大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(行ケ)20号 判決 1998年11月24日

埼玉県川口市上青木2丁目47番4号

原告

山野仙之助

東京都千代田区神田須田町1丁目22番地

原告

山野松之助

両名訴訟代理人弁理士

田中武文

新関千秋

静岡市南町19番3号

被告

富士工業株式会社

代表者代表取締役

大村隆一

訴訟代理人弁護士

藤本博光

鈴木正勇

同弁理士

高橋久夫

主文

特許庁が平成7年審判第1831号事件について平成9年12月3日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

主文第1項同旨の判決

2  被告

請求棄却の判決

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)所定の第58類「他類ニ属セサル木、竹、藤、木皮、竹皮類ノ製品、其ノ漆塗品及蒔絵品ノ類、但シ、黒板ヲ除ク」を指定商品とし、別紙に表示したとおりの構成から成る登録第376361号商標(本件商標。昭和22年12月15日登録出願、同24年6月18日設定登録、同45年3月30日、同56年5月30日及び平成2年2月19日の3回、商標権存続期間の更新登録)の商標権者である。

被告は、平成7年1月30日、平成2年2月19日にされた本件商標の商標権存続期間の更新登録無効の審判を請求し、平成7年審判第1831号事件として審理された結果、平成9年12月3日、「本件商標権の存続期間の平成2年2月19日付けの更新登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は平成9年12月20日原告らに送達された。

2  審決の理由の要点

2-1 被告の審判における主張

被告(請求人)は審判で次のように述べ、証拠方法として審判甲第1号証ないし第6号証を提出した。

(1)  利害関係

被告は、釣り用具用品を取り扱うメーカーとして周知であって、本件商標の指定商品中に包含する商品(木竹製の釣り竿、うき)と類似する商品「硬質合成樹脂製漁獲用擬餌」及び「擬餌」を指定商品とし、本件商標と類似する「富士(山)」の図形及び「フジ」の文字より成る登録第451502号商標、同第445450号商標及び同第455652号商標などの商標権を所有するが、なお、釣り具にかかわる商品について、新たに、「富士(山)」の図形及び文字より成る商標の商標権を取得し、使用するに当たり、本件商標の存在が障害になっている。(現在、被告は、「FUJI」の文字より成る商標を第28類「釣り具」を指定商品とした商願平6-50775号などの商標登録出願をしている。)したがって、被告は、平成2年2月19日付けの本件商標権存続期間更新登録の無効審判を請求するについて、重大な利害関係を有する。

(2)  被告の審判における主張

本件商標について平成2年2月19日にされた商標権存続期間の更新登録は、本件商標をその指定商品中に包含しない商品(グラスロッド)の使用をもってされたものであるから、商標法19条2項ただし書2号(平成8年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)に違反して登録されたものであり、同法48条1項(平成8年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)の規定によりその登録を無効にされるべきである。その理由は以下のとおりである。

<1> 商標権存続期間の更新登録に当たっては、更新登録の出願前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが更新に係る登録商標(又はその連合の登録標)をその指定商品について使用しているか、又はその登録商標を使用していないことについて正当な理由があることを要件とするのは、商標法19条2項ただし書2号の規定からして明らかである。

しかるところ、平成1年2月14日付けで提出された本件商標の商標権存続期間更新登録出願(本件更新登録出願)において、本件商標の使用に係る商品は、その願書に添付の登録商標の使用説明書及び商標の使用の事実を示す書類として提出されたラベルからして、本件商標の指定商品中に包含しない商品の「グラスロッド」(グラス・ファイバー製釣竿)である。

<2> しかして、前記の登録商標の使用説明書及び商標の使用の事実を示す書類として提出されたラベルについてみるに、まず、登録商標の使用説明書については、その商標の使用に係る商品として「釣竿」の文字が記載されているところから、使用に係る商品は、本件商標の指定商品中に包含する商品の「木竹製の釣竿」でなければならない。

しかるに、この商標の使用の事実を示す書類して提出されたラベルは、縦長の矩形状のもので、「岸辺」「春風」及び「雪代」など文字を大きく書した3枚のラベルより成るところ、これらのラベルの上部には、横長の楕形輪郭内に「TRADEMARK」の欧文字とともに本件商標とほぼ同形のフジの図形を配して成るも、その下段には、「FUJI」の欧文宇に続き、本件商標の指定商品中に包含するものは認められない商品の「グラスロッド」(グラス・ファイバー製釣竿)を指称する「GLASS ROD」の欧文宇を書して成るものである。

なお、「グラスロッド」は、本件商標の登録出願日の商品区分では第15類に属する商品である。

また、本件更新登録出願において、平成1年5月18日付け提出の意見書に添付の写真は、釣竿に商標が貼付された状態の写真2通とされているが、この貼付された商標は、前記ラベル中「雪代」「春風」のものと思われ、その「釣竿」は、本件商標の指定商品中に包含しない「グラスロッド」と認められる。

してみれば、本件商標についてなされた平成2年2月19日の更新登録は、本件商標の指定商品中に包合しない商品についての使用をもってなされたものであるから、使用時期について問うまでもなく、商標法19条2項ただし書2号の規定に違反することが明らかである。

(3)  原告らの答弁に対する弁駁

<1> 商標権者たる原告らは、指定商品の範囲内において本件商標を使用する権利を専有するものであって、指定商品の類似範囲までも使用する権利を専有するものではない(商標法25条)。

つまり、本件の場合は、指定商品中に包含する商品以外の商品「グラスロッド」について使用許諾を与え、使用させたことをもって、本件商標の使用というのであれば、商標法74条(虚偽表示の禁止)2項に該当するということにもなる。

<2> 原告らは、審判乙第1号証及び第2号証(本訴甲第3号証の2及び3)として、竹製の釣竿及びその釣具セットと思しき写真を、また、審判乙第3号証(審決に「乙第8号証」とあるのは「乙第3号証」の誤記と認める。本訴甲第3号証の4)として通常使用権者「(有)山野釣竿製作所」の「釣竿価格表」(昭和59年1月発行)を提出しているが、これをもって、本件商標権存続期間の更新登録出願時に提出された商標の使用事実を示す書面(ラベル)の商品「グラスロッド」は、実は「竹製の釣竿」であるとでもいいたいのであろうか。いずれにしても、本件商標を更新登録出願前3年以内において指定商品に使用していたとする証左にはなり得ない。

<3> 原告らは、「たまたま」といいながら、「本件更新登録に際して使用の事実を示す書類に間違って『グラスロッド』の釣竿に添付した商標を提出したからといって、商標法19条2項ただし書2号に違反するものではないと思考する。」と述べているが、これこそ該法条の趣旨に反し、原告らのいうところの「商標権の存続期間の更新登録出願の制度の精神」にもとる。

2-2 原告らの審判における主張

原告ら(被請求人ら)は次のように述べ、証拠方法とし審判乙第1号証ないし同第6号証(本訴甲第3号証の2ないし4、甲第4号証の2、3、甲第5号証の2ないし4)を提出した。

(1)  そもそも、商標法19条2項の規定の趣旨は、商標はその商標に化体された信用を保護すること目的とするものなので、特許権におけるような意味で存続期間を限る必要はなく、むしろ、存続期間を限るということは長年にわたる商標の使用の結果蓄積された信用を保護するという立法趣旨と根本的に相反することなのであるが、しかし、そうだからといって、何らの制限なしに一度設定された商標権が永久に存続するということは、第1に権利者がもはや業務の廃止その他の理由によりその商標権の存続を希望しなくなったような場合に、第2にその商標が時代の推移とともに反公益的な性格を帯びるようになった場合に、第3に長期間にわたって使用されていない大量の登録商標が存在し続けることによって商標制度の本来の趣旨を逸脱するような予想となる場合等に不当な結果を招くことは明らかであるので、商標権の存続期間は一応10年とし、2項において、必要な場合は、同項所定の更新登録の出願拒絶理由に該当する場合を除いて何回でも存続期間を更新することができる旨を定めて、前記3つの問題を解決しつつ権利の永続性という商標権の持つ本質的な要求を満足させたことにある(「工業所有権法逐条解説」特許庁編、(社)発明協会発行参照)。

したがって、登録商標が長年継続して使用されていれば、同条2項ただし書2号に違反することにはならないと思考する。

(2)  確かに、本件更新登録出願に当たり、更新登録出願人(原告ら)が、商標の使用説明書の商標の使用に係る商品名の欄に「釣竿」と記載し、商標使用の事実を示す書類の欄に「ラベル」と記し、その「ラベル」を添付して提出したところ、平成1年3月24日付け拒絶理由通知書によって「本願添付の商標の使用の事実を示す書類(ラベル)では、その使用商品(釣り竿)が判明しない。よって本願に係る登録商標を指定商品のいずれかに使用していたと認定することができない。(中略)ただし、写真、パンフレット等により釣り竿への使用を明らかにしたときはこの限りでない。」と指摘され、これに対し、平成1年5月18日付け意見書をもって、釣竿であればなんでもよいと思い、たまたま事務所にあった「グラスロッド」を写真に撮り、提出したもので、それにより、審査官に何ら指摘されることなく、登録査定を受けて、更新登録されたのである。

(3)  原告らの先祖は享保年間に川口の地において竹による釣竿の製造、販売を始め、以来連綿としてその業務が引き継がれ、原告ら兄弟が昭和5年にその業務を先代から引き継ぎ、戦後の昭和20年ころには本件商標を選択して商品竹製釣竿の商標として使用を開始し、被告も述べているように昭和24年6月18日に本件商標登録を受け、引き続き商品竹製釣竿に使用してきているもので、昭和29年にはそれまで個人営業であった山野釣竿製作所を有限会社として法人組織とし、以後本件商標の使用を該会社に許諾し、本件商標の使用は連綿として継続されている。

すなわち、審判乙第1号証(本訴甲第3号証の2)に示す9尺3本継ぎの竹製の釣竿、審判乙第2号証(本訴甲第3号証の3)に示す2.7m3本継ぎの竹製の釣具・セットのように、竹製釣竿の老舗として多種類(審判乙3号証。本訴甲第3号証の4)の竹製釣竿を製造、販売している。

審判乙3号証(本訴甲第3号証の4)は昭和59年1月作成の「釣竿価格表」であるが、その後のバブルの崩壊による取引の停滞のため新しい価格表を作成する必要性が薄れてきた社会情勢と、販売先が一般需要者ではなく取引者である関係で、当時の印刷物の価格表がまだ相当量残っており、現在でも価格に変動があった箇所だけ訂正して該価格表を使用している。

(4)  原告らが、その先祖が享保年間に川口の地において竹による釣竿の製造、販売を始め、以来連綿としてその業務を引き継いでいることは、昭和53年11月14日付け商工会議所の顕彰状(審判乙5号証。本訴甲第5号証の3)でも裏付けられる。

(5)  原告らは上記のように、昔から竹による釣竿製造販売が主で、「グラスロッド」による釣竿を取り扱うようになったのは昭和45年ころからであり、竹竿は古来から連綿として取り扱われていち。このことは、原告らが、昭和53年3月28日に埼玉県知事畑和から受けた表彰状(審判乙6号証。本訴甲第5号証の4)によっても明白である。

このように、本件商標は昭和24年登録以来、竹製釣竿に原告らから有限会社山野釣竿製作所へと引き継がれ使用されてきているものであり、たまたま本件更新登録に際して使用の事実を示す書類に間違って「グラスロッド」の釣竿に添付した商標を提出したからといって、商標法19条2項ただし書2号に違反するものではなく、商標権の存続期間の更新登録出願の制度の精神にももとるものではない。

(6)  本件では、被告提出の審判甲第1号証でも明らかなように、存続期間の更新登録出願の時期になれば必ず更新登録出願して更新登録を行ってきたことが、如実に原告らの上記主張を裏付けている。

(7)  上記のように、本件商標の商標権存続期間の更新登録は、決して商標法19条2項ただし書2号の規定に違反してなされたものでなく、したがって、被告の請求の無効の理由は何ら存在しない。

(8)  被告は「商標権者たる原告らは、指定商品の範囲内において本件商標を使用する権利を専有するものであって、指定商品の類似範囲までも使用する権利を専有するものではない(商標法25条)。つまり、本件の場合は、指定商品中に包含する商品以外の商品『グラスロッド』について使用許諾を与え、使用させたことをもって、本件商標の使用というものであれば、商標法74条(虚偽表示の禁止)2項に該当するということにもなる。」と述べているが、原告らは、本件商標の指定商品以外の商品に専用権が存するとは主張しておらず、原告らが経営する会社である故に、かかる手続をしたということである。

2-3 審決の判断

(1)  商標権存続期間の更新登録出願の制度の趣旨についてはさておき、商標権は、当該商標が永年継続して使用されていても無条件でその存続期間が更新されるわけではなく、商標権存続期間の更新登録出願をする必要がある。そして、更新登録の出願前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが指定商品のいずれかについて当該登録商標(又はそれと連合商標となっている他の登録商標)の使用をしているか又は当該登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを必要とし(商標法19条2項ただし書及び同条3項)、更新登録出願人は、その出願が同法19条2項ただし書2号(登録商標の不使用)に該当するものでないことを証明するための書類又は同条3項に規定する正当な理由があることを明らかにするための書類のいずれかをその出願と同時に特許庁長官に提出なければならない(同法20条の2)。また、審査官は、更新登録出願人の提出に係るこれら書類によって更新出願の審査をしなければならない(同法21条1項2号)。これらのことから、更新登録出願と同時に提出される登録商標の使用説明書には、当該登録商標及びその使用に係る指定商品が明確に表されている必要があるものと解される。

(2)  これを本件についてみるに、被告の提出に係る審判甲第3号証(本訴甲第2号証の4)及び職権による調査によれば、平成1年2月14日付けで提出された本件更新登録出願に添付された登録商標の使用説明書には、商標の使用に係る商品名として「釣竿」と記載され、商標の使用事実を示す書類として3枚のラベルが添付され、そのラベル中には、横長の楕円輪郭内に「TRADE MARK」の文字及び本件商標に類似する図形を配し、その下部に「FUJI GLASSROD」の文字が書されていることが認められる。そして、ラベルのみでは使用商品(釣竿)が判明しない旨の審査官の拒絶理由に対し、商品を明確にするために釣竿に該ラベルを貼付した状態の写真が提出されていることが認められる。

これらのラベル中に書された「GLASSROD」の文字は、商品「釣竿」の取引者需要者間にあっては、「グラスファイバー製の釣竿」を意味するものとして容易に理解され得るものであり、前記写真と合わせ考慮すれば、本件商標の使用に係る商品として表示された商品はグラスファイバー製の釣竿といわなければならない。

ところで、本件商標の指定商品は前記のとおりであり、この中には他の類に属しない竹製品が含まれていることから、竹製の釣竿は本件商標の指定商結中に包含されるものと認められる。しかしながら、グラスファイバー製の釣竿は、被告の提出に係る審判甲第6号証(平凡社発行「世界大百科事典」。本訴甲第4号証の3)によれば、第2次大戦後の1954年(昭和29年)ころに開発されたものとされているから、本件商標の登録出願時及び登録時には存在していなかったものといわざるを得ない。

次に、グラスファイバー製の釣竿がその品質、形状、材質、機能等及びその商品概念並びに取引の通念からして、竹製の釣竿と実質的に同一種類のものとみられ、竹製の釣竿の代替品として本件商標の指定商品中に包含され得るものとみるべきかどうかについて検討する。

確かにグラスファイバー製の釣竿と竹製の釣竿はその用途等を同一にするものではあるが、両者はその原材料を異にすることは明らかであり、本件商標の登録出願時には大正10年商標法に基づく商品類別が適用され、同類別が原材料主義、生産者主義を原則として分類されていたことからして、また、大正10年商標法に基づく商品類別と昭和34年商標法に基づく商品区分との新旧類似商品対照表(審判甲第4号証)によれば、ガラス製の釣竿が第15類より、木竹製の釣竿が第58類よりそれぞれ昭和34年法に基づく商品区分第24類に移行されていたことからも、グラスファイバー製の釣竿は、少なくとも木竹製品をまとめた本件商標の指定商品に包含されるとみるべきではない。

(3)  原告らは、古くから竹製の釣竿の製造・販売を行っており、本件商標の使用は連綿としてされている旨主張し、当審において証拠を提出しているが、提出に係る各証拠はいずれも本件更新登録出願前3年以内に本件商標を使用していたことの証左とはなり得ない。すなわち、原告らの提出に係る審判乙第1号証(本訴甲第3号証の2)及び審判乙第2号証(竹製の釣竿の写真。本訴甲第3号証の3)は、その撮影年月日が明らかではない。また、審判乙第3号証(釣竿価格表。本訴甲第3号証の4)は昭和59年1月作成に係るものであり、その後も使用されている旨主張するも、その主張を立証するに足りる証拠の提出はない。さらに、審判乙第4号証ないし第6号証(本訴甲第5号証の2ないし4)はいずれも昭和53年に発行されたものであるばかりでなく、本件商標の表示もない。

以上総合すると、本件更新登録出願前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが本件商標をその指定商品について使用していなかったものといわざるを得ない。

(4)  したがって、本件商標についてなされた平成2年2月19日付けの更新登録は、商標法19条2項ただし書(存続期間の更新ができない場合)の規定に違反してされたものというのが相当であるから、同法48条1項の規定により無効とすべきものである。

第3  当事者の主張

1  原告ら主張の審決の取消事由

審決の判断(審決の理由の要点2-3)のうち、(1)、(2)は認めるが、(3)、(4)は争う。

審決は、原告ら提出の各証拠はいずれも本件更新登録出願前3年以内に本件商標をその指定商品に使用していたことの証左となり得ず、本件商標をその指定商品について使用していなかったものといわざるを得ないとするが、この認定は誤りであり、したがって、本件商標の平成2年2月19日付けの更新登録は商標法19条2項ただし書(存続期間の更新ができない場合)の規定に違反してされたものというのが相当であるから無効とすべきであるとした審決の判断も誤りであり、審決は取り消されるべきである。

すなわち、審判でも主張したように、原告らの先祖は、享保年間に川口の地において竹による釣竿の製造、販売を始め、以来連綿としてその業務が引き継がれ、原告ら兄弟が昭和5年にその業務を先代から引き継ぎ、戦後の昭和20年ころには本件商標を選択して商品竹製釣竿の商標として使用を開始し、昭和24年6月18日に本件商標登録を受け、引き続き商品竹製釣竿に使用してきているもので、昭和29年にはそれまで個人営業であった山野釣竿製作所を有限会社として法人組織とし、以後本件商標の使用を同会社に許諾し、今日に至るまで本件商標の使用を継続している。そして、平成1年2月14日の本件更新登録出願前3年以内である昭和61年から昭和63年当時においても、通常使用権者の同会社が本件商標を竹製釣竿に使用していたものである。

したがって、本件更新登録出願前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが本件商標をその指定商品について使用していなかったとした審決の認定及びこれに基づく判断は誤りであり、審決は取り消されるべきである。

2  取消事由に対する被告の認否

原告ら主張の使用の事実は否認する。原告らが本訴で提出した書証及び証人山野雅弘の証言はいずれも信用することができず、これらをもってしても、原告らが主張する本件商標の使用の事実を認めることはできない。

したがって、審決の認定及び判断に誤りはなく、正当であるから、審決は取り消されるべきではない。

第4  取消事由についての当裁判所の判断

1  甲第3、第5号証の各1ないし4、甲第13号証、証人山野雅弘の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告ら兄弟は、江戸時代以来続いてきた家業を受け継ぎ、戦前から竹製釣竿の製造、販売業を営んできたものであるが、昭和29年に有限会社山野釣竿製作所を設立して、その後は同会社の名前で事業を継続し、本件商標の使用を同会社に許諾して今日に至っていること、同会社は、竹製釣竿以外にも、遅くとも昭和50年ころからグラスファイバー製釣竿(グラスロッド)、昭和55年ころからカーボン製釣竿(カーボンロッド)の販売もするようになり、これらの釣竿にも本件商標を使用していたこと、昭和59年1月、同会社は、本件商標を表紙に付した「釣竿価格表」を印刷して取引先に頒布したが、その価格表には竹製釣竿、グラスロッド、カーボンロッドの商品名が記載されていることが認められる。

そして、前掲各証拠のほか、甲第7号証の0ないし3、第8号証の0ないし5、第9号証の0ないし6、第10号証の0ないし4(同会社作成の納品書)、第11号証の1ないし7(運送会社作成の領収書)及び甲第14号証(山野雅弘作成の陳述書)によれば、同会社が昭和61年2月から同63年8月にかけて、青梅市の甲州屋のほか青木延郎商店、山田五十八商店、増田商店などの取引先に対して、多数回にわたり、本件商標を付した竹製の釣竿(前記価格表で「中等品3.60m(12尺)4継」、「中等品2.70m(9尺)3継」などと表記されているもの)のほか、本件商標を印刷したカードを挿入した釣具セットカラーケース(竹竿入)を卸売販売したことが認められ、この認定を覆すべき証拠はない。

2  なお、甲第7ないし第10号証等の納品書における価格と甲第3号証の3の価格表における価格との間で一致しないものがあることが認められるが、甲第3号証の3の価格表に記載された竹製釣竿の卸価格の多くは、それ自体幅を持ったものとされており(例えば「中等品3.60m(12尺)4継」は330~400円とされている。)、同価格表が作成されたのが昭和59年であり、その後甲第7号証等による納品がされたのが昭和61年以降であって、その間に経済事情の変動があったことは公知の事実であるのみならず、山野雅弘の証言によれば、卸売販売においては取引条件により価格が異なる場合のあることが認められるから、上記のように価格の記載に一致しない点があることをもって、本件商標が有限会社山野釣竿製作所が製造、販売した竹製釣竿に付されていたとの上記認定を左右するものではない。

また、本件更新登録出願において原告らが特許庁に提出した本件商標の使用説明書に添付のシール(昭和61年12月10日に製作したと説明され本件商標が付されたもの)は、甲第2号証の4及び山野雅弘の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件商標の指定商品用のものでなく、グラスファイバー製の釣竿用のものであったことが認められるところ、これは、原告らにおいて本件商標の指定商品が釣竿であり、竹製釣竿に限られないものと思い違いをしていたという過誤によるものであったが、審判段階においては、本件更新登録出願前3年以内に本件商標を竹製釣竿に使用していたことを主張し、これを立証するために審判乙第1ないし第6号証(本訴甲第3号証、第5号証の各2ないし4)を提出していたことが認められる。そして、本件商標が指定商品に含まれる竹製釣竿に使用されていたことの立証は、上記のように審判ないし本訴で堤出された書証等によってされたものであるが、このような経緯があったことをもってしても、上記認定に影響を及ぼすものではない。

3  前記1で認定したとおり、有限会社山野釣竿製作所は、原告らの同族会社として昭和29年に設立され、原告らから本件商標の使用の許諾を得て、上記のように竹製釣竿についても本件商標を使用していたことが認められるから、同会社は通常実施権者として、平成2年2月19日にされた本件更新登録の出願日である平成1年2月14日(甲第2号証の4)前3年以内に本件商標をその指定商品に含まれる竹製釣竿について使用していたものというべきである。

4  よって、本件更新登録出願前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが本件商標をその指定商品について使用していなかったものとした審決の認定は誤りであり、この認定は本件更新登録を無効とした審決の結論に影響することが明らかであるから、審決は取り消されるべきである。

第5  結論

以上のとおりであり、原告らの本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成10年10月20日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

別紙

本件商標

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例