東京高等裁判所 平成10年(ネ)835号 判決 1998年12月10日
控訴人兼被控訴人
大島照子
(第一審原告。以下「一審原告」という。)
同
今市一雄
同
和田房枝
福永克子
同
井草智子
福菅節子
右六名訴訟代理人弁護士
岡田尚
同
杉本朗
同
小川尚人
被控訴人兼控訴人
医療法人直源会
(第一審被告。以下「一審被告」という。)
右代表者理事長
久米睦夫
右訴訟代理人弁護士
吉ヶ江治道
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 一審被告は一審原告らに対し、それぞれ、原判決別紙債権目録の一審原告の氏名欄の各氏名に対応する同目録三の金員欄記載の金員及びこれに対する平成七年七月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同目録の一審原告の氏名欄の各氏名に対応する同目録四の金員欄記載の金員及びこれに対する同月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 当審における一審原告らのその余の予備的請求を棄却する。
四 当審における訴訟費用は、一審被告の負担とする。
五 この判決第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 一審以来の請求について
1 一審原告
(一) 原判決中、一審原告敗訴部分を取り消す。
(二) 一審被告は一審原告に対し、それぞれ、原判決別紙債権目録の一審原告の氏名欄の各氏名に対応する同目録三の金員欄記載の金員及びこれに対する平成七年七月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員並びに同目録の一審原告の氏名欄の各氏名に対応する同目録四の金員欄記載の金員及びこれに対する同月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。
(四) 右(二)につき仮執行宣言
2 一審被告
(一) 原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。
(二) 右取消しに係る部分の一審原告の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。
二 当審における一審原告らの予備的請求について
1 一審原告
右一の1の(二)と同旨
2 一審被告
当審における一審原告らの予備的請求を棄却する。
第二当事者の主張
次のように付加、訂正、削除するほかは、原判決の事実及び理由の「第一本件請求」欄及び「第二 事案の概要」欄主張のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決五頁七行目の「一の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する一の金員欄記載の金員」に、同八行目の「二の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する二の金員欄記載の金員」に、同一〇行目の「一の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する一の金員欄記載の金員」に、同一一行目の「二の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する二の金員欄記載の金員」に、同六頁一行目の「三の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する三の金員欄記載の金員」に、同三行目の「四の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する四の金員欄記載の金員」に改め、同七行目の「書証」の次に「(就業規則(<証拠略>)、労働協約(<証拠略>)。以下、証拠を掲げていない事実は、当事者間に争いがない。)」を加え、同一二頁三行目の「一の金額」を「の氏名欄の各氏名に対応する一の金員欄記載の金額」に、同行目の「二の金額」を「の氏名欄の各氏名に対応する二の金員欄記載の金額」に、同六行目の「一の金額」を「の氏名欄の各氏名に対応する一の金員欄記載の金額」に、同六、七行目の「二の金額」を「の氏名欄の各氏名に対応する二の金員欄記載の金額」に改める。
二 同一六頁三行目の次に次のように加える。
「 なお、一審原告大島は、その採用の経緯から、ナースヘルパーへの配転を拒否できる立場にはなく、しかも、相談室でケースワーカーの業務に従事していた際も、上司や患者の家族とのトラブルが絶えず、ケースワーカーとしての適格性を欠いていたので、右配転を命じたのであった。そして、協定は暫定的な和解であったが、一審原告は、平成六年一〇月一七日、協定に反して文書をもってケースワーカー業務に就くことを一審被告に通告して来て、ナースヘルパーへの配転を明確に拒否した。」
三 同一七頁四行目の次に「また、一審原告今市は、酒乱の気味があり、酒を飲むと暴言を吐き、職場の和を乱した。」を加え、同一〇、一一行目の「その危険性」を「組合のために使用される危険」に改め、同一一行目の次に次のように加える。
「 そして、一審原告和田は、勤務時間中、外部から業務とは無関係に掛かってくる電話及びファクシミリの待機の態勢を整え、もって職務専念義務に違反し、また、支援者や一般人に対して、電話やファクシミリをもってする不当な抗議行動を呼びかけたり、唆したりし、もって一審原(ママ)告の正常な業務の運営の妨害を企てた。
また、一審原告和田は、相模原南病院の歯科の主のような存在で、患者をどの歯科医師の担当にするかの事実上の決定権を握っており、一審原告和田の機嫌を取らない歯科医師には患者を回さないとか、ある患者に対して非常識な言動をするなどしたため、歯科医師や患者から不満が出るなどの不都合な行為があった。」
四 同一九頁一一行目の「ナースヘルパーへの適性」を「ナースヘルパーの適性の有無」に、同二〇頁六行目の「提示」を「明示」に改め、同二三頁三行目の次に次のように加える。
「<6> 一審原告福永、同井草、同福菅は、いずれも、仕事が遅いため、チームワークを乱し、事務職として、不適格であった。」
五 同四三頁八行目の冒頭に「(1)」を、同八、九行目の「六年度協定及び七年度協定」の次に「(以下『本件各協定』ともいう。)」を、同四四頁三行目の冒頭に「(2)」を、同六、七行目の括弧内に「を指す。以下同じ。」を加え、同八行目の次に次のように加える。
「(3) 本件各協定の『全額人事考課査定とする』との文言の趣旨は、一審被告の裁量による個別的な意思表示があって、初めて一審原告らに具体的な平成六年度年末一時金ないしは平成七年度夏季一時金の請求権を発生させるという趣旨ではなく、本件各協定で定められた各一時金の支給基準(平成六年度年末一時金二か月分、平成七年度夏季一時金一か月分)からの増減は、一審被告の裁量に委ねるという趣旨に過ぎない。しかも、右のとおり、一審被告の従業員は、従来からの慣行として、一時金については、勤怠以外の事由で減額査定されたことはなかったのである。
一審原告らは、一審被告の不当な解雇により、就労の機会を奪われ、そのために就労できなかったのであるから、就労できなかったことによる不利益を一審原告らに負わせることはできない。したがって、本件各一時金の支給に当たっては、一審原告らに対しては、勤怠による減額査定もできないから、本件各一時金については、一審原告らに対しては、査定を待たず、当然に平均支給額を支給すべきである。
(4) 仮に、一時金については、使用者の裁量による個別的な意思表示があって初めて従業員らには具体的な一時金の請求権が生ずるとしても、本件にあっては、一審被告が一審原告らの勤務内容の査定ができず、したがって、具体的な一時金の額の決定ができないのは、一審被告が、一審原告らを不当に解雇し、就労させなかったためであるところ、自ら査定できない原因を作っておきながら、査定ができないという理由で一審原告らに一時金の請求権が生じないと主張するのは信義、公平の原則に反するから、このような場合には、一審原告らに対し、平均的な支給率をもって支給する旨の意思表示があったものと擬制して、その支給をすべきである。」
六 同九行目の「原告らは」の次に「、それぞれ」を加え、同一〇行目(133頁2段18行目)の「三の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する三の金員欄記載の金員」に、同行目(133頁2段19行目)の「四の各金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する四の金員欄記載の金員」に、同一一行目(133頁2段21行目)の「三の金員」を「三の金員欄の金員」に、同四五頁一行目(133頁2段22行目)の「四の金員」を「四の金員欄の金員」に改める。
七 当審における一審原告らの予備的請求の請求の原因(一審原告らは、本件一時金相当額の損害賠償請求権を有するか、否か。)
1 一審被告と組合とは、六年度協定及び七年度協定を締結した。
2 一審被告が一審原告らに対してした本件解雇は、いずれも無効であり、一審原告らは、本件各協定の基準日に在籍していたので、一審被告から、平成六年度年末一時金及び平成七年度夏季一時金の支給を受ける資格を有する。
のみならず、一審被告病院開院以来の慣行として、一時金の支給については、勤怠以外に減額査定されることはなかったところ、一審原告らは、一審被告に不当にも解雇され、就労拒否をされて就労できなかったのであるから、一時金につき、勤怠の事由で減額査定される理由はなく、したがって、一審原告らは、いずれも、平成六年度年末一時金については、平均支給額である基本の(ママ)二か月分の金員、平成七年度夏季一時金については、平均支給額である基本給の一か月分の金員の支給を受ける期待権を有するところである。
3 ところが、一審被告は、本件各協定で定められた支給日までに査定をして一審原告らに対して本件各一時金の支給決定をし、右支給日までに一審原告らに右各一時金の支給をすべき義務があるのに、一審原(ママ)告は、一審原告らに対し右各一時金の支給決定をせず、そのため一審原告らは、今に至るまで右各一時金の支給を受けることができず、一時金受給の期待権を侵害され、それぞれ、第一の一の1の(二)記載の金額の損害を被った。
4 よって、一審原告らは、一審被告に対し、一時金の支給を受けるべき期待権の侵害による損害賠償請求として、それぞれ、第一の一の1の(二)記載のとおりの金員の支払いを求める。
第三争点に対する判断
次のように、付加、訂正、削除するほかは、原判決事実及び理由の「第三争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決四九頁一行目(134頁1段12行目)の「の雇用関係」を「が一審被告に雇用され、解雇されるまで」に、同九行目(134頁1段27行目)の「電話で」を「電話でされ」に改め、同五〇頁四行目(134頁2段8行目)の括弧内に「、争いのない事実」を、同六行目(134頁2段13行目)の「始めた」、同九行目(134頁2段19行目)の「勤務していた」及び同一一行目(134頁2段23行目)の「始めた」の次に「(争いがない。)」を、同五一頁五行目(134頁3段2行目)の「出なかった」の次に、「<証拠略>」を加え、同七行目(134頁3段5行目)の括弧内を「争いがない。」に改め、同五二頁七、八行目(134頁3段28行目)の括弧内に「争いのない事実」を、同五三頁七行目(134頁4段16行目)の「決意した」の次に「<証拠略>」を加え、同九行目(134頁4段21行目)の括弧内を「争いがない」に、同五四頁六行目(135頁1段6行目)の「及び原告今市は」を「は一審原告今市に相談し、両名は」に、同五九頁三、四行目(135頁4段17行目)「ケースヘルパー」を「ケースワーカー」に、同六九頁八行目(137頁3段21行目)から同七七頁一行目(138頁4段24行目)までを次のように改める。
「(一) 一審被告は、県医労連との間で、平成六年一〇月四日に締結された前記一の4の協定(以下「配転撤回協定」という。)には、一審原告大島がケースワーカーの職務に就かないとの内容が含まれていた旨、及び右配転撤回協定の締結に際し、協定書には記載されていないが、一審原告大島がケースワーカーの職務には就かないとの合意があった旨主張し、(証拠略)中には、配転撤回協定書二項の『大島照子の配置換え問題については大島照子を本日付けをもって、看護課勤務から相談室付けとしたうえで、今後、労使双方で話し合って解決することとする。』との趣旨は、一審原告大島の配転問題については、今後労使で話し合って解決することとし、その間一審原告大島はケースワーカーの職務を行わないとの趣旨である旨、本荘の地労委の審問期日における陳述記載(<証拠略>)にも、右配転撤回協定の締結に際し、一審原告大島がケースワーカーの職務には就かないとの合意があったが、齋藤あっせん員から、文書にしにくいから協定書には記載しない旨が述べられた旨の部分がある。
(二) 確かに、(証拠略)の協定書の文言や、組合から一審被告に送付された平成六年一〇月二〇日付け申入書(<証拠略>)には、『業務が保留されていることは理解していました』と記載されていること、一審原告ら作成の平成六年一〇月一一日付け『相模原南病院労組ニュース』第四号(<証拠略>)には、相談室業務を看護婦長の管理のもとではなく、従来どおりの業務体系に戻すという要求については実現ができたと報告されていながら、一審原告を直ちにケースワーカーの職務に戻すことについては依然として要求項目として掲げられたままになっていること等によれば、配転撤回協定の趣旨は、一審被告は、一審原告大島に対する配転命令を完全に撤回し、一審原告大島をケースワーカーの職務に戻すという趣旨ではなく、とりあえず、一審原告大島に対するナースヘルパーの発令以降看護婦長室で行っていた相談室業務を相談室に戻し、一審原告大島についても、配転命令を一旦撤回し、看護課勤務から相談室付きとした上で、改めて、労使双方の話合いにより、一審原告大島の職務内容、配転に関する問題について解決するとの一審原告大島の配転問題についての暫定協定に過ぎなかったことが窺われる。
(三) しかし、配転撤回協定には、労使間の交渉により、一審原告大島の配転問題についての最終決着が就くまでの間、一審原告大島がケースワーカーの業務に就かないとの合意あるいは一審被告の具体的な業務命令なしにはケースワーカーとしての職務を行わないとの趣旨が含まれていたとか、若しくは配転撤回協定とは別に右の趣旨の合意がされた旨の前記(証拠略)の記載ないし陳述記載は、前認定の配転撤回協定の締結に至る経緯や協定書の文言(相談室勤務ではなく、相談室付けとされているというだけでは、一審被告主張のような合意の存在を読み取ることはできない)、趣旨、並びに右記載ないし陳述記載を否定する(証拠・人証略)及び一審原告大島本人尋問の結果に照らして信用できず、他に右合意の存在を認めるに足る証拠はない。
(四) 一審被告は、また、一審原告大島は、配転問題について労使の話合いにより解決がつくまでの間、相談室業務に従事してはならない旨の一審被告の業務命令に違反して、勝手にケースワーカーの職務を行った旨主張し、(証拠略)には、その旨の記載がある。しかし、仮にそのような業務命令が発せられたとしても、右書証から窺われる一審原告大島が行ったとされる業務は、入院患者一川幸代の病状についてその家族に説明したこと、及び、入院患者青柳ハナヨの病状について、相談室の高梨恭子が担当医師の許可等を得た上、その家族と連絡を取るようにしたのに対し消極的な意見を述べたというものであって、そのうち一川幸代の病状をその家族に説明したとの事実については、右書証だけでは認めるに足りないし、仮にそのとおりであるとしても、一審原告大島の各行為は、いずれも、相談室の業務が再開されるまでの間の応急的な措置としてなされたもので、これにより一審原(ママ)告の業務が阻害されたとも認められないから、業務命令違反の行為とまでいうことはできない。
(五) 一審被告は、一審原告大島が、他にも解雇事由に該当する行為をしたように主張するが、仮に一審原告大島がそのような行為をしたとしても、右行為は、いずれも解雇事由に当たらないというべきである。」
二 同七九頁六行目(139頁2段15行目)の次に次のように加える。
「 なお、一審原告今市が酒乱の気味があるとの事実を認めるに足りる証拠はない。」
三 同八四頁七行目(140頁1段31行目)の次に次のように加える。
「(四) 一審原(ママ)告は、一審原告和田が、本件ビラで支援者や一般人に対し一審被告病院等に対する抗議行動を呼びかけ、連絡先を記載したことは、業務妨害を企てたものであり、また職務専念義務に違反する旨主張する。
しかし、前認定のとおり、本件ビラでの抗議行動の呼びかけは、正当な組合活動として許される範囲のものであり、原告和田に組合活動に藉口して一審原(ママ)告の業務を妨害しようとの意図をもって抗議行動を呼びかけたと認めるに足る何らの証拠もないから、一審被告のこの点の主張は採用の限りでない。またビラに連絡先として病院の電話番号を記載したからといって、それだけでは勤務時間中に組合活動をしたことにはならないから、職務専念義務違反であるとの一審被告の主張も採用の限りでない。」
四 同八四頁八行目(140頁2段1行目)の「(四)」を「(五)」に改める。
五 同八五頁九行目(140頁2段22行目)の「業務」を「職種、職務」に、同一一行目(140頁2段25行目)の「除いても」を「除く職員(以下『一般職員』という。)についても」に、同八六頁一行目(140頁2段28行目)の「多岐に」から同三行目(140頁2段31行目)の「基本給の定めは」までを「多岐にわたっており、大別すれば、事務職(技術職を含む)系の職種と専ら現場において肉体労働に従事する労務職系の職種に二分することができるが、基本給は」に、同八八頁二行目(140頁4段9行目)の「根本的に異なるというべきである」を「根本的に異なり、前記の職種の分類に従えば、医療事務職及び薬局助手が事務職系の職種に属するのに対し、ナースヘルパーは労務職系の職種であるというべきである。現に、一審被告病院においても、これまでは、ナースヘルパー(看護助手)の職務は、家政婦紹介所から派遣されて来た家政婦(付添婦)か、あるいは厚生省が打ち出した平成八年三月三一日までには付添看護を廃止するという方針にそい、一審被告が従前の派遣付添婦等のうちからナースヘルパーとして採用した者によって行われて来ており、一審被告が厚生省の方針に従い、付添看護婦からナースヘルパーによる介護への切替えを始めた後も、他の職種特に事務職系の職種からナースヘルパーに配置転換を命じられた者はなかったし(そもそも、一審被告においては、本件人事異動前に異職種間での配転がなされた例はなかった。)、平成六年一二月一日付けの人事異動でも、約八〇名を対象とした異動であるのに、一審原告福永、同井草、同福菅以外には、異職種間の配置転換になった従業員はいなかった(<証拠略>、弁論の全趣旨)。」
六 同八八頁三行目(140頁4段11行目)から七行目(140頁4段20行目)までを次のように改める。
「(2) 右によれば、一審被告就業規則一四条の『業務上の必要により職種の変更を命ずることがある』旨及び『職員は、正当な理由なくして、異動を拒むことはできない』旨の規定は、一般職員については、同じ業務の系統内(事務職職(ママ)系内、労務職系内)での異なる職種間の異動(例えば薬局助手から医療事務職、調理員から看護助手)についての規定であり、業務の系統を異にする職種への異動、特に事務職系の職種から労務職系の職種への異動については、業務上の特段の必要性及び当該従業員を異動させるべき特段の合理性があり、かつこれらの点についての十分な説明がなされた場合か、あるいは本人が特に同意した場合を除き、一審被告が一方的に異動を命ずることはできないものと解するのが相当であり、前記認定の一審被告の一般職員の給与体系が事務職系と労務職系の職種で異なっていないこと、事務職系の職種と労務職系の職種とでは採用資格や採用条件が特に異なってはいないこと(弁論の全趣旨)も右就業規則一四条の解釈を左右するものではない。」
七 同七行目(140頁4段20行目)の次に次のように加える。
「(三) そこで、一審被告に、一審原告福永、同井原、(ママ)同福菅を事務職系の職種である医療事務職ないし薬局助手から労務職系の職種であるナースヘルパーに配置転換しなければならない特段の業務上の必要性と右原告らを配置転換させるべき特段の合理性があったかどうかを検討する。」
八 同八行目(140頁4段21行目)の「(2)」を「(1)」に、同九〇頁四行目(141頁1段25行目)の「反面」を「必要がある反面」に、同九一頁二行目(141頁2段11行目)の「(3)」を「(2)」に、同九三頁一行目(141頁3段20行目)の「(三)」を「(四)」に改め、同七行目(141頁4段2行目)の「とおりである」の次に「(なお、右一審原告らが事務職不適格であることを認めるべき証拠はない。)」を加え、同八行目(141頁4段3行目)の「(四)」を「(五)」に、同行目(141頁4段4行目)の「被告」から同九四頁七行目(141頁4段24行目)の「いうことができ」までを「一審被告が、これまで事務職系統の職種である医療事務職ないし薬局助手として事務的作業に従事してきた一審原告福永、同井草、同福菅に対し、労務職系の職種に属し、労務的作業を職務内容とするナースヘルパーへの配置転換を命ずるについて、客観的に見て、そのような全く職務内容を異にする職種への配置換えを命じなければならない特段の業務上の必要と右一審原告らにこれを命ずる特段の合理性があったとは到底認めるに足りないにも拘わらず、前記のとおり、一審被告は、右原告らの同意なしに一方的に異動を命じたものであるから」に、同九五頁七行目(142頁1段15行目)の「一の金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する一の金員欄記載の金員」に、同八行目(142頁1段17行目)の「二の金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する二の金員欄記載の金員」に、同一一行目(142頁1段23行目)の「一の金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する一の金員欄記載の金員」に、同九六頁一行目(142頁1段25行目)の「二の金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する二の金員欄記載の金員」に、同四行目(142頁1段30行目)の「一の金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する一の金員欄記載の金員」に、同五行目(142頁2段2行目)の「二の金員」を「の氏名欄の各氏名に対応する二の金員欄記載の金員」に改める。
九 同一〇二頁二行目(143頁1段18行目)の次に次のように加える。
「 また、一審原告福永及び同大島に関しても、解雇に至るまで、一審被告から、以下の一時金(ただし、一審原告和田と同様、法定の控除前のもの)の支給を受けているが、一審原告大島の平成五年度年末一時金の支給が平均支給額である基本給の二か月分の九〇パーセントである点を除き、いずれも、夏季一時金については基本給の一か月分、年末一時金については、その二か月分の支給を受けていることが認められる(<証拠略>)。
(一審原告福永関係)
平成五年度夏季 一四万五六六〇円
平成五年度年末 二九万七一六〇円
平成六年度夏季 一四万八五八〇円
(一審原告大島関係)
平成四年度夏季 一三万二六〇〇円
平成四年度年末 二六万五二〇〇円
平成五年度夏季 一三万五二六〇円
平成五年度年末 二四万三四六八円
平成六年度夏季 一三万七九七〇円」
一〇 同一〇三頁六行目(143頁2段17行目)の「、原告和田」から八行目(143頁2段20行目)の「これらの事情」までを「などの事情」に改め、同一〇六頁一〇行目(143頁4段28行目)から同一〇七頁二行目(144頁1段4行目)までの括弧内を「もっとも、一審原告らは、一審被告病院にあっては、一時金の人事考課査定においては、従来から、勤怠のみが、減額査定の対象となるところ、一審原告らは、一審原告らは、(ママ)従来から、勤怠によって減額査定されたことはなく、ただ、一審原告大島については平成五年年末一時金について一〇パーセント減額されたことがあるのみで、それ以外は、すべて平均支給率による支給を受けていたし、その上、本件の一時金については、組合と一審被告間で、人事考課査定は、平均支給率の九〇パーセントを下限とする、すなわち一〇パーセント以上減額考課しないこととする合意があったと主張し、(証拠略)中には、平成七年一月二七日のあっせん手続において、人事考課査定の上限を支給額の一割までとすることの合意があった旨の記載があり、(証拠略)中にも、同趣旨の記載がある。しかし、右の諸点は、本件各協定の成立した半年も前のことであり、そのときにそのような話合いがされたからといって、それが本件各協定の締結の時点まで維持されたとはにわかに認め難い。また、(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、一審被告では、従前から従業員の一時金の支給決定については、協定上ないしは就業規則上は全額人事考課査定とされてはいるが、実際には、勤怠のみが減額査定の対象とされていて欠勤、遅刻、早退などがない者については、平均支給率をもって一時金の支給がされているものと推認され、右推認を揺るがすに足る証拠はないが、そうであったとしても、一時金の支給請求権は、一審被告が人事考課査定をし、個々人の支給額を決定して初めて発生するものと解するのが相当である。」に改める。
一一 当審における一審原告らの予備的請求について
1 前記のとおり、一審被告と組合とは、平成六年度年末一時金について、平成七年七月一四日、支給額は基本給の二か月分とする。(ママ)ただし、全額人事考課査定とする、支給日は平成七年七月二一日とする等の六年度協定を、また、平成七年度夏季一時金の支給について、同年七月八日、支給額は基本給の一か月分とする、ただし、全額人事考課査定とする、支給日は平成七年七月一〇日とする等の七年度協定をそれぞれ締結しているところ、本件各協定は、労働組合法一四条の労働協約の要件を具備した協定として、組合の組合員である一審原告らに対して直接その効力を有するものであり(同法一六条)、したがって、一審被告は、一審原告らに対し、本件各協定に基づき、支給日までに人事考課査定をして当該原告に対する具体的な一時金の支給額を決定し、本件各協定で定められた支給日までに一時金を支給する義務を負うものといわなければならない。
ところが、一審被告は、何ら正当な理由なくして、一審原告らに対し、平成六年度年末一時金及び平成七年度夏季一時金の支給の前提となる人事考課査定をせず本件各協定に定められた支給日までに一時金の支給額を決定して、これを支給することをしなかったから、一審原告らは、一審被告により、本件各協定に基づき一時金の支給を受けるべき期待権を侵害されたというべきである。
2 そこで、一審被告の違法な不作為による期待権の侵害によって、一審原告らが被った損害額について検討する。
前認定のとおり、一審被告にあつ(ママ)ては、一時金については、全額人事考課査定の対象とされているが、実際には、勤怠のみが減額査定の事由とされるという運用が行われており、欠勤、遅刻、早退等で支給率が減じられる場合は格別、通常は、従業員は、平均支給率をもって一時金を支給されていることが認められる。
しかも、前認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、一審原告らは、全員一審被告によって解雇され、本件各一時金の支給期(ママ)間中、一審被告により就労を拒絶され、就労が全くできなかったところ、右就労不能は、一審被告の責めに帰すべき事由であって、一審原告らが本件各一時金の支給期(ママ)間中就労していなかったことは、一時金の減額査定の事由にはならないものと解するのが相当であるから、一審被告において、特に一審原告らの不就労が一審被告の就労拒否とは無関係であることを立証しない限り、一審原告らは、一〇〇パーセント就労したものとして、本件各一時金の支給を受ける期待権を有しているものというべきである。
しかして、一審原告らの基本給が、それぞれ、原判決別紙債権目録の氏名欄の各氏名に対応する四の金員欄記載の金員であることを一審被告は争うことを明か(ママ)にしないから、これを自白したものと見なす。
したがって、一審原告らは、一審被告が本件各協定で定められた一時金の支給日までに一審原告らに対する人事考課査定をして、一審原告らに対する一時金の支給額を決定しなかった違法により、それぞれ、平成六年度年末一時金については、原判決別紙債権目録の氏名欄の各氏名に対応する三の金員欄記載の金額の損害を被り、平成七年度夏季一時金については、同じく四の金員欄記載の金額の損害を被ったものと認められる。
第四結論
よって、原判決は相当であるから、本件各控訴を棄却し、当審における一審原告らの予備的請求は主文第二項の限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、その余(不法行為による損害賠償金の遅延損害金につき商事法定利率で請求した部分)は理由がないからこれを棄却する。
(口頭弁論終結の日 平成一〇年一〇月一五日)
(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 宇佐見隆男 裁判官 菊池洋一)