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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)131号 判決 1999年2月10日

金沢市示野町り69番地

原告

新宅工業株式会社

代表者代表取締役

新宅憲一

訴訟代理人弁護士

鈴木修

那須健人

同弁理士

伊藤茂

金沢市大豆田本町甲58番地

被告

渋谷工業株式会社

代表者代表取締役

澁谷弘利

訴訟代理人弁理士

神崎真一郎

主文

特許庁が、平成9年審判第3673号事件について、平成10年3月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「ロボットを備えた箱処理装置」とする特許第1972976号発明(平成元年8月8日出願、平成6年12月14日出願公告、平成7年9月27日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成9年3月6日に被告を被請求人として、上記特許につき無効審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成9年審判第3673号事件として審理したうえ、平成10年3月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月13日、原告に送達された。

2  本件発明の要旨

(1)  本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件特許発明1」という。)の要旨

ロボットに設けられ、パレット上に積層載置された箱を把持してこれをパレットから下ろす箱把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記箱把持ヘッドと選択使用され、上記箱内の物品を把持してこれを箱内から取出す物品把持ヘッドと、この物品把持ヘッドによって箱内から取出された物品を受取ってこれを外部に搬出する物品搬送手段とを備えることを特徴とするロボットを備えた箱処理装置。

(2)  本件明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明(以下「本件特許発明2」という。)の要旨

物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、ロボットに設けられ、上記物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を把持し、これを上記箱内に収容する物品把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記物品把持ヘッドと選択使用され、上記箱を把持してこれをパレット上に積層載置する箱把持ヘッドとを備えることを特徴とするロボットを備えた箱処理装置。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件特許発明1、2が、本件出願前に国内において頒布された刊行物である実用産業用ロボット技術便覧編集委員会編「実用産業用ロボット技術便覧」505~508頁(審決甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用発明1」という。)、特開昭59-24991号公報(審決甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用例2」といい、そこに記載された発明を「引用発明2」という。)及び特開昭63-17732号公報(審決甲第3号証、本訴甲第5号証、以下「引用例3」といい、そこに記載された発明を「引用発明3」という。)に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたので、その特許が特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるとする請求人(原告)の主張に対し、本件特許発明1、2が、引用発明1~3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすうことはできず、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

1  審決の理由中、本件特許発明1、2の要旨の認定及び引用例1~3に記載された発明として摘記された事項(審決書12頁5行~14頁18行)は認める。「当審の判断」のうち、引用発明1が、箱詰ロボットと積載ロボットの2台のロボットを具備し、ケーサとパレタイザあるいはデパレタイザとアンケーサの2台のロボットを用いていたので大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという本件特許発明1、2の従来技術そのものであるとの認定(同15頁2~8行)、引用発明1が、箱詰ロボットと積載ロボットの2台のロボットの間に自動梱包機を配置する構成を採り、箱詰ロボットと積載ロボットとが空間的に離れた位置に存在しているとの認定(同頁10~14行)、本件特許発明2が引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないとの判断(同頁19行~16頁1行)、引用発明1、2のロボットの機能についての認定(同16頁2行~18頁1行)、及び本件特許発明2がいわばケーサとパレタイザを1台のロボットに具備したものであるのに対し、本件特許発明1がそれとは逆の流れの作業を実施するいわばデパレタイザとアンケーサを1台のロボットに具備したものであるとの認定(同22頁1~6行)は認めるが、その余は争う。

審決は、引用発明1に対する引用発明2、3の適用の仕方を誤り、本件発明が引用発明1~3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されなければならない。

2  取消事由

審決は、引用発明1に引用発明2を適用した場合について、「引用発明1は、・・・引用発明2の吸引保持手段に対応する手段を全く有していない。また、引用発明2の把持手段は、・・・引用発明1の積載ロボットに対応するものである。そこで、この引用発明1に引用発明2を適用すると、箱をパレットに積層載置する積載ロボットに引用発明2の吸引保持手段を付加した箱処理装置、即ち、物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、所定位置に搬入された物品を把持し箱内に収容する物品把持ヘッドを具備した箱詰ロボットと、箱を把持してパレット上に積載する箱把持ヘッドと底紙や台紙を積載する紙吸引保持ヘッドを具備し、両ヘッドを選択使用しうる積載ロボットを備えた箱処理装置に想到することができる。しかし、この箱処理装置は、依然として箱詰ロボットと積載ロボットを別々に有しており、本件特許発明2とは大きく異なる。」(審決書18頁10行~19頁11行)とし、引用発明1に引用発明3を適用した場合について、「引用発明3の・・・品物把持用手段は引用発明1の積載ロボットに、引用発明3のパレット把持用アームは引用発明1の自動パレット供給装置に、それぞれ対応するものであるから、引用発明1に引用発明3を適用すると、物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、所定位置に搬入された物品を把持し箱内に収容する物品把持ヘッドを具備した箱詰ロボットと、箱を把持してパレット上に積載する箱把持ヘッドとパレットを積載するパレット保持ヘッドを具備し、両ヘッドを選択使用しうる積載ロボットを備えた箱処理装置に想到することができる。結局この箱処理装置も、依然として箱詰ロボットと積載ロボットを別々に有したものとなり、やはり本件特許発明2とは異なる。」(同19頁14行~20頁11行)としたうえ、「引用発明1に引用発明2または引用発明3を適用しても、引用発明1の積載ロボットに紙を積載する機能を持たせるための紙吸引保持ヘッドを付加したもの、あるいは、引用発明1の積載ロボットにパレット供給機能を持たせるためのパレット把持ヘッドを設けたものを想起しうるにすぎず、本件特許発明2の、ロボットに設けられ、物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を把持し、これを箱内に収容する物品把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記物品把持ヘッドと選択使用され、上記箱を把持してこれをパレット上に積層載置する箱把持ヘッドとを備える構成に想到することは不可能というべきである。」(同20頁12行~21頁5行)と判断したが、その判断は誤りである。

すなわち、審決の判断は、引用発明2、3の各ロボットの具体的な構成に拘泥して、引用発明1の独立した2台のロボット(箱詰ロボットと積載ロボット)のそれぞれに引用発明2又は引用発明3のそれぞれ具体的な構成を組み込んだ結果を検討したにすぎない。しかしながら、引用発明2、3は、「共に1台のロボットに2つの機能を持たせた」(審決書21頁6~7行)ものであり、それぞれ別々の機能を有する2つのヘッドを1つのロボットに取り付けて、これを選択的に使用するという技術思想を開示したものである。このような技術思想の開示を引用発明1に適用すれば、1台のロボットによりケーサとパレタイザとして使用することができる箱処理装置を容易に想到し得るものである。審決は、この点の検討をしないで、本件特許発明が引用発明1~3から容易に想到し得ないとしたものであり、技術思想の組合せと本件特許発明の対比による容易想到性の判断を、具体的技術内容の組合せと本件特許発明の対比と混同して、誤った結論に至ったものである。

また、審決は、引用発明1につき、それが、2台のロボット(ケーサとパレタイザ又はデパレタイザとアンケーサ)を用いていたので大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという本件特許発明1、2の従来技術に当たることから、「本件特許発明の技術的課題を有しない。」(審決書15頁8~9行)とし、さらに、箱詰ロボットと積載ロボットの間に自動梱包機を配置する構成を採り、箱詰ロボットと積載ロボットとが空間的に離れた位置に存在していることから、「両ロボットの2つの機能を1台のロボットで実現するということを想起することも困難である」(同頁14~16行)と判断するが、いずれも誤りである。

すなわち、省スペース、省コストは、ロボットを用いた作業ラインにおいても常に求められるものであり、従来技術に内在する極めて一般的な技術課題であることが明らかである。

さらに、ある作業ラインの中の1つの作業ステーションを挟んだ2つ以上の作業ステーションで行われる作業を1つのロボットで行わせるということはロボット技術において極めて一般的に行われていることである。本件明細書に記載された本件発明の実施例においても、パレット供給位置と物品取出し位置の間に箱開放装置が配置された構成(甲第2号証5頁第1図)、及びケーサとパレタイザの間に箱閉鎖装置を位置させる構成(同号証7欄17~27行)が記載されているが、そのような構成にするための困難性やその解決手段に関する記載が全くない。このことは、箱の開放又は閉鎖という作業を挟んで1台のロボットが2種の作業を行う構成に何らの新規性又は進歩性がないことを示すものである。したがって、引用発明1の箱詰ロボットと積載ロボットの間に自動梱包機が配置されているからといって、両ロボットの2つの機能を1台のロボットで実現することを想起することが困難であるというものではない。

第4  被告の反論の要点

1  審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

2  取消事由について

原告は、別々の機能を有する2つのヘッドを1つのロボットに取り付けて、これを選択的に使用するという技術思想の開示を引用発明1に適用すれば、1台のロボットによってケーサとパレタイザとして使用することができる箱処理装置を容易に想到し得るとか、審決が、この点について検討をしていない等と主張するが誤りである。

すなわち、引用発明2、3は、引用発明1の積載ロボットに相当するものであるから、引用発明1に引用発明2又は引用発明3を適用するとしたら、引用発明1の積載ロボットに代えて引用発明2又は引用発明3の構成を採用することが当然であり、引用発明2又は引用発明3を、引用発明1の箱詰ロボットに代えて適用することができないことは明らかである。また、引用発明1に引用発明2又は引用発明3を適用するに当たって、引用発明1の箱詰ロボットと積載ロボットとを合体させるという発想も生じ得ない。

したがって、引用発明1に引用発明2を適用しても、引用発明1に引用発明3を適用しても、本件発明が得られないとした審決の判断に誤りはない。

また、本件発明の技術課題は、本件特許発明2でいえば、従来ケーサとパレタイザの2台のロボットを用いていたので大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという点にあるが、本件発明の従来技術が記載された引用例1にこの技術課題が示されていないことは明らかであるから、審決が、引用発明1につき、本件特許発明の技術的課題を有しないと判断したことに誤りはない。原告の主張する省スペース、省コストは、極めて一般的な技術課題であり、引用発明1においても当然に考慮されているものと考えられるが、このような普遍的な技術課題があるからといって、引用発明1に、上記の本件発明の具体的な技術課題が示されていることにはならない。

さらに、原告は、本件発明の実施例を挙げて、1つの作業ステーションを挟んだ2つ以上の作業ステーションで行われる作業を1つのロボットで行わせるということはロボット技術において極めて一般的に行われていると主張するが、本件発明の実施例に基づいて、引用発明1につき本件発明の構成を採用することが容易であるとする主張は無意味である。引用発明1が、従来ケーサとパレタイザの2台のロボットを用いていたので大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという本件発明の具体的技術課題を有していないことは上記のとおりであるが、これに加え、引用発明1の箱詰ロボット(ケーサ)と積載ロボット(パレタイザ)が、その間に自動梱包機が配置されているため、空間的に離れた位置に存在することによって、ケーサとパレタイザを1台のロボットとする発想を得ることはより困難となるものと考えられ、箱詰ロボットと積載ロボットの両ロボットの2つの機能を1台のロボットで実現するということを想起することも困難であるとした審決の判断に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由について

(1)  出願公告に係る本件発明の明細書(甲第2号証)には、「従来は、チューブ等の物品を箱内に収容するケーサと、このケーサによって物品が収容された箱をパレット上に積層載置するパレタイザとは別個に構成されており、それぞれの装着をロボットで構成する場合にも、それぞれ別個のロボットを用いていた。これはまた、パレット上に積層載置された箱を該パレット上から下ろすデパレタイザと、その箱内に収容されたチューブ等の物品を箱内から取出すアンケーサとについても全く同様であり、やはり2台のロボットを用いていたので大きなスペースを必要とするとともに高価となっていた。」(同号証3欄11~21行)、「本発明はそのような事情に鑑み、第1に、1台のロボットによってデパレタイザとアンケーサとして使用することができる箱処理装置を提供するもので、当該箱処理装置は、ロボットに設けられ、パレット上に積層載置された箱を把持してこれをパレットから下ろす箱把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記箱把持ヘッドと選択使用され、上記箱内の物品を把持してこれを箱内から取出す物品把持ヘッドと、この物品把持ヘッドによって箱内から取出された物品を受取ってこれを外部に搬出する物品搬送手段とを備えるものである。また本発明は、第2に、1台のロボットによってケーサとパレタイザとして使用することができる箱処理装置を提供するもので、当該箱処理装置は、物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、ロボットに設けられ、上記物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を把持し、これを上記箱内に収容する物品把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記物品把持ヘッドと選択使用され、上記箱を把持してこれをパレット上に積層載置する箱把持ヘッドとを備えるものである。」(同欄23~42行)、「前者の構成によれば、パレット上に積層載置された箱をロボットの箱把持ヘッドで把持してこれをパレットから下ろすことができ、また箱内の物品は当該ロボットに設けた物品把持ヘッドによって箱内から物品搬送手段へ受渡すことができる。他方、後者の構成によれば、物品搬送手段によって搬送されてきた物品をロボットの物品把持ヘッドで把持してこれを箱内に収容することができ、また箱は当該ロボットの箱把持ヘッドで把持してこれをパレット上に積層載置することができる。したがって、いずれの構成においても1台のロボットによって箱の積卸し作業と物品の出入れ作業とを行なうことができるので、従来に比較して装置全体の設置スペースを小さくすることができるとともに、安価に製造することができる。」(同3欄44行~4欄8行)との各記載がある。この各記載と前示本件発明の要旨とによれば、ロボットを用い、パレット上に積層載置された箱を下ろして、その箱から物品を取り出し、あるいは物品を箱内に収容して、その箱をパレット上に積層載置する箱処理装置の技術分野において、従来は、パレット上の箱を下ろす作業及び箱内から物品を取り出す作業においても、箱内へ物品を収容する作業及び箱をパレット上に積層載置する作業においても、それぞれの作業に適合した把持ヘッドを備えた別々の2台のロボット(前者についてはパレット上の箱を下ろすデパレタイザと箱内から物品を取り出すアンケーサ、後者については箱内へ物品を収容するケーサと箱をパレット上に積層載置するパレタイザ)により、その作業を行っていたため、装置全体を設置するために大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという技術課題が存在していたところ、本件発明は、その技術課題を解決することを目的として、パレット上の箱を下ろす作業に適合した把持ヘッドと箱内から物品を取り出す作業に適合した把持ヘッドとを選択使用可能に1台のロボットに備える構成を採用したもの(本件特許発明1)、及び箱内へ物品を収容する作業に適した把持ヘッドと箱をパレット上に積層載置する作業に適した把持ヘッドとを選択使用可能に1台のロボットに備える構成を採用したもの(本件特許発明2)であって、これにより、装置全体の設置スペースを小さくできるとともに、安価に製造できるという効果を奏するものであることが認められる。

(2)  他方、引用例1に、「3台の製造機<1>から一本のコンベアで運ばれてきた製品をロボット掴み位置にセットするための製品整列装置<2>と、自動製函機<10>と、製函された箱<12>を搬送するピッチ送りコンベア<11>と、製品を箱詰めする箱詰ロボット(トランスマンTRM-A)<3>と、該箱詰めロボットの後方に配置された自動梱包機<4>と、前記自動梱包機の後方に配置され、製品が箱詰めされた箱を自動パレット供給装置<6>から供給されたパレットに積載する積載ロボット(トランスマンTRM-AY)<5>と、パレット送りコンベア<7>とから構成された製品箱詰パレタイジングー環ライン」(審決書12頁7~18行)である引用発明1が記載されていることは当事者間に争いがない。

また、引用例2に、「印刷工場や製本工場においては、製品をパレット上に積み重ねて搬送しており、その際、パレット上にボール紙(底紙)をしき、その上に製品を積み、所定の高さまで達する(1段目)と、さらにボール紙(合紙)をのせ、また製品を積み上げ(2段目)て行き、決められたスペースにより多くの製品を安全に積み重ねるようにしているが、製品の積み重ね作業と底紙や台紙のしき作業の両者を1つの機械で両立させることが可能な産業用ロボットのハンドを得ることを目的として、製品7をその上下から把持するための、シリンダ21によって上下動され、製品の上面を押さえるための押さえ板28と製品の底面を押さえるフォーク16等から構成される把持手段と、底紙や合紙として使われるボール紙Sを吸引保持する、開閉するように設けられた一対のアーム35の先端に取り付けられたバキュームパッド42等により構成された吸引保持手段とを備え、把持手段と吸引保持手段を選択的に使用することにより、上記の如き2つの作業ができるようにした産業用ロボットハンド」(審決書13頁1行~14頁1行)である引用発明2が記載されていることは当事者間に争いがなく、引用例2(甲第4号証)には、引用発明2の実施例につき、「2台のロボットを使用することなく、印刷物7の積み重ね作業と合紙等のしき作業の両方を確実に行うことができ、能率的な作業が可能となり、経済的である」(同号証3頁右下欄10~13行)との作用効果を奏することが記載されている。

さらに、引用例3に、「パレット上に生ビール樽等の品物を荷積みする荷積みステーションに隣接してパレットが供給されるパレットステーション及び品物が供給される品物ステーションを配設し、荷積みステーションに立設した支柱と、該支柱に上下動可能に取り付けられた昇降体と、該昇降体に沿って上記各ステーション間を水平移動可動な移動体とを有しており、該移動体には昇降体に直交する水平方向で間隔をあけて設けられ開閉可能な一対のパレット把持用アームと、昇降体の長さ方向で間隔をあけて設けられ開閉可能な一対のガイド体及び同方向で移動可能なフオーク体からなる品物把持用手段とを設けたパレットと1段分の品物とを交互に積み重ねることができるパレット荷積み装置」(審決書14頁3~16行)である引用発明3が記載されていることは当事者間に争いがなく、引用例3(甲第5号証)には、さらに、「たとえば、生ビールの樽のような品物は、・・・そのままでは安定した積重ねが困難なこともあって、パレットと1段分の複数個の品物とを交互に積重ねて、最下部のパレットの他に各段の品物の間にパレットを介在させた状態に荷積みし、この状態で出荷され・・・る。」(同号証1頁右下欄3~15行)、「ところで、従来は、パレットと品物を交互に積重ねて多段に荷積みするのに適した装置が無く、パレット上に品物を1段だけ乗せたものをフォークリフトで多段に積重ねていた。本発明は、このような点に鑑みなされたもので、パレットと1段分の品物とを交互に積重ねることのできるパレット荷積み装置を提供するものである。」(同1頁右下欄17行~2頁左上欄4行)、「本発明のパレット荷積み装置は、パレットステーション2のパレットPの両側部に対し両側のフック体26を閉じて係合し、この両側のフック体26に係合したパレットPを移動体13の移動によって荷積みステーション1に移動した後、両側のフック体26を開いてパレットPを離し、また、品物ステーション3の品物Wの両側部に対し両側のガイド体32、35を閉じて当接するとともに、この品物Wの下部に対してフォーク体39を進出し、この品物Wを移動体13の移動によってフォーク体39ですくい上げて荷積みステーション1に移動した後、フォーク体39を品物Wの下部から退避することにより両側のガイド体32、35に沿って品物WをパレットP上に降ろすものである。」(同2頁右上欄1~14行)との各記載がある。これらの記載によれば、引用発明3は、従来、パレットと品物を交互に積み重ねて多段に荷積みするのに適した装置がなかったという課題を解決することを目的として、パレットを把持して所定の位置に積層載置するパレット把持用アームと、出荷物品を把持してパレットに積層載置する品物把持用手段とを単一のパレット荷積み装置に設ける構成を採用したものであって、これにより、パレットと1段分の物品とを交互に積み重ねることができるとの作用効果を奏するものと認められる。なお、引用例3(甲第5号証)の作動に関する説明の記載(同号証3頁左下欄2行~4頁右上欄17行)からみて、該パレット荷積み装置は、物品の搬送や積載を予め設定された制御情報に基づいて実行する自動装置であり、産業用ロボットに当たるものと認められる。

(3)  引用発明1が「箱詰ロボットと積載ロボットの2台のロボットを具備しているものであり、ケーサとパレタイザあるいはデパレタイザとアンケーサの2台のロボットを用いていたので大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという、本件特許発明1、2の従来技術そのもの」(審決書15頁2~8行)であることは当事者間に争いがなく、そうであれば、引用発明1が、前示本件発明の技術課題を有しておらず、また、その課題を解決する着想、手段を備えていないことは明らかである。

この点につき、原告は、省スペース、省コストが、ロボットを用いた作業ラインにおいても常に求められるものであり、従来技術に内在する極めて一般的な技術課題であると主張する。しかしながら、省スペース及び省コストの課題が、技術分野を限定しない普遍的な技術課題であることは公知の事実というべきであるが、それ自体、極めて一般的、かつ、抽象的な課題であるところ、産業用ロボットの技術分野において、それが何らかの課題対象を特定して、周知の具体的技術課題として顕在化しているような状況を窺うことはできない。それにもかかわらず、本件発明は、パレット上の箱を下ろす作業と箱内から物品を取り出す作業、あるいは箱内へ物品を収容する作業と箱をパレット上に積層載置する作業を、それぞれ別々の2台のロボットにより行っていたため、装置全体を設置するために大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという前示具体的技術課題を認識したうえ、その課題の解決手段を示したものであるから、本件発明において示された技術課題は、省スペース、省コストという程度の一般的抽象的な技術課題と同列に論じられるものではないし、また、箱詰ロボットと積載ロボットの2台のロボットを具備する引用発明1は、たとえ省スペース、省コストという程度の課題認識を有するとしても、本件発明において示された具体的技術課題を有するものということはできない。したがって、引用発明1につき「本件特許発明の技術的課題を有しない。」とした審決の判断に誤りはない。

(4)  しかしながら、引用例2に、製品の積重ね作業と底紙や台紙のしき作業の両者を1つの機械で両立させることを目的として、単一のロボットに製品把持手段と合紙等の吸引保持手段とを設け、この製品把持手段と合紙等の吸引保持手段とを選択的に使用して、単一のロボットで2つの作業を実行する技術が開示されていること、また、引用例3に、パレットと品物を交互に積み重ねて多段に荷積みするのに適した装置を得ることを目的として、単一のパレット荷積み装置(ロボット)にパレット把持用手段と品物把持用手段とを設け、このパレット把持用手段と品物把持用手段とを使用することにより、単一のロボットで2つの作業を実行する技術が開示されていることは、前示のとおりである。

そして、当業者が、このような引用例2、3に開示された技術を見た場合に、2つの異なる作業を単一のロボット装置で行うことを課題として、別個の作業機能を備えた2つの把持(保持)手段を単一のロボットに備えることにより、この2つの作業を単一のロボットで選択的に実行する技術思想を把握すること、及びそのようにすることに、当該2つの作業を別々の2台のロボットで行う構成と比較して、装置全体の設置スペースを小さくできるとともに、安価に製造することができるという技術的意義が存在するものと理解することは、容易なことであるものと認められる。

そうすると、引用例2、3に示された異なる作業を単一のロボット装置で行うとの技術課題は、前示本件発明の技術課題と共通するものということができ、かかる技術課題に基づいて、引用発明1の、箱詰ロボット(ケーサ)と積載ロボット(パレタイザ)の2台の別々のロボットを備える構成に代えて、引用例2、3に示された、別個の作業機能を備えた2つの把持(保持)手段を単一のロボットに備えることにより、2つの作業を単一のロボットで選択的に実行する技術思想に基づく構成として、物品把持ヘッドと箱把持ヘッドとを選択使用可能に1台のロボットに備える本件特許発明2の構成を採用することは、当業者において容易に想到することができるものと認められる。そして、そうした場合に、装置全体の設置スペースを小さくできるとともに、安価に製造することができるという作用効果を奏することは、当業者が容易に予測し得る程度のものである。

審決は、「引用発明1に引用発明2を適用すると、箱をパレットに積層載置する積載ロボットに引用発明2の吸引保持手段を付加した箱処理装置、即ち、・・・所定位置に搬入された物品を把持し箱内に収容する物品把持ヘッドを具備した箱詰ロボットと、箱を把持してパレット上に積載する箱把持ヘッドと底紙や台紙を積載する紙吸引保持ヘッドを具備し、両ヘッドを選択使用しうる積載ロボットを備えた箱処理装置に想到することができる。しかし、この箱処理装置は、依然として箱詰ロボットと積載ロボットを別々に有しており、本件特許発明2とは大きく異なる。」(審決書18頁18行~19頁11行)、「引用発明1に引用発明3を適用すると、物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、所定位置に搬入された物品を把持し箱内に収容する物品把持ヘッドを具備した箱詰ロボットと、箱を把持してパレット上に積載する箱把持ヘッドとパレットを積載するパレット保持ヘッドを具備し、両ヘッドを選択使用しうる積載ロボットを備えた箱処理装置に想到することができる。結局この箱処理装置も、依然として箱詰ロボットと積載ロボットを別々に有したものとなり、やはり本件特許発明2とは異なる。」(同19頁18行~20頁11行)と判断するが、該判断は、引用例2、3に開示された、特定の作業機能(積載機能)を備えた2つの把持(保持)手段を車一のロボットに設ける構成を、引用発明1の積載ロボットにそのまま適用し、その結果得られた構成が本件特許発明2の構成と異なる旨判断すうに止まるものであって、当業者が、引用例2、3に開示された技術を見た場合に、別個の作業機能を備えた2つの把持(保持)手段を単一のロボットに備えることにより、2つの作業を単一のロボットで選択的に実行する前示技術思想を把握し得ることにまで判断が及んでおらず、引用発明1に対する引用発明2、3の適用の仕方を誤ったものといわざるを得ない。

また、「引用発明1は、箱詰ロボットと積載ロボットの2台のロボットの間に自動梱包機を配置する構成を採っていることから、箱詰ロボットと積載ロボットとは、空間的に離れた位置に存在している」(審決書15頁10~14行)ことは当事者間に争いがないところ、審決は、このことから、「両ロボットの2つの機能を1台のロボットで実現するということを想起することも困難であるというべきである。」(同頁14~16行)と判断する。しかし、一般に、物品を箱詰めしてパレット上に積載する箱処理装置において、物品を箱内に収容した後に箱を梱包することを要するかどうか、また梱包するとしてもどの段階においてすることを要するかについては、様々な形態があり得るものと考えられ、自動梱包機を設置するかどうか、設置するとしてもどのように配置するかということは、これらの形態等に応じて適宜に選択することのできる事項にすぎないものと認められる。したがって、引用発明1に、引用例2、3に示された、別個の作業機能を備えた2つの把持(保持)手段を単一のロボットに備えることにより、2つの作業を単一のロボットで選択的に実行する技術思想を適用するに当たって、該自動梱包機の存在が妨げになるものということはできず、審決の前示判断は誤りというべきである。

そうすると、「引用発明1に引用発明2または引用発明3を適用しても、・・・本件特許発明2の、ロボットに設けられ、物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を把持し、これを箱内に収容する物品把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記物品把持ヘッドと選択使用され、上記箱を把持してこれをパレット上に積層載置する箱把持ヘッドとを備える構成に想到することは不可能というべきである。」(審決書20頁12行~21頁5行)とした審決の判断は誤りといわなければならない。

(5)  「本件特許発明1は、本件特許発明2がいわばケーサとパレタイザを1台のロボットに具備したものであるのに対し、それとは逆の流れの作業を実施するいわばデパレタイザとアンケーサを1台のロボットに具備したものである」(審決書22頁1~5行)ことは、当事者間に争いがない。

そして、前示のとおり、引用発明1~3に基づき、当業者において、本件特許発明2の物品把持ヘッドと箱把持ヘッドとを選択使用可能に1台のロボットに備える構成を採用すること、すなわち、ケーサとパレタイザを1台のロボットに具備する構成に想到することが容易であるとすれば、これとは逆の流れの作業を実施するいわばデパレタイザとアンケーサを1台のロボットに具備した本件特許発明1の構成に想到することも容易であるというべきであるから、「本件特許発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明(注、引用発明1~3)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。」とした審決の判断も誤りといわざるを得ない。

2  以上によれば、原告の本訴請求は理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成9年審判第3673号

審決

石川県金沢市示野町り69番地

請求人 新宅工業 株式会社

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区湯浅法律特許事務所

代理人弁理士 湯浅恭三

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区湯浅法律特許事務所

代理人弁理士 社本一夫

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区湯浅法律特許事務所

代理人弁理士 伊藤茂

石川県金沢市大豆田本町甲58番地

被請求人 澁谷工業 株式会社

東京都千代田区西神田2丁目7番14号 西神田ビル2F

代理人弁理士 神崎真一郎

上記当事者間の特許第1972976号発明「ロボットを備えた箱処理装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

Ⅰ.経緯および本件特許発明

1.経緯

本件特許第1972976号は、平成1年8月8日に出願され、平成6年12月14日に出願公告(特公平6-102462号)された後、平成7年9月27日に設定登録されたものである。

その後、平成9年3月6日に本件審判請求人により、特許無効の審判が請求され、それに対して、被請求人は、同年8月29日に答弁をしたものである。

2.本件特許発明

本件特許発明は、願書に添付した明細書と図面の記載からみて、特許請求の範囲の【請求項1】および【請求項2】に記載された次のとおりのものと認める。

【請求項1】ロボットに設けられ、パレット上に積層載置された箱を把持してこれをパレットから下ろす箱把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記箱把持ヘッドと選択使用され、上記箱内の物品を把持してこれを箱内から取出す物品把持ヘッドと、この物品把持ヘッドによって箱内から取出された物品を受取ってこれを外部に搬出する物品搬送手段とを備えることを特徴とするロボットを備えた箱処理装置。(以下「本件特許発明1」という。)

【請求項2】物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、ロボットに設けられ、上記物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を把持し、これを上記箱内に収容する物品把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記物品把持ヘッドと選択使用され、上記箱を把持してこれをパレット上に積層載置する箱把持ヘッドとを備えることを特徴とするロボットを備えた箱処理装置。(以下「本件特許発明2」という。)

Ⅱ.当事者の主張

1.請求人の主張

甲第1号証として、本件特許に係る出願前国内において頒布された、実用産業用ロボット技術便覧委員会編「実用産業用ロボット技術便覧」の部品の箱詰無人化一環作業の項(505~508頁、昭和60年4月11日、株式会社産業技術調査会発行)を、甲第2号証として、同じく上記の出願前国内において頒布された、特開昭59-24991号公報を、甲第3号証として、同じく上記の出願前国内において頒布された、特開昭63-17732号公報を提出して、本件特許発明1及び本件特許発明2のいずれも、次の理由により、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それら発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号(「第2号」の誤記)の規定により無効とすべきものである。

(1)本件特許発明2について

本件特許発明2は、甲第1号証には、本件特許発明2と同じ、インケーサ/パレタイザ・システム(物品の箱積め/パレット載置・システム)が開示されており、その相違点は 単に、『物品把持ヘッド』と『箱把持ヘッド』とが1つのロボットに取り付けられているか、2つのロボットに別々に取り付けられているかという点だけである。

しかしこのようなシステムの中で用いられる産業用ロボットの分野においては、別々の作業をなす2つのヘッド(または作業手段)を1つのロボットに取り付けて、選択的に使用することにより省コスト、省スペース等の効果を図ることは甲第2号証や甲第3号証に示される通り、極めて当然になされてきたことである。

換言すれば、甲第1号証のインケーサ/パレタイザ・システムに比較して、本件特許発明2には、インケーシングとパレタイジングという2つの作業を、1つのロボットで行わせるという設計上当然に望まれるような設計変更を行う上で、それに伴い生じていたかもしれない何らかの困難を克服したというような創意工夫は全く示されておらず、そのような希望的設計変更を行う上で必然的に生じる『物品把持ヘッドと箱把持ヘッドを1つのロボットに取り付ける』という点を規定しているだけのものであり、そこには発明に値するなにものもないことは明らかである。

よって、本件特許発明2は、甲第1号証乃至甲第3号証に基づき、当業者が容易に考え得たものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。

(2)本件特許発明1について

本件特許発明1は、本件特許発明2がインケーサ/パレタイザ・システム(物品の箱積め/パレット載置・システム)であるのに対して、作業の流れがこのシステムと逆のデパレタイザ/アンケーサ・システム(パレットからの箱下ろし/箱からの物品取り出し・システム)に関するものであり、基本的には、甲第1号証に記載されているシステムの流れを逆にしたものと同じである。甲第1号証との実質的な相違点は、本件特許発明2との対比の場合と同様に、『物品把持ヘッド』と『箱把持ヘッド』とが1つのロボットに取り付けられているか、2つのロボットに別々に取り付けられているかという点だけである。

この点は、本件特許明細書における次の記述からも明らかである。

『また、上記実施例は、パレット上から箱を荷卸すデパレタイザと箱内から容器等の物品を取出すアンケーサとして使用することができる箱処理装置に本発明を適用したものであるが、他の実施例として、箱内に物品を収容するケーサと、この箱をパレット上に積層するパレタイザとして使用することができる箱処理装置に本発明を適用することができる。

この場合には、(略)上述した作業と逆の作業を行わせればよい。そのような構成や作動は、当業者にとって図示するまでもなく理解できると思われるので、図示することは省略する。(14頁20行~15頁15行))』

『物品把持ヘッド』と『箱把持ヘッド』とを1つのロボットに取り付けるという点に発明性もしくは進歩性のないことは、本件特許発明2に関して論述した通り、甲第2号証及び甲第3号証等に開示の先行技術から判断しても明らかである。

よって、本件特許発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証に基づき、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。

2.被請求人の答弁

請求人は、甲第1号証にケーサとパレタイザが開示されているので、甲第2号証及び甲第3号証に示されているように、1台のロボットでインケーサとパレタイザとの2つの作業を行なわせることは、発明に値するものではないと主張している。

しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証に記載された機械はいずれも単一の機械であるパレタイザであり、インケーサとパレタイザのように全く別個の作業を行なうものではない。そして、甲第2号証と甲第3号証とのそれそれが複数のヘッドを有しており、しかも各ヘッドが異なる作業を行なうとしても、それらヘッドは協働して全体として1つのパレタイザとしての機能を果たすに過ぎないものである。

つまり甲第2号証及び甲第3号証に記載された機械は、複数のヘッドが異なる作業を行なうことによって、初めてパレタイジングという1つの作業が完成されるもので、1つのヘッドによる作業のみでは、パレタイジングという作業が完成されるものではない。

もう少し詳細に述べれば、甲第2号証においては印刷物7とボール紙Sとを交互に積み上げるようになっており、また甲第3号証においてはパレットP上に物品を積み上げるようになっている。つまり甲第2号証も甲第3号証も、種類の異なる第1物品(印刷物7、パレットP)と第2物品(ボール紙S、物品)とを組合わせることによって1つのバレタイジング作業を完結するものである。

これに対して本件特許発明2においては、「物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を把持し、これを上記箱内に収容する」というケーシング作業と、「上記箱を把持してこれをパレット上に積層載置する」というパレタイジング作業とを行なうようになっている。

つまり本件特許発明が、1台のロボットで物品を処理(ケーシング)し、次にその処理した物品について更に他の処理(パレタイジング)を施すという2つの処理工程を必要とするのに対し、甲第2号証及び甲第3号証では単に物品を積み上げるという1つの処理(パレタイジング)で完結している。したがって本件特許発明の処理工程と、甲第2号証及び甲第3号証の処理工程とは、全く異質な処理工程となっている。

ところで、上記甲第1号証ないし甲第3号証は本件特許の出願前に公知になっているので仮に、甲第1号証と甲第2号証又は甲第3号証とを寄せ集めるとしたら、甲第1号証のパレタイザ(トランスマンTRM-AY<5>)として、甲第2号証に記載のパレタイザ又は甲第3号証に記載のパレタイザを用いることになるものと解される。

換言すれば、甲第1号証ないし甲第3号証を注意深く読んだとしても、そこには甲第1号証のケーサ(トランスマンTRM-A<3>)とパレタイザ(トランスマンTRM-AY<5>)とを1つの機械にまとめようとする示唆は、全く認められない。特に甲第1号証においては、ケーサ(トランスマンTRM-A<3>)とパレタイザ(トランスマンTRM-AY<5>)との間に自動梱包機<4>を備えており、この自動梱包機<4>を挟んでいるケーサ(トランスマンTRM-A<3>)とパレタイザ(トランスマンTRM-AY<5>)とを1つの機械にまとめようとする発想を得ることは、より困難になっているものと思慮される。

以上を要するに、本件特許発明2は、従来、相互に独立した別個の機械と考えられていたケーサとパレタイザとを1つの機械にまとめようという発想でなされたもので、そのような発想を全く得ることができない甲第1号証ないし甲第3号証から本件発明を容易に発明することは、当業者であっても困難なことと解される。

また、デパレタイザとアンケーサとを1つの機械にまとめてなる本件特許発明1を、デパレタイザもアンケーサも開示されていない甲第1号証ないし甲第3号証から容易に発明することは、一層困難なことである。

よって、本件特許を無効とするべきであるとする請求人の主張は到底認められるものではない。

Ⅲ.甲各号証に記載された発明

1、甲第1号証に記載された発明

3台の製造機<1>から一本のコンベアで運ばれてきた製品をロボット掴み位置にセットするための製品整列装置<2>と、自動製函機<10>と、製函された箱<12>を搬送するピッチ送りコンベア<11>と、製品を箱詰めする箱詰ロボット(トランスマンTRM-A)<3>と、該箱詰めロボットーの後方に配置された自動梱包機<4>と、前記自動梱包機の後方に配置され、製品が箱詰めされた箱を自動パレット供給装置<6>から供給されたパレットに積載する積載ロボット(トランスマンTRM-AY)<5>と、パレット送りコンベア<7>とから構成された製品箱詰パレタイジング一環ライン。(以下「引用発明1」という。)

2、甲第2号証に記載された発明

印刷工場や製本工場においては、製品をパレット上に積み重ねて搬送しており、その際、パレット上にボール紙(底紙)をしき、その上に製品を積み、所定の高さまで達する(1段目)と、さらにボール紙(合紙)をのせ、また製品を着み上げ(2段目)て行き、決められたスペースにより多くの製品を安全に積み重ねるようにしているが、製品の積み重ね作業と底紙や台紙のしき作業の両者を1つの機械で両立させることが可能な産業用ロボットのハンドを得ることを目的として、製品7をその上下から把持するための、シリンダ21によって上下動され、製品の上面を押さえるための押さえ板28と製品の底面を押さえるフォーク16等から構成される把持手段と、底紙や合紙として使われるボール紙Sを吸引保持する、開閉するように設けられた一対のアーム35の先端に取り付けられたバキュームパッド42等により構成された吸引保持手段とを備え、把持手段と吸引保持手段を選択的に使用することにより、上記の如き2つの作業ができるようにした産業用ロボットハンド。(以下「引用発明2」という。)

3、甲第3号証に記載された発明

パレット上に生ビール樽等の品物を荷積みする荷積みステーションに隣接してパレットが供給されるパレットステーション及び品物が供給される品物ステーションを配設し、荷積みステーションに立設した支柱と、該支柱に上下動可能に取り付けられた昇降体と、該昇降体に沿って上記各ステーション間を水平移動可動な移動体とを有しており、該移動体には昇降体に直交する水平方向で間隔をあけて設けられ開閉可能な一対のパレット把持用アームと、昇降体の長さ方向で間隔をあけて設けられ開閉可能な一対のガイド体及び同方向で移動可能なフオーク体からなる品物把持用手段とを設けたパレットと1段分の品物とを交互に積み重ねることができるパレット荷積み装置。(以下「引用発明3」という。)

Ⅳ.当審の判断

1、本件特許発明2について

本件特許発明2と引用発明1乃至引用発明3とを比較する。

(1)上述したとおり、引用発明1は、箱詰ロボットと積載ロボットの2台のロボットを具備しているものであり、ケーサとパレタイザあるいはデパレタイザとアンケーサの2台のロボットを用いていたので大きなスペースを必要とするとともに高価となっていたという、本件特許発明1、2の従来技術そのものであり、本件特許発明の技術的課題を有しない。

また、引用発明1は、箱詰ロボットと積載ロボットの2台のロボットの間に自動梱包機を配置する構成を採っていることから、箱詰ロボットと積載ロボットとは、空間的に離れた位置に存在しているから、両ロボットの2つの機能を1台のロボットで実現するということを想起することも困難であるというべきである。

したがって、引用発明1は本件特許発明2の技術的課題を有しておらず、それを示唆するものでもないから、本件特許発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)次いで、引用発明2及び引用発明3は、共に1台のロボットに2種類の機能を持たせたものであるので、これらについて併せて検討する。

引用発明2が具備する把持手段は、印刷物等の物品を把持してパレットに積み上げるものであることからみて、物品をパレット上に積層載置する物品把持ヘッドとみることができ、引用発明2が具備する吸引保持手段は、底紙や台紙等の物品をパレットに積み上げるものであることからみて、物品をパレット上に積層載置する物品吸引保持ヘッドとみることができる。

この印刷物等の物品及び底紙や台紙等の物品が、箱内に収容されたものではないことは明らかであるから、上記物品把持ヘッドと物品吸引保持ヘッドば、本件特許発明2の箱をパレット上に積層載置する箱把持ヘッドということはできない。

また、引用発明2は、本件特許発明2の物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を箱内に収容する物品把持ヘッドを有しないことも明らかである。

したがって、引用発明2は、いずれも箱詰めされていない物品をパレット上に積層載置する2つのヘッドを具備しているものであるが、本件特許発明2の物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を箱内に収容する物品把持ヘッド及び箱をパレット上に積層載置する箱把持ヘッドを具備するものではない。

更に、引用発明3についてみると、引用発明3が具備するパレット把持用アームは、パレットを品物の上に積み重ねるものであることからみてパレット積み重ねヘッドであり、また、同じく具備する品物把持用手段は、品物をパレットの上に積み重ねるものであることからみて品物積み重ねヘッドであるといえる。

したがって、引用発明3は、ものを積み重ねる2つのヘッドを具備するものの、本件特許発明29物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を箱内に収容する物品把持ヘッドと箱をパレット上に積層載置する箱把持ヘッドを有するものではない。

したがって、本件特許発明2は、物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を箱内に収容する物品把持ヘッドと箱をパレット上に積層載置する箱把持ヘッドの両者を具備するものではない、引用発明2、引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)続いて、引用発明1に引用発明2を具体的に適用した場合について考察する。

引用発明1は、箱を底紙や台紙を介してパレット上に積層載置するものではないので、引用発明2の吸引保持手段に対応する手段を全く有していない。

また、引用発明2の把持手段は、印刷物等の物品を把持してパレットに積み上げるものであることからみて、引用発明1の積載ロボットに対応するものである。

そこで、この引用発明1に引用発明2を適用すると、箱をパレットに積層載置する積載ロボットに引用発明2の吸引保持手段を付加した箱処理装置、即ち、物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、所定位置に搬入された物品を把持し箱内に収容する物品把持ヘッドを具備した箱詰ロボットと、箱を把持してパレット上に積載する箱把持ヘッドと底紙や台紙を積載する紙吸引保持ヘッドを具備し、両ヘッドを選択使用しうる積載ロボットを備えた箱処理装置に想到することができる。

しかし、この箱処理装置は、依然として箱詰ロボットと積載ロボットを別々に有しており、本件特許発明2とは大きく異なる。

(4)引続いて、引用発明1に引用発明3を具体的に適用した場合について考察する。

引用発明3の昇降体の長さ方向で間隔をあけて設けられ開閉可能な一対のガイド体及び同方向で移動可能なフオーク体からなる品物把持用手段は引用発明1の積載ロボットに、引用発明3のパレット把持用アームは引用発明1の自動パレット供給装置に、それぞれ対応するものであるから、引用発明1に引用発明3を適用すると、物品を所定位置に搬入する物品搬送手段と、箱を所定位置に搬入する箱搬送手段と、所定位置に搬入された物品を把持し箱内に収容する物品把持ヘッドを具備した箱詰ロボットと、箱を把持してパレット上に積載する箱把持ヘッドとパレットを積載するパレット保持ヘッドを具備し、両ヘッドを選択使用しうる積載ロボットを備えた箱処理装置に想到することができる。

結局この箱処理装置も、依然として箱詰ロボットと積載ロボットを別々に有したものとなり、やはり本件特許発明2とは異なる。

以上を要するに、引用発明1に引用発明2または引用発明3を適用しても、引用発明1の積載ロボットに紙を積載する機能を持たせるための紙吸引保持ヘッドを付加したもの、あるいは、引用発明1の積載ロボットにパレット供給機能を持たせるためのパレット把持ヘッドを設けたものを想起しうるにすぎず、本件特許発明2の、ロボットに設けられ、物品搬送手段によって所定位置に搬入された物品を把持し、これを箱内に収容する物品把持ヘッドと、上記ロボットに設けられて上記物品把持ヘッドと選択使用され、上記箱を把持してこれをパレット上に積層載置する箱把持ヘッドとを備える構成に想到することは不可能というべきである。

(5)なお、引用発明2と引用発明3は、共に1台のロボットに2つの機能を持たせたものにすぎないから、引用発明1に引用発明2と引用発明3を適用しても、箱把持ヘッドを有する引用発明1の積載ロボットに、パレット供給機能を持たせるためのパレット把持ヘッドと、紙を積載する機能を持たせるための紙吸引保持ヘッドとを設け、1台のロボットに3つの機能を持たせたものに想到することは不可能であるから、結局上記(3)の構成又は上記(4)の構成に至るを限度とする。

したがって、本件特許発明2は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

2、本件特許発明1について

本件特許発明1は、本件特許発明2がいわばケーサとパレタイザを1台のロボットに具備したものであるのに対し、それとは逆の流れの作業を実施するいわばデパレタイザとアンケーサを1台のロボットに具備したものであるということができる。

上述したように、本件特許発明2が、ケーサとパレタイザを1台のロボットに具備した構成において、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない以上、それとは逆の流れの作業を実施するいわばデパレタイザとアンケーサを1台のロボットに具備した構成に想到することも不可能というべきである。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない

Ⅴ.結語

以上のとおりであるから、本件特許発明1、本件特許発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということはできないので、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成10年3月18日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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