東京高等裁判所 平成10年(行ケ)139号 判決 1998年12月24日
岡山県浅口郡鴨方町大字六条院東3294番地の1
原告
かも川株式会社
代表者代表取締役
虫明茂松
訴訟代理人弁理士
森廣三郎
岡山県浅口郡鴨方町大字六条院中2965番地
被告
岡山手延素麺株式会社
代表者代表取締役
横山順二
訴訟代理人弁護士
丹羽一彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 原告が求める裁判
「特許庁が平成8年審判第19008号事件について平成10年3月25日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
第2 原告の主張
1 特許庁における手続の経緯
被告は、別紙A表示の構成からなり、旧32類「加工食料類 その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第2620403号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。なお、本件商標は、平成元年3月20に登録出願され、平成6年1月31日に商標権設定の登録がされたものである。
原告は、平成8年11月6日に本件商標の商標登録を無効にすることについそ審判を請求した。特許庁は、これを平成8年審判第19008号事件として審理した結果、平成10年3月25日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年4月13日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおり(審決の「被請求人商標」は、別紙B表示のものである。以下「被告商標」という。)
3 審決の取消事由
審決は、本件商標の登録出願当時、原告の名称の略称である「かも川」が著名であったとは認められず、また、「かも川」の商標が原告のみの業務に係る商品の表示として認識されていたとも考えがたい旨説示しているが、誤りである。
(1)すなわち、「かも川」の標章は、原告が製造販売する麺類のほとんどすべてに付されており、また、郵政省の「ふるさと小包」のカタログ等にも表示されていることから明らかなように、原告によって、大量、広範囲、かっ、長期間にわたり使用されてきたものである。とりわけ、昭和63年のお年玉付き年賀はがきの3等賞品に原告の商品が採用されたことによって、「かも川」の標章が付された素麺は、全国的に広告されたのである。
(2)また、原告及び被告ほか1社は、素麺の製造販売を目的とする企業グループを形成しているが、原告は、被告らに先がけて、うどん、冷麦、そば、めんつゆの製造を開始し、「かも川」の標章を付したうえ、郵政省の「ゆうパック」による通信販売によって、大量の商品の販売に成功している。
(3)なお、原告は、平成元年に、食品業界において名誉とされている「食品産業技術功労賞」を受賞した。
(4)以上の事実によれば、「かも川」の標章は、原告の業務に係る商品の表示として、本件商標の登録出願前に著名となっていたことが明らかであるが、それに伴って、本件商標の登録出願当時、原告の名称から「株式会社」を省いた略称としての「かも川」が著名であったことに疑問の余地はない。
第3 被告の主張
原告の主張1、2は認めるが、3(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。
原告の主張は、要するに、原告がその製造する商品に「かも川」の標章を付して、大量に販売しているということに帰着する。しかしながら、この事実は、本件商標の登録出願当時、原告の名称の略称としての「かも川」が著名であったことを裏付けるものではない。
すなわち、原告が被告商品の販売を目的として設立された昭和56年8月当時、被告商標は、既に、被告の業務に係る麺類を表示するものとして、岡山県、広島県及び愛媛県において周知となっており、原告は、その製造する商品に、被告の許諾を得て、被告商標を付していたにすぎない。したがって、原告の商品に付された「かも川」の標章が、原告の名称の略称と認識されるような状況は、全く存在しなかったのである。
理由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由)は、被告も認めるところである。
第2 原告は、「かも川」の標章は、原告の業務に係る商品の表示として、本件商標の登録出願前に著名となっており、それに伴って、本件商標の登録出願当時、原告の名称の略称としての「かも川」も著名であったことに疑問の余地はない旨主張する。
これに対して、被告は、原告はその製造する商品に既に被告の業務に係る麺類を表示するものとして周知となっていた被告商標を付していたにすぎないから、「かも川」の標章が原告の名称の略称と認識されるような状況は存在しなかった旨主張する。
そこで、検討すると、乙第1ないし第6号証によれば、次の事実が認められる。
a 被告の前代表者(横山明之)、原告代表者、藤原寅太郎(かも川手延素麺株式会社(以下「訴外会社」という。)の前代表者)及び株式会社赤沢商店は、昭和38年1月に細物乾麺(素麺)の製造販売を目的とする被告を設立したこと
b 被告は、設立当初から、その製造する素麺に「かも川」の標章を使用していたが、昭和46年6月15日、「素麺」を指定商品とする被告商標について商標権設定の登録を受け、被告商標の使用を始めたこと
c 横山明之、原告代表者及び藤原寅太郎は、昭和47年に、太物乾麺(うどん、冷麦)の製造を目的とする訴外会社を設立したこと
d 訴外会社は、被告の許諾を得て、その製造する商品に被告商標を使用してきたこと
e その結果、原告が設立される昭和56年8月以前に、少なくとも岡山県を中心とする地域において、被告商標は、麺類の取引者・需要者の間で、被告及び訴外会社の業務に係る麺類の表示として、周知となっていたこと
f 横山明之、原告代表者及び藤原寅太郎は、昭和56年8月、被告商品の販売を目的として、原告を設立したこと
以上のような経過自体は、原告の争わないところと考えられるが、このような経過のもとに、原告が、その製造する商品に「かも川」の標章を使用すれば、少なくとも岡山県を中心とする地域の麺類の取引者・需要者(特に、需要者)が、これを、既に周知となっている被告商標の使用であると認識するのは、極めて当然のことというべきである。なお、麺類の需要者は、商品に付されている標章(商標)には注目しても、その製造元、発売元等の表示には注目しないのが通例であることを考えれば、麺類の需要者が、原告の商品に付されている「かも川」の標章を、新たに設立された原告の名称の略称と認識するという状況は、特段の事情のない限り、想定することができないというべきである。そして、原告が、その後の企業努力によって、「かも川」の標章を付した商品の大量販売に成功した事実、あるいは、「食品産業技術功労賞」を受賞した事実は、上記特段の事情に当たるとは認め難く、上記の認定判断を左右するとは解されない。
したがって、本件商標の登録出願当時、原告の名称の略称としての「かも川」が著名であったと認めることはできないから、本件商標が商標法4条1項8号の規定に該当する旨の原告の主張は、採用の余地がないものである。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成10年11月17日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)
別紙A
<省略>
別紙B
<省略>
理由
1.本件登録第2620403号商標(以下「本件商標」という。)は、別紙に表示したとおりの構成よりなり、第32類「加工食料品、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成1年3月20日登録出願、平成5年5月10日登録査定、平成6年1月31日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
2.請求人は、「本件商標は、無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を概略次のように述べ、その証拠方法として甲第1号証乃至同第11号証(枝番を含む。)を提出している。
(1) 本件商標は、その登録出願時、及び登録査定時のいずれの時点においても、商標権者たる被請求人とは他人の関係にある請求人の名称「かも川株式会社」における著名な略称「かも川」を含む商標に該当しており、かつ、請求人の承諾を得ることなく登録されたものである。
したがって、その商標登録は、商標法第4条第1項第8号に違反してなされたものであるから、商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
<1>請求人の名称について
請求人は、昭和56年8月7日に設立登記されて以来、現在に至るまで「かも川株式会社」の名称を商号として使用しており、現住所地において「そうめんのめん」、「うどんのめん」、「ひやむぎ」等の麺類や麺つゆの製造販売を継続して行ってきた(甲第3号証及び同第4号証)。
そして、請求人は、昭和59年頃から麺類の一層の普及を図るべく麺類の頒布会を始め、郵政省の「ゆうパック」特に「ふるさと小包」を用いた通信販売を中心として商品の全国展開を積極的に行っている(甲第5号証)。
前記「ゆうパック」を利用した商品の通信販売は、昭和63年には中国地方第1位の小包取扱量を誇るまでに成長し(甲第5号証の26)、同年の郵政省お年玉付き年賀はがきの三等賞品には請求人の商品(そうめん)が選ばれた(甲第5号証の31)。又、平成3年の「敬老の日ゆうパック」では取扱量が、全国第1位となっている(甲第5号証の36)。請求人によるこうした郵政事業への積極的な貢献が評価され、昭和62年6月には、中国郵政局長から、平成3年5月には郵政大臣からそれぞれ感謝状を受けている(甲第6号証及び同第7号証)。又、平成1年には、手延うどんの開発と普及によって食品産業の発展に貢献したとして「食品産業技術功労賞」を受賞している(甲第8号証)。
請求人による最近7年間の麺類生産量も相当な量に達しており、特に「手延うどん」の生産量は全国一を誇っている(甲第9号証及び同第10号証)。
このように、請求人は一貫して「かも川株式会社」の名称の下に麺類の製造を行ってきたのであり、しばしば「株式会社」等の組織名が略されるという取引界の慣習に違わず、請求人も「かも川」の略称にて親しまれてきた結果、麺類に関して「かも川株式会社」及びその略称「かも川」は、遅くとも請求人の商品が郵政省お年玉付き年賀はがきの三等賞品に選ばれた昭和63年頃には全国的に周知・著名になっていたと認められるのである。
<2>本件商標について
本件商標は、その商標公報(甲第2号証)に示されるように、左右に雲竜の図形をあしらった枠状の図形内中央に太い毛筆体で「かも川」と縦書きされ、その左側に小さく縦書きされた「備中特産」の文字を付してなる商標であり、前記請求人の名称「かも川株式会社」における略称「かも川」を一部に含んだ商標であることは明らかである。
又、前述のように、請求人の名称「かも川株式会社」及びその略称「かも川」は、遅くとも昭和63年頃には全国的に周知・著名になって現在に至っているのであるから、本件商標は、その登録出願時である平成1年3月20日、及び登録査定時である平成5年5月10日のいずれの時点においても請求人の著名な略称である「かも川」を含んだ商標に該当していたことが明らかである。
さらに、商標法第4条第1項第8号における「他人」とは、自己以外のもので現に日本国に現存する法人等をいうところ、請求人とは別法人である被請求人「岡山手延素麺株式会社」が本件商標の登録を受けることについて請求人の承諾を得てはいない。
(2)被請求人は答弁書において、甲第4号証以下の証拠は、請求人が「かも川」の文字を商標として使用してきたことを示しているにすぎず、「かも川」の文字が常に請求人の商号として固定していたと認められる証拠ばないと反論し、それ故「かも川」の文字が請求人の商号の略称として「著名」であるとは認められない旨を主張しているが、このような被請求人の主張に対して、請求人は以下のとおり反論する。
<1>先ず、被請求人は、請求人が甲第4号証として提出した会社案内には「かも川」の文字が請求人の商号の略称であることを窺わせるものは皆無であると主張している。
しかしながら、そもそも請求人の商号における「株式会社」の部分は、一般取引者保護のために法人の種類を示すよう法律上要求されているにすぎないものであるから、その社会的存在としての特定に必要不可欠な要部は、その部分を除いた「かも川」であることは明白である。したがって、日常生活において請求人を他の法人等の社会的存在から区別するため、すなわち特定の必要上、請求人を称呼する場合には、「株式会社」という法人の種類を示す部分を省いて単に「かも川」と呼ばれるのが常であるから、「かも川」の文字が請求人の商号の略称であることに疑問の余地はない。
したがって、甲第4号証において「かも川」の文字が請求人の商号の略称であるとの積極的記載は皆無であっても、「かも川株式会社」の使用によって同時に重畳的に請求人の略称「かも川」もが使用されているといえるのである。
被請求人は、「かも川」の文字を請求人の商号の略称としてではなく、その商品の商標としての使用に終始している旨を主張するが、商標が商号の略称に一致するということは、商標がハウスマークとして機能することにより商品とその商品主体とを強固に結びつけるのであって、商標を使用すればするほどに商号の略称も有名となり、商号又はその商号の略称を使用すればするほどに商標も有名となるといった相乗効果を奏するのであるから、請求人の商号「かも川株式会社」全体として周知著名となれば、畢竟その略称である「かも川」も周知著名となるのである。
又、被請求人は、商標法第4条第1項第8号において求められる商号の略称の「著名性」につき、判例を指摘して全国的な著名性が求められるかのように主張するが、当該判例の評価は多様に分かれている(甲第11号証)。人格権保護を主目的とする本号の規定の趣旨からすれば、特定の造語から構成された商号であって会社の種類を示す文字のみを欠く略称の場合は、最も低度の「著名性」をもって十分であるとする見解が妥当である。そうだとすれば、昭和63年には中国地方第1位の「ゆうパック」取扱量となり、同年のお年玉年賀はがきの三等賞品に選ばれ、以後も特に手延べうどんの分野において業界をリードしている事実をもってすれば、請求人の商号の略称「かも川」が「著名性」を獲得していたことは明白である。
<2>次に、請求人は、甲第5号証の1等は「かも川」や「かも川そうめん」等が請求人の商標として使用されていることを示しているだけであって、「かも川」の文字を請求人の商号の略称として使用している証拠とはならない旨を主張している。
しかしながら、甲第5号証の1としそ堤出した頒布会カタログの表題は「かも川の麺」であり、この表題が商標としての「かも川」のみならず商号の略称として「かも川(株式会社が製造販売する)麺」なる意味をも有することは明らかである。
同様に、被請求人が指摘する甲第5号証の2乃至13、16、22、23、26及び34においても、「かも川の麺」、「岡山かも川の麺普及会」、「かも川が自信をもってお届けする」、「かも川(株)」、「かも川の味な麺々」、「備中手延本舗/かも川」及び「かも川特選ご進物・ご贈答用特集」というように「かも川(株式会社が製造販売する)麺」等であることを示した記載が明記されており、これらの印刷物において請求人の商号の略称「かも川」もが使用されていることは明らかである。又、甲第5号証の14乃至39においても、商品の製造販売元たる「かも川株式会社」の名称表示とともに、説明文中等において「かも川(株式会社の)」といった請求人の略称を意味する表現が使用されている。
そして、甲第6号証及び同第7号証では、「ふるさと小包」等を利用した通信販売を通じて請求人が郵政事業に対していかに多大な貢献をしているかが証されているのであって、換言すれば、郵便によって請求人の名称「かも川株式会社」がいかに全国規模で拡散されているかが窺われるのであるし、又、食品産業界への貢献が評価された甲第8号証も、請求人が関係業界内で一定の地位を確立していることを証明するものである。
請求人の製造販売する商品の供給量が多ければ多いほど請求人の名称、ひいてはその略称である「かも川」が商品の取引者・需要者間において周知著名となることは必然であり、この意味で、麺類生産量を示す甲第9号証は間接的に請求人の略称「かも川」の著名性を証明しているのである。そしてグルメ雑誌の紹介記事たる甲第10号証では、専門誌の取材を受けるほどに請求人の商号乃至商標が著名であることが示されているのである。
<3>請求人が被請求人の販売会社として設立されたということは、各自が別個独立に活動を始めるまでは請求人のみが取り引きの表舞台に立っていたことを意味する。そして、請求人と被請求人とが独自の営業活動を開始した後も請求人と被請求人は各々が自己の名称を製造販売表示として併記しながら商標「かも川」を使用してきたのであるから、たとえ商標権者が被請求人であるとしても、権利主体のいかんにかかわらず、取引者・需要者間においては「かも川(株式会社)のかも川うどん」等として永年親しまれてきたのであり、したがって、「かも川」は請求人の名称の略称としても周知著名であったといえるのである。
(3)以上述べたように、甲第4号証乃至甲第10号証によって、請求人の商号「かも川株式会社」の略称たる「かも川」が本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれの時点においても周知著名であることが明らかであるから、請求人の承諾を得ることなく登録された本件商標は商標法第4条第1項第8号に違反してなされたものであり、その登録は、商標法第46条第1項第1号によって無効とされるべきである。
3.被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と答弁し、その理由を概略次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第6号証を提出しているものである。
(1)本件商標は以下に述べる理由から、商標法第4条第1項第8号に該当するものでなく、その登録は商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきではない。
<1> 株式会社の商号から株式会社を除いた部分は、請求人が認めるとおり、商標法第4条第1項第8号にいう「他人の名称の略称」にあたり、かかる略称を含む商標は、当該略称が当該株式会社を表示するものとして「著名」であるときに限り、商標登録を受けることができない(最判昭和57年11月12日民集36巻11号2233頁)。この場合の「著名」とは、一地方のものでは足らず全国的なものでなければならない(東京高判昭和56年11月5日無体集13巻2号793頁。上記最高裁判決は該高裁判決の上告審判決であり、「原蕃の判断を正当として是認することができる」としている)。この点、請求人は、本件商標には「かも川」が含まれるが、本件商標の登録出願時である平成1年3月20日、及び登録査定時である平成5年5月10日のいずれの時点においても、「かも川」は請求人の著名な略称であったと主張する。
しかし、次に述べるとおり、請求人は「かも川」の文字を商標として使用してきており、「かも川」の文字が常に請求人の商号の略称として固定していたものと認められる証拠はなく、この文字を使用しても、必ずしも請求人の商号の略称を使用したものとは断定できず、したがって、「かも川」の文字が請求人の商号の略称として「著名」であるとは認められない。
<2> 甲第4号証は請求人の会社案内だが、これには「かも川」の文字が請求人の商号の略称であることを窺わせるものは皆無で、むしろ「かも川」は、その商品の商標としての使用に終始している。
甲第5号証の1においては、「かも川」、「かも川そうめん」、「かも川素麺」、「かも川うどん」及び「かも川ひやむぎ」が、請求人の商品の商標として使用されていることを示しており、「かも川」の文字を請求人の商号の略称ではなく、その商品の商標として使用している。
甲第5号証の2乃至4には、請求人の商号の略称の記載はなく、むしろ、甲第5号証の1と同様、「かも川」、「かも川そうめん」、「かも川素麺」、「かも川うどん」及び「かも川ひやむぎ」の文字が商品名又はその商標として使用されている。
甲第5号証の2乃至13、16、22、23、26及び34は、いずれも「桃太郎友の会」による「かも川」商標の麺の宣伝資料であって、「かも川」が請求人の商号「略称」を示すものではない。
甲第5号証の14乃至39をそれぞれ検討しても、いずれも請求人の商品カタログ又はパンフレットであって、しかも「かも川」の文字は商標として使用しているにすぎず、これが請求人の商号の略称を示すものとしては用いられていない。
甲第6号証及び同第7号証は、いずれも「かも川」が請求人の商号の略称であることを示す証拠とは全くなり得ない。
甲第8号証においては、「備中手延うどん『かも川』の開発と普及」との記載があり、「かも川」の文字が商標として認識されていることが窺われる。
甲第9号証及び同第10号証も請求人の主張を裏付ける証拠とはなり得ない。
<3> なお、被請求人は昭和38年1月21日に設立され、以来「かも川」商標の「そうめん」を製造販売してきており、又「うどん」「ひやむぎ」も同じ「かも川」商標で製造販売し今日に至っている。「かも川」商標は被請求人の商品の商標として周知となった。その後昭和56年8月7日に至って請求人は被請求人の「かも川」商品の販売会社として設立されたが、「かも川」商標はそれ以降も被請求人の所有にかかわるものとして、中国四国地方に周知となって今日に至っている(乙第1号証)。したがって「かも川」は被請求人の商標として周知なのであって、請求人の商号の略称としては著名となっている事実は全くない。
(2)したがって、「かも川」の文字は、本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれにおいても、請求人の商号の略称として著名ではなく、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当するものではない。
4.よって判断するに、請求人及び被請求人は、共に、「そうめん、うどん等の麺類」の製造若しくは、販売を行う法人として、前者は昭和56年8月に、後者は昭和38年1月21日にそれぞれ設立されたものである。
以来、両者は共に麺類に「かも川」なる商標を使用してきていることは、被請求人の提出に係る乙第1号証により窺い知ることができる。
この間、被請求人は、「かも川」の文字を縦書きしてなり、第32類「そうめん」を指定商品とする登録第901928号商標(以下、「被請求人商標」という。)及び別紙のとおり「かも川」の文字が顕著に表された構成よりなり、第32類「加工食料品その他本類に属する商品」を指定商品とする本件商標を、正当な権利者として麺類に使用してきたものである。
一方、請求人は、設立当時は被請求人が製造し、被請求人商標が付された「麺類」を販売することで、分業態勢が採られていたが、その後、請求人側の事情から独自に麺類を製造し、そこに被請求人商標、又はこれと社会通念上同一と認められる「かも川」の文字よりなる商標を付して販売してきたものである。
ところで、本件商標が、商標法第4条第1項第8号に該当するためには、その登録査定時のみならず、登録出願時に請求人の商号の略称が取引者、需要者間において著名であることを要するところ、請求人の提出に係る中国郵政局長からの「感謝状」(甲第6号証)は、如何なる商標が、如何なる商品にどの程度使用されているのか、具体的取扱数量も不明であり、又、株式会社食品産業新聞社からの「食品産業技術功労賞」(甲第8号証)でな、請求人が「かも川」の商標を付した「備中手延べうどん」の開発と普及に貢献したことを看取させるにすぎず、いずれも、請求人の商号の略称である「かも川」が本件商標の登録出願時に取引者、需要者間において著名であったことを証明するものとは、認め難いものである。
さらに、甲第5号証の1は、本件商標の登録出願前の発行であり、又、甲第5号証の26に記載の「郵政省ふるさと小包み取扱い中国地方第1位」の事実が、上記甲第6号証に対応する(該事実が、本件商標の登録出願前であること)ものであったとしても、それらの証拠のみでは、請求人の商号の略称である「かも川」が取引者、需要者間において著名となっていたものとは認めることができない。
そして、昭和38年に請求人が設立された後、被請求人商標及び社会通念上、これと同一と認められる商標を請求人及び被請求人が共に使用してきた経緯を考慮すれば、請求人の使用する商標が、殊更、請求人のみの業務に係る商標であるとして取引者、需要者間に認識、理解されてきたものとは考え難く、被請求人の業務に係る商標として認識、理解される場合も少なくなかったものというのが相当である。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号に違反してなされたものとはいえないから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすべきではない。