東京高等裁判所 平成10年(行ケ)214号 判決 1999年10月28日
原告
デマルト プロ アルテ ベー,ファウ,
代表者
【A】
訴訟代理人弁護士
佐藤雅巳
被告
株式会社ヨシダ興業
代表者代表取締役
【B】
訴訟代理人弁護士
谷村和治
同
浅野芳朗
"
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実
第1 原告が求める裁判
「特許庁が平成8年審判第14452号事件について平成10年3月30日にした審決を取り消す。」との判決
第2 原告の主張
1 特許庁における手続の経緯
原告は、別紙商標目録表示の標章からなり、旧23類「時計及びその附属品、その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第2455490号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。なお、本件商標は、平成元年7月28日に登録出願され、平成4年9月30日に商標権の設定登録がされたものである。
被告は、平成8年8月22日に本件商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求した(審判の予告登録日は、平成8年9月24日)。
特許庁は、これを平成8年審判第14452号事件として審理した結果、平成10年3月30日に「登録第2455490号商標の登録は、取り消す。」との審決をし、同年4月20日にその謄本を原告に送達した。なお、原告のための出訴期間として90日が付加された。
2 審決の理由
別紙決定書の理由(一部)写しのとおり
3 原告主張の審決取消事由の要点
審決は、事実認定を誤ったか、法律の解釈を誤ったかした結果、商標法50条の規定に基づいて本件商標の商標登録を取り消したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1)審決は、原告が提出した証拠に表示された「SALVADOR DALI」,「DemartPro Arte B.V.1996」,「Dali」及び「Dの欧文字とデフォルメされた時計の図形の結合したもの」等が、「例え本件商標と社会通念上同一であるといえるとしても」本件商標は本件審判請求の登録前3年以内に日本国内においてその指定商品について使用されていたとは認められない旨認定した(審決9頁3行ないし22行)。
しかしながら、本件商標の通常使用権者である株式会社ソニー・クリエイティブ・プロダクツ(以下「ソニー・クリエイティブ」という。)は、本件審判請求の登録前3年以内に、その指定商品である時計について,審決が本件商標と社会通念上同一であると仮定したものを使用することにより、商標法2条3項1号の要件を満たしていたものである。すなわち、ソニー・クリエイティブは、時計用の包装箱として、一側面に「Dの欧文字とデフォルメされた時計の図形の結合したもの」及び「9Demart Pro Arte B.V.1996」の表示が、他の側面に「SALVADOR DALI」の表示がそれぞれ付されたものを平成8年9月18日に東洋紙業株式会社(東京本社)に発注し、遅くとも同月20日、ソニー・クリエイティブの静岡プロダクツセンターにおいてその納品を受けた。このことは、甲第7号証の写真5,6(包装箱の写真)、甲第11号証(注文書)、第16号証(陳述書)によって明らかである。
(2)被告は、商標が付された商品が流通状態に置かれない限り、当該商標が使用されているとはいえない旨主張するが、失当である。商品は、流通に置かれる前に、まず製造されるのであり、商標法2条3項1号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」は、当該商品の流通に先立ち、製造の段階で行われるものだからである。
(3)なお、被告は、原告が登録第4088368号の商標登録を得たことを捉えて、原告は本件商標の不使用を自認している旨主張するが、原告が上記商標登録を得たことは本件商標が使用されていたか否かとは全く別個の問題である。
第3 被告の反論の要点
原告の主張1,2は認めるが、3(審決取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 原告は、甲第7の写真5,6(包装箱の写真)、第11号証(注文書)、第16号証(陳述書)を援用して、ソニー・クリエイティブが本件審判請求の登録より前3年以内に、原告主張の包装箱を発注し、かつその納入を受けた旨主張する。
しかしながら、甲第7号証と甲第11号証との結び付きは不明確であるうえ、甲第16号証をもってしても、甲第11号証の発注に応じて現実に納入された日が本件審判請求の登録より前であることを認めることはできない。
仮に、原告主張の包装箱の納入が本件審判請求の登録より前であったとしても、ソニー・クリエイティブが本件審判請求の登録前3年以内にその指定商品である時計について本件商標を使用していたとは認められないとした審決の認定が正当であることに変りはないというべきである。商標の本来的機能が自他商品の識別、出所表示であることからすれば、商標を使用しているといい得るためには、当該商標が指定商品に付され流通状態に置かれることが必要であるというべきであるのに、ソニー・クリエイティブが原告主張の商標を使用した時計の販売を開始した日が早くとも平成8年10月であることは明らかだからである(乙第7号証参照)。
2 なお、原告は、平成8年6月11日、本件商標と全く同一の標章について、本件商標の指定商品と重複する14類「時計」を指定商品とする商標登録出願をし、平成9年12月5日に商標登録(登録第4088368号)を得ている。したがって、原告は、本件商標の不使用を自認したものというべきである。
理由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由)は、被告も認めるところである。
第2 原告は、本件商標の通常使用権者であるソニー・クリエイティブが、本件審判請求の登録前3年以内に、本件商標の指定商品である時計に、審決が本件商標と社会通念上同一であると仮定したものを使用した旨主張する。原告の上記主張のうち、ソニー・クリエイティブが本件商標の通常使用権者であることは、被告が争うことを明らかにしていないから、自白したものとみなされる。
1 証拠によれば、以下の事実が認められる。
a 甲第7号証の写真3は「SALVADOR DALI」の欧文字及び「Demart Pro ArteB.V.1996」の欧文字と数字が表示されている時計の裏面の写真であり、甲第16号証(陳述書)によれば、この時計はソニー・クリエイティブが製造販売したものであることが認められる。そして、甲第10号証(注文書)によれば、ソニー・クリエイティブが平成8年9月18日に「セイコータイムテック(株)」に対して、時計(「DL1 リストウオッチ」として示される時計。以下「ダリ・ウオッチ」という。)423個の本体を同月26日までに「(株)長谷川時計店」へ納入するように書面による発注をしたことが認められる。
b 前掲甲第16号証によれば、甲第7号証の写真1に見られるタグ及び第8号証のタグはダリ・ウオッチ用のタグの写真であることが認められ、甲第7号証の写真1および第8号証によれば、同タグには、「SALVADOR DALI」の欧文字が表示され、「この製品はデマート・プロ・アルテB.V.とのライセンス契約により生産されたものです」と記載されていることが認められる。そして、甲第9号証(注文書)によれば、ソニー・クリエイティブが平成8年9月9日に「ナカムラレーベル(株)」に対して、ダリ・ウオッチ用のタッグ(タグ)2万1000枚を同月18日までに「(株)バンビ浦和工場」へ納入するように書面による発注をしたことが認められる。また、甲第15号証(ファクシミリ受信用紙)によれば、「セイコータイムテック株式会社」が平成8年9月5日付けでソニー・クリエイティブに対し、「Daliウオッチのプライスタグ」を「(株)バンビ浦和工場」へ送付するように依頼していることも認められる。
c 前掲甲第16号証によれば、甲第7号証の写真5,6はダリ・ウオッチの包装箱の写真であることが認められ、甲第7号証の写真5,6によれば、同包装箱の一側面には「SALVADOR DALI」の欧文字、他の側面には「Demart ProArte B.V.1996」の欧文字と数字及び「D」の欧文字とこれに掛けられている軟らかな時計の図形が表示されていることが認められる。そして、第11号証(注文書)及び前掲甲第16号証によれば、ソニー・クリエイティブは、先行した口頭の発注を確認するため、平成8年9月18日に「東洋紙業(株)東京本社」に対して、上記包装箱の「1ケ箱」4050個を同月20日までに「静岡プロダクツセンター」(ソニー・クリエイティブの一部門)に納入するように書面による発注をしたことが認められる。
以上の事実を総合すれば、ソニー・クリエイティブは遅くとも平成8年9月5日よりも前に「セイコータイムテック株式会社」に対してダリ・ウオッチの製造を発注しており、タグについては同月18日までに、包装箱については同月20日までに、時計本体については同月26日までに、所定の場所に納入されるように手配していたことが明らかである。
2 以上の事実を前提に、ソニー・クリエイティブが、本件審判請求の登録日である平成8年9月24日より前に、審決が本件商標と社会通念上同一であると仮定したものにつき、商標法2条3項1号の規定する行為をしたといえるか否かにつき検討する。前掲甲第11,第16号証により、原告主張の包装箱の製造が平成8年9月20日(甲第11号証上の納期)までに既に完了していたと認めることは可能である。しかし、「包装に標章を付する行為」が「商品についての使用」と認められるのは、それが「商品に標章を付する行為」と同視できる意味を有することにその根拠があると考えるべきであるから、商品と離れて包装に標章が付されても、それだけではまだ商標法2条3項1号に該当しないと解すべきである。
ところが、平成8年9月24日より前に、原告主張の包装箱が時計を包装する状態に置かれたと認めることはできない。前認定のとおり、時計本体の納入期限とされていたのは平成8年9月26日であり、これより前に時計本体がソニー・クリエイティブに納入されたことを認めさせる証拠はないからである。
したがって、原告主張の包装箱を根拠に、平成8年9月24日より前に商標法2条3項1号の要件が満たされたとすることはできない。
なお、前記認定のダリ・ウオッチの本体及びタグに付された標章は、本件商標の中で最も強く看者の目を引く「D」の欧文字とこれに掛けられている軟らかな時計の図形を欠いており、本件商標との間に社会通念上の同一性が認められないものであることは、明らかというべきであるから(乙第6号証参照)、その製造時期のいかんにかかわらず、これらをもって本件商標の使用を根拠づけることはできない。
3 その他、本件全資料を検討しても、本件商標について、本件審判請求の登録日である平成8年9月24日より前に商標法2条3項1号の要件を満たすべき行為があったことは認めることができない。
第3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担及びこの判決に対する上告等のための期間付加について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条及び96条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成11年8月3日)
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)
<省略>