大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 平成10年(行ケ)171号 判決 1999年10月13日

原告

コムサット コーポレーション

代表者

【A】

訴訟代理人弁護士

中村稔

熊倉禎男

辻居幸一

田中伸一郎

宮垣聡

同弁理士

【B】

被告

特許庁長官 【C】

指定代理人

【D】

【E】

【F】

【G】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成9年審判第6659号事件について、平成9年12月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年11月19日(優先権主張・1981年11月19日、アメリカ合衆国)にした特許出願(特願昭58ー500335号)の一部を分割して、平成4年11月19日、名称を「防護信号通信方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平4ー332267号)が、平成9年1月27日に拒絶査定を受けたので、同年4月28日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成9年審判第6659号事件として審理したうえ、平成9年12月24日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成10年2月12日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

(1)  本願明細書の特許請求の範囲第12項に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨

送信機から受信機へ信号を伝送する防護信号通信方法であって、前記送信機側で、情報を示すプログラム信号を供給し、前記プログラム信号を受信する全ての受信機に共通の第1シーケンス信号を発生し、前記プログラム信号を受信する全ての受信機に共通のキー信号を供給し、少なくとも前記第1シーケンス信号に基づいて前記プログラム信号を暗号化し、暗号化された第1シーケンス信号を得るために前記キー信号により前記第1シーケンス信号を暗号化し、前記暗号化されたプログラム信号と前記暗号化された第1シーケンス信号を送信し、前記受信機側で、前記キー信号を得、解読された第1シーケンス信号を得るために前記キー信号に基づいて前記第1シーケンス信号を解読し、前記プログラム信号を得るために前記第1シーケンス信号に基づいて前記暗号化されたプログラム信号を解読する防護信号通信方法。

(2)  本願明細書の特許請求の範囲第15項に記載された発明(以下「本願第2発明」という。)の要旨

送信機から受信機へ信号を伝送する防護信号通信方法であって、前記送信側で、情報を示すプログラム信号を供給し、少なくとも毎分数回変化する第1シーケンス信号を発生し、キー信号を供給し、少なくとも前記第1シーケンス信号に従って前記プログラム信号を暗号化し、暗号化された第1シーケンス信号を得るために前記キー信号により前記第1シーケンス信号を暗号化し、前記暗号化されたプログラム信号と前記暗号化された第1シーケンス信号を送信し、前記受信側で、キー信号を得、解読された第1シーケンス信号を得るために前記キー信号に素づいて前記第1シーケンス信号を解読し、前記プログラム信号を得るために前記第1シーケンス信号に基づいて前記暗号化されたプログラム信号を解読する防護信号通信方法。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1、第2発明が、本願発明の優先権主張の日の前にわが国において頒布された刊行物である特開昭56ー500075号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例記載事項の認定、本願第1発明と引用例発明との一致点及び相違点並びに本願第2発明と引用例発明との一致点及び相違点の各認定は認める。

審決は、本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断及び本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断を誤って、本願第1、第2発明が引用例発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)

(1)  審決は、本願第1発明と引用例発明との相違点である「前者(注、本願第1発明)においては、『プログラム信号を受信する全ての受信機に共通のキー信号』を用いるのに対し、後者(注、引用例発明)においては、『加入の種類に従って複数の値をとることができるキー信号』を用いる点」(審決書6頁14~19行)について、「『加入の種類に従って複数の値をとることができる』ということは、加入の種類にかかわらず共通の値をとることを排除するものではなく、また、同一のサービスを行う場合には、共通のキーでよいことは自明であり、全ての受信機に共通のキー信号を用いるとした点に、格別の創意を要するものとすることはできない。また、その効果も、当業者の予測し得る程度のものであって、格別のものとも認められない。」(同8頁3~11行)と判断したが、それは誤りである。

すなわち、従来技術においては、各加入者ごと又は一定の加入者のグループごとに、それぞれ別個のキー信号を付与していたために、キー信号により暗号化された第1シーケンス信号の種類はキー信号の種類と同数になることから、これらのすべてをプログラム信号と同時に送信することが実質的に不可能であったところ、本願第1発明は、キー信号をすべての受信機に共通するものとする構成を採用したことにより、キー信号により暗号化された第1シーケンス信号もすべての受信機に共通となるため、暗号化された第1シーケンス信号をプログラム信号とともに即座に送信することが可能となり、これによって、2段階の暗号化によって通信の安全を高めつつも、システムの複雑化を回避し、送信時間を要しない暗号化システムを得ることができたものである。

これに対し、引用例発明は、サービス・キーK(本願発明の「第1シーケンス信号」に相当する。)を加入キーCi(本願発明の「キー信号」に相当する。)で暗号化し、メッセージM1(本願発明の「暗号化された第1シーケンス信号」に相当する。)として送信するものであるが、引用例に、加入キーCiを全加入者に共通なものとすることは全く記載されていないのみならず、1か月、3か月、6か月、1年という4種類の加入期間による加入方式の例が示され(甲第5号証8欄9~13行)、「この方式によれば、所与の月の間所与のサービスに対して使用者が使用できる加入キーは22在ることになる。」(同欄15~17行)、「前にのべた加入方式で与えられるサービスに対し、あらゆる時点において22の異なったメッセージが用意されている。メッセージの持続期間はサービス・キーKの持続期間に等しくそして所与のサービスに対しあらゆる時点において、現在の加入キーと同数のメッセージが存在する」(同9欄15~20行)と記載されており、このような記載からすれば、引用例発明は、キー信号(加入キーCi)を加入の種類又はサービスごとに複数設ける(上記の加入方式の例では、4種類の加入期間のうち、1か月のものは1個だが、3か月、6か月、1年のものはそれぞれその初めの月により3個、6個、12個に分かれ、合計22個となる。)という技術思想を開示するものであり、キー信号を全加入者に共通のものにするということは全く予想していないといわざるを得ない。

したがって、本願第1発明と引用例発明とは、全く異なる技術思想に基づくものであり、本願第1発明を引用例発明から容易に推考することは到底できないものというべきであって、審決の上記相違点についての判断は、この点についての判断を誤ったものであることが明らかである。

(2)  被告は、引用例発明において、加入種別を1種類のみとしてキー信号をプログラム信号を受信するすべての受信機に共通とすることに当業者が格別の創意を要するものではないと主張するが、加入種別を1種類(例えば1か月の加入期間)としたとしても、各加入者ごとに異なるID番号を付して、かかるID番号によって第1シーケンス信号を暗号化することも可能であるから、加入種別を1種類のみとしたからといって、暗号化された第1シーケンス信号をプログラム信号と同時に送信するためにすべての受信機に共通のキー信号を採用することが、格別の創意なしに導かれるものではない。

また、現実には、加入者の便宜を考慮して複数の加入方式を採用せざるを得ないものであるが、本願第1発明は、加入の種類を複数としても、キー信号をすべての受信機に共通のものとする技術思想に基づくものであって、引用例発明とは異なる発想に基づくものである。

2  取消事由2(本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)

審決は、本願第2発明と引用例発明との相違点である「前者(注、本願第2発明)においては、『少なくとも毎分数回変化する第1シーケンス信号』を用いるのに対し、後者(注、引用例発明)においては、『数分台の比較的短い期間でランダムな仕方で変わるサービス・キー』を用いる点」(審決書7頁15~19行)について、「少なくとも毎分数回変化する第1シーケンス信号を用いるのも、数分台の比較的短い期間でランダムな仕方で変わるサービス・キーを用いるのも、共に伝送の機密性を高めるためのものであって、毎分数回変えるのも、数分の周期で変えるのも、その効果において大差なく、当業者ならば設計上、適宜選択し得る事項に過ぎない。」(同8頁14行~9頁1行)と判断したが、それは誤りである。

すなわち、本願発明においては、プログラムの暗号化に用いた第1シーケンス信号が非加入者にも受信されてしまうため、本願第2発明は、非加入者による暗号解読を極力防ぐために、第1シーケンス信号を少なくとも毎分数回変化させる構成を採用したものである。従来技術においては、プログラム信号を暗号化する信号を頻繁に変更した場合、それをさらに暗号化することなく送信し、また、プログラム信号を暗号化する信号をさらに暗号化する信号が用いられた場合、それを頻繁に変更することはなかったのであるが、本願第2発明は、この両者を組み合わせることに想到し、プログラム信号を暗号化する第1シーケンス信号を頻繁に変更するうえに、さらに第1シーケンス信号をキー信号により暗号化する構成としたものである。

本願第2発明のかかる第1シーケンス信号の変化の頻度は、通信の安全性を高める上での必須の要件であって、その毎分数回という高頻度と、引用例発明における数分に1回という周期とでは、変化の頻度の差は数十倍にも及ぶものであり、両者の差は、単なる設計事項に止まらない本質的な差であるというべきである。

したがって、審決の上記相違点についての判断は、この点についての判断を誤ったものであることが明らかである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)について

原告は、引用例発明がキー信号(加入キーCi)を加入の種類又はサービスごとに複数設けるという技術思想を開示するものであり、キー信号を全加入者に共通のものにするということは全く予想していないと主張するが、誤りである。

すなわち、引用例の1か月、3か月、6か月、1年という4種類の加入期間による加入方式の例の記載は、引用例の「この二重キー方式の動作を説明するために、例として4つの種類の加入が用いられる加入方式に関し説明される。」(甲第5号証8欄9~11行)との記載のとおり、あくまで1例であって、キー信号(加入キーCi)を加入の種類に従って複数設けることができることを示したものにすぎず、キー信号を1個とすることを排除するものではない。引用例発明において、1種類の加入種別のみの場合でもシステムを構築できることが明らかであるから、加入種別を1種類のみとし、これに対して1つのキー信号を用いること、例えば、上記の加入方式の例のうちキー信号が1個しかない1か月の加入期間のみを採用した場合、すなわち審決のいう「同一のサービスを行う場合」には、キー信号は加入種類と関わりがなくなるので、プログラム信号を受信するすべての受信機にキー信号を共通とすることに、当業者が格別の創意を要するものではなく、その効果も当業者の予測し得る程度である。

したがって、審決の本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断に誤りはない。

2  取消事由2(本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)について

原告は、本願第2発明の毎分数回という高頻度と、引用例発明における数分に1回という周期とでは、変化の頻度の差は数十倍にも及ぶものであり、両者の差は、単なる設計事項に止まらない本質的な差であると主張するが、誤りである。

テレビジョン等のプログラム信号の暗号化技術において、暗号化に用いられる第1シーケンス信号を少なくとも毎分数回というような高い頻度で切り替ることは、必要に応じて当業者が適宜選択し得る常套手段であるので、テレビジョン等のプログラム信号の伝送をも包含していることが明らかな引用例発明において、第1シーケンス信号(サービス・キーK)の変化頻度を少なくとも毎分数回と設定することは、必要に応じて適宜選択し得る事項であり、また、そのことによる効果も引用例から予測し得る程度のものである。

したがって、審決の本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(本願第1発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)について

(1)  平成7年3月20日付手続補正書(甲第3号証)及び平成9年5月28日付手続補正書(甲第4号証)による各補正を経た後の本願明細書(甲第2号証)(以下単に「本願明細書」という。)には、「本発明は、テレビジョン信号伝送の機密性に関し、詳言すれば、テレビジョン信号伝送の非公認受信の防御に関するものである。」(甲第3号証7頁13~14行)、「加入者テレビジョン方式が増大することによって、同様にプレミアムテレビジョンプログラムを料金を支払わずに受信しかつ映し出そうとする者の数も増大してきている。」(同頁21~23行)、「加入衛星テレビジョン(SSTV)方式は非公認受信に対して確かに弱味があり、そしてそれゆえ有効な防御技術が非常に望まれる。」(同号証8頁4~6行)、「より複雑な技術は加入者のデコーダボックスに追加の情報を含むことができ、このデコーダボックスは個々の加入者に特別にアドレスされかつ幾つかのまたはすべてのチャンネルをオンまたはオフするのに使用される制御センタからの命令を受信する能力を含んでいる。」(同9頁6~9行)、「本発明の目的は、・・・加入テレビジョン方式用防護補助装置を提供することにある。本発明のさらに他の目的はコストおよび複雑さを最小にするかかる防護補助装置を提供することにある。」(同頁19~22行)との各記載があり、本願第1発明の要旨自体とこの各記載とによれば、本願発明は、加入テレビジョンの非公認受信の防御のための防護信号通信方法であって、本願明細書上必ずしも明確ではないものの、本願第1発明は、個々の加入者ごとに別個のキー信号を付与していたより複雑な従来技術に対し、キー信号をすべての受信機に共通するものとする構成を採用したことにより、システムの複雑化を回避してコストを減ずる作用効果を奏するものであることが窺われる。

(2)  他方、引用例に、「『二重キー方式が採用され・・・情報のロック(鎖錠)を可能にするサービス・キーK。このキーは数分台の比較的短い期間でランダムな仕方で変わる。加入の種類に従って複数の値Ciをとることができる加入キー・・・この加入キーは各受信局に挿入される加入担体に書き込まれている。送信に際して、特定のメッセージが作成されて、データと共に伝送』・・・するもので、送信機において、『サービス・キーKを利用する自動ロック回路24は、情報を搬送する信号dを受けて、ロックされた信号Dを発生・・・加入キーCiおよびサービス・キーKから出発して、メッセージMiを形成・・・情報信号およびメッセージの送信』・・・し、受信機において、『メッセージならびに加入キーを受けて、送信局で用いられたサービス・キーに対応する信号を再生・・・ロックされた信号Dを受けると共に、サービス・キーを受け・・・ロックされている信号Dを解放、即ちアンロックされた信号dを発生』・・・するようにした伝送方式」(審決書4頁9行~5頁9行)が記載されていることは当事者間に争いがない。そして、引用例(甲第5号証)には、「この二重キー方式の動作を説明するために、例として4つの種類の加入が用いられる加入方式に関し説明される。ここで4つの種類の加入とは、1ヶ月の加入、3ヶ月の加入、6ヶ月の加入および1年の加入(予約)である。加入はこのような加入期間によって特徴付けられるばかりでなく、初めの月によって特徴付けられる。この方式によれば、所与の月の間所与のサービスに対して使用者が使用できる加入キーは22在ることになる。即ち、1つの1ヶ月キーと3つの3ヶ月キーと6つの半年キーと12の1年キーである。」(同号証8欄9~18行)、「前にのべた加入方式で与えられるサービスに対し、あらゆる時点において22の異なったメッセージが用意されている。メッセージの持続期間はサービス・キーKの持続期間に等しくそして所与のサービスに対しあらゆる時点において、現在の加入キーと同数のメッセージが存在する。」(同9欄15~20行)との各記載があり、加入期間及びサービス開始月によって区分される22の異なったキー信号(加入キー)、したがって22の異なった暗号化された第1シーケンス信号(メッセージ)が、各時点において存在する例が示されているが、各時点においてキー信号をすべての受信機に対し共通とし、したがって暗号化された第1シーケンス信号を1種類とする例は示されていない。

しかしながら、前示引用例の「加入の種類に従って複数の値Ciをとることができる加入キー」との記載は、キー信号(加入キー)が加入の種類に従って複数の値をとることのほかに、加入の種類に従った複数の値をとらなくてもよいこと、すなわち、加入の種類が複数あろうとも、これに関わりなく共通の値をとる場合をも含む表現であることは明白である。また、引用例の前示の加入方式の説明も「二重キー方式の動作を説明するため」の例であることはその記載上明らかであるところ、その二重キー方式(送信側で、情報を搬送する信号dをサービス・キーKでロックしてロックされた信号Dを発生するとともに、加入キーCi及びサービス・キーKから出発してメッセージMiを形成し、受信側で、メッセージ及び加入キーを受けてサービス・キーに対応する信号を再生するとともに、ロックされた信号Dをサービス・キーによって解放しアンロックされた信号dを発生する方式)自体には、キー信号(加入キーCi)を加入期間やサービス開始月等によって区分される複数のものとする技術的必然性がないことも明白であって、引用例に、かかるキー信号を加入の種類に従って複数とする例が記載され、キー信号をすべての受信機に対し共通とする例が記載されていないからといって、引用例において、キー信号をすべての受信機に対し共通とすることが排除されているものとすることもできない。

したがって、引用例発明が、キー信号を加入の種類又はサービスごとに複数設けるという技術思想を開示するものであり、キー信号を全加入者に共通のものにすることは全く予想していないとする原告の主張を採用することはできない。

そうすると、引用例発明において、加入種別又はサービスを1種類のみとすることを想定した場合(引用例発明において1種類の加入種別又はサービスのみとした場合であってもシステムを構築できることは明らかである。)はもとより、複数の加入種別又はサービスの種類があることを前提とした場合であってもそれに関わりなく、キー信号をプログラム信号を受信するすべての受信機に共通とすることについて、当業者が格別の創意を要するものでないというべきである。そして、そのようにした場合のシステムの複雑化を回避してコストを減ずる効果も当業者の予測し得る程度のものであることが明らかである。

したがって、本願第1発明と引用例発明との相違点についての審決の判断に原告主張の誤りはない。

2  取消事由2(本願第2発明と引用例発明との相違点についての判断の誤り)について

本願第2発明の要旨自体と前示1の(1)の本願明細書の各記載とによれば、本願第2発明は、加入テレビジョンの非加入者による暗号解読を防ぐために、第1シーケンス信号を少なくとも毎分数回変化させる構成を採用したものであることが窺えるが、本願明細書(甲第2~第4号証)には、第1シーケンス信号を「少なくとも毎分数回変化する」ことに係るその具体的な変化の頻度(回数)が有する技術的意義についての特段の記載又は示唆は見当たらない。

そうであれば、本願第2発明の「少なくとも毎分数回変化する第1シーケンス信号」と、引用例発明における第1シーケンス信号(サービス・キーK)が「数分台の比較的短い期間でランダムな仕方で変わる」こととの間で、変化の頻度の差が数十倍にも及び得ることは原告主張のとおりであるとしても、かかる第1シーケンス信号の変化の頻度の差が、暗号の解読を防止し、伝送の機密性を高める効果において、その頻度の差に応じて予想される以上の差異を生じさせるものとは認め得ないから、該第1シーケンス信号の変化の頻度の差は、当業者において、設計上、適宜選択し得る事項にすぎないものといわざるを得ない。

したがって、本願第2発明と引用例発明との相違点についての審決の判断に原告主張の誤りはない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理のための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例