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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)224号 判決 1999年10月12日

原告

株式会社リコー

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

稲元富保

同弁理士

【B】

【C】

【D】

被告

特許庁長官 【E】

指定代理人

【F】

【G】

【H】

【I】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

「特許庁が平成9年審判第5303号事件について平成10年5月21日にした審決を取り消す。」との判決。

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年10月23日に出願の特願昭60-236979号を原出願とし、平成8年2月20日、発明の名称を「現像装置」とする発明(本願発明)について特許出願(平成8年特許願第32205号)をしたところ、平成9年2月24日拒絶査定があったので、同年4月3日審判請求をし、平成9年審判第5303号事件として審理されたが、平成10年5月21日、「本件審判請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年6月29日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

静電潜像が表面に形成される潜像担持体に対向して配置され、その対向部で該潜像担持体にトナーを供給する現像ローラと、上記現像ローラの周面に当接して配置され、上記現像ローラとの当接部においてその周面が相対的に移動する導電性のトナー補給ローラと、上記現像ローラと上記トナー補給ローラとの間に電圧を印加するための電源であって、上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源と、上記現像ローラの回転方向において上記トナー補給ローラよりも下流側であって、上記対向部と上記トナー補給ローラとの間に配置され、上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する摩擦帯電手段と、上記トナー補給ローラに対してトナーを供給する現像剤搬送手段とを具備し、上記トナー補給ローラと上記現像ローラとの当接部よりも上記トナー補給ローラの回転方向上流部位であって、上記トナー補給ローラの周面に上記現像剤搬送手段によりトナーが供給されるトナー供給部位から上記当接部までの間には、上記トナー補給ローラ上のトナー量を規制する部材を具備していない現像装置。(別紙本願発明図面参照)

3  審決の理由の要点

(1)  審判手続における拒絶理由

本願発明の要旨は前項のとおりと認めるが、平成9年9月10日付けで通知した審判手続における拒絶の理由1の概要は、本願発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物である特開昭58-223158号公報(引用例1)、特開昭58-144861号公報(引用例2)、特開昭59-121347号公報(引用例3)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。

(2)  引用例

◇ 引用例1の記載事項:(別紙引用例1図面参照)

「本発明は電子写真・静電記録…(中略)…等の手法により潜像担持体面に形成した電気的潜像(静電潜像・電位潜像…(中略)…)を乾式粉体現像する装置に係り、特に現像剤として所謂一成分現像剤を用いる方式(一成分現像方式)の現像装置に関する。…(中略)…この一成分現像方式は、従来から一般に利用されているトナーとキヤリアから構成された所謂二成分現像剤を用いる現像方式に比べて、攪拌機構がいらない、現像剤の濃度測定が必要ない等のため、装置を小型・軽量化することができるばかりでなく、現像剤の劣化も発生しないという種々の大きな利点がある。一成分現像方式に使用する現像剤には(Ⅰ)…(中略)…磁性一成分現像剤(Ⅱ)樹脂成分のみから作られた非磁性一成分現像剤の2種がある。上記(Ⅰ)の磁性一成分現像剤の場合は…(中略)…現像剤担持部材面の近傍に現像剤を供給してやれば現像剤は該部材面に磁気吸引力により容易に層状に付着して保持される。従って該部材に対する現像剤の供給方向には自由度があり、例えばローラ形の現像剤担持部材に対してそのローラの上からでも、横からでも、あるいは下からでも現像剤を供給して層状に付着保持させることができ、現像装置自体の設計、複写機内での配置設計に融通性(設計自由度)がある。しかしその反面、…(中略)…カラー画像用の純粋なシアン、マゼンタ、イエローの各色現像剤を作ることはできない。また、…(中略)…オリジナルの完全な色再現を期待することはできない。(Ⅱ)の非磁性一成分現像剤の場合は上記とは逆に現像剤が樹脂成分のみからできているので、カラー画像用の純粋なシアン、マゼンタ、イエローの各色現像剤を作り易い利点がある。しかし、現像剤担持部材面に対する現像剤薄層の形成・保持は前記磁性一成分現像剤のように磁気吸引力で行うことはできず、この場合は現像剤担持部材面に対して現像剤を常に略一定の押圧力状態で接触させて供給することにより現像剤担持部材面に現像材の薄層を摩擦帯電によるクーロン力あるいはファンデルワールス力等の相互作用により現像剤を現像ローラ表面に付着・保持させる形態が採られる。このため現像材担持部材面に対する現像剤の供給方向がある程度制限され、かつ供給方法に若干の工夫が必要である。従って現像装置自体の設計、複写機内での配置設計等の自由度はそれだけ狭いものとなる。本発明は上記後者のカラー画像現像剤を作り易い利点を有する非磁性一成分現像剤を使用する現像装置について、現像剤担持部材面に対する該現像剤の供給を、前者の磁性一成分現像剤の場合と略同様に任意の方向から支障なく供給できるように工夫して装置設計・配置設計の自由度を大きくすることを目的とする。即ち、現像剤担持部材に開口部を対向させて弾性薄膜からなる現像剤収納袋を配設し、その袋内に現像剤を袋の弾性に抗して詰めて収納し、その袋内の現像剤を袋の収縮力で現像剤担持部材面に押圧接触させて供給することを特徴とする現像装置を要旨とする。」(1頁下左欄16行~2頁下左欄18行)、

「第1図に於て、1は潜像担持体としてのドラム型の電子写真感光体で、…(中略)…ドラム1の回りには潜像形成プロセス機器、転写装置、クリーニング装置等が配設される…(中略)…該ドラム1は矢示の時計方向に回転駆動され潜像形成プロセス機器の作用でその周面に順次に静電潜像が形成される。4は上記ドラム1面に形成された潜像を可視化する本発明に従う現像装置である。…(中略)…5は…(中略)…現像剤担持部材としての現像ローラである。この現像ローラ5はドラム1と略同長の長さ寸法を有し、両端部に於て回転自由に軸受支持させてあり、矢示の反時計方向に回転駆動される(駆動機構は図に省略)。ローラ材質は金属・樹脂・セラミツク等の材料で、ローラ表面はトナーの付着を助長するため、数μm程度の小さな凹凸が無数に設けてある。6は上記現像ローラ5の右下側に開口部61をローラ5に対向させて配設した、ゴム膜など伸縮弾性に富み強靱な弾性薄膜製の現像剤収納袋で、現像ローラ5と略同長の長さ寸法を有する横長の袋である。…(中略)…8は現像ローラ5の右斜め下側面位置に現像ローラ面に接触させて、又袋6に収納したトナー7の溜り内に入り込ませて配設した塗布ローラである。この塗布ローラはスポンジ、ゴム等の弾性ローラで現像ローラ5と略同長の長さ寸法を有し、現像ローラ5と並行にして両端部を回転自由に軸受保持させてあり、矢示の反時計方向に回転駆動される(駆動機構は図に省略)。9は現像ローラ5の右半面の略中央部に先端部を接触させて配設した摩擦帯電部材で、現像ローラ5と略同長の長さ寸法を有する。13はその摩擦帯電部材の取付け保持板である。…(中略)…該現像装置は潜像担持体たるドラム1に対してハウジング10の窓孔部101から外部に露出している現像ローラ5をドラム1に並行に且つ僅少な隙間dを存して接近させた状態にして配置される。而してトナー7を収納した弾性膜袋6は弾性収縮力によりトナー7を常に袋開口部61に対向する現像ローラ5面及び塗布ローラ8面に押圧接触させる力を発生する。現像のため現像ローラ5及び塗布ローラ8が夫々矢示方向に駆動されると、塗布ローラ8の回転により該ローラ近傍のトナーが摩擦帯電され、その帯電トナーが現像ローラ5面に塗布付着される。又該塗布ローラ8と摩擦帯電部材9間に於てトナーがローラ5面に袋6の弾性収縮力に基づくトナー押圧接触力で塗布付着する。次いでそのローラ5の塗布トナー層は次位の摩擦帯電部材9位置を通過する過程で過剰な付着トナー分が掻き落されて薄層に整層化されると共に、該部材9との摩擦で帯電量が増加する。部材9で落された過剰トナー分は袋6内に落下して戻る。上記摩擦帯電部材9位置を通過して薄層に整層化され又帯電量の増された現像ローラ5上のトナー整層71は引続くローラ5の回転に伴ない被現像部材たるドラム1側に回動され、ドラム1との最接近部(現像部A)に於てトナー整層71のトナーがドラム1面側へ電気的引力で潜像パターンに対応して選択的に移行付着してドラム1面の潜像の可視化がなされる。現像に供されなかつたトナー層72は引続くローラ5の回転で現像剤収納袋6側に戻り、ローラ5と接触していて接触部に於て面移動方向が逆である塗布ローラ8の摺接力で一旦現像ローラ面から母線方向各部全て掻き落される。引続いてその現像ローラ面にあらためて塗布ローラ8で母線方向各部にトナーが塗布され、又該塗布ローラ8と摩擦帯電部材9間に於てトナーがローラ5面に袋6の弾性収縮力に基づくトナー押圧接触力で塗布付着する。そしてその塗布トナー層が部材9で整層化され現像部Aへ回り込むサイクルが連続的に行なわれてドラム1面の連続的な現像処理がなされる。尚上記の塗布ローラ8による現像ローラ5面からの残留トナー層72の掻き落しにより所謂メモリ或はゴースト像発生現象が掻き消される。袋6内のトナーは現像に供されることにより逐次消費され減少する。そのトナーの消費減少に伴ない袋6は逐次収縮していく。その結果、袋6内のトナーの消費減少過程に於て袋の弾性収縮力に基づく袋内トナーの袋開口部61に於ける現像ローラ5面及び塗布ローラ8面に対する押圧接触力は常に略一定圧力に保持される。」(2頁下右欄1行~4頁上左欄7行)、及び、

「以上本発明は現像剤担持部材5…(中略)…に対する乾式一成分現像剤7を供給する手段として現像剤担持部材5…(中略)…に開口部61を対向させて弾性薄膜からなる現像剤収納袋6を配設し、その袋内に現像剤7を袋の弾性に抗して詰めて収納し、その袋内の現像剤7を袋6の収縮力で現像剤担持部材面に押圧接触させて供給するようにしたから、現像剤の消費減少過程中常に現像剤を現像剤担持部材5…(中略)…面に略一定の押圧力で接触させて供給した状態にすることができる。…(中略)…また、トナーに常に一定の押圧力を加えているので、トナーの補給を妨げる架橋現象は発生しない。」(4頁上右欄16行~下左欄14行)が図面とともに記載されている。

そして、これらの記載のうち、上記現像剤収納袋6が現像剤担持部材5に対する乾式一成分現像剤7を供給する手段である旨の記載、その袋内の現像剤7を袋6の収縮力で現像剤担持部材面に押圧接触させて供給するようにしたから、現像剤の消費減少過程中常に現像剤を現像剤担持部材5面に略一定の押圧力で接触させて供給した状態にすることができる旨の記載、及び、上記弾性膜袋6の弾性収縮力によりトナーを押圧接触させる対象面として現像ローラ5面とともに塗布ローラ8面が記載されていることから、上記現像剤収納袋6は、塗布ローラ8に対してトナーを供給する現像剤搬送手段であるということができる。

また、「上記の塗布ローラ8による現像ローラ5面からの残留トナー層72の掻き落しにより所謂メモリ或はゴースト像発生現象が掻き消される」が記載されていることから、「現像に供されなかったトナー層72を塗布ローラ8の摺接力で一旦現像ローラ面から母線方向各部全て掻き落とす」のは、「現像ローラの次のサイクル時に所謂メモリ或いはゴースト像が残ることを防止する」ことを目的としているものと認められる。

さらに、第2図の記載から「塗布ローラ8と現像ローラ5との接触部よりも上記塗布ローラの回転方向上流部位であって、上記塗布ローラの周面に現像剤収納袋6によりトナーが供給されるトナー供給部位から上記接触部までの間には、上記塗布ローラ上のトナー量を規制する部材を具備していない」事項、及び「摩擦帯電部材9が現像ローラ5の回転方向において塗布ローラ8よりも下流側であって、潜像担持体1と現像ローラ5との対向部と上記塗布ローラ8との間に配置されている」事項が把握できる。

以上のことから、引用例1には、「現像剤担持部材面に対する該現像剤の供給を、任意の方向からできるようにする」目的に加え、「現像ローラの次のサイクル時に、所謂メモリ或いはゴースト像が残ることを防止する」目的を有する発明であって、「静電潜像が表面に形成される潜像担持体1に対向して配置され、その対向部で該潜像担持体にトナーを供給する現像ローラ5と、上記現像ローラの周面に接触させて配設され、上記現像ローラとの接触部においてその周面が反対方向に移動するローラであって、現像に供されなかったトナー層72を一旦現像ローラ5面から母線方向各部全て掻き落とすとともに、袋6の弾性収縮力に基づく現像ローラ5面に対するトナー押圧接触力による塗布付着と合わせて過剰なトナーを現像ローラ5面に付着させる塗布ローラ8と、上記現像ローラの回転方向において上記塗布ローラよりも下流側であって、上記対向部と上記塗布ローラとの間に配置され、袋6の弾性収縮力に基づく現像ローラ5面に対するトナー押圧接触力による上記塗布付着及び上記塗布ローラによる塗布により上記現像ローラに供給された過剰な付着トナー分を現像ローラ上で掻き落して薄層に整層化するとともに、整層化されたトナーとの摩擦でトナーの帯電量を増加する摩擦帯電部材9と、上記塗布ローラに対してトナーを供給する現像剤搬送手段とを具備し、上記塗布ローラと上記現像ローラとの接触部よりも上記塗布ローラの回転方向上流部位であって、上記塗布ローラの周面に上記現像剤搬送手段によりトナーが供給されるトナー供給部位から上記接触部までの間には、上記塗布ローラ上のトナー量を規制する部材を具備していない現像装置4。」の発明が記載されていると認められる。

◇ 引用例2の記載事項:(別紙引用例2図面参照)

「第1図は従来のトナー補給機構を装備した乾式現像装置の一例を示し、これを説明すると、…(中略)…現像ローラ(1)の回転で感光体(10)から離れた外周面上の現像剤(5)は掻落し板(4)で現像ローラ(1)から掻き取られて攪拌羽根(3)まで落下する。一方、現像に供されて消耗したトナー量に見合う量のトナー(8)がトナー定量供給ローラ(9)の回転で攪拌羽根(3)上に落下供給される。攪拌羽根(3)は掻落し板(4)からのトナー濃度の低下した現像剤

(5’)とトナー容器(7)からの補給トナー(8)とを攪拌して、トナー濃度が2~5重量%の所望の現像剤(5)を準備する。攪拌された現像剤(5)は汲上ローラ(2)を介して現像ローラ(1)まで供給され、再度現像に使用される。このように従来のトナー補給機構は現像ローラから現像剤を掻き取り、これに補給トナーを混合攪拌して再度現像ローラに供給する構造のため、現像剤の掻き取り手段や攪拌手段、補給用トナーの定量供給手段を必要として全体の構造が複雑且つ大型化する傾向にあつた。また補給用トナーをトナー定量供給ローラで定量ずつ落下供給しているが、トナーは流動性が悪いためにトナー定量供給ローラに一部が詰まつて落下しないことがあり、そのため定量供給が難しくて信頼性に欠ける問題点があつた。本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、補給用トナーを現像ローラに直接に、且つ静電転送方式で確実に必要量だけを供給するトナー補給装置を提供する。本発明の1つの特徴は現像ローラを内蔵する現像器内に少なくとも補給用トナーを収容するトナー容器と、トナー容器内のトナーを現像ローラに直接に補給するためのトナー転送ローラを配備するだけでよい構造にある。従ってトナー補給機構を含む現像装置全体の構造が大幅に簡略化できる。また本発明の他の特徴は前記トナー転送ローラをその外周面にトナーが静電吸着されるものを使用し、トナー転送ローラと現像ローラ間のトナー移動方向及び量を両者ローラに各々印加した電圧の差で制御することである。」(1頁下右欄20行~2頁下左欄10行)、

「第2図は上面フラツトな背面電極(11)上の静電記録紙(12)の静電潜像を現像する現像装置に本発明を適用した実施例を示すもので、(13)は現像器、(14)は現像器(13)の下端部に一部を突出させて内蔵された現像ローラ、(15)は現像器(13)の上部に装着されたトナー容器、(16)はトナー容器(15)のトナー供給口(17)に回転自在に配置されたトナー転送ローラである。現像ローラ(14)は回転スリーブ(18)と、…(中略)…永久磁石(19)で構成された一般的なものが使用され、回転スリーブ(18)の外周面上に現像剤(20)が磁気ブラシを形成して付着する。この磁気ブラシは現像剤(20)中のキヤリアで形成され、キヤリアによる磁気ブラシにトナーが付着し、記録紙(12)の現像はトナーだけで行われてキヤリアは磁気ブラシを形成したまま回転スリーブ(18)上に残る。前記トナー転送ローラ(16)は導電体からなる回転ローラ(21)の外周面に誘電体層(22)を数10μ~数100μの厚さで一体に被着形成した構造で、このトナー転送ローラ(16)をトナー容器(15)内の補給トナー(23)の中で回転させ、一方で電圧を印加すると外周面上にトナー(23)が静電吸着される。トナー転送ローラ(16)と現像ローラ(14)の間隔は少なくとも現像ローラ(14)上の磁気ブラシの穂先がトナー転送ローラ(16)に接するだけの大きさを必要とし、望ましくは磁気ブラシの穂高の半分程度の大きさに設定する。また、第2図の(24)は現像ローラ(14)に現像バイアス電圧VBを、トナー転送ローラ(16)にトナー転送電圧VTを印加する電源回路で、例えば補給用トナー(23)に正極性のものを使用する場合はVBとVTを零ボルトからマイナスの範囲で制御する。一方の現像バイアス電圧VBは記録紙(12)の静電潜像の現像の際に、静電潜像以外のところにトナーが付着するのを防止する公知の制御電圧で、例えば-100ボルトに保持される。他方のトナー転送電圧VTはVB=一定に対して零ボルトからマイナスの範囲で変化する可変制御電圧である。(25)は現像ローラ(14)の近くに配置したトナー濃度センサで、現像ローラ(14)上の現像剤(20)のトナー濃度を磁気的或は光学的等の手段で検知して電気信号で出力する。(26)はトナー濃度センサ(25)の出力でトナー転送電圧VTの大きさを制御するトナー濃度判別制御回路である。また(27)は現像ローラ(14)上の磁気ブラシの穂高を規制するブレード、(28)はトナー転送ローラ(16)上のトナー付着層厚を規制するブレードである。次に上記装置による現像及びトナー補給動作を説明する。現像は回転する現像ローラ(14)を記録紙(12)上に走行させて行われる。この現像で消費されたトナー量はトナー濃度センサ(25)で検知され、消費されたトナー量に応じた大きさの出力電圧VXがトナー濃度判別制御回路(26)に送られる。いま出力電圧VXが第3図の曲線に示すように変化して、時間t1でトナー濃度が2重量%の下限値を示す下限電圧V1になると、この電圧V1の出力信号でもつてトナー転送ローラ(16)を回転させ、且つ印加電圧VTを-100ボルトから例えば-70ボルトに変える。するとトナー転送ローラ(16)上に付着した正極性のトナー(23)は-100ボルト印加の現像ローラ(14)上に移り、トナー補給が行われる。このトナー補給量はVTとVBの差が大きい程に多くなり、また回転数が増大する程に増える。またトナー補給はVTとVBの差による静電的吸着手段で行われるので動作が確実であり、補給量の制御も容易である。トナー補給が続行され、現像ローラ(14)上のトナー濃度が5重量%の上限値になってトナー濃度センサ(25)の出力電圧VXが上限のV2になると、トナー転送電圧VTを-100ボルトに戻し、トナー転送ローラ(16)の回転を止める。」(2頁下右欄1行~3頁下左欄12行)、及び、

「尚、本発明は上記実施例に限らず、例えば現像ローラの現像バイアス電圧を可変にして、これとトナー転送電圧の差でもつてトナーの両ローラ間の移動を制御することも可能である。…(中略)…更に本発明は第1図に示したようなドラム状感光体の現像に使用される現像装置のトナー補給にも十分に適用できる。又、トナーは負極性のものを使用してもよく、この場合は前述説明のマイナス表示が全てプラス表示と逆になる。…(中略)…またトナー転送ローラから現像ローラへのトナーの供給が両ローラ間に印加する電圧で自在に、迅速かつ正確に制御できる。」(3頁下右欄2行~4頁上左欄1行)が図面とともに記載されており、その図面の第2図の記載から、現像ローラ14(回転スリーブ18)が第2図において反時計方向に回転する事項、現像ローラの回転方向においてトナー転送ローラ(16)よりも下流側であって、現像ローラが静電記録紙(12)に対向する対向部とトナー転送ローラとの間にブレード(27)が配置されている事項、トナー転送ローラの回転方向は第2図において時計方向である事項が把握される。

また、「出力電圧が第3図の曲線に示すように変化して、…(中略)…下限値を示す下限電圧V1になると、この電圧V1の出力信号でもってトナー転送ローラを回転させ、…(中略)…出力電圧VXが上限のV2になると、…(中略)…トナー転送ローラ(16)の回転を止める。」と記載されていることから、現像ローラが回転しながら静電記録紙の静電潜像を現像している間に、トナー転送ローラは回転を始めたり止めたりするのであるから、「現像ローラの磁気ブラシに接する領域においてトナー転送ローラの周面は相対的に移動する」ものといえる。

以上の記載から、引用例2には「回転スリーブ(18)と永久磁石(19)で構成され、外周面上にトナーを付着したキヤリアで磁気ブラシを形成し、静電記録紙(12)に対向して配置され、その対向部で該静電記録紙にトナーを供給する現像ローラ(14)と、上記現像ローラの外周面の磁気ブラシに接するように配置され、上記現像ローラの外周面の磁気ブラシに接する領域においてその周面が相対的に移動する、導電体からなる回転ローラの外周面に誘電体層を被着形成した構造のトナー転送ローラ(16)と、上記現像ローラと上記トナー転送ローラの両ローラに各々印加した電圧の間に差が生じるように両ローラに電圧を印加するための電源回路であって、上記現像ローラに印加する現像バイアス電圧をVB、上記トナー転送ローラに印加するトナー転送電圧をVTとしたとき、上記トナーが正極性である場合には例えばVB=-100ボルト、VT=-70ボルトに、上記トナーが負極性である場合には例えばVB=+100ボルト、VT=+70ボルトになるように、VB及びVTをそれぞれ設定する電源回路(24)と、上記現像ローラの回転方向において上記トナー転送ローラよりも下流側であって、上記対向部と上記トナー転送ローラとの間に配置され、上記VBとVTとの電圧の差により生じる電気的な吸着力により上記トナー転送ローラから上記現像ローラに補給されたトナーが付着したキヤリアで現像ローラ上に形成された磁気ブラシの穂高を規制するブレード(27)とを具備した乾式現像装置」の発明が記載されていると認められる。

また引用例2には、トナー補給をVTとVBの差による静電的吸着手段で行うので、動作が確実であり、補給量の制御も容易である旨も記載されている。

さらに、引用例2記載の上記発明は、VBとVTとの電圧の差により生じる電気的な吸着力により上記トナー転送ローラから上記現像ローラにトナーを補給するので、引用例1に記載の「現像剤担持部材面に対して現像剤を常に略一定の押圧力状態で接触させて供給することにより…(中略)…現像剤を現像ローラ表面に付着・保持させる形態」のもののように現像剤担持部材面に対する現像剤の供給方向が制限されることがなく、現像剤担持部材面に対する現像剤の供給を任意の方向からできることが把握できる。

◇ 引用例3の記載事項:(別紙引用例3図面参照)

「乾式複写機等の現像装置にあつては、…(中略)…近年感光体上に同時に複数色のトナーを重ね現像し、カラー複写画像を得るという、カラー複写機の普及に伴い、現像時現像剤が静電潜像と摺接されない、非接触タイプの現像装置が開発されている。即ちこの装置は、周囲に絶縁層あるいは抵抗層が被覆され、静電潜像に近接対向される現像ローラを用い、その表面にキヤリア及びトナーからなる二成分現像剤のうちのトナーのみを、磁気ブラシを用いて付着させた後、この現像ローラ上のトナーを静電的に静電潜像に吸着させて非接触現像を行なうものである。しかしながらこの装置は、…(中略)…次の様な欠点も有している。即ち現像ローラはその構造上磁気ブラシからのトナー受給量が充分でなく、前のサイクルでのトナー消費分を補給出来ず、画像濃度が低下され、更には現像時前のサイクルの画像が白いパターンとして生じるという、トナー供給面での欠点を有している。…(中略)…この発明は上記事情にもとづいてなされたもので、…(中略)…現像ローラ上のトナー受給量を向上させ、画像濃度の向上を図る事が出来る現像装置を提供する事を目的とする。…(中略)…この発明は、キヤリアの粒径を静電潜像及び現像ローラ間の間隙よりも小さくなるよう形成する事により画質向上及び感光体の損傷防止を図るものである。」(1頁下右欄3行~2頁上右欄15行)、

「現像ローラ(12)及び非磁性円筒スリーブ(14b)間には約200〔V〕の電位差が生じており、非磁性円筒スリーブ(14b)の回転により形成される磁気ブラシ(15)中の、負極性に充分摩擦帯電されたトナーが、現像ローラ(12)に約40~50〔μm〕の厚さに静電的に吸着され、供給される。」(2頁下右欄8行~13行)、

「このように構成すれば、キヤリアの粒径が従来に比し小さくされる事から、同一重量にあつては従来よりキヤリアの表面積が大きくされトナーの付着量が増大され、磁気ブラシ(15)による現像ローラ(12)へのトナーの供給量も増大され、画像濃度の低下が防止される。そして前の現像パターンが複写画像に白いパターンとなって現われるという事も無くなる。」(3頁上右欄4行~11行)、及び、

「以上説明したようにこの発明によれば、現像ローラへのトナー供給量が増大され、画像濃度が向上されることから前の画像が複写画像に白いパターンとなって現われるという事が無く、画質の向上を図れる」(3頁下左欄18行~下右欄2行)が図面とともに記載されている。

そして、以上の記載から、「現像ローラが受給するトナー受給量が充分でないと、前のサイクルでのトナー消費分を補給出来ず、前のサイクルの画像が白いパターンとして生じる」事項、すなわち、いわゆるメモリあるいはゴースト像発生現象は現像ローラへのトナー供給量が充分でない場合に生じることが把握できる。

(3)  審決のした対比・判断

本願発明と引用例1記載の発明とを比較すると、本願発明の「潜像担持体」、「現像ローラ」、「当接して配置され」、「当接部」、「相対的に移動する」、「トナー補給ローラ」、「上記現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化する」、「薄層化されたトナーの帯電を均一化する」、「摩擦帯電手段」及び「現像装置」は、それぞれ、引用例1記載の発明の「潜像担持体1」、「現像ローラ5」、「接触させて配設され」、「接触部」、「反対方向に移動する」、「塗布ローラ8」、「上記現像ローラに供給された過剰な付着トナー分を現像ローラ上で掻き落して薄層に整層化する」、「整層化されたトナーとの摩擦でトナーの帯電量を増加する」、「摩擦帯電部材9」及び「現像装置4」に相当するから、両者は、「静電潜像が表面に形成される潜像担持体に対向して配置され、その対向部で該潜像担持体にトナーを供給する現像ローラと、上記現像ローラの周面に当接して配置され、上記現像ローラとの当接部においてその周面が相対的に移動するトナー補給ローラと、上記現像ローラの回転方向において上記トナー補給ローラよりも下流側であって、上記対向部と上記トナー補給ローラとの間に配置され、上記現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する摩擦帯電手段と、上記トナー補給ローラに対してトナーを供給する現像剤搬送手段とを具備し、上記トナー補給ローラと上記現像ローラとの当接部よりも上記トナー補給ローラの回転方向上流部位であって、上記トナー補給ローラの周面に上記現像剤搬送手段によりトナーが供給されるトナー供給部位から上記当接部までの間には、上記トナー補給ローラ上のトナー量を規制する部材を具備していない現像装置。」の点で一致し、本願発明が、「上記現像ローラと上記トナー補給ローラとの間に電圧を印加するための電源であって、上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源」を、更に具備し、前記トナー補給ローラが「導電性」であって、かつ前記現像ローラへのトナーの供給が、「VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから」行われるのに対し、引用例1記載の発明にはこのことが開示されていない点で相違している。

この相違点について検討する。

まず、本願発明と引用例2記載の上記発明とを比較すると、本願発明の「現像ローラ」、「トナー補給ローラ」、「間に電圧を印加する」、「現像ローラの電圧」、「VB」、「トナー補給ローラの電圧」、「VR」、「正帯電性」、「負帯電性」、「電源」、「導電性となし」、「電位差」、「電気的な力」及び「供給する」は、各々引用例2記載の上記発明の「現像ローラ(14)」、「トナー転送ローラ(16)」、「両ローラに各々印加した電圧の間に差が生じるように両ローラに電圧を印加する」、「現像ローラに印加する現像バイアス電圧」、「VB」、「トナー転送ローラに印加するトナー転送電圧」、「VT」、「正極性」、「負極性」、「電源回路(24)」、「導電体からなる回転ローラの外周面に誘電体層を被着形成した構造となし」、「電圧の差」、「電気的な吸着力」及び「補給する」が相当し、本願発明の「VB<VR」、「VB>VR」には、引用例2記載の上記発明の「例えばVB=-100ボルト、VT=-70ボルト」、「例えばVB=+100ボルト、VT=+70ボルト」が、それぞれ該当するから、本願発明の構成要件である「現像ローラとトナー補給ローラとの間に電圧を印加するための電源であって、上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源を具備し、前記トナー補給ローラを導電性となし、かつ上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラにトナーを供給する」事項は、上記引用例2により本件出願前に公知である。

次に、引用例1記載の発明に引用例2記載の上記発明を採用することの容易性について検討する。

引用例1記載の発明の現像装置は、塗布ローラ8による摺接力を現像に供されなかったトナー層72を現像ローラ面から母線方向各部全て掻き落とすことができる大きさにする必要があるため、引用例1記載の発明の現像装置は大きな駆動力を要することが明らかであり、現像装置において大きな駆動力を必要とすることが不具合であることは、現像装置の分野の当業者が把握している事項(特開昭56-102870号公報4頁下左欄15~16行の「大きな駆動力を要するという不具合を生じる。」との記載参照。)である。また、塗布ローラ8の摺接力により、現像に供されなかったトナー層72を現像ローラ面から、その全てでなく一部を掻き取るものであっても、その掻き取りとともに現像ローラ面の現像に供されなかった現像剤が存在しない部分に現像剤を供給して均一な状態にし、その後再び摩擦帯電部材9により所定厚さのトナー層を形成すれば、高濃度の現像が連続して可能であることも現像装置の分野の当業者が把握している事項(特開昭60-53975号公報2頁下右欄1~16行の「この残存現像剤の一部は均一化部材4で回収され、かつ現像剤が存在しない部分には均一化部材4で現像剤1が供給されてほぼ均一な状態に修正された後にホツパー2内に入り、再び第1ブレード31で所定厚さの薄層の現像剤層が形成される。…(中略)…したがって、高濃度、広面積のベタ黒画像を忠実に再現できる。」という記載参照。)である。

一方、いわゆるメモリあるいはゴースト像発生現象は現像ローラへのトナー補給量が充分でない場合に発生すること、及びいわゆるメモリあるいはゴースト像の発生を防止するためにトナー供給量を増大させる必要があることは引用例3にみられるように本件出願前に公知である。

そして、引用例2記載の上記発明においてVTとVBの差を大きくすることによりトナー補給量を多くすることができることが明らかである。

また、引用例2記載の上記発明は、トナー補給をVTとVBの差による静電的吸着手段で行うので、動作が確実であり、かつ補給量の制御が容易である。

さらに、引用例2記載の上記発明は、現像剤担持部材面に対する現像剤の供給を任意の方向からできるものである。

以上のことから、引用例1記載の発明の現像装置に内在していることが明らかなところの大きな駆動力を要するという不具合を取り除くため、あるいは、トナー補給動作を確実にし、かつ補給量の制御を容易にするため、引用例1記載の発明に、引用例1記載の発明と同様に現像剤担持部材面に対する現像剤の供給を任意の方向からできることが明らかな引用例2記載の上記発明を採用し、引用例1記載の発明において塗布ローラ8が「現像に供されなかったトナー層72を一旦現像ローラ5面から母線方向各部全て掻き落とすとともに、袋6の弾性収縮力に基づく現像ローラ5面に対するトナー押圧接触力による塗布付着と合わせて過剰なトナーを現像ローラ5面に付着させ」ているのに代えて、塗布ローラ(トナー転送ローラ)から現像ローラに静電転送方式で過剰にトナーを供給するようにして本願発明の構成にすることは、現像装置の分野の当業者が引用例3に記載の事項を参照し引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて容易に想到することができたものと認められる。

したがって、引用例1記載の発明の現像装置に「現像ローラとトナー補給ローラとの間に電圧を印加するための電源であって、上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源」を更に具備し、前記トナー補給ローラを「導電性」となし、かつ「上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により前記トナー補給ローラから」上記現像ローラに過剰にトナーを供給するようにしたことは、上記引用例1~3の記載に基づいて当業者が容易に想到することができたものと認められる。

そして、本願発明の効果は上記引用例1~3に記載のものの効果の総和以上のものとは認められない。

(4)  審決のむすび

したがって、本願発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物である上記引用例1~3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3  原告主張の審決取消事由

1  本願発明の特徴

本願発明は、従来の現像装置においては、トナー補給ローラの機能である現像ローラ表面の残留トナーのかき落しが十分に効率よくなされておらず、無理にトナー補給ローラの回転速度を増加させることで機能の向上を図ろうとすると、駆動トルクの増大や残像の発生を見るなどの問題を生じる点にかんがみて、電位差によってトナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に供給して、帯電極性が不均一なトナーの帯電量及び付着量を制御して十分な画像濃度を得、地汚れ及び残像などの少ない安定した画像品質を維持することを目的としたものである。

本願発明は、この目的を達成するため、特に、その特許請求の範囲中の「上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する摩擦帯電手段」で示すように、「電位差によってトナー補給ローラから現像ローラに過剰にトナー供給し、これを薄層化すると共に帯電を均一化する摩擦帯電手段」を設けた点に特徴がある。

したがって、特許請求の範囲中の「上記現像ローラの回転方向において上記トナー補給ローラよりも下流側であって、上記対向部と上記トナー補給ローラとの間に配置され、上記VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する摩擦帯電手段と、」との部分(原告準備書面で「構成要件D」とする部分)は、「電位差により生じる電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラに過剰にトナーを供給すること」と、「現像ローラに過剰に供給されたトナーを現像ローラ上で薄層化し、帯電を均一化すること」という2つの要件を含む。

このような構成を採用することで、本願発明は、帯電したトナーに電気的な力が作用して良好な現像に必要とされる帯電したトナーが過剰に供給され、十分な画像濃度を得るとともに、地汚れ及び残像の少ない安定した画像品質を維持することができるという作用効果を奏する。換言すれば、本願発明は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明のいずれにもない「電位差によってトナー補給ローラから現像ローラに過剰にトナーを供給する」という、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明では得られない作用効果を奏する。

2  取消事由1(相違点の看過)

本願発明と引用例1記載の発明とでは、本願発明が「電位差により生じる電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラに過剰にトナーを供給する」のに対して、引用例1記載の発明は「袋6の弾性収縮力と塗布ローラ8の摩擦帯電により現像ローラ5面に過剰なトナーを供給している」点で相違しているのに、審決は、この相違点を看過した。

3  取消事由2(容易想到性の認定の誤り)

審決は、「引用例1記載の発明に、引用例1記載の発明と同様に現像剤担持部材面に対する現像剤の供給を任意の方向からできることが明らかな引用例2記載の上記発明を採用し、引用例1記載の発明において塗布ローラ8が『現像に供されなかったトナー層72を一旦現像ローラ5面から母線方向各部全て掻き落とすとともに、袋6の弾性収縮力に基づく現像ローラ5面に対するトナー押圧接触力による塗布付着と合わせて過剰なトナーを現像ローラ5面に付着させ』ているのに代えて、塗布ローラ(トナー転送ローラ)から現像ローラに静電転送方式で過剰にトナーを供給するようにして本願発明の構成にすることは、現像装置の分野の当業者が引用例3に記載の事項を参照し引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて容易に想到することができたものと認められる。」と認定するが、以下のとおり誤りである。

(1)  引用例2記載の発明は、補給用トナーを現像ローラに直接に、かつ静電転送方式で確実に必要量だけを供給するトナー補給装置を提供することを目的とし、トナー補給ローラと現像ローラとの間の電位差を制御することによって、トナー濃度が適正値になるようにトナーを補給し、トナー濃度が規定値を越えると過分量(過剰量)だけ現像ローラからトナー補給ローラにトナーを戻すことで、現像ローラから強制的に過剰分のトナーをトナー補給ローラ側に回収し、過剰なトナーが現像ローラに付着することがないようにし、しかも、これを正確且つ迅速に行うトナー補給装置であり、トナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に供給するという技術的思想を否定している。

引用例1記載の発明の塗布ローラ8から現像ローラ5面に対するトナー供給を摩擦帯電による供給から両ローラ間の電位差による電気的な力による供給に代えたところで、「電位差により生じる電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラに適正量のトナーを供給し、袋6から弾性収縮力によって現像ローラにトナーを塗布付着することにより現像ローラ5に過剰にトナーを供給する現像装置」が得られるだけである。

本願発明の「電位差により生じる電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラに過剰に供給する」という構成(前記の構成要件D)に想到することはできない。したがって、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を採用することにより、本願発明の構成に容易に想到することができるとした審決の認定は誤りである。

(2)  引用例2には、「トナー補給ローラと現像ローラとの間の電位差を制御することによって、トナー濃度が適正値になるようにトナーを補給し、トナー濃度が規定値を越えると過分量(過剰量)だけ現像ローラからトナー補給ローラにトナーを戻すことで、現像ローラから強制的に過剰分のトナーをトナー補給ローラ側に回収し、過剰なトナーが現像ローラに付着することがないようにし、しかも、これを正確且つ迅速に行なうトナー補給装置であり、トナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に供給すること否定している」発明が記載されている。このように、本願発明が「電位差による電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に供給するものである」のに対し、引用例2記載の発明は「電位差による電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に供給する」ことを否定しているのであるから、引用例1記載の発明の塗布ローラから静電転送方式でトナーを「過剰」に供給する構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(3)  審決は、容易想到性の判断において、「引用例1記載の発明の現像装置は、塗布ローラ8による摺接力を現像に供されなかったトナー層72を現像ローラ面から母線方向各部全て掻き落とすことができる大きさにする必要があるため、引用例1記載の発明の現像装置は大きな駆動力を要することが明らかであり」と認定する。

しかし、審決は、相対的な概念である「大きな」という用語を用いながら、いかなる発明と比較して大きな駆動力を必要とするのかを明らかにしていないし、引用例1や審決が引用したその他の証拠によっても引用例1の現像装置では大きな駆動力を要するとは記載されていない。そして、審決は、自ら設定した引用例1記載の発明では大きな駆動力を要するからその不都合を解決するために引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を採用するとしているが、これは引用例1の記載に基づかない認定判断であって、不当である。

また、審決は、上記のとおり、引用例1記載の発明では、動作が不確実で、かつ補給量の制御が容易でないと認定していることになるが、引用例1のいかなる記載をもってこのような認定をしているのか明らかでない。そもそも、引用例1記載の発明にはトナー補給量を制御しようという技術的思想がないのであって、審決の上記認定判断は、引用例1の記載に基づかない認定判断であって不当である。

(4)  審決は、本願発明の効果は引用例1から引用例3に記載のものの効果の総和以上のものとは認められないと認定するが、引用例1から引用例3を組み合わせたところで、本願発明を構成することができないのであるから、本願発明は引用例1から引用例3に記載のものの効果の総和以上の効果を奏することは明らかである。

具体的に説明すると、本願発明では電位差による電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に補給するので、現像ローラに補給されるトナーは帯電しており、現像ローラに付着し易くなる。つまり、トナー補給ローラにより帯電したトナーに電気的な力が作用することで良好な現像に必要とされる帯電したトナーが過剰に供給されることから、十分な画像濃度を得られ、地汚れや残像などの少ない安定した画像品質を維持することができるのである。

これに対して、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を採用した場合、塗布ローラから現像ローラには帯電したトナーが供給されるが、袋6からは帯電していないトナーが供給されるので、現像ローラ上には帯電していないトナーが多く存在することになり、帯電しているトナー量は相対的に減少する。その結果、現像ローラに過剰に供給されたトナーの付着性が低下することになり、引用例1記載の発明で得られる程度の効果しか得られず、本願発明のように、十分な画像濃度を得ることができず、地汚れや残像などの少ない安定した画像品質を維持することができない。

第4  審決取消事由に対する被告の反論

1  取消事由1について

審決では、本願発明と引用例1記載の発明との比較においては、原告が主張する「トナー補給ローラから現像ローラに過剰にトナーを供給する」点は、引用例1の「次いでそのローラ5の塗布トナー層は次位の摩擦帯電部材9位置を通過する過程で過剰な付着トナー分が掻き落されて薄層に整層化されると共に、該部材9との摩擦で帯電量が増加する。部材9で落された過剰トナー分は袋6内に落下して戻る。」(引用例1の3頁左下欄12行~17行)との記載から一致点と認定しており、この一致点として認定した「過剰に供給する」を、本願発明が「電位差により生じる電気的な力」によるのに対して、引用例1記載の発明ではこの「電位差により生じる電気的な力」がない点で相違する旨明確に認定している。

原告が本願発明との相違点であると主張する引用例1における「袋6の弾性収縮力と塗布ローラ8の摩擦帯電により現像ローラ5面に過剰なトナーを供給している」点については、審決では、この「袋6の弾性収縮力」を本願発明の「現像剤搬送手段」に対応させて一致点と認定し、「現像ローラ5面に過剰なトナーを供給している」との点も、上述のように一致点と認定している。また、トナーの供給を「塗布ローラ8の摩擦帯電により」行うことは、本願発明の特許請求の範囲と関係ない事項である。

よって、審決に、本願発明と引用例1記載の発明との間の相違点の看過はない。

2  取消事由2について

(1)  原告は、引用例2に記載された「過分量」(引用例2の2頁左下欄15行)という用語を本願発明における「過剰に」と同じ意味の用語と理解して主張を展開している。しかしながら、引用例2における「過分量」と本願発明における「過剰に」とは、技術的に全く意味の異なる用語として用いられている。つまり、引用例2における「過分量」とは「トナー濃度の規定値を超えた量」の意味であって、「現像ローラ上に薄層化されたトナー層を形成するのに必要な量に対して、それより多い量」を意味する本願発明の「過剰に」とは技術的な意味合いが全く異なっている。また、「薄層化」する手段を有さない引用例2に対して「過剰な」という概念を持ち出して議論すること自体無意味なことである。

よって、原告の引用例2の記載が『トナーを過剰に供給するという技術思想を否定している』という主張は、引用例2の「過分量」という用語の意味を取り違えた上での主張である。

(2)  引用例1記載の発明に引用例2の静電転送方式によるトナー供給の構成が組み合わさると、引用例1記載の発明には、必然的に、「塗布ローラ8」を「導電性」とする事項と本願発明における「電源」に関する構成が更に備えられる。

そして、この組合せによると、引用例1の上記「摩擦帯電部材9」に関する事項が、塗布ローラ8の塗布と袋6の弾性収縮力に基づくトナー搬送と静電転送方式の電気的な力により上記塗布ローラ8から上記現像ローラ5に過剰に供給されたトナーを現像ローラ5上で薄層化するとともに、薄層化されたトナーの帯電を均一化する「摩擦帯電部材9」となり、本願発明における「トナー補給ローラ」に対応する「塗布ローラ8」と、本願発明における「現像剤搬送手段」に対応する「袋6の弾性収縮力によって塗布ローラ8にトナー搬送」する構成と、静電転送方式の電気的な力により塗布ローラ8から現像ローラ5に過剰にトナーを供給する構成が得られる。この組合せは、本願発明の「電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから上記現像ローラに過剰に供給」という構成を有している。

(3)  引用例1記載の発明における「袋6の弾性収縮力に基づくトナー押圧接触力」に代えて、引用例2に記載されたトナーの静電転送方式による「電気的な力」を採用することによって、本願発明の構成が得られることは、上述のとおりである。

また、引用例1記載の発明の「袋6の弾性収縮力に基づくトナー押圧接触力」と引用例2の「トナーの静電転送」に係る「電気的な力」とは、帯電されたトナーを現像ローラに向けて移動するという点で共通の作用をなすものである。加えて、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは、現像ローラに対して供給ローラ(引用例1記載の発明では「塗布ローラ8」、引用例2記載の発明では「トナー転送ローラ16」)を介してトナーを供給する「現像装置」であるという点で共通している。

以上のことを勘案すると、引用例1記載の発明の構成と引用例2記載の発明の事項を組み合わせて本願発明の構成とすることは、当業者であれば格別の困難性なく想到し得るものである。

(4)  本願発明と引用例1記載の発明との作用を比較すると、帯電したトナーを現像ローラに移動させるために、引用例1記載の発明では「袋6の弾性収縮力に基づくトナー押圧接触力」を作用させているのに対して、本願発明では「電気的な力」を作用させているにすぎない。したがって、本願発明と引用例1記載の発明との間にトナー付着性に差が生じるとしても、これは、機械的な「押圧接触力」に頼るか、電気的な「静電吸着力」に頼るかの違いであって、この違いは引用例2に記載されるような静電転送方式のトナー供給を採用することで当業者が十分予測可能な事項にすぎない。

してみると、本願発明の作用効果は引用例1、2記載の発明の総和以上の格別なものではない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1について

審決は、本願発明と引用例1記載の発明との間の相違点を認定するに当たり、現像ローラへのトナーの供給が、「VBとVRとの電位差により生じる電気的な力により上記トナー補給ローラから」行われるのに対し、引用例1記載の発明にはこのことが開示されていない点で相違している、としている。

原告は、本願発明と引用例1記載の発明とでは、本願発明が「電位差により生じる電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラに過剰にトナーを供給する」のに対して、引用例1記載の発明は「袋6の弾性収縮力と塗布ローラ8の摩擦帯電により現像ローラ5面に過剰なトナーを供給している」点で相違していると主張するが、上記のとおり、審決も、本願発明と引用例1記載の発明とでは現像ローラへのトナーの供給方法が異なることを相違点として認定した上で、具体的に検討を進めていることが明らかである。そして、原告主張のこの点が、審決が認定した相違点とは別のものであり、本願発明の要旨に表れる構成の進歩性を判断するに当たり、技術的な意義が異なっているものとも認められない。

したがって、審決が相違点を看過したとする取消事由1は理由がない。

2  取消事由2について

(1)  原告の主張

原告は、引用例2には、過剰に供給しないように静電制御するトナー補給方法が記載されているのであるから、過剰に供給する思想のないことは明らかであり、したがって、本願発明が「電位差による電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に供給するものである」のに対し、引用例2に記載されているところは「電位差による電気的な力によりトナー補給ローラから現像ローラにトナーを過剰に供給する」ことを否定するものであるから、引用例1記載の発明の塗布ローラから静電転送方式でトナーを「過剰」に供給する構成を採用することは当業者が容易に想到できるとはいえない、と主張する。

そこで、まず、本願明細書及び各引用例の関連記載及び技術内容をみてみることにする。

(2)  本願発明

甲第2号証及び第4号証によれば、本願明細書に、本願発明について発明の詳細な説明に次の記載があることが認められる(なお、別紙本願発明図面参照)。

「【0003】

従来の現像装置においては、トナー補給ローラの材料として、高抵抗弾性部材、例えばスポンジ(体積抵抗1010Ωcm)を使用しているが、トナー補給ローラの機能である現像ローラ表面の残留トナーかき落し作用が十分に効率よくなされておらず、無理にトナー補給ローラの回転速度を増加させることで機能の向上を図ろうとすると、駆動トルクの増大や残像の発生を見るなどの問題を生じてしまう。」

「【0004】

本願発明の目的は電圧を印加されたトナー補給ローラにより現像ローラに過剰に供給し(「供給された」とあるのは誤記と認める。)、帯電極性が不均一なトナーの帯電量及び付着量を制御して十分な画像濃度を得、地汚れ及び残像などの少ない安定した画像品質を維持することのできる改良された現像装置を提供することにある。」

「【0022】

1.正帯電トナー使用時の現像特性

(a)トナーの補給性を画像濃度におきかえて1~5ランクで評価したところ図3に示されるように、VB<VRの条件によるトナー補給ローラと現像ローラとの間の電界により、トナーのトナー補給ローラから現像ローラヘの移動が促進される結果によるものと考えられる。……

【0023】

(b)現像ローラ表面には、現像直後に感光体ドラム上の静電潜像に対応する像パターンが形成されるが、この像パターンが次回の現像に際して感光体ドラム上に残像として転写されてしまう現象がある。

【0024】

この残像の有無のレベルを1~5ランクで評価したところ図4に示されるようにVB<VRの条件で残像が生じ難くなることが分った。これは、VB<VRなる条件によるトナー補給ローラと現像ローラとの間の電界により、トナー補給ローラから現像ローラヘトナーが過剰に供給され、現像直後の残像を生じる原因となる現像ローラ上の像パターンが解消される結果によるものと考えられる。……

【0025】

(c)現像に際して、文字部等の背景にトナーが付着する所謂地汚れを生ずることがあるが、この地汚れの有無を1~5ランクで評価したところ……VB<VRの条件で地汚れが生じ難くなることが分った。これは、VB<VRなる条件によるトナー補給ローラと現像ローラとの間の電界により、トナー補給ローラから現像ローラに過剰に供給されたトナーが現像ローラ上で摩擦帯電手段によって、トナー補給ローラと現像ローラとによるトナーの摩擦帯電不足が補われ、帯電量が十分な薄層化されたトナーが得られる結果によるものと考えられる。……

【0026】

2.負帯電トナー使用時の現像特性

前述の正帯電トナー使用の場合に準じてトナー補給性……、残像……、地汚れ……などについて調べたところVB<VRの条件で各々好結果を得ることが分った。このように使用されるトナーの帯電特性に応じて印加電圧及び極性を選択すれば現像性能を向上することができる。」

以上のとおり認められる記載と、本願発明の要旨中の「上記現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源」との構成によれば、本願発明は、静電方式により現像ローラの電圧VBをトナー補給ローラ電圧VRに比してVB>VR(又はVB<VR)とすることにより、現像ローラにトナーを過剰に供給し、これにより、残像、地汚れの問題を解決できること、この目的のために本願発明の要旨に記載された構成にするようにしたものであるということができる。

(3)  引用例1記載の発明

甲第5号証によれば、引用例1には次の記載があることが認められる(なお、別紙引用例1図面参照)。

本発明は「特にその現像剤として所謂一成分現像剤を用いる方式(一成分現像方式)の現像装置に関する。」(1頁左下欄19行~右下欄1行)

「しかし、現像剤担持部材面に対する現像剤薄膜層の形成・保持は、……現像剤を常に略一定の押圧状態で接触させて供給することにより現像剤担持部材面現像材の薄層を摩擦帯電によるクーロン力あるいはファンデルワールス力等の相互作用により現像剤を現像ローラ表面に付着・保持させる形態が採られる。このため……供給方向が制限され、かつ供給方法に若干の工夫が必要である。したがって現像装置自体の設計、複写機内での配置設計等の自由度はそれだけ狭いものになる。

本発明は、……非磁性一成分現像剤を使用する現像装置について、……現像剤の供給を……任意の方向から支障なく供給できるように工夫して装置設計・配置設計の自由度を大きくすることを目的とする。

即ち、現像材担持部材に開口部を対向させて弾性薄膜からなる現像材収納袋を配設し、その袋内に現像剤を袋の弾性に抗して詰めて収納し、その袋内の現像剤を袋の収納力で現像剤担持部材面に押圧接触させて供給することを特徴とする現像装置を要旨とする。」(2頁右上欄13行~左下欄12行)

これらの記載によれば、引用例1記載の発明は、非磁性一成分を使用する現像装置の設計配置の自由度を大きくするために、ゴム袋のような弾性薄膜から成る収納袋の収縮力によって、任意の方向からトナーを押圧保持させるものであると認めることができる。

(4)  引用例2記載の発明

甲第6号証によれば、引用例2には次の記載があることが認められる(なお、別紙引用例2図面第2図、第3図参照)。

「トナー容器のトナー供給口に回転自在に配置され外周面に一極性の補給用トナーが静電吸着されるトナー転送ローラと、該トナー転送ローラに近接配置した磁気ブラシローラ型現像ローラと、該現像ローラに現像バイアス電圧を、前記トナー転送ローラにトナー転送電圧を夫々印加する電源回路と、現像で消費されたトナー量を検出するトナー濃度センサと、該トナー濃度センサの出力で前記現像バイアス電圧とトナー転送電圧を制御してトナー転送ローラと現像ローラ間のトナーの移動を制御するトナー濃度判別制御回路とを具備したことを特徴とする電子写真複写機のトナー補給装置。」(特許請求の範囲)

「この発明は電子写真複写機における二成分現像剤を使った乾式現像装置のトナー補給装置に関する。」(1頁左下欄19行~右下欄1行)

「この二成分現像剤のキャリアはトナーを搬送するための働きをし、現像の際トナーのみが記録体の静電潜像に付着して消耗し、そのため二成分現像剤を使用した乾式現像装置においては現像で消耗した量のトナーを常に補給する必要がある。このトナー補給は記録体に供される現像剤中のトナー濃度が良好な複写をする上で必要な最適濃度の2~5重量パーセントになるように常時監視されて行われる。」(同頁右下欄11行~19行)

「このように従来のトナー補給機構は現像ローラから現像剤を掻き取り、これに補給トナーを混合撹拌して再度現像現像ローラに供給する構造のため、……全体の構造が複雑且つ大型化する傾向があった。また補給用トナーをトナー定量供給ローラで定量ずつ落下供給しているが、トナーは流動性が悪いためにトナー定量供給ローラに一部が詰まって落下しないことがあり、そのため定量供給が難しくて信頼性が欠ける問題点があった。

本発明は……、補給用トナーを現像ローラに直接に、且つ静電転送方式で確実に必要量だけを供給するトナー補給装置を提供する。」(2頁右上欄4行~18行)「また本発明の他の特徴は前記トナー転送ローラをその外周面にトナーが静電吸着されるものを使用し、トナー転送ローラと現像ローラ間のトナー移動方向及び量を両者ローラに各々印加した電圧の差で制御することである。この電圧制御はトナー濃度を検出するセンサの出力信号で行われ、現像ローラ上のトナー濃度が既定値(2~5重量%)より低下するとトナー転送ローラから現像ローラ上にトナーが補給され、現像ローラ上のトナー濃度が規定値をオーバーするとその過分量だけ現像ローラからトナー転送ローラ上にトナーが戻される。」(2頁左下欄5行~16行)

「第2図の(24)は現像ローラ(14)に現像バイアス電圧VBを、トナー転送ローラ(16)にトナー転送電圧VTを引加する電源回路で、例えば補給用トナー(23)に正極性のものを使用する場合はVBとVTを零ボルトからマイナスの範囲で制限する。」(3頁左上欄8行~12行)

「現像は回転する現像ローラ(14)を記録紙(12)上に走行させて行われる。この現像で消費されたトナー量はトナー濃度センサ(25)で検知され、消費されたトナー量に応じた大きさの出力電圧VXがトナー濃度判別制御回路(26)に送られる。いま出力電圧VXが第3図の曲線に示すように変化して、時間t1でトナー濃度が2重量%の下限値を示す下限電圧V1になると、この電圧V1の出力信号でもってトナー転送ローラ(16)を回転させ、且つ印加電圧VTを……変える。すると、トナー転送ローラ(16)上に付着した正極性のトナー(23)は、……現像ローラ(14)上に移り、トナー補給が行われる。このトナー補給量はVTとVBの差が大きい程に多くなり、また回転数が増大する程に増える。またトナー補給はVTとVBの差による静電的吸着手段で行われるので動作が確実であり、補給量の制御も容易である。」(3頁右上欄10行~左下欄7行)

これらの記載によると、引用例2記載の発明は、現像装置の構造の複雑かつ大型化の問題及びトナーの定量供給の困難性・低信頼性の問題を解決するために、トナーを現像ローラに直接に、かつ特許請求の範囲で示される静電転送方式の構成で確実に必要量だけを供給する、すなわち、現像ローラ上のトナー濃度が規定値より低下するとトナー転送ローラから現像ローラ上にトナーが補給され、既定値をオーバーするとその過分量だけ現像ローラからトナー転送ローラ上にトナーが戻されるようにしたものと認められる。

(5)  引用例3記載の発明

また、甲第7号証によれば、引用例3に次の記載があることが認められる(なお、別紙引用例3図面参照)。

「 乾式複写機等の現像装置にあっては、……近年感光体上に同時に複数色のトナーを重ね現像し、カラー複写画像を得るという、カラー複写機の普及に伴い、現像時現像剤が静電潜像と摺接されない、非接触タイプの現像装置が開発されている。

即ちこの装置は、周囲に絶縁層あるいは抵抗層が被覆され、静電潜像に近接対向される現像ローラを用い、その表面にキャリア及びトナーからなる二成分現像剤のうちのトナーのみを、磁気ブラシを用いて付着させた後、この現像ローラ上のトナーを静電的に静電潜像に吸着させて非接触現像を行なうものである。

しかしながらこの装置は、……次の様な欠点も有している。

即ち現像ローラはその構造上磁気ブラシからのトナー受給量が充分でなく、前のサイクルでのトナー消費分を補給出来ず、画像濃度が低下され、更には現像時前のサイクルの画像が白いパターンとして生じるという、トナー供給面での欠点を有している。……

この発明は上記事情にもとづいてなされたもので、……現像ローラ上のトナー受給量を向上させ、画像濃度の向上を図る事が出来る現像装置を提供する事を目的とする。

……

この発明は、キャリアの粒径を静電潜像及び現像ローラ間の間隙よりも小さくなるよう形成する事により画質向上及び感光体の損傷防止を図るものである。」(1頁右下欄3行~2頁右上欄15行)、

「現像ローラ(12)及び非磁性円筒スリーブ(14b)間には約200〔V〕の電位差が生じており、非磁性円筒スリーブ(14b)の回転により形成される磁気ブラシ(15)中の、負極性に充分摩擦帯電されたトナーが、現像ローラ(12)に約40~50〔μm〕の厚さに静電的に吸着され、供給される。」(第2頁下右欄第8行~第13行)、

「 このように構成すれば、キャリアの粒径が従来に比し小さくされる事から、同一重量にあっては従来よりキャリアの表面積が大きくされトナーの付着量が増大され、磁気ブラシ(15)による現像ローラ(12)へのトナーの供給量も増大され、画像濃度の低下が防止される。そして前の現像パターンが複写画像に白いパターンとなって現われるという事も無くなる。」(3頁右上欄4行~11行)

「 以上説明したようにこの発明によれば、現像ローラへのトナー供給量が増大され、画像濃度が向上される事から前の画像が複写画像に白いパターンとなって現われるという事が無く、画質の向上を図れる」(3頁左下欄18行~右下欄2行)

これらの記載によると、引用例3記載の発明においては、「現像ローラ(12)及び非磁性円筒スリーブ(14b)間には約200〔V〕の電位差が生じており、非磁性円筒スリーブ(14b)の回転により形成される磁気ブラシ(15)中の、負極性に充分摩擦帯電されたトナーが、現像ローラ(12)に約40~50〔μm〕の厚さに静電的に吸着され、供給される」のであるから、本願発明のように、「現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源」を有しており、これによって、磁気ブラシ(15)による現像ローラ(12)へのトナーの供給量も増大され、画像濃度の低下が防止される。そして前の現像パターンが複写画像に白いパターンとなって現われるということもなくなるという作用効果を奏するものということができる。

(6)  容易推考性について

そうすると、引用例2、3には、「現像ローラの電圧をVB、上記トナー補給ローラの電圧をVRとしたとき、上記トナーが正帯電性である場合にはVB<VRに、上記トナーが負帯電性である場合にはVB>VRにそれぞれ設定する電源」が記載されていること、すなわち静電転送方式でトナーを供給する方式が記載されていることが明らかである。

そして、引用例1記載の発明のゴム袋のような弾性薄膜から成る収納袋がトナーを供給する作用を有しているのであるから、この収納袋に代えて引用例2に示される静電方式を採用することは十分考えられるところである。

また、引用例2、3によれば、トナー転送電圧VTと現像バイアス電圧VBの差を大きくすることにより、トナーの補給量を多くできることは原理的に明らかであり、引用例3に示されているとおり、トナーの補給量を多くしてゴースト像発生を抑えることができることも知られていたものと認められる。

したがって、引用例1記載の発明と、引用例2記載の発明及び引用例3記載に示されたところとの組合せから、本願発明の構成を採択することは容易に想到し得たものということができる。また、本願発明の奏する作用効果も予測の範囲内のものにすぎないものであることは、引用例3における前記記載からみて明らかである。

(7)  まとめ

以上のとおりであり、本願発明は、引用例1~3に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものと認められるとした審決の認定判断に誤りはなく、審決取消事由2も理由がない。

第6  結論

よって、原告の請求は理由がないので棄却すべく、主文のとおり判決する。

(平成11年9月28日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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