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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)13号 判決 1999年3月24日

大阪市中央区東心斎橋1丁目7番30号

原告

ナショナル商事株式会社

代表者代表取締役

佐藤弘一

訴訟代理人弁護士

中村智廣

三原研自

訴訟代理人弁理士

佐々木功

川村恭子

東京都渋谷区渋谷1丁目13番5号

被告

株式会社日本スポーツビジョン

代表者代表取締役

野﨑伸一

訴訟代理人弁理士

松田三夫

佐藤英二

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

(1)  特許庁が、平成8年審判第11564号事件について、平成9年11月14日にした審決を取り消す。

(2)  特許庁が、平成8年審判第11565号事件について、平成9年11月14日にした審決を取り消す。

(3)  特許庁が、平成8年審判第11566号事件について、平成9年11月14日にした審決を取り消す。

(4)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  原告は、別紙商標目録記載の構成よりなり、第25類「紙類、文房具類」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による。以下同じ。)を指定商品とする登録第2585508号商標(以下「本件第1商標」という。)、別紙商標目録記載の構成よりなり、第24類「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品及び附属品」を指定商品とする登録第2601213号商標(以下「本件第2商標」という。)及び別紙商標目録記載の構成よりなり、第23類「時計、眼鏡、これらの部品及び附属品」を指定商品とする登録第2642697号商標(以下「本件第3商標」という。)の各商標権者である。

本件第1商標は、平成3年7月2日に登録出願され、平成5年10月29日に設定登録を受けたもの、本件第2商標は、平成3年7月2日に登録出願され、平成5年11月30日に設定登録を受けたもの、本件第3商標は、平成3年7月2日に登録出願され、平成6年3月31日に設定登録を受けたものである。

被告は、いずれも平成8年7月15日に、本件第1~第3商標につき、登録無効の審判請求をした。

特許庁は、本件第1商標についての同請求を平成8年審判第11564号事件(以下「本件第1審判事件」という。)として、本件第2商標についての同請求を平成8年審判第11565号事件(以下「本件第2審判事件」という。)として、本件第3商標についての同請求を平成8年審判第11566号事件(以下「本件第3審判事件」という。)として、それぞれ審理したうえ、平成9年11月14日、本件第1審判事件につき「登録第2585508号商標の登録を無効とする。」との、本件第2審判事件につき「登録第2601213号商標の登録を無効とする。」との、本件第3審判事件につき「登録第2642697号商標の登録を無効とする。」との各審決をし、本件第1、第3審判事件の各審決の謄本はいずれも平成9年12月17日に、本件第2審判事件の審決の謄本は同月22日に、それぞれ原告に送達された。

2  各審決の理由の要点

本件第1~第3審判事件の各審決(以下、単に「各審決」という。)は、別添平成8年審判第11564号事件審決書写し、平成8年審判第11565号事件審決書写し及び平成8年審判第11566号事件審決書写し記載のとおり、「JUVENTUS」又は「ユベントス」なる名称は、イタリア国のプロサッカーチームである「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」(以下「ユベントスチーム」という。)のチーム名の略称であり、我が国においても、本件第1~第3商標の登録出願時(平成3年)において、サッカーファンを初めとするスポーツ愛好者の間で周知著名であったところ、本件第1~第3商標はこれと類似するものであり、本件第1~第3商標をそれぞれその指定商品に使用するときは、これに接する取引者及び需要者をして、その商品があたかもユベントス・チーム又はそのチームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生じるおそれがあるから、本件第1~第3商標は、いずれも商標法4条1項8号、同項15号に該当し、その各登録は、同法46条の規定によって無効とされるべきものであるとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

各審決は、我が国におけるユベントス・チームのチーム名の略称としての「JUVENTUS」又は「ユベントス」の周知著名性について誤った判断をし、また、本件第1~第3商標を各指定商品に使用したときに商品の出所の混同が生じるとの誤った判断をし、さらに、本件第1~第3商標がユベントス・チームのチーム名の著名な略称を含むものと誤った判断をした結果、本件第1~第3商標が、いずれも商標法4条1項8号及び同項15号に該当するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(周知著名性の判断の誤り)

各審決は、我が国におけるサッカーの歴史、サッカー人口等につき詳細に認定した(本件第1審判事件の審決につき甲第1号証の3第26頁13行~28頁15行、本件第2審判事件の審決につき甲第1号証の2第26頁15行~28頁17行、本件第3審判事件の審決につき甲第1号証の1第26頁13行~28頁15行)うえで、本件第1~第3商標の登録出願時(平成3年)において、ユベントス・チームのチーム名の略称としての「JUVENTUS」及び「ユベントス」が、我が国のサッカーファンを初めとするスポーツ愛好者の間で周知著名であったと認定したが、それは誤りである。

すなわち、上記サッカーの歴史等に係る各審決の認定に誤りがないとしても、我が国において、サッカーと同程度に、あるいはそれ以上に盛んなスポーツは数多くあり、サッカーに関する事項は、我が国の一般人のうちのごく僅かな部分が認識するに止まるものである。

我が国において、サッカー競技に関心が持たれるようになったのは、日本プロフットボールリーグ(いわゆる「Jリーグ」、以下「Jリーグ」という。)の試合が開催されるようになった平成5年5月以降のことであって、これにより国内のプロサッカーチームの名称が知られるようになり、その後のサッカーブームの中で、サッカーの盛んなブラジルやイタリアなどのプロサッカーチームや選手が紹介され、知られるようになったが、ユベントスチームは数多いイタリアのプロサッカーチームの一つであるにすぎず、たとえ、そのチーム名の略称としての「JUVENTUS」が一部の者の間で知られるようになったとしても、本件第1~第3商標の登録出願時(平成3年)において、日本国内で著名であったものとは到底認められない。

2  取消事由2(商品の出所の混同についての判断の誤り)

本件第1~第3商標が「ユベントス」と称呼するものであることは認める。

各審決は、被請求人(原告)が、ユベントス・チームの承諾を得ている等、そのチームと関係のある者ではないので、本件第1~第3商標をそれぞれその指定商品に使用するときは、これに接する取引者及び需要者をして、その商品があたかもユベントス・チーム又は同チームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生ずるおそれがあると判断した(本件第1審判事件の審決につき甲第1号証の3第30頁21行~31頁4行、本件第2審判事件の審決につき甲第1号証の2第30頁23行~31頁6行、本件第3審判事件の審決につき甲第1号証の1第30頁21行~31頁4行)が、それは誤りである。

すなわち、各審決は、本件第1~第3商標の各指定商品に含まれる商品が、現実にユベントス・チームによって取り扱われているかどうか、その取引の状況がどうであるか、そして、その取引の実情から本件第1~第3商標との関係で商品の出所について誤認混同を生じるおそれが実際に存在するのかどうかというような具体的事実について何ら認定しておらず、被告もこれらの点について具体的な主張立証をしていない。

なお、原告は、昭和60年7月29日に本件第1~第3商標と同一の構成よりなり、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品とする登録第1795328号商標の設定登録を、昭和60年6月25日に同様の構成よりなり、第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」を指定商品とする登録第1777332号商標の設定登録をそれぞれ受けて(以下、この両商標を併せて「件外商標」という。)、婦人用衣料及び婦人用ハンドバッグ等の婦人用品に件外商標を使用してきたが、これらの商品の取引者需要者の層とプロサッカー愛好者層とは全く異なるものである。

また、ユベントス・チームも加盟するイタリアのサッカー連盟から許諾を受けて、わが国において、同連盟及び各加盟チームのエンブレム等を付した製品の商品化を推進しようとする伊藤忠ファッションシステム株式会社(以下「伊藤忠」という。)からの申入れにより、原告は、本件第1~第3商標につき、それぞれの指定商品全部を対象として、伊藤忠に対する専用使用権を設定したため、本件第1~第3商標を自ら使用してはいないが、伊藤忠がユベントス・チームとの間で締結した商標使用許諾契約に係る契約書(甲第14号証)には、「Juventus」の語は、日本においては原告が文房具及び紙製品を指定商品とする商標の登録をしていることが確認された旨、及び同名称を使用する上での不都合を避けるため、伊藤忠は同商標の使用につき原告と契約を締結している旨の記載があり、ユベントス・チーム自身において、原告が同チームとは無関係に本件第1商標を適法に取得している事実を理解し、原告による同商標の登録に異議がなく、これを尊重することが示されているのである。

これらの事情を併せ考えれば、各審決がした、本件第1~第3商標をそれぞれその指定商品に使用するときは、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとの判断が誤りであることは明らかである。

3  取消事由3(本件第1~第3商標がユベントス・チームの著名な略称を含むとの判断の誤り)

本件第1~第3商標の構成は、別紙商標目録記載のとおりであり、原告独自のロゴマークからなっていて、ユベントス・チームのチーム名の略称である「JUVENTUS」の表示とは、外観上同一でないことが明らかである。

しかして、商標法4条1項8号所定の、他人の名称やその著名な略称を「含む商標」とは、その名称や略称の表示と外観上同一の商標に限られるものと解すべきであるから、本件第1~第3商標がいずれも商標法4条1項8号に該当するとした各審決の判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

1  取消事由1(周知・著名性の判断の誤り)について

ユベントス・チームは、1897年に創立されたイタリア国有数のプロサッカーチームであり、欧州3大カップ(欧州チャンピオンズカップ、欧州カップ・ウイナーズカップ、UEFAカップ)の全部を最初に制し、また、イタリアのプロサッカーリーグの最高クラスであるセリエAにおいて、1995年までに22回の最多優勝記録を有するチームとして、そのチーム名の略称「JUVENTUS」とともに、全世界のサッカーファンに著名な存在である。

我が国においても、ユベントス・チームとそのチーム名の略称「JUVENTUS」(日本語表記は「ユベントス」)は、雑誌、新聞、テレビ報道等により、あるいは国際試合を通じて、Jリーグの試合が開催されるようになる以前からサッカーファンの間でよく知られていたものであり、各審決の認定するとおり、本件第1~第3商標の登録出願(平成3年)当時、サッカーファンを初めとするスポーツ愛好者の間で周知・著名であったものである。

2  取消事由2(商品の出所の混同についての判断の誤り)について

原告は、各審決が、本件第1~第3商標の各指定商品に含まれる商品が現実にユベントス・チームによって取り扱われているかどうか等、商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあることについての具体的事実を認定していないと主張するが、商標法4条1項15号所定の「混同を生ずるおそれ」は、ユベントス・チームのチーム名の略称「JUVENTUS」のような著名表示との関係においては、いわゆる広義の混同を含み、当該著名表示の主体であるユベントス・チームとの間で、何らかの営業上の関係があるかのような誤認を生じるおそれがあれば足りるものである。また、本件第1~第3商標の各指定商品に含まれる文房具類、人形、おもちゃ、時計等が、サッカーチームのいわゆるオフィシャルグッズとして取り扱われる商品であることは明らかである。さらに、各審決は、「サッカーダイジェスト」昭和59年9月号等のサッカー少年用ウェア及びストッキングの宣伝広告中に、「ユベントス型」及び「ユベントスモデル」のウェア、パンツ及びストッキングが掲載されている事実を認定して(本件第1審判事件の審決につき甲第1号証の3第28頁20~25行、本件第2審判事件の審決につき甲第1号証の2第28頁22行~29頁2行、本件第3審判事件の審決につき甲第1号証の1第28頁20~25行)、商品分野において、ユベントス・チームのチーム名の略称「JUVENTUS」及び「ユベントス」の有する価値が活用されている取引界の実情を明らかにしている。したがって、原告の上記主張は失当である。

3  取消事由3(本件第1~第3商標がユベントス・チームの著名な略称を含むとの判断の誤り)について

原告は、商標法4条1項8号所定の他人の名称やその著名な略称を「含む商標」が、その名称や略称の表示と外観上同一の商標に限られるとの主張を前提として、本件第1~第3商標の構成が、ユベントス・チームのチーム名の略称である「JUVENTUS」の表示と外観上同一でないことを理由に、本件第1~第3商標がいずれも商標法4条1項8号に該当するとした各審決の判断が誤りであると主張するが、人格権を保護する趣旨の同号において、他人の名称やその著名な略称を「含む商標」とは、その他人を想起・認識させるものであれば足り、したがって、社会通念上、他人の名称やその著名な略称と同一の範囲内にあれば同号に該当するものである。したがって、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって、失当である。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(周知・著名性の判断の誤り)について

平成6年11月25日発行の「週刊サッカーマガジン別冊錦秋号」(乙第3号証)、平成7年1月31日発行の「セリエAハンドブック’95」(乙第4号証)、平成5年12月25日発行の「カルチョ・イタリア 1993-94」(乙第36号証)、「ワールドサッカーグラフィック」平成7年7月号(乙第39号証)、「Jサッカーグランプリ」平成7年7月号(乙第40号証)及び弁論の全趣旨によれば、ユベントス・チームは、1897年創立のイタリア国トリノ市を本拠地とするプロサッカーチームであり、イタリア有数のプロサッカーリーグであるセリエAに所属して、1990年(平成2年)までに同リーグで最多の22回の優勝(スクデット)を果たしたほか、欧州3大カップ(欧州チャンピオンズカップ、欧州カップ・ウイナーズカップ、UEFAカップ)全部の優勝を果たした最初のチームであることが認められる。

また、昭和39年5月30日株式会社白水社発行の野上素一編著「新伊和辞典」(乙第31号証)に「Juventus」の語が掲載さ為、「ユヴェントゥス(トリーノ市を代表するフットボール・チームの名前)。」との解説があり、昭和60年12月9日の朝日新聞、讀賣新聞、毎日新聞及び日本経済新聞各スポーツ欄(乙第22~第25号証)には、サッカーのクラブチーム世界一を決定するとされている第6回トヨタカップの試合が、同月8日に東京都内の国立競技場において行われ、欧州代表のユベントス・チームが南米代表であるアルゼンチンのアルヘンチノス・ジュニアーズ・チームに勝った旨及びその観客数が6万2000人であった旨の記事が掲載されており、同月8日の朝日新聞テレビ番組欄(乙第26号証)には、その試合がテレビ放映される旨が掲載されている。さらに、「サッカーダイジェスト」昭和56年12月号、昭和57年12月号、昭和58年3月号、同年4月号、同年8月号、同年10月号、昭和59年3月号、同年7月号、同年9月号、昭和60年3月号、同年7月号、同年8月号、同年12月号、昭和61年2月号、同年3月号、同年5月号、同年10月号、昭和62年5月号、同年6月号、同年7月号、平成2年6月号(乙第5~第12号証、第27号証、第13~第17号証、第28号証、第18号証、第29号証、第19、第20号証、第30号証、第21号証)に、ユベントス・チーム又は同チームの選手に関する記事が掲載され、該記事中でユベントス・チームのチーム名の略称として「JUVENTUS」及び「ユベントス」の語が頻繁に用いられている。

なお、「雑誌新聞総かたろぐ」1981年版~1987年版(乙第49~55号証)、同1990年版(乙第58号証)には、「サッカーダイジェスト」の昭和56年~昭和62年の各号の発行部数が約20万部、平成2年の各号の発行部数が約37万部であったことが掲載されている。

他方、我が国におけるプロサッカー競技に関心を有する者の数及びその推移を直接明らかにする証拠はないが、平成3年のJリーグ創設の1~2年前から急激に増加し始めたことは公知の事実というべきであり、サッカー専門誌である「サッカーダイジェスト」の前示発行部数の推移もこれを裏付けるものといえる。そして、このことと、前示「サッカーダイジェスト」に掲載されたユベントス・チーム及びその選手に関する記事、その発行部数、ユベントス・チームが出場して勝利者となった第6回トヨタカップの試合の開催及びこれに係る放映、報道記事並びに前示ユベントス・チームのこれまでの卓越した実績等を併せ考えると、本件第1~第3商標の各登録出願がなされた平成3年7月当時においては、既に、我が国に多数のプロサッカー愛好者が存在し、かつ、これらの者を中心としてユベントス・チームの存在並びにそのチーム名の略称が「JUVENTUS」及び「ユベントス」であることが多数の者に知られていたものと認めるのが相当である。

したがって、「JUVENTUS」又は「ユベントス」なる名称がユベントス・チームのチーム名の略称であることが、我が国においても、本件第1~第3商標の登録出願時(平成3年)において、サッカーファンを初めとするスポーツ愛好者の間で周知・著名であったとの各審決の認定が誤りであるとすることはできない。

2  取消事由2(商品の出所の混同についての判断の誤り)について

(1)  本件第1~第3商標は、別紙商標目録記載のとおりの構成よりなるものであり、これをユベントス・チームのチーム名の略称である「JUVENTUS」と対比すると、本件第1~第3商標が、頭文字「J」以外の文字を小文字とし、かつ、全体を多少の図案化を伴う筆記体として、アンダーラインを付した構成であるほかは、構成する欧文字のスペルを含め、両者に全く相違がない。また、本件第1~第3商標が「ユベントス」と称呼することは当事者間に争いがない。そうすると、本件第1~第3商標がユベントス・チームのチーム名の略称である「JUVENTUS」の表示と極めて類似するものであることが明らかである。

他方、本件第1~第3商標の登録出願時よりも相当程度前から、プロサッカーチームを含むプロスポーツチームの経営団体が、営業政策として、当該チームの名称、略称、マーク、ユニフォームのデザイン等の当該チームに因む表示を付した様々な商品を、自ら又は組織的若しくは経済的に関連を有する者等を通じて、主として当該チーム又は当該プロスポーツのファン層に販売しており、本件第1~第3商標の各指定商品に含まれる文房具類、おもちゃ、人形、運動具、時計等が、かかる商品として比較的頻繁に用いられるものであることは公知の事実である。そして、前示のとおり、本件第1~第3商標の登録出願時に、我が国において、ユベントス・チームのチーム名の略称である「JUVENTUS」が周知・著名であったものと認められるから、これと極めて類似する本件第1~第3商標をそれぞれその指定商品に使用したときは、これに接する取引者・需要者において、それがユベントス・チームの販売に係る商品、又はユベントス・チームと何らかの組織的又は経済的関連を有する者の販売に係る商品であるものと誤認するおそれが十分にあるものと認められる。

(2)  原告は、各審決が、本件第1~第3商標の各指定商品に含まれる商品が現実にユベントス・チームによって取り扱われているかどうか等、商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあることについての具体的事実を認定していないと主張する。しかしながら、我が国において、ユベントス・チームのチーム名の略称である「JUVENTUS」が周知・著名であり、本件第1~第3商標がこれと極めて類似するものであるとの状況の下において、本件第1~第3商標が付されたその各指定商品に属する商品が市場に流通した場合には、ユベントス・チーム又はこれと何らかの組織的又は経済的関連を有する者が現実にそれと同じ商品を販売しているか否かにかかわらず、取引者・需要者においては、それがこれらの者の販売に係る商品であるものと誤認するおそれがあることは明らかであって、商標法4条1項15号所定の「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある」とは、かかる場合も含むものであるから、原告の前示主張は失当である。

(3)  また、原告は、原告がその商標権を有する件外商標を、婦人用衣料及び婦人用ハンドバッグ等の婦人用品に使用しているところ、これらの商品の取引者・需要者の層とプロサッカー愛好者層とは全く異なるものであると主張するが、該主張によれば、件外商標は、本件第1~第3商標と構成が同一であるとはいえ、指定商品を異にするというのであるから、かかる件外商標についての取引者・需要者層に関する事実によって、本件第1~第3商標が商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるとの前示認定が左右されるものではない。

もっとも、仮に、原告が単に件外商標をその指定商品に使用しているに止まらず、件外商標が原告の業務に係る商品を表すものとして周知・著名の域に達しているものとすれば、かかる事実は、件外商標と本件第1~第3商標の構成が同一であることに伴って、ひいて、本件第1~第3商標が、ユベントス・チーム等との関係で商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるかどうかという判断に影響を与えることが考えられるが、本件において、原告からかかる事実の主張はされていない。

なお、各審決が、本件第1~第3商標が件外商標の各指定商品について使用された事実が認められないとし、それを前提として、本件第1~第3商標が原告の業務に係る商品を表すものとして知られていたとも認められないとした(本件第1審判事件の審決につき甲第1号証の3第29頁12行~30頁9行、本件第2審判事件の審決につき甲第1号証の2第29頁14行~30頁11行、本件第3審判事件の審決につき甲第1号証の1第29頁12行~30頁9行)のは、前示のように、本件第1~第3商標と構成を同じくする件外商標が原告の業務に係る商品を表すものとして周知・著名の域に達している事実が、本件第1~第3商標に係る商品の出所の混同についての判断に影響し得ることを踏まえて、そのような事実の存在が認められないとした趣旨であると解されるところ、前示のように、原告から、そのような事実の主張はされていないのであるから、各審決の該認定は、使用事実の存否に係る認定の部分の当否はともかく、周知・著名性が認められないとしたその結論において誤りはない。

(4)  原告は、さらに、伊藤忠がユベントス・チームとの間で締結した商標使用許諾契約に係る契約書の記載に、ユベントス・チームにおいて、原告が同チームとは無関係に本件第1商標を適法に取得している事実を理解し、原告による同商標の登録に異議がなく、これを尊重することが示されていると主張する。しかし、該契約書(甲第14号証)の当該記載は、「上記に拘わらず、『Juventus』の語は日本において旧日本商品分類第25類(文房具及び紙製品)にナショナル商事株式会社によって登録されていることが確認されており、同名称を使用する上での不都合を避けるために使用権者(注、伊藤忠を指す。)は同登録商標の使用に関してナショナル商事株式会社と契約を結んでいる。」(同号証訳文2頁15~18行)というものであり、この文言からみて、該記載は、原告が本件第1商標の登録を受けたという事実と、本件第1商標の存在により生じる可能性のある紛争の予防のための措置を伊藤忠が講じたことを確認し、ひいて仮に紛争が生じた場合の危険は伊藤忠が負担するものであることが暗黙裡に了解されたという以上の趣旨を有するものとは解されず、原告が主張するように、ユベントス・チームにおいて、原告が本件第1商標を適法に取得し、原告による同商標の登録に異議がなく、これを尊重することを示したものとは到底認め得ない。したがって、原告の該主張も失当である。

(5)  そうすると、本件第1~第3商標は、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるものとして、商標法4条1項15号に該当するものといわなければならず、各審決のこれと同旨の判断に誤りはない。

3  以上によれば、その余の審決取消事由の成否につき判断するまでもなく、本件第1~第3商標の登録が商標法46条の規定により無効とされるべきものであるとした各審決の結論は正当であって、その余の審決取消事由の成否はこれに影響を及ぼさず、また、他に各審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

(別紙)

本件第1~第3商標

<省略>

平成8年審判第11564号

審決

東京都渋谷区渋谷1丁目13番5号

請求人 株式会社 日本スポーツビジョン

東京都中央区京橋2丁目7番19号 守随ビル

代理人弁理士 松田三夫

東京都中央区京橋2丁目13番10号 京橋ナショナルビル6階 創英国際特許事務所

代理人弁理士 佐藤英二

大阪府大阪市中央区東心斎橋1丁目7番30号

被請求人 ナショナル商事 株式会社

東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 虎ノ門産業ビル6階 佐々木内外国特許商標事務所

代理人弁理士 佐々木功

東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 虎ノ門産業ビル6階 佐々木内外国特許商標事務所

代理人弁理士 川村恭子

上記当事者間の登録第2585508号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第2585508号商標の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

本件は、別紙に示すとおりの構成よりなり、第25類「紙類、文房具類」を指定商品とし、平成3年7月2日に登録出願され、平成5年10月29日に設定登録された登録第2585508号商標(以下「本件商標」という)に関する商標法第46条の規定に基づく商標登録の無効審判請求(以下「本件請求」という)である。

Ⅰ.請求の趣旨等

本件請求の請求人(以下「請求人」という)は、結論同旨の審決を求め、次の趣旨の理由および弁駁を述べると共に、証拠方法として甲第1号証~甲第50号証を提出している。

1.本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第15号に該当し、その商標登録は無効とされるべきである。

(1) 審判請求の利益について

請求人は、イタリア国のプロサッカーチームである「JUVENTUS」(ユベントス)のオフィシャルグッズであるユニフォーム等の商品をイタリアから輸入し、販売している者である。

しかるところ、本件請求の被請求人(以下「被請求人」という。)は、請求人の前記販売行為を本件商標を含む商標権の侵害として東京地方裁判所に提訴(平成8年(ワ)第5748号)し、現在審理中である。

したがって、請求人は本件請求につき法律上の利害関係を有する者である。

(2) 「JUVENTUS」(ユベントス)の標章の著名性について

本件商標の構成文字「Juventus」は、イタリア国のプロサッカーリーグであるセリAに属する「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の著名な略称である「JUVENTUS」と同一の構成文字よりなるものである。

前記「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」は、1897年に創立されたイタリア国有数のプロサッカーチームであり、「欧州チャンピオンズリーグ」、「欧州カップ・ウイナーズカップ」及び「UEFAカップ」の欧州三大カップの全タイトルを最初に制し、イタリアのプロサッカーリーグであるセリエAにおいて過去22回の最多優勝(1995年時点)を成し遂げたチームとして、「JUVENTUS」(日本語の表記は「ユベントス」)の名の下に世界のサッカーファンに著名なプロサッカーチームである(甲第3号証及び甲第4号証)。

そして、近年わが国においても、プロサッカーリーグであるJリーグの開催によって、プロサッカー熱が非常な盛り上がりを見せているが、「JUVENTUS」(ユベントス)の名は、わが国で1リーグが開催される以前より、ワールドカップ等の国際試合を通じて、わが国のサッカーファンの間でも広く知られていたものである。

現在においては、「JUVENTUS」(ユベントス)の名は前記セリエAの名門チームの略称としてわが国においても著名となっているものである(甲第3号証~甲第9号証)。

(3) 本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当することについて

本件商標は、「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の著名な略称である「JUVENTUS」と同一の構成文字よりなるものである。そして、この略称「JUVENTUS」(ユベントス)は、少なくとも本件商標の出願日である平成3年7月2日時点では、世界的に有名なプロサッカーチームの略称として、わが国においても著名であったことは、甲第3号証~甲第9号証の証拠に照らしても明らかなところである。

しかるに、本件商標は、「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の承諾なく出願されたものである。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものである。

ちなみに、被請求人は、商品区分の第12類と第30類及び第9類においても、本件商標と同一の構成態様の商標を出願したものであるが、いずれの出願も審査において、著名な略称「JUVENTUS」を含むので、商標法第4条第1項第8号に該当する旨の拒絶理由により拒絶されている(甲第10号証、同第11号証および同第12号証)。

(4) 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて

本件商標は、世界的に有名なプロサッカーチーム名(略称)「JUVENTUS」と同一の綴り字よりなるものである。そして、プロサッカーはそれ自体が、営業行為として行われているものである。

したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品があたかもプロサッカーチームである「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」と営業上の密接な関係にある者の提供する商品であるかの如く誤認され、その出所の混同を生じるおそれは十分にあるといわねばならない。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定にも該当するものである。

(5) 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて

本件商標は、少なくとも本件商標の登録時点である平成6年3月31日時点では、「JUVENTUS」(ユベントス)の名称は、イタリア本国はいうまでもなく、わが国を含む世界中で広く知られるに至っていたものである。

しかるに、このような世界的にも著名な外国の団体9著名な略称を、当該団体以外の者がわが国で商標登録することは、わが国の国際信用を著しく害することになるものである。また、プロサッカーはそれ自体が営業活動として行われているから、公正であるべき商取引の秩序に反することになる。

すなわち、本件商標は明らかに世界的に著名な団体の名声を潜用せんとする不正な意図のもとで商標登録を受けたものである。

このような世界的に著名な名称を冒認した出願については、御庁の審決においても、世界的に著名な画家である「シャガール」の氏名に相当する「MARC CHAGALL」の文字よりなる商標の旧第17類での出願について、「シャガールの名声を冒認しようとするものであるから、かかる行為は、国際信義に反するものといわざるを得ず、公の秩序を害するおそれがあるとみるのを相当とする。」として、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されている(甲第13号証)。

また、世界的に有名なスポーツ用品専門店であるロンドン所在の「リリーホワイツの店名表示「Lillywhites」を本人以外の者がわが国で商標登録するのは、「公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであり、商標制度の趣旨に即しない」として、前記事件と同様に商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されている(甲第14号証)。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号の規定にも該当する。

2.請求の理由(補充)

(1) 1985年(昭和60年)12月8日に、東京・国立競技場で開催された第6回トヨタ・カップの決勝戦で「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは優勝を飾り、この事実は、同年12月9日の朝日新聞、読売新聞、毎日新聞及び日本経済新聞において全国的に報道された(甲第15号証~甲第18号証)。

なお、このトヨタ・カップは、欧州と南米のそれぞれのチャンピオン同士が争う事実上のプロサッカー世界一決定戦であり、わが国のサッカーファンのみならず全世界のサッカーファンが注目しているものである(甲第16号証)。そして、1985年(昭和60年)12月8日のユベントスが優勝した第6回トヨタ・カップには、6万2千人の観衆が入場し、声援を送ったことが報道されている(甲第15号証)。

そして、この第6回トヨタ・カップの模様は、テレビ放送によってもわが国で全国的に放映されたものである(甲第19号証)。

(2) 「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは、イタリア有数のプロサッカーチームとして、上記第6回トヨタ・カップ以前より、わが国のサッカーファンに人気を博してきたものである。その事実を示すものとして、わが国のサッカーファンに愛読されている雑誌「サッカー・ダイジェスト」の1981年(昭和56年)以降の発行分から代表的なものを甲第20号証~甲第40号証として提出する。

すなわち、「JUVENTUS」ユベントス・チームは、1981年~82年に開催されたヨーロッパ(欧州)チャンピオンズ・カップに出場したが、そのことはわが国でも報道された(甲第20号証~甲第24号証)。その他にも、地元のイタリア・リーグをはじめとして三大カップ等でのユベントスの活躍や、ユベントスの人気選手パオロ・ロッシやプラティニの記事が掲載されているように、ユベントス・チームがその選手とともにわが国でも広く知られ、人気を博してきたことが示されている(甲第25号証~甲第40号証)。

また、この雑誌では、サッカー試合の報道ばかりでなく、ユベントス・チームのユニフォーム等がサッカーファンのためのいわゆるファングッズとして、わが国でも販売され、愛好されてきたことが示されている(甲第28号証、甲第34号証、甲第36号証、甲第38号証、甲第39号証)。

さらに、ユベントス・チームの人気選手を起用したスポーツウエアについての広告も掲載されている(甲第34号証、甲第36号証)。

(3) 「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは、1996年(平成8年)12月26日に東京・国立競技場で関催された第17回トヨタ・カップで2度目の優勝を飾ったことが報道され(甲第41号証~甲第48号証)、現在でもわが国で高い人気を博していることが示されている。

3.下記Ⅱ1に対する弁駁

(1) 「Juventus」の著名性について

甲第15号証~甲第40号証によれば、少なくとも本件商標の前記出願当時、「Juventus」又はその日本語表記である「ユベントス」がわが国でも著名であったことは明らかである。

とりわけ、「Juventus」チームが優勝した昭和60年12月の第6回トヨタ・カップには、6万2千人の観衆が詰めかけ、その模様は全国紙、テレビ放送等によって全国的に報道された(甲第15号証~甲第19号証)。

このように外国の商標を安易に借用してしまうという被請求人の態度自体も問題であるが、この昭和57年当時において、「Juventus」は、伝統あるプロサッカーチームとして、イタリア本国のみならず世界的にも知れ渡っていたものである。このことは例えば甲第3号証~甲第5号証の文献の記載からも明らかである。被請求人は、これらを含む甲第3号証~甲第9号証の文献の発行が比較的新しい旨述べているが、請求人がこれらの証拠で示しているのは、1897年の創立以来今日まで続く「Juventus」チームの著名な来歴である。

そして、イタリア本国において、プロサッカーと言えば、わが国のプロ野球や国技である相撲等とも比べられる大衆的スポーツである。つまり、被請求人が本件商標を採択したとする昭和57年当時では、「Juventus」がイタリア本国をはじめとして世界的に著名であったことは動かし難い事実なのである。そして、度々イタリアに旅行した被請求人代表者が「Juventus」の言葉に特別の関心を抱いたとするなら、それがイタリアの著名なプロサッカーチームの名称であることを知らなかったと考える方がむしろ不自然である。

(3) 請求人と被請求人の係争関係について

<1> 被請求人は、本件商標について、イタリアの「Juventus」チームから商品化の許諾を得ている伊藤忠に対して、本件商標の使用権を設定している旨述べている。

しかし、重要なのは被請求人が本件商標を出願し、登録するにあたって、「Juventus」チームから何らの承諾を得ていないことである。したがって、被請求人が伊藤忠に使用権を設定していることは本件商標の登録を何ら正当化するものではない。

そもそも、イタリアの「Juventus」チームは、本件商標の存在に拘わらず、自己の名称(著名な略称を含む。)を使用することができるのである(商標法第26条第1項)。伊藤忠等による「Juventus」の表示の使用も、それがイタリアの「Juventus」チームの商品化事業の一貫として、ユニフォーム等に「Juventus」チームのオフィシャルグッズであることを示すために使用されている限りは、前記の本人の名称使用の権原に基づくものであって、しかも、商標的な意味合いでの商品の出所(製造者、販売者等)を識別していないから、本件商標とは無関係である。

にもかかわらず、被請求人が使用権を設定して経済的な利得を得ているとすれば、伊藤忠等は、本件商標の不当な登録があるばかりに、無用な負担を強いられていることになる。被請求人の提出した契約書(乙第1号証)は、かかる本件商標の登録の不当性を示すものに過ぎない。

<2> 請求人は、イタリアの「Juventus」チームの名称使用との関係では、「Juventus」チームが公認したオフィシャル・グッズである「Juventus」のユニフォーム等のスポーツ関連商品の並行輸入業者である。すなわち、請求人は、イタリア国内で販売されたユベントス公認のオフィシャルグッズ(真正品)をイタリア国内で購入して、わが国に並行輸入しているものであって、このような並行輸入が正当であることは、あらためて言うまでもないところである。

しかるに、本件商標権は、請求人のこのような並行輸入行為を実質的に妨害する役割を果たすに至っているのである。つまり、本件商標はその登録と権利行使とにおいて、二重の不当性を帯びるに至っている。

(4) 本件商標と「Juventus」名称との同一性について

本件商標は、「Juventus」と同一構成文字に単にアンダーラインを付したに過ぎないから、商標法第4条第1項第8号の適用にあたっては、同一の商標というべきである。そして、このことは被請求人が他の類で出願した本件商標と同一の構成態様の商標が、商標法第4条第1項第8号の適用を受けて拒絶されていることからも明らかなところである(甲第11号証)。

Ⅱ.答弁の趣旨

1.被請求人は、本件請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、次の趣旨の答弁をすると共に証拠方法として乙第1号証~乙第15号証を提出している。

(1) 本件商標の選択の経緯について

<1> 被請求人は、衣料の製造卸販売を業とする会社であり、主として「婦人服」及びその関連商品を取り扱っており、業務との関係で被請求人代表者は度々イタリアに旅行をしている。

1982年(昭和57年)にイタリアに旅行をしたとき、「Juventus」という名前のブティックを知り個人的に買物をしたことをきっかけとしてそのブティックの雰囲気と商品が気に入りイタリアへ行く度に買物をした、また、被請求人の代表者は、「Juventus」が「青春」を意味するものと、当時、聞き知っていたこともブティック「Juventus」に惹かれた理由でもあった。

そこで、日本でも「Juventus」の商標で商品を製造販売したいと考え昭和58年1月12日にまず旧第17類と旧第21類に商標登録出願をしたのである。本件商標のロゴは、イタリアのブティックのロゴと同じではなく、その店の雰囲気をイメージしてデザインしたものである。

また、被請求人の代表者は、商標登録出願後の1984年(昭和59年)に東京に本件商標と同一のロゴを用いた「Juventus」の名称のブティックを開いたが1990年(平成2年)(その後の答弁書において平成3年8月に訂正)にその店を閉じた。

なお、イタリアのブティックも現在はなくなっている。

<2> 本件商標を選択した当時、わが国でイタリアのサッカーチームの名前などほとんど知られておらず、本件商標の選択はサッカーチームの名称とは全く関係ないものである。

(2) 訴訟に至った経緯について

<1> 本件商標は、甲第2号証の本件商標の登録原簿から明らかなように、伊藤忠ファッションシステム株式会社(以下、単に「伊藤忠」という。)と専用使用権の設定契約をし、それに基づき平成7年6月12日に専用使用権の設定登録をした。

このような契約に至ったのは伊藤忠がイタリアのプロサッカー38チームが加盟するサッカー連盟(Italian Football League)からの許諾により、連盟のロゴマーク及び加盟チームのエンブレム等を使用した製品の日本における商品化を推進するに当り、日本における商標の調査をしたところ、「JUVENTUS」については、被請求人が本件商標を始め5件の商標権を所有していることが判明したからである。

そこで、伊藤忠は、例令、使用するのがイタリアのサッカーチームの名称であっても、一般の消費者を対象とした商品に「JUVENTUS」の文字を使用して販売することになるので、被請求人に無断で使用することはわが国の商標上適法とはいえないとの結論に達して、被請求人へ使用許諾を申し入れたのである。

それまで、被請求人は、婦人服及び婦人用のハンドバッグなどについて継続して商標を使用してきており、主たる業務である婦人服関係については従前通り、今後も使用していくので商標登録第1795328号(旧第17類)については通常使用権を許諾し本件商標及び他の商標権すなわち登録第1777332号(旧第21類)、登録第2601213号(旧第24類)及び登録第2642697号(旧第23類)については専用使用権を設定したのである。

<2> その後、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレムの日本における商品化については、チームとの直接契約になり、伊藤忠は、繊維製品以外の商品についてはライセンスを有しているが繊維製品については直接「JUVENTUS」の商品化のライセンスを受けていないので繊維製品については、ライセンスを有している会社と契約し、かつ、日本での使用については、そのライセンスを受けている会社に対し、被請求人との契約により、通常使用権及び専用使用権に基づいてサブライセンスを与えている。

このように、イタリアのプロサッカーチームからチームのロゴマーク及びエンブレムを各種商品について使用する商品化契約を正式に交わしている伊藤忠を始めとする会社は、日本の商標法上の問題を十分検討し被請求人の商標権を尊重し、わが国の取引の秩序を維持し無用な紛争を未然に防ぐための最善の処置として被請求人と使用許諾及び使用権設定の措置をとったのである。

<3> しかるに、請求人は、イタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」から、日本における商品化については、合意なり契約は全くなく、イタリアで販売されている商品を単にわが国に輸入して販売しているのである。

そのため、わが国の商品化についての正当権利者との間における取引の秩序が乱される結果となり、かつ、被請求人は、商標権者としての責任から請求人に警告を発し、使用許諾についての交渉のテーブルに一度はついたがまとまらず、訴訟に至った次第である。

それ故、請求人が輪入販売する商品には、イタリアのサッカーチームの名称であっても、各種商品をわが国で販売するための商標として「JUVENTUS」が使用されている以上、被請求人及び専用使用権者の権利を侵害することになるので、被請求人は正当な権利行使をしたのであるが、請求人は訴訟への対抗手段として本件請求をしているのである。

(3) 上記Ⅰ1(3)について

<1> 請求人が提出する甲第3号証~甲第9号証の証拠をみても、本件商標と同一の構成からなる商標は全く見いだせない本件商標は、被請求人が独自にデザインしたデザイン文字からなるのに対して、上記甲各号証に表示されている「JUVENTUS」の文字は殆どブロック体から構成されているものである。

<2> 請求人が提出する甲第3号証~甲第9号証の発行年月日をみると、甲第5号証が平成5年、それ以外は平成6年から平成7年にかけてのもので、本件商標の出願日以降の比較的新しいものばかりである。

わが国では、平成5年5月から日本プロサッカーリーグが開催されたことにより、サッカーが非常に盛んになったが、それはわが国でのプロサッカーリーグであるJリーグの開催をきっかけにしたものであるのでここわずか3年余りのことである。

それに伴い、サッカーの歴史が長いイタリアやブラジルなどのチームや選手がわが国でも知られるようになったのである。

<3> 名称等の略称が著名であるか否かの判断に際しては、当該名称が広く知られていることの程度はもとより、判断の対象となる商品との関係も総合的に勘案されるべきである。

しかるに、プロサッカチームがサッカーの興行を業として行うことは当然であるとし本件商標の指定商品との関連で、当該各称の略称がいつ、如何なる方法でどの程度用いられてその結果どのように著名になったか等の具体的な使用の事実あるいは取引の実情を明らかにする主張立証は一切見られないものである。

(4) 上記Ⅰ1(4)について

<1> 請求人は本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する理由として、プロサッカーはそれ自体が営業行為として行われていること、従って、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品がプロサッカーチームである「JUVENTUS」と営業上の密接な関係にある者の提供する商品であるかの如く誤認され、その出所の混同を生じるおそれは十分にあるといわねばならないと述べるのみで、それ以上の具体的な立証は何もない。

<2> 本件商標は、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」(以下、単に「JUVENTUS」と称する。)の名称とは全く関係ない。

しかしながら、サッカーチーム「JUVENTUS」はわが国における商品化を認めており、伊藤忠は「JUVENTUS」と正式にライセンス契約をして「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレム等を使用した各種商品を輪入販売しあるいはわが国で製造販売して商品化を推進している。

被請求人は、伊藤忠と使用許諾契約を締結して、無断使用者との間における混同を防止しているのであり、それにも拘らず、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するというためにはどのような場面で出所の混同が生ずるのかなど取引の実情を具体的に主張立証すべきである。

(5) 上記Ⅰ1(5)について

<1> 本件商標は、被請求人が独自にデザインして、昭和58年から婦人服、婦人用ハンドバッグなどに使用してきた商標であり、イタリアのサッカーチームの名称とは全く無関係であった平成6年になり、被請求人はイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレム等を使用して各種商品を日本において輪入販売若しくは製造販売する商品化についてサッカーチーム「JUVENTUS」と正式ライセンス契約をしている伊藤忠に使用権を設定若しくは許諾したのであり、伊藤忠は更にわが国の製造若しくは販売者に対してサブライセンスを与え商品化を推進しているのでイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」は、チームのロゴマークやエンブレム等を使用した各種商品の日本での商品化を正式に承諾しているのである。

<2> サッカーチーム「JUVENTUS」の文字及びエンブレム等を使用した商品の日本における商品化については、伊藤忠を始めとする会社が正式にチームとライセンス契約をし、そのうえでわが国において商標上の問題が生じないように、類似の登録商標を所有している被請求人と使用契約をして商取引の秩序を維特しているのである。

<3> イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」と伊藤忠との間に交わされた「文房具」の製造販売に関する契約書には

『日本ではナショナル商事株式会社が、旧第25類(文房具及び紙類)において「JUVENTUS」の登録商標を所有していることを確認し「JUVENTUS」の使用に支障が生じないようにライセンシー(伊藤忠)はナショナル商事株式会社と登録商標の使用について契約する。』

趣旨の1項が入っており(乙第1号証)、サッカーチーム「JUVENTUS」は被請求人の登録商標には異議なく、これを尊重しているのである。

<4> 請求人は「シャガール」の氏名に相当する「MARC CHAGALL」の商標と「リリーホワイツ」の店名表示「Lillywhites」の商標についての審決例を引用しているが、本件商標とは事例を異にするので考慮に価しないものである。

更に、請求人は、被請求人の出願が拒絶された例も引用しているが今後の商品化の関係で意見書を提出することなく見送ったものであり、これをもって、本件商標に対する請求人の主張と同等に論じることはできない。

<5> 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて考慮されるべきは商標は商品の自他商品識別標識として使用するものであるところから、指定商品との関係も考慮して総合的に判断されるべきであるということである。

本件商標は、伊藤忠に対して通常使用権を許諾し、かつ再許諾する権利を認めているが、伊藤忠及びそのサブライセンシーの取扱に係る商品はイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」が正式に使用を容認しているところから、サッカーチームの信用を損なうことには決してならないのである。

<6> 以上のような事情により、本件商標の登録時点で例令イタリアのプロサッカーチームの略称である「JUVENTUS」がわが国でも知られているものであっても、本件商標の商標登録はサッカーチーム「JUVENTUS」とは全く無関係なものとして認められるべきであり、本件商標を指定商品に使用しても社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するようなことは決してない。

2.上記Ⅰ2及び3に対する答弁

(1) 「真正商品の並行輪入」がどのようなものであるか昭和45年2月のパーカー事件判決以後今日では広く知られるようになり、大蔵省関税局の新通達では、商標権を侵害しない真正商品の並行輸入の範囲として以下の条件があげられている。

<1> 当該標章を付して拡布した者とわが国の商標権者が同一人であること又は同一人と同視されるような特殊な関係があること。

<2> 商品が同一であること。

<3> 当該商品に付された商標が同一の出所を表示し商品の品質も同一の品質を表示して品質保証機能も害されていないこと。

しかるに被請求人はサッカーチーム「JUVENTUS」とは全く無縁の存在であり、反対にサッカーチーム「JUVENTUS」はわが国の商標権者でもない。

従って、請求人が扱う商品がサッカーチーム「JUVENTUS」から承諾を得たものであっても、上記<1>の条件は具備していない。

しかしながら、請求人は、サッカーチーム「JUVENTUS」から、わが国における商品の販売について、正式に承諾も得ていないし、契約もしていない。このことは、現在、東京地方裁判所で係争中の裁判の中で、請求人が明言している。

(2) 被請求人の登録商標の使用について

被請求人は、旧第17類に属する婦人服等の商品については昭和58年1月の商標登録出願後から継続して使用しており、東京に「Juventus」のブティックを有していたことを主張した。

それは、銀座2丁目7番18号所在の「東京メルサ」内の店舗に出店したものであり、店名は「Juventus Boutique」で営業品目は、「Juventusブランドを中心とした衣料」の販売であり、昭和59年7月9日に店舗の賃貸借契約を締結して以後営業を継続し平成3年8月に閉店した(乙第4号証~乙第5号証)。

このように、被請求人は、かつて約7年間もファッションの中心地の銀座しかも「東京メルサ」内において「Juventus」のブティックを開いていたが、その間はもちろん、その後もサッカーチーム「JUVENTUS」との関係で問題が生じたことは一度もない。

現在、被請求人は婦人用トレーナ、ブラウス、セータ、カーディガンなどを主として製造販売しており(乙第7号証~乙第11号証)、それらの商品は、大阪の「泉北高島屋」、広島の「広島そごう」、東京の「日本橋高島屋」などでも販売している(乙第12号証~乙第14号証)。

また、被請求人は、現在でも「東京メルサ」内に「NEVADA」という名称のブティックを有しており、そこでも「Juventus」の商品を販売している(乙第15号証)。

このように、本件商標は、長年、婦人服に使用してきた「Juventus」商標の商品展開の一環として旧第25類に出願して登録されたものであるが被請求人自身の商品化の前に伊藤忠から使用許諾の申し入れがあったので使用権を設定したものである。

上記の事実により、本件商標は、被請求人自身長年婦人服などに使用している「Juventus」の商標に基づくものであり、本件商標の登録には何ら瑕疵はないものである。

(3) イタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」について

請求人が提出する証拠方法は、イタリアのプロサッカーチームである「JUVENTUS」に関する著名性を立証するための資料であるとしているが、請求人が提出する雑誌・新聞などに記事が掲載されていたことを争うものではない。

しかしながら、昭和50年代後半から昭和60年代におけるわが国のサッカー・ファンすなわちサッカー人口がどれ程のものであったか疑問である。

わが国でサッカーが広く知られるようになったのはいわゆるわが国のJリーグが開催されたことによる、という事実は広く報道されていることである。その後のサッカーブームの中でサッカーの歴史が長いブラジルやイタリアなどのプロ・チームが紹介され知られるようになったがイタリアなどはプロサッカーチームがわが国には比べようもない程数多くあり、「JUVENTUS」だけが突出している訳ではないはずである。

しかし、その後、例令、わが国においてイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」が知られるようになったとしても、本件商標はイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」の名称とは全く関係ない。

第一に、ロゴマークが同一ではない。

第二に、被請求人は、スポーツシャツ、ユニフオームなどのスポーツ関連の商品は一切扱っておらず、昭和58年1月の旧第17類への出願当初から、婦人用の衣類及びハンドバックなどを取り扱ってきたので、商品の出所を全く異にしている。

被請求人は、このように「Juventus」の商標を14年以上にも亙り、適法に、かつ、誠実に使用しているのであり、イタリアのプロサッカーチームの略称との関連性は全く見い出せないこと明らかである。

なお、甲第41号証以下の証拠方法は、平成8年の掲載記事であり、本願商標の出願日(平成3年7月2日)より5年後のものばかりであり、証拠能力がないこと明らかである。

(4) 請求人と被請求人との係争関係について

被請求人は、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」とは法律的、経済的に全く別個の存在であり、本件商標もユベントス・チームとは全く関係なく採択されたものである。

それ故、適法かつ正当な商標権者として、商標法上の権利行使をすることができる地位にある。

(5) 以上の通り、イタリアのプロサッカーチームの略称である「JUVENTUS」が、例令、ある程度わが国において知られていたとしても、本件商標はイタリアのサッカーチームの名称とは無関係に採択され長年使用されている商標に基づくものであり、商標法第4条第1項第8号、同法第4条第1項第15号若しくは同法第4条第1項第7号に違背して登録されたものでは決してない。

Ⅲ.判断

わが国におけるサッカーの歩みを振り返るに明治6年に英国人「ダグラス少佐」が兵学寮の生徒に教えたのを嚆矢とし、大正10年に大日本蹴球協会(昭和49年に現在の日本サッカー協会となる)が創設され、昭和39年オリンピック東京大会において南米随一と言われたアルゼンチンに勝利、昭和40年から春と秋に日本サッカーリーグを開始、昭和41年においての当該協会への競技者としての登録人数は26,832人(大学生4,749人、一般22,083人)に達し昭和43年オリンピック・メキシコ大会において三位に入賞、昭和54年には当該協会への競技者としての登録人数は273,887人(一般・大学生74,668人、高校生83,741人、中学生45,609人、小学生68,950人、女性919人)に達し、この年に女子サッカー連盟が創設され、昭和55年より欧州と南米のチャンピオンが世界一をかけるトヨタ・カップ(正式にはヨーロッパ・サウスアメリカ・カップ)が東京において開催されることになり、平成1年には当該協会への競技者としての登録人数は661,509人(一般・大学生106,569人、高校生141,335人、中学生155,029人、小学生248,167人、女性10,409人)に達し、この年に日本女子サッカーリーグが開始され、平成3年には当該協会への競技者としての登録人数は628,663人(一般・大学生121,055人、高校生142,303人、中学生127,846人、小学生222,396人、女性15,063人)に達し、この年にJリーグが創設され、平成8年には当該協会への競技者としての登録人数は902,649人(一般・大学生192,988人、高校生170,421人中学生221,424人、小学生294,020人、女性23,796人)に達し、現在では、毎日、サッカーに関する何らかの記事が新聞および雑誌に掲載され、或いはテレビで報じられるに至っている。

次に、「JUVENTUS」の文字についてみるに、昭和46年発行の新伊和辞典第5版(昭和46年1月5日(株)白水社発行)以後の同辞典には「ユヴェントゥス(トリーノ市を代表するフットボール・チームの名前)、そのチームの選手を「JUVENTINO」と言う」との記載はあるが、その他の語意の記載はない。なお、スペイン語辞典等には「青春、青年時代、青春期、若さ、新鮮さ、活力」等の語意を有するラテン語「JUVENTUS」及びスペイン語「JUVENTUD」がある。また、請求人の提出に係る甲第各号証によれば、いわゆる「JUVENTUS」或いは「ユベントス」なる名称は、明治30年にイタリア国トリノ市に創設され、欧州三大カップ(欧州チャンピオンズ・カップ、欧州ウィナーズ・カップ、欧州スーパー・カップ)の全タイトルを最初に制したイタリアリーグー部チームの中で二番目に古い創立のサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB S.P.A.」名を指称するものとしてサッカーに関心のある人々を始めとするスポーツ愛好者の間において使用され、認識されている世界的に著名な当該チーム名の著名な略称を想起させるものであることが認められる。

そして、わが国においてもサッカー専門誌「サッカーダイジェスト」の昭和58年4月号(甲第23号証)には『「青春チーム」ユベントス世界一の単独クラブ・チーム、それが「青春」という意味のユベントスだ。』と掲載されており、同誌の昭和59年9月号(甲第28号証)、昭和62年6月号(甲第38号証)、同年7月号(甲第39号証)にはサッカー少年用ウェアー及びストッキングの宣伝広告中に「ユベントス型」及び「ユベントスモデル」なるウェアー、パンツ及びストッキングが掲載されており、同誌の昭和60年12月号(甲第32号証)には『「青春」という言葉をチーム名とするイタリアの強豪、ユベントスが12月のトヨタカップで来日の予定だ。』と掲載されていると共に同月9日の朝日新聞(甲第15号証)には「国立競技場に6万2千の観衆。ユベントスが南米の6連覇を阻んで優勝」した旨の記事が掲載されていること等とわが国のサッカーの歩みとを総合勘案するに、本件商標の商標登録出願時(平成3年)において「Juventus」及び「ユベントス」は、サッカーファンを始めとするスポーツ愛好者の間において周知・著名であったことが窺える。

被請求人は、本件商標を「婦人用ハンドバッグ」に使用してきたとして乙第6号証を提出しているが、乙第6号証の写真に示されている本件商標の表示はファッションを旨とする「婦人用ハンドバッグ」への商標の表示方法としてはあまりにも粗雑すぎるものであり、かつ、その数量、価格、販売先等を示す取引書類等の提示がないので、本件商標を「婦人用ハンドバッグ」に使用してきたとは認めがたい。

また、被請求人は、本件商標を「婦人用のトレーナー、ブラウス、セーター及びカーディガン」に使用してきたとして乙第7号証~乙第11号証を提出しているが、その販売数量等を示す乙第12号証~乙第14号証(枝番を含む)の売上伝票の写しの提示があるとしても、そこに表示されている商品コード及び品名と乙第7号証~乙第11号証および乙第15号証とがどのように関連するのか定かでなく、また、この程度の販売数量をもって、本件商標を「婦人用のトレーナー、ブラウス、セーター及びカーディガン」に使用してきたと認めることはできない。

してみれば、本件商標が「婦人用ハンドバッグ、婦人服、婦人用衣料」の取引者および需要者の間において被請求人の業務に係る商品を表すものとして知られていたとも認められない。

そうとすれば、「JUVENTUS」或いは「ユベントス」なる文字を本件商標に係る指定商品に使用するときは、これに接する取引者および需要者をして、その商品が恰も上記イタリア国の著名なサッカーチーム或いはそのチームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生ずる虞があるといわざるを得ない。

然るに、本件商標は、別紙のとおりの構成よりなり、「ユベントス」と称呼するものであることは、当事者間に争いのないところであって、上記イタリア国のサッカーチームの略称な著名「JUVENTUS」と類似するものであり、かつ、被請求人は上記イタリア国の著名なサッカーチームの承諾を得ている等、そのチームとは何ら関像のない者であるので、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者および需要者をして、その商品が恰も上記イタリア国の著名なサッカーチーム或いはそのチームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認めざるを得ない。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号および同第15号に該当し、その登録は同法第46条の規定により無効とされるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年11月14日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙

本件商標

<省略>

平成8年審判第11565号

審決

東京都渋谷区渋谷1丁目13番5号

請求人 株式会社 日本スポーツビジョン

東京都中央区京橋2丁目7番19号 守随ビル

代理人弁理士 松田三夫

東京都中央区京橋2丁目13番10号 京橋ナショナルビル6階 創英国際特許事務所

代理人弁理士 佐藤英二

大阪府大阪市中央区東心斎橋1丁目7番30号

被請求人 ナショナル商事 株式会社

東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 虎ノ門産業ビル6階 佐々木内外国特許商標事務所

代理人弁理士 佐々木功

東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 虎ノ門産業ビル6階 佐々木内外国特許商標事務所

代理人弁理士 川村恭子

上記当事者間の登録第2601213号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第2601213号商標の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

本件は、別紙に示すとおりの構成よりなり、第24類「おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品および附属品」を指定商品とし、平成3年7月2日に登録出願され、平成5年11月30日に設定登録された登録第2601213号商標(以下「本件商標」という)に関する商標法第46条の規定に基づく商標登録の無効審判請求(以下「本件請求」という)である。

Ⅰ.請求の趣旨等

本件請求の請求人(以下「請求人」という)は、結論同旨の審決を求め、次の趣旨の理由および弁駁を述べると共に、証拠方法として甲第1号証~甲第50号証を提出している。

1.本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第15号に該当し、その商標登録は無効とされるべきである。

(1) 審判請求の利益について

請求人は、イタリア国のプロサッカーチームである「JUVENTUS」(ユベントス)のオフィシャルグッズであるユニフォーム等の商品をイタリアから輸入し、販売している者である。

しかるところ、本件請求の被請求人(以下「被請求人」という。)は、請求人の前記販売行為を本件商標を含む商標権の侵害として東京地方裁判所に提訴(平成8年(ワ)第5748号)し、現在審理中である。

したがって、請求人は本件請求につき法律上の利害関係を有する者である。

(2) 「JUVENTUS」(ユベントス)の標章の著名性について

本件商標の構成文字「Juventus」は、イタリア国のプロサッカーリーグであるセリAに属する「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の著名な略称である「JUVENTUS」と同一の構成文字よりなるものである。

前記「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」は、1897年に創立されたイタリア国有数のプロサッカーチームであり、「欧州チャンピオンズリーグ」、「欧州カップ・ウイナーズカップ」及び「UEFAカップ」の欧州三大カップの全タイトルを最初に制し、イタリアのプロサッカーリーグであるセリエAにおいて過去22回の最多優勝(1995年時点)を成し遂げたチームとして、「JUVENTUS」

(日本語の表記は「ユベントス」)の名の下に世界のサッカーファンに著名なプロサッカーチームである(甲第3号証及び甲第4号証)。

そして、近年わが国においても、プロサッカーリーグであるJリーグの開催によって、プロサッカー熱が非常な盛り上がりを見せているが、「JUVENTUS」(ユベントス)の名は、わが国で1リーグが開催される以前より、ワールドカップ等の国際試合を通じて、わが国のサッカーファンの間でも広く知られていたものである。

現在においては、「JUVENTUS」(ユベントス)の名は前記セリエAの名門チームの略称としてわが国においても著名となっているものである(甲第3号証~甲第9号証)。

(3) 本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当することについて

本件商標は、「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の著名な略称である「JUVENTUS」と同一の構成文字よりなるものである。そして、この略称「JUVENTUS」(ユベントス)は、少なくとも本件商標の出願日である平成3年7月2日時点では、世界的に有名なプロサッカーチームの略称として、わが国においても著名であったことは、甲第3号証~甲第9号証の証拠に照らしても明らかなところである。

しかるに、本件商標は、「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の承諾なく出願されたものである。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものである。

ちなみに、被請求人は、商品区分の第12類と第30類及び第9類においても、本件商標と同一の構成態様の商標を出願したものであるが、いずれの出願も審査において、著名な略称「JUVENTUS」を含むので、商標法第4条第1項第8号に該当する旨の拒絶理由により拒絶されている(甲第10号証、同第11号証および同第12号証)。

(4) 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて

本件商標は、世界的に有名なプロサッカーチーム名(略称)「JUVENTUS」と同一の綴り字よりなるものである。そして、プロサッカーはそれ自体が、営業行為として行われているものである。

したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品があたかもプロサッカーチームである「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」と営業上の密接な関係にある者の提供する商品であるかの如く誤認され、その出所の混同を生じるおそれは十分にあるといわねばならない。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定にも該当するものである。

(5) 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて

本件商標は、少なくとも本件商標の登録時点である平成6年3月31日時点では、「JUVENTUS」(ユベントス)の名称は、イタリア本国はいうまでもなく、わが国を含む世界中で広く知られるに至っていたものである。

しかるに、このような世界的にも著名な外国の団体の著名な略称を、当該団体以外の者がわが国で商標登録することは、わが国の国際信用を著しく害することになるものである。また、プロサッカーはそれ自体が営業活動として行われているから、公正であるべき商取引の秩序に反することになる。

すなわち、本件商標は明らかに世界的に著名な団体の名声を潜用せんとする不正な意図のもとで商標登録を受けたものである。

このような世界的に著名な名称を冒認した出願については、御庁の審決においても、世界的に著名な画家である「シャガール」の氏名に相当する「MARC CHAGALL」の文字よりなる商標の旧第17類での出願について、「シャガールの名声を冒認しようとするものであるから、かかる行為は、国際信義に反するものといわざるを得ず、公の秩序を害するおそれがあるとみるのを相当とする。」として、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されている(甲第13号証)。

また、世界的に有名なスポーツ用品専門店であるロンドン所在の「リリーホワイツの店名表示「Lillywhites」を本人以外の者がわが国で商標登録するのは、「公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであり、商標制度の趣旨に即しない」として、前記事件と同様に商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されている(甲第14号証)。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号の規定にも該当する。

2.請求の理由(補充)

(1) 1985年(昭和60年)12月8日に、東京・国立競技場で開催された第6回トヨタ・カップの決勝戦で「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは優勝を飾り、この事実は、同年12月9日の朝日新聞、読売新聞、毎日新聞及び日本経済新聞において全国的に報道された(甲第15号証~甲第18号証)。

なお、このトヨタ・カップは、欧州と南米のそれぞれのチャンピオン同士が争う事実上のプロサッカー世界一決定戦であり、わが国のサッカーファンのみならず全世界のサッカーファンが注目しているものである(甲第16号証)。そして、1985年(昭和60年)12月8日のユベントスが優勝した第6回トヨタ・カップには、6万2千人の観衆が入場し、声援を送ったことが報道されている(甲第15号証)。

そして、この第6回トヨタ・カップの模様は、テレビ放送によってもわが国で全国的に放映されたものである(甲第19号証)。

(2) 「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは、イタリア有数のプロサッカーチームとして、上記第6回トヨタ・カップ以前より、わが国のサッカーファンに人気を博してきたものである。その事実を示すものとして、わが国のサッカーファンに愛読されている雑誌「サッカー・ダイジェスト」の1981年(昭和56年)以降の発行分から代表的なものを甲第20号証~甲第40号証として提出する。

すなわち、「JUVENTUS」ユベントス・チームは、1981年~82年に開催されたヨーロッパ(欧州)チャンピオンズ・カップに出場したが、そのことはわが国でも報道された(甲第20号証~甲第24号証)。その他にも、地元のイタリア・リーグをはじめとして三大カップ等でのユベントスの活躍や、ユベントスの人気選手パオロ・ロッシやプラティニの記事が掲載されているように、ユベントス・チームがその選手とともにわが国でも広く知られ、人気を博してきたことが示されている(甲第25号証~甲第40号証)。

また、この雑誌では、サッカー試合の報道ばかりでなく、ユベントス・チームのユニフォーム等がサッカーファンのためのいわゆるファングッズとして、わが国でも販売され、愛好されてきたことが示されている(甲第28号証、甲第34号証、甲第36号証、甲第38号証、甲第39号証)。

さらに、ユベントス・チームの人気選手を起用したスポーツウエアについての広告も掲載されている(甲第34号証、甲第36号証)。

(3) 「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは、1996年(平成8年)12月26日に東京・国立競技場で関催された第17回トヨタ・カップで2度目の優勝を飾ったことが報道され(甲第41号証~甲第48号証)、現在でもわが国で高い人気を博していることが示されている。

3.下記Π1に対する弁駁

(1) 「JUVENTUS」の著名性について

甲第15号証~甲第40号証によれば、少なくとも本件商標の前記出願当時、「Juventus」又はその日本語表記である「ユベントス」がわが国でも著名であったことは明らかである。

とりわけ、「Juventus」チームが優勝した昭和60年12月の第6回トヨタ・カップには、6万2千人の観衆が詰めかけ、その模様は全国紙、テレビ放送等によって全国的に報道された(甲第15号証~甲第19号証)。

このように外国の商標を安易に借用してしまうという被請求人の態度自体も問題であるが、この昭和57年当時において、「Juventus」は、伝統あるプロサッカーチームとして、イタリア本国のみならず世界的にも知れ渡っていたものである。このことは例えば甲第3号証~甲第5号証の文献の記載からも明らかである。被請求人は、これらを含む甲第3号証~甲第9号証の文献の発行が比較的新しい旨述べているが、請求人がこれらの証拠で示しているのは、1897年の創立以来今日まで続く「Juventus」チームの著名な来歴である。

そして、イタリア本国において、プロサッカーと言えば、わが国のプロ野球や国技である相撲等とも比べられる大衆的スポーツである。つまり、被請求人が本件商標を採択したとする昭和57年当時では、「Juventus」がイタリア本国をはじめとして世界的に著名であったことは動かし難い事実なのである。そして、度々イタリアに旅行した被請求人代表者が「Juventus」の言葉に特別の関心を抱いたとするなら、それがイタリアの著名なプロサッカーチームの名称であることを知らなかったと考える方がむしろ不自然である。

(3) 請求人と被請求人の係争関係について

<1> 被請求人は、本件商標について、イタリアの「Juventus」チームから商品化の許諾を得ている伊藤忠に対して、本件商標の使用権を設定している旨述べている。

しかし、重要なのは被請求人が本件商標を出願し、登録するにあたって、「Juventus」チームから何らの承諾を得ていないことである。したがって、被請求人が伊藤忠に使用権を設定していることは本件商標の登録を何ら正当化するものではない。

そもそも、イタリアの「Juventus」チームは、本件商標の存在に拘わらず、自己の名称(著名な略称を含む。)を使用することができるのである(商標法第26条第1項)。伊藤忠等による「Juventus」の表示の使用も、それがイタリアの「Juventus」チームの商品化事業の一貫として、ユニフォーム等に「Juventus」チームのオフィシャルグッズであることを示すために使用されている限りは、前記の本人の名称使用の権原に基づくものであって、しかも、商標的な意味合いでの商品の出所(製造者、販売者等)を識別していないから、本件商標とは無関係である。

にもかかわらず、被請求人が使用権を設定して経済的な利得を得ているとすれば、伊藤忠等は、本件商標の不当な登録があるばかりに、無用な負担を強いられていることになる。被請求人の提出した契約書(乙第1号証)は、かかる本件商標の登録の不当性を示すものに過ぎない。

<2> 請求人は、イタリアの「Juventus」チームの名称使用との関係では、「Juventus」チームが公認したオフィシャル・グッズである「Juventus」のユニフォーム等のスポーツ関連商品の並行輸入業者である。すなわち、請求人は、イタリア国内で販売されたユベントス公認のオフィシャルグッズ(真正品)をイタリア国内で購入して、わが国に並行輸入しているものであって、このような並行輸入が正当であることは、あらためて言うまでもないところである。

しかるに、本件商標権は、請求人のこのような並行輸入行為を実質的に妨害する役割を果たすに至っているのである。つまり、本件商標はその登録と権利行使とにおいて、二重の不当性を帯びるに至っている。

(4) 本件商標と「Juventus」名称との同一性について

本件商標は、「Juventus」と同一構成文字に単にアンターラインを付したに過ぎないから、商標法第4条第1項第8号の適用にあたっては、同一の商標というべきである。そして、このことは被請求人が他の類で出願した本件商標と同一の構成態様の商標が、商標法第4条第1項第8号の適用を受けて拒絶されていることからも明ちかなところである(甲第11号証)。

Π.答弁の趣旨

1.被請求人は、本件請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、次の趣旨の答弁をすると共に証拠方法として乙第1号証~乙第15号証を提出している。

(1) 本件商標の選択の経緯について

<1> 被請求人は、衣料の製造卸販売を業とする会社であり、主として「婦人服」及びその関連商品を取り扱っており、業務との関係で被請求人代表者は度々イタリアに旅行をしている。

1982年(昭和57年)にイタリアに旅行をしたとき、「Juventus」という名前のブティックを知り、個人的に買物をしたことをきっかけとしてそのブティックの雰囲気と商品が気に入りイタリアへ行く度に買物をした、また、被請求人の代表者は、「Juventus」が「青春」を意味するものと、当時、聞き知っていたこともブティック「Juventus」に惹かれた理由でもあった。

そこで、日本でも「Juventus」の商標で商品を製造販売したいと考え昭和58年1月12日にまず旧第17類と旧第21類に商標登録出願をしたのである。本件商標のロゴは、イタリアのブティックのロゴと同じではなく、その店の雰囲気をイメージしてデザインしたものである。

また、被請求人の代表者は、商標登録出願後の1984年(昭和59年)に東京に本件商標と同一のロゴを用いた「Juventus」の名称のブティックを開いたが1990年(平成2年)(その後の答弁書において平成3年8月に訂正)にその店を閉じた。

なお、イタリアのブティックも現在はなくなっている。

<2> 本件商を選択した当時、わが国でイタリアのサッカーチームの名前などほとんど知られておらず、本件商標の選択はサッカーチームの名称とは全く関係ないものである。

(2) 訴訟に至った経緯について

<1> 本件商標は、甲第2号証の本件商標の登録原簿から明らかなように、伊藤忠ファッションシステム株式会社(以下、単に「伊藤忠」という。)と専用使用権の設定契約をし、それに基づき平成7年6月12日に専用使用権の設定登録をした。

このような契約に至ったのは伊藤忠がイタリアのプロサッカー38チームが加盟するサッカー連盟(Italian Football League)からの許諾により、連盟のロゴマーク及び加盟チームのエンブレム等を使用した製品の日本における商品化を推進するに当り、日本における商標の調査をしたところ、「JUVENTUS」については、被請求人が本件商標を始め5件の商標権を所有していることが判明したからである。

そこで、伊藤忠は、例令、使用するのがイタリアのサッカーチームの名称であっても、一般の消費者を対象とした商品に「JUVENTUS」の文字を使用して販売することになるので、被請求人に無断で使用することはわが国の商標上適法とはいえないとの結論に達して、被請求人へ使用許諾を申し入れたのである。

それまで、被請求人は、婦人服及び婦人用のハンドバッグなどについて継続して商標を使用してきており、主たる業務である婦人服関係については従前通り、今後も使用していくので商標登録第1795328号(旧第17類)については通常使用権を許諾し本件商標及び他の商標権すなわち登録第1777332号(旧第21類)、登録第2585508号(旧第25類)及び登録第2642697号(旧第23類)については専用使用権を設定したのである。

<2> その後、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレムの日本における商品化については、チームとの直接契約になり、伊藤忠は、繊維製品以外の商品についてはライセンスを有しているが繊維製品については直接「JUVENTUS」の商品化のライセンスを受けていないので繊維製品については、ライセンスを有している会社と契約し、かつ、日本での使用については、そのライセンスを受けている会社に対し、被請求人との契約により、通常使用権及び専用使用権に基づいてサブライセンスを与えている。

このように、イタリアのプロサッカーチームからチームのロゴマーク及びエンブレムを各種商品について使用する商品化契約を正式に交わしている伊藤忠を始めとする会社は、日本の商標法上の問題を十分検討し被請求人の商標権を尊重し、わが国の取引の秩序を維持し無用な紛争を未然に防ぐための最善の処置として被請求人と使用許諾及び使用権設定の措置をとったのである。

<3> しかるに、請求人は、イタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」から、日本における商品化については、合意なり契約は全くなく、イタリアで販売されている商品を単にわが国に輸入して販売しているのである。

そのため、わが国の商品化についての正当権利者との間における取引の秩序が乱される結果となり、かつ、被請求人は、商標権者としての責任から請求人に警告を発し、使用許諾についての交渉のテーブルに一度はついたがまとまらず、訴訟に至った次第である。

それ故、請求人が輪入販売する商品には、イタリアのサッカーチームの名称であっても、各種商品をわが国で販売するための商標として「JUVENTUS」が使用されている以上、被請求人及び専用使用権者の権利を侵害することになるので、被請求人は正当な権利行使をしたのであるが、請求人は訴訟への対抗手段として本件請求をしているのである。

(3) 上記Ι1(3)について

<1> 請求人が提出する甲第3号証~甲第9号証の証拠をみても、本件商標と同一の構成からなる商標は全く見いだせない本件商標は、被請求人が独自にデザインしたデザイン文字からなるのに対して、上記甲各号証に表示されている「JUVENTUS」の文字は殆どブロック体から構成されているものである。

<2> 請求人が提出する甲第3号証~甲第9号証の発行年月日をみると、甲第5号証が平成5年、それ以外は平成6年から平成7年にかけてのもので、本件商標の出願日以降の比較的新しいものばかりである。

わが国では、平成5年5月から日本プロサッカーリーグが開催されたことにより、サッカーが非常に盛んになったが、それはわが国でのプロサッカーリーグであるJリーグの開催をきっかけにしたものであるのでここわずか3年余りのことである。

それに伴い、サッカーの歴史が長いイタリアやブラジルなどのチームや選手がわが国でも知られるようになったのである。

<3> 名称等の略称が著名であるか否かの判断に際しては、当該名称が広く知られていることの程度はもとより、判断の対象となる商品との関係も総合的に勘案されるべきである。

しかるに、プロサッカチームがサッカーの興行を業として行うことは当然であるとし本件商標の指定商品との関連で、当該名称の略称がいつ、如何なる方法でどの程度用いられてその結果どのように著名になったか等の具体的な使用の事実あるいは取引の実情を明らかにする主張立証は一切見られないものである。

(4) 上記Ι1(4)について

<1> 請求人は本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する理由として、プロサッカーはそれ自体が営業行為として行われていること、従って、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品がプロサッカーチームである「JUVENTUS」と営業上の密接な関係にある者の提供する商品であるかの如く誤認され、その出所の混同を生じるおそれは十分にあるといわねばならないと述べるのみで、それ以上の具体的な立証は何もない。

<2> 本件商標は、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」(以下、単に「JUVENTUS」と称する。)の名称とは全く関係ない。

しかしながら、サッカーチーム「JUVENTUS」はわが国における商品化を認めており、伊藤忠は「JUVENTUS」と正式にライセンス契約をして「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレム等を使用した各種商品を輸入販売しあるいはわが国で製造販売して商品化を推進している。

被請求人は、伊藤忠と使用許諾契約を締結して、無断使用者との間における混同を防止しているのであり、それにも拘らず、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するというためにはどのような場面で出所の混同が生ずるのかなど取引の実情を具体的に主張立証すべきである。

(5) 上記Ι1(5)について

<1> 本件商標は、被請求人が独自にデザインして、昭和58年から婦人服、婦人用ハンドバッグなどに使用してきた商標であり、イタリアのサッカーチームの名称とは全く無関係であった平成6年になり、被請求人はイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレム等を使用して各種商品を日本において輪入販売若しくは製造販売する商品化についてサッカーチーム「JUVENTUS」と正式ライセンス契約をしている伊藤忠に使用権を設定若しくは許諾したのであり、伊藤忠は更にわが国の製造若しくは販売者に対してサブライセンスを与え商品化を推進しているのでイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」は、チームのロゴマークやエンブレム等を使用した各種商品の日本での商品化を正式に承諾しているのである。

<2> サッカーチーム「JUVENTUS」の文字及びエンブレム等を使用した商品の日本における商品化については、伊藤忠を始めとする会社が正式にチームとライセンス契約をし、そのうえでわが国において商標上の問題が生じないように、類似の登録商標を所有している被請求人と使用契約をして商取引の秩序を維特しているのである。

<3> イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」と伊藤忠との間に交わされた「文房具」の製造販売に関する契約書には

『日本ではナショナル商事株式会社が、旧第25類(文房具及び紙類)において「JUVENTUS」の登録商標を所有していることを確認し「JUVENTUS」の使用に支障が生じないようにライセンシー(伊藤忠)はナショナル商事株式会社と登録商標の使用について契約する。』

趣旨の1項が入っており(乙第1号証)、サッカーチーム「JUVENTUS」は被請求人の登録商標には異議なく、これを尊重しているのである。

<4> 請求人は「シャガール」の氏名に相当する「MARC CHAGALL」の商標と「リリーホワイツ」の店名表示「Lillywhites」の商標についての審決例を引用しているが、本件商標とは事例を異にするので考慮に価しないものである。

更に、請求人は、被請求人の出願が拒絶された例も引用しているが今後の商品化の関係で意見書を提出することなく見送ったものであり、これをもって、本件商標に対する請求人の主張と同等に論じることはできない。

<5> 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて考慮されるべきは商標は商品の自他商品識別標識として使用するものであるところから、指定商品との関係も考慮して総合的に判断されるべきであるということである。

本件商標は、伊藤忠に対して通常使用権を許諾し、かつ再許諾する権利を認めているが、伊藤忠及びそのサブライセンシーの取扱に係る商品はイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」が正式に使用を容認しているところから、サッカーチームの信用を損なうことには決してならないのである。

<6> 以上のような事情により、本件商標の登録時点で例令イタリアのプロサッカーチームの略称である「JUVENTUS」がわが国でも知られているものであっても、本件商標の商標登録はサッカーチーム「JUVENTUS」とは全く無関係なものとして認められるべきであり、本件商標を指定商品に使用しても社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するようなことは決してない。

2.上記Ι2及び3に対する答弁

(1) 「真正商品の並行輪入」がどのようなものであるか昭和45年2月のパーカー事件判決以後今日では広く知られるようになり、大蔵省関税局の新通達では、商標権を侵害しない真正商品の並行輸入の範囲として以下の条件があげられている。

<1> 当該標章を付して拡布した者とわが国の商標権者が同一人であること又は同一人と同視されるような特殊な関係があること。

<2> 商品が同一であること。

<3> 当該商品に付された商標が同一の出所を表示し商品の品質も同一の品質を表示して品質保証機能も害されていないこと。

しかるに被請求人はサッカーチーム「JUVENTUS」とは全く無縁の存在であり、反対にサッカーチーム「JUVENTUS」はわが国の商標権者でもない。

従って、請求人が扱う商品がサッカーチーム「JUVENTUS」から承諾を得たものであっても、上記<1>の条件は具備していない。

しかしながら、請求人は、サッカーチーム「JUVENTUS」から、わが国における商品の販売について、正式に承諾も得ていないし、契約もしていない。このことは、現在、東京地方裁判所で係争中の裁判の中で、請求人が明言している。

(2) 被請求人の登録商標の使用について

被請求人は、旧第17類に属する婦人服等の商品については昭和58年1月の商標登録出願後から継続して使用しており、東京に「Juventus」のブティックを有していたことを主張した。

それは、銀座2丁目7番18号所在の「東京メルサ」内の店舗に出店したものであり、店名は「Juventus Boutique」で営業品目は、「Juventusブランドを中心とした衣料」の販売であり、昭和59年7月9日に店舗の賃貸借契約を締結して以後営業を継続し平成3年8月に閉店した(乙第4号証~乙第5号証)。

このように、被請求人は、かつて約7年間もファッションの中心地の銀座しかも「東京メルサ」内において「Juventus」のブティックを開いていたが、その間はもちろん、その後もサッカーチーム「JUVENTUS」との関係で問題が生じたことは一度もない。

現在、被請求人は婦人用トレーナ、ブラウス、セータ、カーディガンなどを主として製造販売しており(乙第7号証~乙第11号証)、それらの商品は、大阪の「泉北高島屋」、広島の「広島そごう」、東京の「日本橋高島屋」などでも販売している(乙第12号証~乙第14号証)。

また、被請求人は、現在でも「東京メルサ」内に「NEVADA」という名称のブティックを有しており、そこでも「Juventus」の商品を販売している(乙第15号証)。

このように、本件商標は、長年、婦人服に使用してきた「Juventus」商標の商品展開の一環として旧第24類に出願して登録されたものであるが被請求人自身の商品化の前に伊藤忠から使用許諾の申し入れがあったので使用権を設定したものである。

上記の事実により、本件商標は、被請求人自身長年婦人服などに使用している「Juventus」の商標に基づくものであり、本件商標の登録には何ら瑕疵はないものである。

(3) イタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」について

請求人が提出する証拠方法は、イタリアのプロサッカーチームである「JUVENTUS」に関する著名性を立証するための資料であるとしているが、請求人が提出する雑誌・新聞などに記事が掲載されていたことを争うものではない。

しかしながら、昭和50年代後半から昭和60年代におけるわが国のサッカー・ファンすなわちサッカー人口がどれ程のものであったか疑問である。

わが国でサッカーが広く知られるようになったのはいわゆるわが国のJリーグが開催されたことによる、という事実は広く報道されていることである。その後のサッカーブームの中でサッカーの歴史が長いブラジルやイタリアなどのプロ・チームが紹介され知られるようになったがイタリアなどはプロサッカーチームがわが国には比べようもない程数多くあり、「JUVENTUS」だけが突出している訳ではないはずである。

しかし、その後、例令、わが国においてイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」が知られるようになったとしても、本件商標はイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」の名称とは全く関係ない。

第一に、ロゴマークが同一ではない。

第二に、被請求人は、スポーツシャツ、ユニフオームなどのスポーツ関連の商品は一切扱っておらず、昭和58年1月の旧第17類への出願当初から、婦人用の衣類及びハンドバックなどを取り扱ってきたので、商品の出所を全く異にしている。

被請求人は、このように「Juventus」の商標を14年以上にも亙り、適法に、かつ、誠実に使用しているのであり、イタリアのプロサッカーチームの略称との関連性は全く見い出せないこと明らかである。

なお、甲第41号証以下の証拠方法は、平成8年の掲載記事であり、本願商標の出願日(平成3年7月2日)より5年後のものばかりであり、証拠能力がないこと明らかである。

(4) 請求人と被請求人との係争関係について

被請求人は、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」とは法律的、経済的に全く別個の存在であり、本件商標もユベントス・チームとは全く関係なく採択されたものである。

それ故、適法かつ正当な商標権者として、商標法上の権利行使をすることができる地位にある。

(5) 以上の通り、イタリアのプロサッカーチームの略称である「JUVENTUS」が、例令、ある程度わが国において知られていたとしても、本件商標はイタリアのサッカーチームの名称とは無関係に採択され長年使用されている商標に基づくものであり、商標法第4条第1項第8号、同法第4条第1項第15号若しくは同法第4条第1項第7号に違背して登録されたものでは決してない。

Ⅲ.判断

わが国におけるサッカーの歩みを振り返るに明治6年に英国人「ダグラス少佐」が兵学寮の生徒に教えたのを嚆矢とし、大正10年に大日本蹴球協会(昭和49年に現在の日本サッカー協会となる)が創設され、昭和39年オリンピック東京大会において南米随一と言われたアルゼンチンに勝利、昭和40年から春と秋に日本サッカーリーグを開始、昭和41年においての当該協会への競技者としての登録人数は26,832人(大学生4,749人、一般22,083人)に達し、昭和43年オリンピック・メキシコ大会において三位に入賞、昭和54年には当該協会への競技者としての登録人数は273,887人(一般・大学生74,668人、高校生83,741人、中学生45,609人、小学生68,950人、女性919人)に達し、この年に女子サッカー連盟が創設され、昭和55年より欧州と南米のチャンピオンが世界一をかけるトヨタ・カップ(正式にはヨーロッパ・サウスアメリカ・カップ)が東京において開催されることになり、平成1年には当該協会への競技者としての登録人数は661,509人(一般・大学生106,569人、高校生141,335人、中学生155,029人、小学生248,167人、女性10,409人)に達し、この年に日本女子サッカーリーグが開始され、平成3年には当該協会への競技者としての登録人数は628,663人(一般・大学生121,055人、高校生142,303人、中学生127,846人、小学生222,396人、女性15,063人)に達し、この年にJリーグが創設され、平成8年には当該協会への競技者としての登録人数は902,649人(一般・大学生192,988人、高校生170,421人、中学生221,424人、小学生294,020人、女性23,796人)に達し、現在では、毎日、サッカーに関する何らかの記事が新聞および雑誌に掲載され、或いはテレビで報じられるに至っている。

次に、「JUVENTUS」の文字についてみるに、昭和46年発行の新伊和辞典第5版(昭和46年1月5日(株)白水社発行)以後の同辞典には「ユヴェントゥス(トリーノ市を代表するフットボール・チームの名前)、そのチームの選手を「JUVENTINO」と言う」との記載はあるが、その他の語意の記載はない。なお、スペイン語辞典等には「青春、青年時代、青春期、若さ、新鮮さ、活力」等の語意を有するラテン語「JUVENTUS」及びスペイン語「JUVENTUD」がある。また、請求人の提出に係る甲第各号証によれば、いわゆる「JUVENTUS」或いは「ユベントス」なる名称は、明治30年にイタリア国トリノ市に創設され、欧州三大カップ(欧州チャンピオンズ・カップ、欧州ウィナーズ・カップ、欧州スーパー・カップ)の全タイトルを最初に制したイタリアリーグー部チームの中で二番目に古い創立のサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB S.P.A.」名を指称するものとしてサッカーに関心のある人々を始めとするスポーツ愛好者の間において使用され、認識されている世界的に著名な当該チーム名の著名な略称を想起させるものであることが認められる。

そして、わが国においてもサッカー専門誌「サッカーダイジェスト」の昭和58年4月号(甲第23号証)には『「青春チーム」ユベントス 世界一の単独クラブ・チーム、それが「青春」という意味のユベントスだ。』と掲載されており、同誌の昭和59年9月号(甲第28号証)、昭和62年6月号(甲第38号証)、同年7月号(甲第39号証)にはサッカー少年用ウェアー及びストッキングの宣伝広告中に「ユベントス型」及び「ユベントスモデル」なるウェアー、パンツ及びストッキングが掲載されており、同誌の昭和60年12月号(甲第32号証)には『「青春」という言葉をチーム名とするイタリアの強豪、ユベントスが12月のトヨタカップで来日の予定だ。』と掲載されていると共に同月9日の朝日新聞(甲第15号証)には「国立競技場に6万2千の観衆。ユベントスが南米の6連覇を阻んで優勝」した旨の記事が掲載されていること等とわが国のサッカーの歩みとを総合勘案するに、本件商標の商標登録出願時(平成3年)において「Juventus」及び「ユベントス」は、サッカーファンを始めとするスポーツ愛好者の間において周知・著名であったことが窺える。

被請求人は、本件商標を「婦人用ハンドバッグ」に使用してきたとして乙第6号証を提出しているが、乙第6号証の写真に示されている本件商標の表示はファッションを旨とする「婦人用ハンドバッグ」への商標の表示方法としてはあまりにも粗雑すぎるものであり、かつ、その数量、価格、販売先等を示す取引書類等の提示がないので、本件商標を「婦人用ハンドバッグ」に使用してきたとは認めがたい。

また、被請求人は、本件商標を「婦人用のトレーナー、ブラウス、セーター及びカーディガン」に使用してきたとして乙第7号証~乙第11号証を提出しているが、その販売数量等を示す乙第12号証~乙第14号証(枝番を含む)の売上伝票の写しの提示があるとしても、そこに表示されている商品コード及び品名と乙第7号証~乙第11号証および乙第15号証とがどのように関連するのか定かでなく、また、この程度の販売数量をもって、本件商標を「婦人用のトレーナー、ブラウス、セーター及びカーディガン」に使用してきたと認めることはできない。

してみれば、本件商標が「婦人用ハンドバッグ、婦人服、婦人用衣料」の取引者および需要者の間において被請求人の業務に係る商品を表すものとして知られていたとも認められない。

そうとすれば、「JUVENTUS」或いは「ユベントス」なる文字を本件商標に係る指定商品に使用するときは、これに接する取引者および需要者をして、その商品が恰も上記イタリア国の著名なサッカーチーム或いはそのチームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生ずる虞があるといわざるを得ない。

然るに、本件商標は、別紙のとおりの構成よりなり、「ユベントス」と称呼するものであることは、当事者間に争いのないところであって、上記イタリア国のサッカーチームの著名な略称「JUVENTUS」と類似するものであり、かつ、被請求人は上記イタリア国の著名なサッカーチームから承諾を得ている等、そのチームとは何ら関係のない者であるので、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者および需要者をして、その商品が恰も上記イタリア国の著名なサッカーチーム或いはそのチームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認めざるを得ない。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号および同第15号に該当し、その登録は同法第46条の規定により無効とされるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年11月14日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙

本件商標

<省略>

平成8年審判第11566号

審決

東京都渋谷区渋谷1丁目13番5号

請求人 株式会社 日本スポーツビジョン

東京都中央区京橋2丁目7番19号 守随ビル

代理人弁理士 松田三夫

東京都中央区京橋2丁目13番10号 京橋ナショナルビル6階 創英国際特許事務所

代理人弁理士 佐藤英二

大阪府大阪市中央区東心斎橋1丁目7番30号

被請求人 ナショナル商事 株式会社

東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 虎ノ門産業ビル6階 佐々木内外国特許商標事務所

代理人弁理士 佐々木功

東京都港区虎ノ門1丁目2番29号 虎ノ門産業ビル6階 佐々木内外国特許商標事務所

代理人弁理士 川村恭子

上記当事者間の登録第2642697号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する.

結論

登録第2642697号商標の登録を無効とする.

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

本件は、別紙に示すとおりの構成よりなり、第23類「時計、眼鏡、これらの部品および附属品」を指定商品とし、平成3年7月2日に登録出願され、平成6年3月31日に設定登録された登録第2642697号商標(以下「本件商標」という)に関する商標法第46条の規定に基づく商標登録の無効審判請求(以下「本件請求」という)である。

Ⅰ.請求の趣旨等

本件請求の請求人(以下「請求人」という)は、結論同旨の審決を求め、次の趣旨の理由および弁駁を述べると共に、証拠方法として甲第1号証~甲第50号証を提出している。

1.本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第15号に該当し、その商標登録は無効とされるべきである。

(1) 審判請求の利益について

請求人は、イタリア国のプロサッカーチームである「JUVENTUS」(ユベントス)のオフィシャルグッズであるユニフォーム等の商品をイタリアから輸入し、販売している者である。

しかるところ、本件請求の被請求人(以下「被請求人」という。)は、請求人の前記販売行為を本件商標を含む商標権の侵害として東京地方裁判所に提訴(平成8年(ワ)第5748号)し、現在審理中である。

したがって、請求人は本件請求につき法律上の利害関係を有する者である。

(2) 「JUVENTUS」(ユベントス)の標章の著名性について

本件商標の構成文字「Juventus」は、イタリア国のプロサッカーリーグであるセリAに属する「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の著名な略称である「JUVENTUS」と同一の構成文字よりなるものである。

前記「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」は、1897年に創立されたイタリア国有数のプロサッカーチームであり、「欧州チャンピオンズリーグ」、「欧州カップ・ウイナーズカップ」及び「UEFAカップ」の欧州三大カップの全タイトルを最初に制し、イタリアのプロサッカーリーグであるセリエAにおいて過去22回の最多優勝(1995年時点)を成し遂げたチームとして、「JUVENTUS」(日本語の表記は「ユベントス」)の名の下に世界のサッカーファンに著名なプロサッカーチームである(甲第3号証及び甲第4号証)。

そして、近年わが国においても、プロサッカーリーグであるJリーグの開催によって、プロサッカー熱が非常な盛り上がりを見せているが、「JUVENTUS」(ユベントス)の名は、わが国で1リーグが開催される以前より、ワールドカップ等の国際試合を通じて、わが国のサッカーファンの間でも広く知られていたものである。

現在においては、「JUVENTUS」(ユベントス)の名は前記セリエAの名門チームの略称としてわが国においても著名となっているものである(甲第3号証~甲第9号証)。

(3) 本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当することについて

本件商標は、「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の著名な略称である「JUVENTUS」と同一の構成文字よりなるものである。そして、この略称「JUVENTUS」(ユベントス)は、少なくとも本件商標の出願日である平成3年7月2日時点では、世界的に有名なプロサッカーチームの略称として、わが国においても著名であったことは、甲第3号証~甲第9号証の証拠に照らしても明らかなところである。

しかるに、本件商標は、「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」の承諾なく出願されたものである。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号の規定に違反して登録されたものである。

ちなみに、被請求人は、商品区分の第12類と第30類及び第9類においても、本件商標と同一の構成態様の商標を出願したものであるが、いずれの出願も審査において、著名な略称「JUVENTUS」を含むので、商標法第4条第1項第8号に該当する旨の拒絶理由により拒絶されている(甲第10号証、同第11号証および同第12号証)。

(4) 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当することについて

本件商標は、世界的に有名なプロサッカーチーム名(略称)「JUVENTUS」と同一の綴り字よりなるものである。そして、プロサッカーはそれ自体が、営業行為として行われているものである。

したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品があたかもプロサッカーチームである「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」と営業上の密接な関係にある者の提供する商品であるかの如く誤認され、その出所の混同を生じるおそれは十分にあるといわねばならない。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の規定にも該当するものである。

(5) 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することについて

本件商標は、少なくとも本件商標の登録時点である平成6年3月31日時点では、「JUVENTUS」(ユベントス)の名称は、イタリア本国はいうまでもなく、わが国を含む世界中で広く知られるに至っていたものである。

しかるに、このような世界的にも著名な外国の団体の著名な略称を、当該団体以外の者がわが国で商標登録することは、わが国の国際信用を著しく害することになるものである。また、プロサッカーはそれ自体が営業活動として行われているから、公正であるべき商取引の秩序に反することになる。

すなわち、本件商標は明らかに世界的に著名な団体の名声を潜用せんとする不正な意図のもとで商標登録を受けたものである。

このような世界的に著名な名称を冒認した出願については、御庁の審決においても、世界的に著名な画家である「シャガール」の氏名に相当する「MARC CHAGALL」の文字よりなる商標の旧第17類での出願について、「シャガールの名声を冒認しようとするものであるから、かかる行為は、国際信義に反するものといわざるを得ず、公の秩序を害するおそれがあるとみるのを相当とする。」として、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されている(甲第13号証)。

また、世界的に有名なスポーツ用品専門店であるロンドン所在の「リリーホワイツの店名表示「Lillywhites」を本人以外の者がわが国で商標登録するのは、「公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであり、商標制度の趣旨に即しない」として、前記事件と同様に商標法第4条第1項第7号に該当すると判断されている(甲第14号証)。

したがって、本件商標は商標法第4条第1項第7号の規定にも該当する。

2.請求の理由(補充)

(1) 1985年(昭和60年)12月8日に、東京・国立競技場で開催された第6回トヨタ・カップの決勝戦で、「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは優勝を飾り、この事実は、同年12月9日の朝日新聞、読売新聞、毎日新聞及び日本経済新聞において全国的に報道された(甲第15号証~甲第18号証)。

なお、このトヨタ・カップは、欧州と南米のそれぞれのチャンピオン同士が争う事実上のプロサッカー世界一決定戦であり、わが国のサッカーファンのみならず全世界のサッカーファンが注目しているものである(甲第16号証)。そして、1985年(昭和60年)12月8日のユベントスが優勝した第6回トヨタ・カップには、6万2千人の観衆が入場し、声援を送ったことが報道されている(甲第15号証)。

そして、この第6回トヨタ・カップの模様は、テレビ放送によってもわが国で全国的に放映されたものである(甲第19号証)。

(2) 「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは、イタリア有数のプロサッカーチームとして、上記第6回トヨタ・カップ以前より、わが国のサッカーファンに人気を博してきたものである。その事実を示すものとして、わが国のサッカーファンに愛読されている雑誌「サッカー・ダイジェスト」の1981年(昭和56年)以降の発行分から代表的なものを甲第20号証~甲第40号証として提出する。

すなわち、「JUVENTUS」ユベントス・チームは、1981年~82年に開催されたヨーロッパ(欧州)チャンピオンズ・カップに出場したが、そのことはわが国でも報道された(甲第20号証~甲第24号証)。その他にも、地元のイタリア・リーグをはじめとして三大カップ等でのユベントスの活躍や、ユベントスの人気選手パオロ・ロッシやプラティニの記事が掲載されているように、ユベントス・チームがその選手とともにわが国でも広く知られ、人気を博してきたことが示されている(甲第25号証~甲第40号証)。

また、この雑誌では、サッカー試合の報道ばかりでなく、ユベントス・チームのユニフォーム等がサッカーファンのためのいわゆるファングッズとして、わが国でも販売され、愛好されてきたことが示されている(甲第28号証、甲第34号証、甲第36号証、甲第38号証、甲第39号証)。

さらに、ユベントス・チームの人気選手を起用したスポーツウエアについての広告も掲載されている(甲第34号証、甲第36号証)。

(3) 「JUVENTUS」(ユベントス)・チームは、1996年(平成8年)12月26日に東京・国立競技場で関催された第17回トヨタ・カップで2度目の優勝を飾ったことが報道され(甲第41号証~甲第48号証)、現在でもわが国で高い人気を博していることが示されている。

3.下記Ⅱ1に対する弁駁

(1) 「Juventus」の著名性について

甲第15号証~甲第40号証によれば、少なくとも本件商標の前記出願当時、「Juventus」又はその日本語表記である「ユベントス」がわが国でも著名であったことは明らかである。

とりわけ、「Juventus」チームが優勝した昭和60年12月の第6回トヨタ・カップには、6万2千人の観衆が詰めかけ、その模様は全国紙、テレビ放送等によって全国的に報道された(甲第15号証~甲第19号証)。

このように外国の商標を安易に借用してしまうという被請求人の態度自体も問題であるが、この昭和57年当時において、「Juventus」は、伝統あるプロサッカーチームとして、イタリア本国のみならず世界的にも知れ渡っていたものである。このことは例えば甲第3号証~甲第5号証の文献の記載からも明らかである。被請求人は、これらを含む甲第3号証~甲第9号証の文献の発行が比較的新しい旨述べているが、請求人がこれらの証拠で示しているのは、1897年の創立以来今日まで続く「Juventus」チームの著名な来歴である。

そして、イタリア本国において、プロサッカーと言えば、わが国のプロ野球や国技である相撲等とも比べられる大衆的スポーツである。つまり、被請求人が本件商標を採択したとする昭和57年当時では、「Juventus」がイタリア本国をはじめとして世界的に著名であったことは動かし難い事実なのである。そして、度々イタリアに旅行した被請求人代表者が「Juventus」の言葉に特別の関心を抱いたとするなら、それがイタリアの著名なプロサッカーチームの名称であることを知らなかったと考える方がむしろ不自然である。

(3) 請求人と被請求人の係争関係について

<1> 被請求人は、本件商標について、イタリアの「Juventus」チームから商品化の許諾を得ている伊藤忠に対して、本件商標の使用権を設定している旨述べている。

しかし、重要なのは被請求人が本件商標を出願し、登録するにあたって、「Juventus」チームから何らの承諾を得ていないことである。したがって、被請求人が伊藤忠に使用権を設定していることは本件商標の登録を何ら正当化するものではない。

そもそも、イタリアの「Juventus」チームは、本件商標の存在に拘わらず、自己の名称(著名な略称を含む。)を使用することができるのである(商標法第26条第1項)。伊藤忠等による「Juventus」の表示の使用も、それがイタリアの「Juventus」チームの商品化事業の一貫として、ユニフォーム等に「Juventus」チームのオフィシャルグッズであることを示すために使用されている限りは、前記の本人の名称使用の権原に基づくものであって、しかも、商標的な意味合いでの商品の出所

(製造者、販売者等)を識別していないから、本件商標とは無関係である。

にもかかわらず、被請求人が使用権を設定して経済的な利得を得ているとすれば、伊藤忠等は、本件商標の不当な登録があるばかりに、無用な負担を強いられていることになる。被請求人の提出した契約書(乙第1号証)は、かかる本件商標の登録の不当性を示すものに過ぎない。

<2> 請求人は、イタリアの「Juventus」チームの名称使用との関係では、「Juventus」チームが公認したオフィシャル・グッズである「Juventus」のユニフォーム等のスポーツ関連商品の並行輸入業者である。すなわち、請求人は、イタリア国内で販売されたユベントス公認のオフィシャルグッズ(真正品)をイタリア国内で購入して、わが国に並行輸入しているものであって、このような並行輸入が正当であることは、あらためて言うまでもないところである。

しかるに、本件商標権は、請求人のこのような並行輸入行為を実質的に妨害する役割を果たすに至っているのである。つまり、本件商標はその登録と権利行使とにおいて、二重の不当性を帯びるに至っている。

(4) 本件商標と「Juventus」名称との同一性について

本件商標は、「Juventus」と同一構成文字に単にアンダーラインを付したに過ぎないから、商標法第4条第1項第8号の適用にあたっては、同一の商標というべきである。そして、このことは被請求人が他の類で出願した本件商標と同一の構成態様の商標が、商標法第4条第1項第8号の適用を受けて拒絶されていることからも明らかなところである(甲第11号証)。

Ⅱ.答弁の趣旨

1.被請求人は、本件請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、次の趣旨の答弁をすると共に証拠方法として乙第1号証~乙第15号証を提出している。

(1) 本件商標の選択の経緯について

<1> 被請求人は、衣料の製造卸販売を業とする会社であり、主として「婦人服」及びその関連商品を取り扱っており、業務との関係で被請求人代表者は度々イタリアに旅行をしている。

1982年(昭和57年)にイタリアに旅行をしたとき、「Juventus」という名前のブティックを知り、個人的に買物をしたことをきっかけとしてそのブティックの雰囲気と商品が気に入りイタリアへ行く度に買物をした、また、被請求人の代表者は、「Juventus」が「青春」を意味するものと、当時、聞き知っていたこともブティック「Juventus」に惹かれた理由でもあった。

そこで、日本でも「Juventus」の商標で商品を製造販売したいと考え昭和58年1月12日にまず旧第17類と旧第21類に商標登録出願をしたのである。本件商標のロゴは、イタリアのブティックのロゴと同じではなく、その店の雰囲気をイメージしてデザインしたものである。

また、被請求人の代表者は、商標登録出願後の1984年(昭和59年)に東京に本件商標と同一のロゴを用いた「Juventus」の名称のブティックを開いたが1990年(平成2年)(その後の答弁書において平成3年8月に訂正)にその店を閉じた。

なお、イタリアのブティックも現在はなくなっている。

<2> 本件商標を選択した当時、わが国でイタリアのサッカーチームの名前などほとんど知られておらず、本件商標の選択はサッカーチームの名称とは全く関係ないものである。

(2) 訴訟に至った経緯について

<1> 本件商標は、甲第2号証の本件商標の登録原簿から明らかなように、伊藤忠ファッションシステム株式会社(以下、単に「伊藤忠」という。)と専用使用権の設定契約をし、それに基づき平成7年6月12日に専用使用権の設定登録をした。

このような契約に至ったのは伊藤忠がイタリアのプロサッカー38チームが加盟するサッカー連盟(Italian Football League)からの許諾により、連盟のロゴマーク及び加盟チームのエンブレム等を使用した製品の日本における商品化を推進するに当り、日本における商標の調査をしたところ、「JUVENTUS」については、被請求人が本件商標を始め5件の商標権を所有していることが判明したからである。

そこで、伊藤忠は、例令、使用するのがイタリアのサッカーチームの名称であっても、一般の消費者を対象とした商品に「JUVENTUS」の文字を使用して販売することになるので、被請求人に無断で使用することはわが国の商標上適法とはいえないとの結論に達して、被請求人へ使用許諾を申し入れたのである。

それまで、被請求人は、婦人服及び婦人用のハンドバッグなどについて継続して商標を使用してきており、主たる業務である婦人服関係については従前通り、今後も使用していくので商標登録第1795328号(旧第17類)については通常使用権を許諾し本件商標及び他の商標権すなわち登録第1777332号(旧第21類)、登録第2585508号(旧第25類)及び登録第2601213号(旧第24類)については専用使用権を設定したのである。

<2> その後、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレムの日本における商品化については、チームとの直接契約になり、伊藤忠は、繊維製品以外の商品についてはライセンスを有しているが繊維製品については直接「JUVENTUS」の商品化のライセンスを受けていないので繊維製品については、ライセンスを有している会社と契約し、かつ、日本での使用については、そのライセンスを受けている会社に対し、被請求人との契約により、通常使用権及び専用使用権に基づいてサブライセンスを与えている。

このように、イタリアのプロサッカーチームからチームのロゴマーク及びエンブレムを各種商品について使用する商品化契約を正式に交わしている伊藤忠を始めとする会社は、日本の商標法上の問題を十分検討し被請求人の商標権を尊重し、わが国の取引の秩序を維持し無用な紛争を未然に防ぐための最善の処置として被請求人と使用許諾及び使用権設定の措置をとったのである。

<3> しかるに、請求人は、イタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」から、日本における商品化については、合意なり契約は全くなく、イタリアで販売されている商品を単にわが国に輸入して販売しているのである。

そのため、わが国の商品化についての正当権利者との間における取引の秩序が乱される結果となり、かつ、被請求人は、商標権者としての責任から請求人に警告を発し、使用許諾についての交渉のテーブルに一度はついたがまとまらず、訴訟に至った次第である。

それ故、請求人が輪入販売する商品には、イタリアのサッカーチームの名称であっても、各種商品をわが国で販売するための商標として「JUVENTUS」が使用されている以上、被請求人及び専用使用権者の権利を侵害することになるので、被請求人は正当な権利行使をしたのであるが、請求人は訴訟への対抗手段として本件請求をしているのである。

(3) 上記Ⅰ1(3)について

<1> 請求人が提出する甲第3号証~甲第9号証の証拠をみても、本件商標と同一の構成からなる商標は全く見いだせない本件商標は、被請求人が独自にデザインしたデザイン文字からなるのに対して、上記甲各号証に表示されている「JUVENTUS」の文字は殆どブロック体から構成されているものである。

<2> 請求人が提出する甲第3号証~甲第9号証の発行年月日をみると、甲第5号証が平成5年、それ以外は平成6年から平成7年にかけてのもので、本件商標の出願日以降の比較的新しいものばかりである。

わが国では、平成5年5月から日本プロサッカーリーグが開催されたことにより、サッカーが非常に盛んになったが、それはわが国でのプロサッカーリーグであるJリーグの開催をきっかけにしたものであるのでここわずか3年余りのことである。

それに伴い、サッカーの歴史が長いイタリアやブラジルなどのチームや選手がわが国でも知られるようになったのである。

<3> 名称等の略称が著名であるか否かの判断に際しては、当該名称が広く知られていることの程度はもとより、判断の対象となる商品との関係も総合的に勘案されるべきである。

しかるに、プロサッカチームがサッカーの興行を業として行うことは当然であるとし本件商標の指定商品との関連で、当該名称の略称がいつ、如何なる方法でどの程度用いられてその結果どのように著名になったか等の具体的な使用の事実あるいは取引の実情を明らかにする主張立証は一切見られないものである。

(4) 上記Ⅰ1(4)について

<1> 請求人は本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する理由として、プロサッカーはそれ自体が営業行為として行われていること、従って、本件商標がその指定商品に使用された場合には、当該商品がプロサッカーチームである「JUVENTUS」と営業上の密接な関係にある者の堤供する商品であるかの如く誤認され、その出所の混同を生じるおそれは十分にあるといわねばならないと述べるのみで、それ以上の具体的な立証は何もない。

<2> 本件商標は、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB s.p.a」(以下、単に「JUVENTUS」と称する。)の名称とは全く関係ない。

しかしながら、サッカーチーム「JUVENTUS」はわが国における商品化を認めており、伊藤忠は「JUVENTUS」と正式にライセンス契約をして「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレム等を使用した各種商品を輪入販売しあるいはわが国で製造販売して商品化を推進している。

被請求人は、伊藤忠と使用許諾契約を締結して、無断使用者との間における混同を防止しているのであり、それにも拘らず、本願商標が商標法第4条第1項第15号に該当するというためにはどのような場面で出所の混同が生ずるのかなど取引の実情を具体的に主張立証すべきである。

(5) 上記Ⅰ1(5)について

<1> 本件商標は、被請求人が独自にデザインして、昭和58年から婦人服、婦人用ハンドバッグなどに使用してきた商標であり、イタリアのサッカーチームの名称とは全く無関係であった平成6年になり、被請求人はイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」のロゴマーク及びエンブレム等を使用して各種商品を日本において輪入販売若しくは製造販売する商品化についてサッカーチーム「JUVENTUS」と正式ライセンス契約をしている伊藤忠に使用権を設定若しくは許諾したのであり、伊藤忠は更にわが国の製造若しくは販売者に対してサブライセンスを与え商品化を推進しているのでイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」は、チームのロゴマークやエンブレム等を使用した各種商品の日本での商品化を正式に承諾しているのである。

<2> サッカーチーム「JUVENTUS」の文字及びエンブレム等を使用した商品の日本における商品化については、伊藤忠を始めとする会社が正式にチームとライセンス契約をし、そのうえでわが国において商標上の問題が生じないように、類似の登録商標を所有している被請求人と使用契約をして商取引の秩序を維特しているのである。

<3> イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」と伊藤忠との間に交わされた「文房具」の製造販売に関する契約書には

『日本ではナショナル商事株式会社が、旧第25類(文房具及び紙類)において「JUVENTUS」の登録商標を所有していることを確認し「JUVENTUS」の使用に支障が生じないようにライセンシー(伊藤忠)はナショナル商事株式会社と登録商標の使用について契約する。』

趣旨の1項が入っており(乙第1号証)、サッカーチーム「JUVENTUS」は被請求人の登録商標には異議なく、これを尊重しているのである。

<4> 請求人は「シャガール」の氏名に相当する

「MARC CHAGALL」の商標と「リリーホワイツ」の店名表示「Lillywhites」の商標についての審決例を引用しているが、本件商標とは事例を異にするので考慮に価しないものである。

更に、請求人は、被請求人の出願が拒絶された例も引用しているが今後の商品化の関係で意見書を提出することなく見送ったものであり、これをもって、本件商標に対する請求人の主張と同等に論じることはできない。

<5> 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するか否かについて考慮されるべきは商標は商品の自他商品識別標識として使用するものであるところから、指定商品との関係も考慮して総合的に判断されるべきであるということである。

本件商標は、伊藤忠に対して通常使用権を許諾し、かつ再許諾する権利を認めているが、伊藤忠及びそのサブライセンシーの取扱に係る商品はイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」が正式に使用を容認しているところから、サッカーチームの信用を損なうことには決してならないのである。

<6> 以上のような事情により、本件商標の登録時点で例令イタリアのプロサッカーチームの略称である「JUVENTUS」がわが国でも知られているものであっても、本件商標の商標登録はサッカーチーム「JUVENTUS」とは全く無関係なものとして認められるべきであり、本件商標を指定商品に使用しても社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するようなことは決してない。

2.上記Ⅰ2及び3に対する答弁

(1) 「真正商品の並行輪入」がどのようなものであるか昭和45年2月のパーカー事件判決以後今日では広く知られるようになり、大蔵省関税局の新通達では、商標権を侵害しない真正商品の並行輸入の範囲として以下の条件があげられている。

<1> 当該標章を付して拡布した者とわが国の商標権者が同一人であること又は同一人と同視されるような特殊な関係があること。

<2> 商品が同一であること。

<3> 当該商品に付された商標が同一の出所を表示し商品の品質も同一の品質を表示して品質保証機能も害されていないこと。

しかるに被請求人はサッカーチーム「JUVENTUS」とは全く無縁の存在であり、反対にサッカーチーム「JUVENTUS」はわが国の商標権者でもない。

従って、請求人が扱う商品がサッカーチーム「JUVENTUS」から承諾を得たものであっても、上記<1>の条件は具備していない。

しかしながら、請求人は、サッカーチーム「JUVENTUS」から、わが国における商品の販売について、正式に承諾も得ていないし、契約もしていない。このことは、現在、東京地方裁判所で係争中の裁判の中で、請求人が明言している。

(2) 被請求人の登録商標の使用について

被請求人は、旧第17類に属する婦人服等の商品については昭和58年1月の商標登録出願後から継続して使用しており、東京に「Juventus」のブティックを有していたことを主張した。

それは、銀座2丁目7番18号所在の「東京メルサ」内の店舗に出店したものであり、店名は「Juventus Boutique」で営業品目は、「Juventusブランドを中心とした衣料」の販売であり、昭和59年7月9日に店舗の賃貸借契約を締結して以後営業を継続し平成3年8月に閉店した(乙第4号証~乙第5号証)。

このように、被請求人は、かつて約7年間もファッションの中心地の銀座しかも「東京メルサ」内において「Juventus」のブティックを開いていたが、その間はもちろん、その後もサッカーチーム「JUVENTUS」との関係で問題が生じたことは一度もない。

現在、被請求人は婦人用トレーナ、ブラウス、セータ、カーディガンなどを主として製造販売しており(乙第7号証~乙第11号証)、それらの商品は、大阪の「泉北高島屋」、広島の「広島そごう」、東京の「日本橋高島屋」などでも販売している(乙第12号証~乙第14号証)。

また、被請求人は、現在でも「東京メルサ」内に「NEVADA」という名称のブティックを有しており、そこでも「Juventus」の商品を販売している(乙第15号証)。

このように、本件商標は、長年、婦人服に使用してきた「Juventus」商標の商品展開の一環として旧第25類に出願して登録されたものであるが被請求人自身の商品化の前に伊藤忠から使用許諾の申し入れがあったので使用権を設定したものである。

上記の事実により、本件商標は、被請求人自身長年婦人服などに使用している「Juventus」の商標に基づくものであり、本件商標の登録には何ら瑕疵はないものである。

(3) イタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」について

請求人が提出する証拠方法は、イタリアのプロサッカーチームである「JUVENTUS」に関する著名性を立証するための資料であるとしているが、請求人が提出する雑誌・新聞などに記事が掲載されていたことを争うものではない。

しかしながら、昭和50年代後半から昭和60年代におけるわが国のサッカー・ファンすなわちサッカー人口がどれ程のものであったか疑問である。

わが国でサッカーが広く知られるようになったのはいわゆるわが国のJリーグが開催されたことによる、という事実は広く報道されていることである。その後のサッカーブームの中でサッカーの歴史が長いブラジルやイタリアなどのプロ・チームが紹介され知られるようになったがイタリアなどはプロサッカーチームがわが国には比べようもない程数多くあり、「JUVENTUS」だけが突出している訳ではないはずである。

しかし、その後、例令、わが国においてイタリアのサッカーチーム「JUVENTUS」が知られるようになったとしても、本件商標はイタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」の名称とは全く関係ない。

第一に、ロゴマークが同一ではない。

第二に、被請求人は、スポーツシャツ、ユニフオームなどのスポーツ関連の商品は一切扱っておらず、昭和58年1月の旧第17類への出願当初から、婦人用の衣類及びハンドバックなどを取り扱ってきたので、商品の出所を全く異にしている。

被請求人は、このように「Juventus」の商標を14年以上にも亙り、適法に、かつ、誠実に使用しているのであり、イタリアのプロサッカーチームの略称との関連性は全く見い出せないこと明らかである。

なお、甲第41号証以下の証拠方法は、平成8年の掲載記事であり、本願商標の出願日(平成3年7月2日)より5年後のものばかりであり、証拠能力がないこと明らかである。

(4) 請求人と被請求人との係争関係について

被請求人は、イタリアのプロサッカーチーム「JUVENTUS」とは法律的、経済的に全く別個の存在であり、本件商標もユベントス・チームとは全く関係なく採択されたものである。

それ故、適法かつ正当な商標権者として、商標法上の権利行使をすることができる地位にある。

(5) 以上の通り、イタリアのプロサッカーチームの略称である「JUVENTUS」が、例令、ある程度わが国において知られていたとしても、本件商標はイタリアのサッカーチームの名称とは無関係に採択され長年使用されている商標に基づくものであり、商標法第4条第1項第8号、同法第4条第1項第15号若しくは同法第4条第1項第7号に違背して登録されたものでは決してない。

Ⅲ.判断

わが国におけるサッカーの歩みを振り返るに明治6年に英国人「ダグラス少佐」が兵学寮の生徒に教えたのを嚆矢とし、大正10年に大日本蹴球協会(昭和49年に現在の日本サッカー協会となる)が創設され、昭和39年オリンピック東京大会において南米随一と言われたアルゼンチンに勝利、昭和40年から春と秋に日本サッカーリーグを開始、昭和41年においての当該協会への競技者としての登録人数は26,832人(大学生4,749人、一般22,083人)に達し、昭和43年オリンピック・メキシコ大会において三位に入賞、昭和54年には当該協会への競技者としての登録人数は273,887人(一般・大学生74,668人、高校生83,741人、中学生45,609人、小学生68,950人、女性919人)に達し、この年に女子サッカー連盟が創設され、昭和55年より欧州と南米のチャンピオンが世界一をかけるトヨタ・カップ(正式にはヨーロッパ・サウスアメリカ・カップ)が東京において開催されることになり、平成1年には当該協会への競技者としての登録人数は661,509人(一般・大学生106,569人、高校生141,335人、中学生155,029人、小学生248,167人、女性10,409人)に達し、この年に日本女子サッカーリーグが開始され、平成3年には当該協会への競技者としての登録人数は628,663人(一般・大学生121,055人、高校生142,303人、中学生127,846人、小学生222,396人、女性15,063人)に達し、この年にJリーグが創設され、平成8年には当該協会への競技者としての登録人数は902,649人(一般・大学生192,988人、高校生170,421人、中学生221,424人、小学生294,020人、女性23,796人)に達し、現在では、毎日、サッカーに関する何らかの記事が新聞および雑誌に掲載され、或いはテレビで報じられるに至っている。

次に、「JUVENTUS」の文字についてみるに、昭和46年発行の新伊和辞典第5版(昭和46年1月5日(株)白水社発行)以後の同辞典には「ユヴェントゥス(トリーノ市を代表するフットボール・チームの名前)、そのチームの選手を「JUVENTINO」と言う」との記載はあるが、その他の語意の記載はない。なお、スペイン語辞典等には「青春、青年時代、青春期、若さ、新鮮さ、活力」等の語意を有するラテン語「JUVENTUS」及びスペイン語「JUVENTUD」がある。また、請求人の提出に係る甲第各号証によれば、いわゆる「JUVENTUS」或いは「ユベントス」なる名称は、明治30年にイタリア国トリノ市に創設され、欧州三大カップ(欧州チャンピオンズ・カップ、欧州ウィナーズ・カップ、欧州スーパー・カップ)の全タイトルを最初に制したイタリアリーグー部チームの中で二番目に古い創立のサッカーチーム「JUVENTUS FOOTBALL CLUB S.P.A.」名を指称するものとしてサッカーに関心のある人々を始めとするスポーツ愛好者の間において使用され、認識されている世界的に著名な当該チーム名の著名な略称を想起させるものであることが認められる。

そして、わが国においてもサッカー専門誌「サッカーダイジェスト」の昭和58年4月号(甲第23号証)には『「青春チーム」ユベントス 世界一の単独クラブ・チーム、それが「青春」という意味のユベントスだ。』と掲載されており、同誌の昭和59年9月号(甲第28号証)、昭和62年6月号(甲第38号証)、同年7月号(甲第39号証)にはサッカー少年用ウェアー及びストッキングの宣伝広告中に「ユベントス型」及び「ユベントスモデル」なるウェアー、パンツ及びストッキングが掲載されており、同誌の昭和60年12月号(甲第32号証)には『「青春」という言葉をチーム名とするイタリアの強豪、ユベントスが12月のトヨタカップで来日の予定だ。』と掲載されていると共に同月9日の朝日新聞(甲第15号証)には「国立競技場に6万2千の観衆。ユベントスが南米の6連覇を阻んで優勝」した旨の記事が掲載されていること等とわが国のサッカーの歩みとを総合勘案するに、本件商標の商標登録出願時(平成3年)において「Juventus」及び「ユベントス」は、サッカーファンを始めとするスポーツ愛好者の間において周知・著名であったことが窺える。

被請求人は、本件商標を「婦人用ハンドバッグ」に使用してきたとして乙第6号証を提出しているが、乙第6号証の写真に示されている本件商標の表示はファッションを旨とする「婦人用ハンドバッグ」への商標の表示方法としてはあまりにも粗雑すぎるものであり、かつ、その数量、価格、販売先等を示す取引書類等の提示がないので、本件商標を「婦人用ハンドバッグ」に使用してきたとは認めがたい。

また、被請求人は、本件商標を「婦人用のトレーナー、ブラウス、セーター及びカーディガン」に使用してきたとして乙第7号証~乙第11号証を提出しているが、その販売数量等を示す乙第12号証~乙第14号証(枝番を含む)の売上伝票の写しの提示があるとしても、そこに表示されている商品コード及び品名と乙第7号証~乙第11号証および乙第15号証とがどのように関連するのか定かでなく、また、この程度の販売数量をもって、本件商標を「婦人用のトレーナー、ブラウス、セーター及びカーディガン」に使用してきたと認めることはできない

してみれば、本件商標が「婦人用ハンドバッグ、婦人服、婦人用衣料」の取引者および需要者の間において被請求人の業務に係る商品を表すものとして知られていたとも認められない。

そうとすれば、「JUVENTUS」或いは「ユベントス」なる文字を本件商標に係る指定商品に使用するときは、これに接する取引者および需要者をして、その商品が恰も上記イタリア国の著名なサッカーチーム或いはそのチームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生ずる虞があるといわざるを得ない。

然るに、本件商標は、別紙のとおりの構成よりなり、「ユベントス」と称呼するものであることは、当事者間に争いのないところであって、上記イタリア国のサッカーチームの著名な略称「JUVENTUS」と類似するものであり、かつ、被請求人は上記イタリア国の著名なサッカーチームから承諾を得ている等、そのチームとは何ら関係のない者であるので、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者および需要者をして、その商品が恰も上記イタリア国の著名なサッカーチーム或いはそのチームと関係のある者の業務に係るものと、その出所について混同を生ずるおそれがあるものと認めざるを得ない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号および同第15号に該当し、その登録は同法第46条の規定により無効とされるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年11月14日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙

本件商標

<省略>

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