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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)150号 判決 2000年4月13日

原告

大日本印刷株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

赤尾直人

同弁理士

【B】

【C】

被告

凸版印刷株式会社

代表者代表取締役

【D】

訴訟代理人弁護士

安田有三

小南明也

同弁理士

【E】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成8年審判第8338号事件について平成10年3月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「紙容器の熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法」とする特許第1829290号の発明(昭和57年3月12日に出願、平成6年3月15日に設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。

被告は、平成8年5月20日に本件発明に係る特許の無効の審判を請求し、同請求は平成8年審判第8338号事件として審理された。原告は、この審理の過程で、本件発明に係る特許願書に添付した明細書及び図面の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、上記事件につき、平成10年3月27日に、本件訂正は認められないとしたうえ、「特許第1829290号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本を平成10年4月22日に原告に送達した。

2  特許請求の範囲

(1)  本件訂正前の特許請求の範囲請求項1

紙容器のくせ折りした頂部または底部を、前記容器の頂部または底部の端縁を内外から囲む溝が設けられた中空箱形部材の前記溝にあてがって、前記中空箱形部材の溝に臨んで設けられた多数の小孔から熱風を前記容器の頂部または底部の内外面に噴射し、その熱で前記容器の頂部または底部の内外面に予め形成されている熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法において、前記紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を、前記谷側に対向する位置の中空箱形部材に形成される複数の小孔の数を増加させるか或いは複数の小孔の口径を大きくすることにより、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたことを特徴とする紙容器の熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法。

(2)  本件訂正後の特許請求の範囲請求項1(以下、同項記載の発明を「訂正発明」という。別紙図面1参照)

紙容器のくせ折りした頂部または底部を、前記容器の頂部または底部の端縁を内外から囲む溝が設けられた中空箱形部材の前記溝にあてがって、前記中空箱形部材の溝に臨んで設けられた多数の小孔から熱風を前記容器の頂部または底部の内外面に噴射し、その熱で前記容器の頂部または底部の内外面に予め形成されている熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法において、前記紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の鋭角状の屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を、前記谷側に対向する位置の中空箱形部材に形成される複数の小孔の数を配列するピッチを小さくすることによって増加させるか或いは複数の小孔の口径を大きくすることにより、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたことを特徴とする紙容器の熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法。

3  審決の理由

別紙審決書の理由の写しのとおり、訂正発明について、米国特許第3248841号明細書(本訴の甲第5号証、審決の甲第1号証、以下「引用例1」という。別紙図面2参照)及び実願昭54-3604号の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルムより複写された明細書及び図面の写し(本訴の甲第6号証、審決の甲第5号証、以下「引用例2」という。別紙図面3参照)に記載された発明(以下、引用例1に記載された発明を「引用発明1」、引用例2に記載された発明を「引用発明2」という。)に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は認められないとしたうえで、本件訂正前の本件発明は、(1)引用例1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に違反して特許されたものであり、また、(2)引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであると認定判断した。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由Ⅰは認める。同Ⅱの(1-1)は認める。同(1-2)Aは認める。同Bの一、二は認める。同Bの三の①、②は、(a-2)の「屈曲部」及び「屈曲された頂部フラップ」における「屈曲」が平坦部を含む旨の趣旨の部分を否認し、その余は認める。同③は、甲第1号証(引用例1)には、十分な加熱空気がカートンのコーナーに確実に当てられるように特に留意することが記載されていること(18頁3行ないし6行)、(A7)及び(A10)に相当する構成の開示についての被請求人の主張の要約(19頁9行ないし13行)、「カートンコーナー」と「屈曲部谷側」に関する被請求人の主張の要約(21頁1行ないし5行の「主張する」まで)、「熱風の量」を「単位面積あたりの熱風の量」と解しうるか否かの点につき請求人及び被請求人の主張を踏まえた説示部分(22頁1行ないし24頁9行)及び甲第1号証(引用例1)に、訂正発明の構成要件(A8)’が開示されておらず、請求人の主張は成立しない旨の判断(25頁17行ないし28頁17行)を認め、その余は争う。審決の理由Ⅱの(1-2)Bの四の[(B1)の主張について]は、請求人の主張部分の要約(29頁4行ないし30頁3行)、甲第2号証、甲第6号証、甲第3号証及び甲第4号証に関する対比・判断(40頁15行ないし46頁12行)、甲第5号証(引用例2)に関する請求人の主張の要約(46頁13行ないし47頁12行)並びに甲第5号証(引用例2)に関する被請求人の主張の要約(49頁6行ないし12行)を認め、その余は争う。同[(B2)の理由について]は認める。「4.訂正の適否についての結論」は争う。審決の理由Ⅲ1は、本件訂正前の本件発明の要旨が審決認定のとおりであることは認める。同2は認め、同3は争う。同Ⅳは争う。

審決は、引用発明1が、訂正発明の「前記紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の鋭角状の屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を、」(以下、審決に準じて「構成要件(A7)」という。審決(14頁5行ないし15頁7行)の分説する訂正発明の他の個々の構成要件についても、これにならう。)及び「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたことを特徴とする」(構成要件(A10))を有していないのに、これを有していると誤認して一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、引用発明2の「長穴」が訂正発明の「小孔」ではないこと及び引用発明1、2の組合せが困難であることを看過して相違点についての判断を誤り(取消事由2)、その結果、本件訂正は認められないとしたものである。上記誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであって、審決は違法であるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(一致点「構成要件(A7)及び(A10)」の誤認)

審決は、引用例1に、「前記紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の鋭角状の屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を{前記構成要件(A7)に相当。}、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くする{前記構成要件(A10)に相当。}という技術思想・・・が開示されているといえる。」(20頁14行ないし末行)と認定したが、誤りである。

(1)  「屈曲部谷側」について

イ 「屈曲」とは、「折れ曲がること」の意味であるから、「屈曲部」とは、「折れ曲がっている領域」のことである。また、「谷」とは、本来「山に挟まれて細長く窪んだ土地」の意味であるから、紙容器のくせ折り部分における「谷側」とは、「窪んだ側」の意味である。したがって、「屈曲部谷側」とは、「折れ曲がった領域の窪んだ側」の意味である。

本件訂正後の願書添付の明細書及び図面(以下、これをまとめて「訂正明細書等」という。)には、「紙容器の頂部(10)または底部(12)の屈曲部における容器内面側の鋭角状にくせ折りされた屈曲部谷側(34)に熱量が十分に行き渡らないという欠点がある。」(甲第3号証の「訂正明細書」3頁末行ないし4頁3行)との記載があり、「屈曲部谷側」が「くせ折りされた」領域に位置していること及び「十分に行き渡らないという欠点がある」とはいえ、「熱」を受ける側に位置していることを明示しており、訂正発明の「屈曲部谷側」が前記のような意味であることを裏付けている。以上のとおり、「屈曲部」は、別紙図面4の「P」部分であり、同図面の「Q」部分を含んでいないのである。

訂正発明の「屈曲部谷側」がこのようなものであるとすると、胴貼り部44の領域の一部はそれに包摂されないことになる場合が多いのは事実である。しかし、多量に噴射された熱風が、「屈曲部谷側」又はこの近傍に衝突した場合には、たとい胴貼り部44のすべてには直接衝突しなくても、当該熱風は、衝突後、紙容器の壁面を伝達して加熱を継続する以上、胴貼り部44も、また、加熱の対象領域となり得るから、胴貼り部44の中に「屈曲部谷側」に含まれない部分が生ずることは、胴貼り部44が加熱の対象領域となり得ることと矛盾しない。

ロ 引用例1には、確かに、U字型コーナー部材(U型コーナーメンバ)777は、「加熱空気がカートンコーナ中に向けられてそのポリエチレンを望ましい温度に加熱するのを確かにする」(訳文3頁1行ないし3行)旨が記載されている。

しかし、引用例1では、上記「カートンコーナ」について客観的な定義を行っているわけではない。このような場合には、上記記載に即し、「カートンコーナ」は、U字型コーナー部材777から加熱空気が「向けられて」噴射される部位を指しているものと解する以外にない。

そして、引用例1のFIG57に示されるように、U字型コーナー部材は、その頂部だけではなく、側部も小孔を有している。したがって、U字型コーナー部材から噴射された熱風が照射されるカートンの領域は、別紙図面2に示すように、断面略V字型を呈するU字型コーナー部材の周辺領域であって、屈曲部谷側のみならず、その両側の平面部をも必然的に含んでいる。

ハ 以上のとおり、訂正発明の屈曲部谷側は、引用発明1の「カートンコーナ」とは異なり、極めて狭い領域のことであるから、両者は相違するものである。

(2)  「熱風の量」について

イ 訂正発明の「熱風の量」は、「単位面積当たりの熱風の量」を意味する。

この「熱風の量」が、「単位面積当たりの熱風の量」を指すのか、「合計の熱風の量」を指すのかについて、訂正明細書等には特に明示されていない。しかし、「屈曲部谷側」、すなわち、「折れ曲がった部分の窪んだ側」の領域は、「他の部分」である平坦部よりも極めて狭い領域であるから、「屈曲部谷側へ向けて噴射する合計の熱風の量」を、「他の部分へ噴射する合計の熱風の量」よりも多くすることは、技術的合理性を有しておらず、またこのように解すべき必然性も存在しない。したがって、「熱風の量」とは、「単位面積当たりの熱風の量」の意味なのである。

ロ 引用発明1のU字型コーナー部材の側部及び頂部に設けられている孔779の配列ピッチ及び大きさは、その周囲の壁774及び776と同様であって、引用発明1では、訂正発明のようにピッチを小さくして孔の数を増やしたり、孔の口径を大きくして、噴射する単位面積当たりの熱量を大きくするような構成は採用されていない。このことは、引用例1のFIG.57からも明らかである。

ハ 被告の主張は、引用発明1は、U字型コーナー部材777の存在によって、これを設けない場合に比して熱風の量を多くしたということかもしれない。しかし、U字型コーナー部材777が存在しない場合における熱風の状況は全く不明であって、U字型コーナー部材777が存在する場合とそうでない場合とを対比することは不可能である。

(3)  以上のとおり、引用発明1は構成要件(A7)及び(A10)を有していないから、同発明がこれらを有するとした審決の認定は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは、明らかである。

2  取消事由2(相違点についての判断の誤り)

審決は、「(引用発明1)において、より十分な加熱を必要とする紙容器内面の鋭角状屈曲部谷側に向けて噴射する熱風の量を、複数の小孔の口径を大きくすることにより、他の部分へ噴射する熱風の量より多くすることは当業者が容易に想到できたことと認める。」(51頁9行ないし13行)として、訂正発明と引用発明1の相違点について、引用発明1、2から容易に想到できたと判断したが、誤りである。

(1)  訂正発明において、「屈曲部谷側」に「対向する位置の中空箱形部材に形成される複数の小孔」について、「口径を大きくする」としても、当該小孔が「複数」ある限り、「配列するピッチ」は存在するから、「小孔の口径」を「配列するピッチ」以上とすることは不可能である。ところが、引用発明2の「長穴37」は、引用例2の第7図を参照しても明らかなように、他の小孔31の配列ピッチよりも明らかに大きな長さ領域に及んでいるから、このような「長穴37」は、本件発明の「複数の小孔」には該当し得ない。引用発明2の「長穴37」が訂正発明の「小孔」に該当しない以上、引用発明2が、小孔の口径を大きくする構成を開示することはあり得ない。

(2)  引用発明1は、カートンコーナーに対して十分な熱量が伝達され得ないことを解決すべき課題としている。一方、引用発明2は、閉込みフラップ36のように余分の加熱を必要とする部分に余分の熱量を加えることを解決すべき課題としている。

また、引用発明1は、U字型コーナー部材を設置して小穴をカートンコーナーに近づけることによって、不十分な加熱領域における加熱をカバーすることを基本的技術思想としている。一方、引用発明2は、開口の大きな「長穴37」を配置することによって、他のフラップよりも余分な加熱を行うことを基本的技術思想としている。

このように、引用発明1と引用発明2は、技術的課題及び基本的技術思想が異なるから、両者を組み合わせることは、本来不可能又は極めて困難というべきである。

(3)  引用発明1は、U字型コーナー部材を設けなければ、カートンコーナーへ向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くすることは不可能である旨の技術的思想に立脚している。そして、引用例2は、「屈曲部谷側」に向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くすることは開示していない。したがって、引用発明1と引用発明2の構成を考慮したとしても、U字型コーナー部材を設けずに、「屈曲部谷側」に向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くするために「小穴の口径を大きくする」という訂正発明の構成を想到することは不可能である。

(4)  以上のとおり、相違点についての審決の判断は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

第4被告の反論の要点

1  取消事由1(一致点「構成要件(A7)及び(A10)」の誤認)について

(1)  「屈曲部谷側」について

イ 訂正明細書等の第6図(従来例を示す第5図も同じ。)には、4箇所の屈曲部谷側が図示され、その内の1箇所の屈曲部谷側(図の左下)に、胴貼り部44が構成されている。この胴貼り部44は、原告主張に係る狭い範囲の「折れ曲がった部分の窪んだ側」よりも広い範囲にわたって形成されている。そして、訂正明細書等には、訂正発明の効果として「特に第6図で示されるような胴貼り部(44)は他部分よりも厚いので加熱し難く、また胴貼りのため一度加熱されて表面が酸化しそれだけ溶融が難しくなっているのであるが、本発明によればそのような個所へも局所的に多くの熱量を与え、良好に溶融させることができる。」(7頁9行ないし15行)とされているのであるから、訂正発明が前提としている「屈曲部谷側」は、別紙図面4の「Q」部分をも含めたものであると解さざるを得ない。

ロ したがって、引用発明1の「カートンコーナー」が、原告主張のとおりであるとしても、引用発明1の「カートンコーナー」と、本件発明の「屈曲部谷側」は、同一である。

(2)  「熱風の量」について

原告は、訂正発明は、「器内面側の鋭角状の屈曲部谷側へ向けて噴射する単位面積当たりの熱風の量を」、「他の部分へ噴射する単位面積当たりの熱風の量」よりも多くすることによって作用効果を発揮させている点に、基本的技術思想が存在すると主張する。しかし、訂正明細書には、「屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を他の部分へ向けて噴射する熱風の量より多くした」と記載されているにすぎない。にもかかわらず、そのような事項に訂正発明の基本的技術思想が存在するという原告の主張は、訂正発明の要旨を変更するものであって、到底認められない。

2  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

(1)  原告は、引用発明2の長穴を「小孔」ではないと主張する。しかし、「穴」も「孔」も、熱風を伝える手段として同義であることは言うまでもない。

(2)  引用例1に、「容器内面の屈曲部谷側に熱量が十分に行き渡らないで、シール不良を起こし密封性に欠けるという本件特許発明が解決しようとする技術的課題について開示されているといえる。」(18頁6行ないし10行)とした審決の認定判断に誤りはない。そして、引用発明2は、十分な熱量が必要な箇所に対して、その必要な熱量を加えることを技術的課題としている。したがって、引用発明1と引用発明2は、解決すべき課題において基本的に同じである。

熱風が噴射する穴の「口径を大きく」する訂正発明と、「長穴」とする引用発明2との間には、表現上の違いはあるものの、技術的課題の解決手段として、穴を広げるという点では、全く同じ技術的思想が開示されているのである。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(一致点「構成要件(A7)及び(A10)」の誤認)について

(1)  「屈曲部谷側」について

イ 甲第2号証(本件公告公報)及び甲第3号証(平成8年9月30日付け訂正請求書及び添付書類)中の「訂正明細書」によれば、訂正明細書等には、「(発明が解決しようとする問題点)上記従来の中空箱形部材(26)における熱風噴射孔(30)は全て等ピッチで設けられている。それゆえ、熱風の噴射は第5図の矢印で示されるような状態となり、紙容器の頂部(10)または底部(12)の屈曲部における容器内面側の鋭角状にくせ折りされた屈曲部谷側(34)に熱量が十分に行き渡らないという欠点がある。このために後に折畳んで加圧してもシール不良を起こし密封性に欠け、内容物の漏洩等の不具合を生じるおそれがある。」(上記訂正明細書3頁16行ないし4頁6行)、「(問題点を解決するための手段)上記のようなシール不良の問題に鑑み、本発明は紙容器屈曲部の特に谷側における接着剤をも十分に溶融しうる方法を提供するものである。上記の目的を達成するために、本発明は・・・紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の鋭角状となった屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたことを特徴とする」(同4頁7行ないし5頁3行)、「(発明の効果)・・・本発明は、紙容器の頂部または底部の谷側に向かう熱風噴射量を他部分におけるよりも多くしたので、谷側における接着剤を他部分におけると同程度に加熱溶融することができる。・・・また、特に第6図で示されるような胴貼り部(44)は他部分よりも厚いので加熱し難く、また胴貼りのため一度加熱されて表面が酸化しそれだけ溶融が難しくなっているのであるが、本発明によればそのような個所へも局所的に多くの熱量を与え、良好に溶融させることができる。」(同7頁1行ないし15行)との記載とともに、第6図において別紙図面4の「P」部分に接してその周辺部分、すなわち、同図面4の「Q」部分まで広がっている胴貼り部(44)が記載されていることが認められ、上記記載によれば、訂正発明における「屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風」は、「谷側へ向かう熱風噴射量を他部分におけるよりも多くしたので、谷側における接着剤を他部分におけると同程度に加熱溶融することができる」ものであり、しかも、特に、別紙図面4の「P」部分の周辺部分に存在する「加熱し難く」、「溶融が難しくなっている」「胴貼り部(44)」に「局所的に多くの熱量を与え、良好に溶融させる」ものであることが認められる。したがって、訂正発明の「屈曲部谷側」には、別紙図面4の「P」部分だけではなく、その周辺部分が含まれているものと解すべきである。

また、甲第2、第3号証によれば、訂正明細書等には、「第5図は第4図におけるⅤ-Ⅴ線から見た底面図であり、第6図は本発明に係る方法を実施するために使用する中空箱形部材の第5図と同様な底面図であり」(訂正明細書8頁3行ないし6行)との記載があり、従来の方法である第5図は、屈曲部谷側(34)の方向へ向かう熱風の噴射を示す矢印が一本であるのに対して、訂正発明の方法である第6図は、その矢印の数が三本になっていて、その矢印の方向は、別紙図面4の「P」部分だけではなく、その周辺部分にも向けられていることが認められる。

このことは、訂正発明の「屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風」が、別紙図面4の「P」部分だけではなく、その周辺部分にも向けられていること、したがって、訂正発明の「屈曲部谷側」は、別紙図面4の「P」部分だけではなく、その周辺部分をも含むことを裏付けるものというべきである。

ロ 原告は、「屈曲部谷側」は、同貼り部44の領域の一部しか包摂しない場合が多いけれども、多量に噴射された熱風が、「屈曲部谷側」又はこの近傍に衝突した場合には、たとい胴貼り部44のすべてには直接衝突しなくても、当該熱風は、衝突後、紙容器の壁面を伝達して、加熱を継続する以上、胴貼り部44中の熱風が直接衝突しない部分も、また、加熱の対象領域となり得るから、「屈曲部谷側」が胴貼り部44の一部しか含まないことは、胴貼り部44の全部が加熱の対象領域となり得ることと矛盾しないと主張する。

しかし、前記イ認定の記載によれば、胴貼り部44に対する加熱は、屈曲部谷側における接着剤の加熱溶融の中の特筆すべき例として説明されていることが明らかであるから、原告の主張は、採用することができない。

ハ 甲第5号証(引用例1)によれば、引用例1には、「ボトムクロージャー100のこれらの内表面に加熱空気の流れをコンセントレートするようなパターンで孔779が壁774、776、およびU型コーナーメンバ777の中に設けられ、ボトムクロージャーのこれらの内表面はボトムクロージャーの他の表面に対して接触して、シールされる。U型コーナーメンバ777は、十分な加熱空気がカートンコーナー中に向けられてそのポリエチレンを望ましい温度に加熱するのを確かにする点に注意すべきである。」(訳文7頁末行ないし8頁6行)との記載とともに、FIG.8A、8Bとしてカートンが、FIG57として、カートンの屈曲線(別紙図面4の屈曲部に相当する箇所)及びその周辺部分に対向する中空箱形部材の隅部に構成された、多数の小孔が開口したU字型コーナー部材(U型コーナーメンバ)777が記載されていることが認められ、以上の記載によれば、引用発明1の「カートンコーナー」は、別紙図面4の「P」部分及びその周辺部分を意味しているものと認められる。

ニ 以上のとおりであるから、訂正発明の「屈曲部谷側」と引用発明1の「カートンコーナー」は、同一というべきである。

(2)  「熱風の量」について

イ 前記(1)ハの認定に係る引用例1の記載によれば、引用発明1は、多数の小孔が開口したU字型コーナー部材を用いて、隅部の孔の数をより多くすることによって、カートンコーナー、すなわち「屈曲部谷側」へ向けて噴射する熱風の量を他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたものと認められる。

ロ 原告は、訂正発明の「熱風の量」が「単位面積当たりの熱風の量」の意味であると主張する。しかし、訂正発明の特許請求の範囲には、「屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を」、「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多く」すると記載されているのみであって、それが、「単位面積当たりの熱風の量」であるとの記載はないから、原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであって、採用することができない。

もとより、訂正発明においては、「前記谷側に対向する位置の中空箱形部材に形成される複数の小孔の数を配列するピッチを小さくすることによって増加させるか」、「或いは複数の小孔の口径を大きくすることにより、」という構成要件が存在し、その構成を採用すれば、中空箱形部材の表面から噴射される単位面積当たりの熱風の量は多くなるものと解されるけれども、それは、「前記谷側に対向する位置の中空箱形部材に形成される複数の小孔の数を配列するピッチを小さくすることによって増加させるか或いは」(構成要件(A8)’)、「複数の小孔の口径を大きくすることにより、」(構成要件(A9))という構成による結果であって、「屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を」、「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多く」したことの結果ではない。すなわち、「屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を」、「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多く」するためには、構成要件(A8’)及び(A9)の方法の他にも、噴射する表面の単位面積当たりの熱風の量は同一としつつ、中空箱形部材の当該部分の表面積を大きくすることによって、熱風の量を増加させるという方法なども存在するのであって、「屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を」、「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多く」することが、直ちに中空箱形部材の表面から噴射される単位面積当たりの熱風の量が多くなることを意味するものではない。

そして、審決は、構成要件(A8)’及び(A9)については、相違点と認定して、一致点とは別に判断を示しているのであるから、この点を一致点の誤りと主張する原告の主張は、採用することができない。

ハ 原告は、引用発明1のU字型コーナー部材の側部及び頂部に設けられている孔779の配列ピッチ及び大きさは、その周囲の壁774及び776と同様であって、引用発明1では、訂正発明のようにピッチを小さくして孔の数を増やしたり、孔の口径を大きくすることによって噴射する単位面積当たりの熱量を大きくするような構成は採用されていない旨主張する。しかし、引用発明1において、訂正発明のようにピッチを小さくして孔の数を増やしたり、孔の口径を大きくすることによって噴射する単位面積当たりの熱量を大きくするような構成は採用されていないとしても、前記ロ認定のとおり、そのことは、引用発明1が、相違点である構成要件(A8)’及び(A9)を有していないということを意味するにすぎないのであるから、そのことをもって、審決の一致点の認定を誤りであるということはできない。

引用発明1は、多数の小孔が開口したU字型コーナー部材を設け、U字型コーナー部材の採用によって増加した小孔の数に対応して、カートンコーナーへ向けて噴射する熱風の量を他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くして、「十分な加熱空気がカートンコーナー中に向けられ」(引用例1の訳文8頁4行ないし5行)るようにしていることは明らかである。これを逆に言えば、U字型コーナー部材を使用せずに同じ量の熱風をカートンコーナーへ向けて噴射しようとすれば、U字型コーナー部材が有している小孔と同じ数の小孔を中空箱形部材のU字型コーナー部材を設けていた場所に設ければよいことになるが、この場合、その場所がUの字状になっていないことによってスペース(表面積)が狭くなってしまうため、小孔同士を近接させる、すなわち、小孔の配列ピッチを小さくしなければならないことは明らかである。もとより、本判決は、このような構成が引用発明1から容易であるか否かを論じるものではない。しかし、噴射されている熱風の量という客観的事実に着目すれば、引用発明1における多数の小孔が開口したU字型コーナー部材が、カートンコーナーへ向けて噴射する熱風の量が他の部分へ噴射する熱風の量よりも増加するという結果をもたらしていることは明らかである。

ニ この点に関して、原告は、引用発明1において、U字型コーナー部材777が存在しない場合における熱風の状況は全く不明であって、U字型コーナー部材777が存在しない場合とそうでない場合を対比することは不可能であると主張する。しかし、引用例においてU字型コーナー部材777に与えられている前記役割を前提に引用例1のFIG.57をみれば、同部材が存在しない場合として前提にされているのが、U字型のようなふくらみを有しない訂正発明におけるようなものであることは、自明というべきである。そして、U字型コーナー部材777から噴射されている熱風の量という客観的事実に着目すれば、引用発明1における多数の小孔が開口したU字型コーナー部材は、カートンコーナーへ向けて噴射する熱風の量が他の部分へ噴射する熱風の量よりも増加するという結果をもたらしていることが明らかであることは、前記ハの認定のとおりである。

ホ 原告の主張は、訂正発明の「屈曲部谷側」が原告主張に係る「屈曲部谷側」、すなわち、別紙図面4の「P」部分であることを前提として、これに向けて噴射する熱風の量と他の部分へ噴射する熱風の量を比較した場合には、引用発明1では、前者は後者よりも増加していないという趣旨とも解される。しかし、訂正発明の「屈曲部谷側」が別紙図面4の「P」部分に限られないことは前示のとおりであるから、原告の主張は、前提を誤るものであって、採用することができない。

(3)  以上のとおり、引用発明1は、「前記紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の鋭角状の屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を、」(構成要件(A7))、多数の小孔が開口したU字型コーナー部材の構成により、「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたことを特徴とする」(構成要件(A10))ものというべきであり、この点についての審決の認定に誤りはない。取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

(1)  引用例2に審決の認定に係る(e-1)ないし(e-3)(審決の理由36頁3行ないし38頁10行)が記載されていることは、当事者間に争いがない。上記記載、特に、「センターオーブン23の他の1面は、第3図に示されているように閉込みフラップ36に対向する部分のみ長穴37で、他の部分は小孔31となっている。・・・ところが容器筒2bの閉込みフラップ36部分は3層になっているため、容器素材2aに成形する工程で、高温で溶着されて第6図の斜線部分は酸化劣化を起こしている。そのため底部シールの際、他の酸化劣化を起こしていない部分より多量の熱量を必要とするので前記した如く容器筒2bの閉込みフラップ36が対向するセンターオーブン23に長穴37を設け、他のフラップ32、33、34より余分に加熱するようにしている。・・・また容器の板紙の厚さの変化及びポリエチレン、アルミ箔の物性変化に対して微妙な対応をするための熱源の熱量調整は非常に困難であり、そのためオーブンの小孔、長穴を各容器に応じて準備する必要があった。」との記載及び第7図の長穴の長さが様々であり、左から4番目の長穴は縦の列において小さい穴と組み合わされている図示によれば、引用例2には、紙容器の熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法において、他の部分よりも多量の熱量を必要とする部分へ向けて供給する熱風の量を、他の部分に対向する位置の中空箱形部材(センターオーブン)には小孔の吹き出し孔を形成し、他の部分よりも多量の熱量を必要とする部分に対向する位置の中空箱形部材には、開口面積が小孔よりも大きい複数の長穴を形成する、また、形成した長穴の長さを調整する、あるいはその長穴を他の穴と組み合わせるなどの構成により、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くすることが開示されているものというべきである。そして、複数の長穴を設ける、また、その長穴の長さを調整する、あるいはその長穴を小孔と組み合わせるなどの構成は、いずれも開口面積を大きくする手段であることが明らかである。なお、引用発明2の第7図においては、長穴は、横方向に配列されているけれども、長穴の縦方向に他の穴があってはならないという理由はないから(現に、上記第7図でも、縦方向に左から4番目の長穴は縦の列において小さい穴と組み合わされていることは、前認定のとおりである。)、引用例2には、複数の長穴の長さを調整し、他の穴と組み合わせるに当たり、長穴を縦方向に組み合わせることも開示されているものというべきである。

そうすると、引用例2には、紙容器の熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法において、他の部分よりも多量の熱量を必要とする部分へ向けて噴射する熱風の量を、当該他の部分よりも多量の熱量を必要とする部分に対向する位置の中空箱形部材に、開口面積が小孔よりも大きな複数の長穴を形成するという構成を採用することにより、他の部分へ噴射する熱風の量よりも大きくすることが開示されているということができる。一方、前記1認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、引用例1には、構成要件(A1)ないし(A7)、(A10)及び(A11)を備えた発明が記載されているというべきである。そして、引用発明1と引用発明2は、いずれも紙容器の熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法に係り、他の部分と同様にしたのでは加熱が不十分となる部分に対して、より多くの熱風を供給する技術であって、同一の技術分野に属するものである。したがって、当業者が、引用発明1の「前記紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の鋭角状の屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を、」(構成要件(A7))、前記谷側に対向する位置である中空箱形部材の隅部に構成された、多数の小孔が開口したU字型コーナー部材777により、「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたことを特徴とする」(構成要件(A10))に当たり、前記谷側に対向する位置である中空箱形部材の隅部に構成された、多数の小孔が開口したU字型コーナー部材777に代えて、同じ箇所に、引用例2の開口面積が小孔よりも大きな複数の長穴を形成するという構成の発明とすることは、容易に想到し得たものというべきである。

そして、開口面積が小孔よりも大きな複数の長穴は、複数の小孔の口径を大きくしたものともいうことができるから、上記構成の発明は、訂正発明のうち、構成要件(A1)ないし(A7)及び(A9)ないし(A11)を備えた発明というべきである(仮に、小孔と長穴の形状が異なるとしても、そのような形状の変更は単なる設計変更であって、発明としては同一というべきである。)。

(2)  原告は、引用発明2の「長穴37」が訂正発明の「小孔」には該当しないと主張する。しかし、「長穴」も「小孔」も穴(孔)であって、その形状と相対的な大小によって呼び名が付けられているものにすぎない。そして、訂正発明の「小孔」は、その形状を限定していないうえ、口径を大きくしてもよいというのであるから、「長穴」が「口径を大きくした小孔」ではないということはできない。原告は、訂正発明において、「谷側に対向する位置の中空箱形部材に形成される複数の小孔」の配列ピッチが、他の箇所にある複数の小孔の縦方向の配列ピッチと同一でなければならないことを前提として、引用発明2の「長穴」の長さが他の箇所にある「小孔」の配列ピッチよりも大きいから「小孔」ではないと主張するけれども、上記配列ピッチが同一でなければならないと解すべき理由はないから、原告の主張は、その前提を欠くものである。

(3)  また、原告は、引用発明1は、カートンコーナーに対して十分な熱量が伝達され得ないことを解決すべき課題とし、引用発明2は、閉込みフラップ36のように余分の加熱を必要とする部分に余分の熱量を加えることを解決すべき課題としているから、両発明は技術的課題が異なり、組合せは不可能又は困難であると主張する。しかし、「カートンコーナーに対して十分な熱量が伝達され得ないことを解決」(引用発明1)すると言っても、「余分の加熱を必要とする部分に余分の熱量を加えることを解決」(引用発明2)すると言っても、それは、他の部分と同様にしたのでは加熱が不十分となる部分に対して、他の部分よりも多くの熱量、すなわち、熱風を供給するという点では同一であるから、原告の主張する引用発明1と引用発明2の技術的課題を前提としても、両発明の組合せが不可能ないし困難となるものではない。

さらに、原告は、引用発明1は、U字型コーナー部材を設置して小穴をカートンコーナーに近づけることによって、不十分な加熱領域における加熱をカバーすることを基本的技術思想とし、引用発明2は、開口の大きな「長穴37」を配置することによって、他のフラップよりも余分な加熱を行うことを基本的技術思想としているから、両発明は基本的技術思想が異なり、組合せは不可能又は困難であると主張する。しかし、引用発明1が、「前記紙容器の頂部または底部の屈曲部における容器内面側の鋭角状の屈曲部谷側へ向けて噴射する熱風の量を、」(構成要件(A7))、前記谷側に対向する位置である中空箱形部材の隅部に構成された、多数の小孔が開口したU字型コーナー部材777により、「他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くしたことを特徴とする」(構成要件(A10))との構成を、引用発明2が、紙容器の熱可塑性接着剤を加熱溶融する方法において、他の部分よりも多量の熱量を必要とする部分へ向けて噴射する熱風の量を、当該他の部分よりも多量の熱量を必要とする部分に対向する位置の中空箱形部材に開口面積が小孔よりも大きな複数の長穴を形成するという構成を採用することにより、他の部分へ噴射する熱風の量よりも大きくするとの構成を、それぞれ有していることは前認定のとおりである。原告の主張は、上記引用発明1、2の各構成とは異なる点を引用発明1、2の基本的技術思想と称して、上記引用発明1、2の各構成を無視するものであって、採用することができない。

原告は、引用発明1は、U字型コーナー部材を設けなければ、カートンコーナーへ向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くすることは不可能である旨の技術的思想に立脚し、引用例2は、「屈曲部谷側」に向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くすることは開示していないから、U字型コーナー部材を設けずに、「屈曲部谷側」に向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くするために「小穴の口径を大きくする」という訂正発明の構成を想到することは不可能であると主張する。しかし、本件全証拠によっても、引用例1において、U字型コーナー部材を設けなければ、カートンコーナーへ向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くすることは不可能である旨の開示があるものと認めることはできない。また、前認定のとおり、引用発明1が、「屈曲部谷側」に向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くするという構成を有しているから、引用例2が「屈曲部谷側」に向けて噴射する熱風の量を、他の部分へ噴射する熱風の量よりも多くすることを開示していないことは、訂正発明の構成を得ることの妨げとなるものではない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は、いずれも理由がなく、その他審決には、これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第6よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

<以下省略>

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