すれば、これが本件パンフレット及び本件説明書に記載された内容とほぼ同一であることが明らかである。)。前記のとおり、控訴人甲野、同乙川及び同丙山は、いずれも、各陳述書において、土居の説明はパンフレットの中に挙げられている本件商品のメリットを強調したようなものであったと述べており、どちらかといえばそのリスクよりもメリットに重点を置いた説明ではあったが、絶対に間違いのない安全確実で有利な商品であるというような極度にその安全性、有利性を強調するような説明まではなかったものと認められる。

甲四四に添付されている桑野作成の書面中の、全額の融資を受けた場合でも、すべての金利支払後に現金収入が残り、さらに減価償却による税金の戻り(節税効果)が得られるという記載も、将来の予想を述べていることは明らかであり、本件パンフレットや本件説明書の投資収益予想と異なる内容のものではない。

そこで、以下においては、控訴人らに対して本件パンフレット及び本件説明書に記載されているような説明がされたという前提で判断することにする。

五  詐欺の主張について

1 控訴人らは、本件商品の販売価格が当時の市場で取引されている相場の価格であるかのように誤信させる勧誘行為をしたと主張する。

そして、甲三七、三八及び三九には、被控訴人が本件物件を取引相場で購入したと虚偽の説明をしたとの部分がある。

しかし、右部分は、乙一三と対比して信用することができない。一般に仕入価格と同一の価格で販売することはありえないことであるから、このような説明がされたものとは考えられない。なお、乙一三によれば、本件物件については、その購入価格に商品化に際して要した費用(パンフレット作成費用、契約書作成費用、弁護士・会計士相談費用、人件費等)と営業関連人件費及び適正利潤を加えて販売価格を設定したことが認められ、これは当然のことであると考えられる。

また、控訴人らは、今後年三パーセントの価格上昇が期待できると虚偽の説明をしたと主張する。本件説明書には、売却時利益予想として、毎年三パーセントの上昇が見込まれ、この上昇率はかなり厳しく予想した数値である旨記載されている。

しかし、このように予想する根拠がなかったことを認めるに足りる証拠はなく、乙一三によれば、被控訴人は、本件物件の販売当時における過去の実績からすれば、年六ないし七パーセントで試算しても良い状況であったが、将来の不確定要素を勘案して年四パーセントで試算し、本件物件の販売価格がその購入価格に商品化に要した費用、営業関連人件費及び適正利潤を加えて設定しているため、販売価格に対しては年三パーセントの値上がり率で算出した(購入価格に対し年四パーセントの値上がり率で算出した一〇年後の金額は、販売価格に対し年三パーセントの値上がり率で算出した一〇年後の金額とほぼ同等額となる。)ことが認められる。

2 控訴人らは、本件物件の入居率は一〇〇パーセントであると虚偽の説明をしたと主張する。

本件パンフレット及び本件説明書には、入居率が一〇〇パーセントである旨の記載があるが、同時に、投資収益予想の欄等には五パーセントを空室見込みとして入居率は九五パーセントとするとの記載もあるから、入居率が一〇〇パーセントである旨の説明がされていたとは直ちにいえない。

なお、平成三年から平成八年までの入居率は原判決別表2に記載のとおりであって、90.00パーセントないし96.56パーセントであるから、入居率としてはかなりの高率であるというべきであり、将来の入居率についての予測が誤っていたということもできない。

3 控訴人らは、本件説明書においては、価格上昇率の低い取引実例を削除して、意図的に正確な情報を隠蔽したと主張する。

本件説明書のシアトル中古木造アパート取引例の表(一〇例が記載されている。)と02シリーズの商品説明書(甲二一)の同様な表(一三例が記載されている。)を対比すると、価格上昇率の低い物件が削除されているようにもみえるが、本件説明書において一部の取引例が削除されている理由は明らかではない。本件説明書においては削除されているアイリーンコートについては上昇率が9.1パーセントを示している取引年もあり、必ずしも上昇率が低い物件が削除されたともいい難く、直ちに控訴人らの主張するように断定することはできない。

4 以上のとおり、控訴人らの詐欺の主張は、販売を担当したエイムと被控訴人とを信義則上同一視できるかどうかという点について判断するまでもなく、理由がない。

六  錯誤の主張について

控訴人らの詐欺の主張は理由がないから、控訴人らにはその主張するような誤信があったものと認めることはできず、控訴人らの錯誤の主張も理由がない。

七  不法行為の主張について

1  本件商品の商品としての不適格性及び控訴人らの顧客としての不適合性について

本件商品が海外の不動産物件であるからといって、これに関する情報の入手が困難であるとか、不十分な情報しか得られないということはないのであるから、直ちに商品としての適格性がないとはいえない。当該商品に関する説明が適切に行われるならば、これを販売すること自体が許されないとする根拠はない。

また、控訴人らは、いずれも医師又は大企業に勤務する者であって、相当な社会的、経済的地位を有し、社会的経験も豊かな者であるから、本件商品の購入について適合性がなかったなどとは到底いえない。

2  説明義務について

(一)  売買の目的たる権利の内容

弁論の全趣旨によれば、本件各売買契約の対象となった本件商品は、米国ワシントン州法上の「テナンシー・イン・コモン」であって、テナンシーは、「不動産権」又は「土地保有」と訳され、本来は上位土地保有者に対する封建的奉仕義務の対価として許された土地保有を意味していた(その土地保有者のことをテナント、受封者という。)が、今日では土地保有についての義務性が消滅し、権利性だけが残ったものであること、テナンシー・イン・コモンは、このテナンシーを共同で(イン・コモン)持つことであって、「共有不動産権」と訳されることがあることが認められる。

そして、本件パンフレット及び本件説明書では、本件各売買契約の対象は、「不動産の共有持分権」であって、マンション分譲のような区分所有とは異なる、としている。

また、本件各売買契約の契約書及び本件各賃貸借契約の契約書(甲五ないし九)には、「買主は、本物件の未分割の封土権の本件所有権持分(売主の権利の四〇分の一)に等しい共有持分(「本件所有権」というとされている。)を直接現所有者から取得する。」とあり(売買契約書一条)、封土権については、「米国では一般に不動産に対する所有権は取引の対象としては存在しないとされ、日本において取引対象とされる所有権に相当するものを封土権と称する。」との注記が付されていること、売主は買主に対し、「本件所有権を」移転させると定められていること(売買契約書三条)、賃貸借契約の目的物件については、「貸主は、本物件に対する二五分の一の未分割の封土権の共有持分を本契約に規定される期間、以下の定めに従って借主に貸与し、借主はこれを貸主から借受ける。」と定められていること(賃貸借契約書一条a)、本物件の譲渡として、「本物件の未分割の封土権の三分の二以上の所有者がそのすべての権利を第三者に売却することに同意し、本物件をかかる第三者に売却した場合、本契約は自動的に終了する。」と定められていること(賃貸借契約書四条d)が認められる。

以上の本件パンフレット、本件説明書、売買契約書及び賃貸借契約書の記載によれば、本件各売買契約の対象である本件商品は、日本法上の権利ではなく、米国法上の権利であり、日本において所有権に相当する「封土権」の共有持分であることを理解することができるのであって、「テナンシー・イン・コモン」という表現は用いられてはいないが、法律専門家ではない購入者に分かりやすく説明するという観点からすれば、この程度の説明で足りるものというべきである。専門的な法律用語で説明することは、正確ではあっても、一般の購入者に理解し難いものであるとすれば無意味であって、かえって不適切であると考えられる。

また、本件商品の管理、売却、分割請求等については、運営・管理はMOCが担当し、一括で借り上げること(本件パンフレット及び本件説明書)、売却は一括売却及び個別売却が一定の要件のもとに可能であり(本件説明書)、売買契約書にこれに関する定めがあること(一〇条、一一条)、売買契約書においては買主は分割請求権を放棄することが定められていること(売買契約書八条)が認められ、これらの点に関する説明も不十分であるとはいえない。

(二)  販売価格の妥当性

商品の売主は、当該商品の仕入価額ないしはどれだけの利益等を上乗せしているかを開示し、説明する義務はない。本件商品もその例外ではない。

また、控訴人らは、被控訴人が、本件商品の販売価格は、被控訴人が市場で調達した仕入価格であって、利益を上乗せしていない価格であると説明したと主張するが、本件パンフレット及び本件説明書にそのような説明は全くない。

(三)  購入後の運用利益・収益性

前記認定のとおり、本件説明書には、初年度の確定賃料の金額及変動分賃料の予想額並びに二年度以降の賃料の算定方式が記載されており、また、本件説明書には、費用の負担については、購入者が負担する費用として、固定資産税、保険料、修繕費用、維持費、備付け機器類の交換費用等があるとし(初年度は、一口当たり三八二九ドルの見込みとされている。)、現地従業員給料、管理運営費用、広告宣伝費用、事務所備品代等日常管理業務に必要な費用なMOCが負担すると明記されている。これらの記載によって、賃料及び費用の概要は知ることができるから、説明としては十分というべきである。そのほかに控訴人らが主張するような事項まで事細かに説明する義務はないと解される。

賃貸料は毎年四パーセントの上昇見込みとされているが、本件説明書に本件物件か所在するスノーホーミッシュ郡の平均賃料の推移が記載され、昭和六一年から平成元年までの値上がり率は年平均4.22パーセントから7.73パーセントであるとされているから、毎年四パーセントの上昇見込みというのは、これらの数値からの予測であることが理解できる。このように、根拠を示して将来の見込みを述べているのであるから、説明として不適切とはいえない。

また、本件説明書には、本件物件はシアトル市近郊に位置し、本件物件及び近隣のアパートはほぼ一〇〇パーセントの入居率を維持しており、好調なシアトル経済からみてもこの高い入居率と高収入が続くことが予想されるとの記載があるが、入居率や賃貸料の水準が地域の経済の動向に左右されることは説明するまでもない当然のことであり、本件パンフレットには、シアトル市の産業について、ボーイング社に代表される活発な航空宇宙産業が大きな柱になっていること、本件物件はシアトル郊外に位置し、ハイテク産業企業が林立する地域やボーイング社の工場に近いため、これらの企業に従事する人々を中心として高い賃貸需要が見込まれていることが記載されているのであるから、本件物件からの賃料収益がボーイング社等の企業の業績の影響を受けることもありうることを理解することが可能である。

(四)  本件商品における価格決定要因及び投下資本の回収可能性

本件説明書は、シアトルの中古木造アパートの過去の取引例一〇例を紹介して、値上がり率は年平均最高二〇パーセントで最低でも7.4パーセントであるとした上で、本件商品の予想売却価格は毎年三パーセントの上昇を前提にして算定し、賃料の値上がりを基準にしても、シアトルの中古木造アパートの取引例から考えても、年三パーセントの上昇はかなり厳しく予想した数値であるとしている。

予想売却価格はあくまでも将来の予測であり、本件説明書は、予測の一応の根拠を示した上で予想される数値を述べているのであるから、これをもって説明として不十分であるということはできない。それ以上に、いかなる要因によって本件商品の将来の価格が形成されるのか、どのようなリスクが生じうるのかといったことは、将来の経済情勢等の動向によるのであって、それは、複雑で多岐にわたる要素と様々な錯綜した要因によるのであるから、そもそも確実な予測など不可能な事柄であって、これを説明することは困難なことといわざるをえない。

また、為替相場の変動による影響については、本件パンフレット及び本件説明書に、本件商品の購入価格及び賃貸収入がドル建てであることが明記され、投資収益予想や売却時利益予想を説明する部分には、為替レートとして一ドル一六〇円あるいは一五〇円を使用する旨が記載されているのであるから、為替レートの変動によって収益が異なってくることは当然に理解できるものというべきである。

3  詐欺の主張について

控訴人らは、詐欺として主張した事実は、同時に不法行為も構成すると主張するが、詐欺の事実を認めることができないことは既に述べたとおりである。

4  契約締結上の過失について

控訴人らが契約締結上の過失として主張するのは、本件商品の価格設定が信義則に違反することと説明義務に違反したことであるが、これらの点についても既に判断したとおりである。

5  不法行為の成否について

以上検討したとおり、本件商品の販売について控訴人らの主張するような被控訴人の不法行為があったことを認めることはできない。

八  結論

以上のとおり、控訴人らの本件請求はいずれも理由がないから、これらを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用を控訴人らに負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・矢崎秀一、裁判官・西田美昭、裁判官・榮春彦)

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