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東京高等裁判所 平成10年(ネ)664号 判決 1998年9月30日

千葉県松戸市<以下省略>

控訴人(原告)

X1

右代表者代表取締役

千葉県野田市<以下省略>

控訴人(原告)

X2

右両名訴訟代理人弁護士

星隆文

竹内義則

吉成外史

東京都中央区<以下省略>

被控訴人(被告)

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

清宮國義

主文

一  原判決を次のように変更する。

二  被控訴人は、控訴人X1に対し、金四三九一万一八三三円及び内金三七二二万三四七八円に対する平成三年三月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、内金六六八万八三五五円に対する平成六年七月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を、それぞれ支払え。

三  被控訴人は、控訴人X2に対し、金一八六一万七三二九円及びこれに対する平成三年三月一一日から支払済みまで五分の割合による金員を支払え。

四  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

六  この判決の第二項及び第三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を次のように変更する。

二  被控訴人は、控訴人X1に対し、金七〇〇九万七八四五円及びこれに対する平成三年三月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人は、控訴人X2に対し、金三一三七万八八八一円及びこれに対する平成三年三月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  仮執行宣言

第二事案の概要

一  原判決について次の二のように加除するほか、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」(原判決四頁四行目から一六頁七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  原判決の加除

1  原判決五頁一行目の次に改行して次の摘示を加える。

「 そして、控訴人会社が損害賠償を求める損害額は、原判決別紙売買取引一覧表(一)記載の差引損失合計五七〇三万九一三〇円及び弁護士費用六三七万円、控訴人会社が返還を求める寄託金の額は、本件寄託証券の売却代金と買戻代金との差額六六八万八三五五円であり、控訴人X2が損害賠償を求める損害額は、原判決別紙売買取引一覧表(二)記載の差引損失合計二八五二万八八八一円及び弁護士費用二八五万円であるところ、控訴人らは、これらの金員とこれらに対する平成三年三月一一日以降の民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払とを求めた。

原審裁判所は、控訴人会社の請求のうち損害賠償請求については、被控訴人に過当取引による債務不履行があったが、不法行為は成立しないとして、右債務不履行による損害七〇九万二五八六円及びこれに対する平成七年九月一五日以降の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で同請求を認容し、控訴人会社の寄託金返還請求については、六六八万八三五五円及びこれに対する平成六年七月一九日以降の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で同請求を認容し、また、控訴人X2の請求については、控訴人会社と同様に債務不履行による損害六三〇万一三二六円及びこれに対する平成七年九月一五日以降の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で同請求を認容した。

これに対し、控訴人らが控訴を申し立てたのが本控訴事件であり、控訴人らは、当審において、原審におけると同様の金員(ただし、遅延損害金の利率については、年六分の割合に請求を拡張した。)の支払を求めた。」

2  原判決六頁末行から七頁一行目の「(後記第三の三の2参照。以下同じ。)」を削る。

第三争点に対する判断

一  取引の経緯等について

当裁判所が、取引の経緯等について認定する事実は、次の1から5までのように付加、訂正するほか、原判決が、その「事実及び理由」欄第三「争点に対する判断」の一(原判決一六頁一〇行目から二七頁五行目まで)において認定するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決一七頁八行目の「あった。」の次に「その後」を加える。

2  同二〇頁五行目の「記事を」を「記事をも」に、八行目の「買付委託があった際」を「買付委託を受けた際」に、九行目の「買付」を「売買」にそれぞれ改める。

3  同二一頁九、一〇行目の「売買取引につき」の次に「、事前の意向打診等はもとより」を加え、二二頁一行目の「取引等の説明」を「取引等の簡単な説明」に、二行目の「取引の概況を報告したに止まった。」を「取引の状況を尋ねる質問に対し、「うまくいっています。」といった程度の返事をするにとどまった。」にそれぞれ改める。

4  同二三頁末行の次に改行して次の説示を加える。

「 なお、右の月次報告書には取引の明細が記載されていたが、その明細は、たとえば一回の「買付」についてその明細を示したもので、原判決別紙売買取引一覧表(一)、(二)のように、買付と売付とが対照されて記載され、損益の状況が一覧できるような様式にはなっていなかったため、Cを信頼していた控訴人らは、当該月次報告書の他の欄又は他の月次報告書における当該買付に対応する売付の明細と彼此対照するなどして取引の状況をチェックすることなく、Cによる一任取引が大きな損失を出していることに気づかず、同取引は、同人の説明どおり順調に推移しているものと考えていた。」

5  同二五頁二行目の「二二)」の次に「及び弁論の全趣旨」を、二七頁二行目の「売却したことはなく」の次に「(売却までの取引日数が四日、五日、八日のものがそれぞれ一回あるだけで、その他は一〇日以上である。)」を、五行目の「ほとんどであった」の次に「(一〇月中の買付七回のうち、売却日までの取引日数が三日以内のものが六回である。)」をそれぞれ加える。

二  Cの本件一任勘定取引契約締結の代理権の有無(争点1)について

当裁判所も、Cは本件一任勘定取引契約締結の代理権を有しており、同契約の効力は被控訴人に及ぶものと判断する。その理由は、原判決が、その「事実及び理由」欄第三「争点に対する判断」の二(原判決二七頁七行目から二九頁末行まで)において説示するところと同一であるから、これを引用する。

三  被控訴人の債務不履行又は不法行為の有無(争点2)について

当裁判所は、本件一任勘定取引契約に基づくCの行為は、過当売買として、債務不履行及び不法行為のいずれをも構成するものと判断する。その理由は、次の1から8までのように加除、訂正するほか、原判決が、その「事実及び理由」欄第三「争点に対する判断」の三(原判決三〇頁二行目から三八頁一行目まで)において説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決三一頁六、七行目の「原告会社が約三・三倍、原告X2が約二・九倍となっている」を「控訴人会社が約三・三九倍、控訴人X2が約二・九一倍となっている」に改める。

2  同三一頁一〇行目の「約四億〇九〇九万円」を「約四億〇九二四万円」に、同末行の「約四五九万円」を「約四六〇万円」にそれぞれ改める。

3  同三二頁一〇行目「目立っている。」の次に「そして、右三取引日以内という短期売却において生じた損失は、控訴人会社の場合が二七七二万九〇四八円(損失全体の約四八・六パーセント)、控訴人X2の場合が一五七八万四六〇七円(同じく約五五・三パーセント)に上っており、そのように証券を売却した資金を直ちに他の証券に再投資するという行為が繰り返されていたということができる。」を加える。

4  同三三頁四行目から六行目の「短期間における多数回の取引が合理的であった事情を認めるに足りる証拠はない」を「短期間における多数回の取引が証券取引として合理的な判断に基づくものであったことについては、被控訴人から何ら具体的な主張立証はなく、そのように認めるに足りる証拠はない」に改める。

5  同三三頁六行目の次に改行して次の説示を加える。

「 そして、前記「争いのない事実等」に記載の事実、証拠(甲二、三、一〇ないし一二、一五、一六)及び弁論の全趣旨を併せると、ワラントは、株式に比較して値動きが激しく投機性の高い商品であり、ワラント取引に係る被控訴人の利益は、株式等の委託手数料に比べ、かなり大きいことが認められるところ、本件一任取引期間中の控訴人会社に関する買付全六五銘柄のうち四〇銘柄、控訴人X2に関する買付全二九銘柄のうち一九銘柄がワラントであり(全銘柄に占めるワラントの率は、控訴人会社が約六二パーセント、控訴人X2が約六六パーセント)、しかも右ワラント取引による損失の額は、控訴人会社が四七五六万〇四二九円(損失全体の約八三・三パーセント)、控訴人X2が二四二五万七七一九円(同じく約八五・〇パーセント)にも上っている。」

6  同三三頁七行目から三五頁四行目までを削る。

7  同三六頁一行目の「投資規模と回数の」を削り、二行目の「本件一任取引は」から四行目の「取引というべきである。」までを「本件一任取引は、投資の回数や態様において、従前の取引を遙かに上回り、極めて投機性の強い反面、Cひいては被控訴人にとって利益の大きいワラント取引を主体として、投資家の利益獲得を目指す証券投資として合理的な理由の認められない短期売却、多くは短期損切り売却と他の証券への再投資を短期間に繰り返し、その結果巨額の損失を累積させたものというべきであるから、右取引は委任の本旨に反した過当な取引というべきであり、Cは、顧客である控訴人らの利益を図るために課せられた善良な管理者の負うべき注意義務に違反したものというべきである。」に改める。

8  同三七頁四行目から三八頁一行目までを次のように改める。

「4 不法行為の有無

右3に説示したところによれば、Cのした過当取引は、顧客である控訴人らの利益を第一に考えたものであったとは評価することができないから、結局同取引は、C自身ないしは被控訴人の利益を控訴人らに優先させたものであったと認めるのが相当である。そして、Cの右行為は、旧証券取引法一二七条一項、旧規則一条一項にも違反するものというべきである。

そうすると、Cは、証券会社従業員として、一任取引の委託を受けた顧客たる控訴人らとの間で負うべき、顧客の正当な利益を保護する注意義務に違反したものというべきである。したがって、Cの行為は控訴人らに対する不法行為にも該当し、かつ、同人の不法行為は被控訴人の事業の執行についてされたものであるから、被控訴人は、民法七一五条の規定に基づき、これにより控訴人らに生じた損害を賠償する義務を負うものというべきである。」

四  控訴人らの損害(争点3)について

1  過当取引に起因する控訴人らの損害

(一) 右一の1の事実によれば、控訴人らは、本件一任取引に起因して、控訴人会社において原判決別紙売買取引一覧表(一)記載のとおり合計五七〇三万九一三〇円の、控訴人X2において同売買取引一覧表(二)記載のとおり合計二八五二万八八八一円の損失をそれぞれ被ったものと認められる。

右損失の中には、本件一任取引に係る被控訴人の委託手数料ないし利益及び取引税、経過利子等の経費のほか、相場の変動やCの予測が外れたことに起因する損失の部分が含まれているところ、後者については、本件一任取引が委任契約の本旨に従ってされていたとしても、相場の変動等により一定の損失が発生していたといえる場合には、その部分の損失は、債務不履行又は不法行為と相当因果関係を有しないというべきであるから、これを右各損失から控除するのが相当である。しかし、本件ではこれを認めるに足りる的確な証拠はないから、結局、右損失額が被控訴人の債務不履行又は不法行為と相当因果関係に立つ損害であると認めるのが相当である。

(二) 過失相殺

被控訴人は、予備的に過失相殺を主張するものと解されるところ、控訴人らは、以前から多額の投資をして相当の投資経験を有しており、かつ、本件一任取引の内容についても、被控訴人から送付される月次報告書の内容を注意して見れば、大きな困難なく取引内容を認識することができ、そうすれば、途中で損害発生を阻止しえたものと考えられるから、控訴人らにも右損害発生について過失があったというべきである。右過失は、本件の賠償賠償額を定めるについて斟酌するのが相当であるところ、諸般の事情を総合し、損害の公平な分担の観点から、本件においては、四割の過失相殺をするのが相当である。

そうすると、前記損害に関し被控訴人が控訴人会社に賠償すべき損害額は、控訴人会社について三四二二万三四七八円、控訴人X2について一七一一万七三二九円となる。

2  弁護士費用相当の損害

前示のとおり、本件一任取引については不法行為も成立するから、控訴人らは、同行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額については、不法行為による損害として賠償を求めることができるというべきところ、右不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、控訴人会社について三〇〇万円、控訴人X2について一五〇万円と認めるのが相当である。

五  本件寄託証券の売却の承諾の有無等(争点4、5)について

当裁判所も、控訴人会社の本件寄託金返還請求は理由があるものと判断する。その理由は、原判決四五頁四行目の「できない。」の次に「したがって、控訴人会社の被控訴人に対する六六八万八三五五円の支払を求める請求は理由がある。」を加えるほか、原判決が、その「事実及び理由」欄第三「争点に対する判断」の五(原判決四一頁一〇行目から四五頁四行目まで)において説示するところと同一であるから、これを引用する。

六  遅延損害金の起算日等について

1  寄託金請求について

右寄託金返還債務は、これに関し弁済期の定めがあったことの主張、立証はないから、催告により遅滞に陥るものと解されるところ、本件においては、訴状により催告があったと認めるのが相当であるから、被控訴人は、右債務について訴状送達の日の翌日である平成六年七月一九日に遅滞に陥ったものというべきである。控訴人会社は、被控訴人は右債務について平成三年三月一一日に遅滞に陥ったと主張することろ、証拠(甲七、原審控訴人X2)によれば、控訴人会社は、平成三年三月一一日ころ、被控訴人に対し、Cが無断売買をした本件寄託証券の買戻しを要求したものと認められるが、この行為は、右金員支払の催告とは認めがたいから、右のとおり、遅延損害金の起算日は平成六年七月一九日とするのが相当である。

2  不法行為及び債務不履行に基づく損害賠償請求について

不法行為に基づく損害賠償債務については、控訴人らが主張する平成三年三月一一日は不法行為後の日であるから、控訴人らは、右の日以降について遅延損害金を請求することができるというべきである。

次に、債務不履行不履行に基づく損害賠償債務については、控訴人らは、平成七年九月一四日付け原審準備書面を陳述した同日の口頭弁論期日においてその催告をしたものと認めるのが相当であり、それ以前に右債務について催告がされたことを認めるに足りる証拠はない。

しかるところ、弁護士費用以外の損害については、控訴人らは選択的にその賠償を求めるものと解されるから、本件においては、不法行為に基づく請求として、弁護士費用を含め、控訴人会社につき三七二二万三四七八円、控訴人X2につき一八六一万七三二九円及びこれらに対する平成三年三月一一日以降の遅延損害金を認容することとする。

第四結論

以上の次第で、控訴人会社の請求は、前記損害金及び寄託金合計四三九一万一八三三円及びこのうち右損害金三七二二万三四七八円に対する平成三年三月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、このうち右寄託金六六八万八三五五円に対する平成六年七月一九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるが、その他は理由がない。

また、控訴人X2の請求は、前記損害金一八六一万七三二九円及びこれに対する平成三年三月一一日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その他は理由がない。

よって、原判決を右のように変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 岩田好二 裁判官 橋本昌純)

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