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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)23号 判決 1998年6月25日

香川県高松市林町1318番地1

原告

アイニチ株式会社

代表者代表取締役

二ノ宮博之

訴訟代理人弁理士

中村恒久

愛媛県松山市湊町7丁目7番地1

被告

コープ印刷株式会社

代表者代表取締役

関啓三

訴訟代理人弁理士

長尾貞吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成8年審判第20099号事件について平成9年11月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「カレンダー」とし、その形態を別紙審決書写し(以下「審決書」という。)別紙第1記載のとおりとする登録第934430号意匠(昭和63年8月16日出願、平成7年6月28日登録。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。

被告は、平成8年11月26日、本件意匠の登録を無効とすることにつき審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成8年審判第20099号事件として審理した結果、平成9年11月28日、「登録第934430号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年12月22日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書に記載のとおりであり、審決は、本件登録意匠は甲号意匠(審決書別紙第2。本訴における乙第2号証の1のうち、1月(正月)分のカレンダーの意匠である。)に類似し、意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当するものであるから、その登録を無効とすると判断した。

3  審決の取消事由

審決書第1(請求人の申立て及び理由)、同第2(被請求人の答弁及び理由)は認める。

同第3(当審の判断)のうち、1(本件登録意匠)は争う。日付記載枠について、その左上方部の縦横の罫線を一部欠いて、最上段左から、左右上下方向に2区画分の大きさの横長矩形状の区画を表して、これを行事記載欄とし、かつ、その行事記載欄内の上方部に細長い矩形状の罫線枠を表した点(以下「本件行事記載欄の点」という。)は、基本的構成態様を構成するものである。

2(甲号意匠)及び3(甲号意匠の公知性について)は認める。

4(両意匠の比較)のうち、「その曜日記載枠左端上部に月等記載枠として矩形状の区画を表した基本的構成態様が共通するものである」こと、及び、両意匠には具体的態様において本件行事記載欄の点で差異点が認められることは争い、その余は認める。

5(両意匠の類否判断)のうち、差異点<2>ないし<4>についての判断(審決書13頁4行ないし14頁5行)は認め、その余は争う。

6(むすび)は争う。

審決は、本件登録意匠と甲号意匠との類否の判断を誤ったものであり、違法なものとして取り消されるべきである。

(取消事由)

(1) 審決は、本件登録意匠の基本的構成態様として、「全体の形状を縦長長方形状とする薄い紙状のものであって、その表面を大きく2分割して、約上半分を風景などの絵等を掲載するための空欄、約下半分を1ヶ月分の日付等記載枠欄とし、日付等記載枠欄は、左右端部及び下端部に外周に沿った細幅の帯状余地部を残して、ほぼ全体に日付記載枠として縦横の罫線で横幅を曜日数に合わせて7等分し、縦幅を日付欄の下部に空欄を設けるため10等分した、同じ大きさの横長長方形の区画を多数表したものであり、その上部に曜日記載枠として日付記載枠1区画の縦幅の約1/5の縦幅とする細幅の長方形の区画を7列密接して表し、さらに、その曜日記載枠左端上部に月等記載枠として矩形状の区画を表したものである。」(審決書5頁4行ないし18行)と認定するが、誤りである。

本件登録意匠の基本的態様には、審決認定の点のほか、本件行事記載欄の点が含まれるべきである。

(2) 審決は、「<1>日付記載枠の態様の差異について、本件登録意匠は、その最上段左端部を行事記載欄とし、その右側2列は空欄としているが、この態様は、12ヶ月分のうちのある1ヶ月分を表したものであって、月によって1日の曜日が替わるものであるから、本件登録意匠のように行事記載欄及びその右側の空欄が12ヶ月間常に同じ大きさの区画で表されるものとは認め難い。したがって、このことを考慮すると、この差異は、カレンダーの日付記載枠としては、全体から見ると部分的で、しかも、月によって替わるものであるから、類否判断の要素としては、さほど評価することができず、この差異は、微弱なものにすぎないと言わざるを得ない。」(審決書12頁11行ないし13頁4行)と判断するが、誤りである。

<1> カレンダーは、それが使用される1箇月間、使用者に認識され続けるものであるところ、本件登録意匠の行事記載欄は、カレンダーのほぼ中央の左端部に配置され、使用者に極めて認識されやすい要素である。

<2> なお、本件登録意匠の創作者は、1日(初日)の左側にその月の行事をすべて表示することを主題として行事記載欄を創作したものであり、本件登録意匠は、1枚の月別カレンダーとして登録されたもので、12箇月分がセットとして登録されたものではない。

すなわち、月別カレンダーは、新聞と同時に月1回頒布されたり(甲第6、第7号証の毎日新聞、甲第8号証の朝日新聞)、月刊刊行物として1枚ずつ頒布されること(甲第9号証のJR西日本)も多い。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  認否

請求の原因1、2は認め、同3は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  本件行事記載欄の点は、具体的態様であって、基本的構成態様ではない。

(2)  「(本件登録意匠の最上段左端部を行事記載欄とし、その右側2列は空欄としている点の)差異は、カレンダーの日付記載枠としては、全体から見ると部分的で、しかも月によって替わるものであるから類否判断の要素としては、さほど評価することができず、この差異は微弱なものにすぎない」(審決書12頁19行ないし13頁3行)との審決の判断に何ら誤りはない。

原告は、1日(初日)が日曜日等から始まるものは本件登録意匠に含まれない旨主張するが、カレンダーは、その特質及び用途からして、12箇月間のカレンダーを月別に作製し、一括して当該年の前年末までに頒布されるのが一般商取引における常識である。仮に、本件意匠公報(甲第2号証)の正面図に示されたそのもののみが本件登録意匠に含まれると解すると、月の1日(初日)が金曜日に始まるもののみに本件登録意匠を使用できることになり、意匠法3条1項柱書の「工業上利用することのできる意匠の創作」との要件、すなわち、工業的生産過程において同一物品が反覆され、その同一物品が量産性のあること及び技術的に達成可能性を満足させることを満たさないこととなってしまう。

第4  証拠

本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の記載)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)<1>  前記説示の本件登録意匠の形態によれば、本件登録意匠は、審決認定(審決書5頁4行ないし6頁11行)のとおりの基本的態様及び具体的態様を有するものと認められる。

原告は、本件行事記載欄の点は本件登録意匠の基本的構成態様を構成するものである旨主張するが、本件登録意匠の形態(審決書別紙第1)によれば、同部分は本件登録意匠の骨格部分をなす部分ではなく、更に具体的に観察することにより把握される意匠の細部にわたる態様と認めるべきものであるから、この点の原告の主張は採用することができない。

<2>  甲号意匠の認定(審決書6頁13行ないし7頁17行)及び甲号意匠の公知性(同7頁19行ないし9頁9行)は、当事者間に争いがない。

<3>  両意匠を比較すると、両意匠は意匠に係る物品はともにカレンダーであるから、同一の物品であり(この点は当事者間に争いがない。)、その形態については、両意匠には、審決認定(審決書9頁16行ないし11頁13行)のとおりの共通する基本的態様及び具体的態様における差異点があることが認められる(その曜日記載枠左端上部に月等記載枠として矩形状の区画を表した点及び本件行事記載欄の点を除き基本的構成態様が共通すること(審決書9頁16行ないし10頁8行)及び具体的態様における差異点<2>ないし<4>があること(同11頁1行ないし13行)は当事者間に争いがない。)。

(2)  以上の認定事実及び当事者間に争いのない事実を前提として、両意匠の類否につき判断する。

<1>  両意匠は、基本的構成態様において一致し、両者を全体として観察すると、各月分のカレンダーが一箇月間継続して壁等に張られ使用者によって眺められる機会が多いことを考慮しても、審決認定の差異点は、両意匠に共通する前記基本的構成態様に比し、取引者、需要者の注意を惹きつける力において弱く、その印象は微弱なものと認められる。

<2>(a)  すなわち、差異点<1>については、本件登録意匠における行事記載欄は、カレンダーの中心部左側に位置することが多いことを勘案しても、カレンダー全体から見ると、部分的なものであり、本件登録意匠の上半分の風景等の部分や下半分の日付記載枠における日付の記載に比し、取引者、需要者の注意を惹きにくい箇所である。

しかも、本件登録意匠が1枚の月別カレンダーとして登録されたものであるとしても、本件登録意匠は、前記説示のとおり、意匠に係る物品を「カレンダー」として登録されたものであり、本願意匠公報(甲第2号証)には、月の初日が金曜日等に始まるものに限定されることをうかがわせる説明等はない上、カレンダーとしての用途に照らすと、本件登録意匠は、月の初日が金曜日に始まるものだけでなく、日曜日から木曜日及び土曜日に始まるものをもその対象に含むものと解すべきである。そうすると、本件登録意匠においては、月の初日が何曜日になるかによって、カレンダーにおける日付記載枠の左上端部に設けられた行事記載欄の大きさ自体及びその右側の空欄の大きさが変動したり、行事記載欄の位置が日付記載枠の右下端部に移動したりする(甲第5号証参照)ものと認められるから、本件登録意匠における行事記載欄は、類否判断の要素としてはさほど評価することはできないといわなければならない。

そうすると、本件行事記載欄の点の差異は、意匠全体として見た場合、微弱なものにすぎないと認められる。

(b)  原告は、本件登録意匠は1枚の月別カレンダーとして登録されたもので、月の初日が日曜日に始まるなどのため行事記載欄を1日(初日)の左側に設けられない形態のものはその意匠の範囲に含まない旨主張するが、カレンダーの通常の用途からすると、月別カレンダーが新聞社等から頒布されることがある(甲第6ないし第9号証)にせよ、原告の上記主張は採用することができない。

<3>  差異点<2>ないし<4>についての判断(審決書13頁4行ないし14頁5行)は、当事者間に争いがない。

<4>  以上のとおり、審決が認定する差異点は、それらの差異点全体が与える効果を考慮しても、その相違の程度が少なく、本件登録意匠と甲号意匠の類否を判断する上で、取引者、需要者の注意を惹きつける部分であるということはできないのに対し、両意匠の一致点である前記基本的態様は、両意匠の全体的観察において看者の注意を惹きつける部分であり、両者に共通した美感を与えるものと認められ、両意匠は類似するものというべきである。

(3)  したがって、本件登録意匠は甲号意匠に類似するとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。

3  よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年5月12日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

平成8年審判第20099号

審決

愛媛県松山市湊町7丁目7番地1

請求人 コープ印刷 株式会社

愛媛県松山市喜与町1-10-4

代理人弁理士 長尾貞吉

香川県高松市林町1318番地の1

被請求人 アイニチ 株式会社

大阪府大阪市中央区南本町3丁目3番23-607号 インペリアル船場

代理人弁理士 中村恒久

上記当事者間の登録第934430号意匠「カレンダー」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第934430号意匠の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

第1、請求人の申立て及び理由

請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申立て、その理由を要旨以下のとおり主張し、証拠として、甲第一号証乃至甲第四号証を提出した。

すなわち、登録第934430号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、甲第1号証、甲第2号証の1~2、甲第3号証の1~2と類似すると共に創作容易性のもので、意匠法第3条第1項第1号、第2号、第3号及び第2項の規定により、意匠登録を受けることができないものであるから、同法第48条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきものである。

(1)本件登録意匠と甲第1号証について、両意匠は、殆ど要旨において共通し、ただ本件登録意匠の絵掲載部の下端の一部に月記載枠のみが上記証拠の意匠には欠如しているけれども、数字は模様でないが、絵掲載部の下端に「数字で表示」した字形で表したところのこの数字を「枠」で囲むか或いは囲まないかは意匠の全体的観察からみれば意匠の創作性を決定するほどのものではなく、所謂意匠の価値判断である審美性、混同性、形態性等において、その差異は微差であって両意匠は同一少なくとも類似するものである。

(2)本件登録意匠と甲第2号証の1~2について、両意匠は、意匠の要旨とする点において共通しており、両意匠は同一のものである。

(3)甲第3号証の1~2は本件意匠公報発行前のものであって、非公開時において既に空欄部に行事事項を掲載することはこの意匠の属する分野における通常の知識を有する者は、この意匠の形状、模様等の結合について容易に創作することができるもので、本件登録意匠は、意匠として創作の容易性のものである。

第2、被請求人の答弁及び理由

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由として要旨以下のとおり主張し、証拠として、乙第1号証の1及び2、乙第2号証の1乃至3を提出した。

すなわち、本件登録意匠は、意匠法に規定する新規性及び創作性を有するものであり、無効とされるべきものではない。

<1>甲第1号証、甲第2号証の1及び2の意匠について、甲第1号証、甲第2号証の1及び2のカレンダーは、それぞれ1981年、1986年及び1987年に公知とされまたは刊行物に記載されたと、審判請求人は主張しているが、誰が何日にどのように、意匠法に規定の公知とし、意匠法に規定する刊行物に記載したのか全く不明である。

<2>本件意匠と甲第1及び2号意匠とは、行事記載枠の有無等の相違のため、非類似である。

<3>甲第3号証の1及び2のカレンダーは、本件意匠の出願日以降に発行されたもので議論できない。

第3、当審の判断

1、本件登録意匠

本件登録意匠は、昭和63年8月16日に出願され、平成7年6月28日に設定の登録がなされたものであって、願書の記載及び願書に添付された図面によれば、意匠に係る物品を「カレンダー」とし、形態を次のとおりとしたものである。

(別紙第1参照)

すなわち、その基本的構成態様は、全体の形状を縦長長方形状とする薄い紙状のものであって、その表面を大きく2分割して、約上半分を風景などの絵等を掲載するための空欄、約下半分を1ヶ月分の日付等記載枠欄とし、日付等記載枠欄は、左右端部及び下端部に外周に沿った細幅の帯状余地部を残して、ほぼ全体に日付記載枠として縦横の罫線で横幅を曜日数に合わせて7等分し、縦幅を日付欄の下部に空欄を設けるため10等分した、同じ大きさの横長長方形の区画を多数表したものであり、その上部に曜日記載枠として日付記載枠1区画の縦幅の約1/5の縦幅とする細幅の長方形の区画を7列密接して表し、さらに、その曜日記載枠左端上部に月等記載枠として矩形状の区画を表したものである。

具体的態様は、日付記載枠について、その左上方部の縦横の罫線を一部欠いて、最上段左から、左右上下方向に多2区画分の大きさの横長矩形状の区画を2列、上下方向に2区画分の大きさの縦長矩形状の区画を1列表して、左端部を行事記載欄とし、さらに、その行事記載欄内の上方部に細長い矩形状の罫線枠を表し、曜日記載枠について、区画を罫線枠で表し、月等記載枠について、曜日記載枠に密接して、曜日記載枠2区画分の幅を有する全体として横長長方形状に格子模様で表し、さらに、日付記載枠の下部に、横幅を日付記載枠の横幅と同一とする細長い矩形状の罫線枠を表したものである。

2、甲号意匠

甲号意匠は、請求人が甲第2号証の1として提出した表紙付12枚綴りのカレンダーの写しのうち、一ヶ月用の1枚のカレンダーの意匠であって、その形態を次のとおりとしたものである。(別紙第2参照)

すなわち、その基本的構成態様は、全体の形状を縦長長方形状とする薄い紙状のものであって、その表面を大きく2分割して、約上半分を風景などの絵等を掲載するための空欄、約下半分を1ヶ月分の日付等記載枠欄とし、日付等記載枠欄は、左右端部及び下端部に外周に沿った細幅の帯状余地部を残して、ほぼ全体に日付記載枠として縦横の罫線で横幅を曜日数に合わせて7等分し、縦幅を日付欄の下部に空欄を設けるため10等分した、同じ大きさの横長長方形の区画を多数表したものであり、その上部に曜日記載枠として日付記載枠1区画の縦幅の約1/5の縦幅とする細幅の長方形の区画を7列密接して表し、さらに、その曜日記載枠左端上部に月等記載枠として矩形状の区画を表したものである。

具体的態様は、曜日記載枠について、その区画を暗調子で表し、月等記載枠について、その区画を曜日記載枠に近接して、曜日記載枠約1区画強分の幅を有する明暗調子の隅丸正方形状に表したものである。

3、甲号意匠の公知性について

被請求人は、甲第2号証の1のカレンダーが、1986年に公知とされまたは刊行物に記載された事実を全く知らないし、また、誰が何日にどのように、意匠法に規定の公知とし、意匠法に規定する刊行物に記載したのか全く不明である旨主張する。

この点について検討するに、甲第2号証の1は、カレンダーの写しであるが、そのカレンダーの表紙の上端部には、横書きで「農協のマークとNOKYO CALENDAR-1986」、裏表紙の上端部には、横書きで「皇紀2646年 昭和61年丙寅歳略歴 西紀1986年」と記載されていることから、このカレンダーは、1986年すなわち昭和61年用のカレンダーであることが認められる。そして、通常、カレンダーは、当該年の前年に発行され、販売又は頒布されることが一般的である。そうすると、被請求人は、公知の事実が不明である旨主張するが、甲第2号証の1のカレンダーは、印刷物であるから、当然販売又は頒布することを前提に印刷しているものであり、特段の事情が存しない限り、販売又は頒布されたものと推認することができるものであって、本件登録意匠の出願日、すなわち、昭和63年8月16日までに、少なくとも2年は経ていることから、当然本件登録意匠の出願前に、甲第2号証の1のカレンダーは、公然知られたものするのが相当である。したがって、そのカレンダーのうちの一ヶ月用の1枚のカレンダー、すなわち、甲号意匠も当然、本件登録意匠の出願前に、公然知られたものと認められる。よって、被請求人のこの主張は採用できない。

4、両意匠の比較

本件登録意匠と甲号意匠とを比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が共にカレンダーであるから、同一の物品であり、その形態について、両意匠には、次に示すとおりの共通する態様及び差異点が認められる。

すなわち、両意匠は、全体の形状が縦長長方形状の薄い紙状のものとし、その表面を大きく2分割して、約上半分を風景などの絵等を掲載するための空欄、約下半分を1ヶ月分の日付等記載枠欄とし、日付等記載枠欄は、左右端部及び下端部に外周に沿った細幅の帯状余地部を残して、ほぼ全体に日付記載枠として縦横の罫線で横幅を曜日数に合わせて7等分し、縦幅を日付欄の下部に空欄を設けるため10等分した、同じ大きさの横長長方形の区画を多数表したものであり、その上部に曜日記載枠として日付記載枠1区画の縦幅の約1/5の縦幅とする細幅の長方形の区画を7列密接して表し、さらに、その曜日記載枠左端上部に月等記載枠として矩形状の区画を表した基本的構成態様が共通するものである。

これに対して、両意匠には具体的態様において、次のとおりの差異点が認められる。

<1>日付記載枠の態様について、本件登録意匠は、その左上方部の縦横の罫線を一部欠いて、最上段左から、左右上下方向に各2区画分の大きさの横長矩形状の区画を2列、上下方向に2区画分の大きさの縦長矩形状の区画を1列表して、左端部を行事記載欄とし、さらに、その行事記載欄内の上方部に細長い矩形状の罫線枠を表しているのに対して、甲号意匠は、全て同じ大きさの区画で表している点、<2>曜日記載枠の態様について、本件登録意匠は、区画を罫線枠で表しているのに対して、甲号意匠は、暗調子で表している点、<3>月等記載枠の態様について、本件登録意匠は、曜日記載枠に密接して、曜日記載枠2区画分の幅を有する全体として横長長方形状に格子模様で表しているのに対して、甲号意匠は、曜日記載枠に近接して、曜日記載枠約1区画強分の幅を有する明暗調子の隅丸正方形状に表している点、<4>日付記載枠の下部の態様について、本件登録意匠は、横幅を日付記載枠の横幅と同一とする細長い矩形状の罫線枠を表しているのに対して、甲号意匠は、そのような枠を有していない点。

5、両意匠の類否判断

そこで、これらの共通する基本的構成熊様及び差異点を総合し、両意匠を意匠全体として考察すると、両意匠の共通するとした基本的構成態様、とりわけ、表面を大きく2分割して、約上半分を風景などの絵等を掲載するための空欄、約下半分を1ヶ月分の日付記載枠欄とし、日付記載枠欄をほぼ全体に日付記載枠として縦横の罫線で横幅を曜日数に合わせて7等分し、縦幅を日付欄の下部に空欄を設けるため10等分した、同じ大きさの横長長方形の区画を多数表した態様は、両意匠の形態上の特徴を最も良く表出したところと認められ、両意匠の形態上の基調を成すものであるから、類否判断を左右するところと言わざるを得ない。

これに対して、両意匠における差異点は、次に述べるとおり、いずれも微弱なものであり、類否判断に影響を及ぼすものとは認められない。

すなわち、<1>日付記載枠の態様の差異について、本件登録意匠は、その最上段左端部を行事記載欄とし、その右側2列は空欄としているが、この態様は、12ヶ月分のうちのある1ヶ月分を表したものであって、月によって1日の曜日が替わるものであるから、本件登録意匠のように行事記載欄及びその右側の空欄が12ヶ月間常に同じ大きさの区画で表されるものとは認め難い。したがって、このことを考慮すると、この差異は、カレンダーの日付記載枠としては、全体から見ると部分的で、しかも、月によって替わるものであるから、類否判断の要素としては、さほど評価することができず、この差異は、微弱なものにすぎないと言わざるを得ない。<2>曜日記載枠の態様の差異について、この差異は、罫線枠で表したか、暗調子で表したかの差異であるが、両態様ともカレンダーの曜日記載枠の態様としてさほど特徴がなく、また、日付記載枠1区画の縦幅の大きさに比べて約1/5程度の縦幅で細長く矩形状に表した共通する態様の中にあっては、意匠全体として見た場合、微弱な差異にすぎないものと言うほかない。<3>月等記載枠の態様の差異について、具体的な態様に差異が認められるにしても、この差異は、意匠全体からみれば、矩形状の大きさがさほど大きいものでなく、また、一部分に表されていることから、日付記載枠欄の左端上部に矩形状に表した共通する態様に埋没する程度のものであり、微弱な差異にすぎないものと言わざるを得ない。<4>日付記載枠下部の態様の差異について、本件登録意匠は、細長い矩形状の罫線枠を表しているが、その部位が下端部であり、しかも、細幅であるから、格別看者の注意を惹くものとは認められず、両意匠とも下端部に細幅の余地部を設けた共通する態様に吸収される程度の差異であり、意匠全体として見れば、この差異は微弱なもの言うほかない。

そして、これらの差異点を総合し、相俟った効果を考慮しても、両意匠の共通する態様を凌駕するものと認めることができない。

したがって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、前述したとおり両意匠の形態上の基調を成す態様において共通しているものであるから、意匠全体として、本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものである。

6、むすび

以上のとおり、本件登録意匠は、本件登録意匠の出願前に日本国内において、公然知られた甲号意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するものであるにもかかわらず、意匠登録を受けたものであるから、その登録を無効とする。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年11月28日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙第1 本件登録意匠

意匠に係る物品 カレンダー

説明

本物品は、使用状態考図の様に、上半分に風景等の絵を掲載し、下半分に日付を記載し、かつ中央左部の格子模様部に年月を記載して使用するものである。左側面図は右側面図と、底面図は平面図と同一にあらわれる。

<省略>

別紙第2 甲号意匠

<省略>

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