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東京高等裁判所 平成10年(ラ)1392号 決定 1998年7月13日

抗告人

相手方

株式会社住宅金融債権管理機構

上記代表者代表取締役

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨は,「原決定を取り消す。」との裁判を求めるものであり,その理由は,別紙「執行抗告理由書」に記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  抗告人の抗告理由の要旨は,要するに,抗告人は,平成9年10月5日,原決定添付別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の所有者であるBが平成9年8月5日にCに対して設定した賃借権を買い受けたDから,代金170万円で右賃借権を譲り受け,そのころ,Dが占有中の本件建物の引渡を受けて家族と共に居住しているものであって,本件建物を通常の用法に従い,平穏に占有しているにすぎないから,民事執行法55条1項所定の不動産の価格を著しく減少する行為又はそのおそれがある行為をしているものではなく,原決定は,同項の要件を欠くもので違法であるから,取り消されるべきであるというにある。

二  ところで,民事執行法55条1項に規定する価格減少行為とは,物理的な価格減少行為のみをいうのではなく,競売により形成される売却価格を著しく低下させる行為,例えば,競売物件の最低売却価額の引き下げを意図して,競売物件を占有する行為等をも包含するものと解される。

そこで,以下,控訴人の占有について検討する。

三  本件記録によれば,次の事実が認められる。

1  Bは,昭和62年7月9日,本件建物を買い受け,その所有権を取得して家族とともに居住していたが,多額の借金を抱え,平成9年8月1日には,同人の債務の連帯保証人から紹介された弁護士に自己破産の申立てを依頼するとともに,同弁護士に本件建物の鍵を預け,そのまま家族とともに本件建物から退去した。

2  本件建物の登記簿には,権利者をCとする平成9年8月5日設定の同日付賃借権設定仮登記(その賃借権の内容は,借賃1ヵ月5万円,支払期3年分前払い,存続期間満3年,特約として譲渡,転貸借ができるというもの)が経由されており,さらに同年9月16日付けで,右賃借権が同年9月5日にDに売買により移転した旨の賃借権移転仮登記が経由されている。

3  相手方は,平成9年8月1日以降Bと連絡が取れなくなったことから,相手方担当者において,同月13日,本件建物を調査したところ,Bの占有はなく,本件建物の玄関ドアにはEが占有している旨のビラが貼付されていた。相手方は,移転を受けた抵当権に基づき,本件建物の競売開始決定の申立てをし,同年10月9日付けで本件建物の差押登記が経由された。

相手方担当者は,本件建物の差押え後である同年10月21日,本件建物を訪れたところ,Dが居住しており,同人は,Bという者は知らず,自分が賃借権仮登記を買い取った旨を説明した。

執行官は,同月30日,現況調査のため本件建物に臨場したところ,本件建物は空き家であり,内装工事が行われていた。執行官は,現場の内装工事業者に要請し,その元請業者に電話して,その内装工事の発注者が抗告人が勤務する株式会社aであることを確認した。

抗告人は,同年11月13日,執行官に対し,借家契約等に関する回答書を提出したが,同回答書及びこれに添付された「建物賃貸借契約書」によると,抗告人が同年9月20日に本件建物をBから賃借したこと,その賃貸借契約の内容は,期間が同日から3年間,賃料が月額7万円,敷金が20万円,保証金が170万円というものであること,BとDの問題が解決されていないため,本件建物にはBの荷物が放置されていたが,しばらくしてからようやくBが荷物を搬出したこと,保証金170万円はBの承諾の許にDに支払い,敷金と平成9年10月分の家賃7万円はBに支払ったことが記載されている。

相手方担当者が,同年11月4日,本件建物を訪れたところ,Fと名乗る者が掃除をしており,その連絡先を尋ねたところ,Eの前記ビラを提示された。

Bは,同年8月14日にした自己破産の申立てに基づき,平成10年1月30日,破産宣告を受けた。

平成10年4月,株式会社aの社長で,Dの知り合いであると称するGが,相手方を訪れ,本件競売物件を最低売却価額で買い取りたいとの申し出を行った。

4  抗告人は,抗告審において,本件賃借権の譲渡代金170万円の支払を証するものとして,受領書2通を提出したが,同受領書は,いずれもDから株式会社aにあてたものである。

四  右事実によれば,①抗告人は,本件差押時である平成9年10月9日にはいまだ本件建物に居住しておらず,差押後の占有者であると認められるうえ,②抗告人が本件で主張する賃借権は,執行官に対する回答書におけるそれとは異なるものであり,しかも,Bから保証金170万円及び敷金20万円を支払って本件建物を賃借したとする抗告人が,それから1か月もたたないうちに,Dから本件建物の賃借権の譲渡を受ける契約をしてその代金170万円を支払ったとは到底考えられないところであるばかりでなく,抗告人が本件で主張する賃借権は,Bが平成9年8月5日にCに対して設定したとする賃借権に由来するところ,自己破産の申立てを決意し,鍵を弁護士に託して本件建物を退去したBが右時期に本件建物を賃貸する契約を締結したとは考えられず,いずれにしても,結局,抗告人が当審で主張する賃借権の存在自体が到底信用できるものではなく,③抗告人が株式会社aの従業員であって,その社長が本件競売物件の買取りを申し込んでいること,及びDから株式会社aあての本件賃借権の譲渡代金の領収書が存在していることに照らせば,株式会社aが,その従業員である抗告人をして本件建物を占有させ,その占有の存在により,評価人の本件競売の最低売却価額の評価額を低下せしめ,本件競売物件を低廉な価格で取得しようとしていることが推認される。

したがって,抗告人の本件占有は,抗告人が主張するような賃借権に基づく占有ではなく,競売物件の最低売却価額を引き下げるために競売物件を占有するいわゆる占有屋の占有というべきであるから,民事執行法55条1項に規定する価格減少行為に該当するものであり,原決定は正当である。

五  よって,本件抗告は理由がないから棄却することとし,抗告費用の負担について,民事執行法20条,民事訴訟法67条1項本文,61条を適用して,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 森脇勝 裁判官 末永進 裁判官 藤山雅行)

別紙 執行抗告理由書<省略>

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