東京高等裁判所 平成10年(ラ)428号 決定 1998年8月07日
抗告人
株式会社高橋組
代表者代表取締役
高橋岩寛
代理人弁護士
小林英一
相手方
渡部三郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由
別紙「執行抗告状」(写し)に記載のとおり。
二 当裁判所の判断
(1) 本件記録によれば、以下の事実を認めることができる。
(a) 新潟地方裁判所は、平成一〇年二月一六日、債権者利川雅生の申立て(平成一〇年(ヨ)第三六号債権仮差押命令申立事件)に基づき、相手方(債務者)が抗告人(第三債務者)に対して有する和解金請求債権八一〇万円中の七七七万円について仮差押命令(以下「本件債権仮差押命令」という。)を発し、同仮差押命令は、同月一七日、抗告人に送達された。
(b) 新潟地方裁判所新発田支部は、同月二〇日、相手方(債権者)の申立て(原審・平成一〇年(ル)第四三号債権強制執行事件)に基づき、本件債権仮差押命令により一部仮差押えを受けている上記和解金請求債権の元本八一〇万円及び執行手続費用八〇六〇円の合計八一〇万八〇六〇円を請求債権として、抗告人(債務者)が第三債務者・株式会社第四銀行に対して有する預金債権八一〇万八〇六〇円について差押命令(本件原決定。以下「本件債権差押命令」という。)を発し、同差押命令は、同月二四日、第三債務者に、同月二六日、抗告人に、それぞれ送達された。
(2) 本件抗告の理由は、上記の事実関係を前提として、本件債権仮差押命令により仮差押えを受けている上記和解金請求債権七七七万円の限度で本件債権差押命令が取り消されなければ、抗告人は二重払いを余儀なくされる、というにある。
しかしながら、仮差押えの目的は、債務者の財産の現状を保存して金銭債権の執行を保全するにあるから、その効力は、上記目的のため必要な限度においてのみ認められるのであり、それ以上に債務者の行為を制限するものと解すべきではない。これを債権に対する仮差押えについてみると、仮差押えの執行によって、当該債権について、第三債務者は支払いを差し止められ、仮差押債務者は取立て・譲渡等の処分をすることができなくなるが、このことは、これらの者がその禁止に反する行為をしても、仮差押債務者に対抗し得ないことを意味するに止まり、仮差押債務者は、上記債権について債務名義を有する場合には、この債務名義に基づいて強制執行に着手し、満足的段階に至らない限り、その執行手続を追行する権限を失わないものと解すべきである。このように解しても、第三債務者は、強制執行手続が開始されたときは、二重払いの負担を免れるために、当該債権に仮差押えがされていることを執行上の障害として執行機関に呈示することより、その執行手続が満足的段階に進むことを阻止し得ると解されるからである(最高裁判所昭和四八年三月一三日第三小法廷判決・民集二七巻二号三四四頁参照)。
そうであるとすれば、本件債権仮差押命令によりその一部について仮差押えを受けている相手方の抗告人に対する和解金請求債権を請求債権として、抗告人が第三債務者である株式会社第四銀行に対して有する預金債権について差押えを命じた本件債権差押命令は、何ら違法ではないというべきである(なお、付言すれば、債権執行における換価行為の性質に照らすと、執行債権に対する仮差押えの存在にもかかわらず許される相手方による本件強制執行手続は、本件差押命令の送達までが限度と解されるから、抗告人は、本件強制執行手続自体に対する執行異議によって、これより後の満足的執行手続を本件債権仮差押命令が取り消されるまでは許さない旨の執行裁判所の裁判を得て、これを執行機関に提出するなどして、本件仮差押債権者と本件執行債権者である相手方に対する二重払いの負担を免れることができると解されるところである。)。
三 結論
上記のとおりであって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官橋本和夫 裁判官川勝隆之)