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東京高等裁判所 平成10年(ラ)756号 決定 1998年7月10日

抗告人

ソントン食品工業株式会社

右代表者代表取締役

石川紳一郎

代理人弁護士

青柳洋

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告の申立書」(写し)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

(1)  抗告人は、まず、原審裁判所(執行裁判所)の窓口指導の違法を主張するが、執行裁判所は、本件債権差押命令申立てが転売代金債権を目的とする動産売買先取特権の実行であったことから、担保権の存在を証する文書として、第三債務者の物品受領書が必要であるとの見解の下に、抗告人に対して同受領書の追加提出を促し、それが全部提出されない間に、債務者について更生手続開始の決定がされたのであるから、執行裁判所が抗告人に対し上記窓口指導の初期の段階で同受領書の追加提出を促さなかったとしても、このような取扱いは不適切であるというにとどまり、原決定を取り消すべき違法とまでいうことはできない。

(2)  次に、抗告人は、会社更生法六七条一項前段が、更生手続開始の決定があったときは、強制執行はすることができないとしているのは、開始決定後には新たに強制執行の実行をすることができないことを定めているものであり、既にされている強制執行の実行手続は、同項後段によって中止されるべきことが明らかであるから、本件債権差押命令申立事件は、同項後段により、文字通りその時点において、その状態のまま中止されるべきである旨を主張する。

ところで、本件債権差押命令申立てに係る被担保債権・請求債権は、抗告人の債務者に対する更生手続開始前の原因に基づいて生じた動産売買の代金債権で、更生債権であり(会社更生法一〇二条)、また、同申立てに係る担保権は、更生手続開始当時、債務者の財産である前記動産の転売代金の上に存する特別の先取特権(動産売買の先取特権。民法三一一条六号、三二二条、三〇四条)であるから、更生担保権である(会社更生法一二三条一項)。

そして会社更生法六七条一項は、更生手続開始の決定があったときは、更生担保権に基づく競売はすることができず(同項前段)、更生担保権に基づき会社財産に対し既にされている競売の手続は中止される(同項後段)旨を定めているところ、この規定の趣旨が、更生裁判所の監督の下に更生手続を強力かつ円滑に実施するため、更生手続開始決定後においては、会社財産に対するその他の権利実行手続は原則として一切許さないとしたものであることにかんがみると、ここにいう「競売」の中には、特別の先取特権に基づく債権に対する担保権の実行も含まれるものと解される。

しかるところ、債権に対する動産売買先取特権の実行は、執行裁判所の差押命令によって開始されるのであるから(民事執行法一九三条二項、一四三条)、差押命令の発令前の段階においては、中止されるべき担保権の実行手続は存在しないものといわざるを得ず、また、債務者について更生手続開始の決定があったことは執行障害事由と解されるから、本件のように、動産売買先取特権に基づき転売代金債権につき債権差押命令の申立てをした後、その差押命令が発令される前に、債務者について更生手続開始の決定がされたときは、執行裁判所は、もはや債権差押命令を発付することはできず、その債権差押命令申立てを不適法として却下すべきものと解するのが相当である。

したがって、抗告人の主張は理由がなく、採用することができない。

(3)  よって、これと同旨の原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官橋本和夫 裁判官川勝隆之)

別紙執行抗告の申立書<省略>

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