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東京高等裁判所 平成10年(ラ)1294号 決定 1998年7月16日

抗告人(原告) 日本臓器製薬株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 品川澄雄

同 吉利靖雄

右補佐人弁理士 村山佐武郎

被抗告人(被告) 東菱薬品工業株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 吉井参也

同 椙山敬士

右補佐人弁理士 金谷宥

主文

一  本件抗告のうち、原決定が証拠としての必要性がないとして却下した文書部分(別紙一の「一、文書の表示」1、2記載の各文書のうちワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液「トービシ」及び右抽出液を有効成分とする製剤「ナブトピン注」のカリクレイン生成阻害能の試験方法(以下「被告方法」という。)が記載された部分以外の部分)についての抗告を却下する。

二  本件抗告のうち、その余の被告方法が記載された文書部分についての抗告を棄却する。

三  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨及び抗告の理由

抗告人は、「一 原決定を取り消す。二 被抗告人は、被抗告人が所持する別紙一の「一、文書の表示」1、2記載の各文書(以下「本件各文書」という。)を提出せよ。」との決定を求め、その理由として、別紙二「平成一〇年六月一五日付け抗告理由書」のとおり主張した。

第二当裁判所の判断

一  当事者双方の主張の概要

本件文書提出命令申立事件の本案事件は、カリクレイン生成阻害能測定法に関する特許権(以下「本件特許権」といい、特許請求の範囲第1項記載の発明を「本件発明」という。)を有する抗告人(申立人、原告)が、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液「トービシ」(以下「被告抽出液」という。)につき薬事法に基づく輸入承認を受けて輸入し、被告抽出液を有効成分とする製剤「ナブトピン注」(以下「被告製剤」という。)につき薬事法に基づく製造承認を受けて製造し、販売しようとしている被抗告人(被申立人、被告)に対し、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びそれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン生成阻害能の試験方法として唯一知られている方法である本件発明と同一の試験方法を、被告抽出液及び被告製剤の品質規格の検定のために実施しているはずであるとして、本件特許権に基づき右試験方法の使用差止め等を求める事案であり、本件文書提出命令の申立て(以下「本件申立て」という。)は、被抗告人が実施する前記試験方法の内容を証する証拠として、右試験方法が記載されている本件各文書の提出命令を求めるものである。

これに対し、被抗告人は、本案事件において、被抗告人が実施し、本件各文書に記載されている被告抽出液及び被告製剤の品質規格の検定のための試験方法(被告方法)は、本件発明の方法とは異なるカリクレイン生成阻害能の試験方法である旨主張し、本件申立てに対しては、被告方法は一般に知られていない新規な方法であるから、本件各文書には被抗告人の技術又は職業の秘密に該当する事項が記載されており、民事訴訟法二二〇条四号ロ、一九七条一項三号によって提出義務を負わない旨主張している。

二  原決定

原審裁判所は、本件各文書のうち、①被告方法が記載されている部分以外の部分については、本件申立ての「証すべき事実」に関係する記載部分ではないから、証拠としての必要性がないと判断し、②被告方法が記載された部分については、一件記録のほか、民事訴訟法二二三条三項により被抗告人から提示を受けた本件各文書の内容に基づいて判断し、本件各文書に記載されている被告方法は、特許として公開されている本件発明の方法とは異なるものである上、製薬会社である被抗告人にとって保護に値する技術又は職業の秘密に関する事項に該当するから、被告は民事訴訟法二二〇条四号ロ、一九七条一項三号により提出義務を負わないと判断し、本件申立てを却下した。

三  被告方法が記載された部分以外の部分についての抗告

1  証拠の必要性を勘案してされた証拠の採否の決定に対しては、独立して不服の申立てをすることができず、終局判決に対する上訴によって上訴裁判所の判断を受けるべきであるから、証拠としての必要性がないと判断して文書提出命令の申立てを却下した決定に対しては即時抗告をすることができないものである。

2  前記のとおり、原決定は、本件各文書のうち被告方法が記載された部分以外の部分については証拠としての必要性がないとして本件申立てを却下したものであるから、本件抗告のうち、右証拠としての必要性がないとして却下した文書部分についての抗告は、不適法である。

四  被告方法が記載された部分についての抗告

1  本件各文書のうち被告方法が記載された部分について、一件記録のほか、被抗告人から提示を受けた本件各文書の記載内容(民事訴訟法二二三条三項により被抗告人から原審裁判所に提示された本件各文書の記載内容を記録化することができないため、当裁判所も、当審において、被抗告人から本件各文書の提示を受けた。)に基づいて判断すると、本件各文書に記載された被告方法は、本件発明の方法とは異なる方法であると認められる。

抗告人は、被告方法が本件発明の方法と均等の方法であることもあり、原決定のように「本件各文書に記載されている方法は、特許として公開されている本件発明の方法とは異なるものであると認められる」という極めて簡単な判示によって均等の点の判断がされたとは到底解し得ない旨主張するが、被告方法は本件特許を均等により侵害するものでもないと認められ(原決定の右判示も同様に均等による侵害にも当たらないとの趣旨を含むものである。)、後記2で認定する被抗告人の技術又は職業の秘密に関する事項を保護するためには右判示以上の具体的な説示を行うことは不適当であるから、この点の抗告人の主張は採用することができない。

また、抗告人は、厚生省は、被抗告人の承認申請に係る「ナブトピン注」に対して「後発品」として承認を与えたのであるから、被抗告人の「規格及び試験方法」欄に記載されている試験方法によって得られた「活性値」が、抗告人の「ノイトロピン特号3cc」について抗告人が得た製造承認申請書に記載されている「規格及び試験方法」によって得られた「活性値」と同一であると判断したものであり、この事実は、両者の試験方法が実質的に同一の試験方法であることを示している等を主張するが、厚生省において実質的に同一の活性値を示す方法であると認められたことが、当然に被告方法が均等ないし実質的同一として本件特許の技術的範囲に属することを意味するものではないし、本件各文書の提示を受けて行った前記認定を左右し得るものではない。

2  そして、被抗告人が被告方法は一般に知られていない旨主張し、抗告人がワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液及びそれを有効成分とする製剤の品質規格の検定のためのカリクレイン生成能の試験方法としては、本件発明の方法以外の方法は知られていない旨主張していることに照らせば、被告方法は、公然知られていないカリクレイン生成阻害能の試験方法であると認められ、また、右試験方法は、被告抽出液及び被告製剤のようなカリクレイン生成阻害能を効用とする医薬品を製造、販売する上で不可欠の重要な技術的事項と認められるから、被告方法の内容は、製薬会社である被抗告人にとって保護に値する技術又は職業の秘密に関する事項に該当するというべきである。

3  したがって、被抗告人は、本件各文書のうち被告方法が記載された部分については、民事訴訟法二二〇条四号ロ、一九七条一項三号により、文書提出義務を負わないものであり、原決定の判断は相当であるから、この部分についての抗告は理由がない。

五  結論

以上のとおりであるから、本件抗告のうち、原決定が証拠としての必要性がないとして却下した文書部分についての抗告は不適法であるから却下し、その余の被告方法が記載された文書部分についての抗告は失当として棄却することとする。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 市川正巳)

<以下省略>

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