東京高等裁判所 平成10年(ラ)1876号 決定 1998年9月11日
①事件
抗告人
株式会社オフィスビーアンドエイチ
右代表者代表取締役
久保塚博之
同
久保塚博之
相手方
富澤美智子
主文
一 原決定を取り消す。
二 本件を前橋地方裁判所太田支部に差し戻す。
理由
第一 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。本件を札幌地方裁判所に移送する。」との裁判を求めるものと理解でき、その理由は、別紙記載のとおりである。
第二 当裁判所の判断
一 本件仮処分は、抗告人会社の取締役である抗告人久保塚博之、取締役富岡功及び同小山勲並びに監査役金本栄杓の職務執行停止及び職務代行者選任を求めるものであり、その本案事件は平成一〇年四月一日に開催された抗告人会社の臨時株主総会における役員解任及び選任の決議(以下「本件決議」という。)の不存在確認の訴えであるから、本件仮処分の管轄裁判所は右本案事件の管轄裁判所である抗告人会社の本店所在地の地方裁判所に専属することとなるが、ここでいう本店所在地とは、登記簿の記載にかかわらず、実体的に営業の本拠地となっている現実の本店所在地をいうものと解すべきである。
二 一件記録によると、次の事実が認められる。
平成一〇年四月一日以前の抗告人会社の代表取締役は相手方であって、抗告人会社は、本店を相手方の肩書地に置き、登記簿上の本店所在地も同所とされていた。抗告人久保塚は、平成一〇年四月一日に群馬県太田市において開催された抗告人会社の臨時株主総会で、取締役及び監査役全員が解任され、抗告人久保塚のほか富岡及び小山が取締役に、金本が監査役にそれぞれ選任され、続いて開催された取締役会において、抗告人久保塚が代表取締役に選任されたとして、その旨の退任及び就任の変更登記申請をし、そのとおりの登記がされた。また、抗告人久保塚は、自らが代表取締役として同日開催した抗告人会社の臨時株主総会において、本店所在地を札幌市とする定款変更を決議したとして、同月九日、抗告人会社の本店が札幌市に移転した旨の本店移転の登記申請をし、抗告人肩書地を本店所在地とする登記がされた。
三 以上の事実関係によると、本件決議が有効に存在する場合には、抗告人久保塚が抗告人会社の代表取締役としてした行為を抗告人会社の行為と評価した上で、抗告人会社の現実の本店所在地を認定することとなるが、これが不存在である場合には、右決議の存在を前提とする抗告人久保塚を代表取締役に選任する旨の前記の取締役会決議及び抗告人久保塚が代表取締役として招集開催した前記臨時株主総会における定款変更決議は、いずれも抗告人会社との関係では、無効又は不存在といわざるを得ず、したがって、その場合には、抗告人会社の現実の本店所在地は従前どおり相手方の住所地にあると認めるほかないのである。
そうすると、本件移送申立ての許否を決するには、まず本件決議の存否を認定しなければならないが、原決定はこの点についての認定判断をしていない。また、一件記録によると、この点に関する資料は相手方の陳述書(甲一)並びに前記役員変更登記申請書及びその添付書類の写真(甲一九の一ないし三)があるのみで、右認定判断をするに足りるものではない。
四 よって、原決定を取り消した上、右の点につきさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官森脇勝 裁判官末永進 裁判官藤山雅行)
別紙抗告の理由<省略>
別紙移送申立書<省略>