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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)249号 判決 1999年7月08日

原告

株式会社三和電器製作所

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

中村稔

熊倉禎男

辻居幸一

宮垣聡

岩瀬吉和

同弁理士

【B】

被告

旭化成工業株式会社

代表者代表取締役

【C】

訴訟代理人弁理士

【D】

主文

特許庁が平成9年審判第14816号事件について平成10年7月15日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、発明の名称を「プリント厚膜微細パターン導体」とする特許第1924083号発明(昭和59年8月17日特許出願、平成7年4月25日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告は、被告を被請求人として、平成9年9月2日に本件発明の特許について無効の審判を請求し、平成9年審判第14816号事件として審理された。被告は、審判手続継続中の平成10年4月28日に訂正請求をした。特許庁は、同年7月15日に「訂正請求を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月29日にその謄本を原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲

「厚さが600μm以下の可撓性絶縁基板の両面に導体パターンが形成され、その少なくとも片面の導体パターンは導体配線密度3本/mm以上、導体配線ピッチに対する導体膜厚の比が0.50以上であり、

その両面間の導体パターンを電気的に接続するスルーホールが形成され、そのスルーホールの内壁の導体厚の上記導体配線ピッチに対する比が、0.25~2.5であることを特徴とするプリント厚膜微細パターン導体。」

3  審決の理由の要点

(1)  本件発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  特許法29条1項又は2項違反について

(イ) 引用例

審決の甲第3号証(本訴の甲第5号証。特開昭57-37898号公報)には、厚膜ファインパターンに関して、「本発明の厚膜ファインパターンは、基板の片面だけに形成しても良いが、必要に応じて両面に形成しても良く、両面に形成する場合は基板に穴あけし、スルーホール接続を必要に応じて行う。」(2頁左上欄10行ないし13行)、「エッソ化学社製ポリパラバン酸フィルム「トラドロン」(膜厚25μm)の両面に、ポスチック社製エポキシ-ニトリルゴム系接着剤「XA-564-9」を乾燥後片面膜厚が5μm塗布し、穴あけ、銅蒸着して得られた膜厚0.3μmの薄膜導電体を、フォトレジスト(膜厚5μm)でパターン以外をマスクして、次いで、ハーショウ村田社製ピロリン酸銅メッキ液を用いて、陰極電流密度7A/dm2の条件で銅を140μm厚電解メッキを行い、その後パターン以外のフォトレジストを除去し薄膜部をエッチング除去して、導体間隔3μm、膜厚140μmで8本/mmのファインパターンを得た。」(3頁左下欄11行ないし右下欄3行)との記載がある。

(ロ) 対比

本件発明と審決の甲第3号証(本訴の甲第5号証)記載の技術とを対比すると、後者における「エッソ化学社製ポリパラバン酸フィルム「トラドロン」(膜厚25μm)」は、前者における「厚さが600μm以下の可撓性絶縁基板」に含まれること、後者における導体配線密度は「8本/mm」であるから、その導体配線ピッチは1000μm/8=125μmと計算され、したがって、導体配線ピッチに対する導体膜厚の比(以下「パターン導体膜厚/導体配線ピッチ」という。)は140μm/125μm=1.12と計算されること、両面にパターン形成した後者に設けた穴はスルーホールと認められることからみて、両者は、厚さが25μmの可撓性絶縁基板の両面に導体パターンが形成され、その両面の導体パターンは、導体配線密度が8本/mm、パターン導体膜厚/導体配線ピッチが1.12であり、その両面間の導体パターンを電気的に接続するスルーホールが形成されるプリント厚膜微細パターン導体である点で一致し、スルーホールの内壁の導体厚の上記導体配線ピッチに対する比(以下「スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチ」という。)が、本件発明では0.25~2.5であるのに対し、後者では不明である点で相違する。

(ハ) 相違点についての判断

<1> 審決の甲第5号証(本訴の甲第7号証。日刊工業新聞社昭和59年6月30日発行「電子技術」26巻7号(臨時増刊号)79頁及び80頁)には、ピロリン酸銅浴によるスルーホールメッキにおけるスローイングパワー(均一電着性)が80%以上である旨の記載があるが、記載全体からみて、スルーホール内面でのスローイングパワーについて論じたものであると解されるから、パターンの導体膜厚との関連でスルーホールの内壁の導体厚を規定する本件発明の上記相違点に係る構成を導き出す根拠となり得るものではない。

<2> 審決の甲第7号証(本訴の甲第9号証。特開昭56-94690号公報)、同甲第8号証(本訴の甲第10号証。特開昭56-104491号公報)及び同甲第9号証(本訴の甲第11号証。特開昭56-104493号公報)に開示された厚膜ファインパターンを有する基板におけるスルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチは、それぞれ約0.38(甲第7号証)、約0.36(甲第8号証)及び約0.38(甲第9号証)であって、本件発明の構成に該当するが、いずれもパターン導体膜厚/導体配線ピッチが0.50に満たないので、本件発明のパターン導体膜厚/導体配線ピッチの要件を満たしていない。

<3> 本件発明は、厚膜微細パターンにおいて、スルーホールを信頼性あるものとすべくスルーホールの内壁の導体厚を厚くし過ぎると、パターン導体間にショートが生じるという問題点を課題とし、かかる課題を解決するために、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチをパターン導体膜厚/導体配線ピッチと関連させて、それぞれ特定の条件に設定するという技術的思想を有するものであるのに対して、審決の甲第5号証、第7号証ないし第9号証(本訴の甲第7号証、第9号証ないし第11号証)には、上記のような技術的思想が記載されていないのみならず、上記課題についての示唆もない。したがって、審決の甲第3号証(本訴の甲第5号証)記載の技術に審決の甲第5号証、第7号証ないし第9号証(本訴の甲第7号証、第9号証ないし第11号証)記載の技術を組み合わせるべき動機付けが見当たらない。

<4> 本件発明は、上記相違点に係る構成を含む前記認定したとおりの構成により、導体配線密度が3本/mm以上で、パターン導体膜厚/導体配線ピッチが0.50以上であるような厚膜微細パターンにおいて、そのパターン間の電気的短絡防止とスルーホールの信頼性確保を両立させ得るという各引用例記載の技術から予測し得ない明細書記載の効果を奏する。

<5> よって、本件発明は、審決の甲第3号証(本訴の甲第5号証)記載の技術と同一ではなく、かつ、当業者が審決の甲第3号証、甲第5号証、第7号証ないし第9号証(本訴の甲第5号証、甲第7号証、第9号証ないし第11号証)記載の技術に基づいて容易に発明をすることができたとすることもできない。

(3)  特許法29条の2違反について

(イ) 対比

本件発明と審決の甲第4号証(本訴の甲第6号証。特開昭60-161606号公報)記載の技術とを対比すると、両者は、厚さが25μ又は100μ以下の可撓性絶縁基板の両面に導体パターンが形成され、その両面の導体パターンは、導体配線密度が4本/mmであり、その両面間の導体パターンを電気的に接続するスルーホールが形成され、そのスルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが0.4のプリント厚膜微細パターン導体である点で一致し、パターン導体膜厚/導体配線ピッチが、本件発明では、少なくとも片面の導体パターンについて「0.50」以上であるのに対し、審決の甲第4号証(本訴の甲第6号証)記載の技術では「0.48」である点で相違している。

(ロ) 相違点についての判断

本件発明における上記「0.50」なる数値は、少なくとも本件発明者が有効であると確認した限りにおけるパターン導体膜厚/導体配線ピッチの下限値を示したものであるから、技術的に意味がないものではなく、また、本件発明の上記「0.50」なる数値と審決の甲第4号証(本訴の甲第6号証)記載の技術における「0.48」なる数値を、技術的に区別できないとする理由も見当たらず、したがって、本件発明と審決の甲第4号証(本訴の甲第6号証)記載の技術とを、上記相違点にかかわらず同一であるとすることはできない。

(4)  むすび

以上のとおりであるから、請求人(原告)の主張する理由及びその提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)(イ)、(ロ)のうち一致点の認定、(ハ)<2>、(3)(イ)は認め、その余は争う。

審決は、本訴の甲第5号証記載の技術の認定を誤り、その結果、本件発明と上記技術との同一性を看過し、特許法29条1項に該当しないと誤った判断をし(取消事由1)、また、本訴の甲第5号証記載の技術に、本訴の甲第7号証、第9号証ないし第11号証記載の技術を組み合わせることの容易推考性についての判断を誤り、その結果、本件発明に進歩性があると誤った判断をし(取消事由2)、更に、本件発明と本訴の甲第6号証記載の技術との同一性を看過し、特許法29条の2に該当しないと誤った判断をしたものであって(取消事由3)、これらの誤りはいずれも審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1

(イ) 審決は、本件発明と本訴の甲第5号証記載の技術との対比において、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが、本件発明では0.25~2.5であるのに対して、後者では不明である点で相違する旨認定しているが、この認定は誤っている。

(ロ) 本訴の甲第5号証の実施例2には、スルーホール内の薄膜銅の膜厚は明記されていないが、スルーホール内の薄膜銅は電解銅メッキによって基板両面のファインパターンと同時に形成されている以上、本訴の甲第6号証に開示されたスルーホールの内壁の導体厚は、基板両面のパターン導体膜厚とほぼ同じ膜厚、すなわち、140μm程度になるとみるのが相当である。

(ハ) また、本件発明の出願当時、スルーホールの内壁の導体厚を電解銅メッキにより同時に形成された基板表面のパターン導体膜厚とほぼ同じ膜厚を形成することは当業者にとって周知の技術事項であったのであり、当業者の間においては、スルーホールの信頼性を確保するためにこのような周知技術を採用して、スルーホールの内壁の導体厚を基板表面のパターン導体膜厚とほぼ同じに形成すべきものとされていたのである。

例えば、甲第13号証(近代化学社昭和44年7月1日発行の「プリント回路ハンドブック」)には、「スルー・ホールめっきの必要条件」として、「2 内壁および表面のめっき厚の均一なこと。3 内壁と表面とのめっき厚さの比率が1:1に近いこと」(5-5頁15行及び16行)が記載されており、また、本訴の甲第5号証記載の技術において使用されているピロリン酸銅メッキ液による電気メッキについて「現在のところ、ピロリン酸銅法はスルー・ホールめっき回路板の要求をだいたい満足させている。表面厚さと穴の内壁の厚さとの比は1:1に非常に近い値が得られ・・・」と記載されている(5-27頁下から4行及び3行)。

また、本訴の甲第9号証ないし第11号証の各実施例2には、ピロリン酸銅メッキにより、基板及びスルーホール内壁に同一の厚みの導体が形成される技術が開示されている。つまり、上記各実施例には、「均一な膜厚を有する・・・スルーホール接続された」あるいは「均一な膜厚を有しスルーホール接続された」ファインパターンが得られた旨記載があって、これらの記載は、スルーホールを含めたパターン全体につき均一な膜厚が得られたことを明示するものである。

更に、甲第20号証(社団法人日本プリント回路工業会昭和62年2月28日発行「プリント回路技術便覧」78頁)の「両面スルーホール基板の品質、性能」表は、社団法人プリント回路工業会が中小企業及び大企業から集計した昭和58年度の実績を示すものであるが、この表には、「穴内/表面の厚さの比」という項目が存在し、昭和58年度には、中小企業で「0.90」、大企業で「0.95」、全体で「0.90」の値が得られていたことが示されている。

更にまた、本訴の甲第6号証の実施例中にも、「硫酸銅浴から成る電気銅めっきを行なって、露出した100μ幅のコイルパターン状の金属はく5、5′の表面上と、貫通孔内壁面に導電金属層9として金属銅を100μの厚みに析出させた」(3頁右下欄6行ないし9行)との記載があって、電気銅メッキによる銅の膜厚が、基板表面とスルーホール内壁とで同じになることが開示されている。

このように、本件発明の特許出願当時、スルーホールの内壁の導体厚が電解銅メッキにより同時に形成された基板表面のパターン導体膜厚とほぼ同じ膜厚を形成することは、当業者にとって周知の技術事項であったものであるから、本訴の甲第5号証には、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチの比が1.12のものが開示されているのである。

(2)  取消事由2

(イ) 審決は、本訴の甲第9号証ないし第11号証に開示された厚膜ファインパターンを有する基板におけるスルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチは、それぞれ約0.38、約0.36及び約0.38であって、本件発明の構成に該当するが、いずれもパターン導体膜厚/導体配線ピッチが0.50に満たないので、本件発明のパターン導体膜厚/導体配線ピッチの要件を満たしていない旨判断しているが、この判断は誤っている。

(ロ) 本訴の甲第5号証、甲第9号証ないし第11号証記載の技術には、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチ、パターン導体膜厚/導体配線ピッチの比が、それぞれ、1.12、0.375、0.364、0.375のものが開示されており、このような比率のものを、本件発明のパターン導体膜厚/導体配線ピッチが0.50以上の数値をとるようにするためは、銅メッキにより形成される銅の薄膜を任意に調整し、厚くすればよいのであって、単なる設計事項であり、当業者が任意に選択しうる事項である。

(ハ) また、審決は、本件発明は、公知技術からは予測しえない顕著な作用効果を有している旨認定しているが、本件明細書の記載からしても、本件発明が予測しえない顕著な作用効果を有するとは到底認められない。

(ニ) よって、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチを、パターン導体膜厚/導体配線ピッチと関連させて、それぞれ特定の条件に設定するという技術的思想の存在を根拠に組合せの容易推考性を否定した審決の判断は、明らかに誤っている。

(3)  取消事由3

審決は、本件発明における上記「0.50」なる数値は、少なくとも本件発明者が有効であると確認した限りにおけるパターン導体膜厚/導体配線ピッチの下限値を示したものであるから、技術的に意味がないものではなく、また、本件発明の上記「0.50」なる数値と本訴の甲第6号証に記載のものにおける「0.48」なる数値を、技術的に区別できないとする理由も見当たらず、したがって、本件発明と本訴の甲第6号証記載の技術とを、上記相違点にかかわらず同一であるとすることはできないと判断している。

しかしながら、パターン導体膜厚/導体配線ピッチの値が0.02相違するとしても、技術的にみて全く差がないことは明らかである。

また、本件明細書のどこをみても、パターン導体膜厚/導体配線ピッチの下限値として技術的に意味がある旨の裏づけはない。

要するに、導体膜厚/導体配線ピッチの下限値としての「0.50」という数値には、格別の技術的意義は認められない以上、本訴の甲第6号証記載の技術における「0.48」との数値と技術的に特に区別すべき理由はない。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認め、4は争う。審決の認定判断は、正当であり、取り消されるべき理由はない。

2  被告の主張

(1)  取消事由1について

(イ) 本訴の甲第5号証に開示された厚膜ファインパターンの発明においては、専ら基板上に形成される回路パターンの高密度化かつ厚膜化の実現を志向しており、スルーホール内部の状態は認識外であり、また、同号証の実施例2には穴のサイズの記載がなく、したがって、アスペクト比(基板厚/穴径)が不明であり、更に、通常電解銅メッキに先だって行われる無電解銅メッキ処理を行っていないのであるから、穴内の電気銅メッキ厚を定量的に論ずることなど不可能であり、このような本訴の甲第5号証の開示内容を考慮すれば、同号証においてスルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが不明であるとした審決の認定に誤りはない。

(ロ) メッキされにくいスルーホールの内壁の導体厚が、同時に形成された基板表面のパターン導体膜厚とほぼ同じ膜厚を形成することがスルーホールメッキを行えば当然に、あるいは自然に起こるなどという事実はなく、スルーホールメッキにおいては、スルーホール内壁部がメッキされにくいことこそ周知の事実である。

スルーホールメッキの基本的な目的は、回路パターン間を電気的に接続することにあり、電気的接続を確保するのに、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比をほぼ1:1とする必要はない。

(ハ) 本訴の甲第13号証には、「2.内壁および表面のめっき厚さの均一なこと、3.内壁と表面とのめっき厚さの比率が1:1に近いこと」との記載があるが、回路基板表面に比べてスルーホール内部がメッキされにくいという事情の下に、メッキを行う際に留意すべき事項ないしは望ましい事項という程度の意味であって、字義どおり、ファインパターンの成否に影響するような必須の条件を意味するものではない。また、「表面厚さと穴の内壁の厚さとの比は1:1に非常に近い値が得られ」た旨記載も、明らかにされていない特定のアスペクト比の基板をピロリン酸銅メッキ浴中で明らかにされていない特定のメッキ条件の下でメッキを行った場合に膜厚比が1:1に近いものがあったことを述べているにすぎない。

(ニ) 本訴の甲第20号証には、原告主張の記載があり、甲第21号証も同様であるが、あらゆるスルーホールメッキが実験段階も含めて常に同号証に記載されたような数値で行われていることを意味しているわけではない。また、この表中の数値は、単に昭和58年度に生産されたプリント配線基板についての実績を示すものであるから、この数値が本訴の甲第5号証の実施例2の記載内容やその解釈に対して影響するものでないことは明白である。このことは、本件発明の特許出願時において本訴の甲第5号証を見ても同様である。

(ホ) 本訴の甲第9号証ないし第11号証の実施例では、スルーホールの内壁の導体厚について直接数値をもって言及されてはいない。また、パターン導体膜厚と同一であると直接的に明示されてもいない。したがって、電気銅メッキにより、基板及びスルーホール内壁にほぼ同じ膜厚の銅が析出されることは、本件特許出願時において、当業者にとって周知技術に属する事項であったことの根拠とはなし得ない。

(ヘ) 本訴の甲第6号証は、本件発明の特許出願時においては未公開のものであったのであるから、この記載内容によって周知技術を裏付ける根拠とすることはできない。

(2)  取消事由2について

本訴の甲第9号証ないし第11号証は、いずれも基板表面に高密度でかつパターン部において短絡のない高信頼性の厚膜ファインパターンの形成を主眼とするものであり、スルーホールの信頼性をも高めようとする技術的思想を窺うことはできない。したがって、本訴の甲第5号証、甲第9号証ないし第11号証記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたとすることはできないとした審決の判断に誤りはない。

(3)  取消事由3について

本件発明のパターン導体膜厚/導体配線ピッチの下限値「0.50」は、実施例2によって有効性が裏付けられており、技術的に意味のある数値である。そして、本訴の甲6号証の「0.48」とは実質的に明確に相違しているのである。したがって、パターン導体膜厚/導体配線ピッチが、本件発明では、少なくとも片面の導体パターンについて「0.50」以上であるのに対し、甲第6号証に記載のものでは「0.48」である点で相違しているとした審決の認定に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件発明の特許請求の範囲)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  本件発明の概要

甲第2号証(特許公報)、甲第4号証の1(平成10年4月28日付訂正請求書)及び2(右請求書添付の明細書)によれば、本件明細書には、次の記載があることが認められる。

1  産業上の利用分野

「この発明は例えばシート状小型コイルに適用され、高密度、高信頼性のプリント厚膜微細パターン導体に関する。」(甲第2号証1欄12行ないし14行)

2  従来の技術

「厚膜ファインパターン導電体は、比較的大きな電流値が必要とされる小型コイル、高密度配線などの分野で要求されている。」(2欄1行ないし3行)、「近年、モータの小型化にともない、3~20本/mmの厚膜ファインパターンを有するファインコイルの開発が要望されている。」(2欄10行ないし12行)、「本発明者らは、先に・・・数種類の微細厚膜印刷回路基板の製造方法を提案し、そのなかで複数の印刷回路基板を積層することの可能性を述べた。その場合各層間を電気的に接続するには、いわゆるスルーホールを形成する必要がある。」(2欄13行ないし3欄3行)

3  発明が解決しようとする問題点

「電気メッキによりスルーホールを形成する場合、スルーホールの信頼性は、そのホール(穴)の内壁の導体層と密接に関係し、内壁の導体厚は厚い方がより好ましいが、その内壁の導体と同時に基板上の導体パターンにメッキが施されるので、その導体パターンが微細パターンの場合には、スルーホール内壁を厚くしすぎると、導体パターン間に電気的短絡(ショート)が発生する事になる。そこで、この発明は、高信頼性のスルーホールを有し、しかも高配線密度のプリント厚膜微細パターン導体を提供する事を目的とする。」(3欄22行ないし32行)

4  本件発明の構成

本件発明は、上記目的を達成するために、特許請求の範囲記載の構成を採用した。(3欄34行ないし41行、甲第4号証の2の2頁22行ないし26行)

5  効果

「この発明によれば、高い信頼性のスルーホールを有するプリント厚膜微細パターン導体が得られ、実用上、抵抗値の小さい小型コイル、高密度配線などを、より高性能なものとして提供できる。」(甲第2号証10欄1行ないし4行)

第3  審決を取り消すべき事由について判断する。

1  取消事由1について

(1)  審決は、本件発明と甲第5号証記載の技術との対比において、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが、本件発明では0.25~2.5であるのに対して、後者では不明である点で相違する旨認定しているところ、原告は、この認定を争っているので、検討する。

(2)  甲第5号証には、厚膜ファインパターンに関して、「本発明の厚膜ファインパターンは、基板の片面だけに形成しても良いが、必要に応じて両面に形成しても良く、両面に形成する場合は基板に穴あけし、スルーホール接続を必要に応じて行う。」、「エッソ化学社製ポリパラバン酸フィルム「トラドロン」(膜厚25μm)の両面に、ポスチック社製エポキシーニトリルゴム系接着剤「XA-564-9」を乾燥後片面膜厚が5μm塗布し、穴あけ、銅蒸着して得られた膜厚0.3μmの薄膜導電体を、フォトレジスト(膜厚5μm)でパターン以外をマスクして、次いで、ハーショウ村田社製ピロリン酸銅メッキ液を用いて、陰極電流密度7A/dm2の条件で銅を140μm厚電解メッキを行い、その後パターン以外のフォトレジストを除去し薄膜部をエッチング除去して、導体間隔3μm、膜厚140μmで8本/mmのファインパターンを得た。」との記載があること、本件発明と甲第5号証記載の技術とを対比すると、後者における「エッソ化学社製ポリパラバン酸フィルム「トラドロン」(膜厚25μm)」は、前者における「厚さが600μm以下の可撓性絶縁基板」に含まれること、後者における導体配線密度は「8本/mm」であるから、その導体配線ピッチは1000μm/8=125μmと計算され、したがって、パターン導体膜厚/導体配線ピッチは140μm/125μm=1.12と計算されること、両面にパターン形成した後者に設けた穴はスルーホールと認められることからみて、両者は、厚さが25μmの可撓性絶縁基板の両面に導体パターンが形成され、その両面の導体パターンは、導体配線密度が8本/mm、パターン導体膜厚/導体配線ピッチが1.12であり、その両面間の導体パターンを電気的に接続するスルーホールが形成されるプリント厚膜微細パターン導体である点で一致することは、当事者間に争いがない。

甲第5号証記載の技術においては、上記のとおり導体配線ピッチが125μmであるから、スルーホール内壁膜厚が31.25μm以上、312.5μm以下であれば、本件発明のスルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが「0.25~2.5」との要件を具備することになる。

そこで、上記記載を見るに、「膜厚140μm」という記載が、その記載内容から、少なくとも回路板表面の膜厚を示していることは明らかであるが、スルーホールの内壁の導体厚がどのようなものであるかについては、上記記載自体からは明らかでない。

この点について、原告は、本訴の甲第5号証の実施例2には、スルーホール内の薄膜銅の膜厚は明記されていないが、スルーホール内の薄膜銅は電解銅メッキによって基板両面のファインパターンと同時に形成されている以上、本訴の甲第6号証に開示されたスルーホールの内壁の導体厚は、基板両面のパターン導体膜厚とほぼ同じ膜厚、すなわち、140μm程度になるとみるのが相当である旨主張するが、スルーホール内の薄膜銅は電解銅メッキによって基板両面のファインパターンと同時に形成されていることのみをもって、直ちに基板両面のパターン導体膜厚とスルーホールの内壁の導体厚とが同じ数値となっているということはできない。

(3)  そこで、更に、当業者が、本件発明の特許出願当時の技術水準において、甲第5号証の記載に接した場合に、スルーホールの内壁の導体厚をどのように理解するかについて考察する。

(イ) 甲第13号証には、「スルー・ホールめっきの目的は次のとおりである。1.必要な電気的特性を満足するような両面間の接続をすること。」(5-5頁6行及び7行)との記載、「第5.1表 スルー・ホールめっきの必要条件」として、「2.内壁および表面のメッキ厚さの均一なこと。3.内壁と表面とのメッキ厚さの比率が1:1に近いこと。」(5-5頁下から8行及び7行)との記載、「銅の電気めっき」の項には、「我々は回路板上のめっきの平均厚さを見積るが、局部的な(特にスルー・ホールめっきの)厚さは予想より少なくなりやすい。」(5-26頁下から6行ないし4行)との記載、「15.ピロリン酸銅」の項には、「現在のところ、ピロリン酸銅法はスルー・ホールめっき回路板の要求をだいたい満足させている。表面厚さと穴の内壁の厚さとの比は1:1に非常に近い値が得られ、」(5-27頁下から4行ないし2行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、昭和44年頃には、本件発明のようなプリント基板の製造業界において、プリント基板の必要な電気的特性を満足するようなスルーホールの技術が求められており、そのために、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率を1:1に近づけることが必要であること、一般的には、スルーホールの内壁の導体厚がパターン導体膜厚より薄くなる傾向にあるが、ピロリン酸銅法を用いた場合、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率が1:1に近い値が得られていたことが認められる。

(ロ) また、甲第21号証(社団法人日本プリント回路工業会昭和59年5月15日発行「プリント配線板工業の現状」)には、「本調査の目的は、昭和58年度における当該業種の実態を明らかにするとともに・・・」(1頁下から3行及び2行)、「調査方法は書面調査とし、172企業を対象として実施した。また回収状況は次の通りである。」(2頁2行及び3行)、「回収企業数 146企業」(2頁4行及び5行)との記載があり、また、「性能と品質」の項には、「昭和59度から新たな近代化計画が発足するが、今回からプリント配線基板としては導体層数の制限はなくなり、このような状況における業界の実体の調査を行った。そのうちの性能、品質に関しては表8-3から表8-6で昭和58年度と昭和64年度末において最も多く製造しているプリント配線基板の品質・性能について、それぞれ片面板、両面板(めっきスルーホールをもつもの)、多層板(3~4層)、多層板(5層以上のもの)とに分けて示した。」(103頁11行ないし17行)との記載があり、「表8-4 両面板(スルーホールめっきあり)の品質・性能」には、昭和58年度(基準年度実績)において、メッキが銅の場合で、穴内/表面の厚さの比について、中小企業で「0.90」、大企業で「0.95」、全体で「0.90」となっていることが示されている。

上記記載によれば、昭和58年度には、プリント基板の製造業界において、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率が一般的に少なくとも0.9となっている両面スルーホール基板が、量産品として製造販売されていたことが認められる。

(ハ) 上記認定の事実によれば、本件発明の特許出願当時において、両面スルーホール基板の必要な電気的特性を満足するために、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率を1に近づける必要があり、少なくとも0.9という数値を達成し得ることは、当業者の間で周知の事実であったものと認められる。

(ニ) 一方、甲第5号証は、「厚膜ファインパターン」の発明に係るものであるところ、同号証には、「本発明は高密度、高信頼性の厚膜ファインパターンに関するものである。」との記載があり、上記(イ)認定の事実に照らせば、甲第5号証記載の技術においても、高信頼性のプリント基板を製造する上で、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率を1に近づける必要があることは変わらないものと認められる。

そうすると、当業者は、本件発明の特許出願当時に、甲第5号証の記載に接したとき、当然に、甲第5号証記載のスルーホールの内壁の導体厚について、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率が少なくとも0.9となっているものを想起するものというべきである(逆にいえば、当業者の認識から、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率が0.9のものが排除されるということはない。)。

以上認定したとおり、本件発明の特許出願当時の技術水準に照らせば、当業者は、当然に、甲第5号証記載のスルーホールの内壁の導体厚について、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率が少なくとも0.9となっているものを想起するのであるから、甲第5号証には、本件発明にいう内壁導体厚/導体配線ピッチが「0.25~2.5」の範囲内のものが開示されているのと等しいものと認められる。

(4)  被告は、甲第5号証に開示された厚膜ファインパターンの発明においては、専ら基板上に形成される回路パターンの高密度化かつ厚膜化の実現を志向しており、スルーホール内部の状態は認識外である旨主張する。

しかしながら、甲第5号証にどのような技術が開示されているかは、その記載に基づき客観的に決すべきものであって、甲第5号証の特許請求の範囲に係る発明の出願人の主観的な認識に左右されるものではない。そして、甲第5号証記載の技術においても、高信頼性のプリント基板を製造する上で、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率を1に近づける必要があることは、前示のとおりであるから、被告の上記主張は、採用することができない。

(5)  また、被告は、甲第5号証の実施例2には穴のサイズの記載がなく、したがって、アスペクト比(基板厚/穴径)が不明であり、更に、通常電解銅メッキに先だって行われる無電解銅メッキ処理を行っていないのであるから、穴内の電気銅メッキ厚を定量的に論ずることなど不可能である旨主張するので、検討する。

甲第13号証には、「積層板. 標準的な板材料は板厚1/16インチ、1オンスの銅の両面張りエポキシ-ガラスである。・・・穴の寸法. 代表的な穴は、ドリル加工後めっき処理前にKwik-Chekホール・ゲージ、顕微鏡その他の精密測定器具を用いて測って0.030インチから0.050インチである。」(5-4頁下から5行ないし5-5頁1行)との記載があり、同記載によれば、標準的な基板厚とスルーホール穴径との比率は、約1.25ないし2.08となることが認められる。

また、乙第2号証(近代化学社昭和56年8月1日発行「プリント回路ハンドブック(全訂第2版)」)には、「15.厚さと寸法 多層板はもっとも小さいめっきスルー・ホールの直径の3倍より薄くなければならない。穴径の5倍までの厚さの板をつくることは可能であるけれども、コストはより高くなり、信頼性は減少する。この厚さの制限は、銅またははんだのめっき浴の流体力学的運動の結果によるものである。」(20-18頁下から10行ないし7行)との記載があることが認められる。

更に、甲第14号証には、「スルーホールメッキに要求される均一電着性とは、プリント配線板のスルーホール内壁と基板表面との膜厚比率(H/S)のことをいう。ハイスロー硫酸銅メッキ液の均一電着性を図1、写真3に示す。」(同号証第74頁右欄13行ないし16行)との記載があり、「図1 硫酸銅メッキの均一電着性」には、横軸を板厚(T)/穴径(D)の比、縦軸をメッキ厚比(H/S)として、板厚(T)/穴径(D)が1前後の数値のときには、メッキ厚比(H/S)は1.0であるが、板厚(T)/穴径(D)の数値が大きくなるに従って、メッキ厚比(H/S)が減少し、板厚(T)/穴径(D)の数値が5程度では、通常電流密度において0.6強、低電流密度において0.8強となることが示されている。

そして、同号証には、更に、「スルーホール用電気銅メッキに要求される性能は均一電着性(スローイングパワー)が優れ・・・ことである。ピロリン酸銅メッキ(アルカリ性)が、プリント配線板の電気銅メッキとして長く使用されているが、浴管理、電解によって生じる副生成物の蓄積による定期的な浴更新、廃水処理上の問題があり、ハイスロー硫酸銅メッキ(酸性)に代りつつある。硫酸銅メッキは装飾用メッキに普及しているが、このタイプのメッキ浴は均一電着性が悪く、スルーホールメッキには採用されなかった。」(74頁左欄末行ないし右欄10行)との記載が、甲第19号証(株式会社近代科学社昭和56年8月1日発行「プリント回路ハンドブック<全訂第2版>」)には、「硫酸銅浴は歴史的に長い年月もちいられてきたが、スローイング・パワーが弱いため、近年までプリント板用としては、いくらか限られてきた。」(7-18頁下から8行及び7行)との記載があって、同記載によれば、ハイスロー硫酸銅メッキよりピロリン酸銅メッキの方がスローイングパワーが強いのであるから、上記甲第14号証の図1に示された硫酸銅メッキの均一電着性の性能の傾向は、ピロリン酸銅メッキについても概略妥当するものというべきである。

以上によれば、基板厚とスルーホールの直径との比率は、製造技術としては基板厚をスルーホール穴径の5倍程度とするのが限度であるが、この5倍程度であっても、メッキ厚比、すなわち、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率は、0.5を大幅に上回ることが認められる。

そうすると、甲第5号証の実施例2にはスルーホールのサイズの記載がないとしても、基板厚がスルーホール穴径の5倍を上回ることは考えられず、かつ、5倍程度であってもスルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率は0.5を大幅に上回ることが認められるのであるから、スルーホール内の電気銅メッキ厚を定量的に論ずることができないものではない。

また、当事者間に争いがない前記1(2)の事実によれば、甲第5号証記載の技術は、通常電解銅メッキでなく蒸着を行っているのであり、甲第10号証(特開昭56-104491号公報)には、「本発明において行われる金属層を形成する方法としては、活性化処理した後に無電解メッキを行っても良いが、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの方法が好ましい。」(3頁左上欄1行ないし4行)との記載が、甲第11号証(特開昭56-104493号公報)には、「本発明において行われる金属層を形成する方法としては、活性化処理した後に無電解メッキを行って良く、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの方法を用いても良い。」(2頁右下欄11行ないし14行)との記載があり、同記載によれば、蒸着は、無電解メッキ等に劣らない好ましい手段とされていることが認められ、したがって、甲第5号証記載の技術において無電解銅メッキ処理を行っていないからといって、スルーホール内の電気銅メッキ厚を定量的に論ずることができないということはできない。

よって、被告の上記主張は、いずれも採用することができない。

(6)  更に、被告は、スルーホールメッキの基本的な目的は、回路パターン間を電気的に接続することにあり、電気的接続を確保するのに、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比をほぼ1:1とする必要はない旨主張するが、前記(3)(ニ)認定のとおり、甲第5号証記載の技術においても、高信頼性のプリント基板を製造する上で、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率を1に近づける必要があることは変わらないのであるから、被告の上記主張は、採用することができない。

(7)  更にまた、被告は、甲第20号証には、原告主張の記載があり、甲第21号証も同様であるが、あらゆるスルーホールメッキが実験段階も含めて常にこのような数値で行われていることを意味しているわけではない旨主張するが、あらゆるスルーホールメッキにおいて実験段階も含めて常に0.9ないし0.95の数値になっていないとしても、本件発明の特許出願当時において、両面スルーホール基板の必要な電気的特性を満足するために、スルーホールの内壁の導体厚とパターン導体膜厚との比率を1に近づける必要があり、少なくとも0.9という数値を達成し得ることが周知であることを優に認定することができるのであって、被告の上記主張は、失当というほかない。

(8)  以上認定したとおり、甲第5号証には、本件発明にいうスルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが「0.25~2.5」の範囲内のものが実質的に開示されているのであるから、本件発明と甲第5号証記載の技術との対比において、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが、本件発明では0.25~2.5であるのに対して、後者では不明である点で相違するとした審決の認定は誤りである。

そして、本件発明も甲第5号証記載の技術も、スルーホール内壁導体厚/導体配線ピッチが0.25~2.5であるとすると、本件発明は、甲第5号証記載の技術と同一であることになるから、上記誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

第4  よって、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があるから、本件審決を取り消すこととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年6月24日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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